ヴェネラナ・グレモリーは体に異変を感じていた。ここ数日、寝ても覚めてもふとした瞬間に発熱に襲われる。全身を温かく蕩かすような程よい熱が包み、臍の下、ちょうど子宮に位置する箇所が高熱を帯びる。どれも不快ではなく、放っておけば数分で引いてしまうものだったが、段々と頻度を増していることに気付き、焦りを覚える。
ライザーのせいだわ。
原因は明確だった。娘の婚約者だったライザー・フェニックスに弄ばれ、不覚にも子宮に精を注がれてしまった日を思い出す。まだ一週間しか経っていないのだが、遠い昔に見た夢の出来事のように曖昧だった。
それでも、ヴェネラナは覚えている。圧倒的な雄に嬲られる衝撃を。
思わず生唾を飲んでしまい、ヴェネラナは慌てて頭を振った。
何をされたのかはわからないけど、この程度は耐えられる。長い時を生きてきた純血悪魔のヴェネラナは、赤子も同然と呼べるほど年の離れたライザーの悪戯を軽く跳ねのけて見せようと、気丈に振る舞うことにした。
とはいえ、何も特別なことをするわけではない。品よく、慎ましく。普段の生活を続けるだけでいい。快楽というものは、所詮は一時の感情。愛する家族たちと一緒にいられるときに感じる幸福感には到底勝てない。
既に自分は満たされている。新たに何を求め、今の生活を崩す必要はない。
ヴェネラナはそう自分に言い聞かせた。
二週間、三週間と月日が過ぎていく。
何てことはなかった。体の内側を無遠慮に這う熱など気にせず、穏やかな時間を送る。夫のジオティクス、普段はメイドとしてグレモリーに仕える義理の娘であるグレイフィア、孫のミリキャス。魔王としての職務で常に忙しいサーゼクスや、人間界の高校に通っているリアスはここにはいないが、集まれる身内を居城のテラスに集めて共にお茶を楽しむ。
会話を交え、時には紫に染まる冥界の空を眺め、庭に広がる花々を慈しむ。
いつもと変わらない、ささやかなゆとりの時間。
しかし、紅茶のカップを口元に運ぼうとしたところで、事態が急変した。
「っ……!?」
子宮の中で膨らむ熱。それは意思を持ったように動き、その存在を主張している。ただの熱とは明らかに違うそれに、ヴェネラナは一瞬だけ冷静さを失った。震える手でカップを持つこともままならず、慌ててテーブルに戻し、臍に手を当てて苦悶の表情を漏らす。
「奥様? どうかなさいましたか?」
「ヴェネラナ? 大丈夫かい?」
「お祖母様?」
今日はあくまでメイドとして出席していたグレイフィアと、左隣の席に座しているジオティクス、右隣の席にちょこんと腰を下ろすミリキャスが、ヴェネラナを気遣うように声を掛ける。
「大丈夫、よ……」
「ですが……」
「本当に、大丈夫なの……。ちょっと休めば、ね……」
この場をどうにか無事に乗り切れる気がしなかったヴェネラナは、ゆっくりと立ち上がった。「ごめんなさい、私はちょっと席を外すから、皆で楽しんでね……?」と断りを入れて、ふらつく足を支えて歩き出す。
何も言わずとも、そのすぐ後をグレイフィアがついてくれる。
グレイフィアに付き添われ、ヴェネラナは自室へと戻った。
グレイフィアは何も言わない。ただ主人の身を案じ、動揺を見せずに対処する。メイドの鑑だ。だというのに、何故だろうか。ベッドに背を預けるヴェネラナにシーツを掛けるグレイフィアの表情が、一瞬、ほんの一瞬だけ、笑っているように見えた。
「念のため、人払いはしておきます。何かございましたら、直接私までご連絡を」
「ええ、ありがとう。ごめんなさいね、グレイフィア」
「いえ。それでは、失礼いたします」
そう言って、グレイフィアは部屋を静かに出ていった。
落ち着いた所作と顔色を目にして、ヴェネラナはさすがに見間違いだとわかった。
「はぁ……」
それよりも、自分はいったいどうしてしまったのだろうか。熱は引かない。気だるさや悪寒などは全くない。たとえるなら、温かい湯に全身が浸かっているような感覚。その中でも下腹の熱だけは特別で、中を舐め回すようになぞっている。
しかも、熱は一定ではなく、気まぐれに増幅もする。
「んっ、ぁっ……」
ヴェネラナは背を跳ね上げた。
これはさすがに、看過できない。グレイフィアが掛けてくれたシーツを払って、ヴェネラナはスカートの裾を捲り上げる。らしくもなく慌ててショーツを手に掛け、そこを捲ると、何の躊躇いもなく、ヴェネラナは膣穴に指を這わせた。
「んぉっ……」
品を欠いた低音。自身が出したことのない声に驚く余裕もなく、ヴェネラナはかりかりと指の腹で膣穴を引っ掻く。それだけで穴から雌の汁がじゅくじゅくと湧き出てきて、ヴェネラナの自慰の手助けをしてくれる。
いったい私は、何をしているの?
ふと、ヴェネラナは正気に戻った。グレイフィアが人払いをしてくれていて、部屋の周辺には誰も立ち寄らない。部屋ごとの、特に寝室の防音対策は万全で、この広いグレモリー邸であれば大声を張り上げても誰かに聞かれるということはない。
夜の情事のために。
「あぁあっ……!」
思考が逸れ、ヴェネラナはジオティクスとの交尾を思い出す。それも、最近のではなく、若々しい猛りをぶつけてくれた頃のジオティクス。肌と肌をぶつけ合って、体液を交わらせて、奥まで繋がりながら子種を注いでもらったときの悦びを。
ちょうど熱に犯されている赤ちゃんの部屋に、かつて雄の遺伝子がどろどろと流れ込んでいた。たぷんっ、とぷんっと波打って、雌に根付こうとするイカ臭い生命の源。
欲しい。
ヴェネラナの人差し指と中指が、膣穴に埋まっていく。
ぐぢゅっ、ぢゅぷぷぷっ。
呑み込む音を鳴らして、中に入っていく。
欲しい。
膣穴が締まって、指に絡みつく。膣襞が敏感に侵入物の気配を察知して指をくすぐるが、その正体にがっかりとしたのか、動きが鎮まる。もっと太く、生殖能力を宿した男根を期待したのだろう。残念ならば、ここにそんなものはない。
だから、欲しくて仕方がなかった。
子宮が勝手に下りてくる。亀頭に甘えて、吸いついて、ごくごくと精液を飲むために。膣襞と違って子宮は馬鹿になってしまったようで、入ってきているのが指だというのに、できる限り距離を詰めようとしてくる。
その子宮が、どろっどろに脳を蕩かすような感覚と淫悦をヴェネラナに提供し、より開放的な自慰を促した。
「んっ、ぁっ、あぁっ、ぉっ、ひっ、ぉっ、おっ……」
膝を曲げて両足の裏をベッドに突き、股を大きく開く。いるはずのない雄に向かって秘所を披露し、穿いてもらう格好になりながら自身の指で膣内を穿りまわす。そうしながら、ヴェネラナは脳内で自分を犯してくれる相手を妄想していた。
最初は若いジオティクスだった。
しかし、それが段々と形を維持できなくなっていく。
ジオティクスだったものが崩壊し、形を変えていく。どうしようか。どんな男がいいか。妄想の中でなら不貞行為にはならないはず。正常な思考能力を欠いたヴェネラナは口元を緩ませて、理想の男を脳内に描いた。
そうして、一人の男が出来上がった。
少し長めの髪は金色。鋭い双眸と冷ややかな笑顔の似合う悪人面。体格はガッシリとしていて、抱かれたときの安心感はジオティクスを上回る。その身に宿した逸物もまた、ジオティクスと比較にならない太さと、長さだった。エラは大きく反り返っていて、柔らかい膣肉をごりごりと容赦なく引っ掻いてくる。ジオティクスですら届いたことのない場所に易々と侵入し、臭いを覚え込ませてくる。
どぢゅっ、ぐちゅっ、どぢゅんっ、ぶぢゅんっ。
子宮を殴られる幻聴が聞こえてくる。
「あぁっ、おぉっ、んっ、あんっ、あっ、んぁっ……!」
夢と現実の境が溶け、何がなんだかわからなくなってきた。妄想が実像を結んだように、ベッドにいるヴェネラナの犯すライザー。やっと見つけたチンポの持ち主に喜んで足を絡ませようとするも、それはライザーをすり抜けてしまう。
いるけど、そこにはいない。
子宮を突くチンポの感覚はあるが、それは一定の動きをしていた。
つまるところそれは、先日ライザーに犯されたときの記憶から再現した妄想に過ぎなかった。あまりにも衝撃が強すぎて全てを覚えておらず、掬い上げた記憶の断片からどうにか形を整えたもの。
実際に膣内を引っ掻くのは自身の指であることに変わりはなく、不完全な妄想で強化しただけ。本物には到底敵わない。しかし、自分が思い描けるのはこのライザーでしかなく、他に自分を満たすものがない状況下では、これで満足するしかない。
ただ、指よりもいいものは用意できる。
「はぁっ、はぁっ……」
ヴェネラナは魔力を使い、手元に太いバイブを召喚する。それはかなり昔に購入した者で、夫との交わりで発散し切れなかった日の欲求を解消するためのもの。愛用のそれにヴェネラナはねっとりと舌を這わせて濡らし、指の代わりに膣に挿入した。
「んぉっ、ぉぉっ、あっ、んっ、あぁっ!」
ずっぷりと穴を満たしていくバイブの動きに、ヴェネラナは顔を上に向けて口角を上げた。奥まで届いてくれて、子宮口までをしっかりと苛めてくれる。いい具合にヴェネラナを狂わせてくれる。
だが、それは常識の範囲内での話だ。
ライザー・フェニックスとの交尾は常識を逸脱していた。一往復動いて膣内を無茶苦茶にされ、幸福が洪水のように脳を呑み込む。このまま快楽の海底に沈んでいきたいと思えるような魅力に取りつかれ、落ちそうになってしまった。
先日、ライザーが中断してくれなければ、堕ちるのは時間の問題だっただろう。
何故、あのとき、堕としてくれなかったのか。
いや、違う。あれでよかった。堕ちてしまえば、どうなるかわからない。
堕としてほしかった。チンポでめった刺しにして、種を植え付けてほしかった。
大切な家族がいる。夫がいる。捨てることなどできない。
赤ちゃんの袋を他所の男の子種でいっぱいにして、卵子を精子で犯して欲しい。
今の生活がいい。この生活を続けられるだけで幸せなのだから。
もっと幸せになりたい。永遠に、雌として生きる喜びを、あの人の下で送りたい。
駄目! 違う! なんで、思考が混ざって。嫌! こんなの、私じゃない!
全く正反対のことを考えてしまう。正反対なのに、それがじわじわと侵食してきて、正常なヴェネラナを汚してくる。抵抗は容易いはずなのに、正常な自分がそれを甘んじて受け入れて、新しい自分を形成しようとしている。
本当に、今の生活で、満足できている?
ヴェネラナは自分に向かって問いかけた。
満足している。そんなのは当たり前だ。
そんな答えを持ち合わせているはずのヴェネラナだったが、何の言葉も出なかった。
「はぁっ……! ぁっ……!?」
出てくるのは喘ぎばかり。粘ついた水音と共に、寝室に響き渡る。
誰もいない部屋で、ヴェネラナは一人で自慰に夢中になっている。
だから気がつかなかった。
ヴェネラナの白い下腹部に浮かぶ、翼を大きく広げた不死鳥の紋様を。熱に反応して赤熱色に染まり、中に収まる子宮に影響を与える。人外であるが故に妊娠する可能性が著しく低いとはいえ、どんな雄の子種でも受精できる可能性を持つ卵子。それが作られる卵巣が、不死鳥の遺伝子に適したものへと作り変えられていることを。
不死鳥以外の雄の子種では二度と受精できない状態へと、性質が塗り潰されていく。
対処可能な時間を見過ごして、ヴェネラナの性器が堕ちていく。
ライザー・フェニックス専用の孕み袋へと。仮に無関係な雄の子種が愚かにも侵入を果そうとも、即座にその脆弱な遺伝子を焼き尽くして浄化し、ライザーの精子だけを的確に啜る熱々おマンコへと。
そして、下腹部に浮かんでいた紋様が肌の中へ沈むように消えていくと、子宮に直接紋様を描いてしまった。もはや誰にも気づくことのできない場所に、一生消えることのない不死鳥の証が刻印された。
「っ……いくっ……!?」
待ちに待った臨界に達し、仰け反りながら震えるヴェネラナ。根元を掴んで限界までバイブを前進させ、子宮口をぐりぐりと亀頭で撫でる。見てはいられないような緩みきった顔で、口から涎を垂らしながら悦楽の波に身を預けていた。
家族とのお茶会を抜け、一人で自慰に耽る子持ち孫持ちの人妻。悪魔の魔力で美貌を保った亜麻色髪の美女は、豊満な乳房を震わせ、見るだけで並みの男を射精に導くほどの淫らな笑顔で肉欲を発散していた。
絶頂中のヴェネラナ。彼女の卵巣より卵子が排出された。
ぐつぐつと煮えたぎるような熱を発するそれは、紛れもなく、ライザー専用の卵子だった。しかし、そんなことなどヴェネラナに知る由もなかった。こうやって欲を発散し続ければ、ライザーの悪意から解放されるのだと信じている。
逆に自分がドツボに嵌っていることなど考えもしない顔で、一人だけの宴に酔いしれていた。