ソーナ・シトリーは、酷い焦燥感に駆られていた。間違いなく、悪魔として生きてきた中で最大の珍事。こんなことが過去にあっては堪らない。喧しく騒ぎ立てる心臓の鼓動を努めて鎮めながら、彼女はただ厄介事から逃れようと、処理を続ける。
「ぉっ……! 出るぅっ……! ま、た、出ますぅうっ……!」
旧校舎にある女子トイレの個室に籠ったソーナは、中腰になってガクガクと膝を笑わせながら、股間から伸びる一物から精液を解き放つ。びゅるるっ! びゅるるるっ! 尿道口からひり出されたそれは真っ直ぐ便器の中に着弾し、前回分の精液に混ざって白濁のプールを作り上げた。
女の子宮に放てば、高確率で妊娠してしまいそうな濃すぎる白濁の粘液。便器に溜まった水が隠れてしまうほど大量のそれが、自身の体から飛び出ている事実。そして、そもそも女の股間にはあってはならない肉棒と陰嚢が、クリトリスに成り代わって生えてしまっている異常事態に、ソーナは恐怖を覚えた。
「ぃ、クっ……!? あ、あ、あぁあああっ……!?」
何より、頭がおかしくなりそうなほど気持ち良すぎる射精を体験し、ソーナは隠し切れない笑みを浮かべながら竿を両手で扱いた。ソーナの体には不釣り合いに大きく、長く、逞しいそれ。擦って快楽を与えるたびに、自分の正気が薄れていくような感覚がするというのに、止めることができない。
このままだと、本当にまずいことになる。
焦りが強まるが、どうすることもできない。
この状況を作り出したのは他でもない。ライザー・フェニックスその人であり、ライザー曰くこれは遊びなのだという。女であるソーナに自身と同じ肉棒と宿る性欲を植えつけ、いつまで女を犯さずに堪えられるかという最低な遊び。
タイムリミットは、最終下校時刻まで。
ライザーが持つ不可解な能力によって男性器を生やされ、望まぬ戦いに身を投じることになった。突然ライザーから自由行動を許され、リアスによって尻を足蹴にされて部屋を追い出されたソーナは、理不尽な状況に歯噛みしながらトイレへと籠城を選んだのだ。
「ふ、ぅうううっ……!?」
ぶびゅっ! どびゅっ!
そうしている間にも、ソーナはまた射精した。黒髪をさらりと揺らし、ほっそりとした腰を前に突き出しながら、小刻みに震え上がる。口から言葉にならない声を漏らし、股間から背筋、脳へと駆け抜ける解放感に悦ぶ。
これが、男が普段感じている快楽。抱えている肉欲。
こんなものを若い身で味わってしまえば、女を邪な目で見てしまうのも仕方がないだろう。これは正しく毒だ。理性に浸食し、欲望へと変質する。世の男たちは皆、これを抱き、日々悶々としながらも生きているというのか。
ソーナは同情し、気持ちを理解した。
これが真実ならば、男たちに抱いていた思いを見直す必要がある。そして、男たちが性犯罪という道に踏み込んでしまうことなく、健全な学校生活を送るにはどうすればよいかと、駒王学園高等部の生徒会長として考える。
「我慢、していたら、頭がおかしくなるっ……! でも……いえ、そうしないと……!」
溜め込むことが毒ならば、発散させてあげればいい。
相手がいないのならば、与えてあげればいい。
これほどの性欲を抱えながら狂うことなく、常人らしく振る舞える男たちはいったいどれほどの鋼の精神を持ち合わせているのか。今まで変態三人組として悪名を轟かせていた兵藤一誠を始めとする少年たちは、これよりも強い性欲に悩まされた被害者だったのかもしれない。むしろ、今までよく性犯罪が校内で起きなかったものだ。
我慢強い男たちに敬意を示しながら、ソーナは彼らが満足できる学校生活を想像した。
男子生徒や男性教師が、いつ如何なるときでも女子生徒や女性教師を抱き、口や膣に精液を吐き出せる学校。女側の拒否権を認めていたらこの制度は成り立たないため、必然的に女たちに不自由を強いることになってしまうが仕方がない。
そもそもの話、女はあまりに身勝手だ。スカートを穿き、男を惑わせるような健康的な太ももを見せつけておきながら、いざ男が欲情すると被害者面をして嫌悪する。男は抑制の利かない猿だと言っている女子生徒もいたが、彼女もまた、当たり前のように丈の短いスカートをひらひらと靡かせて校内を歩いていた。
なんてことだろう。生徒たちによい学習環境を用意してあげようと、生徒会長の立場から学校のことを考えてきたというのに。大きな見落としがあった。あまりにも不公平。男たちの視点からは何も考えられていなかった。
「っ……!? ぅっ、あ、ああっ……! ごめんなさいっ……! ごめんなさいっ……!」
謝罪をしつつ、射精を続ける。もう便器の中はいっぱいだ。気が付いてトイレの水を流すが、粘っこい体液はなかなか流れてくれない。もどかしい気分になって、こんな晴らせない気分のまま男たちは学校生活を送ってきたのかと思うと、罪悪感が募る。
けれども、同時に女としての考えもまた、ソーナの中に残っていた。
『男が毎日性欲処理をできる学校を作らないと』
『いえ、そんなことをすれば女性に辛い想いを強いることに……』
『何を。これまで女には自由を許してきたではないですか』
『もっと他にやり方があるはずです』
『ありませんよ。こんな性欲、どうやって発散させるというのですか』
『それは、自分で慰めるか、恋人を作って……』
『自分で慰めても満たされない人は? 恋人を作れない人は? こんな性欲を、ずっと我慢していろというのですか? 今私が味わっているものと同等以上の性欲であったとしたら、どうでしょうね。だというのに、女と同じ枠組みで節度を守らせ、異常な行動と見なせば弾圧し、最悪何らかの処分を下す。なんて酷い学校でしょうか』
女の自分が、男に傾倒しつつある自分に言い負かされていく。性犯罪を許容するような発言にはツッコミどころが満載だというのに、突っ込むことができない。既に心の大半が男の欲望に犯され始めていた。
「あっ!? んあっ!? も、もう! これ以上はっ……!」
浸食は止まらず、女の自分が音を上げる。このままでは、最終下校時刻を迎えるより先に心が折れてしまう。ソーナは顔中を真っ赤にし蕩けた表情をしたまま、前屈みになって震え上がった。
一秒、また一秒と時間が経っているはずだが、それが長く感じる。
遠くで、部活動に励む男子生徒の声が聞こえてきた。野球部だろうか。
男の声を聞くだけで、肉棒の下にある陰裂の穴、膣口がきゅっと締まる。男の棒を迎え入れ、玉から精子を搾り出し、精液となって打ち出されたそれを受け止める子宮という名のキャッチャーミットが自分には備わっている。
そこには、ライザーが出したフェニックスの高温ザーメンが収まっている。しっかりと抱えることでこぼれることなく中に留まり、身じろぎに併せてぷるぷると震えていた。このギッシリと精子が詰まっていそうなゼリーのような塊も、ライザーが放った欲望の一部にすぎない。
「男を満足させるには……。女を使わないと……」
男が使用者ならば、女は道具だ。
何故、こんなにも明確な関係に今まで気づかなかったのか。人間界も、冥界も、男が上位に立っている。その世界の在り方を見れば、社会の縮図である学校という閉ざされた空間もまた、男が優位に立つのは当然の帰結だ。
「男にとって、快適な学校を……」
もう後戻りはできないほどに、ソーナの脳は男の主観に穢されてしまった。
股間で、ライザーの一物と瓜二つのチンポをビクンッと跳ねさせ、ソーナは妄想を膨らませる。ニヤァと口元に冷酷な笑みを結び、眼鏡の奥で目を細める。
その眼に宿る瞳には、理性の光は失われていた。女としての冷静な判断は望めない。男の思考に洗脳されたのだと一目でわかる顔のまま、ソーナは肉棒を握っていた手を眼前へと掲げた。
「この学校には、いい道具が揃っていましたね……」
この学校の女たちの顔面偏差値が何故か高かったのは、きっとこのためにあったのだろう。
「道具は、正しく使ってあげましょう……」
そう呟いたソーナの手から、紫色の魔力が燃え盛る炎のように立ち昇ってきた。
ソーナのものとは違う魔力。強い熱を発し、心まで溶かしてしまうような安心感がある。見つめているだけでソーナは完全に光を失った虚ろな瞳で、頬を赤らめたまま、熱い息をはーっと吐き出した。
「この学校を、あるべき姿に……。男たちが楽しめる楽園に……!」
瞬間、膨れ上がった魔力が爆ぜた。四方に飛び散ったそれは、トイレの壁を擦り抜け、校舎を突き抜け、学校の敷地全体を覆う天幕に変わった。見れば一目でわかる闇色の檻はしかし、校内に残っていた者たちには気付かれることはなかった。
力の使用者であるソーナと、それをソーナに与えたライザーと、ライザーの手に堕ちた者たち。彼女らを除いた全ての者たちの認識が少しずつ弄られていき、やがて、学校内全体を巻き込んだ遊びへと発展していった。