校内にチャイムが響き渡る。これから授業が始まるのだろう。廊下に生徒たちの姿はない。
俺が左腕に抱きつく少女を連れて歩いていると、右手に見える教室から喘ぎ声が聞こえてきた。うっかり誰かがそういう音声を携帯から流してしまったわけではない。喘ぎ声は各教室から聞こえてきていて、それが校内の日常になっていた。
通りがかった教室を覗き込んでみれば、真面目に授業を受ける男子生徒と、男子に性奉仕をする女子生徒の姿があった。
「ぐぽっ、ぶぽっ、ぐぽっ、ぐぽっ、ぐっぽ!」
男子の開かれた両足の間で跪き、男根をしゃぶる者。
「ぁっ、あっ、んっ、んひぃっ、んぁあっ!」
対面座位で男子に抱きつき、腰を振る者。
一人一人がそうやって授業中も情事を楽しんでいるかと言われると、そうではなかった。女に奉仕をさせているのは数人。周りにいる男子たちはチラチラと羨ましそうにそれを眺めつつも、教師の声に耳を傾けて勉学に心血を注いでいる。
「ここの基礎は覚えておけよ。応用問題を次のテストに出すからな」
「ぢゅぶっ、ごぽぉっ、んっ、んんぅっ、ぢゅるるっ!?」
教壇に立ちながら、男性教員は蹲踞の体勢を取る女子にフェラをさせ、ちょうど射精したようだ。女子は教師の下半身に抱きつき、肉棒を根元まで咥え込んだ口の中で一生懸命精液を啜っている。
捲れ上がった少女のスカートからは、膣穴に挿入した震えるバイブを固定するマイクロ下着が覗いでいた。艶やかな紫色でやけに大人びた下着だが、教師の趣味なのだろう。下着には男子たちと思しき名前が書かれた使用済コンドームが十個以上も括りつけてあり、少女の震えに合わせて重たそうにぶらぶらと揺れていた。
どうやら全員がセックスを楽しめているわけではなく、成績上位者などの何らかの条件を満たした男子に限定して授業中の交わりを容認しているようだ。だが、他の男子たちも女子を使う権利がないわけではない。それは、教師の性処理に励む女子が吊り下げるコンドームの数から察することができる。
この分だと、教師にも何らかの使用条件が提示されていそうだ。
優れた男だけが女を抱ける制度。それが、俺に力の一部を与えられたソーナが再構築した駒王学園の在り方のようだ。
高等部がこれでは、初等部、中等部、大学部もソーナの毒牙に掛かっているだろう。優秀な男を育てるという考え方はおそらくどこも同じ。まだ運用を始めたばかりのため、ここから少しずつ年代別に差別化が行われていくはずだ。
「こういうのもありか」
俺が予想していた形ではなく真面目なソーナらしい学園の形だが、悪くはない。
「次行くぞ」
「ええ」
俺は制服姿の少女と共に再び歩き出し、校内を見て回った。
ベッドやあらゆる性玩具が揃えられた交尾専用の部屋。
女子に新しい人格や常識を植えつける洗脳カプセルが設置された部屋。
逃亡や暴力、自害を禁じて正気に戻した女子の心身を好きなだけ嬲れる部屋。
アニメやゲームなどの架空の女キャラを模倣した人造人間とセックスができる部屋。
新たに作られた地下空間の敷地を含め、学校内には様々な需要に応えた施設が用意されていた。
そして俺たちが今いるのは、アダルト用品が売られている購買部だ。
広い部屋の壁に沿う形で、アダルトグッズと制服に身を包んだ『少女』たちが並んでいる。脇見せ蹲踞の体勢を微動だにせず保ち続けている。明らかに命が宿っていないそれらの中には、見知った少女たちの顔も見掛けた。
リアスや朱乃、小猫、アーシア、ソーナ。他にも生徒会のメンバーや、俺がオリジナルを持ち帰った少女たちの姿がある。皆一様に柔らかな微笑みを湛えたまま、機能を停止していた。
試しにリアスを見ていると、首から札が下げられていることに気がついた。
『リアス・グレモリー型自立稼働愛玩彼女』
という文字と共に、購入時に必要なポイントというのが札には表示されていた。このポイントは学園で使用されているものらしく、学校生活のあらゆる功績に応じて得られるらしい。俺が作る分身体と遜色はなく、実際に動き出せば本人と見分けがつかないだろう。
感触も本人そっくりなんだろうな。
思いながら俺がリアスの胸へと手を伸ばすと、その手が横からペシリと叩かれた。
改めて手を伸ばすも、また優しい平手打ちが手の甲を襲う。
そこで俺が横を見ると、俺の腕に抱きつく銀髪の少女が、頬を膨らませていた。
「どうした?」
「リアスの模造品を触るくらいなら、私を触って」
俺が声を掛けると、少女は不満そうな表情のまま口を開いた。
その声音は、普段聞き慣れたものより幼さを感じさせる。駒王学園の制服を着用した体は普段よりも少しスマートだ。しかしそれでも十分すぎる贅沢な肉の付き方をしていて、制服を膨らませる乳袋に挟まれた腕は非常に気持ちがいい。
銀色の髪を後頭部で編み込んだ美少女、グレイフィアは、銀色の眼を細めた。
「私のこと、無視しないでちょうだい。ずっと傍にいるのに手を出してくれないし」
この少女は、魔力で年齢を引き下げたグレイフィア本人だ。声色もそうだが、態度も普段とは違う。白い頬を赤らめ、嫉妬の感情を表情に湛え、発育の良い体で俺に肌を擦りつけてくる。甘えたがりの少女といった様子だ。
体と一緒に精神まで幼くなったわけではなく、そこは本人の演技によるものだ。だが、こうして接していると演技とは思えず、本当にグレイフィアが十代の頃に戻ったのではと勘違いしてしまうほどだった。
通ってもいない駒王学園の制服を着せているし、これも一種のコスプレと言えるだろう。
落ち着きのある大人モードもいいが、素直な子供モードのグレイフィアも堪らない。
むぎゅぅっ、ぎゅむっ、と腕に密着して形を歪めるグレイフィアの胸と、少女の幼さを残しつつも艶やかな大人の片鱗を見せる美貌を眺め、俺は頬を綻ばせた。
「誰が無視なんてするか」
「ぁ……ふふっ……」
頭を撫でてやると、グレイフィアの相好が崩れた。なんとも可愛らしい微笑み。リアスの模造品に向けていた興味が全てこちらに奪われる。やはりオリジナルであり、俺専用の妻であるグレイフィアには誰も勝てない。
「俺にとってお前が一番なんだ」
「本当?」
「本当だ」
「じゃあ、キスしてくれる?」
「ああ、いいぞ」
頷いた俺へ、つま先立ちになったグレイフィアが唇を近づけてくる。
キスを待つ美しい顔を見てから、俺はグレイフィアと唇を重ねた。腕に抱きつかせていた状態から体を向き合わせ、正面から抱きしめる。ズラリと並ぶリアスたちの模造品の前で、俺たちは夢中になって愛を注ぎ合った。
「ん、ちゅっ、んんっ、ぁ、むっ、ぢゅ、ぷぢゅっ、ぢゅ、ぐぢゅ、ぐちゅっ!」
熱い吐息を漏らし、瞳を潤ませて俺の唇と舌を楽しむグレイフィア。積極的に舌が泳いできて俺と絡め合う。飽きずに何度も繋がり、なぞり、静かな部屋に接吻の音を響かせる。
しっかり数分間に及ぶ唾液の交換を終え、互いの口に混ざり合った二人分の唾液が残った。仲良く折半したそれを同時にごくりと飲み干し、口を開いて飲み干したことを報告し合い、俺たちは自然と微笑みを浮かべた。
「すごく、心が満たされるわ……」
グレイフィアがぎゅっと俺を抱き締め、胸元に顔を埋める。
「子供の体で、制服を着て、ライザーと抱き合っているだけで、時間が戻ってしまったみたい。あなたと違って雄として何の価値もない元夫と結婚したことも、産まれてくる性別を間違えた馬鹿な元息子を産んだ事実もない。綺麗だった頃の私の姿で、あなたの傍にいるのもいいものね」
大人としての落ち着き払った声で囁くグレイフィア。
しかし、そんな冷静な一面もすぐに鳴りを潜め、欲望が滲み出す。
「ライザー」
グレイフィアの両手が俺の頬に触れる。
「あぁ、ライザー……」
グレイフィアの目元が緩み、口角が緩やかに持ち上げられる。
「今日は一緒にやり直しましょう。あなたと子供の時に出会って、恋をして、結ばれた理想の世界を。ねえ、お願い、ライザー。この私も愛して? あなたには私の可能性も含めて、味わってもらいたいの」
グレイフィアを受け止めながら、俺も魔力で自分の外見年齢を変えた。
グレイフィアと同じく十代半ばの年齢に。グレイフィアより背は高いままだが、目線はさっきよりも下がった。より距離感が近くなったように感じられた。せっかくだからと、衣服も男子制服に変更した。これで俺たちはお似合いの同世代カップルだ。
「少女になった私を、心行くまでしゃぶりつくして……?」
元よりそのつもりだ。そのために制服を着させたのだから。
制服姿で向かい合った高校生の俺たち。幾度かの接吻の後、場所を移すことにした。
二人で存分に楽しめる、交尾部屋へと。
ガブリエルは夢を見ていた。
見慣れぬ部屋のベッドで、見知らぬ男に抱擁されている夢。互いに衣服は着ていて、男女として繋がっているわけではない。ただ、それだけでも妙に体が熱く、感じたことのない快楽と安心感が生々しく心を包む。
しかし、これは夢だ。そうでないと説明がつかない状況だった。
ガブリエルに抱きつく男は、背から悪魔の翼を伸ばしていた。男にしては少し長い金髪と、精悍な面立ち。整った顔をしているが油断のならない怪しい気を発する彼は、ガブリエルに愛を注いでくる。
ガブリエルの心はともかく、体はそれを喜んで受け入れていた。
純白を維持したままの十二枚の翼で彼を包み、抱き締め返している。
天使のガブリエルと、悪魔の彼。立場が対立しているだけでなく、そもそも名前すらもわからぬ間柄。双方が合意の上で恋人のように体を触れ合わせるなど現実ではあり得ず、夢だからこそ形作られる奇妙な光景だった。
こんな夢を見るなんて。
ガブリエルは酷く羞恥を感じ、目覚めようと気を張り詰めた。
「ん、はぁ……」
しかし、それを阻止するように彼が抱擁の手を強めた。たったそれだけで意識が容易に解れ、温かい陽だまりの中にいるような微睡が訪れる。抱かれたまま彼の肩から顔を出し、押し倒された状態で身動きが取れなくなる。
「や、めて、ください……。ぁ、の、お願い、します……」
頼んでみても、彼は離れてくれなかった。
少しずつ、彼との抱擁を受けた体が弛緩していく。幸福が心の中に広がっていく。
明らかに不自然な感情だった。だからこそ、ガブリエルは耐えられている。
それでも、この状況から抜け出せないことに変わりはなかった。
彼に抱かれたまま、ガブリエルは終わりのときを待った。夢であるこの世界が壊れる瞬間を。
やがて、薄氷を踏んだときのように、世界がひび割れる。パリパリと音を立てて剥がれ落ちていく景色の向こうは闇。何も見通せないそれを見ていると、ガブリエルは意識を引きずり込まれるような感覚を覚えた。
『また来るよ』
その声を最後に、あれほど近くにあった彼の温もりは消えた。
望んでいた解放。望まぬ夢の最期。
だけどガブリエルは、彼の温もりを忘れられなかった。