水無瀬君の情緒は相変わらず不安定で、その反動でチョロチョロになります。苦手な方はご注意を。
どうせ消えるなら早い方が良い。
そう思っても、泣くというのはかなりの体力を消耗するらしく、気付けば日付が二日も変わっていた。泣き疲れて眠るなんて経験初めてだから、結構な衝撃だ。まるでタイムスリップしたみたい。
窓を開けっ放しにしていたから、窓枠に停まる雀の
体力は回復したものの、精神面はそうもいかない。ふとした拍子に一昨日の事を思い出して、堪らず涙が溢れ出しそうになる。でも、いつまでも泣いてなんかいられないから、乱暴に拭って切り替える。
ふらり、と倒れそうになりながらも立ち上がって、対魔忍スーツを手に取る。足を通して、腰まで上げた所で無意識に出していた尻尾に引っ掛かってしまった。こんな心境でも性欲が衰えない自身の浅ましさに更に気分が落ち込む。
いつもなら少し意識するだけで解ける淫魔化もどうしてか、こんな日に限って中々解けない。あの人に捨てられても尚、未練がましくあの人の身体を求める己に反吐が出る。
「・・・・・・」
漸く着替え終わり、部屋を一瞥する。今日で見るのは最後になるだろうから、少し名残惜しい。ゆきかぜ達に何か一言を・・・とも思ったが今は誰にも会いたくないから、書き置きだけ残そう。
内容は・・・・・・探さないで下さい、とか?
もっと何か書くべきなのだろうけど、そこまで気力が無いので適当に達郎との仲とか書いてテーブルに置く。他にやる事は・・・特に無いかな。
水城家は洋館なので部屋の前までは普通に土足で入るから、靴の心配は無い。靴を履いたまま部屋に戻り、いつもの脇差を懐に。それから、後は・・・・・・何が要るんだろ。あぁ、お金忘れてた。
それで・・・・・・まぁ、そんな多く持っても仕方無いか。
準備が出来たので窓に近寄る。停まっていた鳥が飛び立ち、開きっ放しだった窓枠に今度は俺が飛び乗る。ここは三階だから一般人が飛び降りれば普通に死ぬか大怪我だ。
だがビルを跳び回るのがデフォルトの移動方法である対魔忍からすれば、特段問題は無い。
空中に飛び飛びに水の足場を形成し、それ目掛けて窓枠を蹴ろうとして・・・・・・何かに手を引っ張られ、部屋に引き戻された。
「ちょ、何やってんの!」
「え・・・・・・うわっ!?」
俺を引っ張った張本人、凛子さんの実の弟である達郎が何故ここに居るのかを聞く暇すら無く、部屋の中に倒れ込む。達郎を下敷きにする形になってしまい、苦しそうにしてたので慌てて退き、安否を確認する。
どうやら、怪我はして無さそうで安心した。だけど、どうして達郎がここに居るのだろうか?
「昨日ゆきかぜに頼まれて、なんか嫌な予感がするから朝早くに来てみれば・・・一体、何しようとしてたのさ!」
俺の困惑した顔を見て何か察したのか、怒鳴りながら説明をしてくる。
何をしていたも何も、家出をしようとしていただけだ。もしかして、俺が投身自殺をするとでも思ったのだろうか?自分が捨てた後に俺がそんな事をすれば、凛子さんが変に気負うだろうから、そんな事する筈がないのに。
「馬鹿!巫山戯んな!秋が居なくなったら、姉さんが悲しむだろうが!!」
「え・・・・・・」
その言葉に違和感を覚えた。
コイツは姉も含めて、自他共に認めるブラコンであり、大切な姉に近付く俺を目の敵にしていたのでは無かったのか。姉が悲しむというのなら、普段の態度の説明が付かないし、ならば俺が居なくなるのは寧ろ大歓迎ではないのか?
それに悲しむも何も、もうあの人は・・・俺の事なんて・・・。
「で、なんで家出なんてしようとしたの?」
「・・・・・・お前には関係無いだろ」
「あるに決まってんでしょ。姉さん、ここ最近変なんだよ。妙に浮き足立ってると言うか、突然気味悪い声で笑い出すし・・・。絶対、秋関連で何かあったでしょ」
「・・・・・・」
え、鋭過ぎない?達郎ってこんなに勘が良い子だったっけ?
それに凛子さんに関しては、あの人が喜びそうな事なんて俺には・・・・・・もしかして、俺から解放されて気が楽になったとか、そういう・・・・・・。はぁ、実の弟から言われると現実味が帯びてて思ったよりショックだな。俺って無意識にあの人を束縛でもしてたのだろうか。
あぁ、ヤバいな。また泣きそうになって来た。あんなに泣いたのに、もう枯れ果てたと思ってたのに・・・・・・なんで・・・なんでッ・・・止まんないんだよォ・・・!
「・・・はぁ。ほら、何があったのかは大体察したから、泣き止みなよ。大丈夫、姉さんは秋の事を嫌ってなんかいないよ」
「ぅ・・・うぅ゛・・・ぐすっ・・・・・・ほんと?」
「本当だよ。大方、淫魔の力が暴走でもして姉さんを誘惑したけど断られたとか、そんな感じでしょ?」
・・・・・・・・・え、怖っ。全部当たってるんですけど。涙が一瞬で引っ込んだわ。もしかして見てた?遂に達郎にも凛子さんみたいな覗き見出来る忍法が目覚めたのか?
・・・ん?ちょっと待って。なんか今、普通に俺が淫魔だって事を受け入れてなかったか?それどころか、なんか前々から知ってたような口振りだったんだけど・・・。
「・・・・・・・・・い、いつから・・・知ってたんだ?」
「まだ不知火さんが居た頃」
「・・・・・・」
あの人が居たって事は・・・・・・俺が淫魔の力に目覚めた時、つまりはゆきかぜの母親に襲われた時な訳で・・・そっか、見られてたのか。マジかよ。
「・・・なんで、黙ってたんだ?」
「この話題にはあまり触れて欲しくないんでしょ?だから、自分なりに調べて色々とフォローしてたんだよ」
「フォロー・・・」
もしかしてだけど、ゆきかぜと俺のスキンシップを阻止したり、俺と凛子さんの距離が縮まったのに気付いて、監視の如く付き纏い出したのって・・・・・・全部、俺の為?嫉妬心とかでは無く?
「一昨日なんて驚いたよ。騒がしいと思ったら、秋は淫魔化してるし、姉さんはなんか発情してたし。もう全てが手遅れかと思って頭がパニックになった。お陰でフォローの1つも出来ず、気付けば意味不明な方向に悪化してるし」
「・・・ご、ごめんなさい」
「淫魔は性欲が凄いって聞いたから、生理が重くならないように色々と配慮してるのにさ。秋は懲りずに姉さんとイチャイチャして、それで生理当日になったら姉さんに辛く当たって傷付けて。それを淫魔化して慰めようとするとかマジでなんなの?ねぇ?」
「・・・えっと、いや、その」
あ、あれ?なんか流れが変わったぞ?
「別に姉さんとお付き合いするのは良いよ。僕もゆきかぜと付き合ってるし。でもさ、まだ学生だよ?他の人に兎や角言うつもりは無いけど、責めて成人するまでは姉さんと清いお付き合いをしないと許さないからね。しかも淫魔の本能に飲まれて、その場の雰囲気でヤるとか万死に値するから。姉さんの格をあまり下げないで」
「はい、すみません・・・」
なんで俺、正座してんだろ。
「それにね、秋は気付いて無いかもだけど。ゆきかぜ、秋の事を完全にそういう目で見てるから。その辺、もっと自覚してよね。恋人居るのに他の男に発情して自慰するとか、ゆきかぜ割と節操無いんだから」
「え?いや、だからそれはただの・・・」
「ただの・・・何?」
「いえ、なんでもありません」
・・・ふふっ、怖い。
「・・・ふと思ったんだが」
「ん、何か質問でも?」
「達郎って、意外とそういうエロに関する知識って豊富なんだな。今までずっと初心だと思ってた。もしかしてムッツリなのか?」
「・・・・・・・・・」
な、なんか達郎の目が一段と冷めた。なにか俺、マズイ事言っただろうか。
「はぁぁ・・・・・・あのね。秋はよく実習をサボってるから知らないだろうけど、普通に授業で習うんだよ。それに姉さんの本を拝借して勉強もしてたの。僕も対魔忍だから、そういう任務もいずれは任されるだろうしね。僕には力が無いんだから、何も知らずに潜入して騙されて娼婦堕ちしました、だと、ゆきかぜに顔向け出来ないよ。間違ってもムッツリでは決してないから」
「・・・そっか」
言われてみれば、オナニーのやり方とか教わってたから、そういうガチなのも何回か授業でしてたのか。内容が酷過ぎて頻繁に机か保健室で寝込んでたからなぁ。前世で保健の授業の時に男女が分かれてた理由ってこういう事なんだろうか・・・・・・いや、流石にここまで酷くは無いか。
・・・・・・もしかして、俺だけ特別授業あったのってサボってたのが原因か?でも、ふうまは受けてなかったし・・・うーん。
まぁ、それは置いといて。達郎って意外と色々考えてたんだな。てか、今では灰となった凛子さんのコレクションを見たのか。余計なお世話かもしれないが、知識が偏り過ぎたりはしないだろうか。仮に潜入したら、無自覚なドM製造機になりそうな予感。
「話が逸れたけど、姉さんはまだ現状を上手く把握出来ずに居る。きっと今頃、『淫魔の催淫に耐えた私を見て、秋が惚れ直した』とか。そういう的外れな事を考えてるよ」
「え・・・」
あの人、そんな理由で耐え切ったのか。処女拗らせ過ぎではなかろうか。あそこは寧ろガッツいてくれた方が・・・。
でもそっかぁ。俺の誘惑、そんな理由で耐え切られたのか。自分で言うのも何だけど、今更好感度が上下した所で大差無いんだけどなぁ。
「でもこの誤解を解くとなると、今度は姉さんが羞恥心やらなんやらでまた面倒な事になるから、今後は誤解を解かずに受け入れて姉さんと接して」
「・・・つまり?」
「秋が姉さんを惚れ直して今まで以上にデレデレになるの。演技とは言え、それくらいは簡単でしょ?」
「・・・べ、別にデレては無いんですけど。まるで今までバカップルだったみたいな言い方はやめてくれないか」
「そういうのいいから、分かったら返事」
「・・・・・・一応聞くけど、デレるって具体的に何をすればいいんだ?身体的な接触を増やしたら本末転倒だろうし」
「ん、それもそっか。・・・・・・その前に、一つ確認しておきたいことがある」
「な、なんだ?」
「最近、姉さんと二人っきりになる事が多かったけど、何してたの?」
「・・・・・・」
あー、なるほど。それはまだ知らないのか。
・・・え、これ俺が説明しないといけない感じ?ここまで清い付き合いを力説して来て、絶賛ブチギレてる達郎に『もう既に色々と手遅れです』って言うのか?
・・・・・・終わったな。
「・・・お、怒らない?」
「・・・何が?」
「・・・その・・・か、仮に変な事をしてたって、俺が今ここで白状しても・・・怒らない?」
「・・・・・・大体察したけど、しっかりと詳細を話して。じゃないと怒る」
「・・・はい」
圧が増し、目が全く笑ってない笑顔を前に簡単に屈した俺は達郎が望む通り、俺と凛子さんがどのような経緯で今の関係に至ったかをビクビク怯えながら説明した。
その間、達郎は目を閉じたまま終始無言で話を聞き、まるで嵐の前の静けさのようで酷く不気味だった。
粗方の説明をし終え、ゆっくりと目を開く達郎。口を開くのを死刑囚のような心境で待つ俺に、達郎はゆっくりと口を開き・・・。
「はぁぁぁぁ・・・・・・」
深い深い溜め息を吐いた。
「た、達郎・・・?」
想定外の反応にどう反応していいか分からず、声を掛けたが達郎は顔を片手で抑えて何やら疲れた様子。
少なくとも怒ってはいなさそうでホッと一安心。けれど、また何か逆鱗に触れて怒鳴られると思うと身体が緊張で強ばってしまう。
「・・・取り敢えず、薬の方は僕がなんとかする。だから、もうそんな身体を売るような真似はやめて」
「え・・・・・・う、うん」
いや、身体を売ってたとか、そんな人聞きの悪い事をしてたつもりは無いんだが・・・・・・それよりも。
「・・・何、どうかしたの?」
「い、いや・・・怒らない・・・のかなぁ、って」
「は?怒って欲しいの?」
「いや、怒らないで・・・」
なんなら、凛子さんとかなりエロエロな事をしたという一番怒られそうな事実も伝えた筈なんだけど、意外と怒ってなさそう。達郎、シスコンじゃなかったのか?
「今回は全面的に姉さんに非があるし、僕も少なからず関わってたみたいだしね。それに僕は姉さんが大切なだけで、そういう性的興奮は覚えないから。"love"じゃなくて、"very like"なだけ」
「あ、はい」
日本語を達郎なりに直訳しただけなんだろうけど、"very like"って好きって意味じゃ無いんだよな・・・・・・下手に刺激したくないから黙っとこ。
「・・・で、そろそろ返事欲しいんだけど」
「・・・・・・?」
「なに首傾げてんのさ。演技の話だよ」
「あ、あぁ!・・・うん、出来るか分かんないけど、やってみる」
「出来るかどうかじゃない。やれ」
「やります」
意外と面白そうだから、なんて軽い気持ちで返事したらまた怒らせてしまった。仕方無いとは言え、凛子さんに嘘を吐く形になるのが許せないのかな。
だから、達郎なりに妥協出来たのが、巫山戯半分じゃなくて真面目にやる事。つまり・・・・・・これ、凜子さんにデレてるのが演技だってバレたら、達郎に殺されやしないだろうか。
◇
一通り話し終え、二日も部屋に籠りっ切りだったので心配を掛けたであろう爺やにまずは無事を知らせに行く。飲まず食わずだったから、流石にお腹が空いたな。
達郎も朝を抜いて直行して来たらしいから、一緒にどうかと誘ってみたが凛子さんの朝食がまだなので帰って食べると断られた。
あの人、普通に料理出来る筈だけど、そこは譲れないらしい。そう言えば、コイツは重度のシスコンだったわ。とは言え、世話になったので玄関まで見送りするくらいは許してくれた。
達郎より少し前を歩き、先導するような形で廊下を歩いている矢先、脇の扉が開き、そこから寝起きのゆきかぜが出て来た。
「・・・・・・!?秋!!」
寝惚け眼をカッと開き、こちらに飛び込んで来る。
それを胸で受け止め、ゆきかぜは達郎にも気付かず、嬉しそうにぐりぐりと頭を擦り付けて来るので、随分心配させたみたいだと謝罪の意を込めて撫でようとして・・・・・・背後の殺気に気が付いた。
「大丈夫?二日も部屋から出て来ないから、凄い心配したのよ?何処も悪い所は無い?」
「だ、大丈夫・・・。大丈夫だから、一旦落ち着いて・・・」
「・・・ゆきかぜ、近過ぎ」
潤んだ瞳でこちらを見上げ、目と鼻の先程の距離で安否を確認して来る。それだけではまだ安心出来ないのか、ぺたぺたと触診しだしたゆきかぜに達郎が止めに掛かる。
そこで漸く達郎の存在に気付いたらしいゆきかぜは、達郎が居る事に驚きつつも素直に従って俺から離れた。
(さっき言った事、もう忘れたの?)
(い、いや、覚えてる!だから、そんな睨まないで・・・)
アイコンタクトで叱責して来る達郎に身を縮こませ、ゆきかぜにバレないように必死に謝る。これからはゆきかぜとの接し方を少し考え直した方が良さそうだな。主に俺の身の安全の為に。
「それじゃ、僕はそろそろ帰るから。・・・・・・ゆきかぜ、またね」
「あ、うん。じゃあね、達郎。・・・・・・・・・ねぇ、秋。達郎、結局なんで来てたの?」
「え?・・・・・・あー・・・まぁ、色々とあったんだよ」
「何よそれ?・・・まぁ、いいわ。早く爺やにも秋の安否を知らせましょ。昨日なんて、何回も秋の部屋の前で行ったり来たりしてたんだから」
それは・・・なんというか、相当心配を掛けたな。不老不死の癖にボケ始めるくらいには老いてるから、早く安心させて上げなければ。
◇
その後は爺やがわんわん泣きながら、全身の骨が折れそうな程強く抱き締められたりしたものの、朝食食べて少しすればいつもの日常が戻って来た。
悩みの種であった凜子さんの事も勘違いだと分かった今、変に気に病む必要は無く、寧ろ気にするべき事はその対応だ。
どのように接すれば良いのか、出会った時はなんて挨拶をすればいいだろうか。色々な案を出してはその後の展開を妄想してベッドの上でゴロゴロしたり、達郎の忠告を思い出して自制したり、すぐエロ方面に持って行く自分にショックを受けたり。
結構忙しい一日を過ごした翌日、遂に邂逅の時が来た。
「り、凜子さん!」
「・・・あぁ、秋か。どうした?」
俺の声に振り返った凜子さんは、なんか普段の三割増しでキリッとしてた。凡人がやったら滑稽なのだろうが、貴女がそんな顔したら普通に顔が良いのでやめてください。
ほら、周囲の登校中の男子生徒が熱い視線を向けて来る。
お願いだから、そんなイケない顔をするのは俺と二人っきりの時だけにしてほしい。・・・・・・いや違う。そんな事したら、俺がもう色々とノックアウトしてしまう。それはダメだ。
あ、でもこんなに良い顔が見れないのは嫌だな。達郎と同伴とかなら、見せてもらっても・・・・・・だから違う!
「その・・・賭けをしませんか?」
「・・・突然だな。学生の身でそのような事に手を出したくは無いのだが・・・別にそういう訳では無いのだろう?」
「はい。・・・えっと、ちょっとした勝負みたいなものです」
「ほう・・・このタイミングということはテストの点数で勝負か。しかし、私と秋の学年では教科も科目数も違うぞ?」
「その通りです。なので俺と凜子さんの直接対決ではなく、凜子さんの順位を予想するんです。その内容ですが・・・・・・」
勝負の内容は簡単。成績上位勢である凜子さんが学年一位を取れたら凜子さんの勝ち。取れなかったら俺の勝ち。ただそれだけ。勿論、忍法を使っての不正もOKとする。しかし、それは飽く迄もバレなかったらの話。
仮にバレて全成績をゼロにされたら、それは俺の勝ち。まぁ、性欲を抜きにしたら堅物な凜子さんがズルをするとも思えんが。
・・・本当は互いの順位で勝負したかったんだけど、俺ここ数日勉強してないからな。赤点を取る事は無いだろうが、流石に凜子さんに勝つには分が悪過ぎる。
「・・・・・・というモノです」
「ふむ。・・・まぁ、いいだろう。特におかしな点も無ければ、どちらかが損する内容でも無いからな」
「景品は、勝った方が負けた方になんでも1つだけ言うことを聞いてもらえる権利です。勿論、生死に関わるのはダメですが、それ以外ならなんでも大丈夫です」
「なんでも?」
「なんでも、です」
「ふむ、ふむふむ・・・むふふっ」
少しの思案顔のあと、なんか変な顔して俺の身体を舐めるように観察される。全く、そんな誘うような態度は本当にやめて欲しい。子宮(睾丸)が疼いてしまうじゃないですか。
「・・・・・・」
「・・・・・・えっと」
「・・・・・・それだけか?」
そ、それだけ?それだけって・・・何が?なんか、凄い期待の眼差しで見られても困るんですけど。なんて答えればいいんですかね。
「え・・・あ、はい。それだけ、です。・・・・・・では・・・俺は、これで・・・」
「あぁ・・・」
どうして、そこでションボリするんですか。さっきまでのキリッとした凜子さんは何処へ行ったんですか。ギャップがヤバいので本当にやめて下さい。もう理性がゴリゴリ削られていくんですよ。
「・・・・・・はぁぁ」
駆け足でその場を去って、凜子さんが見えなくなった所で大きく溜め息を吐く。柄にもなく緊張してしまった。
おかしな態度は取っていなかっただろうか、ボロが出ていなかっただろうか。今まで気にした事がないようなことまで心配してしまい、余計に不安が募る。
「でも、これで・・・後は」
テストは今日から始まる。つまり1位ではなく、飽くまで高得点を狙う勉強をしていた凜子さんでは例え、日頃から順位が1桁台でも勝つ可能性は低い。
よって、この賭けは出来レースのようなもの。俺の成績は関係無いので赤点回避さえすれば、別にどうでもよい。
後は、成績が張り出された時に景品の権利を使用して、その日は午前中で終わるからお昼を一緒に食べて欲しい、と誘えばいい。なんやかんや言いつつ、あの人は凄い誠実だから、賭けを叛意にすることも無いだろう。
それから1週間後、張り出された順位の前にて。
秋山凛子 1位
「あっれぇぇ〜〜・・・?」
背後から感じる、全身を這いずる蛇のような視線を、必死に無視しながら俺は目の前の現実に首を傾げるのだった。
因みに達郎が言ってた、ゆきかぜが恋人居るのに他の男に発情云々に関しては、3話のクッキーで制裁してます。大好きな恋人に手作りクッキーを渡したかったわけではなく、ド変態なエロ猿を懲らしめたかった故の行動です。そんな怒りに我を忘れた達郎の流れ弾に合ったのが凛子さん、という裏話。
以下、水無瀬君NTRビデオ回避の功労者である達郎について
(ネタバレ注意)
【秋山(あきやま) 達郎(たつろう)】
名門秋山家の長男であり、斬鬼の対魔忍として名を馳せている秋山凜子(あきやま りんこ)の実の弟兼ゆきかぜの恋人。
そして、『対魔忍ユキカゼ』の主人公(笑)。
マジカルちんぽ持ちなのに恋人に「情けないチンポ」と罵られたり、対魔忍で「寝取られた人」と言えば、真っ先にこの男が浮かぶくらい、かなり不憫な主人公。続編である『対魔忍ユキカゼ2』にて、風遁使いだと判明するが、それまではふうまと同じく忍法に目覚めていなかった落ちこぼれ対魔忍。
今作でも変わらず落ちこぼれではあるものの、原作よりかなり聡明で頭の回転が早く、場の空気や人の感情に敏感になっている。しかし、それ故に臆病となっている節もある。
幼少期に信頼していた不知火おばさんが水無瀬君をレイプし掛けた現場を目撃しており、未遂に終わったものの、恐怖で動けなかった事をずっと悔いている。
以来、謝ろうにも嫌な記憶を思い出させて傷付けてしまうのではないか、と二の足を踏み続け、最終的に影からサポートする事を決意した。勿論、初体験どころかキスもまだだが知識だけは豊富であり、一人遊びも結構してる。実は、秋が凜子さんを慰めてた時、扉の前で耳を済ませながら自慰に耽ってた。