人生2回目になる高校2年生の夏休み初日。
俺は自宅で監禁されていた。
「ねえ、なんで五月ちゃんと一緒に食事してたのかな~?」
俺を監禁した張本人であり、彼女でもある中野一花が冷酷な笑みを浮かべる。
「むぐぅ~!」
俺は先ほどまで一花が身に着けていた下着を口に突っ込まれ喋れないでいる。
さらに両手足に手錠をかけられ、四肢拘束もされていた。
「彼女の私が演技の勉強頑張ってる間に、真咲君は浮気してたわけだ」
いつの間にか、俺に跨る一花の目からハイライトが消えている。
「酷いよ……。私はこんなに真咲くんのこと大好きなのに……」
「んぐっ!?」
一花は上着を脱ぎ、豊満な乳房を俺の胸板に押し付けてくる。
下着越しなのに、生々しい感触が俺を襲う。
「あはっ♡ 真咲君のあそこ大きくなってるよ。こんな状態にされてるのに興奮しちゃってるの?」
一花のたわわに実ったおっぱいと性器を直に擦り付けられているから息子が反応しているだけだ。
けっして俺がМなわけじゃない。
どちらかというと一花の方がМだ。
だから今までは俺が主導権を握っていたわけなんだけど……。
「真咲君って変態なんだね。私も人のこと言えないけどさ」
なのに一花は俺が五月と浮気していると誤解して暴走している。
「とりあえず五月ちゃんもここに呼ぼうか。私の真咲くんに手を出したんだから……お仕置きしないといけないよねぇ?」
転生してから約一年半。
俺とただの友人である中野五月は命の危険にさらされようとしている。
中野一花という二人にとって大切な存在の手によって。
☆☆☆
「ここはどこなんだ?」
幼女を庇ってトラックに轢かれたと思ったら、いつの間にか壁一面真っ白な部屋にいた。
「初めまして、
「ひゃいっ!?」
いきなり女性が現れた。
しかもエッチなコスチュームをした絶世の美女だ。
「これはエッチなコスチュームではありません!」
「え……? なんでわかって……」
「それは私が神様だからです」
「か、神様……?」
「はい!」
混乱する俺に神様と自称する美女は丁寧に説明してくれた。
俺がトラックに轢かれて死んでしまったこと。
俺が庇った幼女はかすり傷だけで済んだこと。
幼女を救ったことにより、転生するチャンスが得られたこと。
転生先は生前最後に見た創作物の世界であること。
ちなみに俺が最後に見た創作物は五等分の花嫁だ。
「五等分の花嫁の世界か……。アニメしか見てないんだよな……」
俺がトラックに轢かれたのは、五等分の花嫁のアニメを全話見終えて、原作を購入しようと本屋に向かう途中だった。
「どうしますか?」
どうするかってそんなの決まっている。
「転生させてください」
このままあの世にいってたまるか。
中高と6年間バレーボール一筋で、一度も彼女ができたことはなかった。
つまり享年=彼女いない歴である。
「確かに18年間彼女もおらず、童貞で死んでしまったのはやり切れないですよね」
「心を読まないでください!」
「でも安心してください。転生すれば童貞を捨てられるチャンスはあります!」
「それだけのために転生するわけじゃありませんからね!?」
もちろんあわよくば童貞を捨てたい。
そのためにも彼女を作らなければならない。
相手はもう決めている。
五等分の花嫁のヒロインで一番好きな中野一花だ。
「なるほど、長女狙いですか」
「そうですけど」
「私は三玖ちゃん推しです」
「そ、そうですか……」
もしかして神様って同性愛者なんだろうか。
「違いますよ。私はイケメン好きですよ」
もう心を読まれるのに慣れてしまった。
「特に義勇さんと金木くんが好きです」
「そこまで訊いてないです」
鬼滅の刃と東京喰種か。
もしその世界に転生したら、彼女ができないまま死んじゃいそうだな。
最後に見たのが五等分の花嫁で本当によかった。
「それじゃ転生特典を与えますのでガチャを引いてください」
「なんか近代的ですね」
神様からスマホを受け取ると、アプリが起動されており、すぐにガチャを回した。
「何ですかこれは!?」
最初の特典は『下痢になりにくい』だった。
「転生特典にしてはしょぼくないですか!?」
「特典もいろいろありますので」
「一つ無駄にしてしまった……」
溜息を吐きながら2回目のガチャを回す。
特典は『深爪にならない』だった。
「青梅さんはクジ運がないですね」
「もうやだ……」
泣きべそをかきながら最後のガチャを回す。
「これはっ……」
「すごいじゃないですか!
「やった――――――って五等分の花嫁の世界じゃ何の役にも立たないですよ!」
「私に言われましても」
「うぐっ」
確かに神様に文句を言っても仕方ない。俺のガチャ運が悪かっただけだ。
「はぁ……。特典でイケメンになったり、ヒロインを攻略するのに使える力が貰えると思ったのに……」
「元気をだしてください。転生できるだけでもよかったじゃないですか」
「……確かにそうですね」
決まったことに対してくよくよしていても仕方ない。
俺が足を止めて蹲っても時間の流れは止まってくれない。
これは某柱のありがたいお言葉だ。
「そうです! どんなに惨めでも恥ずかしくても生きてかなきゃならないんです!」
「別に自分のことを惨めだとは思ってないです!」
「8巻は私も号泣しました」
きっと鬼滅の刃のことを言っているんだろう。
俺も号泣したからわかる。
「それではそろそろ転生しましょう」
「もうですか?」
「はい。あと30分で鬼滅の刃のブルーレイが自宅に届くんです」
「知らんがな」
「それでは青梅真咲さん。いってらっしゃいませ」
「強引だな!」
直後に、俺の身体が下半身から消え始めた。
「もういいや……。神様、いってきます」
「彼女の闇に気をつけてくださいね」
神様が何か言っていたが、俺は聞き取ることが出来なかった。
☆☆☆
目が覚めると俺はとある公園にいた。
背中にはなぜか鞄を背負っている。
「神様がくれたのか?」
鞄を開けると一冊のノートが入っていた。ノートにはこの世界での俺の家族構成、住所など生活するために必要なものが事細かに書かれていた。
「五等分の花嫁って愛知県が舞台だったのか」
前世では都民だったが、この世界では愛知県民になってしまった。
アニオタとしてTOKYO MXが映らないのは不安だが仕方ない。
「とりあえず自宅に向かうか」
家族構成はオランダに長期出張中の父、父親についていった母、俺の3人家族だ。
つまり俺は一人暮らしになる。なんとも都合がいい設定にしてくれた。
「らいはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ん?」
ノートを見ながら公園を出ると、すぐに男の叫び声が聞こえた。
顔をあげると目の前に横断歩道を歩いている幼女の姿が映った。
その幼女に向かってトラックが突っ込もうとしている。
「わああああああああああ!」
俺は横断歩道に飛び出した。
幼女が助かると思ったわけじゃない。
身体が勝手に動いたのだ。
この時の俺は無の境地だったと思う。
気づいたら幼女を抱いていた。
そして……
「ぎゃおすっ!?」
左足に衝撃と激痛が走った。
直後に、俺は意識を失った。
転生して5分で俺は事故ってしまった。
俺が意識を取り戻したのは翌日だった。
アスファルトに頭から落ちて打ち所が悪かったようで、意識不明だったようだ。
トラックにぶつかった左足は骨折で、全治二ヶ月とのことだった。
「目覚めてよかった……」
最初に見舞いに来たのは両親ではなく、この世界の主人公である上杉風太郎だった。
なぜ上杉が俺の見舞いに来たかというと、俺が助けた幼女は上杉らいは―――主人公の妹だったのだ。
上杉はリンゴとバナナを持参していた。
俺は上杉の家庭が貧乏なのを知っているのでお断りしたが、上杉がかたくなに受け取り拒否を拒否したので、有り難く受け取ることにした。
「明日もまた来るからな」
上杉は毎日見舞いに来るようになった。
どうやら俺が、らいはの命の恩人であるため、異常なまでに恩義を感じているようだ。
リハビリ以外やることがないため、俺は上杉から情報収集することにした。
まず一番に驚いたのは時間軸が原作開始前であったことだ。俺と上杉は中学を卒業したばかりだった。
一花たちが転入してくるのは高校2年の2学期なので、あと1年半近くもある。
転生って原作開始の時期からスタートだと思ってたんだけど、神様がミスったのだろうか。
こればかりは本当に神のみぞ知るだ。
一花と接触できるまで時間があるのは残念だが、主人公である上杉と接点を持てたので、前向きに考えることにした。
全治二ヶ月の俺が高校入学に間に合うわけもなく、登校できるようになったのは5月に入ってからだった。
クラスのグループは当然出来上がっており、さらに放課後は補習ばかりだったため、俺は上杉とふたりぼっちになってしまった。
恩義を感じてる上杉は俺をあらゆる面でサポートしてくれた。
そのおかげで俺と上杉は短期間で親友と呼び合える間柄になった。
らいは、上杉父とも交流を持つようになり、週に一回は、らいはの手料理をご馳走してもらえた。
友達作り以外は順調に見える高校生活だったが、転生前よりトラブルに巻き込まれることが多くなった。
外出すれば二回に一回は、美少女が不良に絡まれているのを目撃してしまう。トラブルを見過ごすことができない性格の俺はその都度美少女を助けた。おかげで生傷が絶えない。
それ以外にも自転車やセグウェイに轢かれたり、学校でスプリンクラーが誤作動してびしょ濡れになったり、不幸な出来事が多い。
これでシスターが空から降ってきたら完璧に上条さんである。
おそらく転生特典である
これが不幸を招いているのだ。
これなら転生特典なしの方がよかった。
けれどそんな不幸体質のおかげだろうか。
俺は思ったより早く中野一花と接触することができた。
転生してから二度目の6月某日。
俺はとらのあ〇に向かうため、電車に乗っていた。
電車は休日なのに、先ほどまで運転見合わせしていたため、大変混雑していた。
俺はうんざりしながら満員電車に耐えていた。ふと隣を見ると―――中野一花がそこにいた。
(嘘!? なんで一花が電車に乗ってるんだ!?)
彼女たちは金持ちだ。移動には自家用車を使っているはず。
なのに一花は電車移動をしている。
(そうか。撮影現場に向かうのか)
一花は姉妹に芸能活動をしていることを黙っていた。
運転手付きの自家用車で撮影現場や事務所に移動すれば、運転手経由で姉妹にばれてしまう可能性がある。
だから一花は電車移動をしているのだろう。
そう俺は結論付けた。
(しかしどうやって話しかけようか)
彼女いない歴=享年の俺には、初対面の女子に話しかける勇気もスキルもなかった。
まして相手は超絶美少女である一花だ。
童貞力50万の俺が話しかけられるはずがない。
ここは素直に上杉経由で接触するのを待った方がいいかもしれない。
そう思った矢先、一花の顔色が悪いことに気づいた。
(電車で酔ったのか?)
だが俺の予想はすぐに裏切られることになる。
一花の顔色が悪くなっていた原因。
それは――――痴漢だった。
背後にいる青年が、一花のお尻をショートパンツ越しに撫でていた。
一花はそれに必死に耐えていたのだ。
恐怖で声を出せないでいるのだろう。
(このクソ野郎)
すぐに痴漢を撃退しようと思った。
だが一花が芸能人であることをすぐに思い出した。
もしかしたら一花は大事にしたくないから、声を出さずに堪えているのかもしれない。
俺はすぐにスマホでメモ帳のアプリを起動して文字を打った。
『痴漢に遭ってる?』
彼女に見えるように、スマホを一花にかざす。
すると一花は驚いたような顔つきで、俺に顔を向けた。
一花は涙ぐみながら、ゆっくりと頷いた。
俺はすぐさま文字を打ち続けた。
『大事にしないほうがいい?』
一花は再び頷いた。
彼女が頷いたのを確認した俺は、強引に一花と場所を入れ替えた。
満員電車なので乗客に睨まれたり、舌打ちされたが、「すみません」と謝りながら、一花を痴漢野郎から遠ざけることができた。
痴漢野郎は俺の行動にぎょっと驚いていた。
本当ならこのまま制裁を加えたいところだが、それは一花が望むことじゃない。
『もう大丈夫』
スマホの画面を見た一花だったが、その身体は恐怖で震えたままだった。
直後に、駅に着いたため、俺は一花の手を掴んで、強引に下車させた。
ちょうどベンチが空いていたので、俺と一花はベンチに腰を下ろした。
「大丈夫?」
「あ……ありが……とう……」
俺の問いかけに、声を震わせながらお礼を言う一花。
それからは沈黙の時間が続いた。
なんて慰めればいいのかわからない。
「えっと……本当ありがとうね。助かっちゃった」
時間が経って落ち着いたようで、一花が苦笑いしながら言った。
「いいや。次からは女性専用車両に乗った方がいいと思う」
「そ、そうだねっ。そうするよっ」
「それじゃ俺はこれで」
本当ならここで連絡先を交換したいところだが、弱みに付け込んでるようで好ましくない。
ここは2学期の敵的な再開に期待しよう。
「あ、待って!」
立ち上がろうとしたところ、一花に腕を掴まれた。
「え……?」
「あ、その……」
なんだろう。もしかして怖いからまだ一人にしないで欲しいのだろうか。
「な、名前っ!」
「名前?」
「そうっ! 名前、教えてくれるかなっ?」
「……青梅真咲だけど」
「お、青梅くんだね。私の名前は中野一花」
知ってる。名前じゃなくてスリーサイズも知ってる。
「あ、あのさっ」
「なに?」
「お、お礼がしたいから……その……連絡先交換しない……?」
「……いいよ」
まさか一花から連絡先交換を求めてくるなんて。
転生してから一年と二ヶ月。
ようやく一花と連絡先の交換をすることができた。
「うん、登録オッケーだね」
ライ〇の交換だけかと思ったら、電話番号とメールアドレスも交換した。
「今からバイトだから、夜になったら連絡するね」
「わかった。でも無理しなくていいから」
時刻は午後2時。撮影かレッスンが何時までかわからないけど、夜遅いなら早く寝てほしい。
「ありがとう。青梅くんって優しいね」
「そ、そうか……?」
「うん。あ、電車来たから行くね」
「俺も普通の車両で行くよ。またな」
「うん、またね」
一花が女性専用車両に乗るのを見届けてから、俺も乗車した。
夜になると一花からライ〇が届いた。
ライ〇には感謝の言葉と、お礼がしたいからと食事のお誘いが書いてあった。
もちろんすぐに了承のライ〇を送った。
二人で日程を合わせて、来週の土曜に一緒に出掛けることになった。
俺は歓喜のあまり、すぐに親友に報告したが、恋愛反対派の上杉に「時間の無駄だ」と切り捨てられた。
親友の冷たい仕打ちを受けた俺だったが、心はぴょんぴょんしたままだった。
次回はセックスまでもっていきたい!