饐えた臭い、下卑た笑い声。――嗚咽と嬌声。
鈍い明かりを灯す寂れた照明に照らされるだけの暗がり、とうに打ち捨てられた廃ビルの屋内で、闇に潜む者たちが愉悦に嗤った。
「ひひひっ、今日の狩りも上等上等――あと2、3人も攫えば、ノルマは達成できるかな?」
「そうだな、最大限隠密にことを運びながらのこの成果だ……。2週間もあれば5人は固い。主も満足していただけることだろう」
「急がば回れってねえ。準備を最大限整えつつことに及べば失敗もなし。いやあ真面目に働くだけで成果得られるってのは良いもんだ」
「ぅ、あ――あ゛っっ!?」
「ンン、野郎3人に散々犯られた後にしちゃ悪くない締まりだ。さあて仕上げは、と」
寂れたビルの最上階、男たちの拠点であるこの場に監視カメラにも衆目にもその姿を晒すことなくこの場に連れ込まれた女性が、苦痛と快楽に翻弄され疲弊しきった膣を剛直に貫かれ白濁に塗れた黒髪を振り乱して叫ぶ。
やだ、いたい、やめて。これからされることをどの程度理解しているのか、うわごとの様に呟かれる拒絶の言葉を聞き流しながら、上体に多くの傷を刻んだ裸体を惜しみなく晒す偉丈夫が、今も己と接合する女性の下腹部に手を伸ばして『仕上げ』をしようとして――
「やああああああ!」
「!?」
拠点の、天井から。
侵入の気配を感じさせることもなく忍び寄っていた白髪の少女が、男の眼前に落下──その瞬間振り抜いた一撃。上体を強烈な魔力砲撃で吹き飛ばす。
「な……」
「馬鹿な対魔忍だと!?」
「畜生なんでこの場所がわかりやがった! 隠蔽工作には最大限注意を払っていた筈だ!」
一瞬の絶句ののち、驚愕を露わに敵意を剥き出す男たち。無防備な裸体を晒す彼らを侮蔑の眼差しで一瞥した白い少女――外道の魔術師を討つべく対魔忍となったイリヤは、気を失って倒れていた彼らに捕らえられ凌辱を受けていた女性の容態を確認し気遣うようにその身体を横たわらせると、その紅の瞳を怒りで燃やす。
「また、貴方たち――こんな、酷いことをして……! 許さない、絶対に逃がさないんだから!」
「――ハッ、久しぶりだなあイリヤちゃん」
粗暴な唸り声。
先の魔力砲撃の余波にあがる粉塵をかき分けて現れた『獣』の姿に、声に反応し振り返ったイリヤはいっそうの怒りをこめ唸る。
「貴方は……!」
「ちょっと見ない間にまたおっぱい大きくなってないか、俺が成長させてやったってことなんじゃねえの? またじっくり二人で遊ぶかい。今度は片手で収まらないくらいでかくなるかもなあ?」
「っ……!」
人狼となり筋骨隆々の身体を覆い隠すまでに毛深くなろうともなおその存在の主張をする怒張を見せつける獣を前に憤怒を露わにする少女、以前敗北を味わった際の恥辱が脳裏にフラッシュバックし、一度は敗北を味わった相手を前に身体がすくみかけるが――今は、違う。
「がっ!?」
「ぐっ……」
侵入者を前にじりじりと包囲網を築いていた男たちが、背後からの強襲に次々と昏倒する。
その後ろには、褐色の柔肌を惜しみなく晒す双剣を構えた少女と、紫を基調とするバトルクロスに身を包む黒髪の少女が佇んでいた。
「今回は、負けない――仲間がいるから! 貴方はここで捕まえます!」
同胞を討たれ孤立する人狼。しかし、彼は――イリヤの宣言を前に、ニヤリと、不敵に笑った。
健気なことだ、お優しいことだ、可愛らしいことだ――その顔をいつかのように屈辱と快楽でドロドロに蕩けさせることができたら、どんなに愉快なことだろうかと嘲笑う。
「ひひっ――」
「っ、何か来る――? 限定展開、ランサー――」
「おらぁあああああ!」
猛々しい咆哮。黒髪の少女が衣装を替え槍を構えたのにすら気にとめはしない。全身の筋肉を膨張、爆発させ全霊で突き進んでいった先は――イリヤ。
「! くっ……⁉」
「っ、不味い! イリヤ手加減なんてしちゃだめ、全力で――」
「その全力にかかる溜めは何秒かなあ⁉」
「この……!」
真正面からの魔力砲撃、投擲される刃。いずれも確かな脅威として襲い掛かり、人狼と化した魔術師の強靭な体躯を傷つけるが――止まらない。魔力砲撃に焼かれようとも刃が深々と突き刺さろうとも、筋肉の装甲を貫いて命に届くものでないのなら些事と無視し突き進んでいく。
発達した脚力を存分に発揮しての疾走に背後から肉薄し、振りかぶった魔槍に魔力を溜める美遊だったが。クラスカードなる神秘を宿して身体能力を向上させ感覚を鋭敏にしたからこそ、理解した。してしまった。
発動間際の奥の手を制御しながら。目を見開いて、歯噛みする。
間に合わ、な――。
「獲ったどぉぉおおおおおおおおお!」
「きゃああ!?」
華奢な体躯にぶちかまされた強烈なタックル。筋骨隆々の肉体から繰り出される一撃はそれこそ一般人なら即死してもおかしくはない威力を秘めていた。障壁を用いた防御の上から襲い掛かった衝撃に体勢を崩したイリヤを抱えた人狼は即座に反転する。
「~~~~~~!!!!」
羽交い絞めにして盾にした少女。その胸元に突き刺さる寸前で、今にも解き放たれようとしていた魔槍は動きを止めた。
槍を握る美遊の手が震え。そして崩れ落ちる。
「っ、く、う……!」
「美遊!?」
「その槍がどんなものかは知らんが……あれだけの神秘を秘めた一撃だ、強引に停止させたらそりゃあ反動も大きいよなあ? ――そしてほうら」
「っ、ぃや……!」
「「……!」」
いつでもへし折ってやれるんだぞと見せつけるように極太の腕を頸に回しながら、対魔忍としての装束の内側に忍ばせた手を露出した腿に這わせる。
有利を確認するや否や仲間の身体を弄び出した男に、美遊とクロエが殺意も露わに睨みつけるが――それでも彼女たちは動かなかった。動けなかった。
「よしよし、良い娘だ。黒髪の娘はもう動けないだろうし――君はクロエで合ってるな?武器を放せ、抵抗の素振りを見せれば……わかるな?」
「――えぇ、えぇ、それは勿論。でも、イリヤを傷つけたなら――」
「殺しはせんよ。それで不満なら試してみるか?動けなくなった黒髪を蹴り潰すよりイリヤちゃんの頸をへしおるより早く俺を昏倒させられるかどうか」
「……オーケー、降参」
酷薄極まる態度には交渉の余地を感じさせるものは一切なかった。握っていた双剣を捨て、両の手をあげた少女に――勝利を確信した人狼が、呵々大笑と笑う。
「クロ……!」
「友情はつくづく美しいものだよなぁ……、おら無能ども起きろ!」
悲鳴をあげるイリヤに構わず怒鳴りつけた魔術師に、クロエと美遊に打ちのめされていた男たちが痛みに呻きながらも起き上がる。倒れる美遊、人狼に囚われるイリヤ、無手で佇むクロエ――状況を察するや否や口笛を吹き下卑た笑みを浮かべ少女たちににじり寄った彼らのあさましい態度に内心呆れ果てながらも、腕の中で絶望に瞳を震わせるイリヤに向かってにやりと笑いかける。
「さて、愉しもうか――宴の時間だ」