※この作品はR-18です。

えっちなダンジョンズ&ドラゴンズもの   作:tbc

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「お早いお目覚めですね」

 

 空が白み始めた早朝にのそのそと宙より垂れるロープを伝い、降りてきた私とオウレンをハイエルフのクレリック……ヴィリルが冷めた表情で目覚めの挨拶を告げる。

 幾らエルフたちが睡眠不要とはいえ、私たち二人だけ安全なロープトリックの異次元空間で寝ていたことに文句の一つでも言いたいのかもしれない。一応、魔法に関して伏せたい隠し事があると説明したが、実際はエロエロするためなので文句を言われたら言い返せないのが困りどころ。オウレンの特技を稼働するためなので、あながち嘘でもないのだが……。

 

「信仰呪文(奇跡)はもう授かりましたか」

「今から祈るところです。呪文の内訳は昨日に相談した通りに授かりますが、彼の面倒はあなたが見なさい」

「ええ、勿論」

 

 ハイローニアスの神官騎士一名と、戦士のお姉さんは近くへ見つけた湧き水へ水汲みに向かっているようだ。

 そして私が任された、村の生き残りの少年も光を感じて目を覚まし始めた。ここまでの《追跡》を担当した彼だが、本日の洞窟探索を行う上で準備すべきことがある。

 

「起きましたか。今から呪文を準備します、手はずは分かっていると思いますが……」

「はい、分かります。何を授かれば良いでしょうか」

「昨日 伝えた通りに“治癒”を一つ、“絡みつき(エンタングル)”を一つが良いでしょう」

 

 私はパーティの皆に、侵略者を追跡するためには“野伏(レンジャー)”が必要だと訴えたが、実のところ彼はレンジャーではなく、同等の技術を持った“森司祭(ドルイド)”である。

 というのも予備の防具がないため、レンジャーでは彼は自衛すらままならない。ならば、こちらのドルイドでレンジャー同等の追跡を得て、更に呪文によって私たちを援護した方が安全だ。時間があればドルイドの相棒――動物を友とする力で狼(ウルフ)を護衛につけたかったが、コンタクトに一日かかるので残念ながら見送りだ。

 

 とはいえ、そんな彼を洞窟には連れていかない。何が潜んでいるかも分からない襲撃者のアジトに突貫をかけなければならないため、包囲された時に守れる自信がないのだ。

 本来なら隠密行動により先行調査し、敵の正体を把握したいのだが、生憎 私たちは人間やエルフにハーフエルフと、全くの光無しで暗闇を見通すことが出来る暗視持ちは誰もいない。

 唯一、ドワーフの近縁種であるノームのオウレンは暗視を持つが、彼女は単体行動には向かない。

 暗視を付与する手段も取れなかったので結局 強行突入となった。

 

 

 

 村の少年と神殿騎士の一名を洞窟の近辺で待機させ、私、オウレン、パラディン様、エルフ神官、そして戦士のお姉さんの5人で消えずの松明(エヴァーバーニング・トーチ)を片手に洞窟へ挑んだ私たちを出迎えたのは、岩を切り崩して築かれたトンネルを塞ぐ粗野な城壁と、その岩壁に空けられた隙間(スリット)から放たれる弩の太矢(クロスボウ・ボルト)だった。

 太矢は先頭を行くパラディン様の鎧で概ね弾かれたが、しかし一部が鎧の隙間から肉に突き刺さる。

 

『人間どもがやってきたぞ! 武装している!』

 

 敵が叫び、おそらく敵襲を仲間に告げているが、私には分からない言語だ。しかし聞き覚えはある、ゴブリン語だ。それを使う種族の中でこのように防壁を築くものとなると、ホブゴブリン―――ゴブリンの近似種だが人間よりやや大柄で、軍隊を以って侵略、蹂躙、支配する戦いに生きる種族―――に限られる。

 

 防壁の直前には堀(ほり)があり、城壁に密着することを許さない上に出入り口は巨大な木板(おそらく橋を兼ねる)で塞がれ、そもそも入ることすらままならない。壊すのに手間取る間、太矢でハリネズミにされるのは流石に辛い。

 だがこの防壁、完全にトンネルを塞いでおらず、上の方に人が立てるくらいの隙間がある。パラディン様が矢の中を突入し、その後ろへ隠れるようにオウレンが追いかけて、堀の手前で一巻きのロープを取り出して呪文を唱える。

 

「“ロープの奇術(トリック)”」

 

 唱えたのは昨夜も利用した、ロープ・トリックの呪文。

 この呪文を用いると ロープの上端が空中に固定され、その先が異次元空間に繋がっているのだが、登りきらない分には普通の上に繋がるロープとして利用できる。

 高さ5メートルほどのトンネルの天井に届くロープをよじ登り、防壁の上に飛び移る。岩の上で“光(ライト)”呪文の灯ったレイピアを引き抜けば、毛むくじゃらで平たい顔と大きな耳を持つ四人のホブゴブリンがこちらを仰いでいた。

 慌てて彼らが長剣(ロングソード)を抜こうとする中に飛び降りて、皮鎧の隙間を貫いて一人を刺し殺す。

 残る三人が私を三方から挟撃し、剣を振り下ろす。

 一撃目を素で躱し、二撃目は鎧で受けた。

 そして三撃目に消えずの松明を持った左手を翳せば、目に見えない盾が剣を食い止めた。―――“盾(シールド)”の呪文による不可視の力場の盾だ。

 

 私は一歩 横にズレて、僅かに立ち位置の近い二人の間へ手を振り、《炎の爆発》を引き起こす。5レベルになって術力が向上し、火力の上がった爆発は瞬時に回避行動を取った二体の皮膚を焼き焦がし、瀕死にするには十分だ。

 残る一体を斬り伏せて、防壁の木板を下ろす。仲間たちが防壁の内側に入るのと、増援のホブゴブリンの戦士たちが暗闇の向こうから現れるのは同時だった。

 

『人間を殺せ! 捕虜はもう要らん!』

 

 一際 良い高品質の鎖帷子(チェイン・シャツ)を着けたホブゴブリンの隊長が何事かを叫び、クロスボウを持った後衛に背を任せて、長剣を持った前衛と共に突っ込んでくる。

 しかし彼らが後衛から離れたところを、オウレンの唱えた“睡眠(スリープ)”の呪文が昏倒し、崩れ落ちる。

 更に後ろの異変に気づく間もなくエルフ神官の唱えた“祈祷(プレイヤー)”が私たちに幸運の恩恵を、そしてホブゴブリンの戦士たちには不遇を与える。

 左右に分かれて挟撃、あるいは回り込もうとするホブゴブリンの雑兵を私とパラディン様の二人で逆に迎え撃ち、それぞれを一刀で切り伏せる。いかに人間より多少 頑丈であろうと雑兵に苦戦することはない。

 

「“雷撃の手(ショッキング・グラスプ)”」

 

 だが、あのホブゴブリンの隊長だけは別だ。

 彼がロングソードの刃を指でなぞりながら、秘術の言葉を唱えるとその刃に青い火花が灯る……秘術呪文と武器戦闘技術を融合させた魔法戦士、黄昏の剣(ダスクブレード)による呪文注入の剣だ!

 その秘術の破壊的エネルギーを宿した刃は、見た目 鎧の薄そうな私を獲物と定めて 振り下ろされた。

 当たれば最悪、即死すらあり得る一撃は、私へ当たる前に不可視の盾が食い止めた。直後にロングソードは力場を強引に食い破るが、回避の間に合った私の鎧上を滑る。

 多少接触しただけでも、剣に宿ったエネルギーはバチバチと熱と火花を散らし、ダメージにならない僅かな痛みをもたらす。一撃でもあれが直撃すれば致命傷である……しかし、当たらなければどうということはないのだ。

 

 ホブゴブリンの雑兵たちを軽く蹴散らし、フリーになったパラディン様が私を脅かす魔法戦士の背後に回る。

 それに気づき、目の前のホブゴブリンの意識が散った瞬間に私は技を放つ。

 

「ハイローニアスよ、悪しき下僕を懲らしめよ!」

「“バーニング・ブレード”……“エメラルド・レイザー”!」

 

 パラディン様の悪を討つ一撃(スマイト・グッド)が私に夢中になるホブゴブリンを打ち、同時に私の必殺技がホブゴブリンの鎧の間隙を貫き、白熱する刃が内側から焼き殺す。

 致命の刃を振るうホブゴブリンは、逆に一瞬の火力によって倒される形となった。

 

 

 今なお眠りに陥るホブゴブリンたちにトドメを刺し、最初に受けたパラディン様のダメージに“治癒”を施しながら この先の戦いに備えて長めの強化呪文(バフ)を施す。

 トンネル奥が騒がしくなってきたが、敵は強力でないにせよ、侮れない相手だと分かったのだから今は準備が優先だ。

 

「襲撃者はホブゴブリンでしたね。ひょっとするとこの集落にはバグベアもいるかもしれません」

「秘術を修めた戦士がいたなら、他にも魔法を使うものもいるでしょう。独力で身につけられる簡単な技術には見受けられませんでした」

 

 強化を施した後、私が先頭になって慎重に罠を探りながらホブゴブリンの集落に繋がるトンネルを進む。

 防壁の先を暫く行くと小部屋があり、扉を開いた奥には家具類で構築された簡素なバリケードと、そしてやはり七体のホブゴブリン集団が待ち構えていた。

 クロスボウを構えたホブゴブリンたちの中には、先ほどと同じくダスクブレードと思われる精鋭が一体と、そして赤いローブを身に纏い、腰には呪文発動のための構成要素ポーチを巻いた術者らしきホブゴブリンの姿が混じっている。

 

 そのホブゴブリンの術者は入口を入ってきた私へ指先を向けて、秘術の言葉を唱える。

 

『“蜘蛛の巣(ウェブ)”よ』

「ふざけんな!」

「ぐっ!」

「んぬ……」

 

 紡がれたワードは“蜘蛛の巣”呪文のものだった。入り口を通過した私の背後を中心に視界を白く埋め尽くし、人間すら引っ掛けるほどの大蜘蛛の巣が私たちに降り注ぐ。

 なんとか足を絡め取られることを避けたものの、お互いの姿が白い糸の幕に遮られて見えなくなった。

 もっともこちらが見えなくなったのは敵も同じことであるのはこの強力な呪文の欠点だが……しかし敵はそれを承知の上で戦術に組み込むだろう。

 私は予想される射線を避けるべく必死に糸をかき分けて入り口から横に移動する。

 

『転げ、“火の玉(フレイミング・スフィアー)”よ』

 

 案の定 たった今 私がいたところを、通り道の蜘蛛の巣を燃やし尽くしながら猛スピードで転がる火の玉が通過する。

 この魔法の蜘蛛の糸は可燃性であり、このように火を浴びると溶けるように燃え上がる燃料と化すのだ。

 

「うアチィッ!」

 

 通り過ぎてそのまま入り口から外に転がっていった火の玉が誰かに直撃した。上がった声はパラディン様だ、比較的タフな彼に当たったのは幸いだろうか。

 火の玉が通り、蜘蛛の巣が焦げつきた通り道に躍り出た私は バリケードへ向かって接近。《炎の爆発》をぶちかまそうとする私だが、しかしその前にホブゴブリンのダスクブレードが立ちふさがる。

 

『“雷撃の手”の刃に怯えよ!』

「当たるか!」

 

 致命の秘術の刃を躱し、必殺技を返すが 頑強な肉体を持つホブゴブリン相手にこれ一撃で殺しきることは出来ない。そして、往(い)った道を復ってきた火の玉が私に飛びかかってくる。そうそう当たることはないが、ダスクブレードを相手にしながらこの狭い空間で対処するのは難しい。

 

「リリンさん!」

「来ましたね!」

 

 だが、“蜘蛛の巣”から立ち直ったパラディン様とエルフ神官が私の後ろに駆けつける。抜け出すのに手間取ってるのかオウレンは見当たらない。

 ダスクブレードの相手をパラディン様に任せ、私は後ろに下がり《炎の爆発》をぶち当てる。爆風と熱波に煽られた魔法戦士へ、パラディン様が二発目の善なる一撃を叩き込むことで昏倒した。

 

「“祝福(ブレス)”!」

 

 エルフ神官が呪文を唱え、小さな祝福をもたらす。火の玉を回避し、ダスクブレードの死に体を乗り越え、バリケードの直前に躍り出た私はクロスボウを構えるホブゴブリンたちを《爆発》で焼いて回る。

 羽虫を蹴散らすように雑兵は吹き飛んでゆくが、あのローブの術者ゴブリンだけはしぶとく爆発を避けて部屋奥の通路に逃げ込んでいった。できればこの場で仕留めたかったが、専業術者ほどの決定打が私にない以上、仕方あるまい。

 

 

 未だに蜘蛛の巣に囚われていたオウレンと戦士のお姉さんを救出し、軽く治癒を済ませて ホブゴブリンの後を追いかけた私たちは三つに分かれた通路に辿り着く。

 そして、その全ての道の奥、ぎりぎり光が届かない暗闇の先からホブゴブリンの雑兵による射撃が飛んできた。

 

「真ん中から潰します。 ここは私に任せて、一先ず防御に専念を!」

 

 雑兵たちの太矢は威力も精度も怖いものではないが、数を打たれれば当たりどころの良い一、二発は生まれる。それに防御の薄いオウレンが狙われると危険である。

 だから私は分岐路の一つに突撃し、奥に見えたホブゴブリン複数人をボンとまとめて爆殺、すぐさま取って返して別の路を進み爆殺、を繰り返す。低威力 無限リソースの《炎の爆発》の本領発揮だ。

 

 二分もかからずに全ての通路の奥に待ち伏せるホブゴブリンを爆殺し、私たちは適当に通路の一つを進んだ。そしてその先で、運良く 地下牢を見つけることが出来た。

 

 

---

 

 

「早(・)ま(・)っ(・)た(・)な」

 

 見張りのホブゴブリンを軽く張っ倒し、囚われた村人たちを助けたはいいが、参ったとパラディン様は後悔を口にする。

 救助された村人たちは助かったと口にするが、ホブゴブリンは恐らくまだまだ健在であり、ここからの脱出は容易くないだろう。

 それならホブゴブリンを粗方殲滅してしまおうか、と言いたいところだが、その最中に一旦 自由になった彼らがホブゴブリンの目に留まれば、「奴隷に抵抗の意思アリ」とその場で殺す可能性が高い。同じ人間である私たちが逆襲をかけた狙いくらい、簡単に予想つくだろうし。

 だからこそ、早まったなどと呟いたわけだ。

 

 村人たちのことは置いておいて、これからを相談する私たち。

 

「私たちが殿軍になれば、どうだ」

「その場合、先頭をどうします? アサシン・ヴァインが棲み着く危険な森です、帰ってきた道がまた安全と限らない。

 ケンタウロスたちの助力を得られれば解決しますが、他者を勝手に宛てにするのは良くないでしょう」

「自衛させれば良いのでは?」

「まさか。武器調達はともかく、ホブゴブリンと彼らでは力の差がありすぎる。彼らは戦士ではないのですよ?」

「アサシン・ヴァインにせよ、バグベアのような大物が出てくるにせよ、どちらも彼らで対処できるとは思えない。

 やはり先頭と殿(しんがり)、二手に分けるしかないでしょうか」

 

 行きはよいよい、帰りは怖いとよく言ったものだ。少人数でモンスターの集落に突入する行いは、むしろその帰路こそが苦難の道であった。

 まあ、だからこそ彼らの神様は私の助力を得よ、などと神託を与えたのだろうが。

 

「力の差を埋めれば良いのでしょう。お忘れですか、神託のことを」

「神託? 何のこと……まさか」

「これから向かう先の脅威で、私が助力となる。

 まさしく今の状況ではありませんか、神様は全くお見通しですね」

「村人たちに魔法を教えるというのか?」

「ええ、そんなところです。別に戦えれば術者だろうが戦士だろうがなんだって良いんですが」

 

 私は立ち上がり、村人たちにクラスを振り分けるべく、能力を見定め始める。パラディン様は苦い顔をするが、エルフ神官は納得したような表情を浮かべている。

 オウレンは我関せずといった風で、戦士のお姉さんは黙って私を手伝い、村人たちを仕切ってくれた。

 

 

 

 計22人の村人―――単純労働者(コモナー)たちは育ちが育ちなだけに、大した才能の持ち主はおらず、また既にコモナー・レベルを積み重ねており、レベルを更新できない者も半分いた。

 だが残ったうちの殆ど全員が呪文を使うのに最低限の能力を一つは持っていた。時間がない以上、魔術師(ウィザード)や神官(クレリック)といった呪文を準備するのに時間のかかるクラスを省き、魔法使い(ソーサラー)や黄昏の剣(ダスクブレード)、あるいは超能力者(サイオニック)クラスといった奇天烈なクラスまで、強敵にも通じうる魔法的能力を持つクラスを中心に割り振って行く。

 更に戦い方と簡単な戦術まで教えようとしたものの、終わる前にホブゴブリンに動きがあった。

 

「すいません、時間をかけすぎました」

 

 ぞろぞろと通路からやってきたのは、ホブゴブリンに追い立てられたゴブリンの集団だ。ホブゴブリンの奴隷、督戦隊だろうか。

 ゴブリンはその人数で地下牢部屋になだれ込んでくるが、パラディン様とお姉さんが通路間際でゴブリンを押し留め、そこにオウレンと私が《炎の爆発》を打ち込む。通路の奥からは後衛のホブゴブウリンがクロスボウや投げ槍(ジャヴェリン)で射撃して来たが、前衛のゴブリンが壊滅したことであっさりと退いた。

 

「居場所が割られた。戦力が集まる前に逃げるべきだ。殿は私とヴィリルが務めます」

「では先頭は私とオウレンが。ローラさんは村人の誘導と指示をお願いします」

 

 今更ゴブリンやホブゴブリンの雑兵程度に私がやられることはないが、少しずつダメージは蓄積するし、オウレンや村人たちは無事に済まない。

 戦力を二手に分け、私は洞窟脱出までの道のりの障害排除を担当した。

 

 分岐路には行きと同じくホブゴブリンが待ち伏せていたが、やはり雑兵であることから《炎の爆発》で難なく数を減らす。

 そして道を開けたところでパラディン様、お姉さんに殿を任せ、私は外への道のりを先行する。

 

『グオオオ! 人間め、俺のアリを盗み出すことは許さんぞ!』

 

 バリケードのあった部屋はまだ魔法の“蜘蛛の巣”が少し残っていた。

 しかし部屋の中央にかかる蜘蛛の巣は焼き払われ、そして人間より一回り大きなホブゴブリンよりも更に大きく、ボサボサの“毛”皮を身につける熊のように大柄のゴブリン種。バグベアが数体のゴブリンと共に私たちを待ち構えていた。

 

 私を見るやバグベアは手下をけしかけ、私を包囲させる。そして自分はゴブリンの反対側から挟撃を仕掛け、その棘棍棒(モーニングスター)で私の鎧が薄い懐を狙おうとする―――盗賊(ローグ)レベルを取得した、急所攻撃の動きだ。

 だがその攻撃精度はホブゴブリンのダスクブレードとせいぜい同程度で、火力は劣る。バグベア自身はホブゴブリンを更に強大にしたような種族だが、流石にそれだけでは極まった魔法戦闘技術の驚異は上回らない。

 

「オウレン、後ろ側を焼いて!」

 

 私の後ろにつくオウレンに声をかけると同時に、横へ身を反らしつつ前方のゴブリンごとバグベアを《爆発》で焼く。直後、私の隣を高熱がかすめるが、後方のゴブリンはその火力を浴びて焼け焦がされた。

 ローグ・レベルから“身かわし”を習得していたらしいバグベアは私の《爆発》を受け流し、完全なダメージ回避に成功したようだが、私の不意を突くために必要な手下たちは全滅し、残るはちょっと毛が生えた程度の戦闘技術を持つバグベアが一体。ローグは仲間や技術を活かして戦うクラスなので、真っ向勝負では大したことはない。

 

 奴もそれを分かってて、〈軽業〉により私を回り込む動きを見せ 背後を突かんと……いや、そのまま後ろへ抜けて行った!

 

「しまった、オウレン!」

 

 勝機がないと見るや、勝ち目を捨てて殺せる相手を殺しにかかる。大局的に見て 正しい判断だが、実際にされては堪ったもんじゃない。

 なんだかんだ高い筋力を持つバグベアの一撃は、ローグの急所攻撃を用いずともオウレンを殺しかねない。秘術呪文の妨げになるため、鎧を着けられないオウレンは攻撃を受けることが出来ない……が、彼女は唯一、ノーム種の素早さと、小柄な当てにくさという防具を身に着けている。

 無理な突破を行ったバグベアの無理な攻撃は回避される。

 そして後ろから私の追撃を受け、よろめいたところにオウレンの“魔法の矢(マジック・ミサイル)”による必中の反撃を受けて撃沈した。

 

 邪魔な“蜘蛛の巣”を《爆発》で軽く焼き払い、道を広げ、私たちは先に外へ向かう。

 先ほどのバグベアの一団だけが待ち伏せだったようで、洞窟の入り口に辿り着くまで妨害はなかった。

 

「オウレン、あなたは戻って彼らに報告を」

「ん」

 

 安全を確保した私たちは更に二手に分かれ、私は少年と騎士たちの合流に、オウレンは戻って殿の援護に動いた。

 

 

 

 まもなく洞窟からは戦士のお姉さんに誘導された村人が飛び出してくる。

 そこへ更にパラディン様ら殿の三人が続き、そして彼らを追いかけつつジャヴェリンや矢を射かけるゴブリン、ホブゴブリンの衆。

 しかしパラディン様が洞窟を抜けたタイミングでお姉さんが即席ソーサラーの村人に指示を出す。村人が呪文を唱えると、その指先から“油(グリース)”が噴出し、洞窟入り口の足場を悪くした。

 なだれ込んでくるゴブリン、ホブゴブリンたちが足を滑らせ、立ち上がろうと苦戦するうちにその“油”は消え去るが、その一瞬で殿の三人は距離を稼ぎ、洞窟からの脱出に成功した。

 

 しかし私たちがホブゴブリンたちを追いかけたのと同じように、ベッタリと残る多数の人間の足跡はホブゴブリンたちの《追跡》を容易とする。

 洞窟は脱出しても、私たちの救出活動はまだ全然終わっていないのだ。

 




・黄昏の剣(ダスクブレード)。従来のD&Dの魔法戦士はウィザードやソーサラーら秘術術者と、ファイターやレンジャーの前衛クラスの二つを複合取得した(マルチ)クラスだったが、この中で後期のサプリメントに掲載されたこのクラスは一クラスで魔法と戦士を両立するクラスである。
 無論、専業術者ほどの応用的な呪文発動能力や、戦士ほどの単純な基礎戦闘能力、そしてマルチクラスした魔法戦士が強化呪文を重ねた高ステータスによる暴力は持たないものの、しかし低レベルから魔法戦士を持ち、こと魔法と近接戦闘力を絡めた瞬間風速に関してはそれらを越える。特に「秘術呪文注入」で攻撃呪文を込めた一撃を叩き込めば、格上モンスターだろうと瞬殺することすらある。
 反面、防御力は秘術術者なので重い鎧に制限がかかる上、特に能力によるサポートがあるわけでもない。アタッカーとしては不足ないが、前衛としては考える必要がある。
・ゴブリン。ご存知 小さくて数が多く、そして人間に比べれば貧弱な肉体を持つ人型モンスターだが、全くの雑魚ではない。
 そして格別 頭が悪いわけでもなく、奇襲や待ち伏せからジャヴェリンなど飛び道具を連発してきたり ずる賢い行動も取ってくるため、防御力の低いレベルだとウィザードやソーサラーがよく穴だらけになって死んだりする。
・ホブゴブリン。ご存知 ゴブリンの近似種だが、別に上位種とかではない。人間より若干 優れた体格を持つものの、脳筋の代名詞 オークに比べるとパワーはやや劣る。
 だがオークと違って特段 頭が悪い種族ではなく、また秩序にして悪(ローフル・イーヴル)で組織だった行動を行うため、オークよりも戦略的であり、専業術者も多い。
 ……もっとも、オークやゴブリンほど突出した能力を持たないため、個々の脅威度は低いとも言えるが。
・バグベア。ゴブリンのような混沌にして悪(カオティック・イーヴル)の残忍性に、ホブゴブリンよりも更に野蛮性を増した肉体を持つ。
 だが好むのはゴブリン族 お得意の高い隠密能力による待ち伏せ、奇襲、そして暗殺(アサシネイション)である。
 クラス・レベル持ちバグベアの奇襲が決まればキャラ一人二人の命を奪えるだろうが、パーティ全員を全滅するには物足りない。


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