ホブゴブリンの巣穴からケンタウロスたちの領域までの道中、森の中を行くパラディン様御一行、with救出された村人。
洞窟を抜け出してから三十分は経ったが、ホブゴブリンの先行隊が追いついてきた。
「尾けられてますね」
見えない地形の向こう側を走って回り込む獣の足音と、ハッハッと聞こえる犬種の吐息。恐らくウォーグ……狼から派生した種で、言語を解する程度に高めの知性を持つ魔獣のモンスターだ。ゴブリン種がよく猟犬や乗騎にするが、ホブゴブリンも例外ではない。勿論 鼻も利くので、足跡の代わりに匂いをたどって《追跡》も可能だ。
「う、うわっ、狼だ!」
グオゥ、と私たちが行く前方で唸り声と共に、真っ黒い毛皮と凶悪な容貌を持った三頭のウォーグが現れる。それと同時に殿の方でジャヴェリンが射掛けられた。挟み撃ちだ。
「オウレン、少し下がってて。……ローラお姉さん、こちら側を中衛で守ってください!」
私は村人たちを追い越しつつレイピアを引き抜く。ウォーグは動物系モンスターの例に漏れず、そこそこの攻撃力に高体力など、高い肉体スペックを持つ。一体だけならまだしも、三体は流石に手に余る。
反面、心術などに代表される意思セーヴ……精神面を攻める呪文には弱いのだが、生憎 その手の手札はオウレンの“
『オウレン、村人に指示を! “
『分かった』
だが、幸いにもここには魔法使いが数名いる。知恵の良いウォーグはそちらに手を回す可能性も高いが、
洞窟内でかけていた呪文の守りは、とうに持続時間を超えて失っている。“
一体に火炎の刃を当てるが、倒しきれず残る二体に背中へ回り込まれ、包囲して反撃の噛みつきが飛ぶ。一発の牙を避けるが残り二発に噛みつかれ、足を取られそうになるも辛うじて食いしばる。この世界の犬科は足を掬い、転ばせてから仕留めるという簡単な戦術を取ってくるのが常だ。
ちらり、とオウレンの方に視線をやる。術者の村人が集まってきたのを見て、目標を取りやすいよう一歩横に逸れる。
「れ、“
「“
「“
私の背後に回り込んだ、無傷なウォーグ一体に様々な呪文と攻撃が飛ぶ。力を弛緩させる死霊術の光線が飛び、純粋なエネルギーの火力のこもった光線が毛皮を焼き、そして足元によく滑る油が塗布される。本命の“衰弱光線”は外れ、エネルギーの光線だけが命中し若干のダメージを与えることでウォーグの気が逸れた。
そんな村人たちの前に鎧を纏った戦士のお姉さんが立ちはだかるが、知恵ある獣のウォーグは思考する。目の前の獲物を食い殺すのが先か、あの邪魔な
この魔狼たちは後者を優先したようだ。私を無視して三体のウォーグは後ろへ突破し、二体がローラさんの武器をすり抜けて衰弱光線を放った村人へ噛みつこうとする……が、その顔に虹色の眩しい光粉が放出され、ウォーグの目を焼く。“
意識を焼かれ、無防備となったウォーグに、その飛沫を放った村人は持たされた長剣を振るう。丈夫な毛皮に若干手こずるものの、気を失った相手に
村人たちの数少ない呪文リソースがまた少し削られたが、追跡担当のウォーグの数を減らせたことは大きい。
殿の方のホブゴブリンとの遠距離戦はまた続いてるようで、ローラさんとオウレンに前方を任せて少し加勢に向かう。距離を置きながらチクチクと削ろうとするホブゴブリンを逆に
そんな奴らとは別の方向、側面から矢が風を切る音がした。慌ててそちらを振り向けば、弧を描く矢がホブゴブリンたちの方へ飛んでいき、今撤退しようとしていた奴らを射抜いていく。
『森の同胞よ、善行を果たしたようだな。助けは不要だったか』
現れたのは白羽の矢一族のケンタウロスたちだ。追ってきたのか、様子を見ていたのか、どちらにしてもこのタイミングの登場はありがたい。
『いいや、これだけの援軍を見れば、ホブゴブリンどもは追撃を考え直すだろう。
そして、我々の突入で兵士と戦士を殺し、戦力を失った今こそ絶好の攻め時でもある。
『承知。しかし心遣いだ、森を抜けるまで我らも見送ろう』
村人たちは乱入者に驚いたが、彼らがホブゴブリンの敵で私たちの味方であると知って緊張を解き、そして気を抜いた拍子に大勢が疲れや心労で倒れたため、今日はこの少し先の場所で野営することになる。
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休むのはいいが、村人22名分の食料の手持ちなど持っているわけがない。ケンタウロスたちも多少は融通してくれるそうだが、全員分を甘えることは出来ないため 狩りで食料を調達することに。
とりあえず腹さえ膨れればいいだろうと、狙いは動物の大物だ。このあたりには
さほど時間をかけずに
このワゴン車に匹敵する体躯と馬力の持ち主たる大鹿は、私が相手したモンスターの中で最大の大物にも関わらず複数体で群れている。
一応、草食動物なので距離を取っているうちは襲ってくることはないが、一度 警戒させるとスタンピードでこちらが轢き殺されるだろう。だがあれだけの大きさの鹿なら、一体狩れれば村人たちの食料を賄うのに十分だ。
危険ではあるが、私たちはあの大鹿を狙うことにした。
「“
「“
風下、距離ぎりぎりからオウレンとエルフ神官がタイミングを合わせて同時に呪文を発動する。
群れを離れた大鹿の一体に爆発する火球が飛来し、とっさに回避しようと持ち上げた足へ蔦植物が絡みつく。
『おおおおお!』
『があああ!』
大鹿には劣るが、人より大きなケンタウロスたちが雄叫びを上げて〈威圧〉し、そして弓矢を注ぐ。
自分たちより小さな彼らに対して、逃走心よりも敵意を奮い立たせた大鹿たちは鼻息を荒くするが……だがそんな彼らの目の前に、周囲の木々を通り越す高さの巨人の姿が現れる。
それは5倍近く巨大化した、私の姿だった。
手に持ったモーニングスターを掲げ、振り回すと大鹿たちは自分より大きな巨人の姿に怯え、逆の方向へ逃げていく……蔦に足を取られた仲間だけを置いていって。
ホントのところ、それは私が巨大化したわけではない。実際に大きくなったのではなく、“
そうして上手く大鹿を一体、孤立させたところで、大鹿はその馬力により“絡みつき”の蔦を無理やり引き剥がして、範囲外に出て逃走を始めようとする。
私は幻影呪文の維持を打ち切って、足を止めるべく次の呪文を唱える。
「“
突如として大鹿の周囲を浅い霧が取り囲み、獣皮に冷たい冷気がまとわりついて体熱を奪う。この死霊術のエネルギーによる冷たい霧は範囲内の生き物へ僅かな冷気ダメージを与えると共に、必ず疲労させる効果がある。
疲労すれば足の速度が鈍り、鹿の足に前衛が追いつけるようになる。パラディン様が、その使命のために派遣された特別な
タフな巨大鹿はパラディン様に一度二度切りつけられただけで倒れることはないが、疲労した足では追い立てる彼らから逃げ切れない。
逃げられないと見るや大鹿は足を止めて大角を振り回しパラディン様を迎え撃つが、そうなるとケンタウロスたちの矢や
ケンタウロス3名がかりでなんとか巨大鹿を水場まで持ち運び、血抜きした。血液分の重量の抜けた巨大鹿はそれでも重いものだったが、ケンタウロスの大きな皮鎧を作るのに十分な毛皮を得られたと彼らは喜んで運搬を担当してくれた。“火球”や《炎の爆発》でだいぶ焦げ付かせたので、若干申し訳ない気持ちになった。
村人たちを救出する冒険は大変だったが、それなりの実入りを得られた。
ダスクブレードのホブゴブリンが使っていた武器防具は見るからに高品質だったので、脱出時に村人たちへ幾つか預けたのだが、後で確認してみると盾と鎧が魔法的な強化を施された高級品だったことが分かる。
加えて経験点も美味なもので、私はついに6レベルに達した。村人たちの休憩に合わせて即座にレベルアップを行い、
カメレオン、“なりすまし屋”と評されるこの特別なクラスは
上級と言っても、従来の基本クラスより偏った特徴を持つという意味であり、必ずしも上回る能力を得るわけではない。このカメレオンは鍛えた〈変装〉技能により、日毎に扮したクラスの能力を得る特徴を獲得する、広く浅く手を伸ばす「小器用」に特化した上級クラスである。
「“
「……信仰呪文なのに“奇術”? どうやって使ったの、それ」
その中に、信仰術者と同様に信仰呪文を授かり、発動する能力がある。
本職に比べれば使用できるレベルに限度はあるが、授かる信仰呪文のクラスに制限がないため、クレリック、ドルイド、果てはパラディンやレンジャー用の信仰呪文を授かることが出来る。信仰呪文なので私が元から持っているアーキヴィストの方で学習することも当然、可能。
「世の中には信仰によって魔法を唱える魔術師もいますから、
「そう……」
「か、齧れるだけで本職には勝てませんよ」
勿論、信仰呪文であれば基本クラスに限らない。
という種があるのだとオウレンに伝えると、彼女は仮面の向こうで悲しげな目を見せた。流石に本職を上回る術力は得られないので、悲しむ必要はないのだが。
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翌日、村人全員が食べて尚余る鹿肉を手土産に、私たちはケンタウロスの集団と別れて村の方角へ帰還する。
行きと同じくレンジャーの少年が先頭に、私がアシストしながら村の方角へと戻る途中、反対側から伝令に行ったはずの神殿騎士一名が、見慣れない戦士の部隊と共にやってきた。どうやら彼は伝令の役目を果たし、砦から先行の偵察を連れてきたようだ。
「襲撃者はホブゴブリンでした。
討ち滅ぼすとは言いませんが手痛いダメージを与え、ケンタウロスたちの助力もあって追走を振り切り、こうして帰路についている途中です」
「なんと、流石は聖騎士様とそのお仲間方。本来 人民を守るべき兵士として感謝の気持ちが絶えません。
であれば、この先は我々にお任せください。帰るべき村を失った村人たちは責任を持って守りましょう」
状況を話し、村人を彼らに託す。無駄な面倒事だったが、終わってみれば見返りはあったので文句はないだろう。
ただ、救出に関して私の問題はまだ一つ残されているのだが。
「は、村人たちが魔法を……?」
「魔法使い殿。魔法とはあのような村人にも使えるものなのでしょうか?」
村に戻り、残した馬車や坊主らと合流。壊れた家屋から使えそうな物品を回収した後に、私たちは本来の道の先にある砦へ向かうのだがその道中で砦の兵士たちは村人が魔法を使って魔法の“光”を灯したり、“奇術”で物を運んだり料理を温めているのを見て 驚きを隠せない。
庇護者と聞いていたはずが、魔法を使いこなす様を見て とてもそうは見えない兵士たちがどうやって得たかと尋ねれば、当然「パラディン様のお仲間の、女の子から教わった」と答えた。まあ一度与えたものは後から取り上げられないので仕方ない。
家畜を扱う〈動物使い〉技能など、
こうなるのも予想出来たが、困ったものだ。
「個々人の才能によりますね。
あのような、とは言いますが何かしらの魔法の才能を持つ人は案外 いるものです。
武器を振る力がなければ兵士になれないよう、魔法を使うのに最低限 必要な才能はありますが」
「それは我々にもあるのですか」
「ええ、貴方もきっと一つ二つは持ち合わせているでしょう。ですが今はパラディン様のお務めに同行している身。
村人には緊急の自衛手段として教えましたが、申し訳ないことに貴方たちを見る暇はありません」
と、その場では無理やり断った。しかしこの面倒事は砦に到着して再開される。
ようは神殿であったことの繰り返しなのだが、なんせ神殿と国では毛色が違う。国は手段を選ばないのだ。
「近辺にてオークの軍勢が動きを見せております。パラディン様方には今しばし留まっていただきたく」
そう語る砦の司令の目は私を捉えていた。ああ、めんどくさ。
リリン 人間(human)の女性、ゲシュタルト・アーキヴィスト6Lv/ファクトタム3Lvソードセイジ2Lvカメレオン1Lv
オウレン ウィスパーノームの女性、ウーイァン6Lv
アルベルト ハーフエルフの男性、パラディン6Lv
アローナ神官(ヴィリル) ハイエルフの女性、クレリック6Lv
戦士のお姉さん(ローラ) 人間の女性、クレリック2Lvファイター2Lv
ハイローニアス神殿騎士×5人 人間、ファイター2Lv (+ヘビーウォーホース)
他省略
・上級クラス(prestige)。基本クラス・レベルを高めた先で、従来の能力を昇華させたり、あるいは別の形で伸ばすためのクラス。「上級」はクラスに就くための難易度を意味し、決して基本クラスを上回ることを意味しない。
影と親しくなり、隠密を補助する「シャドウダンサー」のように一つの能力を特化させたり、秘術呪文発動能力とファイターの優れた戦技を並行して伸ばす「エルドリッチ・ナイト」のように複数の基本クラスを同時に成長させるものや、
・「カメレオン」。変装技術を鍛えつつも、様々なクラスへの見識を深めることで、ついに外面に中身を追従させるに至る「変装屋」の上級クラスである。
一日に一度(レベルが上がれば数度)、扮する専攻分野を選択し、ファイターの戦闘技術やローグの隠密・知覚能力、秘術や信仰の呪文発動能力などを身につけることが出来る。個々の能力は流石に専門家に負けるものの、呪文の威力だけは専門家を上回ることもあるため強力な上級クラスの一つとされる。
また、本文で触れたように扮する呪文発動能力はクラスを問わないため、パラディンやレンジャーなど呪文が本職でないクラスを本来の持ち主より巧みに使いこなすことも出来る。そして様々なサプリメントに載っている上級クラスすら使うことが可能なため、環境次第でとてつもない悪さをする。というか既にし始めている。
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……なのだが分解しすぎたあまり、ウィザード/ソーサラーが唱えられる呪文を習得する信仰術者、というチグハグなオプションを選択できてしまう。
原型クラスを用いた環境では通常の基本クラスを「使う