パラディン様が交渉に骨を折った結果、ようやく彼らは自らの境遇を語る。
彼らはわざと地下を旅していたのではなく、旅するしかなかったのだ―――逃走中の身であるのは思った以上の状況だったが。
「奴ら、ドゥエルガルは我らの国を襲った。
狂気を引き起こす巨大な黒い
苦々しくも語るドラウの戦士に受け答えするパラディン様をさておいて、術者の私たちは後方で内容を精査する。
「粘体ですか。ケイオスビースト? しかしあれがドゥエルガルに率いられる性とは思えませんね……」
「アンバーハルクの見た目を偽装した、というのはどうじゃろのう」
「地下に詳しいドラウなら、アンバーハルクだと誰かが気づく。
「確かに奴らは狂気を孕んだ生き物ですが、狂気を引き起こすというには弱いでしょう」
自然と秘術、信仰と地下に詳しい知識人たちで口々に意見を出し合うが、狂気の状態異常を引き起こす粘体クリーチャーと聞いてもピンと来ない。
ケイオスビーストは混沌の世界、リンボからはみ出した来訪者で、全く同じ形を取らない不定形な様は粘体にも見えるだろう。包み込んだクリーチャーを自らの仲間入りにする変質能力を有するが、しかし狂気を引き起こす力は持たないし、己以外の全てを襲う動物的思考は容易く従えられるものではない。
一方でアンバーハルクというギザギザの鋏のような牙を持つ大型の二足歩行する昆虫のような姿のそいつは、見たものを混乱させる魔眼の凝視を持つ。しかし粘体という見た目の話に反するし、姿を幻術で誤魔化していたなら凝視が機能しない。そもそも同じ地下の生物ならドラウの誰かがアンバーハルクと感づくだろう、という反対的な意見が上がった。
次に挙がったのが
かろうじて可能性が残るのは、
脳内に写る数々のデータから該当する特徴を持つクリーチャーを探すも思い当たらず。姿を偽装しているか、よほどのマイナーモンスターなのだろうか。
狂気そのものの大半は精神作用によるもので、“
「頑固な元同胞を討つのは我らの役目である、戦いに異論はない。
しかし我らは寡兵、汝らの国を取り戻すまでは敵わんじゃろう。それに……」
「例え悪に生まれようと、助けを望む声があるならその求めに応じましょう。それが善行。
私の剣と盾は、助けを必要とする者のためにあります」
「……分かった。頼む、我が街を襲ったドゥエルガルどもから同胞を救う力を貸してくれ」
パラディンが悪に手を貸すことは許されない。彼らドラウの街をドゥエルガルから取り戻すような作戦は、彼らが支配者として舞い戻るための企みになってしまうだろう。
しかし生来の悪のものにとっても、同族は助けるべき相手。そこは属性に関わらず、共通する思い。
善に通ずる行いでもあるため、パラディンは喜んでそれを助けるだろう……けして油断は出来ないが。
そんな利益がないのによくやるなと思う私は、ひょっとすると邪悪に寄ってるかもしれない。
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ドラウ救出の前に、ローパーに襲われたドワーフの回復、およびドラウたちの万全な治療には少々時間をかけねばならない。
加えて元ドラウの街へ潜入する準備が不足していることもあり、まずは避難先の確保(とレベル上げ)を兼ねてドラウと
大昔、クオトアがドラウへ攻撃し、手痛い報復を受けたことでドラウにのみ友好的な関係を(表面上は)築いている。潜在的な敵対関係にあるが、アンダーダーク中でそのような関係など珍しくないこともあり、避難先としてはマシな方に違いない。
ドラウの道案内を受けてアンダーダークを更に地下へ進み、水路の川岸に沿って集落を目指す道中でドワーフ似のモンスターと遭遇した。
「デロじゃ! おのれ、貴様らまでこんなところにおったか!」
「我々は随分とドワーフに縁がありますね……ってああ、オウレン! 誰か捕まえて!」
出会い頭に“
殺戮と同じくらい無意味なまでの拷問を非常に好み、特にデロの秘術術者は弱体化や行動を縛る呪文を好む。しかし負傷中のドワーフを下げ、前を行く術者過多の私たち一団に心を攻める呪文の効き目は悪い……はずなのだが、実は精神力の低いオウレンが引っかかり、混乱の末に恐怖に駆られたのか反対側へ逃走する。
後方にいたドワーフたち(とドラウ)にオウレンの捕縛を任せ、後方に見えるデロのソーサラーを捕らえるように“蜘蛛の巣《ウェブ》”を引っ掛ける。モンスターとはいえ筋力のないデロには効果覿面だ。
リーダーを捉えられ、ついでに“蜘蛛の巣”で退路を塞がれたデロたちは“
さんざん暴れまわってようやく混乱の解けたオウレンと共に、ついぞ“蜘蛛の巣”から抜け出せなかったデロのソーサラーを《爆発》で焼き出して、彼の狂気に終わりを告げる。
ソーサラーが身につけていた魔法の下級アイテムの他に毒瓶を幾つか得たものの、そちらはパラディン様の一言で廃棄された。さらば金貨百枚余。
翌日、筋力を吸われた戦士の衰弱が完治し、今日中にはクオトアの集落につくだろうとドラウの説明を受けながら祈祷書を開き、本日の呪文を用意する。
デロのソーサラーの経験点でレベルアップを果たしたことで、新たな呪文の活用法を生み出した私は今まで以上の能力を身につけた。
今までと違い強化呪文を多めに用意した上で、準備し終えるや否や次々に発動する私を見てオウレンは訝しむが、理由を説明すると納得した。
「今日はあれを一人でやらせてください。試し切りしたいので」
集落に向かう最後の道中に現れたイネファブル・ホラー、“絶句する恐怖”の名を持つ吸血モンスターたちを前にそう言い残して、一人飛び出して姿を晒す私。
孤立した私にへイネファブル・ホラーたちは背に生えるコウモリの翼を広げ、手から吸血血管を伸び縮みさせながら当然のごとく襲いかかるが、不可視の“盾”が攻撃を食い止める。
怪訝そうな表情を浮かべるホラーのうち、一体の背後に炎が揺れる。
不意打ちかと気を散らつかせた隙に繰り出された反撃のレイピアは、ニヤリと笑みを浮かべるホラーの分厚い筋肉と皮に止められた―――かと思いきや、まるで幻のようにするりと突き抜け、しかし貫いた刃は本物であり、穿った急所から更に炎を吹き上げて内蔵を焼いた。
何、と驚愕の顔を浮かべながら絶命したホラーに残りのホラーは
だが、それら猛攻撃全てを軽く凌いで1体、また1体とあっという間に串焼きにした私はフッとレイピアの血を払い、振り返って戦果を誇るように得意げな笑みを浮かべた。
戦士としての決定力に悩んでいた私は、予定を繰り上げて
これとカメレオンの呪文調達を組み合わせることで、“
ここしばらくは《爆発》を頼りに避けられる呪文使いとしての立ち位置だったが、これでようやく戦士としての立場を取り戻しただろう。
……しかしそれはそうと無鉄砲に突っ込んだことを怒られた。
現時点で“
ごめんて。後日もうちょい伸ばしますから。
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水路を辿るようにアンダーダークを下り、たどり着いたのは石を積み上げて泥で固めた原始的な建築物の集まる集落だった。
泥の門を守るクオトアはドラウの姿を見る槍をおろし、問いかけるようにげこげこ鳴く。
『ぐぉ……ドラウ、何のぉ御用、ですぅ?』
『我が同胞に会いに来た。それと武器の調達に数日滞在する。我らを入れろ』
『なら、入れて、やります』
私たちの誰にも分からない言葉―――地下共通語―――でドラウとクオトアが話す。
騙される危険があるが、交渉が成立するまでドラウにとってもリスクのある裏切りだと信じる他ない。
開かれた石門へ、ドラウに続いて私達も入った後ろでまた門は閉ざされた。
ドラウのリーダーの案内により、比較的 泥臭さのマシな他所者向けの宿にたどり着き、そこで彼の同胞と出会う。
丁度クオトアの集落を訪れていたこのドラウの商人はドゥエルガルの侵略を回避したものの、肝心の戻る街がなくなったことで予定が狂って、足踏みしていたらしい。
ドラウ向けの道具の幾つかを処分することが出来て喜ぶ彼はさておき、ドラウは私たちに予定を告げる。
「この街には、滞在しているドラウの同胞がいる。彼に会って宿を取り、私たちは武器を得る。
お前たちも備えが必要なら、五日以内に納めろ。五日後またここを発ち、同胞を逃がしに街へ向かう……しっかり付き合ってもらうぞ」
「潜入の主力は私になりそうですがね。とはいえ今朝見せた通り、手札が増えたので潜入は私がなんとかします。
救出に関しては一部強行突破となりますから、そちらに備えていただければ」
「いいだろう。だが、捕まっても助ける保証はない」
今朝のデモンストレーションはただの自慢ではなく、経験値の独り占めが狙いではあったが、新技披露が主目的だ。
呪文が半永続化することで“
ドラウたちの逃し方はまた考えねばならないが、幸いなことにデロたちの戦利品に丁度良いものが混じっていた。
「“
デロのソーサラーが持っていた魔法のアイテムは、どれもそのまま使って文句のつけようがない実用品ばかり。
小剣と革鎧は売っぱらったが、指輪は単純に防御力を高めるものでそのまま使えるし、特に魔法の物入れ袋は自作を検討していた必需品であり、買い取らせてもらった。
重さ100キロ少しまでの重量を無視して運べるこの背負い袋は、物体のみならず生物すら入れることも出来る。場合によっては死体とかも。
窒息の危険はあるが、途中で口を開けて休憩を挟めばドラウの生存者の一、二人を運ぶのに役立つだろう。思わぬ収穫である。
「ヴィリルさーん、一発“
道具の整頓を終えた後、言葉の通じないクオトアの集落で翻訳呪文をもらいながら祈祷書に新たな呪文を記す材料の買い出しに向かう。
聞き込みによるとこの集落で魔法の材料を扱っているのはクオトアの鞭令―――クレリックだけなので祭殿に赴く道中、クオトアの集団に絡まれる。
話があると言って私を連れていこうとし、素直に従ったところ彼らは私を縛り上げんと襲ってきた。
「まだやりますか? 私はそちらの鞭令に用があります、素直に聞いてくれれば剣は収めましょう」
とはいえ以前の私でも囲まれたくらいでクオトアごときにやられやしない。ましてや今は、張りっぱなしの“盾”で
全ての雑魚を気絶させ、残るクオトアの鞭令を威圧すると彼は降参した。“
数百金貨の出費が半額で済んだのは美味しい。
「レベルが上がったばかりなのに、もう次のレベルまで半分。
やはり収入はソロで独り占めが最も捗る……っと、おや、あれは女性さん」
買い出しを終えて宿に戻ったところで、私と同じく外へ出かけようとするドラウたちを発見する。ローブで身を隠した女性ドラウと、ドゥエルガルにぶっ倒された戦士の二人組だ。
「ここで魔法の材料は手に入ったのか?」
「ええ、失礼な鞭令と可愛そうな召使いたちがいたので、お世話を焼いたお礼にたんまりいただいて来ました。
必要なら、あちらの方の石積みの建物にお邪魔すると良いでしょう」
「そうか、では我々も訪ねてみるとしよう。ではな」
その背中を見送ろうとしたのだが、取り巻きのドラウから声をかけられる。
術者でない彼が魔法の素材を必要とするわけがないので、秘術師の彼女の代弁なのだろう。
少しは心象が良くなることを期待しつつ買い物先を教えてやると、彼らは軽い礼をして去っていった。とはいえ悪人なので、十中八九 タダで情報を得られて儲けものだとか思ってるのだろうけど。
(まあ、ドラウの体はインテリ系エルフ寄りなだけに、ムチムチで豊満からは程遠い、ひょろがり体型なんですけど。
でもダークエルフというブランドはやっぱり欲しいものです。だからこの欲望は体目当てではないのだ……なんてね)
ローブ越しに伺えるボディラインから彼女の体型を想像しつつ、私は宿屋に戻り新たな信仰呪文を祈祷書に書き写す作業に戻る。
お決まりの“
リリン 人間(human)の女性、ゲシュタルト・アーキヴィスト7Lvメタフィジカル・スペルシェイパー1Lv/ファクトタム3Lvソードセイジ3Lvカメレオン2Lv
オウレン ウィスパーノームの女性、ウーイァン6Lvインカンタトリックス1Lv
アルベルト ハーフエルフの男性、パラディン8Lv
アローナ神官(ヴィリル) ハイエルフの女性、クレリック8Lv
ノードリス ドワーフの男性、ローグ5Lvトラップスミス2Lv
ドラウのリーダー、男性、???(計10Lv)
ドラウの女性、ウィザード?5Lv
その他ドラウ ファイター3LV
他
・デロ。ドワーフに人間を合成したような、あるいは邪悪な神の手により実際にそうされたのかもしれない、キメラの人怪。
常に狂気に駆られており判断力は低いが、呪文抵抗に加え、その狂気の意思を精神攻撃で揺らすことはとても難しい。
拷問や苦しめるために幻術の疑似呪文能力や死霊術による弱体化を好む。元のドワーフに反して魅力の高い術者寄りのモンスターであり、特にソーサラー・レベルを持つデロは「
・呪文修正特技。呪文を準備・発動するに際して本来より高い呪文レベルとして唱えれなければならなくなるが、その代わりに呪文の構成要素を省略したり、一定の効果を追加したりする特技。
例えば“
特に
・《
ただし適用するには呪文レベルを6高いものとして準備・発動しなければならず、本来は高レベルになってようやく1~3レベルの呪文をかけっぱなしにできる特技。
だが魔法戦士向けに短時間だけ自己強化する強力な呪文、および呪文修正特技の踏み倒し・軽減手段が共に追加されるにつれて戦闘力のインフレを引き起こした。
習得する前提条件はないので、非呪文使いが取って利用することも稀によくある。
・“
自身を対象とするため《呪文24時間化》の対象。これにより、生来の皮や鱗の防御力に依存する大型モンスターには実質必中となる。
・“
ただし既に戦士並の命中力を持つリリンには前者の効果は薄い。“
・メタフィジカル・スペルシェイパー。肉体
具体的には能力値に対する魔法的なダメージを引き起こすことで呪文修正特技のレベル上昇コストを踏み倒す。このダメージが呪文によって治癒しづらく、強力な呪文修正特技ほど削れる能力値が大きくなるため多用は許されない。
……はずだったが耐性や軽減に関しての記述(※)はなく、また
エロ本(Book of Erotic Fantasy)に記された中で恐らく一、二番目に有名なデータ。
※同様に能力値ダメージで