※この作品はR-18です。

えっちなダンジョンズ&ドラゴンズもの   作:tbc

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23/03/01 ここまで各話タイトルの章番号?を当時主人公のレベルに変更


10-1

 

 イレニアの背をかすめるように振り下ろされたカタナは、そのまま地面に突き刺さる。

 カツン、と背後で鳴った音に振り向いたエレニアが、その目の前でカタナを振り下ろしたままの私を見て、驚愕で動きを止める。

 同じくカタナを振り下ろして動きを止めた私は、ふるふるとしでかしてしまったことに気づき……そしてその元凶たるカタナを放り投げる。

 

「リリン! 今のはどういうことだ!?」

 

 たった今切られようとしていたイレニアの糾弾と、ウッドエルフたちの敵意が私に飛ぶ。

 何をしようとしていたのかなど、言えるわけもない。何てことをしようとしていたのだ。

 遅れて気づいたエンゴングや、アンデッドの恐怖のオーラから回復して戻ってきた弟子たちの驚愕と不信の目線も集まる。

 

「わ、私は何も……カタナが、カタナのせいなんです!」

 

 私は悪くないんだ。あのカタナに囁かれたせいなのだ。

 まるでとっさに出た言い訳みたいなことを私は言って……そこでふと、熱が冷めたように直前にあったことを思い出す。

 

 ―――じゃあ、どうすればいいかは決まってるよね?

 

 なんて囁いたのは誰だったか。まさかカタナが語りかけたとでも?

 

「バカを言うな、その剣を振ったのはリリンだろう。まさかカタナがお前を操ったとでも」

「嘘だと言うのなら、イレニアさんがそのカタナを確かめてみてください。

 嘘だと思ったのなら、それで私を斬ってください」

 

 あるのだ、そんな馬鹿な話が。魔法のアイテムとは恩恵だけをもたらすものではない。

 身につけたものに不幸をもたらし、決して手放せなくなる呪いの武器。人の心を移ろい惑わせ、悲劇を引き起こす呪具。

 まさか己がその悲劇の登場人物になるとは思ってもいなかったが。

 

「では、その通りに斬られても文句を言うまいな」

 

 不信を覚えながらも、私の言う通りにカタナを拾い上げたイレニアさんの瞳からは光が消えていた。精神作用の効果を受けている証だ。

 そして先の言葉を発し、私めがけてカタナを振り下ろす。私は甘んじてその一撃を受け止める。

“流血(ウーンディング)”の呪いを含む一撃を真正面から受け止める形になったものの、カタナの使い手でもなくアンデッドほど全力を出してないイレニアの一撃は、肉は切れど骨を断つほどではない。

 体に食い込んだ刃を強引につかみ、アンデッドから奪った時のようにカタナをイレニアの手元からすっぽ抜けば、彼女の目は元に戻る。

 

「あ、いや、私もここまでしようとは思っては……」

「最初にやったのは私です。文句も批難も言えません。

 けど、これが呪いの剣であることは理解していただけたと思います」

 

 私はカタナを握ればああなると分かっていて挑発した。

 そしてイレニアさんが実際にカタナを握れば、切りかかってくることも分かっていた。それで切られても、このカタナ……妖刀がいわくつきの魔剣であると証明するのに、実感してもらうのが手っ取り早かったのだ。

 

 

---

 

 呪いのアイテムとはそれを使おうとした時にだけ呪いを及ぼすものだ。

 そうでなければ製作者の企みを妨げるどころか、完成する前に製作者に害を及ぼして未完成になりかねない。

 故に注意力さえあれば、呪いのアイテムを避けることは十分可能だ。もっともこのカタナは呪いのアイテムとは別の厄介モノであるが。

 

 このカタナに打たれた銘は、“紅羽刀(アカバネ・ブレード)”。

 憎き氷巨人(フロスト・ジャイアント)を殺すために被支配者の極寒の(フロスト)ドワーフが、奈落(アビス)の血鉄(ブラッド・アイアン)を用い、精魂こめて鍛え上げた一振りのカタナ。

 しかしそのカタナに込めた殺意が強すぎたあまり、吸った血で刃を赤く染め上げることを望む妖刀と化した。

 この妖刀を渡されたドワーフのサムライはその魔性に魅入ってしまい、このドワーフの遺跡を滅ぼした末に自らの血まで妖刀に捧げ、アンデッドと化してしまったのだとか。

 

“鑑定(アイデンティファイ)”の呪文と、このカタナ自身に聞いた逸話である。

 

「血を吸う魔剣か、吸血鬼(ヴァンパイア)刀と改名すべきではないか?」

 

 片眼鏡(モノクル)を外し、布に畳んで背負い袋の横ポッケに放り込みながら鑑定結果を告げた感想がこれだ。

 カタナに籠もった東洋のロマンなどないものと切って捨てるのは如何(いかが)かと思うが、そんなもので切ったり切られかけた人の言葉に文句は返せない。

 

「とにかく、これは呪(・)い(・)の(・)アイテムでは無いですね。たちの悪いだけの優れた名剣です」

「ただの魔剣が人を操るというのか?」

「ガワはとても優れた剣ですよ、市価にして金貨10万枚を超えます。

 換金しようとすると、どうあがいても十分の一以下の叩き売りになりますが」

「悪辣なぁ剣に唆されてー、部族を斬りぃ殺した戦士の伝説はー、オークにも伝わってるのよぉ。

 聖都の神殿にー、寄付するのが一番かしらぁ?」

「そうしたら、ハイローニアスの聖騎士はこれを砕くでしょうね。

 悪のアイテムを善に“浄化”するのも難しいでしょうね……宿した魔力は間違いなく上質です。これに浄化を行えるほどの神官が手隙とは思えませんね」

 

 適当な袋に収めたカタナが、私たちの会話へ不満を示すようにカタカタと震える。

 操らんとしたのはアイテムにかかった呪いの仕業ではない。このカタナ自身だ。

 その正体は知性ある(インテリジェント)アイテム。強力な魔法のアイテムには、偶発的に知性が生まれることがあり、使用者や所有者を選り好みしたり、時に特殊なパワーを宿すことがある。

 このカタナに宿った知性―――アカバネは、前述の通り血を吸い、自らの刃を赤く染め上げることを己が定めとしており、迂闊に握れば、誰かを斬らせようと唆し、でなければ強制的に操って斬らせんとするのだ。

 

「ではそのカタナをどうする気だ。よもや自分で使う気か?」

「ええ。驚きはしましたが、こいつの切れ味は確かなもの。捨て値で売るには忍びない。

 悪質ではあっても、悪辣なヤツではない。それくらいは付き合える範疇です」

「こちらが斬られないかが心配なのだが……リリンは一度こらえてみせた。そのことを信じよう」

 

 人斬り妖刀といえば随分物騒だが、この世界には人間以外の人型生物がいるし、知性を持つ生物も沢山いる。

 オークでも巨人でも人なのだから斬れば満足するだろう。

 決して善人が持つ武器ではないが、悪人でなくとも付き合えるので十分優れた魔法の武器だ。無理を押してでも手に入れる価値がある。

 仲間たちと〈交渉〉し、今回の他の報酬を譲ることで納得させた私は布で巻いたカタナを腰に納め、己がものとした。

 

 協議の後に遺跡の探索を再開したが、通路奥のホールでアカバネの元の主に斬られた死体がドワーフの動く骸骨(スケルトン)になっていただけで、ほとんど目ぼしい宝物は見つからなかった。

 大半のものは経年で朽ちるか欠けていて、幾らかの古い金貨の他に簡単な呪文が刻まれた石製のルーン、それから魔法で保護された一対のドワーフ用の武具だけが見つかった。

 それらを足してもなおアカバネの十分の一の推定価格にも届かないが、まともに売れないもの(非売品)より金になるだけマシというのが大半の冒険者の認識だ。

 

 ホールの更に奥、恐らく本来の遺跡の入り口は落盤で塞がっていて、これ以上に探索できる場所のなくなった私たちはアーサックの討伐証明部位と幾つかの宝物を携えて雪山を降りた。

 帰路の途中、雪山(スノウ)ゴブリンの待ち伏せに出くわしたので、経験にはならないが血の糧にする。

 小柄で血の量は少ないが、ゴブリンも歴とした人型生物(ヒューマノイド)である。アカバネは喜んで己の刀身をゴブリンの血の色に染めた。

 

 聖都の守衛の目を“属性感知妨害(アンディテクタブル・アライメント)”でごまかし、ただの魔法のカタナであるかのように持ち込んだ私は道具屋で革鞘を見繕う。

 比較的お高くない品物だが、今回現金収入を諦めたこともあって貧しい懐には結構な痛手となる。遊んでる暇はなく、またすぐにでも冒険に出る必要がありそうだ。

 一方で子どもたちのうち男子二人はアーサック討伐と財宝売却で分配された金貨に喜び、金で遊びに街へ繰り出した。

 しかしハイローニアス神殿のお膝元に色街はない。貞淑であることを良しとし、妊娠や結婚を前提に考える文化圏では無節操な売春は好まれない。もし売るものがいたとして、値が張り信頼のおける道具や呪文で確実な避妊を望んだ上での交渉になるが……ぎりぎり予算オーバーすると思われる。

 なのでこういう都にもあるスラムや裏町で売春宿を探すことになるのだが、そういう善や秩序に非ざるものが集い、濃縮された区画は大変危険である。

 心配ではあるが、色街デビューしてない私は同レベル。一応、イレニアの戦士団の男衆に目をかけてくれないか頼むと了承の返事が返ってきたので、あとは彼らの目が届かないところで危険に陥らないよう、無事を祈ろう……。

 

 

 

 男子を見送った後に私は宿を出て、『ならず者の酒場(ローグズ・ターバン)』で久方ぶりにオウレンと落ち合う。

 弟子たちはまだまだ独り立ちには程遠いが、イレニアの一団に混ざってなんとかパーティの形は整っている。今少し放っても死にはしないだろう。つまり、金稼ぎするだけの時間が出来た。

 

「火に弱いモンスターが多くて楽。……でも、ここの冒険者はどいつも巨人に蹴散らされてて弱い」

「巨人の打撃も受けきれるほどの装備を持つなら、騎士か傭兵になっているでしょう」

 

 野良のパーティに参加していたオウレンは移動砲台として活躍したようだが、肝心の前衛が弱くて、酷く苦労させられたそうだ。

 この地方で見られる氷巨人(フロスト・ジャイアント)は並の戦士では、文字通りの意味で足元にも及ばない。弓を持っていても大きな歩幅で一瞬に詰められるか投石で火力負けするだけ。高い体力(ヒットポイント)か、全身鎧(フルプレート)を着込み盾を構えたガチガチの重装備でようやく受けきれる。

 私のように素早さや呪文や能力で守りを固めた軽装の戦士は更に希少である。ハイローニアスの聖都だけあって力量と装備を兼ね備えた聖騎士(パラディン)は数いるが、この地の彼らは宗教家なので、わざわざ冒険者に混じって活動するものは少ない。

 実際、オウレンが共にした半ば傭兵のような冒険者集団は運悪く氷巨人に出くわし、大半が蹴散らされる中でなんとか討ち取ったそうな。

 

 おニューのカタナを見せびらかし、来歴を話す。その後、私たちは気心知れた二人で冒険に出た。

 街を出た直後から遠慮なくオウレンの“長距離飛行(オーヴァーランド・フライト)”で宙に浮かび上がり、寒空を切って雪原の上を行く。

 日光の照り返しが眩しい中、獲物はいないかと広い視界から見下ろすが、見えやすいというのは逆に見られやすくもある。

 突然飛来した大岩を咄嗟に“盾(シールド)”で逸らし、飛んできた方角を見れば数体の氷巨人(フロスト・ジャイアント)がいる。

 

「よくもやってくれましたね! 慰謝料を要求します!」

 

 好都合にも向こうから喧嘩を売ってきたため、遠慮なくアカバネを抜き放って急降下突撃をかける。

 大斧(グレートアックス)の迎撃を受けるが、今日の私は“盾”呪文と“力導く信仰の盾(チャネルド・ディヴァイン・シールド)”、二重の盾に守られており、運良く当たった斧の一撃もかすり傷を残すのみ。

 

 ―――血を流せ!

 

 当てることを優先して、巨人たちに刀傷をつける。図体に比べると葉っぱで切ったような切り傷に過ぎないが、出血(ウーンディング)の呪いがもたらす止まらない流血が巨人の生命を削る。

 私を取り囲む巨人がその異常に気づき、注意を向けたそのタイミングで、上空に留まるオウレンより全力の“火球(ファイアーボール)”呪文が飛来する。

 得意の火元素呪文に魔法的な元素防御を貫く《呪文焦熱化(シーリング)》、完全な威力を発揮する《呪文威力最大化(マキシマイズ)》効果の加わった“火球”は火に弱い氷巨人たちの肉体を一瞬で蒸発させる。

 私を巻き込まぬように放たれた都合上、唯一“火球”と反対側にいた氷巨人1体だけが運良く生き残ったが、そいつも無惨な仲間の姿を見るや斧を投げ捨てて投降する。

 

『ひい、石を投げて悪かった。見逃してくれよ!』

「運が悪かったですね。あなたは許してあげられません」

 

 もはや勝てぬと諦めたが、あいにく今日は小銭稼ぎとカタナのご機嫌取りが目的。

 自分から無防備になったやつを、天高く掲げて斬首するように振り下ろす。一刀両断とはいかないが、深く切り込まれた一撃が油断した巨人に重傷をもたらす。

 血眼になった巨人は素手で私を張り倒そうとし、その前にオウレンの3本の“熱線(スコーチング・レイ)”が巨人の胴を貫く。

 身体に空いた大穴から滝のように血が降り注ぎ、私とカタナを赤く染める。その名の通りに染まったアカバネは震え、歓喜するように脈動した。

 

「こんなものですか。流石の火力というか、私がカタナを振る意味ありませんね」

「全力(最大化)は打ち止め。普通の“火球”と焦熱“熱線”しか残ってない。

 それに斬る必要があったんでしょ」

「まあ、そうですが。剣で魔法を超えるのはまだまだ先になりそうです」

「ゴーレムが出たら、そうなるかもね」

 

 今の戦い、私の突撃前に“火球”を撃ち込めばすぐ終わった。

 現時点ではデメリットの目立つこのカタナも、いずれ呪文に耐性を持つ強敵と戦う時に真価を発揮してくれるだろう。でも、今は関係ない話だ。

 とりあえずは目の前の巨人たちが残した遺品整理に取り掛かる。

 

「大斧はいいですね。重すぎず安すぎず、これは持って帰れます。

 鎖帷子(チェイン・シャツ)も値は良いのですが……重量比が悪すぎる。置いていきましょうか」

「私は持てないよ」

「小人(ノーム)に荷物持ちは求めませんて。でも、ぎりぎり持ち運べる重さですね。

 よし、日帰りになりますが全部持って行きましょう。こういう時ばかりは、馬が欲しくなります……」

 

 巨人サイズの大斧と、身につけた鎖帷子の防具が4人分。

 それから腰袋には防寒具や雑用品といったどうでもいいものにまぎれて、少々の宝石類に銀のインゴット。

 悪くて金貨数百枚、よければ一千枚にはなるだろう。出費も殆どなく、日帰りの冒険にしては良い収入だ。

 魔法のアイテムを売買するには足りない額だが、日銭と次の冒険の消耗品を準備するには上等な額となる。

 

「これで飛んで帰るのは大変ですね。オウレン、跳(・)んで帰りましょう。体をこちらに」

「あい」

 

 背負い袋に入らない巨人の武具を縄で縛り、足がもつれながらもなんとか荷物を身に結んだ私はオウレンに触れ、眩い光をキラキラと撒き散らす聖都を遠くに見た街道へと“瞬間移動(テレポート)”した。

 




 リリン 人間の女性、ゲシュタルト・アーキヴィスト9Lvメタフィジカル・スペルシェイパー1Lv/ファクトタム3Lvソードセイジ3Lvカメレオン4Lv
 オウレン ウィスパーノームの女性、ウーイァン6Lvインカンタトリックス3Lv


・アカバネ。ブラッド・アイアン製+3ウーンディング・カタナに宿った、秩序にして悪の知性。
 血が流れる人型の生物を斬り殺すことに全力を尽くすが、血のないモノを斬ることには抵抗する。
“生命感知(ディテクト・ライフ)”で知覚した生物を使用者にテレパシーで伝える他、使用者の血で“血の刃(ブレード・オヴ・ブラッド)”により殺傷力を高めるパワーを持つ。

・ウーンディング。“流血”の魔法効果。
 傷を与えたとき、蚊に刺されたような小さな傷跡でも出血が止まらない呪いを及ぼし、その生物の体力そのものを削る。
 故にノーム用の小さな“流血”のナイフを手に巨人に挑み、ささやかなかすり傷を20もつけられればその巨人はよくて瀕死、殆どが死ぬだろう。
 ただし刃のある近接用の武器にしか適用できず、そもそも甲羅や鱗で防がれて傷をつけられねば呪いも通らない他、急所のない非生物、あるいは魔法的な防護を受けていると効果がない。

・キャラクターが物を持ち運べる荷重(荷物の重さ)には3段階の限界があり、軽荷重を超えると移動や身のこなしに制限がかかり、中荷重からは回避行動が不可能、そして重荷重を超えるとロクに移動もできない。
 荷重の限界はキャラクターの筋力と、体格のサイズおよび4足以上の足を持つ安定性による補正を掛けたものとなる。
 標準的な人間の男性の荷重限界に比べて、駄馬は筋力が1.5倍、サイズも1段階上、そして4足歩行なので6倍の荷重限界を持つ。

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