このハイローニアスの聖都は大神殿を中心とした宗教都市であり、都市法に則って街を治めている。
しかしいかに秩序にして善の庇護下にあるといっても全てのものが善人ではない。
金銭や物、名誉への欲求は時に善意を上回り、悪事にまで手を出すものもいる。
私たちが戦利品を売りに出すこの
「先日のドラゴンの骨はいやはや、折れも欠けもない立派な一品でした。
皮がないのは残念です。しかし超自然の冷気が宿る白竜細工の短剣は、魔法を知らぬやんごとなき方の目にも手にとって分かる超常の物品として高評価です!
だってのにドラゴンを見逃す
「彼らは開拓地を荒らし回る巨人を打ち倒す、立派な役目を果たしました。
その上で飛び逃げ回るドラゴンを討つのは彼らには荷が重い話ですよ」
市場のノームの支配人が先日の戦果を称えるが、金のために略奪(ハック・アンド・スラッシュ)を働いたことを肯定されるのは事実とはいえ認め難く、それをやんわりと否定する。
だが彼はこちらの反応を聞く素振りもせず話を続ける。
「彼らも巨人族の立派なアーティファクトを持ち帰ったそうですが、私どもはちっとも拝見できませんでした。
百
そこで、そこで是非あなたを見込んで一つ、儲け話を持ち込みたく」
「アーティファクトと竜の小骨では価値は雲泥の差だと思いますが……何か?」
私は訝しげながら、金になる仕事があるならと彼を見つめる。こほん、と咳を挟んで、彼は言った。
「この雪原にある、竜の墓場をご存知ですか?」
竜はこの地上で最も長命な生物といっても過言ではない。
だが長命なだけで、定命である。
ゆえに千年の齢を数える頃にやがて竜は自らの死期を悟り、自らの身体を同じ地に埋める。
年老いた竜の遺骸や、仲間が持ち帰った遺骨。あるいは己が眠る地。それが竜の墓場だ。
寿命を迎えてその溢れる神秘のエネルギーを霧散させてしまったとしても、竜の骨は竜の骨。優れた武具の素材となるし、死体そのものがいつか見たドラゴンゾンビのように強力なクリーチャーにもなる。
故に墓漁りを考える輩が多ければ、竜も己の死体を漁られぬよう竜の眷属の信奉者か、あるいは竜そのものが墓守についている。
やる気満々の略奪者と競いながら、竜の墓守を相手にするのは墓漁り行為の
ハズレ無しの宝の山には後ろ髪を引かれるが、私はその話を断った。
仕事の話を断り、今後の予定がなくなり空いた手でやるのは勿論……内職だ。
このハイローニアスの聖都、
入れたものの重量を無視できる“
……尤も例にあげた“袋”は第5階位の呪文を必要とするため、まだ第4階位の秘術呪文しか唱えられない私にはもう少し先のものだ。
「“
前との差異は少なく感じるよう仕上げましたが、ここで試着してみてください。なんならまたこの場で試してみますか?」
「おいおい、ガキんちょはそれ以上の加護を得てるんだろう?
二度も無様を晒すなんてゴメンだね、代金は払うから実演は勘弁してくれよ」
魔法のアイテムの製作といっても一から作るだけではなく、既にある装備を魔法のアイテムにすることも含まれる。
手に馴染んた武器の改造や、種族伝統の装備などが都合よく魔術ギルドにあることはなく、手元にある現物を魔術師に預けるというのが一般的だ。
すると定職について忙しい人間に代わって、暇な在野の魔術師に仕事が回ってくるというわけだ。
市場のノームの支配人を通してこの街の小さな魔術ギルドから工房を借り、アイテム製作のバイトを始めた私の資金はすぐさま二倍に化けた。
ただし魔法のアイテムにはその魔法付与の材料に加えて、特殊なインクを入れ墨にして彫刻や紋章を彫る作業のために相応の日数がかかり、しかも魔法を定着させるためには魂のエネルギー(すなわち経験点)を消費しなければならない。
実際のところ、今回金貨2000枚を稼ぐために失った4日と氷巨人3体分に相当する経験値は、直接氷巨人の小屋を襲った方が経験値も失わない上に稼ぎも見込めただろう。
これはあくまで冒険中には行えないちょっとしたことをしながら、小銭を稼ぐためだけのちょっとした内職である。
作成した魔法の籠手をドワーフの
アイテムの代金を受け取り、彼のお帰りをタントリストの女の子と共に見送る。
「師匠、お疲れ様でした。それでは私も修行に行ってきます。後で今晩もお願いします」
「ええ。もう慣れたものですね」
今回、私が内職をしてまで街を離れない理由は彼女のためである。
同じタントリストの男の子にちょっかいを受けて以来の軽い性的トラウマはまだ治らないらしく、私以外は相手をできない状態のままだ。
なのでここ暫くは寝る前にセックスし、翌朝に呪文を準備するルーチンが定着したが、流石に何度もやっているうちにオウレンや他の子どもたちにもバレた。
件の男の子は「先生、俺ともしてくれよ」なんてまたも抜かしたので短杖の柄で軽く小突いて、そのままそれを手渡した。
中身は一日に二度しか使えないものの、毎日自動で
説明を聞いた彼は喜び、その晩ドライアドを招来していた。
この女の子が同じ呪文で性行為を満たそうにも、呼び出せるのはマッスルでデカチンなイケメンか、グラマラスな美女のほぼ2択ばかり。
アアシマールのような善性な存在は幼女趣味ではないだろうし、かといってオーガやミノタウロスには色んな意味で体を預けられない。
以上の理由で、ちょっと連日の冒険を止めてこの子に付き合っているのだ。
「ほんと仲良くやってるね。たまには私の相手もしない?」
「ごめんなさい。オウレンとのことは遊びの関係ですけど、彼女にとって私はまだ欠かせない存在ですから」
「ひどい。私だってあなたのことが必要なのに、遊びのつもりだったのね!」
「いや、以前ならともかく今はオウレン、もうやる必要がないでしょう? その
職業訓練の一環で昼間は入れ墨師の下で修行するあの子を見送り、入れ替わりにオウレンが声をかけてくる。
彼女もまた、タントリストと由来を同じくする性エネルギーを才覚に結び付ける《Tantric》
だがオウレンが初めて会った時から身につけている、その人目を引く美しい肌に宝石のような瞳を覆い隠すための仮面。
今も被っているその仮面がここ数日のうちに手を加えられて、額にはサファイアがはめ込まれ、その宝石を中心にエネルギーを拡げるような彫刻が施されている。
“
ちょうど先日似たようなアイテムを作成したばかりなので、彼女の仮面が“
このアイテム、身につけているだけでその名の通り
《Tantric》の効果とは重ならず、累積しないため、このアイテムがある限り無駄特技となる今、彼女は性行為をする必要がないのだ。
「そうだね、必要はない。でもリリンはどうかな?
おちんちんを生やしてても、攻めるより受ける方が好きなリリンちゃん。
経験少なく度胸もないあの子じゃ攻めるなんてできないでしょう」
「う……」
だが私の性的嗜好、(人間基準で)かわいらしい体型をした美少女というド真ん中に近いオウレンとのエッチは嫌いではないし、むしろ好きだ。
金も家もついでに人と力もあれば彼女との情事に耽っていたいくらい。足りないから冒険者を続けているのだが。
つつーと首をなぞりつつ、私の顎に指を当てて上向かせながら私の恥ずかしい性癖を告げるオウレン。
指を当てられてるので顔を背けることもできず、恥じらう表情をじっくり見られてしまう。
仮面の横からうっすら見える頬の輪郭がにんまりとしているのが見えた。
「わ、笑わないでください!
そっちも好きなのは認めますけど、おか……違う方も好きなんですから!」
大声で言いかけてここが公の場であることを思い出し、卑猥な言葉をごまかして言い直す私。
くすくすと漏らす彼女の声に、さては冗談半分だなとからかわれた恨みを込めて睨む。
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場所を借用中のギルドの工房内に変えて、話も変わる。
「あの子たちはまだ門出させないの?」
「力量だけは出会った時のオウレンに匹敵してますから、もうやがて独り立ちも出来るのですが……」
彼らは3レベルになったが、下地を伸ばすための訓練を経た都合でまだ術者としては一段低い階位にいる。
一般人に致命傷を与えるだけの
教師としては、ちょっと実用的な手品に過ぎない魔法使いを野に放り出して死なれるわけにもいかない。
だがかつてのオウレンの力量を超えた今、過保護であるのも事実。本来、力は与えられるだけでなく自分で得るものだ。
そのへんに巨人がうろつく世界に放り出すのはどうかと思うが、同時にそれを過保護だと言い切れる人物が前にいる。
力量はともかく、人生や術者としての経験値は私より上の人物、先輩の言葉だ。
「私は、もう見送るべきだと思うよ」
「うーん……、そうですね。試練を課すべきなのかもしれません」
見習い卒業にふさわしいのは、やはりオーガサイズの首級だろうか。
大型サイズのクリーチャーはその体格だけで人間の倍以上の
その首級をあげるには優れた装備や技、そして術を求められる。彼らがうまく術を使いこなせれば、その差を覆すことは可能だろう。
勿論、術者たちが単独で首級を上げろと言っているのではない。
ウッドエルフのレンジャーたちやそのへんの冒険者、傭兵の手を借りてもいいし、なんなら金で首を買ってもいいだろう。
そのへんの〈交渉〉を成功させるのも一つの立派な手段であるからだ。
「という内容で考えてるのですがどうでしょう?」
「それだと冒険者の試練じゃない?
あの子たちは別に冒険者になりたいとは言ってなかったよ」
あ、と私は思わず口を開けて声を漏らした。
彼らはそもそも、魔法を覚えて色々なことを出来るようになりたい、が根っこにある。
だが別に冒険者になるとは一言も言ってなかったのだ。
「……はあ、恥ずかしいなぁ。
やっぱり私は良い師匠になれそうもないです。弟子を取るなんて遠い話ですね」
「リリンには威厳も歳も、10年は足りなそうだね」
「そんなに経ったら大人になっちゃいますよ」
落ち込んだ私をそれよりも小さい身体で抱きしめるオウレン。
背丈の差から手を回しきれず、頭を
その夜、宿に戻ってきた子どもたちを一室に集めて、その前で「卒業」の条件を伝える。
「あなたたちはまだ呪文の初歩、低位のものを学んだに過ぎません。
しかし低位とはいえ呪文を使えるあなたたちは、端くれとはいえ既に
何に使うかにもよりますが、独り立ちさせてもいいと私は考えました」
性別と性癖の違いから、あまり触れられずにいた
手取り足取り色んなことを教えてあげた、
そして系統は同じとはいえ、ある意味正当な信仰術者であるため教えるべきものが少ない
十分にものを教えてあげられなかった私が、彼らに卒業や独り立ちと抜かすのは自分でも滑稽だが。
あと一段、階梯を登れば一皮むける今こそ、卒業させるのはその小さな威厳を保つ良いタイミングだ。
「魔法を学び始めてとうに気づいたと思いますが、呪文の研究は外から見て分からないくらい、とにかく金がかかります。
なのでその研究の金を稼ぐのにパトロンを見つけたり、副業を始めたりしなければなりません。
冒険者になるというのは、それなりに良い選択肢です。
冒険者の一団を魔法で援護して、遺跡を漁ったりドラゴンを退治できればそのボロ儲けした財宝で生活も研究も困ることはなくなるでしょう。
命を落として、それまでの生涯と研究が無駄になる可能性を除けば、ですが」
冒険者、と聞いて少し興味を惹かれたのがタントリストの男の子だ。あの子だけは魔法を冒険の中で使いこなすことへの憧れがあるようだ。
私は彼の目を見て、言葉を続ける。
「ですから、あなたたちに最後の試験を伝えます。
オーガ、氷巨人、トロル―――どの種類でもいいので、巨人に分類される生物の首を一つ持ってくること。
四百金貨の前金を渡します。首尾よく持ってくれば、それを金貨六百枚で買い取りましょう。それが卒業の証です」
特に使い道もない巨人の首に金貨千枚を払うのは明らかに過剰な報酬だが、これは彼らへの餞別やご祝儀である。
それにスクロールから呪文一つ学ぶのに百枚飛んでいくことを思えば、多いようでまだ足りないくらい。
勿論、危険に隣り合わせの冒険をせずにゆっくりとした都市生活を送るのなら十分な生活費にはなるだろう。
「巨人を倒せってこと? 大きな人型の生物ってことじゃないよね」
「他の人と協力していいんでしょうか。あんな大きな巨人の前に立つのは怖くて……」
「私の手は一切貸しませんが、それ以外に手段を問うこともありません。ただ、巨人ごときに金貨一千枚は十分過剰です。
どれだけ人や物を使っても構いませんが、今後のあなた方の取り分をどれだけ削るか、命の安全を取るかはしっかり相談するように」
オウレンには冒険者の試練になってやしないかと突っ込まれたが、実際「冒険者の試練」を経験させるに越したことはない。
金の使い方、人の頼り方は、成長するにつれいずれ学ぶ必要が出る。大きな失敗をする前に、余裕を持たせて挑戦しておくべきだ。
「イレニアさんを頼ってもいいのですか?」
「おっとそれを聞きますか。ええ、彼女たちに話しても
それに彼らが最も頼れると知っている、エルフの戦士団の存在が大きい。まず真っ先に相談しに行くだろう。
ただ彼女たちエルフも冒険者だ。本当に全て打ち明けてしまえば彼女らも無償でなく報酬を要求するし、詳細を誤魔化して疑いを持ったイレニアさんが事情を聞きに来たら、私もきっちり話す。
もし報酬を誤魔化したまま巨人の首を持ってきたなら、それはそれで良い成功を収めた経験になる。その時は騙されたイレニアさんらに私から詫びを入れてもいいだろう。
まあ十中八九ここで躓くだろうが、ここで一切助力を与えないほど彼女たちは酷い奴らではない。手酷く大失敗することはないだろう。
と、いうわけで試練を与えて数日。
買ってきたドルイド呪文の巻物を自分の
話を聞けば案の定素直に話して分け前を要求される失敗を犯していたが、一つ想定と違ったのは……
「神殿より託された子どもたちを野に放り出したこと、きちんと説明していただけますか?」
「彼らへの試練です。見て頂いた通り、子どもたちは巨人の首一つを持ち帰るだけの世渡りが出来ました。
冒険者にはならずとも、雇われ呪文使いとして働いていける能力を示しています。もう教えるまでもなく独り立ちできるでしょう」
彼らはイレニアさんらエルフたちではなく、奇遇にもパラディン様と再会したので、その助力を得たそうだ。
うまいこと巡り合ったと感心するが、しかし試練のことを咎めてくるとは弟子たちから話を聞いていなかったのかはたまた彼らが誤魔化したのか。
運良く先日かけた“
パラディン様はまだ思うところがあるようだが、一旦納得したように頷く。
しかしこれで終わりかと思いきや、会話を打ち切る前に向こうが次の話を繰り出す。
「ところでリリンは、竜の墓場を知っているか?」
つい最近聞いた話だな、とデジャヴュを感じた。
リリン 人間の女性、ゲシュタルト・アーキヴィスト11Lvメタフィジカル・スペルシェイパー1Lv/ファクトタム3Lvソードセイジ3Lvカメレオン6Lv
オウレン ウィスパーノームの女性、ウーイァン6Lvインカンタトリックス4Lv
子どもA(男の子) 人間のヒューマンパラゴン2Lvタントリスト1Lv
子どもB(男の子) 人間のヒューマンパラゴン2Lvイマージスト1Lv
子どもC(女の子) 人間のヒューマンパラゴン2Lvタントリスト1Lv
・“オーガ力の棘付き籠手”。その名の通り
ルール上、魔法のアイテムを作るのに十分な能力(と材料)さえ満たしていればどの魔法使いもアイテムを作成できるが、実際に作られたアイテムが流通しているかは別の話である。
・エティン。別々の知性を持つ二つの頭を持ち、両手で棍棒を振り回す巨人。
二つの頭がそれぞれの腕をコントロールするため、逆手の武器の扱いがおろそかにならない生粋の二刀流使いである。
頭がまるごと二つあるだけに目も耳もよく、二刀流であることから(不潔な臭いで身を隠しきれてないことを除けば)レンジャー
《
具体的には信仰系クラスの基準能力値である【判断力】を爆発的に上昇させる《