幽鬼……レイスは
触れた相手の生命力を吸い取り、殺した人型生物を同族に変える典型的なアンデッドの特徴を持つが、非実体のレイスは厄介なことに魔法や聖別された武器がなければ攻撃を当てることすらできない上、その不確かな実体を切ろうとして
肉体を持たぬために拘束する呪文も効かず、鎧が意味をなさないこのアンデッドが数で押し寄せるタイプなのだからとても正面切って戦えるわけがない。
故に上階の偵察で発見した中、真っ先に叩くべきはこいつらだ。
“
負のエネルギーを伴う幽体の接触は私から体力を失わせ、更に肉体の精気まで奪わんとするが、しかしゆったりとした動きの大半は自前の身のこなしで避け、躱しきれないものは幽霊の世界―――エーテル界にも干渉する“
そうして無理矢理に部屋の奥へ押し入った私は、最も大きなレイスの前に立ちふさがる。
年を経て巨大になり、並の戦士を一撫でで吸い殺すまでに至ったこのドレッドレイスと呼ばれる成長体だけは絶対に抑えねばならない。
黒煙のような両腕を伸ばし、私に掴みかからんとするその片腕をアカバネで切り裂く。
この刃がレイスの肉や骨を切り裂くようなことはないが、振り抜かれた剣跡に“
しかし痛みを持たないアンデッドがダメージに怯むことはなく、害する意思を優先して私への攻撃を続行する。
『―――――ォォ!』
レイス以上の巨大な身体で私を包み込むようなその接触は捉え難く、避けきれず、衣服を素通りして肉体へ接触を許してしまう。
だが負のエネルギーこそ送り込まれたもの、肉体の精気が吸い出されることはなかった。普段から《
おかげでダメージで済むものの、レイスは自らが大した手傷を与えられなかったと気づかないほど
ドレッドレイスはぐるりと頭部のような塊をまだ氷壁の外、日向の下に立つ他のパーティメンバーたちを向いて、もう一度私を向いて……そっと通り抜けんと部屋の奥の壁に埋もれだした。
状況が悪いと見て、逃げようとしている!
「
『ォォッ…』
もちろん、見逃すつもりはない。
足踏みをし、強い掛け声を放てば、ドレッドレイスが固まるように一瞬身動きを止める。
悪霊、悪党を叱りつけて、悪を反省させ滅すことができる―――実際にそんなことは起きないが、ほんの2、3秒の動きを止めるコツがある。“
ドレッドレイスが足を止めたうちに、部屋の中へ一歩踏み込んだエルフ神官がその手の一角獣を象ったアローナ聖印を掲げると、治癒効果でも呪文でもない純粋な正のエネルギーが部屋中に放出される。
《
格上のドレッドレイスを脅かすほどの威力にはならないが、私の周囲を取り囲む4体の通常のレイスたちは正のエネルギーの波動に耐えられずその黒煙の身体が霧散する。
そうして残る1体のドレッドレイスに、“盾”と同じく非実体に干渉できる力場の“
退散以上に強力な正エネルギーを受け、苦しむように体をうねらせるドレッドレイスに“バーニング・ブレード”を迸らせた火の刃を一、二、三、四と素早く短冊切りする。
非実体といえどレイスが魔法的な攻撃や“触霊化”した武器を受け続ければ煙状の体をとどめるのに用いるエネルギーが削られ、損傷する。
維持できなくなった黒煙の体は小麦粉が袋から漏れ出すように体積を失ってドレッドレイスはただの塵の山となった。
ふう、と一息つく。
“
扉が閉まっていた地下部分を除き、地上階の探索で見つけた主な敵は3種。
たった今倒したレイスの集団。
ヴァンパイアの軽戦士と元人間のヴァンパイアの
そして沢山のゾンビ……のようなもの。
最後は見た限り間違いなくゾンビなのだが、観察したところ口を動かして会話している姿、簡素な祭壇に崇拝を捧げている姿が見られ、どうも知性を残している。
肉体的特徴はごく普通のゾンビと同様だったが、何らかの能力や特性、最悪
谷の向こう岸で待機する従者たちに攻める合図を送り、私たちもレイス部屋から城の中へ打って出た。
早速騒音に気付いて例のゾンビたちが見回りに来たが、確かに言葉を発するものの特異な能力は見せなかった。
呪文リソースを消費することもなくあっさり払い除け、厄介なヴァンパイアが眠る棺桶の下へ向かうがその前に立ちふさがるヴァンパイア・スポーンが2体、そして
銀の武器でなければ傷つけがたい性質も、それ以上の剛力でぶっちぎれば関係ない。
一瞬でスポーン2体を斬り伏せて、パラディン様が足止めする後方の2体の足元に“
しかしやられたヴァンパイア・スポーンどもはただ体をやられても滅びることはない。
気体の体となって棺桶に戻り己が死んだ土の上で復活するため、真に滅ぼすには通常その心臓に木の杭を突き立てた上で体を破壊するか、日光にさらす、もしくは流水に沈める、どれかを行う必要がある。
とはいえここが連中の根城なので、全員を一度滅ぼし尽くし、棺桶を探して外に運び出すだけの仕事だ。
リッチも控えている上で復活までの1時間に対応しなければならないのは大変だが、それこそ従者たちに任せるのもいい。
棺桶がある城の尖塔の階段にたどり着き、螺旋階段を見上げれば階段の氷壁に爪を突き立ててスポーンが4体が待ち構えており。
……そして
気体状態の体は一見幽体と似ていても、実体を持たない彼らよりはずっと物質的であり切ればしっかり肉体への傷となる。
一人飛び出した私めがけて飛び落ちてくる4体のスポーンをいなし、気体の体から元に戻る透明なヴァンパイアをしっかりと逃さないよう見定める。
『―――gzj!!』
元の姿を現したその吸血鬼は、私と同等か少し背が低いくらいのゴブリンであった。
しかしその眼は爛々と血に飢えた赤い輝きを放ちつつも知性を宿しており、そして本来ゴブリンが持つ低い体力というデメリットはアンデッド化したことで踏み倒され、ただすばしこくてずる賢い悪鬼となっている。
“
握るショートソードとその身のこなしからして、恐らくやつはゴブリン・ヴァンパイアの……ニンジャだ!
地に落ちていったヴァンパイア・スポーンの対処は仲間に任せ、私は壁にしがみつくゴブリン・ヴァンパイアに“
“気”の力により身体を透明にして不意を襲う強襲攻撃
アンデッドの肉体に、軽戦士特有の身軽さが加わったこいつはすばしこくて硬いとんでもないクリーチャーだ。
銀ならぬ武器への耐性に加えて回復能力まで有し、力ずくでぶち抜こうにも力を入れすぎると避けられる。得意でない相手……相手もしたくない部類だが、そうは言っていられない。
困ったことに“身体保護”呪文は肉体や精神能力値の漏出を防ぐが、ヴァンパイアが持つ
しかし生命力漏出には一瞬で吸い付くされる即死性はない。
受ければ受けるほど不利になるが、一回二回受けても死なないと割り切り、引け腰にならず全力で殴れる相手なのだから。
“煌めきの粉”を撒いた直後、あえて接近して攻撃を誘う。私が攻撃されるよりも地面でスポーンを相手するパーティたちに乱入される方がはるかに厄介だ。
その目論見通り、壁に張り付いたゴブリン・ヴァンパイア・ニンジャは壁を蹴って、爪と牙をむき出しにして私に飛びかかってくるがそれを躱し、すれ違いざまに一撃。
落下していくゴブリンに、あえて重力に身体を任せ突撃し、敵が空中で身動きの取れない今ここぞとばかりに全力の一撃を叩き込む。
「やぁぁっ!」
“バーニング・ブレード”に巨人並の膂力を加えた大上段はヴァンパイアの銀ならぬ武器や回復速度を上回り、一発で身体を両断する。
破壊された身体は地につくことなく霧散し、復活するべく己の棺桶へと気体になって飛んでいった。
突撃した勢いのまま地面に着地し、乱戦の只中に入り込んだ私を格好の餌だとスポーンたちが目を向けるものの……そこに今一度、《
4体中3体のヴァンパイアがその身体を滅却され、残る1体はオウレンと
「よし、地上部の厄介なアンデッドはこれで滅ぼした。
残りを制圧し、地下に残る厄介なリッチを探そう」
残敵は多数残ってるだろうが、消耗はあれど致命的な負傷なしに強敵を倒すことができた。
やはり偵察と対策、特に効き目にムラはあれど厄介なアンデッドを一時行動不能にするアンデッド退散は強力だと実感する。
その後、私たちは塔部分を登り、そこに安置される棺を暴き中に眠るヴァンパイアたちを外の陽の光の下へ晒したり、知性あるゾンビたちを跳ね除けて地上を完全掃討。
城壁組を援護、合流した後に氷の城中央にある地下への階段を前にする。
地上部の強襲開始からここまで時間をかけたし、ゾンビ相手に騒ぎも起こした。打って出てきてないが、とうにリッチには気付かれているだろう。
地下は偵察が済んでおらず、何が待ち受けているかは分からない。
機動力のある手駒はヴァンパイアやレイスで出し尽くしていると思われるが、ゴーレムやウーズなど閉所防衛の駒が残っている可能性はあるし、罠も残っているだろう。
また懸念事項として、ゾンビたちが崇めていた祭壇だが、どうも例のやつが関わっているらしい。
邪神は邪神でも、
その名はグラーキ。なまこのようなウニのようなトゲまみれの軟体生物の姿をした、死者と夢、そして水の権能を持つ神だ。
アイディアロールに成功してしまった私だが、ショゴスの実物を見たときほどのショックは受けなかった。
そんなモンスターもいるのだろう、くらいの感覚。二度目であるし、脅威であれど畏怖は覚えない。
だが神は神。今の私ではまだ一撃は届くかもしれないが、太刀打ちできる相手ではない。
眼下に広がる峡谷の底、邪神が眠っているかもしれない凍った川を見下ろし……ふと思いついた案を仲間に話し、実行の許可をもらう。
仲間たちには私抜きで半ば陽動の形で地下を探索してもらう形になるが、正面から攻略するより意表をつけるだろう。
地下への階段を降りる仲間たちを見送り、私は急ぎ城の外に出て、氷の城が建つ崖の側面、そのどこかに隠された穴がないかを探す。
グラーキは湖の畔に立つ入信者……あるいは犠牲者へ向けて毒針の触手を伸ばし、毒殺したものをゾンビの信者とする、という。
しかしこの崖は水辺の畔というには遠い。よって地下に湖を望むスポットが繋がっているのではないかと踏んだ。
(あった、ここだ)
予想通り、3階分ほど崖を下った側面に幻術の魔法のオーラが見えた。
手を伸ばして本物の壁がないことを確かめた後、そっと幻をくぐらせて中を覗けば、そこには水辺の主を崇拝するための大きな石の祭壇がある。
周囲には幾つかの骨や頭蓋骨が撒かれ、祭壇の上には立派な牙が捧げられているではないか。
“
隠れた出口を見つけられると思っていなかったのか、あるいは竜の牙を見つけた私たちを神の生贄にする罠を張っていたのか。
いずれにせよ城の主には見つからず目的のものを奪い返した。もはや城を立ち去ってもいいのだが、恐らく陽動に向かった仲間たちがそろそろ交戦を始めている。
一度会敵したならば後腐れなく滅ぼした方が吉だ。
“
鉄と鉄、硬いものを打ち付け合う戦闘音。そして呪文を唱える枯れた声。
どうやら既におっぱじめているようだ。ならばと私は“
扉を開け、少し先で空中浮遊する擦り切れた
「グ、ワアアアア!」
正のエネルギーの活力で満ちている生物が負のエネルギーを受けると傷が開きダメージを負うように、アンデッドが正のエネルギーを受けると、その死体を動かしている負のエネルギーが大きく削減され、ダメージを受ける。
よってほとんどの傷や能力を癒やす強力な“大治癒”がアンデッド相手に振るわれれば、それはアンデッド退散よりもずっと強力な滅びのエネルギーとなる。
“大治癒”の直撃を受けたリッチは―――治癒を転化した攻撃では残念ながら破壊しつくすことはできず瀕死で残る―――驚愕を浮かべた後、下手人である私に怨恨の表情を向ける。
そして一歩分距離を取って、私に強力な破壊の呪文を唱えて反撃しようとした。
「ドコから私の研究室に入り込ンダ、盗人メ! 砕け散れ、“
「“
だが発動されようとしているその“分解”呪文を、知覚を強化する呪文で見切った私は、呪文をバラす“魔法解呪”呪文を直接ぶつけ、呪文同士を相殺する。
「ナ、ナニィィィ!」
呪文二つを費やして、高位呪文一つと貴重な一手を潰した。
リッチは強力な魔術師のアンデッドだが、モンスターとしてみると肉体性能はせいぜいグールやワイト並。例外なく高位の魔法を操るものの、タフな魔法使いでしかない。
故に接近を許せば戦士の攻撃を耐え凌ぐ防御力はなく、“大治癒”でボロボロとなった身体に一太刀を入れればその身体は持たない。
外套や装飾品を残して崩れ落ちるリッチの死体。その霊魂は経箱の元に戻っていずれ復活するのだろう。
故に城の主は一度死んだが、戦いは終わらない。
『身モ守レヌ役立タズメ!』
猛禽類のような頭をした
どうやらあの
ヴロック……
城の衛兵として呼び出されたらしき奴はこの閉所で自慢の機動力を殺され、“
パラディン様の鎧には気味悪いツタ植物が張っており、ヴロックが体に飼っている胞子植物の散布攻撃を受けたようだ。
また通路に焼けただれた“
「破ッ、やぁっ!」
―――ち、ち、血だぁ!
『ウギャバァー!』
リッチを片付けた私は《闇の知識》でヴロックの身動きを止めた一瞬で接近。
パラディン様の
外の世界の住人ではあるがヴロックは歴とした生物、待望の血を浴びる機会を得て“
ヴァンパイアが棺桶を基点に復活するように、リッチは不死の呪文の一節を収めた“
これは棺桶と比べてずっと小さく、隠しやすい。完全な密室に埋めることもできるが、そうすると復活しても脱出できなくなってしまうため、隠し部屋や隠しスペースにこっそり収めるのが定番だ。もちろん、“経箱”を破壊されぬよう罠などもしっかりかけたうえで。
「
「この壁、幻を張っていますね。ありました、金庫です。
……罠もありますね、毒雲の。“
とはいえ物理的、魔法的双方に隠し切るのは難しい。よって片方によって隠蔽し、もう片方は罠で引っ掛けるのが定番だ。
“
しっかりと解除に成功し、中身をご開帳するとそこには更に強力な死霊術のオーラを発する小さな箱と分厚い呪文書が。
箱はこじ開けられる様子がなく叩いてもびくともしない。魔法的に封印されており、リッチの核を収めた経箱で違いなさそうだ。
大事な呪文書と共に金庫にまとめて保管していたのだろう、しかし見つかったからには彼の命運は尽きた。
「悪のオーラを発している。リッチの不死の秘術に違いない。
生き汚い魔術師よ、滅びてその罪科を償いたまえ!」
魔法のかかった経箱は非常に硬い。しかし全力で
すると経箱はまるで生きているかのように絶叫を発する。経箱に逃げ込んでいたリッチの魂の断末魔だ。
しかし
壊れた経箱から溢れる死霊術のオーラが薄れていくのと共に、リッチの叫びは小さくなり、やがてオーラの残滓ごと完全に消えた。
例の巨大な竜の牙を皆に見せ、この度の目的を達したことを確認。
その後、上階の捜索を竜の眷属のコボルドと従者たちに任せ、ドワーフと共にリッチの研究室をくまなく家捜しする。
沢山の呪文が詰まったウィザードの呪文書にリッチの魔法の装備、そして沢山の金貨銀貨に宝石、魔法の杖に巻物に、指輪を始めとする装飾品。
未開の地の城の主だけあって、沢山の宝物が手に入った。腰を落ち着けねば鑑定も間に合わないそうにない。
『コの城、オレ達のモノだ! コインもオレ達の!』
今後この城はコボルドたちが新しい巣にするというので、銀貨など重量が嵩張るお宝は彼らへの報酬として置いていく。
それでもざっと数えて金貨十万相当はくだらないアイテムが手に入った。
これで残るは神託通りに巨人の槌で牙を打ち、オルクスの魔杖を破壊するのみ。
氷の城で一晩を過ごした翌日。
水晶竜の元へ残る同胞の遺骨を返し、挨拶に向かおうと旅の支度を始めようとしたところで、突如パラディン様が額に手を当てて俯いたと思えば、宙に向かって返事を返す。
「聖都に邪悪なるオルクスの信者の軍勢が向かっていると、たった今魔法で伝言を受けました。
急いで戻らなければなりません」
短文のメッセージを送受信する“
神にも匹敵するデーモンロードが黙って見過ごすことはなく、そちらに手を回したようだ。嫌なタイミングだが、状況は最悪ではない。
「先に聖都へ戻りますか? “
ただ、従者の方々や荷物は手が足りませんね。この極寒の大地の道行きを彼らだけに任せるのは不安です」
「水晶竜へ遺骨を返さぬのは不義理でしょう。
借りた剣のこともあります、私は顔を出さねばいけません」
「ならば二、三手に別れようぞ。
荷物を持ち帰るもの、遺骨を返すもの、聖都へ急ぎ帰るもの」
「遺骨を返した足で聖都に向かえませんか?」
「可能です。呪文は消費するので、戦場での活躍には不安が残りますが」
「では、こうしましょう。まず二手に分かれて……」
相談の結果、私がパラディン様とエルフ神官を連れて“瞬間移動”し竜の墓場へ顔を出し、遺骨の返還と礼を述べる。
その後また瞬間移動して二人を聖都へ。戦力に不安のある私は一旦氷の城へ帰還。
翌日、呪文を回復した私は再び“瞬間移動”でドワーフと
そう、私とオウレンの二人は聖都での戦いには加わらない。パラディン様とエルフ神官を除けばまともな前衛が私しかいないため、オウレンをカバーに残さざるを得ないのだ。
不安、不満はあるものの、今回の過剰人数な冒険で少なかった経験値を補填する機会でもある。
ありったけの“
道中で見つけた
コボルドたちの荷物を降ろし、リッチの城を占拠すべく身支度を整えた彼らと別れて今度こそ私たちは聖都へ向かって直進するのだが……
竜の下を立って二日経った頃、南の遠く丘の向こうで視覚化するほど強烈な悪のオーラが空に向かって立ち上がる。
立ち上がったオーラは空高くに留まって暗雲を立ち込めさせる。
「あれはもしやオルクスの計略が発動したのか!?」
「急ぎ帰らねば!」
見るからに不穏な気配を悟り、ざわつくパラディン様の従者たち。
「落ち着きなさい!
戦場から遠く離れたここから今焦ったところで、もはやできることはありません。
あなたたちがすべきは戦いの只中に駆けつけるのではなく、戦いを終えた聖都の援軍になること。それがいかなる働きになるかは定かではありません。
しかし一つだけできることがあります。聖騎士様の活躍と、そして正義の勝利を各々祈りましょう」
そんな彼らを、慣れないながら即興で鼓舞し、士気を取り戻す。
実際のところ、私だけ急ぎ“瞬間移動”で駆けつけることはできるものの、そうするとこの場所に戻って従者たちと合流するのは難しいだろう。
そうして放っておけば、彼らは全滅の憂き目に遭う可能性が高い。なぜならば戦いを終えたオルクス軍の残党兵ないしは追っ手が聖都の周囲に散らばるのは間違いないからだ。
一応、口だけでなく私もハイローニアス様へ祈りを捧げる。
彼の神が祈りを聞き届け、助力を遣わしてくれるかは微妙なところだが、無関与ということはなかろう。
上位の
祈りを捧げて小一時間、従者たちは無言のまま心の中で祈りを捧げつつ雪原を進む。
その間、雪原は風の音すら恐ろしく静かだった。
しかし1時間ほど経った頃だろうが、不意に風の吹く音が静寂を破ったかと思うと、南で光の細い柱が立ち上がる。
「おお!」
「あれは!」
先の悪のオーラに反する輝ける善のオーラの気配。
ここから見るとまるで針のように細く、空の上の暗雲を散らすこともできないか弱い力だ。
だがその暗雲を切り裂くように一粒の輝きが地に向かって落ちてゆく。
果たしてその後がどうなったのかは、遠く離れたここからでは分からない。
しかし一つ分かるのは、それをきっかけとするように天上の暗雲が徐々に薄れ、悪のオーラが和らいでいったことだ。
恐らくパラディン様方はオルクスの策略か侵攻を跳ね除けたのだ、と私たちは安堵し、従者たちは己の勝利であるかのように歓喜した。
旅の最中ながらその日は疲れを忘れたかのように騒ぐ彼らを見かねて、私は“
英気を取り戻した従者たちを引き連れて、それから数日。
もうそろそろ巨人の廃墟あたりにはたどり着く頃合いかな、というところで南から煌めく何かが飛来してくるのが見えた。
不穏な気配は感じないものの進みを止め、進路を塞ぐように隊列の前に飛び出る私。
しかし目を凝らせば杞憂だったとすぐ分かった。
何故なら光るなにかの正体は金よりも光り輝く鱗を纏うドラゴンで、その上に跨るパラディン様の姿を目撃したからだ。
・
ひとたび怒れば竜の例に漏れず生ける光の嵐となって悪を滅ぼす。最大の特徴として、魔法を用いても軽減することが困難な、力場のブレスを吐く。