知力が高いものは
知力が低く、魅力があるものは
知力も魅力も低いが判断力が高いもの、あるいは全てが高いものたちは……秘術術者を目指すのは勿体ない、素直に
そして知力も魅力も、判断力さえ低いものはもはや魔法に向いていない。帰っていいよ。
お姉さんが神殿に集めた魔術師希望者を手っ取り早く見極めて、振り分け、教え込んだのにかかったのはたった2時間。
「こうも簡単に魔法とは目覚められるものなのか」
「門外不出の秘儀です。私の体質によるものなので、そもそも他の誰にも使えませんが」
本来、ウィザードは弟子入りして十年近く学ぶらしいが、私にかかればそういう常識を越えて魔法を教えることが出来る。ただ、その本来 下積みで学ぶべき呪文や神秘への造詣も省略してしまう問題もあるが、そこは実践で学んでもらう他ない。
魔法を覚えられなかった人たちに関してはまたファイター等の肉体を活かしたクラス、あるいは精神能力値によらない魔法を代替する技術を教えてやってもいいのだが、それはやっぱり胡散臭い能力だし余計なお世話ゆえ自重した。
―――“
―――“
神殿の小坊主たちから選ばれた希望者たちのうち、ソーサラーは身につけたばかりの魔法を放ってはしゃぎまわり、ウィザードはそれを羨ましく眺めながらも己の脳裏に浮かんだ呪文をせっせと呪文書に書き記している。
クレリックに向いていると言われたものたちは強い望みを得て意思を固め、魔法の才がないと言われたものは悲しそう、悔しそうに落ち込んでいる姿を見せていた。
「秘伝、秘伝か。……君が剣にも長けているのもまた、秘伝の成果なのか?」
「まあ、一応。余計なお世話でしょうから、今回は秘術魔法だけ教えましたけど」
私がお姉さん……ハイローニアス神殿から頼まれたのは秘術の魔法を教えることだ。信仰呪文や戦闘技術は範囲外だし、それに秘術魔法を覚えられなかった小坊主たちには今後、神殿の魔法によらない仕事を任されるだろう、余計な技術を持たせて その仕事が疎かになるという問題もある。……それでも
「戦士や技能屋への教えが必要ならまた別の機会に呼んでください。とはいえ、これから旅に出るので いつになるか分かりませんが」
「いや、
「そうですか。ああ、今回の報酬はパラディン様の件とは別だってこと、忘れないでくださいね」
「勿論だ。しかし、これで外の胡乱なウィザードを頼る必要が減ったのは私たち聖職者にとって誇らしいことだ」
「いえ、教えた私が言うのもなんですが、彼らは秘術術者としては
むしろ秘術の知識に関しては、未熟者の彼らよりその胡乱なウィザードを信頼すべきでしょう」
「……分かった、善処する」
魔法の初歩を教え込み、あとは各自の努力と修練に任す。
頼まれた仕事を果たしたところで私は神殿を去ろうとするが、しかしその後背に声がかけられる。
「お、おい……先生! 俺は、俺たちはどうしても魔法を覚えられないのか……?」
くるりと振り向けば、そこには三名の男女の小坊主たちがいた。
私に魔法の才がないと伝えられ、しかし悔しそうにしていた三名だ。
「無理ですよ。あなたたちでは碌な魔法を使えません。
一応、全く使えないことはないでしょうが、無理に覚えても活かせない。活かせなければ、明るい未来はない」
彼らは見たところ私と同い年くらいだが、背丈は彼らが上である。しかし知力も魅力も、判断力すら人並み以下だった。
だが彼らは知力が低いから、どうして魔法の才が無いと言われたか理解できない。判断力が低いから、私がどうして教えないのか気づけない。ついでに魅力も低いので、言葉遣いもよろしくない。
ただ、背丈を見れば分かるように肉体は今の私より素養がある。鍛えればきっと良い
「私はそんな残酷なことを出来ませんし、神殿もそれを望まないでしょう。
しかし魔法によらずとも君たちは神殿に、ハイローニアス様に貢献できます。そのへんの説法は、神官様方が代わりにやってくれるでしょうが」
「―――もういい、リリン嬢。それから先は私の役目だ」
だがそこまで私が教える必要はない。お姉さんが言ったように、神殿の方々の領分だ。
すがるような目を向ける小坊主たちに再び背を向けて、私は宿に戻った。
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「なんてことがありましたね。
一応、本当に
「あなたは正しい。その程度、呪文使いとは呼べない。
正直、ウィザードと呼ぶのも憚られる」
「魔法を使える小間使いとしては申し分ありませんけどね。
“
「貴族の魔術師は、弟子にそうさせるらしい。普通の魔術師は毒味なんてしない」
その日の夜。
あまりに激しすぎたため、先日の疲労が残っている私を見て 今晩のオウレンは控えめな交わりだけで済ませてくれた。
性行為の後のピロートークで、私は昼の授業の話を喋った。教えた呪文の選択や、小坊主たちのことについて。
元々 正しく秘術を学んだオウレンは、苦労せずに身に付けた小坊主たちに良い印象を抱いてないようだ。
「そうですか。私は将来、そんな小間使いがほしいですね」
「自分で使えばいい」
「面倒じゃありませんか。睡眠八時間、準備一時間、その他諸々の準備でまた一、二時間もかかるのに、更に身支度で食われるなんて。
私はぐうたらな生活がしたいんです。ついでに小間使いが可愛い子の愛妾さんなら尚良し」
「そんな、私のことは遊びだったのね」
「私を
「うん」
窓の外からチラリチラリと揺れるランタンの光が部屋に差し込む。
女性同士のイカせあいで連敗にまた新たな黒星を刻んだ私は、水を飲みに行くと彼女に言い、ベッドを離れて宿の裏手に回る。
夜空から差し込む星明かりから身を隠し、こそこそと宿の中を探っている小坊主たちの背後に回る。
「私に御用ですか?」
そっと近づいて声をかけると、ビクッと肩を震わせ、驚いてランタンを取り落しそうになる三人の少年少女たち。
慌てて向けられたランタンの光で少々目がくらむ。光に慣れた頃、ちょうど動揺が収まった彼らが声をかけてくる。
「先生、俺たち、どうしても魔法を覚えたいんだ……」
「嫌です。どうして覚えたいんですか?」
「だって、魔法があれば人を守ったり、人を癒やしたり出来るんでしょ」
「魔法を使わなくたって、それくらいは出来ますよ。むしろ魔法に頼らない方が確実に手の届く範囲を守れます」
「でも! 俺たちは魔法を使いたいんだ!」
「あなたたちが仕えているハイローニアス神殿の聖職者の方々はそれを望んでいません。
勝手に教えたら、責任は私にかかります。それを無視して魔法を教える利益が私にありません」
「じゃあ、神殿から出ます! 何でもします!」
本当になんでもする気なら、利用しなくもないのだが。
だが神殿から逃げ出したこの小坊主たちが私の下からも逃げ出さない保証もない。見えた地雷だ。
……しかし、ここで断っても彼らは何をするか分からない。
というかそもそも彼らは昼に断られたにも関わらず、ここへ何をしにやってきたか。私の呪文書でも盗み、自力で学ぶつもりだったのではないか。
勿論 それを黙って許すことはないが万が一ということもある。それくらいなら、良い案もあることだし使ってやろう。
「そこまで言うなら、三つの道を与えましょう。
妥協か、非道か、苦行か。あなたたちはどれが良いですか?」
そう告げて、私はそっと三人の子どもたちに手の平を差し出す。まあ……どれを選んだところで碌でもない選択肢に違いはないのだが。
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パラディン様が出発する日。
数名の神殿騎士たちに守られた二頭立ての馬車には、地図と食料を含めた旅の荷物が積まれている。
しかし人数分×日数分の水、食料はとても重い。更に草だけでは栄養が不足するため、馬の飼料も幾らか載せねばならない。そうすると馬車に屋根を載せる余裕はなく、快適さを犠牲にしてなんとか人員と荷物を詰め込んだ。
それでも体積の問題で馬車に載せきれない飼料は、力のある『弟子』たちに任せた。
「しかし馬車を引いていても馬の脚は早い。荷物が軽くなった時、彼らはどうするのですか?」
「力はあるので、彼らはついてこれますよ」
馬車の後ろからパンパンに膨れた袋を肩に背負ってついてくるのは、あの夜 三人の元小坊主たち。
ハイローニアス神殿には彼らの熱意を試すため、その試験、また抜け出した罰を兼ねて早速荷物持ちをさせることで説得した。大事な荷物は任せられないので、優先度の落ちる飼料や彼ら自身の食料、水袋などを運ばせている。
パラディン様の言うとおり、馬車の足は人よりも早いが、そこは彼らにクラスを与えるついでに、能力を弄ることで解決した。
「はあ、はあ……」
「ふうぅぅ」
「ま、まだ歩くの?」
結局 子供たちは三人とも妥協しない道を選んだ。なので、今の彼らはヒューマン・パラゴン―――人間という種族の能力を強化する、『種族的』クラスとなっている。
このクラスは魔法能力を持つクラスではないが、全3レベルを極めると任意の能力値を伸ばす能力、すなわち彼らに魔法を行使する才能を後天的に獲得させられる特徴を持つ。
またこのクラスは既存の術者能力を伸ばす特徴も持つため、別のクラス間でシナジーがあり、そして術者の欠点である低い
ちなみに《
「今日はまだ出発したばかり。昼休憩は挟むからしっかり付いてきなさい!」
しかし、そのせいで彼らが魔法を使うにはレベルアップが必要になった。この旅の道中で
「アリだー!」
「アリですね」
「
早速、この世界で稀によく見られる巨大生物の一種、巨大蟻がのぞのぞと道の脇にある丘を越え、馬並の速度で迫ってくる。
子どもたちで相手出来ないこともないなと思った矢先、随行するハイローニアス神殿の騎士たちが馬を駆り、抜き放った
「そういえば……私に関する神託は、待ち受ける具体的な脅威について告げていないのですか?」
「いいえ。『これから待ち受ける多くの脅威の助けになる』と、アローナ様はそれだけを告げました」
「
蟻の死骸を申し訳程度に焼いて処理する間に、ハイエルフのアローナ神官へ―――ヴィリルと言ったか―――ふと神託のことを思い出し、尋ねる。
アローナ神、あるいはハイローニアス神がどの程度 私について見抜いているのかは知らないが、私自身は大した能力がない。
多少 罠の捜索が可能とはいえ屋外では出番がなく、近接戦闘ではパラディン様、信仰呪文ではこの神官が、秘術による援護妨害呪文はオウレンがそれぞれ私より優れた能力を持っている。
その穴埋め能力や、オウレンとの繋がりありきなら分からないこともないが、やはり迂遠な託宣だ。勿論、私にしか出来ないこともあるが、一体どのように期待されているものか。
それは不明だが、何事かはすぐに起きた。
「……様、聖騎士様。あちらを!」
「何? あれは……黒煙」
「ふむ。確か地図には、あの先に農村があると載っていましたが」
ハイローニアスの総本山を目指す道は農村の近くを通る。水の補給だけを済ませてすぐに通る手はずだったが、煙が上がっているのを見てパラディン様が目の色を変える。
重大な使命を背負っていても、災いや助けを求める人の存在を無視できないのがパラディンというものなので、この展開は予想できたことだ。
「寄りましょう。目に見える異変の兆候は見過ごせません」
きっぱりと告げるパラディン様に、こっそりと嘆息を漏らす。本来の目的とは無関係の用事が度々増えることは予想出来た、これだからパラディン様と同行したくはなかったのだ。とはいえ人里が襲われただけなら、とりあえず原因を取り除けば解決する話。斬ったり殴ったりできるのが相手なら楽な方か。
馬車は足を止めず、道なりに煙の下へ向かう。誰もそれを止めようとしなかった。
リリン 人間(human)の女性、ゲシュタルト・アーキヴィスト5Lv/ファクトタム3Lvソードセイジ2Lv
オウレン ウィスパーノームの女性、ウーイァン5Lv
アルベルト ハーフエルフの男性、パラディン5Lv
アローナ神官(ヴィリル) ハイエルフの女性、クレリック5Lv
戦士のお姉さん(ローラ) 人間の女性、クレリック1Lvファイター2Lv
ハイローニアス神殿騎士×5人 人間、ファイター2Lv (+ヘビーウォーホース)
子供たち 人間の男女、ヒューマン・パラゴン1Lv
・「パラゴン」。模範、手本などを意味するが、D&Dではその種族の最初の一体、始祖のクリーチャーか、あるいは種族の特徴、能力を最大限に引き出す訓練を経た証たるクラスである。
人間(ヒューマン)のパラゴン・クラスは、その様々な方面に方面に素質を持つ万能性、あるいは適応力を持つ特徴を更に伸ばす。クラス一筋の専門家には劣るものの、複数の分野を伸ばすなら、不得手、あるいは不足する能力値を鍛えられるこのクラスはきっと役に立つだろう。
・「特性」。あるいは特徴、トレイト(Trait)とも。
せっかちだったり、神経質・臆病だったりする個々人の性格をデータに反映する選択ルールであるが、荷物持ちとして移動速度を増加させるために悪用した。
ちなみに《
・小坊主たちが選ばなかった選択肢は、魂からエネルギーを抽出し、魔法のアイテム的なものに『形成』する能力を得るインカーネイトという分野のクラス。
形成したアイテム的装備は低級の魔法効果を幾つか模倣するが、これの形成には精神系能力値を要求しないので、脳筋でも利用可能というかむしろ脳筋推奨である。
なおインカーネイト系の基本クラスは3種類あるが、この分野の代表クラスであるインカーネイトは弱いクラスだと評判。