朝刊の一面にデカデカとした文字が躍る。
『鈴木相談役 アナザーワールド構想を立ち上げ』
と、ある。異常気象による大災害や食料危機に対して、新たな世界への移住をするっていう物だ。新たな世界?記事を読み進めると、宇宙ステーションにサーバーを置き、仮想現実世界『アナザーワールド』を立ち上げ、実証実験に入ったとある。このアナザーワールドには、様々なVRMMOが乗り入れていて、その新たな世界を体験出来、移住を決めれば、アナザーワールドの住民になれるそうだ。ただ、1日に移住出来る人数に制限あるので、予約制とある。
コイツも探ってみないと危険に思えた。移住って、昨晩の火織のようなことをするのでは無いのだろうか。個々人を量子化データにし、ネット上で生きるって選択なんだろうと思う。そうなると後ろ盾には鈴木財閥がいるってことだな。
量子化データとして生きれば、食料の摂取も、異常気象の地上に住むことも要らなくなる。あの相談役は、この計画だと、人間という種を間引くってことって、分かっているのだろうか?まぁ、デンドロのシステムを使えば、仮想現実世界であっても、子供は作れる。世代を重ねることは出来る。だが、ソイツらは人間では無い。
まぁ、人間のいなくなった地上は、悪魔、堕天使、天使により反映するだろうから、問題は少ないか。
---工藤新一---
「国力を減らせば、戦争が減ると思わない?」
アイリーンと朝食を食べながら、彼女の話に耳を傾ける。
「確かに、弱い国では戦争はしないかな」
「そこがポイントなの。いかに国力を減らさせることが出来るかよ。私が思うに、人口を減らせばいいと思うのよ。人口を減らすには、出産率を低下させる。要するに、子供を産める者を減らせば良いの」
そのために、国力を削ぎたい国の女性に、愉しみを植え付ければ良いと、アイリーンが力説した。
「あの火織って女のように、身体に愉しみを植え付けるのよ。妊娠すると愉しみが奪われるってことを教え込めば、出産率は低下するんじゃないかな」
それは、弱くしたい国の女性を性奴隷に堕とすってことであり、問題があるように思える。
「それは道徳的にどうなんだ?」
「でも戦争になれば、多くの子供が死んじゃうんだよ。戦争になれば、道徳なんて言っていられないわよ」
「それもそうだが…」
「だからね、無理強いしないで愉しみを教え込めば、問題が少ないわよ」
そうなのかな?
---鈴木園子---
「叔父様、これはどういうことですか?」
叔父である鈴木次郎吉に訊いた。あの朝刊に出ていた『アナザーワールド構想』についてだ。
「どうもこうもない。このまま、人口が増え続ければ、資源や食料を求めて、戦争が起きかねない。じゃから、アナザーワールドじゃよ。そこへ移住すれば、食料問題も、エネルギー問題も解決するんじゃ」
「VRの世界で生きるのなんか、イヤよ!」
「だから、移住に当たって、無理強いはしない。構想とは言うものの、既に移住は始まっておるんじゃよ」
叔父の表情は、してやったりって感じである。
「叔父様も移住するのですか?」
「うむ。こちらの世界でやることをやったらな。これから、メンテナンス要員を育てないといけないからな」
叔父の声が遠くなっていく。霧の中にいるような感じがする。目の前には知らない男性がいた。
「鈴木園子だな。なるほど、美味しそうな身体だ」
男性は私をガン見している。今、気づいたのだが、何故か全裸にされている私。それも、男性にオナニー行為を見せていた。どうして、こうなったのよ?
「ぬれぬれだな。向こうへ行ったら、思う存分に愉しんでやるよ」
向こうって?どこ…まさか…
「私は、私の生まれた世界がいいのよ!」
「鈴木家の者は全員、移住するんだよ。お前のような小娘の要望なんか、通らないんだよ」
男性と交わっている。いつの間にか。これって、意識が瞬断しているのかな。誰か…助けてぇぇぇぇ~!
---代羽周太郎---
そして、決勝戦…開始ギリギリまで、真由美が「やらかすなよ!」って、僕に詰め寄っていた。それって、「押すな押すな」理論かな?
開始30分前、出場選手は、それぞれの陣地に向かい、参加メンバーだけで、作戦タイムに突入した。
「分かっているだろうな、シュウ」
何かを恐れているレオ。
「俺とレオが防衛に回る。攻撃はシュウに一任するからな」
達也に任された。さて、どうやって心を折るかだな。肥だめを強制転移させようと思ったが、無理だった。まぁ、海とか湖とかの地形の強制転移は出来無いから、肥だめも地形の一部ってことなんだろう。そうなると、肥だめを作れば良いのかな?
「おい、シュウ…お前、悪そうな顔付きだぞ」
苦笑いしている達也。
「そうか?今、妄想中だよ。どうすれば、精神ダメージが倍増するかをだ」
「ほどほどにな」
レオは何かを諦めているようだ。
そして、試合開始の合図が鳴り響き、僕達の陣地以外のサイオンを無効化して、瞬動術で敵の二選手の意識を狩りに行き、一条将輝の前に立ってみた。
「貴様が、一高のダークホースか?」
銃タイプのCADを構え、引き金を引いた将輝。しかし、術は発動しない
「何?貴様、何をしたんだ?」
「この辺りのサイオンを無効化しただけだよ。たいしたことはしていない」
物の価値を変えるのは、能力であり、コストは掛からない。指を鳴らす程度のことである。
「貴様!」
将輝が一歩踏み出した瞬間に、直径1メートル、深さ2メートルの落とし穴を足下へ作り出すと、見事に落ちた。そこに、下水槽に溜まっている汚水を、強制転移させてみた。
バシャッバシャッと溺れかかっていた将輝は、地面の縁に両手を着き、陸に上ろうとしたので、手元を中心に直径30センチの落とし穴を拡張すると、顔面から汚水に落ちていった。今度は、ブクブクと音を立てて沈んでいく。汚水で溺死では可哀想なので、『強奪』で、落とし穴から救出し、地面に置いた。
「今回のが一番むごくないか?」
後ろから達也の声。ブクブクした時点で勝負ありの合図があったらしい。
「勝ちは勝ちだろ?」
「後味は悪いけどな」
応援席へと向かうと、真由美が頭を抱えていた。
「シュウ…二段仕込みの落とし穴は、やりすぎだと思わない?」
「いや、あそこは、落とし穴を作る能力者を前に、二度目もあるだろうと、身構えるシーンですよ」
自己解説して、切り返しておく。
「じゃ、僕はこれで」
昨日、丸投げした件が気になり、ヤマトの元へと転移した。
◇
僕を見るヤマトの顔は深刻そうであった。何か遭ったのか?
「兄さん、工藤君を『強奪』で、呼び出してみてください」
と、ヤマト…ヤマトも『強奪』出来るのに、何で?と思いながら、『強奪』してみたのだが、新一の姿は無かった。
「…」
「たぶん、死体無き死亡確定ですよ。後、兄さん、工藤君を『招魂』してみてください」
いやな予感を感じながら『招魂』するも、新一の魂は現れなかった。それの意味するのは、魂のロストと言う最悪の事態である。
「なんで…ロストしたんだ?」
「火織さんのログを解析してみたのですが、学園都市では、魂の器である身体、記憶、魂の三位一体を量子化データにコンバート出来るのでないでしょうか?」
ありうる。ドラゴンの駒は量子化出来無い為、その処理を察し、火織は強制転移で脱出したを確信した。だけど…
「学園都市に、そこまでのテクノロジーは無いだろ?」
「えぇ、無いと思います。が、未来から来たアイリーンが持ち込んだとしたら?」
可能である。アイリーンのいた世界の技術力は如何ほどか知らないが、少なくてもタイムワープが出来るほどの科学力はあるはずである。
「後、アイリーン、IDサプライヤーの位置がわかりました」
「どうやったんだ?」
「兄さんがこの前、ポイした男、狩首染太を監視していたのですが、彼が通信をしていたので、信号を追って判明しました」
通信した?手持ちの装置で通信出来るなら、通常のヤマトでも追えたはずだが、どうしてだ?
「どんな装置で通信をしたんだ?」
「ポイ捨てをした時点では人間だっただと思いますが、モニタしていた彼はアンドロイドでした。体内に埋め込まれている通信ユニットを使ったのだと思います」
そうか…量子化した記憶を記憶ユニットに収め、アンドロイドの電子頭脳にリンクさせているのか。
「場所はどこだ?」
「ブースター機能付きの反射衛星を中継して、地球と同じ軌道上の太陽の裏側でした。あの位置だと、この星からは観測出来無い為、見つからなかったはずです」
なるほど。そうなると、そこへ行けば、新一を蘇生することは可能であるな。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
太陽の裏へ転移した。
◇
大きな衛星コロニーに、大きな宇宙船が隣接していた。宇宙線に同化して、宇宙船に侵入した。その船には生き物は居なかった。動いているのは、サーバーと思われる装置と、通信機と思われる装置と、作業用のロボットとアンドロイドだけのようだ。
管制センターと思わしき場所にはモニタが何台も置かれていた。そこにはデンドログラムの世界と『アナザーワールド』の世界が映し出されていた。そうなると、ここはアイリーンサイドの場所のようだ。隣接しているのは、デンドログラムの世界とリンクする為のケーブル無いし、通信ラインがある為であろう。
モニタを見て、『アナザーワールド』の世界と断言したのは、狩首が園子を調教していて、それを新一と女が見ていたシーンだったからだ。そうか、園子も連れ込まれていたのか。まぁ、鈴木家の者だし、テストかもしれない。ひとまず、新一だけ救出しておくか。
しかし、システム言語とオペレーション画面の言語がまるで分からない。新一のデータがあるユニットが分からないでいた。さて、どうするかな。でも、あの女、地球の言葉を話している。それは翻訳モジュールがあるってことだ。それを探すことにした。
---七草真由美---
シュウが表彰式をボイコットして、どこかへ転移していった。なので、表彰式には達也君達2名だけ参加している。因みに一条将輝は、臭いの問題で救出がはかどっていないようだ。救出チームも医療チームもガスマスク装備でないと、嘔吐必須なレベルらしい。
「十文字君、在校生の部では、あんなマネさせないでね」
「善処する。俺が命令しても、従うかは不明だからな」
十文字君は苦笑いしている。まぁ、それはそうなんだけど…落とし穴に汚水って…外道過ぎるだろうに。
「まぁ、真面に戦えば、相手を瞬殺してしまうからかもな」
外道なマネをする理由…実は私もそう思ってはいる。常識を越えた魔術の数々。魔法師では実現が難しい空間転移術を難なく使えるシュウ。その上、魔法師の魔法に欠かせないサイオンを無効化出来る能力。真面に戦うことは難しいかもしれない。
「そもそも、アイツは古式魔法の欠点であった、発動スピードの遅さを感じさせないしな」
無詠唱で起動する魔術。シュウが本気で戦うとどうなるのだろうか?不安しか浮かばないんだけど…
「あっ、会長!大変です。今後の競技で、シュウは出場停止処分だそうですよ」
あぁ~、そうなるだろうな。魔法師では勝て無い技量。出せば、他校からクレームが出るだろうな。頭痛い…
---代羽周太郎---
翻訳モジュールを見つけ、コピーして、携帯端末に組み込んでみた。その結果、システム言語は未だ不明であるが、オペレーション画面の操作ができるようになった。
で、まずバックアップを含む、新一のデータユニットを『強奪』して、念の為に疑似聖杯のデータユニットを『強奪』した。すると、警告シグナルらしい物が点滅した。疑似聖杯が無くなったことを、知らせているのだろうか。今日の処は、この辺でおいとましよう。宇宙船の外に出てから、転移してアルフガンへと向かった。
アルフガンには、蘇生装置がある。核戦争で失った命を蘇生する為に作った場所故である。そこで、新一のデータユニットを解析し、魂のデータ、器のデータ、記憶のデータの3つに分別する作業から始めた。
「どうかな?」
アルフガンの長を任せているファントムに訊いた。
「団長のお持ちになった翻訳モジュールを使って、解析してみますよ」
現在、姉を通じて、元々あった宇宙へ、言語を解明する資料を請求中である。
「じゃ、任せていいか?丸投げで悪いけど」
「餅は餅屋にですね。了解です。早く目処を立てますよ」
真剣の顔のファントムに任せ、赴任先である地球へ戻った。
◇
「出場停止?」
本部のテントへ戻ると、真由美に詰め寄られた。外道すぎて、出場停止処分になったらしい。
「どうするの?ねぇ、どうしてくれるの?」
一高に優勝して貰わないと、金塊が回収出来無いよな。どうするかな。
「相手の選手を暗殺?」
「殺しちゃだめ!あぁ、怪我させるのも無しだからね」
涙目になって、僕に詰め寄る真由美。後、手の打ちようが無いんだけど…
「じゃ、どうにもならないよ」
「もう!」
僕の胸に顔を埋めて鳴き始めた真由美。どうしろって言うんだ?問題は、ここだけでは無いのに…