長く帰っていなかった荊州に、蓮華の姿はあった。
現在、孫家は襄陽を本拠と定めている。
長沙の民は母に懐いていて過ごしやすかったが、いかにも中原から距離があるのが難点だった。劉表の勢力の駆逐は済んでいるし、有力な将軍であった紫苑は孫家に帰順している。ここからであれば、汝南や揚州にいる姉とも連携が取りやすい。母には、最終的には故郷である揚州にもどり、建業に都を築きたいという思いがあるようだが、その夢はしばらく叶えられそうにはなかった。
活気のある襄陽の城郭。母のもとへ向かう蓮華は、見知った人物と出会った。
姉のところで参謀を務めている冥琳。自分に気づいて、声をかけてくる。ちょっとほほえみを覗かせ、蓮華は歩み寄った。
「これは、蓮華さま。汝南の統治は、もうよろしいのですか?」
「ある程度は、そうね。母さまと直接相談したい案件もあるから、久しぶりにもどってきたというわけ。冥琳。あなたが襄陽に来ているということは、揚州もそれなりなのかしら」
歩きながら、冥琳との会話を続ける。
向こうでは、徐州に攻め入った姉の軍が劉備を吸収した曹操によって打ち払われている。返す刀で母の率いる本隊とぶつかってみせたのだから、手際の見事さは認めるしかなかった。
夏侯惇や趙雲だけでなく、馬超、呂布といった優れた軍人が曹操を支えている。文官の育成にも油断なく力を注いでいるようで、電撃的な作戦を取れるのは、間違いのない兵站線の構築にあるのだと蓮華は理解していた。
「今度は曹操の鼻を明かしてやる、と姉上は躍起になっておられますよ。まあ、意気消沈していないだけ、よいとも言えるのですが」
「ふふっ。雪蓮姉さまらしいわね、それは。母さまは騎馬隊の重要性を語られることが多いけれど、揚州との連携を考えれば、私はもっと水軍の強化に力を入れるべきだと思うの。ちょうどこちらには、思春のような
「蓮華さまは、さすがに状況を冷静に見ておいでだ。それに関しては、私も同意いたします。どちらにだけ注力すればいいというものではありませんが、水運を使わない手はありませんからね。兵、食料の輸送にしても、それでずっと楽になるはずですから」
冥琳が、自分と同じことを考えている。大きな援軍を得たようで、なんだか嬉しかった。袁紹と劉備の軍を取り込んだことで、曹操の騎馬隊はさらに強力なものとなる。その機動力に対抗するためにも、独自のなにかが必要なことは明白なのではないか。
随伴している思春と、軽く眼があった。水軍の調練をするのであれば、自分のそばからは離れることになる。それを寂しく感じてくれること自体はありがたいが、そうも言っていられない状況であるのは確かだった。
「それにしても、母さまは曹操のことをどう思っておられるのかしら。私には、時々それがわからなくなる。この前だって、単身乗り込むような真似をされて……」
「ははっ。蓮華さまも、相応に苦労を重ねてこられたようで。まあ、嫌っておいででないことは、間違いないでしょう。どちらかと言えば、あのような御仁を好まれる質ではある。実際、曹操が小身の頃から、炎蓮さまはその存在を気にされていましたから」
久しぶりに会った曹操の姿を、蓮華は思い出していた。
父親の無念の死。そこから発生した徐州攻めを経て、あの男はさらなる威風をまとうようになったのではないか。そのような相手だけに、母が好ましく思うのも無理はなかった。相応しい好敵手。天下の覇を争うべき宿敵。そう感じているだけであれば、蓮華としても別に問題はないと考えている。
「個人的な好意は、家を滅ぼすことにも繋がりかねない。蓮華さまがおそれておられるのは、そこでしょうか」
「むっ……。なんでもお見通しなのね、あなたは。だったら、忌憚のない意見を聞かせてちょうだい。もし思う部分があるのなら、母さまには私から申し上げるわ」
昔からの豪傑に流れる気風。天下をほとんど二分するにあたって、それは時に覇道の邪魔をするのではないか。
信じていないわけではないが、まったく不安に思わないと言えば嘘になる。直情に生き、一度は死の淵を経験している人だけに、そうした線引が余計に曖昧になっているのではないか。
だったら一層、手を握ってしまえばいい。あの曹操と母が盟友ともなれば、天下に敵はなくなる。名ばかりの廷臣に囲まれているだけの帝を、どうするべきかという問題はつきまとう。それでも、民衆の暮らしが安らぐのであれば、やる価値はあると言っていいのではないか、と蓮華は思うのである。
眼鏡の奥にある、冥琳の瞳。優しい色をしているように、蓮華は感じていた。
「結託するには、どちらも力を持ちすぎた。半端な燻りを抱えた状態での合流は、やがて国全体に澱みをもたらすことでしょう。天下を支える英雄は、二人もいるべきではない。それを理解されていない御母上ではありませんよ。手心など、そこにあるべきではない。曹操にしても、考えは同様のはずです」
「あっ……。無用な考えを持ってしまったこと、許してくれ。駄目だな、娘である私がこんなことでは」
「よいではありませんか。散々に悩み、それでも前に進んでいく。それが人というものなのですよ、蓮華さま」
「んっ……。そうね、冥琳。ありがとう。あなたに話を聞いてもらって、なんだかすっきりしたわ」
「このくらいなら、いつでも。もっと面倒な手合いの相手を、私は普段からしておりますので」
そう言って、冥琳は吹き出すように笑った。
揺らぎかけていた心。そこに、再び火が灯っていくような感覚を、蓮華は確かに感じている。
†
劉璋からの使者一行をもてなす宴席は、滞りなく進んでいた。
厳粛な雰囲気など必要はない。自由に愉しみ、ありのままでいるように曹操は全体に命じていた。床に敷物をしき、それぞれの前に膳部を用意させてある。恋や鈴々はひとつでは物足りず、常に複数を周囲に置いているような状態だった。
隣でもてなされている厳顔はかなり酒に強いようで、顔色ひとつ変えずに杯を傾け続けている。
「えへへー、ご主人様ぁ……♡ んー、ここすっごく寝心地いいねえ。関羽ちゃんから、教えてもらったとおりだよぉ」
周りに流されて飲みすぎてしまったのか、桃香の顔はかなり赤い。
枕同然に抱えられる膝。ちょっと苦笑しながら、曹操は桃色の髪を撫でている。
「ほう。同じ劉の名を持つ御方でも、ここまで違ってくるものなのですな。それにしても、よく懐いておられるようだ」
「かわいい子だよ、まったく。これで、案外芯の通ったことをしてみせる。そういうところにも、俺は惚れているのだろうな」
「あははっ。さすがのわしも、もてなしの席で惚気話を聞かされるとは思っておりませなんだ。これだけの
そう言って、厳顔がまた酒を飲み干した。
不快に感じているような節はない。むしろ、この雰囲気を心地よく思ってくれているようだった。
「一献どうぞ、厳顔さん。ほら、貴方さまも杯が空いておりますわよ?」
「おお、これはこれは。かの袁家御当主に酒を注いでもらえるとは、なんだか出世したような気分になりますなあ」
酒器を手に、麗羽が酌に回っている。
高飛車な頃の評判が印象づいているのか、厳顔は驚いたように眼を見張っている。その様子がおかしくて、曹操はつい笑ってしまう。
「ははっ、それもそうか。よくやってくれているよ、袁紹は。これほどの女を嫁として迎えられて、俺は幸運なのだと思う」
「うふふっ、でしょう? けれど、そう感じているのは、わたくしだって同じですのよ? ちょっと気が多すぎるのが、玉に瑕ではありますけど」
「ええー、そうかなあ? みんなを愛してくれるご主人様だから、こうしていろんな立場の人が結束できてるんだもん。袁紹さんだって、ほんとはそう思ってるんでしょう?」
「ま、まあ、そうとも言えますわね。それにしたって劉備さん、少しべたべたしすぎではありませんの?」
「ふわぁ……。だってぇ、気持ちいいんだもん。頭もふわふわしてるし、んふふー♡」
「お水でも、持ってきて差し上げましょうか? 知りませんわよ、二日酔いで苦しむことになっても」
妖しげな笑み。洩らしながら、桃香が下腹部に顔を擦りつけている。どうにもならないと悟ったのか、ため息と一緒に麗羽が去っていく。
遊ぶように股間を引っかく指。酔いが行動を開放的にしているのだろう。桃香のあたたかな手が、着物の中に突っ込まれている。
それに気づいて、厳顔が挑発的な眼差しを向けてくる。
「大胆ですなあ、劉備殿は。曹操殿は、あちらのほうもやはり旺盛で?」
厳顔が、何気ない風を装い身体を寄せてくる。
酔いの回った桃香の手は大胆を通り越し、早くも大きくなりかけた男根を外に引っ張りだしている。
熱い吐息。吹きかけられると、さすがにこれからの展開を期待してしまう。厳顔も火遊びは嫌いではないようで、なにやら乗り気な様子なのも曹操の気分を高める一因となっている。
「桔梗とお呼びくだされ、曹操殿。ふふっ……。わしも、お近づきの印として……」
「ン……、桔梗」
桔梗の意外なくらい繊細な指が、男根をぎゅっと締め上げている。
杯に注がれる酒。勧められるがままに、飲み干した。
今は、あくまでも酒を愉しんでいるだけなのである。その最中に、今はちょっと触れ合いが過ぎているだけなのだ。
「わしの指はいかがですかな、曹操殿。こちらは、悦んでおられるようですが」
「一刀でいい。こうした遊びは好きなのか、桔梗?」
「勘違いめされるな。これと思うような殿方が、そばにいるのです。人の一生とは短いもの。戦人となれば、尚更ではありませんか。ゆえに、んっ……」
勃起した男根が、桃香の頭で上手い具合に隠れているような格好だった。
桔梗の動きに合わせて、桃香が指を絡めてくる。妙な緊張感があって、それで無性に昂ってしまうのではないか。
太い幹を擦る指。覆うように、敏感な亀頭を刺激する指。互いに自由に動かしているようでいて、意外と連携が取れている。
「ほほう。したたかに酔っていても、なかなかやりますなあ、劉備殿」
「にへへ、そうかなあ? そうだ、私のことも桃香でいいよ、厳顔さん。こんなやらしいこと、一緒にしちゃってるんだし。んっ……。ご主人様の匂い、段々濃くなってきてるね♡ この匂い、私大好きだよぉ♡」
「おう。では、わしのことも桔梗と呼んでくださるかな、桃香殿。ふふっ……。それにしても、立派なものよ。こうして指で奉仕しているだけでも、感じてきてしまう。女殺しとは、これのことを言うのでしょうなあ」
桔梗の顔が赤い。
酒以上の変化を、自分がこの女にもたらしているのか。酌を返しながら、曹操は笑んでいる。多数の指で弄ばれている男根は限界まで勃起していて、ふしだらな滑りを分泌していた。
「おちんちん、びくびくってしててちょっとかわいいかも? えへへっ、もっともーっと気持ちよくしてあげるからねぇ♡」
「うむぅ……。この雁首の高さ、中に迎え入れたらどうなってしまうことやら。一刀殿。後から、密かにお邪魔しても?」
「望むところだ。しかし、覚悟しておけよ、桔梗。おまえのような女、きっと簡単には手放せなくなる。俺は、欲深い男なのでな」
「んっ……。わしのような老骨でも求めていただけること、嬉しく思いますぞ、一刀殿」
桔梗の瞳。少し、潤んでいるようにも見えていた。
こんな場でなければ、今すぐにでも唇を奪ってしまいたい。そのくらいの魅力を、曹操は様々な部分で感じさせられている。
「もうすぐ、出そうなのかなぁ? くちゅくちゅ、とっても気持ちよさそう。ねっ、ご主人様?」
「ああ、桃香。このまま、続けてもらいたいな」
「だってぇ、桔梗さん? がんばって、おちんちんさんにびゅーしてもらおっか♡」
「あははっ。やはり面白き御方だ、桃香殿は。どれ、最後は周りを汚さぬように、種を飲んで差し上げたらどうか」
桔梗のしてきた提案に、桃香がこくこくと何度も頷いている。
二人の協同作業が最終局面を迎える。手による激しい奉仕。先走った汁を巻き込み、淫猥な音を奏でている。
痺れ。下腹部を駆け抜けていく。射精がはじまるのを察したのか、桃香が温度の高い口内で男根を包み込んでくる。その新たな快感もあって、曹操は思わず小さく声を洩らした。
「むっ、ぐぷっ、ふぐっ……!?」
「ははっ。どれだけ出されているのですか、一刀殿? あれほどまでに愉しそうにしておられた桃香殿が、かなり苦しそうにしておられますぞ?」
「んっ、んぐっ、ごきゅっ、むふぅ……♡」
大胆に喉を鳴らしながら、桃香が吐き出された精液を嚥下していく。
もっと深く咥えてほしくて、軽く後頭部を手で抑えた。ちょっと苦しそうに咳き込む桃香。濁流は、まだ喉奥を犯している。
「ぐむっ、むっ、ふむぅ……♡ ごくっ、くちゅっ、むむっ」
抑えるだけだった手を、徐々に労るような動きに変えていく。
少し汗ばんだ桃色の髪。ゆっくりと梳いてやると、精液で頬をふくらませたまま、桃香が歓喜の声を洩らした。
「むふふー♡ くぷっ、んっ、くっ、んぐっ♡」
「なるほど。女の手綱の握り方を、一刀殿はようよう心得ておられるようだ」
酒杯を片手に、桔梗がほほえんでいる。
魅惑的な佇まい。空いた手を握ってやると、その表情はより妖艶なものに変化するのだった。