頭を、撫でられている。そんな感覚を受けながら、曹操は目を覚ました。
主張の強すぎない、香のかおり。手指から足先まで、神経が安らいでいく。撫でられ、抱きしめられ、覚醒したての意識が、また眠りへと誘われていくようだった。頭にあてられた手のひら。また、ゆっくりと動いていく。目の端に、涼しげな色をした髪が映っている。夏侯淵に甘やかされるのは、嫌いではなかった。
身じろいでみると、腕のあたりで乳房の柔らかさをもろに感じることができた。洛陽に来てからは畏まっていることが多かったから、たまには好きにさせてやろうと曹操は気を許している。
「ン……、
「もう起きてしまうのか、一刀? わたしとしては、いま少しこのままでもよかったのだが」
やって来るのは、優しげな口づけ。乾いていた唇が、夏侯淵の唾液によって湿りを帯びていく。
こちらからは、なにもしてやる必要はなかった。唇に挨拶をしてから、侵入してくる夏侯淵の舌。温かい。興奮をかき立てられるというよりは、目覚めを補助するかのような動きだった。やんわりと頭に触れてくる手のひらに、夢の世界へと押し戻されそうになってしまう。
「ふっ……。なんだ、こちらはすっかり元気になっているようだな。あむっ、んちゅう……」
「仕方あるまい。秋蘭のしてくれることが、心地良すぎるのだよ」
下腹部に張りを感じている。朝勃ちを通り越して、男根はすっかり反り返っているに違いなかった。微笑する夏侯淵。肉感のある腿が、勃起した男根をゆるやかに擦っている。着物越しだろうが、肌の温もりがよく伝わってきていた。
「それは、すまないことをした。起きがけの一刀のことを、くすっ……誘惑するつもりはなかったのだが」
「浅ましいのは、男の欲だな。なんせ、好きな女が近くにいるだけで、こんなにも張り詰めてしまうのだから」
「ふふっ、それもよいではないか。お前に愛されることが、我らにとって至上の喜びなのだよ。んっ……」
しなやかな指。男根に絡みつく。くびれの部分を重点的に愛撫しながら、緩急をつけて快楽を与えようとしてくるのである。
こうした強弱の加減は、やはり夏侯淵が図抜けていた。微笑みに、妖艶さが垣間見える。幾度も肌を合わせている相手だけに、どこを責めればいいのかよく理解しているのだろう。
夏侯淵の青い髪。それを曹操は、ぼんやりと眺めている。外からは、雨音が聞こえていた。鈍色の空。天気の悪さもあって、今朝は陽光を感じることができないでいた。
地面を打ち付けるような音。じっと耳を傾けていると、なんとなく心がざわめいてしまう。亀頭を愛撫する手を強めながら、何度も舌を吸い上げてくる夏侯淵。自分の乱れかかった心情に、気がついたのだろうか。舌を吸う音が、雨粒が地面を叩く音色に重なっていく。焦燥感のようなもの。小さな粒子の集まった砂のごとく、流されていった。
「こんなに熱くしおって……。んっ……、感じているのだな。一刀……はあっ、ちゅう、ちゅぱ……っ」
「ン……、むっ……。秋蘭の指になら、飼い慣らされてしまってもいいとさえ思えるときがある。そのくらい、お前の閨房の
「貪欲な主君を満足させるのは、そう簡単なことではないのでな。だから、わたしだって日々それなりの努力はしているのさ。しかし、飼い慣らすとなれば話は別だろう。姉者も間違いなくそうであろうが、我らはあくまで曹操さまの、一刀の従者でありたいのだ。そうはいっても、愛を注ぐことを抜かるではないぞ? 姉者ほどではないが、わたしだって嫉妬するときくらいはあるかもしれぬ」
いじらしい言葉。全身を覆っていた疼きが、一気に甘美な痺れへと変化していった。男根を絞り上げる指。段々と、激しさを増していっている。夏侯淵の感情。それが、愛撫する手を通じて伝わってくるようでもあった。
「言葉に出させた時点で、俺の負けかな。くうっ……、いいぞ秋蘭」
「一刀のモノ、ひくひくと脈打っていて……。んっ、それに……、大きくなりすぎて苦しそうでもあるな。だったら、こうされるのはどうだ? ほら、もっと気持ちよくなってしまえ……ッ」
二本の指で作られた輪。それが、夏侯淵の気持ちひとつで窄められていくのだ。加えて先走りを巻き込んでいるせいか、滑るような感触が肌の上に生まれている。はばからず、曹操は声を洩らしてしまっていた。
張り出した雁首の段差を、指が何度も往復していく。その度に男根は我慢汁を溢れさせ、淫靡な光沢を増していくのだ。気持ちいい。夏侯淵の絶妙な手管のおかげで、素直にそう思えてしまう。なにもかもが、射精に向けて働きかけてくる。そんな気さえ、してくるのだ。
「いいぞ、一刀……。ふふっ、子種がもうここまでせり上がってきているのだろう? さあ出せ、わたしの手の中にぶちまけてしまえっ……♡」
「はあっ、くうぅ……っ」
尿道につまった精液。それを吐き出させようと、絞り出すような動きで夏侯淵が責め立ててくる。扱く手を緩める気など、少しもないようだった。
ぐちゅぐちゅと音が鳴っている。竿と亀頭を激しく擦り上げられ、自分ではどうにもならないくらい痺れは強くなってしまっている。もう、限界か。そう思った瞬間、一段と強烈な快楽の波がやってきた。これまで触れられてこなかった裏筋。指の腹で愛撫され、男根全体が甘美な悲鳴を上げている。してやったり。夏侯淵の表情は、そんな風に歪んでいる。
「秋蘭、ぐおぉお……っ!」
「ああっ、すごいぞ……。ふふっ、存分にイッてしまえ♡ んんっ、一刀……♡ そんなに、逸物を暴れさせるでない……っ♡」
堰を切る。まさしく、現状はその言葉通りなのだろう。弱点を入念に刺激され、堪えきれなくなった男根。夏侯淵は、爆ぜた亀頭を両手で懸命に包み込んで、精液を逃さず受け止めようとしている。
想像していた以上に、自分の身体は昂ぶっていたようだった。手で作られた覆いに男根の先を押し付けながら、濁った欲望の塊を吐き出していく。痺れは、まだ続いていた。
「んっ、こんなっ……!? はあっ……、そんなに腰をぶつけられては、大切な子種がこぼれてしまうではないか……♡ んっ、ひぃあぁあっ……♡ まったく……どれだけ射精するつもりなのだ、一刀は♡」
「出せと言ったのは、お前なのだからな。それよりも秋蘭、舌を出さないか」
「ふふっ、これでよいか? ふむっ、ン……♡ ちゅう……ちゅく……♡」
愛する女の唾液を味わいながら、手の中を精液で満たしていく。雨の音。先ほどよりも強くなっているようだったが、もうそれどころではなくなっていた。夏侯淵の子袋に注いでいるつもりで、精液を出し続ける。熱い吐息を感じているのは、お互い様なのだろう。
たっぷりと射精したせいで、寝台がいくらか自分の汁で汚れてしまっている。それを見て、ふと思いついた。
「せっかく、それだけ出したのだ。余さず飲んでくれるのだろうな、秋蘭?」
「ふふっ、いいとも……。すんっ……、んあぁあっ♡ ほんとうに、すごい匂いだ……♡ それに、見るからに濃厚そうで、んんっ……♡」
籠のように丸まっていた夏侯淵の両手が、開かれていく。表れたのは、独特の粘つきをみせる雄の子種だった。
その匂いをしっかりと確かめてから、夏侯淵は口を近づけていった。赤い舌が、僅かに覗いている。妙な興奮。それを、曹操は感じていた。
「ちゅう……♡ んくっ、こくっ……♡ ああっ、精液が喉に絡みついて、これはなかなか……♡ じゅるるっ、じゅちゅっ♡」
「ははっ、いい飲みっぷりだな。俺の出したものは旨いか、秋蘭?」
「ああ、たまらないよ。これほどまでに甘露な飲み物は、たぶんこの世に二つと存在しないのだろうな……。ずずっ、じゅるぅうっ……♡ んはあ……、ちゅうぅうぅう……っ♡」
顔を赤らめながら、夏侯淵はとろみのある液体を嚥下していく。さすがに、恥じらいがあるのだろう。それでも、精液をすすり上げる淫猥な音が室内に響いている。まともな食事の最中では、決して聞くことのできないような音。手を傾けるだけでは簡単に落ちてこないために、どうしてもそうする必要がでてくるのである。
「んぅ、くちゅっ……♡ んむっ、ごくっ……♡ はふうっ……♡ まだ、こんなに……。あむっ、ン……ちゅうっ、はむっ♡」
そのままでは飲み込みにくいのか、精液を口に含んでは、夏侯淵はそれを数回に分けて咀嚼しているようだった。口内は、さぞ濃密な雄の味で満たされていることだろう。
「噛んでいるところを、隠さずに見せてみろ。ほら、まだまだ残りはあるのだ」
「んっ、ふぁい……♡ あむっ、くちゅっ……♡ もご、ン……、れろっ……♡」
おずおずと開かれていく唇。上下の顎を繋ぐようにして、白い粘液が何本も糸を引いている。夏侯淵はそれを舌の動きでこそぎ取り、歯ですり潰して飲み下していくのだ。
扇情的な光景。出したばかりで少しうつむいていた男根に、はっきりと硬さが戻っていく。手のひらに残った精液を舐め取る夏侯淵。残滓さえも、余さず体内に取り込むつもりなのだろう。
「ふうっ、んっ、ちゅむ……♡ はあっ、んくっ……♡ むっ……、この気配は、
言われるがままになっていた夏侯淵が、なにかに気がついたように顔をあげた。
にわかに鋭く変化していく視線。丁度、手をきれいに舐め終わったところのようである。
扉の向こう側から、何者かの気配がしている。紅波ほどの身のこなしがあれば、まったく悟られずに入室することすら可能なのだと思う。それでも、今のようにわざとらしく物音を立てているのは、ひとえに自分の言いつけを厳守しているからに過ぎないのだ。
「紅波、おまえか」
「はっ。殿に、至急申し上げたき儀がございます。
「ああ、もちろん構わないとも。こちらの格好は、少々見苦しいかもしれないがな」
扉が開かれる。鮮血を浴びたような、紅波の長い髪。それが、ふわりと舞っている。
「なるほど、そういうことでしたか。秋蘭殿がご一緒だということは、声にてわかっておりましたが」
「わたしのことは、気にしなくともよい。殿、お立ちくださいますか。急ぎの用件となれば、身支度を済ませておかなくてはなりますまい」
「そうしてくれ、秋蘭。それで紅波、なにがあった」
床に片膝をついている紅波。そのすぐ前で立ち上がったから、図らずも局部を見せつけるような格好になってしまっている。ちょっとしたむず痒さを感じながら、曹操は紅波に話を続けるよう促した。
「再三、大将軍からの要請を無視していた董卓が、いまになって軍勢を洛陽に向けて進発させたようなのです。物見してきましたところ、先陣を務める騎馬隊からは闘気のようなものを感じられました。当の大将軍はなにも知らず、ようやくの到来を喜んでいるそうなのですが」
西方の叛乱鎮圧にあたっていた董卓。それを、何進は少し前に招聘していたのだ。
戦地に向かっていたこともあり、董卓は麾下に多くの兵卒を抱えている。それに、董卓自身が涼州の出ということもあって、良質な馬を軍に大量に組み込んでもいる。実戦経験も積んでおり、かなりの強兵揃いという噂だった。
洛陽近辺までやって来ると、そこに董卓は陣を構えた。入城することも、軍を解散させることもしない。何進の制御下から脱しているのは、誰の目にも明らかだった。
「あいも変わらず、呑気なことだな。董卓の軍勢は三万を越えている。それも主力は、荒事を得意とする涼州兵ばかりだ。なにかあれば、戦慣れしていない近衛兵など一蹴されてしまうというに……。秋蘭、すぐに兵たちのもとへ向かうぞ。紅波は、
「承知いたしました、殿。それでは、失礼いたします」
曹操から下知を受け取ると、紅波はさっと姿をくらませてしまった。
洛陽には、夏侯淵と曹純、それから趙雲だけを連れてきていた。夏侯惇では、宮中の息苦しさに音を上げてしまいかねない。そうした考えを加味した、人選なのである。
具足を着用すると、曹操は兵たちのいる営舎まで駆けた。今日は趙雲に監督を命じてあるから、準備は滞りなくできているはずである。
「お待ちしておりました、主よ。して、どうなさいます。わが方の兵は気力充分。董卓の兵を野戦にて迎え撃つのも、一興ではありましょうが」
「それは、無謀というものだろう。董卓が本気で都を襲うつもりなのであれば、俺の麾下だけで食い止めることなど不可能なのだよ。まずは西園軍がしかとまとまり、帝の御身だけでもお守りしなければならないのだが」
董卓軍の動きを知らされても、趙雲の態度は平然としていた。肝の据わり具合は、さすがといってもいいだろう。指揮する将さえ動じなければ、兵は勇んでついてくるものだ。そのことを、趙雲はよくわかっている。
「ええ、そうでしょうな。それで袁紹殿には、話を通されたのですか? 悔しいことですが、あの方のご命令がなくては、いまの西園軍は結束できぬでしょう」
「いいや、まだだ。俺が行って直接話をつけなければ、あれは聞こうともしないだろう。とにかく、急がなくては」
今朝方感じた焦燥の正体は、これだったのか。いまさら悔いても仕方のないことだったが、董卓のことを甘く見すぎていたのかもしれない。自分の力の小ささに、曹操は
「大変です、兄さん。今しがたのことですが、宮中に兵が乱入しているとの報告がありました。それも、率いているのは袁術殿なのだそうです」
「ちっ……、袁術だと? まさか、董卓の調略の手はそこまで伸びていたというのか」
曹純から受けた報告に、曹操は顔を歪ませた。やられた、という思いばかりが募っていく。
袁術には、従姉である袁紹以上にうかつな部分があった。自身の利になるとみれば、すぐに飛びついてしまうような性格をしているのである。そこを、董卓は上手く担いだのだろう。
「どうやら、袁紹殿と語らっている暇はないようですな。殿、ご命令を」
「そのようだな、秋蘭。
「御意です、主よ。誰の兵であろうと、わが槍にて見事打ち払ってご覧にいれましょう」
事は、想定以上に早く進んでしまっている。董卓の到着前に帝を確保できなければ、この戦は負けなのだ。
具足を打ち付ける雨。曹操は騎乗すると、すぐさま麾下の兵に向けて号令を発した。趙雲は、もう先頭に立って乗馬を駆けさせている。
袁紹や、ほかの西園校尉たちも動き出しているとみて間違いないだろう。その誰もが、何進を守護しようとは考えていないはずだ。狙うは、帝ただひとり。その一点においては、意思は統一されているといっても過言ではないのである。
ぽっかりと開いた、乱世の口。われ先に飛び込まんと、群雄たちは気炎を上げている。