早朝から兵による屯田の監督を行い、それからは時間の許す限り村落の様子を見て回った。
収穫の
豊かに実る稲穂。涼やかに流れる風。なにもかもが、機が熟したと囁いてくるようだった。
絶影がいななく。この寂寥感は、どこから来るものなのか。夕陽の眩しさに眼を細めながら、曹操は思った。
農政に関わる現場ばかりだから、この日は
自分ひとりだと、どうしても為政者としての意見が先に立つ。物怖じせずに考えを具申してくれる誰かが、そばにいてくれるかどうか。どれほど優れた君主だろうと、行く末を決めるのは結局その一点になる。
「この国に流れる一時の平穏を、俺は自らの手で打ち壊そうとしている。喜雨からしてみれば、もっとも唾棄すべき種類の人間なのであろうな」
「そうだね。うん……。戦争を起こすし、人も殺す。そこだけで考えれば、あなたは間違いなく最低で最悪の人でなしだよ、一刀さん」
前方に拡がる田園風景を見つめたまま、喜雨はそう吐き捨てた。
自分が言わせたような悪辣な意見だが、それでいいと思った。
政権の中にも、民衆の側に立って実務をこなす人間は必要になってくる。権謀術数を得意とする母親とは違い、喜雨は実直に農政の知識だけを磨き上げているのだ。それだけに、実際に耕作を行う民からの信頼は格別のものがある。
「愚かしいものだな、ほんとうに。すべての人が、ただ穏やかであることを享受できるわけではない。闘い、敵味方の血を流す。その上で得た平穏でなければ、満足できないような仕組みになっているのだよ。そうした意味では、下郎と斬り捨ててきた連中となんら変わりがないと言っていいのだろう。孫堅も、この俺もだ」
喜雨はなにも言ってくれない。
先ほどから同様、ただじっと一点を見つめているだけだった。
それでも、時間は流れていく。経過と共に吹きつける風は冷たくなり、やがては雰囲気を剣呑なものに変化させるのだろう。
「宿を確保するように命じてある。別々に過ごしたいのなら、早く申し出るのだぞ」
それだけ言って、立ち去るつもりだった。
どうして、このような話をはじめてしまったのか。自分でも、完全に答えが出ているわけではなかった。
前方を向いていた喜雨が、視線を空に向けている。外した眼鏡。右手に掴まれていて、腕は眼のあたりを擦っている。
「ボクが……。ううん、ボクだけじゃない、か。これだけ多くのみんなに支えられているあなたが、最悪の人でなしになれるはずがない。母さんはあんな人だけど、曹操孟徳の覇道を真剣に信じているんだ。だからボクにも、あなたの築く未来を信じさせてよ、一刀さん」
搾り出したような声。
しばらく、顔は見てやるべきではないと思った。
孤高であろうなどと思ったことは、徐州戦後からは一度もなかった。
自分の強みはどこにあるのか。子を授かり、周囲との関係性がいっそう増した今となっては、わざわざ探り当てるまでもないことだった。
最低最悪を転じ、最高最善となす。
夢物語だと断ずるのは容易いことだった。だが、自分を信じてくれる者たちが、こんなにもそばにいる。ゆえに、どんな苦境にも抗える。誰が相手だろうと、信念で貫き通すことができる。
絶影が再びいななく。今度は、言いようのない寂しさを感じることはなかった。
†
村の空き家を借りきっただけの宿に着き、喜雨の手料理で腹を満たした。
採れたての野菜を中心とした献立で、素材そのものを活かした純朴な味が、生きることの尊さを再確認させてくれるのだ。
原点への回帰。喜雨によるもてなしは、その部分が大きかった。
なんのために生き、なんのために闘うのか。決して、野心や権力に溺れてはならない。単なる食事だけではなく、そうしたごく当たり前のことを噛みしめるための時間でもあるように、曹操には思えていた。
「馳走になった。いいものだな、こうした食事も」
「だったら、よかった。肉付けがいけないことだとは言わないけど、それに夢中になって贅肉を抱えすぎるのはよくないからね。なんで、時々はこうやって」
「必要なのだな、削ぎ落とすことが」
「うん、そうだよ。気に入ってもらえて安心したよ、一刀さんにね」
頷いた喜雨と一緒に、食器を洗い場まで運ぶ。
そこまでしなくていいと嗜められたが、そうするべきだと思ったのである。無駄な手間をかけさせまいと、いつも以上にきれいさっぱり食うことを心がけていた。行動は、口ほどに物を言う。そして、どれだけ口にしようとも、実際にやらなければ言葉は意味をなさないのだった。
ゆったりとした時間を過ごしたせいか、普段よりも早く睡魔に襲われた。いつでも眠れるように、寝床の準備はとうにできている。
喜雨に断りを入れると、曹操は板張りに重ねた布を敷いただけの寝床に身体を横たえた。
すぐ近くから、木製の器を洗う音が聴こえる。それが妙に心地よくて、気持ちが安らいだ。
ひとつ、ふたつ。時を数えるのも面倒になるほど、意識は瞬時に混濁していった。
「んっ、んしょ……」
着物同士が擦れる感触で眼が覚める。
ほんとうにすぐ眠ってしまったようで、あれからどのくらい経過しているのか、なにもわからなかった。
「あ。ごめん、起こしてしまったのかな」
「いい。それよりも、同じ寝床で構わないのか?」
「んっ……。なんというか、今夜はそういう気分なんだ。けど、ボクが一刀さんの安眠の邪魔になるんだったら、すぐにでもどくから」
外して床に置かれた眼鏡。移動しようと手を伸ばした喜雨の腕を、曹操は掴んでいた。
生まれた感情は、困惑などではない。喜雨との付き合いは短くないから、そのくらいの判別はできているつもりだった。
硬直する身体を引き寄せ、額を合わせた。
幼い男女の戯れなどではない。散々待たせた気もするが、自分の生にとって、喜雨はあるべきひと欠片なのだという確信を抱いている。
抵抗はなかった。むしろ、肌のあたたかさをより感じ合えるようにと、喜雨がおそるおそる顔を寄せてくる。
「喜雨が小さかった頃は、陳家に遊びに行くとこうして同じ寝台でよく眠ったな。妹が増えたようで、うれしかったことを覚えている」
「純粋だったな、あの頃は。母さんがあなたを家によろこんで迎える理由。そんなの、子供心に理解できたら逆におそろしいよ」
思い出話をしながら、さりげなく唇を合わせた。
喜雨の全身に緊張が走る。それを手で揉むことで抑えながら、粘膜を合わせる感触を愉しんだ。
「あっ、ふはっ……。唇でするのって、こんな感じなんだ。んむっ、んっ」
華奢な身体を強く抱きしめる。
喜雨の反応は悪くなかった。衣服の間に手を差し入れ、無造作に乱していく。指。時折やわらかなものに触れていて、その度に洩れる喜雨の初心な喘ぎが、くすぶる情念の炎を大きくする。
朱里や、鈴々の相手をするのとはまた違う。母親とは文字通りの長い付き合いで、喜雨のことも幼い頃から知っているのだ。それだけに、ようやくその時が来たという気分になる。
「はっ、あっ、ああっ……。ボクの裸、一刀さんに見られてる。すごく緊張するのに、母さんはこんなことを何度も」
正直に言うと、まともな灯りがないせいで、すべてが明らかになっているわけではなかった。
本来、日に焼けていない部分は、母親譲りの白絹のような色をしているのだ。
それでも、自分に見られて恥じらってくれていることはうれしかった。小ぶりながらも張りのある乳房。舌を這わせ、乳首の周辺を焦らしていると喜雨に頭を抱き寄せられた。
感じている。いずれはあの母親のように、控えめなここも豊かに実る日が来るのかもしれなかった。だとすると、今の喜雨を存分に味わっておかなければ、という思いが湧いてくる。
求められるがまま、つんと勃った突起を口の中で転がした。強い吸い上げと穏やかな愛撫。その二つを使い分け、喜雨の快楽を引き出そうとした。
「はあ、んっ……。あの一刀さんが、赤ちゃんみたいにボクの胸を。んっ、ああっ……。こ、これ、気持ちいい。ちゅうって吸われてるだけなのに、先がどんどん熱くなって」
様子を観察しつつ、結合に向けた準備を入念に進めていく。
薄く生えた陰毛。その向こうにある扉を軽く開き、来訪を伝える。
「えっ……? か、一刀さん、んっ、やあっ、そんなとこっ……」
「こわいのか、喜雨」
「んっ……。そ、それは、平気。だって、他でもないあなたに、してもらっているんだから、あっ……!?」
「信頼してくれているのだろう? だったら、なにもかも俺に任せて、おまえは気持ちよくなることだけを考えていればいい」
「やっ、ちょっ……。ふわぁあっ、あっ……! か、一刀さん、あっ、ああぁああっ」
二点を同時に激しく責め立てると、我慢しきれなくなったのか喜雨は一際大きな声を発した。
ならば、と乳首をちょっと強く引っ張り、左右に捻って刺激を与えた。
「あぐっ……!? んあっ、やあっ、ふああぁあ」
これも、返ってくる反応は悪くなかった。
俄然乗り気になり、膨張した男根を喜雨の腹に擦り付ける。暗がりでもわかるくらい、熱い視線が注がれている。この醜悪なものが種を撒き、新たな命を育むのである。喜雨としては、その仕組みにこそ興味があるのかもしれなかった。
「うわ……。す、すごく大きくなるんだね、男の人のおちんちんって。子供の頃に見たのとは、色もかたちも全然違ってる。はあっ、んうっ……。これじゃボクの中なんて、すぐにいっぱいにされてしまいそうだよ」
「身体の方は、いつでもいけそうだ。あとは、喜雨」
「はい、一刀さん。ボクを、あなたの女にしてください。覚悟なら、きっと大丈夫。うんと前から、それだけはしてきたつもりだから」
「喜雨の言葉、うれしく思う。これは勝手な願いなのだが、親子仲良く俺を支えてくれ」
そんなことを言われると思っていなかったのか、喜雨の眼が驚いたように丸くなっている。
沈黙を肯定と受け取り、男根の先をかたい扉に押し当てた。
内側を覗く。愛液の量は控えめだが、乾いた大地というわけではなかった。
わずかな苦悶。かき消すように、唇を合わせた。
「ふぐっ、むっ、んむぅ……。はっ、はーっ、ちゅっ、ああぁあああ……っ」
未成熟な腟内をかき分ける。
必死になって男根にすがりついてくるようで、かわいいと思った。
子宮口を探るように押し当てると、そこから粘液がじわりと湧き出てくる。
本人は軽蔑するかもしれないが、交合の才すらもこの子は母親から受け継いでいる。現状では柔軟さが足りていないが、数回交わればそれも問題なく馴染んでくるという感覚が曹操にはあったのだ。
「んぐっ、うひっ……!? わ、わかるよ、ボクにだって。きてるんだね、一刀さんの太いのが。んはっ、んんっ、ふあぁあ……。お腹の奥、じんじんして気持ちいい。あっ、んあっ、ふう……。これが、身体を重ねるってことなんだね。ふふっ。やっぱりうれしいな、いろんな初めての相手が一刀さんで」
「燈にも、感謝しておかねばな。普通の母親であれば、自分と関係のある男に娘をやったりはしないだろう。あれはむしろ、早くものにしろと催促をしてくるくらいなのだよ」
「おかしな人だよ、ほんとに。だけど、あんな母さんでよかったと今なら思えるかな。それも一刀さんのおかげか……もっ!?」
油断しかけているところで、不意を打った。
言葉にならない声を喜雨が発する。一緒に、膣肉は気持ちよさそうに躍っていた。
「だ、だめっ、これぇ……。一刀さんのおちんちんに、おかしくされる。んぐっ、あっ、んーっ、んあっ……!」
宙をさまよう喜雨の両手。つかまえ、指を絡めると表情がぱっと明るくなる。
男根の味を覚え込ませようと、奥の奥に何度も亀頭をなすりつけた。互いの粘液が混ざり合い、ねちゃねちゃと音を立てている。喜雨の息が荒い。情欲の炎はこれでもかというくらいに燃え盛っていて、留まるところを知らなかった。
「か、一刀さん。ボクの身体、なんだか変なんだ。頭の中がぼんやりして、なんにも考えられなくなって……。だけど、あっ、はーっ、んうっ……! き、気持ちいいって感覚だけは、いくらでも研ぎ澄まされて……ぇ♡」
「ン……。喜雨が愉しんでくれているようで、なによりだ」
「ああっ、ふうっ、んっ、はあぁあ……っ。お腹の奥、すごく熱いよ。これも全部、一刀さんのせいなんだよね。ああぁ、あぐっ、あっ、あぁああ……!」
「かわいいな、喜雨は。これだけ素直な反応をもらえると、もっと責めたいと思ってしまう。いけないことだとは、わかっているのだが」
快楽に燃える身体が、軽い絶頂を迎えていることは察知していた。
その感覚を男根で押し拡げ、さらに浸透させていく。喜雨の下腹部。たまらず跳ね上がり、精液を搾るような動きをする。油断があれば、そこで果ててしまっているくらいの気持ちよさがあるのだ。
思わず笑みを浮かべ、曹操は涎を垂らしてぐったりとしている喜雨を抱き上げた。
座位の体勢になると密着がより強くなるから、襲い来る快楽からもそう簡単に逃げられなくなる。
観念したかのように肩に顎を乗せると、喜雨が言った。
「んうぅ、はふぅ……。嘘。ぜ、絶対思ってないよね、そんなこと。だからこんなに……。んふっ、あぁあっ、んあっ、あーっ♡」
「嘘などではない。ただ、愛する誰かと交わると、理屈をこえた衝動が生まれるというだけなのだよ。今も、そのせいで」
「やっ、んあっ、あっ……♡ そ、そういうのを屁理屈って言うんだよ、一刀さん。ああっ、もうだめっ……。下からこんこんって突き上げられるの、想像よりもずっとすごくて……っ」
二本の足が腰に絡む。
狙ってそうしているわけではなく、喜雨の本能が身体に働きかけているのだと曹操は思った。
精液を放つ準備はいつでもできている。未開発な子宮口。それでも懸命に口を開け、撒き散らされる種を取り入れようとしているのか。
「最後にどうなるのかくらい、ボクでも知ってる。だからきて、一刀さん。あなたのこと、精一杯受け止めてみせるから」
潤む瞳が、たまらなく愛おしかった。
口づけ、喜雨に向けて唾液を送り込む。抵抗はない。次々に求められるせいで、肌同士のつながりがより強くなる。
「くる、きちゃう……。はぐっ、んむっ、んんっ、はあぁぁああ……。ボク、ボク……っ」
「いけ、喜雨。余計な考えなどすべて捨て去り、俺だけを感じていればいい」
感極まったような声を喜雨があげる。同時に肉襞が男根に激しく絡みついて、先ほど以上に子種を吐き出させようとしてくるのだ。
結合部がもっとも強く密着する瞬間を見計らい、膣内に精を解き放った。
締め上げられる。喜雨の微細なふるえでさえも快楽として男根に伝わり、それは全身に隈なく拡がっていく。
「あ、ああ、あっ……♡ 出されてる。一刀さんの種が、ボクの中にたくさん撒かれているんだ」
こんなに喜色ばんだ喜雨の顔を見るのは、おそらくはじめてだった。
内側全部に濃厚な汁を擦り込ませようと、小さく腰を揺さぶる。そんな動きでさえ今の喜雨には耐えられない快感を与えてしまうのか、何度も嬌声を放つのだった。
†
散々愉しんだ肉穴から、男根を引き抜く。
ぽっかりと穿たれた中心。数えるのも面倒になるくらい注いだ精液が、塊となって流れ落ちた。
「うわ、すごいね……。一刀さんの子種が、こんなにボクの中から」
「壮観だな、こうして眺めると。ははっ。奥から、まだまだ出てくるぞ」
「ちょ、ちょっと、あんまり見るのはなし、だよ。いくら一刀さんにだって、なんでも許したわけじゃないし」
「それは、すまないことをしたな。だったら、喜雨」
寝転ぶ喜雨の隣に身体を着地させ、抱き合いながら唇を吸った。
交合による熱が、まだ全身を火照らせている。その心地よさを感じているのは自分だけではない。口づけをしているだけでも、その程度のことなら理解できてしまうのである。
「へへっ……。ボクにもできるのかな、一刀さんとの子供が。あ、最初に断っておきたいことがあるんだけど、いいかな」
「なんでも話してみるといい。どんな宴のあとよりも、この場にいる俺は寛大だといえよう」
「うん。あのね、気が早いって笑われるかもしれないけど、ボクの子供には戦をさせてほしくないんだ。もっとも、母親がこんなだから、そもそもそっちの才能が開花しないかもしれないけどね」
冗談交じりに喜雨が笑う。
けれども、内容自体は真剣そのもので、決して妥協したくないという意志が視線にもあらわれていた。
「子の未来は、その子のものでしかないのだよ。だから、絶対の約束を結ぶことはできないが、そうなるよう努力はしてみよう」
「ありがとう、一刀さん。そう言ってもらえるだけで、ボクは十分。我儘を聞いてもらえるだけでも、ほんとに嬉しいよ。あっでも、母さんとの間にボクの弟か妹が生まれたら、陳家はどうなるんだろう。やっぱり、そっちの血筋に家を継がせるべきなのかな」
「そうなったら、おまえ自身の家を持てばいい。燈には、燈のやり方がある。分かれていた方が、どちらにとってもやりやすい部分があるのではないかな」
「んっ……。ボクだけの家、か。わかった、考えておくよ、一刀さん。母さんとも、そのことについて話し合ってみようと思う。でも、そうだね。家族会議をするなら、旦那さまが一緒にいてくれた方がいいのかも」
この短時間の間に、随分色気のある振る舞いができるようになったと感心するほかなかった。
数多の可能性に満ちた世界。喜雨を優しく抱きしめながら、曹操はまだ見ぬ未来を思うのだった。