※この作品はR-18です。

恋姫異天記~曹操伝~   作:KKS

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三 旅の三人組

 長きに渡る、漢による支配。だが、それはもう限界を迎えようとしているのだろう。綻びは、表立って見え始めているのだ。

 衰退した国とは、こうも容易く乱れるものなのか。街道を歩きながら、曹操はひとり嘆息していた。

 熱を帯びた信仰は、時に民衆を過激な方向に走らせることすらあるのだ。

 太平道。新興宗教の発祥になど興味はなかったが、これが実に厄介な相手となった。

 決起した太平道の信徒たちは、みな揃って頭に黄色い巾を巻いていた。そのことから、俗に黄巾党と呼称されることもある。

 その、黄巾党による蜂起。それが、単なる一叛乱に終わらなかったのには、わけがある。それには、各地に信徒を配置した『(ほう)』の存在が大きかった。それぞれの『方』を太平道の指導者が率い、連携を取って反旗を翻す。これには、漢王朝の将軍らも手こずらされることとなった。その勢力は一時的にとはいえ華北一帯を覆い、洛陽すらを恐れさせたのだ。

 その当時、曹操も一軍を率いて、潁川郡での賊軍討伐に当たっている。

 やはり、力がいる。まともな力もなしに、なにを為すことができるというのか。寂れてしまった農村を横目に、曹操は拳を握った。持ち主を失い、荒れ果てた田畑。黄巾党を恐れて、逃散してしまったのか。あるいは、叛乱に加わった者すらいるのかもしれない。

 ともかく、民衆は鬱憤の捌け口を求めているのだろう、と曹操は思う。

 実際に仕えるまでもなく、中央の政治が腐敗していることなど、誰の目にも明らかだった。役人の間では不正が横行し、金さえ積めば官位ですら買えてしまう。

 曹家の力は、権勢をきわめた宦官である義理の祖父、曹騰によるものが大きかった。まさしく、濁った流れから生まれた力なのである。曹操は、今度は唇を噛んだ。それでも、これまでの行いを憎んでいるだけでは、なにも変えることなどできはしない。はっきりしているのは、そのことだけなのだ。

 苛立たしげに、曹操は乾いた地面を蹴りつける。もしこの場に秋蘭がいたのであれば、行いを茶化されていたのかもしれない。それとも、自分の気持ちに配慮して、なにも言わずにいてくれたのだろうか。

 この揚州は国の南部に位置しているだけに、温暖な気候をしている。江水から派生した流れによって水源も豊かであり、農耕をするのにも適している。叛乱さえ起きていなければ、もっと活気に溢れた光景が見られたはずだった。

 時々すれ違う、兵士たち。悪くない面構えをしている、と曹操は感心していた。

 きっと、ここの領主によく調練されているのだろう。装備は簡素だったが、堂々としていればそれなりの見てくれにだってなる。

 国の中心が腐っていたとしても、全ての人間が気概を捨て去ってしまったわけではない。皇甫嵩や盧植といった将軍は、乱の鎮圧のためによく働いたといえよう。結局、権力を操ることを好む宦官たちが、陣頭に立って戦をすることはなかったのである。

 張角。それが、太平道の首魁だとされている人物だった。あれだけの数の人間を動かしたのだから、かなりの求心力を持った人物なのだろう。

 だが、いくら教祖といえども、命に限りがないわけではない。あれは、いつの頃だったか。ともかく、張角が病を得て没したという噂が出回るようになっていたのである。

 顔を知らないだけに曹操には確認のしようもなかったが、信徒たちの間に起きた動揺は確かだった。

 各地の『方』が崩れていったのも、ちょうどその辺りからなのである。大規模な集団は、その多くが撃破されるに至っている。しかし、ここまで広がってしまった叛乱は、そう簡単に収まるものではなかった。

 数年。いや、十数年か。

 そのくらいの期間、各地の太守たちは残党との闘いに悩まされることになるはずだ。そうなれば、漢王朝の支配力はさらに弱まっていくに違いない、と曹操は思った。

 その中で、自分のことを客観的に見つめてみる。大きな流れのなかで見れば、ほんの小さな勢力にすぎなかった。けれども、曹操には確信があったのである。どこかで必ず、世に打って出るための機会が巡ってくる。そのときのための準備を、よく整えておかなくてはならない。そう考えると、自然と気力が湧いてくるのだった。

 

 

 到着した先の城郭で、曹操は一軒の酒家に入った。

 店構えは小綺麗で、昼間から盛況にやっているようだった。こういった場所では、案外有益な情報が手に入ったりもする。

 それに、歩き続けてちょうどのどが乾いてきた頃合いだった。

 

「そこの方々、相席をさせてもらってもよろしいかな? どこの席も楽しげにやっているだけに、自分だけひとりだというのは、どうにも寂しいではないか」

「む……? 急なことを申されるお方ですね。別に、私はそれでも構わないのですが。さりとて、他にずっと空いている席もあるのでは?」

 

 眼鏡をかけた女。開かれた瞳に、疑念が浮かんでいる。事がすんなりと進まず、曹操はそれもそうだと苦笑した。

 入店してすぐに目をつけたのは、三人組の女がいる席だった。本当に直感でしかなかったが、だらだらと飲み食いをしている客とは違う雰囲気を放っている。そんな風に、曹操には思えたのだ。

 それに、理由はもうひとつ。三人が、とびきりの上玉だったからだ。従妹に釘を差される程度には、曹操は女に目がなかった。

 

「くふふー。(りん)ちゃんは、感じませんかー? (ふう)は先ほどから、それはもうひしひしと感じているのですよお」

「なんですか、そのしたり顔は。だいたい、風はなにを感じていると……」

「はっはっはっ。殿方から、これほど情熱の込もった視線を向けられてなお理解できぬとは、稟もまだまだ修行不足なのではないか? そこな御仁、名をなんと申される」

「一刀だ。俺のことは、気軽にそう呼んでくれればいい」

「よろしい。ではお座りくだされ、一刀殿。しかし、われらのことをお選びになるとは、貴殿の女を見る眼は確かなようですな。わが名は趙雲、まずは一献受け取っていただきましょうか。さっ、こちらを」

 

 趙雲の引いた椅子に、曹操は腰を落ち着かせた。闊達としており、清々しさすら感じさせる女だった。

 引き締まった肢体に、白い着物がよく似合っている。壁に立てかけてある赤い槍は、おそらく趙雲のものなのだろう、と曹操は見立てていた。ほかの二人からは、武人が備える気のようなものを、少しも感じられないのである。

 袖振り合うも多生の縁。そのくらいの気持ちで、趙雲と名乗った女は、酒で満たした杯をさしだしているのだろう。杯を受け取り、曹操はそれを口もとで傾けた。乾いた喉に、とろりとした潤いが広がっていく。

 実に、甘露な味わいだった。

 

「ああ、これはなかなかにいい酒だな。やはり、趙雲殿たちに声をかけて正解だった。こうでなくては、旅はつまらないぞ」

 

 この国の風習に、真名というものがある。姓名や字とは異なる扱いをされていて、より神聖だと考えられているものだ。

 曹操にとって、一刀というのは間違いなく真名なのである。それを、知り合ったばかりの者に呼ぶように薦めている。普通であれば、ありえないことだった。

 

「うむ、一刀殿もよいことを申される。それでですが、こっちの半分居眠りをしているのが程立。先ほどから、ずっと気難しそうな顔をしたままなのが……」

「待ってください、(せい)。風ならばともかく、私は挨拶くらい自分ですることができますから」

 

 ついでだからと音頭をとって紹介しようとする趙雲のことを制し、眼鏡をかけた女が口を開いた。酒をまたひとくち含みながら、曹操は耳を傾けている。

 三者三様。その言葉が、よく似合う女たちだった。片目だけを薄っすら開けた程立と、ふと眼があった。

 言葉にするのは難しいが、底知れないものを持ち合わせているような気がして、曹操はじっとその眠たげな表情を見つめてしまうのだった。

 

「わたしは戯志才(ぎしさい)です、一刀殿。短い付き合いになるのでしょうが、よろしくお願いいたします。ほら、遊んでいないであなたも自分から挨拶なさい」

「んんう……? ふわあ……。お兄さんの熱々の視線がすごくって、つい眠ったふりをしてしまったのですよお。くふふ……、私は程立と申します。よろしくお願いしますね、お兄さん」

「戯志才殿に、程立殿だな。できれば、この出会いがよき縁となることを、願いたいものだ」

 

 いまのところ取り付く島すらなさそうな戯志才はともかく、趙雲と程立には値踏みをされているような気がしていた。

 曹操自身も、そういう意図を含んでの接触なのである。こんな時勢なだけに、有能な人物をどの勢力も欲している。今回の旅路で、そういった誰かと出会うことができればいいと考えていたのも、確かだった。

 

「趙雲殿たちは、この辺りの住人ではないのだろう? であれば、なにか目的があって旅をされているのかな。たとえば、見聞を広めるためだとか」

「ほう、よくお分かりになられましたな。当たりといえば、当たりです。漢の国は広しといえども、将来有望なご領主はそれほど多くはありませぬ。つまらぬ先に士官をしたのでは、この趙子龍の名が廃るというもの。ですから、こうやって見て回っているのですよ、各地を」

「なるほどな。うむ、宮仕えのくだらなさは、俺もよくよく思い知らされているところだ」

「ふむふむ。お兄さんも、どこかに士官をされていたようですね。最初は、すけべ心が服を着て歩いているようなお方なのかと思い警戒してしまいましたが、そうではなくてほっと一安心いたしました。あっ、稟ちゃん。手が空いているなら、料理の注文をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 なかなかに無遠慮な発言をする程立だったが、曹操は笑って受け流した。当たらずといえども、遠からず。ちろりと箸先を舐める程立の仕草は、どこか挑発的である。

 

「はあ……。そのくらい、自分でしてもらえませんか。しかし、このようなところをぶらついておられるということは、一刀殿もわれらと同じ浪々の身なのでは?」

 

 戯志才の言ったことに、曹操は頷いた。

 浪々の身というのは少し違うが、確かに仕官はしていない。故郷の風を肌で感じ、一日を読書で過ごすことも多かった。人には、そうした期間も必要なのではないか、と思える時がある。なににも縛られなければ、視野も広くもつことができるのだ。

 

「なにをするにも難しい時期なのだよ、いまはな。しかし、たまには故郷でゆるりと過ごすのもよいものだ。つかぬことを聞くが、戯志才殿はどこの出身かな?」

「豫州潁川郡の出身ですよ、私は。そうだ、風はともかく、一刀殿はなにか召し上がられないのですか?」

「ああ、気を使わせてしまってすまないな。だったら、酒の肴にメンマでも貰おうか。向こうの客が、どうにも旨そうに食っているもので、気になっていたのだ」

 

 ようやく、まともに相手をするつもりになってくれたか。幾分か表情の和らいだ戯志才を見て、曹操は内心喜んでいた。それに、豫州の出となれば自分とも縁がある。

 

「ふっ、それにしても豫州か。俺の故郷も、戯志才殿と同じく豫州でな。沛国(しょう)県、そこがわが郷里なのだよ。もっとも、それにも一応がついてしまうのだが」

 

 メンマと聞いて、趙雲のまぶたがぴくりと震えている。店の給仕をしている女が、皿に盛った材木状のメンマを運んできた。

 いい漬け具合をしているようで、旨そうな色合いをしている。一番先に反応を示したのは、やはりというか趙雲だった。

 

「うむ……、これはなかなか。あのう、一刀殿。そのメンマを、ひとつ拝借してもよろしいですかな。不躾なことだとわかりつつも、どうしても我慢がならないのです」

「ふふっ。可愛らしいお方だな、趙雲殿は。無論、なにも遠慮をすることはないぞ。こちらには、酒を飲ませてもらった借りがあるのだからな」

「むむむ……。メンマに乗じて私を口説かれるとは、一刀殿も油断のならないお人だ。いや、かたじけない。菜譜には載っておりませなんだゆえ、てっきりないものかと思い込んでおりました。それでは、ありがたく」

 

 趙雲は、殊更メンマが好物なようだった。こりこりした食感を楽しみつつ、酒をすぐさま口に含む。少々顔を赤らめているのは、酔いが回ったせいなのだろうか。飄々としているようで、案外初心なところがあるのかもしれない、と曹操は思っていた。とはいえ、幸せそうにメンマにかじりついている趙雲を邪魔してやるのは気が引けることだ。それに、いまは戯志才が話に乗ってきてくれているのである。

 

「ふむふむ。故郷を表すのに、一応がつくのですかー? お兄さん、ひょっとして口では言い表わせないような、悲しい過去を背負っていらっしゃるとか。あ、これも余計な発言だったかもしれませんねえ。風だって別に、他人の傷をぐりぐり抉りたいだとか、そういう趣味を持ち合わせているわけではないのですが。あぷっ、稟ちゃんー?」

「そのくらいにしておきなさい、風。返す返すも、無礼な連れで申し訳ありません、一刀殿」

 

 戯志才に、口もとを抑えつけられた程立。なにやら言いたげな様子ではあったが、声を上手く出すことができないようである。

 真面目そうな戯志才と、人を食ったようなところがある程立。凸凹としているようで、意外といい組み合わせだと曹操は思った。

 

「ああ、気にすることはない。程立殿が苦しそうだから、そろそろ解放してやってはもらえないだろうか」

「はふう……。助かりました、お兄さん。で、で、お話の続きをうかがいましょうかー?」

「期待させてしまって申し訳ないが、程立殿が思い描いているような、壮絶な過去を送ってきたわけではないのでな。こうして好きに生きられているだけ、俺はなにもかも恵まれているというべきだ。いまの世の中、肩身が狭すぎると思っているのは、俺だけではないはずだ。誰しも、風通しのいい国で暮らしたいと考えるのは、当然ではないか。そして、力ある者には、国を正す責務があるはずなのだよ。もっとも、あまり声を大にして言えることではないのだがな」

 

 辛いことがなかった、といえば嘘になる。

 それでも、自分のそばにはいつも夏侯姉妹がいて、献身的に支えてくれていたのだ。生きている限り、人は何らかの努力をする必要があるに決まっている。その積み重ねによって、現在の自分ができているのだ。そう考えれば、なにを悲しむことがあるというのか。

 柄にもないと思ったが、つい真剣に語ってしまっていた。戯志才と程立は、それを静かに聞いてくれている。こつん、と机になにかを置いたような音がしている。趙雲にも、なにか感じ入るような部分があったのかもしれない。

 

「ははっ。俺としたことが、酒の席だというのについ真面目ぶってしまったようだ。いや、すまない。どうだろう、戯志才殿。同じ州出身の誼だ。時間が空いた際には、是非とも我が故郷を訪ねてもらいたい。嫌でなければ、もちろん程立殿と趙雲殿もご一緒にな。もっとも、揚州で士官が決まってしまえば、それも難しくなってしまうのだろうが」

「なにを仰せになるかと思えば、水臭いことを。われらと一刀殿は、こうして酒を酌み交わした仲ではありませぬか。なれば、一席の友の誘いを断る趙子龍ではございませぬ。機会が来た折には、なんとしてでも(おとな)いましょうぞ」

「これは、嬉しいことを言ってくだされるのだな。では、それまでに旨いメンマを用意しておかなくてはならんか。何事も、張り合いがあってこそだ」

「おおー、やる気満々じゃないですか、お兄さん。でしたら、贅沢はいいませんので、風には飴を用意しておいてください。なるべく、甘さがちょうどいいやつを」

「まったく、調子がよすぎるのではありませんか、二人とも? しかし、一刀殿の考えておられることには一理ある、と私も思います。いまの都は、落ちるところまで落ちている、と言っても差支えないのでしょうね。宦官たちは腐敗し、対抗馬となるべき大将軍にもたいした力がない。帝もお辛いこととは存じますが、こんな情勢が生まれること事態、国が揺らいでいる確たる証拠なのです。政道の乱れが続いているから、太平道のような叛乱勢力があらわれるのでしょうね」

 

 この国は、新たな覇者を必要としているのではないか。これまでの経験から、曹操はそう強く感じているのである。

 この三人は、どこまで踏み込んだ考えをもつことができているのだろうか。漢の腐敗。すなわち、それは帝の血のが腐敗してきている、と言い換えることすらできるのである。

 程立の言葉は、どこまで真に受けるべきか迷う部分があった。とはいえ、そのくらいのことで喜んでくれるというのであれば、やらない理由も曹操にはないのだ。

 なにかしら準備しておくことを伝えると、程立は楽しげにそれを頭上の人形に報告し始めた。奇妙な光景ではあったが、旅仲間である戯志才と趙雲からすれば当たり前のことのようである。

 

「大変だぜ、オヤジさん! 黄巾の残党だかなんだか知らねえが、物騒な連中がこの街の近くまで来ているって話だ」

 

 店に入ってくるなり、男は厨房に向かってそう告げた。店主の反応を見ている限り、常連客かなにかなのだろう。

 動揺している客たちをよそに、趙雲は色めき立っているようである。すでに槍を手に持ち、駆け出そうとしているのだ。

 

「なんと。聞きましたかな、一刀殿。これは、悠長にしている場合ではないのかもしれませぬ。わが槍にて、ここは加勢を……」

「いや、あまり逸ってはいけないぞ、趙雲殿。この城郭(まち)には、人の姿をした狂虎が住んでいるという話だ。自分の獲物を奪われて、怒らぬ虎がどこにいようか」

「狂虎……。その言いよう、一刀殿は孫堅殿の戦ぶりを存じておられるようですね」

 

 怪訝そうに顎を撫でる戯志才。興味を惹いた。曹操は、直感的にそう思った。狂虎と呼ばれる領主ではない。戯志才の瞳は、はっきりと自分に向いている。

 この辺りを治めている者の名を、孫堅という。

 軍勢の精強さもさることながら、本人の強さがずば抜けているのだ。狂虎。散々に斬りまくって、震え上がる敵を真っ赤に染めてきたことから、そう渾名されている。孫堅の勇名が轟き始めたのは、黄巾党が暴れるようになってからのことであった。

 

(かぜ)のうわさというのは、どこにいてもそれなりに伝わってくるというものだ。とはいえ、孫堅殿はただの戦狂いではないとも聞く。いっそ、仕えてみるのもありなのかもしれんな」

 

 笑ってはぐらかしながら、曹操は立ち上がった。戯志才に止められるよりも早く、まとめて四人分の銭を店の者に握らせている。流浪の三人とは違い、金には余裕があるほうなのである。

 金庫番を自負している栄華(えいか)は怒るのだろうが、これが自分のやりかただった。

 

「どれ、少し見に行ってみるとしようか。大きな通りが、店をでてすぐにあったはずだ。出陣となれば、孫堅殿もそこを通過されるのだろう」

「私も、お供いたしましょう。稟と風も、来るのだろう?」

「ご飯を奢ってもらったお礼もありますし、そのくらいは付き合ってあげましょうかー。ほらほら、稟ちゃんもいきますよー」

「ちょっと、引っ張らないで……!? はあ、まったく。一刀殿、ご馳走さまでした」

 

 曹操を先頭にして、後ろには三人が続いている。

 戯志才ひとりが堅ぶつのようにも見えるが、これで自然と均衡が取れているようなのである。相好の崩れかけた表情をただしながら、戯志才が小走りに駆けている。その理知的な瞳を、曹操は好ましく思うようになっていた。

 春蘭と秋蘭。別れて行動している二人も、どこかでこの報を聞きつけているのだろうか。佩いた剣の位置を直しながら、店を出た曹操は蒼天を眺めている。

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