居並ぶ兵卒。戦陣特有の高揚が、伝わってくるようだった。
周囲には、見たことのない軍旗が林立していた。十字と、丸を組み合わせたようなもの。字ではなく、これはなにかを表す紋様なのか。それが、旗のすべてに描かれているのだ。
ここは、どこなのだ。
自分の身体が、他人に支配されているような感覚。これは、きっと夢を見ているせいなのだろう。
一瞬だけ訪れる目眩。その間に、場面がべつのものに入れ替わっていく。
「ああ、ここにいたんだね、
誰かに、声をかけられた。
聞き覚えのある声。振り返った先にいたのは、やはり見知った人物だった。
曹操。しかし愛紗は、どこか風貌に違いを感じてしまっている。着ている服が、まず見たことのないものだった。やけに真っ白く、陽光を反射して輝く上着。それに、表情も幾分か優しげであるように思えていた。歳に関しても、自分の知っている曹操よりもたぶんいくらか若いのだろう。
曹操に似た男が、近づいてくる。
不思議と、笑みがこぼれてしまう。夢のなかで、自分は曹操と同じ顔をもつ男と、ずっと懇意にしているのか。現実では、とても考えられないことだった。自分は
「これは、ご主人様」
夢のなかで愛紗は、曹操に似た男のことをご主人様と呼び慕っている。自分の意志とは関係なく、口だけが動いているようだった。呼ばれて、男のほうもほほえんでいる。
温かな感情。どうして、自分はこんな気持を得てしまっているのだろうか。そもそも、眼の前にいるのはほんとうにあの曹操なのか。そんな疑念が、次々に湧いて出ては消えていく。
出陣の時が、近づいているようだった。
感覚的にわかったことだが、先鋒を受け持っているのは、たぶん自分の手勢なのである。それで、曹操そっくりな男は、激励に訪れているのかもしれない。
「敵には、あの曹操がいる。わかっているとは思うけど、気をつけて」
「承知しております、ご主人様。この一戦で、やつらに北郷軍の精強さを見せつけてやりましょう。連合軍は、一枚岩ではありません。そこに、必ずや付け入る隙があるはずです」
「ははっ。それでこそ、愛紗だな。期待しているよ。だけど、無理だけはしないように」
夢の中の自分は、北郷軍と言ったのか。
記憶にない名称。それでも、十文字の旗を見上げていると、なぜだか心が熱く燃えたぎっていくのである。
それだけではなく、敵軍には曹操がいるようだった。混乱が、よりいっそう深くなる。自分と話している男は、感じていたように曹操ではないのだ。
北郷。それが、この男の名前なのか。
断片的でしかなかった欠片同士が、結びついていく。
北郷一刀。曹操の真名と合わせてみると、やけにしっくりきて、それが正解のように思えてくるのだ。表現しようのない確信。それが、愛紗の胸の内にはあるのだった。
視界。揺らめいていく。ここにきて、急激に意識が薄くなっていく。夢の終わり。ここが、そうだというのか。
息苦しさに、愛紗はもがいていた。自分とは、いったいなんなのだ。この夢は、なにを暗示しているのか。わからないことが、あまりにも多すぎる。
「うっ、はあっ、ふうっ……。北郷。北郷とは、なんなのだ。それに、わたしは」
目覚めた時には、寝台の上にいた。駆け巡る自問自答。そのせいで、軽く頭痛がしているようだった。
横になったまま、身体を少し動かしてみる。支障はない。それで、夢から抜け出したことを愛紗は理解していた。
寝ているのは、陣屋のなかだった。
曹操は、黄巾軍が音をあげるまで、締めつけを緩めないつもりでいるのだ。起伏を利用して構築された陣の堅牢さは見事であり、疲弊した軍勢ではまず落とせないような代物となっていた。
眠り始めてから、あまり時間が経っていないのだろう。陣屋内部は暗く、あたりも静まり返っている。起きているのは、交代で警固にあたっている歩哨くらいなのである。
近くでは、桃香と
「んっ、んあっ、ああっ……♡」
はじめは気のせいかとも思ったが、確かに声が聞こえてくる。
ここに寝ているのは、自分たち三人だけだった。耳を澄ましてみたが、鈴々の寝言ではない。残るは、桃香だけだった。
「一刀さん……♡ やっ、だめ、そんなっ♡」
性知識にうとい愛紗ですら、行為の内容を理解してしまえるほどの
確かめるまでもなく、桃香は曹操のことを想って、みずからの身体を慰めているのだった。
こんなことを知るくらいなら、あの夢の続きを見せられているほうがよっぽどましだった、と愛紗は唇を噛む。
桃香が、曹操に心を寄せている。そんなことくらい、わかっていたはずだった。だが、よもやこれほどまでに思慕が強くなっていたとは。
戦場での心労が、あるいは影響しているのかもしれない。いままで以上に、桃香は戦に対し果敢さを発揮しつつあった。そのこと自体は喜ばしい変化だったが、同時に桃香は心を苛んでいたのかもしれない。
「あんっ、やあっ♡ もっと、もっと触ってほしいの♡ 一刀さんの太い指で、わたしのおっぱい、もっと苛めてくれたっていいんだよ♡」
「くっ……。申しわけありません、
考えるほどに、逃げ場のない坩堝に閉じ込められていくようなのである。
自分や鈴々、それに義勇軍という存在が、桃香の選択肢を狭めてしまっているのではないか。もっと言うと、苦しめてしまっていることすらあるのかもしれない。
身ひとつで動けるのであれば、桃香はいまごろ曹操に帰順していてもおかしくはないのである。
曹操には、力がある。それに、乱世の平定を志してもいるのだ。その姿勢、闘志には、英雄と表現しても過言ではない力強さを宿してもいる。乱世の奸雄、とは言い得て妙な表現なのたろう。むしろ乱世を食い尽くそうとしているのが、曹操という男なのだ。
そんな曹操を慕っているのは、鈴々も同じだった。自分だけが、独立を保とうと躍起になっている。そんな気すら、いまとなってはしてしまう。
これまで、自分たちはずっとひとつの方を向いてやってきたはずだった。そこに、少しずつ食い違いが生じつつあるのか。
こんな思考を、得てしまうこと自体がおかしいのだ。きっかけをつくっているのは、間違いなく曹操だった。夢で見たあの男とは、異なる厳しさを備えている。苛烈に乱世を断ち切ろうとしているのが、曹操という男だった。
どうすれば、もっと桃香に寄り添うことができるのか。愛紗が思っていたのは、おそらくそのことだけだった。
「はっ、はあっ……。わたしは、愚かだな。こんな、こんなことで、なにがわかるというのか」
気づいた時には、胸に触れてしまっていた。
先ほどまでの夢。それに、知ってしまった桃香の痴態。その二つが、自分をおかしくしてしまっている。そうとしか、考えられなかった。
桃香は、どのような慰め方をしているのか。
無為に大きくなってしまっている、自分の胸。それを服の上から、やや乱暴に揉みしだいていく。感覚が、まだつかめていない。気持ちいいと感じるところまでは、到達していなかった。
「一刀さん♡ それ、そこ好きなのっ♡ そこ、クニってされると♡ んっ、ふあぁあっ♡」
「桃香さま、すごく気持ちよさそうにされていて。こうしてみれば、よいのだろうか……?」
鼓動。緊張によって、妙に高まっているようだった。
そばにいるのは、桃香だけではないのだ。こんな馬鹿げたことをしている自分を、鈴々に見られるわけにはいかない。その気持ちが快感を生むことを、愛紗はまだ知らなかった。
「これ、さっきと少し違う……。自分で擦っているだけだというのに、一刀殿に触れられていると思うと、あっ……んあっ♡」
自分の口から出た声だとは思えなかった。
左右の手。それを曹操のものに見立てて、乳房を揉んでいく。不快だとは、なぜだか思えなかった。桃香と一緒に、かわいがられている。そんな風に想像すると、興奮がまた一段と高まっていくのだ。
「あっ、ああっ……。一刀殿ならば、もっと強く握られるのだろうか? くそっ、こんなにも、もどかしく感じてしまうとは」
胸を覆っている部分の衣服を、緩めていく。
後戻りなど、とうにできなくなっている。乳房を指で絞り上げながら、乳頭に指で触れていった。しびれるような快感。それが、突起からじんわりと伝わってくる。
桃香は、自慰に夢中になっている。もれ聞こえてくるあえぎ声。かなり、感じてしまっているようだった。
「ひ、ひあっ♡ これ、いいよぉ……♡ おっぱいぎゅってされながら、おまんこくちゅくちゅってされるの、好きぃ……♡」
「ん、はあっ、ああっ♡ 桃香さまの声、いやらしい。こんなの、ずっと聞かされていると、わたしだって」
指に唾液をつけて、乳頭を責めていく。
あの曹操であれば、必ず執拗にやってくるはずだ。二本の指。勃起してつまみやすくなった乳頭をつまんで、刺激を与えていく。
考えられないほどの淫行だった。それでも、とめられない。気持ちいい。ぬめった指に、凝り固まった思考をほぐされていくようだった。
「やあっ♡ おまんこ、やらしい音しちゃってる♡ 一刀さん、そんなにしちゃやらぁ……♡」
「ここに触れると、わたしも桃香さまのようになってしまうのだろうか。一刀殿。わたしにも、教えてくださいませんか」
いないはずの曹操に、愛紗は語りかけてしまっている。
倒錯的な快楽。それが、毒となって全身に拡がっていく。下着をずらし、指で入り口に触れてみた。濡れている。話には聞いていたが、実感するのははじめてだった。
少しこわい。それでも、我慢することなどできなかった。唾液とはまたべつの滑り。指にまぶし、ゆっくりと挿入していった。声。思わず、もれてしまう。それを受けて、乳房も感度が増していくようだった。
「これ、こんなの、知りません♡ はあっ……。桃香さまは、このような快楽をずっと……」
関節ひとつぶんくらい、指が内側に入り込んでしまっている。
臆せずかき回してみると、知らなかった快楽に身体をもだえさせてしまう。こんな風になった自分を見て、曹操はきっと笑うのだろう。それとも、優しく髪を撫でてくれるのだろうか。握った手。大きくて、力強かったことを覚えている。
「ぐちゅぐちゅ、とまらない♡ 一刀さん……♡ ひゃあっ、一刀……さん♡」
「一刀殿は、ほんとうにいけないお方です。わたしや桃香さまをこんなになるまで惑わし、狂わせてしまうのですから♡ ああっ……。こんな、こんなこと、知るべきではなかった♡ それなのに、心地よさがあふれてくるのです♡ ん、はあっ、んあぁあっ♡ わたし、もう……っ♡」
身体が、どこかに登りつめようとしている。直感的に、愛紗はそのことを悟っていたのだ。
愛液があふれだす蜜壺。かき混ぜる指の動きは、いよいよ大胆になっている。いじられ続けているせいで、赤くなってしまった乳頭。そこから拡散されていく断続的な快感が、未熟な秘部の感度まであげていく。
もう、どうなったっていい。自分も桃香も、同じ男の指で絆され、限界まで喘がされているのだ。
感極まったような、桃香の声。それを耳にしながら、愛紗は愛撫の手をさらに強めていく。
「いいの、これっ♡ わたしイク、もうイクからぁ♡ 一刀さんの指で、最後まで気持ちよくなりたいのっ♡」
「んあっ♡ うあぁあっ♡ 一刀殿、そんなに強くされるとわたし、わたしはっ♡ はっ、はあっ……。んくっ、ふあぁあ♡」
身体全体が、甘美な痙攣に包み込まれていく。
声が、おさえられなかった。何度も秘部に指を出し入れし、快楽を貪ってしまう。浅ましい欲望。そう否定し続けてきたものに、自分は飲まれようとしているのかもしれない。
桃香のあえぎ声が、耳をついた。とろけきったなかに、ちょっとした悲しさがある。そう思えるのは、自分が桃香と近しい心境に至ることができているからなのか。挿入していた指。顔の前にもってくると、女の匂いが鼻についた。
武人としての生。そこには、快楽など必要ないはずだった。主君のかかげる理想のために邁進し、ただ武器をふるう。それだけで、いいはずだったのだ。
「眠られたのかな、桃香さまは」
すっかり静かになった陣屋の中。愛紗は、絶頂の余韻を感じながら寝返りをうっていた。
淫欲にまみれた汁の付着した指。口に含んでみると、背徳感から身体がふるえた。
「なにをやっているのだ、わたしは。んっ、ああっ♡ はあっ、一刀、どの……」
わたしは、いつからこんな風に変わってしまったのだろうか。変わってしまっても、よいのだろうか。
闇の中。見つめていても、答えが返ってくることはなかった。