ちょっとした湿り気の間に、少女の放つほのかな甘い香りが入り混じっている。
椅子に腰かけている曹操。その膝上を、徐晃の小さな尻が占拠してしまっていた。じっとりと濡れた髪。指で遊ぶと、徐晃はくすぐったそうに首を縮こまらせる。
ついさっきまで、関羽と鍛錬をしていたのだという。関羽からしてみれば、いまは自軍以外の将と武を競わせる格好の好機とも言えるのである。馬超が間に入ることで、それも円滑に進んでいるのだろう。意図的に閉ざしていた心。解かしたのは、やはり劉備なのだろうか。最近では、関羽が誰かと真名で呼び合うことも、珍しくなくなっていた。
「どうかな、
「はい、それはもう。
「えへへ、やったー。お兄ちゃん、シャン、愛紗にほめられたー」
「ふっ。香風も、愉しかったのではないか? 愛紗の闘いぶりは、
机を挟んだ先に座っている関羽。
その首筋を、真新しい汗が流れ落ちていく。張り付いた衣服の感触。関羽はそれが気になるのか、指で端をつまんでは風を送り込もうとしているのだった。
「んー。シャン、お兄ちゃんに身体ふいてもらいたい。だめ、お兄ちゃん?」
「ああ、いいだろう。布を取るから、膝から降りてくれるか、香風」
動きかけた徐晃。その前に表情を渋らせてみせたのは、おそらくわざとなのだろう。
関羽が、ちょっとほほえみながら右手を差し出してくる。握られているのは、布だった。後で、自分が使うつもりで用意していたのかもしれない。
「どうぞ、こちらをお使いください、一刀殿。ふふっ。香風は、どうやらそこを降りたくないようですし」
「気を遣わせてしまって、すまないな。だが、助かった」
「はい、どういたしまして。あっ、一応断っておきますが、しかと洗って清潔にしたものですので、安心して使っていただければ」
「ははっ。愛紗の生真面目さは、
関羽から受け取った布を使って、徐晃の身体を拭いていく。
湿り気の残る髪。汗のたまった首もと。腹のあたりを拭く時は、たわむれに愛撫のような動きを加えていく。かわいらしい、へその窪み。そこを指でくすぐってやると、徐晃はちょっと艶めかしさを含んだ声をもらす。
「んっ、ひゃあっ……。お兄ちゃん、そこくすぐったい……」
「ここが弱いのだな、香風は。しかし、あまりおかしな声を出すものではないぞ? 俺はただ、汗を拭いてやっているだけなのだからな。それに、愛紗も見ている前なのだ」
「はっ、はうっ……。んっ……。シャンは、お兄ちゃんにふいてもらってるだけ。だから、ちゃんと声、我慢できる」
「その調子だ。よし、次は腕を上げてみろ、香風」
「うっ……。愛紗に見られながらだと、ちょっと恥ずかしいのかも」
「ふむ……? 視線が気になるのであれば、わたしは少し席を外してもよいのだが」
「ううん、へーき。だって愛紗、お兄ちゃんとお話したくて、陣屋まできたんでしょ?」
「なっ……!? い、いや、それはだな」
戸惑いながらも、徐晃はおずおずと右腕を真上にあげていく。
柔らかな脇腹。そこを経由しつつ、じっとりと濡れた徐晃の腋に、曹操は布でくるんだ指を這わせていった。体型こそ子供じみているが、徐晃の肌は敏感そのものなのである。
強すぎない刺激。焦らすように、腋に与えていく。物足りなさに、徐晃は喘いでいるのかもしれない。小ぶりな尻。前後左右に揺れているのは、はっきりとした快楽を求めているからなのか。
感触に釣られて、男根が鎌首をもたげはじめている。自分を挑発するためには、どうすればいいのか。それを、徐晃はよく知っている。
「きゃっ、んうっ……♡ お、おにいちゃ……ぁ♡」
「反対側も、しかと拭き上げておかなくてはな。汗をためたままでいると、痒くなってしまいかねん」
「う、うんっ、そうだね。こっちもお願い、お兄ちゃん」
期待にふるえる声。ちょっとした愉悦を感じながら、曹操は湿り気を取り除いていく。
敏感な腋をくすぐられる感覚。それに顔を赤らめる徐晃を見つめながら、関羽が言った。
「ん……、こほん。少し、一刀殿にお伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「なにかな、愛紗」
「打ち明けるべきか悩んでいたのですが、つい先日、おかしな夢を見たのです。以前、一刀殿が見られた夢と、なにか関係があるのかもしれません」
「ほう、夢とな。続きを、聞かせてもらおうか」
「はい、それでは」
関羽の話に耳を傾けながらも、愛撫の手を強めていく。
しとどに濡れた内股。机で隠れているのをいいことに、大胆に指で触れていく。指先。感じている湿り気は、汗だけではないはずだった。下着越しに、幼い秘裂を押し込んでいく。すると、汗とは違うぬめりが、はっきりと指に付着したことがわかった。
男根を挑発する尻の動きが、明らかに激しくなってきている。圧迫と解放。それを繰り返すことで、徐晃は勃起を導こうとしているようだった。
いたずらには、いたずらで返してやるしかない。
薄っすらとふくらんだ、胸の輪郭。そこを布でなぞっていきながら、下腹部を包んだ下着の隙間に、指を差し込んでいく。
「んっ、ひゃわっ……♡ お、お兄ちゃん。そこ、あんまりしたら、だめだから……」
「あ、あははっ……。どうしてなのかわかりませんが、いまの香風を見ていると、妙に肌がざわめいてしまうのです。……っと、すみません。夢の、続きでしたね」
関羽も、徐晃の発する淫靡な氣にあてられてしまっているのだろうか。
それに、体面上は身体を拭いてやっているだけなのである。だから恥ずかしがって目を背けることはない、と関羽の真面目な本能が判断してしまっているのかもしれない。
「わたしの夢に、一刀殿があらわれたのです。いえ、もしかしたら、他人の空似なのかもしれませんが」
「俺が、愛紗の夢に? それは、光栄なことではあるが」
「もう、茶化さないでください。しかも、夢のなかのあなたは、わたしに曹操殿との闘いを命じられていたようなのです。加えて、朧気な記憶で申しわけありませんが、一刀殿の陣には、見知らぬ軍旗が多数かかげられていたように思います」
「それは、またおかしな夢を見たものだな。曹操ではない、べつの俺というわけか。父が聞けば、俺以上に興味を示すのやもしれぬな」
「ふむ。一刀殿の、お父上ですか?」
「これは周知の事実であるが、俺は幼少の時分、曹家に拾われているのだよ。だから、その時に拾われたのがまたべつの家であれば、そこで生きることになったのであろうな。ふっ。あるいは、どこぞで野垂れ死んでいたのかもしれんが」
「んっ、ふっ、はあっ……。お兄ちゃんは天からの授かりものだって、春蘭さまと秋蘭さまが言ってたよ。はっ、きゃわっ……♡ そこ、すごく、くすぐったいから……♡」
思わず、入り口で遊ばせていた指を強く押し込んでしまう。
たぶん、軽く絶頂してしまったのだろう。それに嬌声を噛み殺していることが、余計に快楽へとつながっているのかもしれない。事実、徐晃の下着はすでに愛液に塗れていて、幼肉は指をいやらしくしゃぶっているのだ。
掻くような動き。それで、膣内を何度か刺激してやる。耐えられているのは、さすがと言うほかなかった。ただし、愛撫を加えているほうの手は、徐晃の噴き出した愛液でべっとりと濡れている。
「天からの、授かりものですか。それで言いますれば、かつて
「ははっ。天の御遣いと申す者は存じぬが、乱世を平定するべしという思いは、俺も常に抱いているつもりだ。それとも、俺がその建前を名乗れば、麾下に入ることもやぶさかではないと言いたいのかな、愛紗は?」
「ご、ご冗談を。桃香さまは、乱世のならいにもがき、それでも前を向こうとされているのです。そんな主君を見捨てることなど、わたしにできるはずがありません」
「それが関羽雲長という、武人の生き方なのであろうな。よい、いま言ったことは、忘れてくれ」
「はっ。ですが、一刀殿がそうしたお方であるから、きっとわたしは……」
つぶやくような、関羽の声。
芳しい返事がこないとわかっていても、追い求めてしまう。
不可思議な夢。それは、自分と関羽をつなぐかけ橋となるのか。以前に自分が見た夢とは、いささか趣きが異なるようだった。それにしても、その根源はどこにあるのか、と考えされられてしまう。
天。その言葉も、これまでなにかと自分につきまとってきたものだった。天の先になにがあるのか、確かめてみたい。徐晃と、そんなことを語ったのを、曹操は思い出していた。
あえぐ幼裂。いまの徐晃には、天のことを考える余裕などないのかもしれない。それとも絶頂を向かえれば、軽くなった意識が高々と舞い上がり、天に肉迫することもあるのか。
妖しげな笑む徐晃。
感度を増した身体は、快楽を絶え間なく脳内に送り込んでいるはずである。
主張を強める雌の香り。それが、ここが現実であるということを、如実に示してくれている。
「んっ、ふふっ……。愛紗は、すっごく真面目なんだね……♡ でも、たまには力を抜いたほうがいいと思う。ねっ、お兄ちゃん……?」
「愉しみすぎだぞ、香風。おまえは、少し頭と身体を冷やしていたほうがよいのではないか」
「あっ、ええー? もう、拭くのはおしまいなの、お兄ちゃん?」
不満そうに口を曲げている徐晃を膝から降ろし、曹操は立ち上がった。まだ、絶頂したりないことくらいわかっている。無邪気な情欲。純粋さが、時に強さにつながることもある。
愛液を拭いた布をしまい込む。さすがに、そのまま返すわけにはいかなかった。
桶に張ってあった水で手を洗い、関羽の後ろに回り込んだ。美しい黒髪。輝きは、はじめて会った頃からなにも変わっていない。
「少し、髪に触れてもよいか、愛紗? なに、おかしなことはせぬ」
「は、はあ……? 髪に、ですか」
「乱れた髪を、梳いてやろうと思ってな。面白い話を聞かせてもらった礼とでも、言っておこうか」
「そのくらいであれば、まあ。しかし、やり方をご存知なのですか、一刀殿?」
「まかせておけ。きっと、うまくやってみせるさ」
「承知いたしました。そこまで自信をお持ちなのでしたら、おまかせいたします」
束ねられていた黒髪を
汗はほとんど乾いてしまっているが、それでも気をつけるに越したことはない。傷つけてしまっては、元も子もないのだ。
緊張の漂う肩。触れるのは、やめておいた。いまは、約定に従って動くべきだ、と心が言っている。それだけ、自分は関羽を大切にしたいと感じているのか。
「ほんとに上手なんだね、お兄ちゃん。シャンも、あとでやってもらってもいい?」
「見直したか、香風? 昔は、
妹のようにかわいがってきた従妹たち。
思い起こされるのは、懐かしい日々だった。どうあがこうと、自分は曹操孟徳でしかないのだ。迷いなど、どこにもありはしない。これまで重ねてきた足跡が、すべてだった。関羽の長い黒髪。整えてやりながら、曹操はそのことを考えていた。
「痛くはないか、愛紗? 櫛があれば、よかったのだが」
「ええ、平気です。むしろ、んっ……、心地よいと感じてしまうくらいで。それに、ですね……」
そこまで言って、関羽は少し押し黙ってしまう。
自分と関羽。ふたつの顔に、徐晃は交互に眼をやっている。やがて、関羽は意を決して話しはじめた。
「一刀殿にこうされていると、かつて兄上に髪を梳いてもらっていたことを、思い出してしまうのです。手付きはちょっと粗雑でしたが、それは照れ隠しだったのかもしれません。兄上は、優しいお人でしたから」
「愛紗にも、お兄ちゃんがいたんだね。けど、その言い方だともしかして……?」
「うむ。兄上と死に別れたのは、もう随分と昔のことでな。その頃は、まさか鈴々のような妹ができるとは、思いもよらなかった」
髪を梳く手を動かしながら、曹操は関羽の言葉に耳を傾けていた。
兄の死を、引きずっているわけではないようだった。大切で、消えることのない思い出。劉備という姉ができたいまでも、それは変わっていないのだろう。口調も、いくらか明るいくらいだった。
「……ン。兄君と重ねてもらえたことを、喜ぶべきなのかな、俺は」
「も、申しわけありません。一刀殿のお手を煩わせているというのに、兄のことを想起してしまうとは」
「いいや、気にすることではない。なんなら、もっと思い出に浸ってみてもよいのだぞ、愛紗? ははっ。俺で、兄君の代役になるとは思えぬがな」
冗談交じりに、そんなことを提案してみる。
思えば、兄と呼ばれる機会もかなり多くなっている。縁戚の者だけではなく、ここにいる徐晃もそうだった。
「えっと、そんな無礼なことをしてしまっても、ほんとうによろしいのですか、一刀殿?」
「愛紗の好きにするがいい。俺は、おまえに付き合ってやるだけだ」
関羽の声色。戸惑いのなかに、かすかな高揚が入り混じっているようだった。
黒髪の間から見える、白いうなじ。そこから、じわりと赤さが拡がっていく。顔をのぞき込んでしまえば、きっと関羽は兄と呼ぶことをやめてしまう。瞬時に湧き上がった感情には、そのくらいの儚さがあるのだ。
なるべく、優しくゆっくりとなるように髪を撫でていく。髪と一緒に、関羽の心まで解かしてしまいたい。そんな願いすら込めて、曹操は手を動かし続けている。
「へーきだよ、愛紗。お兄ちゃんは、みんなのお兄ちゃんなんだもん。とっても優しくて、でもちょっぴりこわいところもある。それが、シャンの大好きなお兄ちゃん」
屈託のない笑顔。先ほどまで宿していた淫靡さは、どこかに消し飛んでしまったようだった。
髪を梳く手を止めて、曹操は関羽が言葉を発するのを待っていた。
「あの、それでは、兄上……?」
「うむ。想像していた以上に、感慨深いものがあるな。愛紗にまで、兄と呼ばれる日が来ようとは」
「わたしも、同感です。どうして、こんなにもしっくりときてしまうのでしょうね。ふふっ。兄上の大きな手、すごく気持ちいい」
「しばらく、こうして撫でていようか。愛紗のがんばりを、俺はよく存じている。これは、その労いだ」
「そんな、わたしの働きなど、たかが知れています。ですが、ありがとうございます、兄上。褒められたくてやっているわけではありませんが、言葉にしていただけると、やはり嬉しいと感じてしまうのです」
頭頂部を撫でる手のひらに呼応するかのように、関羽が声を弾ませている。
いまだけは、想いを解き放ってしまってもいい。まるで、夢にも似た空間。関羽は、自身がそのような場所にいるのではないか、と感じているのかもしれない。
「はあっ、んうっ……。兄上が、ずっとそばにいてくださればいいのに。こうして触れていただいていると、そんな馬鹿げたことを考えてしまうのです。
「いずれ、そばにいられる日が来ればいい。俺も、そう願っているのだ、愛紗」
「ふふっ。兄上は、いつだって口がお上手なのですから。それで、わたしはいつも惑わされてしまうのです」
「ほう。言ってくれるではないか、愛紗よ」
踏み込まれることを、関羽はきっと望んでいる。
夢見心地の頬に、そっと手を当てた。感じる温もり。自然と、関羽が手を重ねてきているのだ。
「愛紗、ほわーって顔してる。お兄ちゃんのお手々、そんなに気持ちいいんだね」
「そう、なのだろうな。たぶん、兄上の手がわたしは好きなのだと思う。大きくて、包み込まれてしまうような、そんな手が」
柔和に語る徐晃の言が、すべてを物語っている。だから、あえて関羽の表情を、のぞき見ようとは思わなかった。
梳いた髪をまとめ、最後に金具を通していく。これで終わりだと思うと、ちょっと寂しいような気がしてしまう。
穏やかな時の流れ。ここが戦陣だということを、つい失念してしまいそうになるくらいだった。
「愛紗のことを、このまま奪ってしまいたくなる。それではいけないという、思いもあるのだが」
「んっ……。ああっ、兄上……。そんな風に触れられると、おかしくなってしまいますからぁ……」
伸ばした指で、唇の輪郭に触れていく。甘さの増した、関羽の声。理性を、揺さぶりにかかってきていた。奪えば、すべてが楽になる。同時に、果たしてそうなのだろうか、という考えが浮かんでは消えていく。
黄巾軍との闘いが終結すれば、劉備は徐州にもどるのだろう。拾ってもらった恩には、応えなくてはならない。その律儀さが、劉備を徐州に縛り付けている。
日に日に増していく人望。その形成を助けているのは、他ならぬ自分だった。徐州は、いずれ転機を迎えることになる。陶謙か、劉備か。諸将が割れる時がくれば、自分にとってはつけ入るべき隙きになるのだった。
劉備軍を服従させるのであれば、そこだった。陶謙は、人望の大きくなった劉備をおそれるはずである。国を奪われる前に、手を回して排除する。そのくらいの狡猾さを見せても、なんら不思議ではない。陶謙とは、そういう男だった。
「あの、兄さま。
聞こえてきたのは、典韋の声。驚いて、関羽が椅子から飛び上がりそうになっている。
得難い時間ほど、早く過ぎ去ってしまうものだ。襟元を正した関羽は、もういつもの雰囲気に戻ってしまっている。
人和とは、黄巾軍のことで相談しておくべき用件があったのである。和平交渉についての返答。それが、昨日あったばかりだった。
「なかに通してやってくれ、
「承知いたしました。わたしは、一旦自陣に戻ろうと思います。それでは、んっ……兄上」
「ああ。またいつでも来るといい、愛紗」
「ふふっ。はい、一刀殿。それでは外に参ろうか、香風」
「うん、愛紗。それじゃあお兄ちゃん、またあとでねー」
最後に一度だけ兄と呼び、関羽は陣屋から去っていった。
消し難い感情。それが、胸のなかでぐるぐると渦を巻いている。
人和を出迎え、曹操は一息ついた。ふたりの残していった、女の香り。それは、まだ心にまとわりついたままだった。