※この作品はR-18です。

恋姫異天記~曹操伝~   作:KKS

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七 迷いの剣(翠)

 夜。剣を片手に、(すい)はその日の宿を出た。

 公な行動ではないから、沛国までは宿屋を使うか野営をすることになっている。

 曹操は旅慣れているようで、宿の選別も的確だった。安すぎる場所では、自分たちの存在が浮いてしまいかねない。ほんとうならばずっと野営でもいいと話していたが、それも土地によっては避けるべきなのである。たとえ賊と遭遇したところで遅れを取るような面々ではないが、面倒事を起こさないに越したことはない。

 ここに来るまで何度か話しをしているが、(えい)は悩みを抱えているようだった。

 このまま直臣となるのか、それとも客分のまま距離を保ち続けるのか。似たような逡巡を繰り返しているのは、自分も同じだった。

 気持ちとしては、定まっていると言っていいのだろう。けれども、どうしたって家のことが頭に浮かぶ。母の話していたことが、ふとした瞬間脳裏を過ぎってしまう。

 曹操と道を同じくすれば、いずれは朝廷を敵に回すことになる。そうなった時、馬家はどう動くのか。それだけが、気がかりだったのだ。

 帝をお守りせよ、と母は口うるさく言っていた。

 涼州にいた頃からそう感じていたように、中原では帝の威光はさらに薄いものとなっている。勅書が出れば、一応その命には従うのかもしれない。それでも、どこかで手綱を振り切る時が来る。敬意を払いはするが、率先して服従しようとは思わない。群雄たちにとって、帝とはその程度の存在でしかないのだろう。

 城郭の外。手入れのされていない林につくと、翠は剣を抜き放った。

 青州黄巾軍と闘っている間はとにかく必死で、他のことを考えている余裕はあまりなかった。手に馴染むのはやはり(やり)であり、剣を握る機会はほとんどなかったのである。

 木。対峙するように、剣を正面に構えた。人の胴ほどの太さがある幹に、一太刀打ち込んでいく。

 刃が食い込んだが、斬れなかった。母であれば、このくらいは造作もなく斬ってみせるはずなのである。

 

「ちっ。やっぱり、あたしじゃだめなのか」

 

 吐き捨て、苛立ちながら、翠は剣を木肌から剥がしている。

 人の気配を感じたのは、もう一度打ち込もうとした時だった。しかし、殺気はない。自分の後ろに立っていたのは、かがり火を手にした春蘭(しゅんらん)だったのである。

 

「おう。何事かと思って後を追ってみたのだが、また剣を振っていたのだな、翠よ」

「春蘭からしてみれば、あたしの剣の腕なんて赤子同然に見えるんじゃないか? ったく、情けなくて泣けてくるよ」

 

 少し考えるような素振りを見せてから、春蘭が一歩踏み出した。

 大雑把な女ではあるが、頼り甲斐はある。

 左眼を失った折はさすがに落ち込んでいたようだが、いまではまた元気に将兵を率いるようになっている。曹操の従妹たちがそうであるように、翠もその人柄を好いていた。

 なにより剣を扱わせれば、春蘭の右に出る者はいないくらいなのである。

 

「うむ。まったくもって、その通りではあるが」

「うう……。人が落ち込んでるんだから、ちょっとは気遣いしてくれよな」

「鑓を握ったおまえは、私が苦戦させられるほどの武人なのだ。遅れを取るつもりなどさらさらないが、それでも強いものは強いのでな。しかし、剣を振っているおまえはなんだ。一刀の方が、よっぽどいい一撃を打ち込んでくることだろう」

「この状況で言うのもなんだけどさ、一刀殿のことを、そんな風に評してしまってもいいのか? 怒られたって、あたしは知らないぞ」

「うおっ……!? い、いまのはその、言葉の綾というやつでな……。ええい、とにかく忘れろっ!」

 

 旅の間、自分たちは真名だけで過ごすことを取り決めている。曹操を『殿』と呼んでいない時間が長くなっているだけに、つい春蘭は口を滑らせてしまったのだろう。

 真っ赤になって眉を吊り上げている春蘭のことが、ちょっとかわいく思えてしまう。

 毎日欠かさず手入れをしているのか、蝶を模した眼帯は変わらず新品のようだった。自分が曹操であったとしても、この忠犬を無下に扱うことなどできないはずである。そのくらいのいじらしさが、春蘭にはあるのだった。

 

「おまえの太刀筋は、迷いによってぶれている。ほんとうは、自分でもわかっているのではないか?」

「んっ……。迷っていると言えば、そうなのかもな」

 

 今夜も、木は斬れそうにない。それだけ思考の結論も遠のいてしまうようで、翠はため息をつく。

 地面に転がっていた鞘。拾い上げ、剣を納めた。

 

「なにも、自分ひとりで答えを出さなくてもよかろう。一刀は、まだ寝ていないはずだが」

「こ、こんな夜遅くから、一刀殿の部屋に行けって言うのかよ!? ああ、あたしは、そんな」

「おまえが行かないというのであれば、私はそれでもよいのだがな。いまは、一刀にじっくりとかわいがってもらえる、またとない機会でもあるのだ」

 

 春蘭は、茶化してそう言っているわけではない。そのくらい、翠にも理解することはできた。

 確かに、悩んでいるだけ時間の無駄なのかもしれなかった。もとより、自分は突撃することによって様々なことを解決してきている。ならば、今回もそうするべきではないのか。

 

「ちょ、ちょっと待った。わかった、行くよ。一刀殿に、話を聞いてもらってくる。これ以上逃げ回っても、しょうがないんだ。春蘭のおかげで、腹が決まったよ」

「ふっ、そうなのか? だったら、今晩はおまえの部屋を借り受けるぞ。悩みが解決するまで、絶対に帰ってくるでない」

「うっ……。そ、そのつもりではあるけどさ。そっか……。一刀殿と、一晩中……」

 

 宿に泊まるときは、曹操と春蘭が同室となるのが決まりだった。

 翠はひとりか、詠や(しあ)と一緒に眠ることが多かったのである。霞は出身こそ涼州ではないものの、馬術に精通しており話題に事欠かない。それに、武芸の腕も飛び抜けているから、参考になることがいくつもあった。

 

「ほら、腹をくくったのならさっさと行かぬか。一刀が待ちくたびれて寝てしまっても、私は知らんからな」

「待ちくたびれて……? 春蘭、おまえまさか」

「余計なことを考える前に、脚を動かせ。翠には、それが似合いであろう」

「言ってくれるぜ、まったく。けど、ありがとな、春蘭」

「礼など、悩みが晴れてからでよい。今度は、気合の入った一撃を私に見せてみろ」

「ああ、きっとそうするよ。じゃあな、春蘭」

 

 自分の母とはまた違う種類の、大きさのようなもの。

 それを春蘭から感じている自分をおかしく思いながら、翠は駈けだした。

 

 

 春蘭が教えてくれたように、曹操はまだ起きていた。

 自分が来るまで、書に眼を通していたのだろう。机のそばには、明かりが置かれている。

 

「あの。こんな遅くにすまない、一刀殿」

「いいさ。翠が来てくれるのであれば、俺はいつだろうが歓迎するぞ?」

 

 曹操と、部屋に二人きり。それを意識してしまっているせいか、おかしなくらい寝台の方に視線をやってしまう。

 視線を慌ただしく動かす翠。その様子を気にすることもなく、曹操は酒を用意していっている。

 緊張で身体がかたくなっているだけに、酒があるのはありがたかった。

 濁りの見える酒。椅子に座ると、翠は杯の中身を一気に飲み干していく。笑って、曹操がまた杯に酒を注いでくれている。さらにそれを一瞬で空けると、腹の奥にかっとした熱のようなものを感じられた。

 

「ははっ。今宵の翠は、よく飲むのだな」

「す、すまない、一刀殿。あたしばっかり、飲んでしまっているみたいでさ」

「気にするな。いまは、おまえが客人なのだからな。俺は、翠をもてなすことができればそれでいい」

「ほんとに、一刀殿は優しいんだから。そういうところが、ちょっとずるいんだっての……」

「……ン。なにか、言ったのか?」

「い、いやいやいやっ!? なんでもないから、気にしないでくれっ!」

 

 自分の発した言葉をかき消すように叫んだ。

 見れば、曹操の杯は空のままなのである。たぶん、自分が注ぐのを待っていてくれたのだと思う。おそるおそる視線を合わせてみると、曹操はかすかに笑んで杯を指でちょこんと押し出してくる。

 それから二杯、三杯と重ねていくうちに、気分もかなり落ち着くようになっていた。

 今日走った街道はよく整備されていて、馬に乗っているのが苦でなかった。夕刻入った飯屋の料理が、滞陣中に食うものより旨くなかった。曹操の話すとりとめのないことに、相槌を打つ。それだけで、嘘のように心が軽くなっていく。

 

「あのさ、一刀殿」

 

 ぐずぐず悩んでいたところで、なにかが変わるわけではない。春蘭の言っていたように、一度決めたら駈けだしてしまうのが、自分なのである。

 心は、とっくに定まっているはずだった。難しいことなど、曹操にすべて委ねてしまえばそれでいい。あとは、自分が全力で突っ走るだけだった。

 

「態度をはっきりさせないあたしを重用してくれたことは、感謝してもしきれない。けど、半端な状態はもう終わりにしようと思うんだ。実家のこととか、そんなのはどうだっていい。母さまのこと、帝のこと。そんなの、いまのあたしが考えたって、どうにもならないんだから」

「そうか。翠の決心は、うれしく思う。だが、ほんとうによいのだな?」

「いいんだ、一刀殿。あなたと、この先どこまでも駈け抜けて行きたい。きっと、それがあたしの願いなんだからさ」

「行こう、どこまでも。俺の歩み、誰にも止めさせたりするものか」

 

 曹操が、優しげな笑みを浮かべている。

 そんな表情を見せられて、喜んでいる自分がいる。惹かれているのは、最初からわかっていた。戦場の外であっても、曹操は昂りを与えてくれる。そのような男と巡り合うのは、人生で一度きりなのだろう。

 誓い合い、互いの杯に酒を注いだ。

 胸の中心。うるさいくらいに、鳴っている。黙らせることなど、できる気がしなかった。喉を通り、酒が身体の内側に染み込んでいく。熱い。ひたすらに、熱い酒だった。

 立ち上がった曹操が、手を差し出してくる。それが意味していることくらい、理解しているつもりだった。伸ばした手が、包み込まれる。火照った肌どうしが、擦れ合った。

 

「んっ……。よ、よろしく、一刀殿」

「そんなに、おそれる必要はない。平気だ、俺がずっとそばにいる」

 

 引き寄せられ、抱きしめられた。

 噂に聞いていたことよりも、なにもかもが優しかった。

 背中、腰。曹操に触れられている部分が、異様に熱くなってしまう。こうした時、自分はどうしていればいいのか。従妹の蒲公英(たんぽぽ)であれば、もっとうまくやるに違いない。

 涼州で駈け回っていた自分が、まさかこんな風になる日が来るとは思わなかった。

 宙に遊ばせていた手。どうにも落ち着かなくて、曹操の肩を掴んでみた。すると、それをなにかの合図だと解釈したのか、曹操がすっと額を寄せてきた。

 

「あわっ、あわわわっ……。ご、ごめんな、一刀殿。あたし、こういうのほんとに慣れてなくってさ」

「だが、拒絶はしないのだろう? そういう翠を、俺はかわいく思ってしまうのだよ」

「う……、そうなのか? でも、そうやって優しくしてくれる一刀殿だから、あたしは、その……」

 

 あなたのことを、好いている。

 どうして、その程度の言葉が簡単に出てきてくれないのか。自分の決心とは、そのくらいでしかなかったのか。

 鑓を振るう時のように、腹に力を込めてみた。曹操は、じっとしたまま自分の言葉を待ってくれている。恥ずかしいことには変わりがないが、やるしかないという気持ちがふつふつと湧いてくる。

 

「好きなんだ、一刀殿のことが。ずっと、ずっと前からそうだった。ははっ……。だけど、いつまで経っても打ち明けられなくってさ。それで、んむっ……」

「俺は、翠のそんな性分すら、愛してしまっているのだろうな。一本気で気高く、けれども弱い部分がある。そんなおまえが、好きでたまらない」

 

 頭の中。ぐちゃぐちゃになりかけている。

 口づけとは、こうまで熱いものだったのか。曹操の放つ言葉のひとつひとつに、感情を侵食されているようだった。唇を吸い上げられているだけで、腹の奥深くが狂おしいくらいに疼く。それは、いままでの人生では経験したことのない感覚だった。

 もう、このまま離れたくない。そんな思いが、ひどく強くなっている。

 

「あっ……。んっ、んむっ、ちゅくっ……」

「気をそらすな、翠。おまえは、口づけだけに集中していればいい」

「は、はい、一刀殿……」

 

 曹操の手で、衣服を脱がされている。

 いつもの状態であれば、この時点で羞恥に耐えられなくなっているに違いない。女のものとはまったく異なる、男の節くれ立った指。それが、肌に触れてくる。

 脇腹が、少しくすぐったい。そこから、指が胸を押し上げるように移動していた。

 自分の身体に触れながら、曹操も興奮を得ているのだろうか。唇の動き。はじめた頃よりも、ちょっと激しくなっている。感じる吐息も、やはり熱かった。

 

「んっ、ちゅむ……。ああっ……♡ 一刀殿の指が、あたしの胸をぐにぐにってぇ」

「もっと、楽にしていてもよいのだぞ? 特に、このあたりはな」

「ひゃっ、ひゃふっ……♡ ちょ、一刀殿、そんなところ触っちゃだめだってば」

「無理を言うな。ここで、俺と翠はひとつになるのだからな」

「あっ、んんっ♡ だめ、だめって言ってるのにぃ……♡ あむっ、ちゅくっ、れおっ」

 

 有無を言わさず、曹操の腕が股の間に入り込んでくる。

 舌を絡められ取られてしまうと、それ以上なにも言えなくなった。甘美なしびれ。自分でさえまともに触れたことのない場所を、曹操にまさぐられているのだ。

 なんとなく、嫌な予感が脳内を過ぎった。

 汗とは別の湿り気が、股の間に生まれている。まさか、酔いが回っているせいで、自分は粗相をしてしまったのではないか。そんな考えで、頭がいっぱいになってしまう。

 

「口づけだけで、こんなに濡らしてしまったのか? 敏感なのだな、翠は」

「やっ、やだっ……。そんな風に、言わないでくれ。あたし、一刀殿の前で洩らしてしまうだなんて、そんな……」

 

 いま粗相をしたことを知られたら、確実に幻滅される。そんな恐怖が、じわりと身体を縛り付けていく。

 なにを思ったのか、曹操は股の間から腕を抜き、陰部をいじくっていた指を見せつけてきた。

 指先。液体によって、やはり濡れている。しかし、呆れるどころか曹操は笑っていた。

 

「なにか勘違いをしているのではないか、翠? これは、粗相とかそういった類のものではない。ただ、おまえが俺の指で感じてくれた、その証拠でしかないのだよ」

「えっ……? そ、そうだったのか。てっきり、またやってしまったんだって、それであたし……」

「なんだ、翠はあちらの蓋が緩いのか。ははっ。それもまた、悪くは思わないがな」

「やっ、んんっ……。一刀殿の、エロエロ魔神……」

「好きなように言ってくれ。これでも、罵倒には多少慣れているつもりだ」

「そんなの、意味分かんな……っ!? ふあっ、んむっ……♡」

 

 寝台に押し倒されたかと思うと、瞬時に唇を塞がれてしまう。

 腿のあたり。かたいなにかが、あたっている。それはかたいだけでなく、ひどく熱を持っているようだった。

 

「もう少し時間をかけるつもりだったが、我慢の限界だ。翠がかわいいのが、いけないのだからな?」

「な、なんだよそれ? けど、あたしはきっといつでも平気だよ。や、優しくしてくれるんだろ、一刀殿?」

「努力はするさ。だが、そうも言っていられない時があるのが、男というものでな」

 

 曹操とつながり、ひとつになる。

 股に生まれた湿り気の意味を、翠はいまになって理解することができていた。

 隆起した肉の鑓が、こちらを向いている。直視するのは、さすがにやめておいた。ちらりと見ただけでも、かなりの大きさをしているのがわかったのである。あれが、自分の中に入ってくる。ちょっと考えただけでも、全身がかたくなってしまうほどだった。

 

「行くぞ、翠」

「あ、ああ……。来てくれ、一刀殿」

 

 すべてを委ねると、決めたばかりなのである。 

 もう、どうにでもなってしまえ。

 そうやって眼を閉じて覚悟していると、陰部に熱を感じるようになった。同時に与えられた口づけが、先ほど以上に甘く思えてしまう。

 

「んぐっ、れおっ……。んむっ、んぐぐっ……」

「あと少しだ。耐えてみせろよ、翠」

「だ、大丈夫だっての。戦場に出れば、うあっ……、怪我くらいするのが普通なんだ。だから、こんなのちょろいぜ……っ」

「さすがは、誉れ高き錦馬超だ。そんなおまえと一緒にいられて、俺は幸せ者だな」

「やっ、だめっ……。いま、そんなこと言われたらぁ……♡」

 

 甘いささやきに、つい身体を弛緩させてしまった。

 その緩みがちょうどよかったのか、曹操の男根が奥深くにまで入り込んでくる。深い部分。押し上げられると、思わず声が洩れた。愛しい男と、ついにひとつになれたのである。感情が昂ぶってしまうのも、無理はなかった。

 

「はあっ、ふぐぅ……♡ 好きっ、好きなんだ、一刀殿ぉ……!」

「今夜の翠は、一段と情熱的なのだな。俺も、おまえのことを愛している」

「だって、はあっ……。好きな人に、ぐちゃぐちゃしてもらってるんだもん。こんな、こんなのってぇ……♡」

 

 ぴったりと嵌っていた男根が、ゆっくりと動き出す。

 肉襞を擦られるのが、気持ちいい。舞い上がった気分そのままに、翠は口づけを求めている。

 

「なあ、一刀殿。もっと、たくさん口づけをしてくれないか? あたし、きっとそれだけで……。んっ、んむぅ、ちゅる……♡」

「ははっ。いくらでも、してやるとも。舌を絡めるのも、嫌いではないのだろう?」

「うん。ちゅぱっ、んんっ……。これ、好きぃ……♡ 一刀殿の舌、もっとあたしに感じさせてくれないか」

「……ン、いいだろう。痛みは、ましになってきているのか?」

「どうなんだろ。ふあっ、れるっ……♡ あたし、もうよくわかんないや」

 

 脳内が、曹操から注がれる愛情と快楽とで、溢れかえりそうになっている。

 乾いた音が鳴り響く。腰の抽送を受け続けているせいか、下腹部の感覚がぼんやりとしてきているようだった。

 これが、男に抱かれるということなのか。

 気持ちよさを抑えることができない。曹操の唾液を飲まされるたびに、身体が熱を帯びていく。感じたことのないような痙攣が、全体に拡がっていく。

 

「いいぞ、翠。俺も、一度出しておきたいと思っていたところだ」

「出す? 出すって、ふあぁあっ……♡」

 

 最奥を突き上げる男根が、いきなりふくらんだような気がしていた。

 出す。腹の中に、曹操の子種を出されてしまうのだ。

 想像すると、期待によって身体が余計に昂ぶっていく。与えられるなにもかもが、気持ちいい。また、男根がふくらんだ。たぶん、つぎが最後の抽送になるのだろう。なんとなく、それがわかってしまったのである。

 

「ああっ♡ きて、きてくれっ、一刀殿……。あなたの子種で、あたしの中、あふれさせてくれぇ……♡」

 

 曹操が、首筋に吸い付いてくる。

 瞬間、焼けるような熱さが膣内に拡がっていった。いきなりのことに、つい嬌声を放ってしまう。なぜだか、男根のふるえが愛しかった。

 

「うあっ、これだめぇ……♡ 一刀殿の勢いすごすぎて、あたしまでおかしくなってしまいそうになる……♡」

「そうだ。いくらでも、おかしくなってしまえ」

「ふあっ、お腹の中でまたびくって……♡ んあぁあっ……。一刀殿に出されるのが、気持ちいい。こんなの覚えさせられたら、あたしもう……っ♡」

 

 濃厚な子種に腹を満たされ、翠は幸せそうにほほえんでいる。

 ふと頭を横に向けると、揺れるかがり火が見えていた。

 まだまだ、互いに燃え尽きることはない。明かりが、そのことを知らしめているようだった。

 

 

 身体が、疲れ果てている。

 体力には自信がある方だったが、もう無理だとしか思えなかった。交合とは、こんなにも激しく消耗するものだったのか。それでいて、幾度となく射精を行った曹操は、まだ余裕のある素振りをしているのだ。

 

「んっ……、一刀殿」

 

 曹操の前で肌を晒すことにも、いい加減慣れてきた。

 薄い肌衣だけを纏い、隣に寝そべった。今夜だけでも、数え切れないくらいの抱擁を受けている。それでも、抱きしめられるたびに、うれしさが生まれていく。

 好きだ、と耳もとでささやかれた。

 たったそれだけのことで、翠は身体を縮めてしまう。すぐに言い返すのは、まだ難しかった。

 

「え、えとっ、その……。すごかったんだ、すべてが。あたしの知らないことは、まだいくらでもある。そのことが、今日はよくわかったよ」

「ほう。ならば、またこうして寝てくれるのだろうな、翠」

 

 曹操の手のひらが、頭を撫でてくる。

 抱かれている最中から、ずっと甘やかされ続けていた。そのせいで、心がいつまでも浮ついているようなのだ。

 互いの気持ちは、こうして確かめ合うことができた。つまり、次回からは純粋に、情欲をぶつけていくことになるのだろうか。

 考えると、顔が熱くなった。たぶん曹操は、また同じように甘やかしてくれるのだと思う。そして、きっと自分もそうされることを望んでいる。

 

「んぐっ……。そ、それもいいのかも。一刀殿、もっとくっついても平気か?」

「ああ。ここの寝台は、それほど広くないのでな。朝起きた時、床に寝ているのは翠も嫌だろう?」

「そ、そうだよな。このまま、一刀殿と朝まで一緒なんだ……」

 

 言葉にすると、やけに恥ずかしかった。

 それを悟られたくなくて、曹操の胸に頭をうずめていく。直接見えているわけではないが、曹操はおそらく笑っている。それがわかってしまう程度には、付き合いがあるのである。

 

「うう……。こんなので、あたし眠れるのかな」

「そのうち、慣れるさ。さっきまでも、そうだったろう?」

「うわわっ……。そ、それはもういいっての!」

 

 うるさくなった鼓動を抑え込もうと、翠は身体を小さくしている。背中を撫でてくれている曹操の手が、温かくて心地よかった。

 こうしていれば、そのうち眠気がやって来るのかもしれない。

 起きたら、どんな顔をして挨拶すればいいのだろうか。曹操は主君であり、愛する人でもあるのだ。

 

「眠ろうか、翠」

「んっ……、一刀殿」

 

 おそらく、なにも変わることはないのだろう。

 だったら、自分は出来得るかぎりの笑顔で応えるだけだった。そうしたことを考えている間に、夜は更けていく。

 消えたかがり火の匂い。それが、ちょっとだけ鼻についている。

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