夜。剣を片手に、
公な行動ではないから、沛国までは宿屋を使うか野営をすることになっている。
曹操は旅慣れているようで、宿の選別も的確だった。安すぎる場所では、自分たちの存在が浮いてしまいかねない。ほんとうならばずっと野営でもいいと話していたが、それも土地によっては避けるべきなのである。たとえ賊と遭遇したところで遅れを取るような面々ではないが、面倒事を起こさないに越したことはない。
ここに来るまで何度か話しをしているが、
このまま直臣となるのか、それとも客分のまま距離を保ち続けるのか。似たような逡巡を繰り返しているのは、自分も同じだった。
気持ちとしては、定まっていると言っていいのだろう。けれども、どうしたって家のことが頭に浮かぶ。母の話していたことが、ふとした瞬間脳裏を過ぎってしまう。
曹操と道を同じくすれば、いずれは朝廷を敵に回すことになる。そうなった時、馬家はどう動くのか。それだけが、気がかりだったのだ。
帝をお守りせよ、と母は口うるさく言っていた。
涼州にいた頃からそう感じていたように、中原では帝の威光はさらに薄いものとなっている。勅書が出れば、一応その命には従うのかもしれない。それでも、どこかで手綱を振り切る時が来る。敬意を払いはするが、率先して服従しようとは思わない。群雄たちにとって、帝とはその程度の存在でしかないのだろう。
城郭の外。手入れのされていない林につくと、翠は剣を抜き放った。
青州黄巾軍と闘っている間はとにかく必死で、他のことを考えている余裕はあまりなかった。手に馴染むのはやはり
木。対峙するように、剣を正面に構えた。人の胴ほどの太さがある幹に、一太刀打ち込んでいく。
刃が食い込んだが、斬れなかった。母であれば、このくらいは造作もなく斬ってみせるはずなのである。
「ちっ。やっぱり、あたしじゃだめなのか」
吐き捨て、苛立ちながら、翠は剣を木肌から剥がしている。
人の気配を感じたのは、もう一度打ち込もうとした時だった。しかし、殺気はない。自分の後ろに立っていたのは、かがり火を手にした
「おう。何事かと思って後を追ってみたのだが、また剣を振っていたのだな、翠よ」
「春蘭からしてみれば、あたしの剣の腕なんて赤子同然に見えるんじゃないか? ったく、情けなくて泣けてくるよ」
少し考えるような素振りを見せてから、春蘭が一歩踏み出した。
大雑把な女ではあるが、頼り甲斐はある。
左眼を失った折はさすがに落ち込んでいたようだが、いまではまた元気に将兵を率いるようになっている。曹操の従妹たちがそうであるように、翠もその人柄を好いていた。
なにより剣を扱わせれば、春蘭の右に出る者はいないくらいなのである。
「うむ。まったくもって、その通りではあるが」
「うう……。人が落ち込んでるんだから、ちょっとは気遣いしてくれよな」
「鑓を握ったおまえは、私が苦戦させられるほどの武人なのだ。遅れを取るつもりなどさらさらないが、それでも強いものは強いのでな。しかし、剣を振っているおまえはなんだ。一刀の方が、よっぽどいい一撃を打ち込んでくることだろう」
「この状況で言うのもなんだけどさ、一刀殿のことを、そんな風に評してしまってもいいのか? 怒られたって、あたしは知らないぞ」
「うおっ……!? い、いまのはその、言葉の綾というやつでな……。ええい、とにかく忘れろっ!」
旅の間、自分たちは真名だけで過ごすことを取り決めている。曹操を『殿』と呼んでいない時間が長くなっているだけに、つい春蘭は口を滑らせてしまったのだろう。
真っ赤になって眉を吊り上げている春蘭のことが、ちょっとかわいく思えてしまう。
毎日欠かさず手入れをしているのか、蝶を模した眼帯は変わらず新品のようだった。自分が曹操であったとしても、この忠犬を無下に扱うことなどできないはずである。そのくらいのいじらしさが、春蘭にはあるのだった。
「おまえの太刀筋は、迷いによってぶれている。ほんとうは、自分でもわかっているのではないか?」
「んっ……。迷っていると言えば、そうなのかもな」
今夜も、木は斬れそうにない。それだけ思考の結論も遠のいてしまうようで、翠はため息をつく。
地面に転がっていた鞘。拾い上げ、剣を納めた。
「なにも、自分ひとりで答えを出さなくてもよかろう。一刀は、まだ寝ていないはずだが」
「こ、こんな夜遅くから、一刀殿の部屋に行けって言うのかよ!? ああ、あたしは、そんな」
「おまえが行かないというのであれば、私はそれでもよいのだがな。いまは、一刀にじっくりとかわいがってもらえる、またとない機会でもあるのだ」
春蘭は、茶化してそう言っているわけではない。そのくらい、翠にも理解することはできた。
確かに、悩んでいるだけ時間の無駄なのかもしれなかった。もとより、自分は突撃することによって様々なことを解決してきている。ならば、今回もそうするべきではないのか。
「ちょ、ちょっと待った。わかった、行くよ。一刀殿に、話を聞いてもらってくる。これ以上逃げ回っても、しょうがないんだ。春蘭のおかげで、腹が決まったよ」
「ふっ、そうなのか? だったら、今晩はおまえの部屋を借り受けるぞ。悩みが解決するまで、絶対に帰ってくるでない」
「うっ……。そ、そのつもりではあるけどさ。そっか……。一刀殿と、一晩中……」
宿に泊まるときは、曹操と春蘭が同室となるのが決まりだった。
翠はひとりか、詠や
「ほら、腹をくくったのならさっさと行かぬか。一刀が待ちくたびれて寝てしまっても、私は知らんからな」
「待ちくたびれて……? 春蘭、おまえまさか」
「余計なことを考える前に、脚を動かせ。翠には、それが似合いであろう」
「言ってくれるぜ、まったく。けど、ありがとな、春蘭」
「礼など、悩みが晴れてからでよい。今度は、気合の入った一撃を私に見せてみろ」
「ああ、きっとそうするよ。じゃあな、春蘭」
自分の母とはまた違う種類の、大きさのようなもの。
それを春蘭から感じている自分をおかしく思いながら、翠は駈けだした。
†
春蘭が教えてくれたように、曹操はまだ起きていた。
自分が来るまで、書に眼を通していたのだろう。机のそばには、明かりが置かれている。
「あの。こんな遅くにすまない、一刀殿」
「いいさ。翠が来てくれるのであれば、俺はいつだろうが歓迎するぞ?」
曹操と、部屋に二人きり。それを意識してしまっているせいか、おかしなくらい寝台の方に視線をやってしまう。
視線を慌ただしく動かす翠。その様子を気にすることもなく、曹操は酒を用意していっている。
緊張で身体がかたくなっているだけに、酒があるのはありがたかった。
濁りの見える酒。椅子に座ると、翠は杯の中身を一気に飲み干していく。笑って、曹操がまた杯に酒を注いでくれている。さらにそれを一瞬で空けると、腹の奥にかっとした熱のようなものを感じられた。
「ははっ。今宵の翠は、よく飲むのだな」
「す、すまない、一刀殿。あたしばっかり、飲んでしまっているみたいでさ」
「気にするな。いまは、おまえが客人なのだからな。俺は、翠をもてなすことができればそれでいい」
「ほんとに、一刀殿は優しいんだから。そういうところが、ちょっとずるいんだっての……」
「……ン。なにか、言ったのか?」
「い、いやいやいやっ!? なんでもないから、気にしないでくれっ!」
自分の発した言葉をかき消すように叫んだ。
見れば、曹操の杯は空のままなのである。たぶん、自分が注ぐのを待っていてくれたのだと思う。おそるおそる視線を合わせてみると、曹操はかすかに笑んで杯を指でちょこんと押し出してくる。
それから二杯、三杯と重ねていくうちに、気分もかなり落ち着くようになっていた。
今日走った街道はよく整備されていて、馬に乗っているのが苦でなかった。夕刻入った飯屋の料理が、滞陣中に食うものより旨くなかった。曹操の話すとりとめのないことに、相槌を打つ。それだけで、嘘のように心が軽くなっていく。
「あのさ、一刀殿」
ぐずぐず悩んでいたところで、なにかが変わるわけではない。春蘭の言っていたように、一度決めたら駈けだしてしまうのが、自分なのである。
心は、とっくに定まっているはずだった。難しいことなど、曹操にすべて委ねてしまえばそれでいい。あとは、自分が全力で突っ走るだけだった。
「態度をはっきりさせないあたしを重用してくれたことは、感謝してもしきれない。けど、半端な状態はもう終わりにしようと思うんだ。実家のこととか、そんなのはどうだっていい。母さまのこと、帝のこと。そんなの、いまのあたしが考えたって、どうにもならないんだから」
「そうか。翠の決心は、うれしく思う。だが、ほんとうによいのだな?」
「いいんだ、一刀殿。あなたと、この先どこまでも駈け抜けて行きたい。きっと、それがあたしの願いなんだからさ」
「行こう、どこまでも。俺の歩み、誰にも止めさせたりするものか」
曹操が、優しげな笑みを浮かべている。
そんな表情を見せられて、喜んでいる自分がいる。惹かれているのは、最初からわかっていた。戦場の外であっても、曹操は昂りを与えてくれる。そのような男と巡り合うのは、人生で一度きりなのだろう。
誓い合い、互いの杯に酒を注いだ。
胸の中心。うるさいくらいに、鳴っている。黙らせることなど、できる気がしなかった。喉を通り、酒が身体の内側に染み込んでいく。熱い。ひたすらに、熱い酒だった。
立ち上がった曹操が、手を差し出してくる。それが意味していることくらい、理解しているつもりだった。伸ばした手が、包み込まれる。火照った肌どうしが、擦れ合った。
「んっ……。よ、よろしく、一刀殿」
「そんなに、おそれる必要はない。平気だ、俺がずっとそばにいる」
引き寄せられ、抱きしめられた。
噂に聞いていたことよりも、なにもかもが優しかった。
背中、腰。曹操に触れられている部分が、異様に熱くなってしまう。こうした時、自分はどうしていればいいのか。従妹の
涼州で駈け回っていた自分が、まさかこんな風になる日が来るとは思わなかった。
宙に遊ばせていた手。どうにも落ち着かなくて、曹操の肩を掴んでみた。すると、それをなにかの合図だと解釈したのか、曹操がすっと額を寄せてきた。
「あわっ、あわわわっ……。ご、ごめんな、一刀殿。あたし、こういうのほんとに慣れてなくってさ」
「だが、拒絶はしないのだろう? そういう翠を、俺はかわいく思ってしまうのだよ」
「う……、そうなのか? でも、そうやって優しくしてくれる一刀殿だから、あたしは、その……」
あなたのことを、好いている。
どうして、その程度の言葉が簡単に出てきてくれないのか。自分の決心とは、そのくらいでしかなかったのか。
鑓を振るう時のように、腹に力を込めてみた。曹操は、じっとしたまま自分の言葉を待ってくれている。恥ずかしいことには変わりがないが、やるしかないという気持ちがふつふつと湧いてくる。
「好きなんだ、一刀殿のことが。ずっと、ずっと前からそうだった。ははっ……。だけど、いつまで経っても打ち明けられなくってさ。それで、んむっ……」
「俺は、翠のそんな性分すら、愛してしまっているのだろうな。一本気で気高く、けれども弱い部分がある。そんなおまえが、好きでたまらない」
頭の中。ぐちゃぐちゃになりかけている。
口づけとは、こうまで熱いものだったのか。曹操の放つ言葉のひとつひとつに、感情を侵食されているようだった。唇を吸い上げられているだけで、腹の奥深くが狂おしいくらいに疼く。それは、いままでの人生では経験したことのない感覚だった。
もう、このまま離れたくない。そんな思いが、ひどく強くなっている。
「あっ……。んっ、んむっ、ちゅくっ……」
「気をそらすな、翠。おまえは、口づけだけに集中していればいい」
「は、はい、一刀殿……」
曹操の手で、衣服を脱がされている。
いつもの状態であれば、この時点で羞恥に耐えられなくなっているに違いない。女のものとはまったく異なる、男の節くれ立った指。それが、肌に触れてくる。
脇腹が、少しくすぐったい。そこから、指が胸を押し上げるように移動していた。
自分の身体に触れながら、曹操も興奮を得ているのだろうか。唇の動き。はじめた頃よりも、ちょっと激しくなっている。感じる吐息も、やはり熱かった。
「んっ、ちゅむ……。ああっ……♡ 一刀殿の指が、あたしの胸をぐにぐにってぇ」
「もっと、楽にしていてもよいのだぞ? 特に、このあたりはな」
「ひゃっ、ひゃふっ……♡ ちょ、一刀殿、そんなところ触っちゃだめだってば」
「無理を言うな。ここで、俺と翠はひとつになるのだからな」
「あっ、んんっ♡ だめ、だめって言ってるのにぃ……♡ あむっ、ちゅくっ、れおっ」
有無を言わさず、曹操の腕が股の間に入り込んでくる。
舌を絡められ取られてしまうと、それ以上なにも言えなくなった。甘美なしびれ。自分でさえまともに触れたことのない場所を、曹操にまさぐられているのだ。
なんとなく、嫌な予感が脳内を過ぎった。
汗とは別の湿り気が、股の間に生まれている。まさか、酔いが回っているせいで、自分は粗相をしてしまったのではないか。そんな考えで、頭がいっぱいになってしまう。
「口づけだけで、こんなに濡らしてしまったのか? 敏感なのだな、翠は」
「やっ、やだっ……。そんな風に、言わないでくれ。あたし、一刀殿の前で洩らしてしまうだなんて、そんな……」
いま粗相をしたことを知られたら、確実に幻滅される。そんな恐怖が、じわりと身体を縛り付けていく。
なにを思ったのか、曹操は股の間から腕を抜き、陰部をいじくっていた指を見せつけてきた。
指先。液体によって、やはり濡れている。しかし、呆れるどころか曹操は笑っていた。
「なにか勘違いをしているのではないか、翠? これは、粗相とかそういった類のものではない。ただ、おまえが俺の指で感じてくれた、その証拠でしかないのだよ」
「えっ……? そ、そうだったのか。てっきり、またやってしまったんだって、それであたし……」
「なんだ、翠はあちらの蓋が緩いのか。ははっ。それもまた、悪くは思わないがな」
「やっ、んんっ……。一刀殿の、エロエロ魔神……」
「好きなように言ってくれ。これでも、罵倒には多少慣れているつもりだ」
「そんなの、意味分かんな……っ!? ふあっ、んむっ……♡」
寝台に押し倒されたかと思うと、瞬時に唇を塞がれてしまう。
腿のあたり。かたいなにかが、あたっている。それはかたいだけでなく、ひどく熱を持っているようだった。
「もう少し時間をかけるつもりだったが、我慢の限界だ。翠がかわいいのが、いけないのだからな?」
「な、なんだよそれ? けど、あたしはきっといつでも平気だよ。や、優しくしてくれるんだろ、一刀殿?」
「努力はするさ。だが、そうも言っていられない時があるのが、男というものでな」
曹操とつながり、ひとつになる。
股に生まれた湿り気の意味を、翠はいまになって理解することができていた。
隆起した肉の鑓が、こちらを向いている。直視するのは、さすがにやめておいた。ちらりと見ただけでも、かなりの大きさをしているのがわかったのである。あれが、自分の中に入ってくる。ちょっと考えただけでも、全身がかたくなってしまうほどだった。
「行くぞ、翠」
「あ、ああ……。来てくれ、一刀殿」
すべてを委ねると、決めたばかりなのである。
もう、どうにでもなってしまえ。
そうやって眼を閉じて覚悟していると、陰部に熱を感じるようになった。同時に与えられた口づけが、先ほど以上に甘く思えてしまう。
「んぐっ、れおっ……。んむっ、んぐぐっ……」
「あと少しだ。耐えてみせろよ、翠」
「だ、大丈夫だっての。戦場に出れば、うあっ……、怪我くらいするのが普通なんだ。だから、こんなのちょろいぜ……っ」
「さすがは、誉れ高き錦馬超だ。そんなおまえと一緒にいられて、俺は幸せ者だな」
「やっ、だめっ……。いま、そんなこと言われたらぁ……♡」
甘いささやきに、つい身体を弛緩させてしまった。
その緩みがちょうどよかったのか、曹操の男根が奥深くにまで入り込んでくる。深い部分。押し上げられると、思わず声が洩れた。愛しい男と、ついにひとつになれたのである。感情が昂ぶってしまうのも、無理はなかった。
「はあっ、ふぐぅ……♡ 好きっ、好きなんだ、一刀殿ぉ……!」
「今夜の翠は、一段と情熱的なのだな。俺も、おまえのことを愛している」
「だって、はあっ……。好きな人に、ぐちゃぐちゃしてもらってるんだもん。こんな、こんなのってぇ……♡」
ぴったりと嵌っていた男根が、ゆっくりと動き出す。
肉襞を擦られるのが、気持ちいい。舞い上がった気分そのままに、翠は口づけを求めている。
「なあ、一刀殿。もっと、たくさん口づけをしてくれないか? あたし、きっとそれだけで……。んっ、んむぅ、ちゅる……♡」
「ははっ。いくらでも、してやるとも。舌を絡めるのも、嫌いではないのだろう?」
「うん。ちゅぱっ、んんっ……。これ、好きぃ……♡ 一刀殿の舌、もっとあたしに感じさせてくれないか」
「……ン、いいだろう。痛みは、ましになってきているのか?」
「どうなんだろ。ふあっ、れるっ……♡ あたし、もうよくわかんないや」
脳内が、曹操から注がれる愛情と快楽とで、溢れかえりそうになっている。
乾いた音が鳴り響く。腰の抽送を受け続けているせいか、下腹部の感覚がぼんやりとしてきているようだった。
これが、男に抱かれるということなのか。
気持ちよさを抑えることができない。曹操の唾液を飲まされるたびに、身体が熱を帯びていく。感じたことのないような痙攣が、全体に拡がっていく。
「いいぞ、翠。俺も、一度出しておきたいと思っていたところだ」
「出す? 出すって、ふあぁあっ……♡」
最奥を突き上げる男根が、いきなりふくらんだような気がしていた。
出す。腹の中に、曹操の子種を出されてしまうのだ。
想像すると、期待によって身体が余計に昂ぶっていく。与えられるなにもかもが、気持ちいい。また、男根がふくらんだ。たぶん、つぎが最後の抽送になるのだろう。なんとなく、それがわかってしまったのである。
「ああっ♡ きて、きてくれっ、一刀殿……。あなたの子種で、あたしの中、あふれさせてくれぇ……♡」
曹操が、首筋に吸い付いてくる。
瞬間、焼けるような熱さが膣内に拡がっていった。いきなりのことに、つい嬌声を放ってしまう。なぜだか、男根のふるえが愛しかった。
「うあっ、これだめぇ……♡ 一刀殿の勢いすごすぎて、あたしまでおかしくなってしまいそうになる……♡」
「そうだ。いくらでも、おかしくなってしまえ」
「ふあっ、お腹の中でまたびくって……♡ んあぁあっ……。一刀殿に出されるのが、気持ちいい。こんなの覚えさせられたら、あたしもう……っ♡」
濃厚な子種に腹を満たされ、翠は幸せそうにほほえんでいる。
ふと頭を横に向けると、揺れるかがり火が見えていた。
まだまだ、互いに燃え尽きることはない。明かりが、そのことを知らしめているようだった。
†
身体が、疲れ果てている。
体力には自信がある方だったが、もう無理だとしか思えなかった。交合とは、こんなにも激しく消耗するものだったのか。それでいて、幾度となく射精を行った曹操は、まだ余裕のある素振りをしているのだ。
「んっ……、一刀殿」
曹操の前で肌を晒すことにも、いい加減慣れてきた。
薄い肌衣だけを纏い、隣に寝そべった。今夜だけでも、数え切れないくらいの抱擁を受けている。それでも、抱きしめられるたびに、うれしさが生まれていく。
好きだ、と耳もとでささやかれた。
たったそれだけのことで、翠は身体を縮めてしまう。すぐに言い返すのは、まだ難しかった。
「え、えとっ、その……。すごかったんだ、すべてが。あたしの知らないことは、まだいくらでもある。そのことが、今日はよくわかったよ」
「ほう。ならば、またこうして寝てくれるのだろうな、翠」
曹操の手のひらが、頭を撫でてくる。
抱かれている最中から、ずっと甘やかされ続けていた。そのせいで、心がいつまでも浮ついているようなのだ。
互いの気持ちは、こうして確かめ合うことができた。つまり、次回からは純粋に、情欲をぶつけていくことになるのだろうか。
考えると、顔が熱くなった。たぶん曹操は、また同じように甘やかしてくれるのだと思う。そして、きっと自分もそうされることを望んでいる。
「んぐっ……。そ、それもいいのかも。一刀殿、もっとくっついても平気か?」
「ああ。ここの寝台は、それほど広くないのでな。朝起きた時、床に寝ているのは翠も嫌だろう?」
「そ、そうだよな。このまま、一刀殿と朝まで一緒なんだ……」
言葉にすると、やけに恥ずかしかった。
それを悟られたくなくて、曹操の胸に頭をうずめていく。直接見えているわけではないが、曹操はおそらく笑っている。それがわかってしまう程度には、付き合いがあるのである。
「うう……。こんなので、あたし眠れるのかな」
「そのうち、慣れるさ。さっきまでも、そうだったろう?」
「うわわっ……。そ、それはもういいっての!」
うるさくなった鼓動を抑え込もうと、翠は身体を小さくしている。背中を撫でてくれている曹操の手が、温かくて心地よかった。
こうしていれば、そのうち眠気がやって来るのかもしれない。
起きたら、どんな顔をして挨拶すればいいのだろうか。曹操は主君であり、愛する人でもあるのだ。
「眠ろうか、翠」
「んっ……、一刀殿」
おそらく、なにも変わることはないのだろう。
だったら、自分は出来得るかぎりの笑顔で応えるだけだった。そうしたことを考えている間に、夜は更けていく。
消えたかがり火の匂い。それが、ちょっとだけ鼻についている。