窓から眩しいくらいの光が差し込んでいる。掃除し終えた部屋を見渡し、
徐州攻めを前に、曹操の心は細い針のように尖りきっている。見えない部分で傷つき、苦しみを抱えている。自分がここまで惹かれているのは、曹操がそんな男であるためなのか。心に負った傷はやがて全身を苛み、人を狂わせる。曹操には、どうあっても自分と同じ道は辿ってほしくない、と月は思った。
曹操の館には、夕刻から客が来る予定となっている。
関羽。徐州を
劉備、そして関羽も、つくづく曹操との縁がある女なようだった。青州黄巾軍には合力して当たり、ついには徐州を手中に収め対峙するに至っているのだ。
関羽からの会いたいという願いを、曹操が拒むことはなかった。ただし、劉備の使者としては対応せずに、あくまでも関羽個人を客として扱うつもりでいるらしい。部屋の中央に置かれた机。天板を拭き上げていると、廊下を歩いてくる人の気配を感じた。
「お帰りなさいませ、一刀さま。詠ちゃんも、お疲れさま」
「うん。ありがとう、月。というか、今までずっと掃除していたの? だったら、月の方が疲れているんじゃない?」
「このくらい、なんでもないよ。詠ちゃんは文官で、恋さんは将軍として。みんな、一刀さまのお役に立とうとしているんだもの。私のしていることなんて、それに比べたらほんの小さなことに過ぎないから」
「そんなことないってば。月が、ずっと人並み以上に頑張ってきた事実を、ボクたちは知っている。だから、少しくらい休んだって構わないんだよ。ねっ、一刀殿?」
そう言って、詠はおずおずと曹操の手を握った。
赤らめた顔が可愛らしい。詠は自分よりもずっと、曹操の存在を頼りとしているのかもしれなかった。あるいは助けられた恩に報いようと、どうにかして冷えついた心を解きほぐそうとしているのか。
どちらにせよ、詠には寄るべき新たな柱が出来たと言っていいのではないか。大きな喜びと、ほのかな寂しさ。詠の現状に、月はその相反する二つの感情を抱いている。
「あっ、一刀さま……」
曹操の腕に、身体を引き寄せられた。
心の傷は、負ったことのある者にしかわからない。それを知って、曹操は自分を強く求めてくれているのか。理由など、どうだってよかった。今はただ、愛する人を癒やしてあげられればそれでいいはずだ。
曹操のそばに流れ着くまで、自分はなにかを壊し続けてきた。それが無意味だったとは思わない。それでも、いくら軍勢を持とうと辺りは救えないもので溢れていた。
董卓から、ただの月になってようやく出来ることがあるはずなのではないか。そしてその問いを、自分は生涯持ち続けるのではないか。第一の岐路は、もう目と鼻の先にあるのかもしれなかった。
†
詠と一緒になって、曹操の前に跪いた。
首輪に紐を通されると、ほとんど無意識に気分が昂揚してしまう。詠はまだ少し緊張しているようだったが、耳を甘く噛んでやるとそれも解けた。
「ほら、詠ちゃんも。一刀さまが、お待ちだよ」
「う、うん、わかった。ボクだって、一刀殿に喜んでもらいたいから」
着物を僅かに押し上げる陰部に頬ずりをし、徐々に興奮を引き出していく。
曹操は、自分たちの奉仕に期待してくれているのだろうか。硬度を増してきた男根が、頬を押し返してくるようになっている。時折触れる詠の肌が、やわらかで心地よかった。
間接的なやり方が、煩わしくなってきたのだろうか。詠の手が陰部に伸ばされる。もう少しで、硬くなったそこにたどり着く。その一歩手前で、月は詠に声をかけた。
「いけないよ、詠ちゃん。私たちは、ご主人様のおちんぽさまだけにお仕えする、いやらしい雌犬なんだよ? だから、手なんか使っちゃだめ。もっとよくご奉仕したいのなら、こうやって」
そう言って、詠に見せつけるように、月は着物に浮き出た男根を唇でなぞった。
はっきりと熱さが伝わってくる。脳髄を焦がすまでには程遠いが、雄を凝縮したようなあの匂いも、段々と感じられるようになってきた。
「雌犬……。ボクと月は、ご主人様を気持ちよくするためだけに存在する雌犬なんだ……」
言葉として反芻することで、詠は己に暗示でもかけようとしているのか。詠の舌の感触を、唇で感じている。唾液によって男根のかたちがより強調され、興奮はずっと大きくなっていく。
不慣れながらも、詠は口を使って曹操の着物を脱がせようとしていた。手伝っていると、自然と笑みが洩れてしまう。まさか、二人一緒に同じ相手を愛せるようになるとは、考えてもみなかったことだ。曹操に快楽を与えることを意識しつつ、詠との交わりも月は愉しんでいる。唇をついばみ合う音。曹操にも聞こえるように、たっぷりと唾液を絡ませた。自分たちの交わりを見て、男根が嬉しそうにしゃくりを上げる。
曹操の節くれ立つ指に、髪を撫でられている。それを合図だと受け取り、顕になった男根に詠が舌を伸ばす。先端に浮いた先走り。淫らに吸い上げ、詠は満足そうに鼻から息を洩らした。自分ものんびりとはしていられない。取り合うように、月は赤黒く腫れた亀頭にしゃぶりついた。
「んっ、んぐっ、じゅぽっ……。はあ……、ご主人様の素敵な香りが、こんなに口いっぱい」
「あむっ、ちゅう……、もごもごっ、ふはっ……。幸せだね、月。ご主人様にこうやってご奉仕していると、なんだかボクまで」
「ふふっ……。はむっ、じゅるるっ、じゅるっ……。そんなの当たり前じゃない、詠ちゃん。大好きなご主人様の、一番大切な部分にご奉仕させていただいてるんだもの。嬉しくなって、当然だよ」
「そっか、そうだよね。はあ、んんっ……。ご主人様のおちんちん、さっきよりもずっと大きくなっちゃってる。ぬるぬるのお汁も、飲んでも飲んでも溢れてきて……」
「嬉しいね、詠ちゃん。ほら、おちんぽさまがびくって跳ねて、私たちのことを褒めてくださっているみたいだよ? だから、もっとたくさん気持ちよくして差し上げなくっちゃ♡」
「うわあ……♡ 月、すっごくいやらしい顔しちゃってる。ボクも、まだまだ頑張らないと。ご主人様に、飼っててよかったって思われたいもの」
会話を断ち切るように、首輪が引っ張られる。
詠と視線を交わし、たっぷりと情欲のつまった陰嚢から舐め上げることに決めた。やわらかさの中心に、やはり硬さがある。ここに、女を狂わせる曹操の精汁が蓄えられているのか。想像すると、早くその粘りを喉で感じたくなってしまう。
むせ返るほどの白濁液を、無理矢理にでも流し込まれたい。腹の奥が激しく疼く。隣で必死に男根を吸い上げている詠も、似たようなことを想像しているのだろうか。普段どのように愛してもらっているのか知らないが、詠にもたぶん自分のような素質がある。そしてきっと、その性質を引き出せるのは曹操ただ一人なのだろう。
「はあっ、すごいっ……。手でつかまえられないから、おちんちんの動きがいつもより激しく感じられて」
「うふふっ、そうだよね。だから、私たちの唇でちゃんと支えて差し上げないと。ちゅっ、ちゅうぅうう……。ほら、こうすればしっかりご奉仕できるよね?」
「やっぱり、月には敵わないな。ご主人様だって、月に先を咥えてもらっている時、すっごく気持ちよさそうにしているし」
「んっ……。そんなことないってば、詠ちゃん。ほら、今度は詠ちゃんがご奉仕する番だよ? たくさん唾をためて、一気にじゅぷじゅぷってしてみるの」
「うん。わかった、やってみる」
快活な返事をすると、詠は亀頭のすぐそばで唾を溜めはじめた。分泌された先走りによって、鼻も頬を淫靡な光を放っている。顔中を曹操の匂いで満たされる幸福感。密かに自分の陰部を指で確かめてみたが、すでに下着は意味をなさなくなって久しいようだった。
「ぐぽっ、じゅぷぷっ……。じゅう、ぐぷっ、くぽっ……」
「上手だよ、詠ちゃん。そのまま、続けてみて」
曹操の太い指や男根で、濡れそぼった膣内を隅々まで犯されたい。
一度湧いた気持ちを抑えることは難しかった。情欲のままに指を挿入し、男根を味わいながら愛液を床に零していく。淫蕩に耽る自分を咎めることなく、曹操は穏やかに快楽を甘受したままでいる。
それで、許しを得たと身体が錯覚してしまったのだろう。しゃがみ込んだ姿勢で股を開き、月は淫らに指を抽送し続けている。詠に見られていることなどどうでもよかった。むしろ、自分の全てを知っていてほしい。そのくらいの思いがあって、月はさらに身体を昂ぶらせた。
「これっ、気持ち良すぎて止まらない。おちんぽさま舐めながら、お股ぐにぐにってするのだめなのぉ……♡」
「ああっ、すごいよ月ぇ……。ご主人様のおちんちんの熱さ感じながらこんなの見せつけられたら、ボク、ボクっ……♡」
「はあっ、はあぁああっ……♡ ご主人様の精液、早く飲ませていただきたいんです。お口でも、おまんこでも、好きな場所に射精してくださって構いませんからあ……♡」
「じゅるっ、じゅるるっ……。そんなの、ボクだって同じだよ。白いどろどろ浴びせられて、月と一緒に気持ちよくなりたいんだもの。ああっ、びくびくすごいっ……♡ 射精、近くなってきたのかも」
「だったら、最後は二人で頑張ろっか、詠ちゃん。先っぽたくさんご奉仕して、一緒に精液出していただこう? んむっ、くちゅくちゅ……」
「そうだね、月。二人で、ご主人様に喜んでいただこう。ああっ、おちんちん熱いよぉ……。月、ゆえっ……♡」
勢い任せに突っ込んだ指。想像以上の深さに歓喜の声を隠せず、月はさらに床を愛液で汚している。
男根の方も、いよいよ限界がそこまで来ているようだった。唾液と先走りが混ざり合い、表現のできない匂いを放っている。ここにもっと、濃厚な精液の味が加わることになるのである。
早く、早く。飼い主を急かすなどもってのほかだが、焼け焦げた理性が叫びを上げているようだった。
小さな声。曹操が洩らしたものなのか。男根が大きく脈打つ。逃してはならないと、月は必死になって唇を使っている。
「んんっ、んあうぅうううっ……! んっ、んくっ、んもぐっ……!」
「ふあうっ……、んあぁああっ……! ちゅうぅう、ちゅぷっ、ちゅずずずっ……!」
唐突に爆ぜた男根から、凄まじい量の精液が吐き出されている。
気持ちいいなんてものではない。陰核を指で刺激しながら曹操の精を腹で感じていると、強い快感が全身を駆け巡った。感じているのは、詠も同じなのだろう。亀頭に口づける横顔が、いつになく淫らに緩んでいる。
「んくっ、はふっ、へうぅう……。本日の射精もすごく素敵でした、ご主人様」
「ご主人様の味、ずっと口の中に残ってる。あむっ、んむっ……。顔にも、まだこんなに」
顔に付着した精液の指で集めながら、詠はぼんやりとした声を発していた。
一度にした経験が大きかったせいで、まだ脳内が整理しきれていないのだろう。ただ、余韻に浸っていたい気分なのは自分も同様だった。
†
それも当然か、と
「これは、趙雲殿か」
「いかにも。ここから先は、私が案内を務めよう。大事な客人になにかあってからでは、話にならんのでな。それゆえ、あまり剣呑な気を向けないでもらいたいのだが」
「ああ、すまん。そんなつもりはなかったのだが、どうしてもだな。しかし、やはり曹操殿は徐州の使者としては会ってくださらんか」
「面会を許されただけ、いいと思うべきだな。願い出たのがお主でなければ、首を刎ね飛ばされていてもおかしくはないのだぞ? それだけ、わが主は徐州全体を敵視されているのだ」
夏侯惇や、夏侯淵、それに曹操に近い縁者と比べて、趙雲は冷静さを保っているようだった。
自分とは別の方面から、
「主は、ご自分の館でお待ちになっている。言うまでもないが、おかしな気など起こすでないぞ?」
「無論だ。そのくらいの礼儀は、私も弁えている」
趙雲に連れられて、曹操の館内を進んでいく。
数人の侍女とすれ違ったが、その中のひとりのことがなんとなく印象に残っていた。単なる小柄な侍女が、あのように鋭い雰囲気を持っているものなのか。それとも、あれは曹操が紛れ込ませた護衛かなにかだったのか。
考えが尽きないまま、曹操の居室に到着した。入り口からここまで、物々しい感じはしていない。ほんとうに、曹操はただの客人として自分を迎えているつもりなのだろう。
今日の面会において、国同士の話などする気はない。裏を返せば、つまりはそういうことになる。
「お久しぶりです、一刀殿」
「ああ、よく来た。座ってくれ、愛紗。夕餉の用意をしてあるのでな」
「すみません、そこまでしていただいて。では、失礼いたします」
ひとりの人間として招かれているのなら、曹操のことは真名で呼ぶべきだと思った。
返ってきた声は、どこか冷たさを宿していた。緊張など無用だというのに、喉が渇く。
かつて夢見ていた再会は、決してこのようなものではなかったはずだ。しかし、現実を受け止めなければ先へは進めない。徐州で待つ桃香や鈴々も、そのくらいの覚悟はできているのだ。
「さすがに、兄とは呼ぶ気にならないか。一時だけの取り決めだったとはいえ、あれは少し嬉しかった」
「申し訳ございません。ですが、嬉しかったのは私も同じです。だからどうか、あの思いを一時だけのものにしないでいただきたい。私の願いは、それだけです」
そうか、とだけ発して曹操は窓の方を向いてしまった。
本心からの願いだった。いつかまた、曹操と道を同じくする時が来ればいい。その時には、自分も心から曹操を兄と呼び慕うはずである。そのいつかを実現するためにも、今は反目し合うしか方法はないのか。
上手く言葉が出てこない。用意された料理の味も、あまりわからないくらいだった。
桃香、あるいは鈴々ですら、自分より余程上手く曹操の心を解せるのではないか。闘う力。自分にあるのは、所詮それだけのような気がしてくる。曹操の指。気づくと、しばし見入ってしまっていた。触れられてしまえば、きっと心が揺らぐ。それは、曹操にしても同じなのか。乾いた喉。水で潤すと、少しだけ気分が楽になる。
いい感触がなにもないまま、時間だけが過ぎていった。大きな衝撃でもないかぎり、曹操の思考は変えられないのではないかと思えてくる。自分の非力さだけを直視させられたような夜だった。
今夜は、趙雲のところで過ごす予定になっている。さすがに、この状況で夜間の強行軍は避けるべきだった。
「どうやら、あまり芳しくはなかったようだな。それにしても貴殿の情熱的な瞳、主はよき女に愛されてまことに幸せ者ではないか」
「戯言は遠慮していただこうか、趙雲殿。結局、兗州まで来て私はなにもできなかったのだ。それが、全てではないか」
似合わない愚痴を零しながら、館の門を出た。趙雲という女は、難なくひとの懐に入り込む器用さを備えているのではないか。それでつい、自分も弱音を吐いてしまったように思う。
来る時感じたものとは段違いの闘気。それが、暗闇の向こうから自分に向けられている。構えて用心していると、趙雲が暗闇の中にいる誰かに声をかけた。赤い触覚のような髪が見えてくる。そこにいたのは、かつて対峙したこともある呂布だった。
呂布の手には、得物が握られている。まずいと感じたのか、趙雲が間に入ってくれた。
「
「やめておけ。ここにいるのは徐州軍の将軍ではなく、単なる主の客人なのだぞ。それに手を出したとなれば、主は間違いなくお嘆きになる。闘うのは、戦場だけで十分ではないか。だから、武器を引け、恋」
「んっ……、わかった」
呂布というのは、ここまで純真な眼をしていたのか、と愛紗は思う。
武器を下ろした姿はまるで叱られた子供そのものであり、天下の飛将軍の面影はどこにもない。いざ戦となった時、呂布の存在は確実に脅威となる。そのことも、今後の調練では考えていかなければならなかった。
「すまぬな、関羽殿。この呂布は、主のことをいたく気に入っているのだ。それでつい、今宵は先走ったことをしてしまったのだろう」
「気にするな。このくらい、覚悟の上でやって来ているのだからな。しかし呂布殿。貴公にも曹操殿を思う気持ちがあるのなら、向後の振る舞いをよくよく考えてみることだ」
「恋の、するべきこと。んっ……。一刀のために、恋はなにができる?」
「それは存ぜぬ。その答えに到達できるのは、貴公自身だけなのではないかな、呂布殿。しかし、時はあまり待ってはくれぬぞ」
闇の中に立ち尽くす呂布を残して、愛紗は歩いた。
夜に吹く風。その音色が、今夜はやけに心に染みている。