曹操はよく眠れているのだろうか。少し身動ぐと、
抱き合った箇所のどこもかしこもが熱い。その熱を確かに記憶しておきたくて、月は抱擁の力を強めた。
諸葛亮。そう名乗る少女が自分の前に現れたのは、関羽来訪から二日後のことだった。正確に言えば、目的は自分ではなく
諸葛亮と会う以前から、恋はずっと考えごとをしているようだった。曹操のために、なにができるのか。なにをすれば、曹操の未来のためになるのか。優しすぎるくらいなのが、恋という少女の本質だった。戦場での勇猛さは、ほんの一端を示しているに過ぎないことを、月はよく知っている。
恋の優しさに救われて、自分はここにいる。曹操との縁を紡いでくれたのも、やはり恋だった。
硬く張り詰めている曹操の男根。自分の手で導き、体内深くに飲み込んでしまう。前戯などなにもないままの挿入だった。割り裂かれているという感覚が強いが、今はそれがやけに嬉しかった。
無性に、わが身に曹操の子を宿したいと思った。横になったまま太い男根を締め上げ、身体を揺すった。曹操の熱に反応し、粘液が次々と分泌されていく。全身に拡がる快感。それでも、寂しさは埋まりきらなかった。
「もう朝か。いつも、俺より先に起きてしまうのだな、月は」
「へうっ、んんっ……。実は私、密かな愉しみにしているんです。こんな時でもなければ、一刀さまのお休みになっているお顔なんて、拝見できませんから」
勝手につながっていることを、曹操は咎めなかった。結合部を中心に、切なさが強くなっている。腰を少し大胆に動かすと、粘っこい音がはっきりと耳に届く。
「申し訳ありません、一刀さま。これから、戦に出られるというのに」
「いい。月とは、しばらく会えなくなる。寂しいのかな、俺も」
「嬉しいです、一刀さま。でしたら、もうちょっと」
様々な感情をかき消したくて、子宮近くで曹操とつながり続けた。時間はあまりない。だからこそ、この逢瀬が余計に尊さを増しているのか。
あれから三ヶ月が経ち、曹操軍を阻んでいた雪は消え去った。軍勢は今日出立し、到着次第徐州の攻略に移ることになっている。先陣を務めるのは
曹操に甘く乳先を吸い上げられ、月は一瞬声を洩らす。心を鎮め、戦に向かえる状態に持っていこうとしているのか。一心に乳房を吸う曹操の背中を撫でながら、月はきつく眼を閉じた。
散々悩んだが、詠には諸葛亮の件を伝えない方がいい、と月は思っていた。迷いは、苦しみにもつながっていく。そんなものを、詠には味わわせたくなかった。
自分は、どちらに転ぼうが恋と行動を共にすることを決めている。一度その決断で救われた命なのだ。今度も、恋の本能に賭けてみたいという気持ちに自然となっている。
「あっ、ひゃふっ……。一刀さまの熱いもので、お腹の中がいっぱいです」
曹操の身体がかすかにふるえ、射精がはじまった。子宮の入り口で亀頭にぴったりと口づけ、月は甘い声を洩らしている。全身が蕩けていく。幾度味わおうが、曹操との情交は優しく甘美なものだった。
子種を吐き出し終えて、曹操が乳房から口を離した。表情が冷たいものに変わっていく。着替えを手伝う最中、月の中ではまた寂しさが急速に募りはじめている。
「行ってくる、月」
「ご武運を、一刀さま」
絶影に乗った曹操の背中が、遠くに消えていく。
余韻の残る胎内が、まだ熱を湛えたままでいる。腹の下あたりを擦りながら、月はしばらく館の門前に居続けていた。
†
報仇雪恨。仇討ちの念が込められた白旗を掲げ、五万の曹操軍は進んだ。
豫州北部を横断し、まずは彭城周辺を制圧する手筈となっている。先鋒を任されているのは、いつものように春蘭だった。そして、副将として
そんな中、軍勢の行進を見つめる人影がひとつだけあった。しかも、それがよく知っている人物だったから、翠は思わず声をかけた。
「
「ごめんなさい、翠さん。ほんとうは、見に来るつもりなんてなかったの。だけど、どうしても気になってしまってね」
「そっか。一刀殿と話をしたいのなら、あたしから言ってみるぜ?」
麾下をそのまま進ませ、翠は馬の手綱を少し緩めた。
鄄城近くに住まいを用意するという曹操の提案を断り、人和は隠棲を続けていた。関係を絶ったのではない。時々顔を見せに来るし、なんなら歌を披露する機会も設けるようになっていたのだ。それでも、あまり表立った存在になりたくないというのが、人和の本心なのかもしれない。もしくは、消息のわからない姉たちが見つかるようなことがあれば、その気持ちにも変化が訪れるのか。
「いいの、翠さん。私には、あの人を見送ることくらいしかできないのよ。だから、みんな無事でいてね」
「うん、ありがとうな。一刀殿には、人和がいたことは内緒にしておくよ。落ち着いたら、また遊びに来いよな?
「ええ、きっと。それじゃあ、翠さん」
「おう。気をつけてな、人和も」
人和との別れを済ませ、翠は愛馬を駈けさせた。
徐州軍は防御線を構築し、自分たちが来るのを待ち受けているのだろう。たぶん、関羽たちは最前線に出てきている。気を抜くことなど、決してできない相手だった。
空同然の城を二つほど抜き、彭城に向けて進んだ。付近の住民は、すでに避難し終えているらしい。そのあたりの準備は、迎撃を前に劉備が念入りに行っているのだろう。でなければ、あたりはとっくに血の雨で汚れていたはずだ。
彭城まであと数里にまで迫った。春蘭率いる軍勢が停止する。前方に、関羽率いる劉備軍が布陣しているとの報告が入ったからだった。
「よう。久しぶりだな、関羽」
「出てきたか、馬超。さすがに、そちらは錚々たる陣容だな。かき集めのわれらで、どこまで対抗できるのか。しかし、私は負けるわけにはいかないのでな。この戦には、様々な命運がかかっているのだ」
「住民がいないと知った時は、正直ほっとしたよ。これなら、あんたとも堂々と闘える」
「いい顔をするようになったな、そちらも。ならば、遠慮は無用だ。劉備軍の戦を、とくと味わってもらおうか」
闘志を漲らせた関羽が、ちょっと微笑んだように翠には見えていた。
軍勢の数では、こちらが勝っている。だが、相手は彭城周辺を戦の舞台に選び、防衛手段を練ってきているのである。関羽が、闘いで手を抜くことなど考えられなかった。ぶつかるのなら、本気で挑む。この日のために、自分も麾下の調練に励んできていた。
すぐ近くでは、
「よく来たのだ、徐晃。けど、知り合いが相手だからって、
「……うん。わかってるよ、張飛。それでも、シャンはお兄ちゃんのために闘うだけ。相手が誰でも、それは同じ」
関羽が、右手で握った青龍偃月刀を上空に立てている。後方に控えていた劉備軍が動き出す。防御側だからと言って、後手に回るつもりはないようだった。
下知を待つ騎馬隊に気合を入れ直し、翠は槍の切っ先を前方に向けた。喚声。原野に響き渡る。いよいよ、劉備軍との本格的な戦がはじまるのだ。馬腹を蹴り上げ、翠は騎馬隊に突撃体勢を取るように命じていた。
頬を撫でる戦場の風。突き破るように、翠は叫びを上げている。