※この作品はR-18です。

恋姫異天記~曹操伝~   作:KKS

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十一 策謀の戦場(月)

 曹操はよく眠れているのだろうか。少し身動ぐと、(ゆえ)は男の硬い胸板に額を擦りつけた。

 抱き合った箇所のどこもかしこもが熱い。その熱を確かに記憶しておきたくて、月は抱擁の力を強めた。

 諸葛亮。そう名乗る少女が自分の前に現れたのは、関羽来訪から二日後のことだった。正確に言えば、目的は自分ではなく(れん)だったのである。どこから情報を得たのかはわからない。だが、諸葛亮は自分の正体が董卓であると、看破しているようでもあったのだ。

 諸葛亮と会う以前から、恋はずっと考えごとをしているようだった。曹操のために、なにができるのか。なにをすれば、曹操の未来のためになるのか。優しすぎるくらいなのが、恋という少女の本質だった。戦場での勇猛さは、ほんの一端を示しているに過ぎないことを、月はよく知っている。

 恋の優しさに救われて、自分はここにいる。曹操との縁を紡いでくれたのも、やはり恋だった。

 硬く張り詰めている曹操の男根。自分の手で導き、体内深くに飲み込んでしまう。前戯などなにもないままの挿入だった。割り裂かれているという感覚が強いが、今はそれがやけに嬉しかった。

 無性に、わが身に曹操の子を宿したいと思った。横になったまま太い男根を締め上げ、身体を揺すった。曹操の熱に反応し、粘液が次々と分泌されていく。全身に拡がる快感。それでも、寂しさは埋まりきらなかった。

 

「もう朝か。いつも、俺より先に起きてしまうのだな、月は」

「へうっ、んんっ……。実は私、密かな愉しみにしているんです。こんな時でもなければ、一刀さまのお休みになっているお顔なんて、拝見できませんから」

 

 勝手につながっていることを、曹操は咎めなかった。結合部を中心に、切なさが強くなっている。腰を少し大胆に動かすと、粘っこい音がはっきりと耳に届く。

 

「申し訳ありません、一刀さま。これから、戦に出られるというのに」

「いい。月とは、しばらく会えなくなる。寂しいのかな、俺も」

「嬉しいです、一刀さま。でしたら、もうちょっと」

 

 様々な感情をかき消したくて、子宮近くで曹操とつながり続けた。時間はあまりない。だからこそ、この逢瀬が余計に尊さを増しているのか。

 あれから三ヶ月が経ち、曹操軍を阻んでいた雪は消え去った。軍勢は今日出立し、到着次第徐州の攻略に移ることになっている。先陣を務めるのは春蘭(しゅんらん)。曹操が最も信頼し、また徐州に怒りを燃やしている将でもあった。

 曹操に甘く乳先を吸い上げられ、月は一瞬声を洩らす。心を鎮め、戦に向かえる状態に持っていこうとしているのか。一心に乳房を吸う曹操の背中を撫でながら、月はきつく眼を閉じた。

 (えい)は、曹操と一緒に城を離れることになっている。今回の戦、主軍はあくまでも曹操の軍であり、恋の手勢は後詰めに回るような段取りになっている。

 散々悩んだが、詠には諸葛亮の件を伝えない方がいい、と月は思っていた。迷いは、苦しみにもつながっていく。そんなものを、詠には味わわせたくなかった。

 自分は、どちらに転ぼうが恋と行動を共にすることを決めている。一度その決断で救われた命なのだ。今度も、恋の本能に賭けてみたいという気持ちに自然となっている。

 

「あっ、ひゃふっ……。一刀さまの熱いもので、お腹の中がいっぱいです」

 

 曹操の身体がかすかにふるえ、射精がはじまった。子宮の入り口で亀頭にぴったりと口づけ、月は甘い声を洩らしている。全身が蕩けていく。幾度味わおうが、曹操との情交は優しく甘美なものだった。

 子種を吐き出し終えて、曹操が乳房から口を離した。表情が冷たいものに変わっていく。着替えを手伝う最中、月の中ではまた寂しさが急速に募りはじめている。

 

「行ってくる、月」

「ご武運を、一刀さま」

 

 絶影に乗った曹操の背中が、遠くに消えていく。

 余韻の残る胎内が、まだ熱を湛えたままでいる。腹の下あたりを擦りながら、月はしばらく館の門前に居続けていた。

 

 

 報仇雪恨。仇討ちの念が込められた白旗を掲げ、五万の曹操軍は進んだ。

 豫州北部を横断し、まずは彭城周辺を制圧する手筈となっている。先鋒を任されているのは、いつものように春蘭だった。そして、副将として華侖(かろん)がつけられている。間違いなく、苛烈な攻撃が想起される組み合わせだった。軍勢の中ほどを進みながら、(すい)は斥候からの報告を聞いている。曹操軍の威容をおそれて、街道付近には誰も近づこうとはしていなかった。

 そんな中、軍勢の行進を見つめる人影がひとつだけあった。しかも、それがよく知っている人物だったから、翠は思わず声をかけた。

 

人和(れんほう)じゃないか。どうしたんだよ、こんなところで」

「ごめんなさい、翠さん。ほんとうは、見に来るつもりなんてなかったの。だけど、どうしても気になってしまってね」

「そっか。一刀殿と話をしたいのなら、あたしから言ってみるぜ?」

 

 麾下をそのまま進ませ、翠は馬の手綱を少し緩めた。

 鄄城近くに住まいを用意するという曹操の提案を断り、人和は隠棲を続けていた。関係を絶ったのではない。時々顔を見せに来るし、なんなら歌を披露する機会も設けるようになっていたのだ。それでも、あまり表立った存在になりたくないというのが、人和の本心なのかもしれない。もしくは、消息のわからない姉たちが見つかるようなことがあれば、その気持ちにも変化が訪れるのか。

 

「いいの、翠さん。私には、あの人を見送ることくらいしかできないのよ。だから、みんな無事でいてね」

「うん、ありがとうな。一刀殿には、人和がいたことは内緒にしておくよ。落ち着いたら、また遊びに来いよな? 季衣(きい)の奴も、絶対喜ぶからさ」

「ええ、きっと。それじゃあ、翠さん」

「おう。気をつけてな、人和も」

 

 人和との別れを済ませ、翠は愛馬を駈けさせた。

 徐州軍は防御線を構築し、自分たちが来るのを待ち受けているのだろう。たぶん、関羽たちは最前線に出てきている。気を抜くことなど、決してできない相手だった。

 空同然の城を二つほど抜き、彭城に向けて進んだ。付近の住民は、すでに避難し終えているらしい。そのあたりの準備は、迎撃を前に劉備が念入りに行っているのだろう。でなければ、あたりはとっくに血の雨で汚れていたはずだ。

 彭城まであと数里にまで迫った。春蘭率いる軍勢が停止する。前方に、関羽率いる劉備軍が布陣しているとの報告が入ったからだった。

 

「よう。久しぶりだな、関羽」

「出てきたか、馬超。さすがに、そちらは錚々たる陣容だな。かき集めのわれらで、どこまで対抗できるのか。しかし、私は負けるわけにはいかないのでな。この戦には、様々な命運がかかっているのだ」

「住民がいないと知った時は、正直ほっとしたよ。これなら、あんたとも堂々と闘える」

「いい顔をするようになったな、そちらも。ならば、遠慮は無用だ。劉備軍の戦を、とくと味わってもらおうか」

 

 闘志を漲らせた関羽が、ちょっと微笑んだように翠には見えていた。

 軍勢の数では、こちらが勝っている。だが、相手は彭城周辺を戦の舞台に選び、防衛手段を練ってきているのである。関羽が、闘いで手を抜くことなど考えられなかった。ぶつかるのなら、本気で挑む。この日のために、自分も麾下の調練に励んできていた。

 すぐ近くでは、香風(しゃんふー)が張飛と向かい合っていた。いつになく、静かな佇まいなのである。子供っぽさが強く残る張飛も、この時ばかりは武人としての集中力を研ぎ澄ましているようだった。

 

「よく来たのだ、徐晃。けど、知り合いが相手だからって、鈴々(りんりん)は手加減したりしないよ。お兄ちゃんを止めなくちゃ、徐州のみんながたくさん泣くことになるんだもん。そんなの、鈴々は許せないから」

「……うん。わかってるよ、張飛。それでも、シャンはお兄ちゃんのために闘うだけ。相手が誰でも、それは同じ」

 

 関羽が、右手で握った青龍偃月刀を上空に立てている。後方に控えていた劉備軍が動き出す。防御側だからと言って、後手に回るつもりはないようだった。

 下知を待つ騎馬隊に気合を入れ直し、翠は槍の切っ先を前方に向けた。喚声。原野に響き渡る。いよいよ、劉備軍との本格的な戦がはじまるのだ。馬腹を蹴り上げ、翠は騎馬隊に突撃体勢を取るように命じていた。

 頬を撫でる戦場の風。突き破るように、翠は叫びを上げている。

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