抜きゲーみたいな島に住んでるTS娘はどうすりゃいいですか? 作:パチドリくん
NLNSとの逃走劇から翌週。
学生も社会人も皆憂鬱な気持ちで朝を迎える月曜日がやってきた。
しかし、そんな憂鬱であろう日でもこの島の住民たちは一味違う。
「うふふ・・・・・・上手に体操出来ましたねぇ・・・・・・お姉さんが坊やの坊やにスタンプ押してあげる♡」
「あーたーらしーいあーなが来た♪ きーつーめのーあーなーだ♪ オイ!スタンプ押すより子を孕め!悦びに股を開きながら、大声喘いで孕めオラァ!」
「今日も皆元気だなぁ」
低血圧気味な私には朝からあんなに動くのは到底無理だ。
出来なくは無いけれど、非常に疲れてしまう。
どちらかというと私は夜型なのである。
そういえば低血圧には運動が効くっていうけど、それが影響しているのだろうか?
いやでも私SSで体動かしてるけど・・・・・・結局体質なんだろうなぁ。
やってる行為はともかく、朝からしゃっきりぽんっと起きれる人は少し羨ましい。
確かに二度寝は気持ちいいけれど、休みの日の二度寝後の時計を見た時の虚しさといったら無い。
前世でも朝が弱かったので、のべ数十年の悩みであった。
「っ~・・・・・・んぅ」
腕を上げて背を伸ばす。
ただそれだけの動作だが、少しだけ眠気が覚めていく。
そうして時間を潰していると――コツコツと、軽い足音を立てながら目的の人物が現れた。
「――おはよう、桐香」
「はぁい、おはよう。 SS代表兼水乃月学園生徒会会長の冷泉院 桐香です」
ニコニコと、言い方を悪くすればヘラヘラと。
親の顔より聞いたセリフを垂れ流しつつ、可愛らしい顔をした桐香がやってくる。
今日も一段とてぇてぇ姿だった。
「忘れ物は無い? ハンカチとティッシュは? いざという時のエチケット袋も持ってる?」
「えぇ勿論――というより、葉月が準備したんじゃ・・・・・・」
「いいからいいから・・・・・・うん、大丈夫そうね」
桐香の朝の身だしなみチェックはとーかちゃん係の私の仕事である。
礼先輩や郁子も混じることはあるが、基本はいつも私一人だ。
朝の起床から朝ごはんの用意に登校の準備、その他歯磨き化粧着替え諸々とーかちゃん専用のお仕事をこなしている。
朝の弱い私には辛い仕事ではあるが、このきゃわいい(死語)桐香のお世話をやれるのだからモーマンタイ(死語)だった。
ゲロだけはちょっと勘弁だけど。
「それじゃあ、行こっか」
「いつもありがとねぇばあさん」
「花の女子〇生に向かってなんてことを言うんだ君は」
まぁばあさん程にないにせよ桐香より歳は重ねてるけどさ。
「全く・・・・・・えぇえぇ、じいさんは私が居ないと生きていけないですからねぇ・・・・・・」
「あら、私がおじいさんなの?」
「逆に何だと思ったのさ」
「愛くるしいペットかと・・・・・・」
確かに桐香は愛くるしいが。
「桐香がばあさんと呼んだんだから、そりゃ相手はじいさんでしょうよ」
「そういえば童話の桃太郎は一般的に桃から生まれたとされていますが、元々のお話は流れてきた桃を食べた老夫婦が不思議な力で若返ったことでドスケベした結果生まれた子供だそうですよ?」
話聞かねぇなぁ・・・・・・
「・・・・・・つまり、私たちはその桃を食べて若返った老夫婦ってこと?」
「わんわん♡」
「犬じゃん・・・・・・」
「わぅ・・・・・・きゃっきゃ♡」
「喋った・・・・・・!」
「ケーン♡」
「あれこれもしかして犬猿雉の流れだったの!?」
「お前のようなババァが居るか♡」
「ケン違い・・・・・・っ!?」
「いえ、今のは若返った老婆に対する反応という意味で・・・・・・」
「分かりづらいよ・・・・・・」
というか結局自分をペットだとアピールしてきやがる。
それも可愛いから桐香はずるいよなぁ。
・・・・・・でも、これから私は桐香たちを裏切ることになる。
皆を救うとは決めているけど、それでも一度裏切る事には変わりない。
それが、罪悪感としてどうしようも無く胸を締め付ける。
けど、それを悟らせるわけにはいかない。
普段通り・・・・・・普段通りに、うん。
「でも桐香は犬っていう感じしないよねぇ」
「そう? でも私、忠義心とかには自信があるわ。 ほら、私って育った環境が――」
「まぁそれは置いといて」
「置いといて・・・・・・」
話がちょっと良くない方向に舵取りそうだったので早急に座礁させる。
「忠義心・・・・・・」と呟く桐香が少ししょんぼりしてるのがまた可愛らしい。
・・・・・・じゃなくて。
可哀想ではあるが、過去の話は桐香が気にしてなくても私が気にするのであまりして欲しくは無かった。
SSってのは皆過去が重いから反応に困るのだ。
もっと明るい話をしよう――そうだ。
「それよりもほら、桐香はどっちかと言えば狸だよねぇ! ほらお尻も――」
「大きくないわ」
「いやでも――」
「大きくないの」
今度は桐香から即座に否定を食らう。
それも隙を生じぬ二段構え。
冷泉院家の否定術は全てそうなのだろうか。
しかし、何だ、その――
「・・・・・・気にしてるの?」
「・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私のその言葉に、桐香は――
「もにゅもにゅ・・・・・・むむむ・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・かっっっっっっわいーー!!
うーわ何だこれ可愛いのエベレストか?
あの桐香が、こんな可愛い顔を!!!!
口がアルパカみたいにむにゅむにゅしてる!!
カメラ、カメラはどこだ・・・・・・ない!?
――・・・・・・そうだ昨日部屋でフォルダの整理したままPCに繋ぎっぱなしに――えぇいもうスマホでええわ!!
伊達に1919万画素の猥phone使ってんだマンコは舐めても性能は舐めんなよ!
これで桐香の成長アルバムにまた1つページが生まれ――
「・・・・・・葉月、鼻血出てるわよ?」
「はっ――」
いかん、トリップしそうになっていた。
危ない危ない・・・・・・。
しかし思った通りだったが・・・・・・やばいな、これ。
期待通りの反応が返ってきたことに、内心でガッツポーズ。
そう、私はこういう反応をしてくれると分かっていた。
ぬきたし2にて、
いつも飄々として、だらしない所はあってもいつも精神的に余裕があったはずの桐香はそれを恥ずかしがるのだが、それは今まで桐香が気にしたことが無かった体型の悩みであり、初めて桐香が恋する少女らしい一面を見せる個人的名場面だった。
後に本人から気にしないと言われて漸く元通りになるのだが、それまではこんな感じで必死に否定をするのだ。
桐香は図星だとでも言うように、微笑を浮かべつつも目線を僅かにずらして汗を一滴垂らす。
その様子がどうにも新鮮で、やっぱり人は恋すると変わるんだなぁと、そう思う。
「・・・・・・まぁまぁ桐香! 人によっては、気にしないって人もいるよ?」
「そんな慰めなんていらないわ・・・・・・こんな大きくてだらしないお尻、好きになるはずが無いもの・・・・・・」
「分かんないよ? ほら、お尻フェチの人は大きいのが好きって言うし! 大は小を兼ねるって母さんは思うよ!」
「そういうおかん的なノリでは無く・・・・・・いえ、大は小を・・・・・・そうね、葉月がそう言うと何だか説得力があるわ」
「おい何故急に私の胸を見ながら言った?」
いいんだよ私の胸は、このスレンダーな体に合ってるから。
そも胸に大きさなんて関係ないんだよ、どれも全て尊いものだ。
それが分かってない女子の多いこと多いこと・・・・・・。
あ、奇乳はちょっと好みが分かれるのでお口チャックで。
「昔の人はこう言いました――貧乳はステータスだ、希少価値だ、とね」
「そう・・・・・・」
「またある偉い人はこう言いました――大きいおっぱい、小さいおっぱい。そんなの人の勝手。本当におっぱいが好きな男なら、どんなおっぱいでも愛せるよう頑張るべき、と」
「ふぅん・・・・・・」
「という訳で胸の大きさなんてものは決して個人の魅力に左右されるもので無く、その人に合っているかどうかが大事であって――」
「あ、ちょうちょ・・・・・・待てー♪」
「話聞いてねぇな!」
人が折角大事なことを言っているのに・・・・・・。
まぁでも楽しそうだし、いっか。
ちょうちょでニコニコはしゃぐ桐香も可愛いし――ん?
「ってああっ! ちょっ桐香、そっち学校とは逆方向――お願い待って!」
やっばい手繋いで無かった!!
可愛い顔に気を取られ、桐香の気の向くままに動く性質を忘れてしまっていた。
あぁもう――私の馬鹿!
その後――走り回る桐香を引っ捕まえて学校へ行き。
校門前で撃墜王の表彰準備をサボり手荷物検査に混じっていた郁子を回収し。
奈々瀬が撃墜王で一位となった為立ち松葉パコ四十八手賞*1を授与したりなど。
NLNSの動向を確認しつつも、今日の一日は終わりを迎えるのであった――
夜の帳が下りる暗闇の中、ハンドガンとガチャポンから拝借したEggを持ち運びながら森の中を歩き廻る。
少しの音でも聞き逃さないように耳をそばたてながら、手元の地図に記されている場所に一つ一つ向かい、行先を虱潰しにする。
彼女の無事を確かめるために――
「まだ、見つからないか――」
また1つ、地図に✕印を書き込む。
これで3ヶ所廻った事になるが、未だに彼女の姿もヤクザの怒号も聞こえてこない。
私の知っている予定であれば、今日がその日であるのだが――
「・・・・・・このまま、無事に終わるといいんだが」
撃墜王を終え、週明けの月曜日。
この日は数ある未来の分岐点にして、どのように変化していくか想像がつかない箇所でもある。
だからこそ今日は、情報収集と――文乃の無事を確かめる必要がある。
奈々瀬ルートであれば、NLNSの皆を送り届けてから奈々瀬と帰宅。
ヒナミルートであれば、ヒナミを送る橘兄妹3人での帰宅。
美岬ルートであれば、基地に居ない美岬の回収のちに情報収集。
そしてグランドルートである、文乃ルートであれば――
「ヤクザとの、戦闘」
そう。
他のヒロインはそれほど危険な状況ではないのに対し、文乃の場合は――ヤクザに追われるという、非常に危機的な状況に陥る。
この時の危機は、一歩間違えれば文乃が重症を負ってもおかしくない場面であった。
なにせ、相手はヤクザ――それも、本物の拳銃を所持している輩だ。
本編で淳之介が来ていなければ、肩に銃創を受けていたかもしれないのだった。
そんなもの、私が許すはずがない。
「・・・・・・次の地点に向かおう」
昼間確認した限りでは、淳之介たちはどのルートにも適応しない行動をしていた・・・・・・と思う。
あまり自信はない。
というのも、帰宅の動向を探る為に後をつけるとかいうストーカーみたいな事は人として流石に出来ないし*2、そもそも仕事があって不可能だった。
少なくとも郁子が校門前で手荷物検査もといおちんちんチェックをしていたので、すわ美岬ルートかと思い回収したが*3、放課後で美岬を探す淳之介は見られなかったし、最低限の確認として帰る間際にNLNS全員で帰っていることぐらいしか分からなかった。
これで少なくとも、ヒナミルートと美岬ルートの線は消えたが――
「――いや、そうじゃないだろう」
頭を振って、意識を改める。
原作で無いルートだから、淳之介があの娘と付き合わないだろうなんて事は有り得ないのだ。
だが・・・・・・原作から外れて、この物語を無事に着地する事が出来るのか――という不安が、完全には抜けない。
どうしたって、前世での知識が私の中にあるのは否定できないのだから。
――・・・・・・しかし、無事に着地させないといけないのだ。
それが私が今まで好き勝手行動してきた責任というもの。
そして、それこそが私の目標なのだから。
「よし、それじゃあ次は――」
手元の地図の印――少年少女の失踪が起こった箇所を記したそれを確認しようとした瞬間――
「――っ!!」
パァン――と、乾いた発砲音が耳の中を
音の種類、音の大きさ、どれもが聞き慣れたものとは違う。
SSやSHOが持つハンドガンとは違う、確実に空気を切り裂く破裂音。
それが、森の中で何発も響いている。
「この音・・・・・・あっちか!」
続いて聞こえるのは、こちらはよく聞き慣れた発砲音――SHOのスナイパーライフルの音。
先ほどの音と違い、些か軽い音。
その違いが、私を急がせる。
「待てやゴルァァアアア!!」
「俺たちのシノギを邪魔しといて、逃げられると思ってんのか!?あぁ!?」
剣呑な叫び声が聞こえる。
私がその声の元に急いで駆け寄ると、段々と音が明瞭になり、草を踏み分ける足音も聞こえてきた。
「・・・・・・はぁっ・・・・・・み、見つけた!」
これまでずっと歩きっぱなしで、しかも山道をいきなり走ったものだから軽く息切れる。
されど呼吸を気にしている暇はない。
今はそれよりも、文乃の様子を確認しないと――!
「――――――、っ!」
そうして見つけたのは、着物を身に纏い、スナイパーライフルを抱えた淡色の髪の少女――琴寄 文乃が、走りながら右足を軸に身体を回転させ射撃姿勢を取り、スコープを須臾の間に覗き込んで瞬く間にヤクザを撃ち抜く瞬間であった。
先ほどまで走り回っていたというのに、的確に頭部を打ち抜くその狙撃の腕はまさに達人技。
しかし、異様なのはその狙撃の技術だけではない。
この山は木々が覆い茂っているせいで空からの光が全くといっていい程入ってこない。
つまり、視界が殆ど真っ暗で、自分のすぐ近くまでしか周囲を把握出来ないのだ。
勿論、スコープに暗視機能がある訳でもなく――そんな状況で、数十m以上は離れているであるヤクザ共にあそこまで正確に命中させるとは、一体如何なるトリックだと言うのか。
これが――これが、文乃。
全ての捜し物を見つけたいと願った――吹上の血を継いだ文乃の、豊玉の加護の力。
「――・・・・・・は・・・・・・あ・・・・・・っ」
「クソッ、こんな暗闇でなんつう腕してやがる・・・・・・っ! おい、大丈夫か!」
「駄目です兄貴! 完全に伸びてやがります!」
「――チッ、仕方ねぇ。 あのガキを追うぞ!!」
状況を確認するに、まだ淳之介が見かけた場面ではないらしい。
倒れた男をそのままに、彼らは文乃を追いかける。
気絶した仲間に構う時間も惜しいのだろう――誰一人として気に掛ける人間はいなかった。
なら、それを私は有用させてもらう。
「・・・・・・あとで回収に来るからな」
とはいえ、私もそう構ってはいられない。
男の手と足にポーチから取り出した手錠を回し、そのまま地面に放る。
こいつは後でSHOに突き出し、未性年誘拐の件について情報をたんまり吐いてもらう予定だ。
「淳之介は、居ないのか――?」
奴らに気付かれないように、急ぎながらも慎重に追いかける。
この追いかけっこは、そう長く続くものではないはず。
人間、この山道を走り回っていられるのはそう長い時間ではないからだ。
そうなれば必然、すぐ近くに淳之介の姿が見えたっておかしくはないはずなのだが――
「ちょこまかとウザいんだよ――!!」
再びの銃撃。
文乃は木々の間をかいくぐり、その銃撃から身を隠す。
しかし狙いは間一髪――放たれた弾丸が文乃のすぐ傍の木へと命中し、その幹に深々と穴を開ける。
ライオット弾では、決して不可能な破壊力。
私は銃のことにはあまり詳しくない為分からないが、木々にあんな穴を開けるブツを喰らったらただでは済まないだろう。
・・・・・・仙波さんなら今の音からでも何の銃か分かったりするのだろうが。
「すぅー・・・・・・はぁっ」
深呼吸をして、気を落ち着かせる。
現状、淳之介の姿は見えない。
ならば、いざという時は私が出るしかないのだ。
――実銃を持った、ヤクザたちの前に。
「・・・・・・オレはテメェのせいで若頭代行に指ぃ詰めさせられてんだぞ!? 廻して犯して殺してやっからなぁあああーーー!?」
怖い――そう思うのは間違いではない。
それは人間として当たり前の感情である。
しかし、そんなものは今まで何度だって押し殺してきた。
今以上に恐ろしい状況にだって出くわした事だってある。
だから、この程度――私でも何とでもなる。
「ふっ・・・・・・!」
状況は刻一刻と進む。
私は顔に付けていた仮面を一度外し、代わりに赤外線スコープを取り付ける。
文乃と違って、私に暗闇で狙いを逸らさず敵を撃つ力は無い。
そこで、このスコープが役立つのだ。
「――――・・・・・・っ」
また一人、文乃の狙撃でヤクザが倒れる。
状況的に、もうすぐだ。
頼む、淳之介。
文乃の危機なんだ。
お前が助けなきゃ、一体誰が助けるっていうんだ。
心の中で、淳之介が来てくれることを祈る。
だが――
「――――っ!」
文乃が倒れた。
背後からやってきたヤクザに、ダブルスレッジハンマー*4で後頭部を撃ち抜かれたのだ。
もうここまで来たら、殆ど時間が無い。
淳之介は、淳之介は居ないのか?
辺りを見渡すも、いざという時に頼りになるあの顔が見当たらない。
見えない場所に居るだけなら、それでいい。
でも、それにしたって、スコープもあるのに見つからないなんてこと――ありえるのか?
――嫌な予感が、脳裏を過る。
いや、嫌な予感は以前からしていた。
私が淳之介を叩き起した、あの時から――
淳之介は、確かに撃墜王の時に文乃を助けに行った。
それがグランドルートに入る条件だから、そうしてもらわなければ原作がどうなるか分からなかったから。
だが、それは――あくまでも淳之介個人の力で成し遂げた場合の話。
この世界では、淳之介は倒れ、代わりに私が淳之介を起こしている。
今までは私が原作と違う行動を取っても、修正力と呼ぶべきものなのか――ある程度原作に沿った流れになっていた。
だが、ここからは。
ルートが分岐する、未来の行方が分からなくなるこの岐路は。
私の取った行動一つで、どんな未来にも姿を変える?
「ぁ・・・・・・・・・・・・」
倒れた文乃の傍に、ヤクザ共が近付いて行く。
幼い少女の傍に下卑た顔を浮かべ、口々に度し難い言葉を吐きながら、拳銃を彼女へと向けていく。
ヤクザが、少女に、悪意を持って近付く――
「――・・・・・・ぁぁぁああああああ!!」
瞬間。
私は――ヤクザ達の前に飛び出していた。
「ふ――――っ!」
ハンドガンをヤクザの頭部へ向け、撃ち抜く。
まず1人。
不意打ちで倒せるのはここまで。
あとは2人。
「なっ、何だてめぇ!?ふざけた格好しやが、うごぁっ!?」
そのまま駆け抜けた勢いで、相手の横っ腹を蹴りつける。
思わずヤクザキックのようになってしまったが、こいつらにはこれがお似合いだろう。
そのまま脇腹を抱え悶絶している男を無視し、もう1人残った兄貴と呼ばれた男の方へと振り向くと、流石にヤクザと言うべきか、動揺をすぐ抑えこちらへと襲いかかって来ていた。
「オラァッ!」
「――っ!」
「チッ、避けやがったか・・・・・・・・・誰だか知らねぇが、随分やってくれるじゃねぇか、えぇ!?」
「・・・・・・大きい声で喚くな、ゲスが。耳に障る」
怒声をあげる男に、わざとらしく煽るような発言をする。
すると男はその言葉に顔を真っ赤に染め上げ、思い切りこちらへと殴りかかってきた。
「舐めやがってガキがッ!」
「・・・・・・・・・っ」
ここまでは予定通り。
相手を怒らせて、直接殴りかかってくるように誘導させる。
この距離では拳銃より徒手空拳の方が早いとはいえ、相手が銃を取り出したら制圧に面倒だったからだ。
私に向けられる分には問題無い――だが、文乃を人質に取られてしまった場合が嫌だったのだ。
流れ弾などの懸念もある。
ゆえに、素手で。
大きく振りかぶった拳の軌道を相手の視線から読み取り、体を斜め横にすることで回避する。
そのまま飛び出した腕を掴もうとしたが、男は腕を横に薙ぐと、私の掴もうとした手のひらを叩き落とす。
その素早い動きに、先ほどのパンチはただ単純に殴り掛かったのではなく、牽制の意味だったのだと理解する。
――この人、随分ケンカ慣れというか、戦い慣れしている。
「ああぁ面倒くせぇ! ただのガキかと思えば――てめぇ、SHOの関係者か!?」
「――答える必要はない」
男がイラついた表情で、迫りくる。
相手の再びの牽制の拳を避け、時には受け流し時間を稼ぐ。
ヤクザが言った言葉――それは、私の戦い方の事を言っているのだろう。
私の戦闘技術は、SSやSHOに所属する人間が習う格闘術「Seiranto Quench Combat」――通称:SQCと呼ばれるそれを基に成り立っている。
SQCそれそのものの基本目的は暴徒の鎮圧で、傷をつけケガを負わせるためのものではないが――それも、やり方次第では十分相手を打ち倒すことも可能である。
それに、私には郁子と長い間一緒に訓練したことで、少しだけだが投げ技に関しても心得があった。
とはいえ、郁子のと比べると天と地ほどの差があることは否めないが。
一方、ヤクザ側はと言うと――
「こっちはこれでも
「はっ――折角の技術も、ヤクザ稼業に使われては意味がないな」
「崋山心眼流は元々ヤクザが元締めなんだよ!舐めた口聞くんじゃねぇっ!」
「知ってる――よっ!」
その本流は、本島にある任侠団体の大地主が関わっていると噂されているが、その真偽は定かではない。
とはいえ、崋山心眼流を習っている=ヤクザと言っても過言では無いレベルで浸透している為、あながち嘘では無いのだろう。
戦闘力はほぼ互角。
・・・・・・いや、体格差を考えればやや不利だろう。
むしろ、軍隊並みの訓練をしているとはいえ、大人の武道家を相手によく持っていると言った方が良いか。
そもそも、私一人で大の大人三人を倒せるなどとは思っていない。
そんな事が出来るのは桐香か郁子――礼先輩もギリいけるぐらいか?
私の戦闘技術はそこまで高くないと、自分自身分かっている。
だが、別に私がここでこいつを制圧する必要はない――
ヤクザの背後――倒れている文乃の方へ一瞬視線を向ける。
・・・・・・そう、私は文乃が起きるのを待っている。
文乃が起きて、ここから逃げてさえくれれば私はそれで十分なのだ。
一番良いのは私がこいつを倒し、彼女を安全な所まで連れていくことなのだろうが・・・・・・出来ないのなら、次点でやれることをするまで。
そうして、文乃が起きてくれるまで戦えば――っ!?
「――はっはぁ!! 油断しやがったな馬鹿が!!」
「なっ、き、貴様!?」
最初にヤクザキックで蹴飛ばした男が、いつの間にか起き上がり私の背中を羽交い絞めにする。
し、しまった――こいつの事をすっかり忘れていた!
兄貴分ヤクザの戦闘と、文乃の状態に気を取られ、倒した敵のことがすっぱり頭から抜け落ちてしまっていた。
「よくやった! そのまま抑えとけよ・・・・・・!」
「ハイ、兄貴!」
「ぐっ、はっ放せ――っ!?」
思い切り暴れるが、どうしても相手の力の方が強い。
ぐ――こんな所でも体格差が――!
「まずは一発――オラッ!」
「ぐぅっ・・・・・・!」
鳩尾に拳が突き刺さる。
息が出来ない。
喉が詰まる。
流石武道の有段者――的確に人体の急所を狙ってくる、なんて場違いな感想が出そうになる。
「がっ・・・・・・あ・・・・・・ぁああっ!」
「おいおいまだ暴れる元気があんのかよ。 んじゃあ、もう1発イっとけやッ!」
今度は肝臓の辺りをねじり込むように突き入れられる。
鳩尾を殴られて息が止まっている時に、さらに肺から酸素を押し出すかのような一撃で、目の前がぼやけ、呼吸困難で口だけが無意味に開く。
それでも頭だけは冷静に動いていて――
(鳩尾の次は、肝臓って――そんな徹底的に呼吸困難に陥るような拳を打ち込むって、島袋戦の幕ノ内か何かなの?)
違う、そうじゃない――
そんな馬鹿な事を考えている暇など無い。
「ん? なんか違和感あんなぁ・・・・・・まぁいい、それじゃあたっぷり手間ぁ掛けさせた礼もしたとこで・・・・・・お前さんのその面、拝ませてもらうよっと――お?」
動けなくなった私のもとへ、男が近付いて赤外線ゴーグルを取外す。
抵抗しようと思っても、先ほどの殴打の痛みが響いて上手く動けない。
せいぜい、“腕を僅かに動かせる”程度である。
「おいおい、お前さんまさかとは思ったが――・・・・・・女だったぁなぁ」
「おっ、マジですかい兄貴。 俺ももしかしてとは思っていましたが、マジでしたか! ほぉ~、どれどれ?」
私を羽交い絞めにしていた男が拘束を緩め、顔を見る為に私の体をひっくり返し、地面に押し倒す。
身動きの取れない私は受け身も取れず、背中を打ち付けながらも、腕を僅かに動かして“ある物”を手元へと手繰り寄せる。
「おーおー、イィ顔してんじゃねぇか・・・・・・あっちのガキと同じでまた綺麗系だから被っちゃあいるが、それでも上等なツラ持ってんじゃねぇの」
「っ・・・・・・」
嫌悪感で全身に鳥肌が立つ。
男の嘗めるような視線が、気持ち悪い。
だけど、我慢しろ。
まだ逆転の芽は残っているのだから――
腕の動きを奴らに気付かれないように、覗き込んでいる男を思い切り睨み付ける。
これで注意が逸れれば、私の計画通りに――
「おいおい何てツラしやがんだよ、ひでぇよなぁ。 お兄さん傷付くよ・・・・・・なぁっ!?」
「あぐっ!」
男の蹴りが、脇腹を貫く。
「舐めたツラしやがって!!さっきはよくも俺を足蹴にしやがったな!!テメェはただじゃおかねぇ、ただ犯すだけで許されると思うなよ!?」
「ぐっ――うぅっ・・・・・・っ!」
一回、二回。
それから何度も、何度も男が私を蹴りつける。
痛みで思わず悲鳴が出てきそうだが、それを堪える。
悲鳴を上げる暇があるなら思考しろ――礼先輩の教えを、忘れるな。
耐えて、耐えて――もう何回蹴られたか分からないが、意地で耐え続ける。
そうしてひたすらに声を上げない私を見て、男は遂に面倒になったのか蹴り上げるのを止める。
「はぁー、はぁー・・・・・・チッ、気絶するまで悲鳴一つ上げやしねぇ。 いちいち腹が立つ野郎だ!」
「その辺にしとけよ、いつまでもそいつに構ってる時間はねぇんだ。 さっさと若頭代行に報告しねぇと俺らがケジメつけさせられんだからな」
「わぁーってますよ兄貴! ったく、折角のお楽しみの時間もコイツのせいで無くなっちまった・・・・・・クソが」
「・・・・・・・・・・・・」
男は唾を道端に吐き散らすと、文乃の方向へと歩き出す。
足音を聞き、バレないようにゆっくりと開いた横目で確認すると、文乃はまだ起きていなかった。
身じろぎはしており、すぐに目を覚ましそうな気配はあるが・・・・・・もう少し時間がかかりそうという感じである。
――そこまで確認して、すぐに行動に移す。
体は痛むし、脇腹は変な感じがするが、先ほどまでの呼吸困難による影響は無くなっていた。
ならば、無理をすれば体は動かせる。
私を傷めつけてもう動かないと油断している奴らに、お返しだ。
懐に忍ばせて置いたある物――それは、黄色のEgg。
効果は、目を数秒眩ませるほどの光量を放出する――フラッシュバン。
それを片手で握りしめ、地面に思い切り叩きつける!
「うあっ!? な、何だ――!?」
「がぁっ・・・・・・め、目が・・・・・・っ!」
「ふっ・・・・・・まるでさっきの僕と同じ、だな・・・・・・ぅっ」
ガンガンと痛みで体が悲鳴を上げるが、それらを無視して立ち上がる。
そして、目を抑えて動けなくなっている奴らを後回しにし、続けて灰色のEggを用意する。
灰色の効果は――煙幕。
これ以上の戦闘は流石に分が悪い為、一度逃走に専念するという判断だ。
先ほどのフラッシュバンを直接握って破裂させたせいで手の平が痛むが、脇腹の痛みに比べたらマシである。
今度は、Eggをしっかりと地面に投げつけてスモークを発生させる。
これが、本来の使用方法であった。
「なっ、げほっごほっ、煙――!? 一体誰が!?」
「くそっ、目が・・・・・・! あいつらの仕業だな・・・・・・っ!」
「文乃、起きて・・・・・・ないか、仕方ない。 行くよ・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・」
文乃を担ぎ、急いでこの場を離脱する。
文乃のスナイパーライフルや、私の赤外線スコープはその場に置き去りになるが、この際仕方がない。
ぐっ、それにしてもキツイ・・・・・・っ。
体重自体はそう重くない筈なのに、気絶していることと怪我を負っているダブルパンチで私の方が倒れそうだ・・・・・・
「どこ行きやがったテメェらぁ!! 逃げられると思ってんじゃねぇぞ!!」
・・・・・・もうフラッシュバンの効果が無くなったか。
だが、まだスモークが奴らの視界を塞いでいる・・・・・・この間に出来るだけ遠くへ行かなくては。
このEggはそう数があるものではない。
何せ一個500円もするのだ――NLNSの物を勝手に利用する身ではあるが、そう幾つも買える物ではなかった。
「文乃・・・・・・絶対、あいつらなんかには渡さないから・・・・・・!」
背中に背負った小柄な少女を――小さな体でずっと戦ってきたこの少女を助ける事こそが。
私が望む、大団円へと繋がる最初の一歩なのだ。
それに・・・・・・――
「こんな小さな子供一人救えなくて、ハッピーエンドなんて迎えられるわけ――ない・・・・・・っ!」
暗闇と薄煙が視界を覆う森の中。
ヤクザ共の目を欺き、音を立てないように潜みながら。
私たちは、山の奥の軍事施設跡地を目指して進むのであった。
僕は可哀想なのじゃ抜けないオスドリだったパチが……葉月くんちゃんが痛めつけられるシーンをカいてる時……何だかすっごく興奮しちゃったパコ……これが、恋……?