抜きゲーみたいな島に住んでるTS娘はどうすりゃいいですか? 作:パチドリくん
「――それで、文乃の情報について何か分かった事はあるか?」
放課後。
秘密基地に集まった仲間たちの顔を見渡して、一日の情報収集の結果を聞く。
昨日は各自文乃捜索に向けて、情報収集に徹して貰っていたのだ。
「それが全然。 文乃って人の影も形も無かったわ」
「私も駄目だったよ・・・・・・みんな文乃って子のこと知らないって」
「・・・・・・私も、皆さんと同じく・・・・・・特に何も分かりませんでした・・・・・・」
「そうか・・・・・・」
その返答に、少しだけ肩を落とす。
予想はしていたが、
琴寄 文乃と呼ばれる少女を見つけ出せ――その難易度を。
俺たちNLNSは今までドスケベからの逃走で手一杯で、スポンサーの老人からの依頼に応えることが難しかった。
だが、あの日から少しずつ――少しずつ、仲間が集まってきた今のチームになってようやく文乃捜索というドスケベ条例撤廃への道を本格的に進めることが出来るようになった。
・・・・・・しかし、想像以上に道は険しい。
俺とアサちゃんも放課後の時間をそれぞれ情報収集に宛てることにしたのだが、結果は察しの通り。
目ぼしい情報というものは全く得られなかった。
イベントも無事に乗り越え、ここから俺たちの反撃が進む。
そう思っていた矢先に、足を躓かせることになるとは。
あまり時間をかけてはいられないというのに――
「――・・・・・・まぁ、そう焦らなくてもいいんじゃない?」
「え――?」
「文乃って子が簡単に見つかってたらあのおじいさんも依頼なんてしてこないでしょうし・・・・・・それに、まだ初めて一日目じゃない」
「焦ったって良い事は無いわ。 それより、次の手を考えましょ? 情報収集は続けるとしても、根本的な手掛かりを見つけるのが先決・・・・・・ね?」
「・・・・・・」
気落ちする内心が顔に出ていたのか、奈々瀬がそんなことを言う。
その言葉に俺は――しまったな、と反省する。
俺は、このチームのリーダーだ。
リーダーには、メンバーを先導し引っ張っていくカリスマが必要だ。
だから俺は、NLNSの皆にリーダーとして相応しい姿を見せるように気を付けていた。
だが今回、落ち込む内心を見せないようにしていたのが奈々瀬には気付かれてしまった。
よくない傾向だ。
よくない傾向・・・・・・なのだが。
・・・・・・・だが、彼女の心遣いを無駄には出来ない。
「――――そうだな、確かに奈々瀬の言う通りだ」
だから俺は、こう答えるしかない。
この場を治めるためにも、リーダーの矜持を守るためにも。
そして何より、彼女たちに心配をかけないためにも。
「・・・・・・よし、それじゃあ今日も作戦を考えるぞ! 早く文乃を見つけて条例を潰さないとな!」
「ん・・・・・・そうね」
「うんっ、皆で頑張ろう!」
「は、はい!」
「うーい」
・・・・・・目標への道は未だ遠いけれど。
こいつらと一緒なら、きっと成し遂げられる。
そう思えるぐらい、仲間たちは今日も心気充実であった。
「ふっ・・・・・・それにしても、ビッチもたまにはいいことを言うじゃないか」
「あぁん?」
「だがしかし、それは俺も考えてた事だからな! ビッチだからって調子に乗るなよ!!」
「調子になんて乗ってないんですけど」
「お前に言われなくても、俺はちゃんと分かってたんだからな!!」
「・・・・・・あぁ、はいはい。 淳ちゃんはリーダーですものねー」
俺はNLNSのリーダーだ。
誰が何を言おうと、立派なリーダーなんだ・・・・・・!
「・・・・・・橘くん、どうかしたの?」
「あれは照れてるんだよ・・・・・・兄は今まで女子に縁のない万年童貞だったから、ああいう女の人からの声援で照れちゃう
「へぇー、そうなんですねぇー・・・・・・万年童貞・・・・・・ぷふっ」
「何だコイツ・・・・・・」
「ばっ――馬鹿を言うなアサちゃん!俺は照れてなんていない!」
「なーに言ってんだ奈々瀬さんに励まされて内心ちょっと嬉しかったんだろうが女子に免疫も無い童貞の癖に粋がるんじゃないよこのメガネインポザル」
「メガネを悪口として使うな! あと2回だからな!!*1」
メガネには何の罪も無いだろうが。
メガネを馬鹿にする奴は許さない。
俺はメガネを取った方が美人だよとか抜かす男がビッチと鬼畜抜きゲーの次に嫌いなんだ。
「メガネとインポ逆じゃありません?」
「そこ、気にするとこ・・・・・・?」
「あと1回だからな!!!!」
「こっちにまで飛んできちゃったよ・・・・・・!」
くっ、どいつもこいつも俺を馬鹿にして・・・・・・!
「でも気持ちは分かるよ兄・・・・・・! 奈々瀬さん相手だと私も恥ずかしくて胸しか見れないもの・・・・・・!」
「我が妹ながら最低な発言」
怒りも冷める程の気持ち悪さだった。
「え? アサちゃん何か言った?」
「いいいいえっ何もっ!! 奈々瀬しゃんは本日も大変美しゅうという話をデュフフフっ」
「そ、そう・・・・・・ありがと・・・・・・?」
「お前はエロゲの主人公か」
あと顔見て話さなきゃめーでしょ。
「・・・・・・話を戻すぞ」
「誰かさんのせいで随分脱線したわね・・・・・・」
「ごほんっ・・・・・・それでは、今後の展開について何か意見があるものはいるか? どんなことでもいい、
奈々瀬の言葉を聞き流しながら、気を取り直して作戦を考える。
今の俺たちは文乃を捜す上であるものが圧倒的に足りていない。
それは――――
「うーん・・・・・・やっぱり見た目も年齢も分からないんじゃ、いくら何でも捜しようがないのでは・・・・・・?」
畔はそう言いながら、困ったように首を傾げる。
――そう。
そうなのだ。
俺たちがここまで苦労している原因は――圧倒的な情報不足。
行方不明者や指名手配犯でさえ人相が公開されるというのに、俺たちが捜している琴寄 文乃なる人物は見た目すら分かっていないのだから、そう簡単に見つかるはずが無いのである。
「分かっているのは名前と性別だけ・・・・・・流石にこれだけじゃあねぇ」
「私、昨日は学園で聞き込みをしたんだけど・・・・・・これで駄目だったってことは、文乃って子は学園にいないのかなぁ?」
「そもそも本当に存在するかも怪しいですよね・・・・・・もしや、文乃さんは幽霊だったとか!」
「何が幽霊だお化けみたいな贅肉しおってからにこのマシュマロマンコが」
「ひえっ」
「――幽霊?」
アサちゃんが畔に噛みつく。
それを宥めるようにアサちゃんを抱き留め*2、畔へ話を促すように視線を投げる。
しかしまた、突飛な話題が出てきたものだ。
「あ、いえ。 全然関係ない話だとは思うんですけど・・・・・・最近、出るらしいんですよ」
「出るって・・・・・・幽霊がか?」
「はい。 ここ最近小さい子供が行方不明になることがあるらしくて・・・・・・近所のおじいちゃんたちはそれを神隠しと呼んでて、子供も少ししたら戻ってくるらしいんですけど、それとは別にぼぉーっと薄く光る長い髪の少女が出るっていう噂が」
「・・・・・・薄く光る、長い髪の少女」
「神隠しにあった子供が、幽霊となって現れてるんじゃって――」
その言葉に、ある人物を思い出す。
撃墜王最終日に俺を助けてくれた、あの着物姿の少女。
暗闇の中でも目立つ、月の光が反射して薄く光る神秘的な髪色をした彼女の姿を。
「――――いや、まさかな」
そこまで考えて、否定する。
そんなこと、ある訳ないではないか。
彼女とは少ないながら会話もしたし、実際に触れることも出来たのだ。
あの子が幽霊だなどと、そんなはずな――
「そういえば、着物姿だったっていう情報もありましたね」
「――!?」
「でもそれって噂で、しかも幽霊って話なんでしょ? あまり関係は無いような・・・・・・」
「う・・・・・・それはそうなんですけど、ここまで情報が無いとそれぐらいしか思いつかなくて・・・・・・うぅ、ダメダメですみません・・・・・・」
「あっいやっ、別に責めてる訳じゃないのよ!? それに、アタシたちも情報は殆ど手に入れてないんだから、寧ろ噂程度でも情報を持ってきてる美岬の方が凄いわよ!」
「そうだよ美岬ちゃん、美岬ちゃんはもっと自信を持っていいんだよ? ・・・・・・そうだ! おねーさんが頑張った美岬ちゃんを褒めてあげよう! ねっ、頭下げて頭下げて・・・・・・よしよーし、美岬ちゃんは頑張っててすごいよぉ・・・・・・えらいねぇ・・・・・・」
「あぁ・・・・・・わたちゃんはいつも優しくてロリちんまくて可愛いですねぇ・・・・・・!」
「ロリちんまくないですけど!!」
仲間たちがやんややんやと賑やかにしている最中、俺はそれ以外の事実に気を取られたせいで集中出来ない。
まさか、そんな――――しかし、でも。
そんな言い訳の言葉が頭の中をグルグルと駆け回るが、状況が状況だったせいであの出来事が夢だったのでは無いかと思えてくる。
いや。
あれは実際に起きた出来事だ。
夢なんかでは無い。
だが、しかし――夢では無いからこそ、現実味を帯びてくる。
幽霊が居ないと、証明出来た人間はいないのだ。
その事実だけで――――俺は、足が震えて仕方がなかった。
「ア、アサちゃん・・・・・・」
「ん? どったの兄」
「――いつもの“アレ”だ!」
「・・・・・・! 分かったよ兄、さぁこい!」
最愛の妹は両手を広げ、待ち構える体勢を整える。
こんな時は、“アレ”で何とかするしかない。
麻沙音とのこの行為は、俺にとっての何よりの精神安定剤なのだ。
「――麻沙音、好きだ!」
「よく分かんないけど恐怖に震える小動物みたいな兄、好きっ!」
がしっ。
あぁ――やはり、これは良い物だ。
最愛の存在である妹とのハグ――これだけでどんなに疲れていても戦える。
どんなエナジードリンクよりも、効果のある代物だった。
「悪いなアサちゃん・・・・・・」
「んっふっふ、気にする必要は無いよ兄・・・・・・妹はいつだって兄のことが大好きだからね・・・・・・!」
二人して笑い合いながら、惜しむように体を放す。
妹のおかげで、足の震えは治まっていた。
それにしても、また話が脱線してしまったな。
彼女が幽霊――かどうかはともかく。
畔の言っていた「存在するかどうかも怪しい」という言葉。
これはあながち、間違っていないのではないだろうか。
いや、存在していることは間違いないだろうが、それとは別の話。
学園の生徒や、畔家の近所に住むご老人方からの聴取で何も情報が出て来ないという状況。
これはつまり――文乃と呼ばれる少女が、かなり特殊な状況下にあるという証左ではないだろうか。
人目を避けている、誰かに匿われている、物騒なもので言えば、幽閉されている――等々。
そうだとすれば、情報が全く見つからないことも納得がいく。
それならば、捜索範囲を改める必要が――
「・・・・・・ねぇ兄・・・・・・一ついいかな」
「ん、何だアサちゃん。 何かいい案でも思いついたのか?」
「いや、そうじゃないんだけど・・・・・・うぅむ」
思考を巡らせていると、アサちゃんが口を曲げて複雑な表情を浮かべながら話しかけてくる。
その何かを言い淀むという珍しい姿に、違和感を覚える。
「・・・・・・どうかしたのか?」
「昨日から気になってて・・・・・・けど、それを聞いたら兄が気にするかと思って言わなかったんだけどさ」
「――・・・・・・何がだ?」
麻沙音はいつも俺に対して遠慮のない言葉を投げかけてくる憎らしくも可愛い妹だ。
その麻沙音がこうして恐る恐る聞いてくるという事は――何か、大事なことを伝えようとしているのだろう。
その態度に、俺も僅かに身構えて話を聞く態勢を整える。
しかし、一体何を――――
「・・・・・・どうして、葉さんには聞かないの?」
「――――・・・・・・」
その言葉に、体のどこかが軋むような音がする。
「あの時・・・・・・葉さんが家にやってきた時に渡された連絡先、まだ持ってるんだよね」
「・・・・・・」
「あの人が言ってたこと・・・・・・やっぱり気にしてるの?」
・・・・・・考えなかった、わけではない。
むしろ、俺たちとは別に存在する反交尾勢力の少年――葉のことは、最初に思いついた。
だが・・・・・・
「・・・・・・彼とは、袂を分けたんだ」
「・・・・・・」
「・・・・・・悪い、本当なら協力するのが一番良い事だってのは分かってる」
「でも、俺は・・・・・・」
どうしたって、許すことが出来ない。
だから俺は彼の言う共存に――賛同、出来ないのだ。
「・・・・・・」
結局、その後は。
具体的な対策案などは出て来ず、もう一日様子を見てまた明日計画を練り直そうという話で纏まり。
俺たちは帰路へと向かうのであった。
NLNSの面々を連れ、下駄箱で靴を履き替えて正面から帰宅の準備を整える。
今日はいつもの裏門からの帰宅ではなく、かといって逃げ回る必要もない。
何故なら今日は、校舎に殆ど人が残っていないからだ。
というのも、本日は“大感射精祭”というイベントがあるらしく、SS含む生徒たちは皆そちらに参加するためにビーチに行っているのだ。
だから俺たちは今日だけ安全に帰宅することが出来るというわけだった。
「はいわたちゃん先輩、靴です」
「あっ、ありがとう橘くん! えへへぇ、橘くんは優しいねぇ」
わたちゃんの靴箱は高い所にある為、わざわざパイプ椅子を使わないと手が届かない。
それを見るのも小さい子供が精一杯背伸びしているようで可愛いのだが、本人にとっては手間でしかないだろう。
そんな些細な気持ちからの手伝いだったが、こうして満面の笑みでお礼を言われると悪い気はしなかった。
「兄・・・・・・いくら可愛いからってロリに手を出したら犯罪なんだよ・・・・・・?」
「ロリじゃないですけど!!」
「そうだぞアサちゃん、わたちゃんはこう見えても先輩なんだ。 失礼なこと言っちゃめーでしょ」
「うんうん、橘くんは先輩をよく分かってるなぁ・・・・・・あれ? 今こう見えてもって言った?」
アサちゃんめ、俺のことをロリコン呼ばわりとは。
俺はただわたちゃんが靴を取りにくそうだったから代わりにやってあげただけだと言うのに。
俺にもわたちゃんにも失礼である。
それに――――
「――それに、俺が子供に下心なんて抱くはずがないじゃないか」*3
「子供じゃないですけど! したごころ?抱ける年齢なんですけど!」
「しまった――つい本音が」
「本音って言った!? ううぅ・・・・・・やっぱりそう思ってるんだ・・・・・・! 私先輩なのに・・・・・・お姉さんなのにぃ・・・・・・」
「すみませんわたちゃん先輩・・・・・・うちの妹が失礼なことを」
「どちらかと言うと、橘さんの方が失礼なこと言ってますよね?」
「気にしても無駄よ、美岬」
やんややんや。
その後、いじけたわたちゃんを奈々瀬があやし、畔が麻沙音に絡んで雑な対応を返されながら校門へと向かう。
すると、そこには見覚えのある人物と、もう一人背の低い誰かが一緒に話していて――
「・・・・・・ゃあ吹上くん、この話の続きはまた今度――ん?」
「――木戸?」
見覚えのある人物――SSの制服を身に纏った木戸が、そこには立っていた。
それともう一人、キャスケット帽を被った深紅色の瞳と淡色の艶髪が印象的な美少年――一見美少女にも見えるほどの美貌だったが、来ている服は男子用の制服だった――が、木戸に隠れるように控えている。
・・・・・・見た事の無い人物だ。
無いのだが・・・・・・何故か物凄く既視感を覚える。
まるでつい最近まみえたようにも、随分過去にも出会ったことがあるような、そんな既視感。
それと同時に何故か、木戸にも既視感を覚えるような気がして――――
「橘くんと――麻沙音ちゃん、奈々瀬さんに、わたちゃん先輩と・・・・・・随分珍しい取り合わせだね。 どうしたの、こんな時間まで校舎に居るなんて? 今日は大感射精祭があるのに」
「葉月ちゃん、私は?」
「あっ、ああ。 少し居残りを言い渡されてな・・・・・・大感射精祭にはこれから向かうんだ、な!」
SSの木戸に反交尾勢力と疑われぬよう、それっぽい言い訳をする。
続けて奈々瀬たちもそれらしい話を言ってもらうことで木戸は納得したのか、こちらを反交尾勢力とは思わなかったようである。
木戸は他のSSと違って、性産的行為をしていなくても適当な言い訳があれば深く追求してこないのだ。
それが彼女の価値観から来るものなのかは、聞けないけれど。
俺たちにとっては有難い話だった。
一方、木戸に残っている理由を聞くと、何と体調不良でイベントに参加出来ないらしい。
その為、一人学園に残って書類仕事や点検業務を行っていたとのことである。
「・・・・・・」
「あっ、ごめんね放置しちゃって――何か気になることでもあった?」
「・・・・・・いえ・・・・・・大したことではありませぬ。 わた・・・・・・ボクのことはお気になさらず」
「・・・・・・そっちの子は?」
「あー・・・・・・この子は、吹上くんって言うんだ。 ちょっとした知り合いでね」
そう言うと木戸は体を横にずらして、吹上と呼ばれた少年を前へと押し出す。
すると、俺と彼の視線が合い、その透き通った不思議な瞳に目を奪われる。
全てを見透かすような瞳の前では、嘘が付けなくなってしまいそうな――そんな神秘さと、彼の持つ儚さというのだろうか。
それらが相まって、どこかのお嬢様みたいにも見えて――
「・・・・・・っ」
暫くそうしていると、彼は恥ずかしそうに視線を逸らしてしまう。
しまった――流石にジロジロ見過ぎたか。
いくら同性でもあれだけ長い時間見られるのは嫌だろう。
・・・・・・というか、お嬢様みたいってかなり失礼なことを考えてしまったな。
いかんいかん、どうも最近は男の娘モノで抜きがちなせいで変な思考が流れてしまう。
葉と出会って――あの出来事を終えてから、俺の頭はおかしくなってしまっている。
その影響もあって、俺は彼と顔を合わせたくないのだ。
・・・・・・不味い、不味いぞ。
思い出したら余計に血が集まってきた。
こんな時に何を考えているんだ。
本人を目の前にするならともかく、会わなくても反応するなんて。
落ち着け・・・・・・落ち着くんだ・・・・・・。
心を落ち着かせ、
そうだ。
こんな時は、アレを思い出せ――
俺が中学生の時、学校からの帰宅時に見つけたゴミ捨て場に置かれた雑誌の束。
好奇心から覗いたソレが、エロ本である事が判明した時の高揚感。
家に持ち帰ってページを開き、作品の雰囲気が徐々にエロスへと切り替わっていく展開。
期待に胸と股間を膨らませ、肝心の本番シーンに入る直前。
頭の上に誰かの手が置かれ、振り返ると――――
良い笑顔をした母親に全てを見られてしまった時の衝撃と後悔の記憶。
「――――ッ!!」
嫌な・・・・・・事件だった・・・・・・。
だが、この哀しき思い出のおかげであれほど昂っていた気持ちは治まっていた。
別の意味でハラハラする気分にはなったが。
そもそも俺は誇り高き童貞――異性だろうと同性だろうと、そういう目で相手を見るなど言語道断。
戒めろ、橘 淳之介――
「・・・・・・あれ? 君、もしかして・・・・・・あの時の子?」
「・・・・・・」
そうして気持ちを改めていると、わたちゃんが唐突に少年の方へと話しかける。
なんだ、会ったことがあるのか――?
「も、もしもし・・・・・・? あれっ、人違いだった・・・・・・?!」
「――・・・・・・っ!」
しかし反応を返さない彼にわたちゃんは慌てる。
するとそれを見た少年も慌ててふるふると、首を振って否定した。
「あ、あぁーっ、よかったぁ! 私の勘違いかと思ったよぉ・・・・・・えへへ、あの時はありがとね!」
「・・・・・・いえ・・・・・・」
「わたちゃん先輩、知り合いなんですか?」
「あっ、うん! 前の姦港記念日にね、私ビーチで人込みに押されて転んじゃったトキがあったんだけど、その時にこの子が起こしてくれたんだ!」
「そうだったんですか・・・・・・」
どうやら、わたちゃんは彼と面識があるらしい。
そこまで深い関係という訳では無さそうだが、わたちゃん持ち前の明るさのおかげで、何とも和やかな雰囲気を作り出している。
「あの二人、リスと子犬が戯れてるみたいで可愛いわねぇ・・・・・・」
「――!! 新たな“敵”か・・・・・・?」
「誰でも敵認定するのはやめなさい」
「ふっ・・・・・・お前も含めて可愛いよ、ってな・・・・・・というか、え?なにこの空間尊い・・・・・・え、待って無理・・・・・・しんど・・・・・・」
「ああっ、葉月さんまでぇ・・・・・・! 兄ぃー!やっぱりアイツ敵だよ皆からチヤホヤされて調子に乗ってるあのスケコマシをぶっ飛ばしてよぉー!」
「兄に暴力を振るわせようとしたらめーでしょ」
「何でだよ妹が可哀想と思わないのかこの
「ふっふっふ、ここで私が麻沙音ちゃんを可愛がることでより仲良く・・・・・・麻沙音ちゃん、私の胸に飛び込んできてもいいんですよ?」
「はぁ・・・・・・」
「物凄い溜息・・・・・・!! はづきぢゃぁああん!!」
「あぁーはいはい、たい焼きあげるからミサミサはちょっと黙ってようね」
「うぐぅ、おいしいです・・・・・・!」
それより、ずっと長居するのもあまりよろしくない。
木戸は今から俺たちが大感射精祭に向かうと思っている為問題無いが、他のSSに見られたらドスケベしていない事を咎められるかもしれない。
話が弾んでいる所悪いが、そろそろ離れなくては。
「それじゃあ木戸、俺たちはそろそろ大感射精祭に行くから・・・・・・」
「かわ、かわヨ・・・・・・え?あ、うん・・・・・・うん?」
いつの間にか取り出したカメラ片手に恍惚とした表情を浮かべていた木戸であったが、取り合えず言葉をかけてその場を立ち去る。
さて、明日までに文乃捜索の計画を練らなければ――
「――たっ、橘くん! ごめん、ちょっといいかな?」
そう考えを切り替えようとした時、木戸から呼び止められる。
・・・・・・何だ、俺は何か怪しまれるようなことでもしたのか?
いや、話の流れは完璧だったはずだ。
相手の追求を躱す事は反交尾勢力にとって必要最低限のスキル。
それに特化した俺たちの言い訳という名の誤魔化しは、木戸以外のSSであっても並大抵のドスケベは躱すことが出来るのだ。
であるならば、ドスケベ以外のことだろうか・・・・・・。
そこまで当たりをつけて、振り返る。
万が一不審がられていた時に備えて出来るだけ自然に、動揺を決して表には出さないよう気を付けながら。
そうして振り返った先の木戸は――どこか申し訳なさそうな顔をして、口を開き。
「図々しいお願いだとは分かってるんだけど・・・・・・その、この子の事を暫く見ていてくれないかな?」
「・・・・・・え?」
「・・・・・・む、べ?」
俺と少年のキョトンとした声が、重なった。