抜きゲーみたいな島に住んでるTS娘はどうすりゃいいですか? 作:パチドリくん
「あの~……麻沙音ちゃん、どうしてこんなことをする必要が……?」
そう疑問の声を上げるのは、紫のお下げを二つに纏めた少女。
畔 美岬は今、とある疑問を抱えていた。
「あーいいからいいから、畔さんは黙って続きをやっててねー」
「で、でもこんな空き巣みたいなこと……誰かに見られたら通報されちゃいますよぉ……」
「そんときゃ畔さんを囮にして逃げるから安心していいよ」
「ええっ!?」
まさかの宣言にショックを受ける美岬。
冗談ですよね?そう思いたい美岬であったが、麻沙音の見つめる視線はどこまでも冷たい。
まるで養豚場のブタでもみるかのように冷たい目。
「かわいそうだけど、明日の朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命なのねってかんじの奴……!」
「ようやく自分の立場を理解したか……そう、お前は所詮童貞が好きそうな清楚の皮を被ったイロモノキャラ。その無駄にデカい胸もどこぞのA.S*1のような男の娘からお姉さんキャラまで演じれそうな声も、全ては貴様のキャラクターが食いつぶす。……大食いでアナル狂いのヒロインって何だよ抜きゲーでももうちょっとマシな設定にするぞいい加減にしろ!」
「ひぇえすみません! で、でもそれって私悪くないような……」
「口答えするより手を動かせよケツ穴手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わすぞ」
「ひえぇぇぇ……あ、でもそれはちょっと興味あるかも……」
ドン引きする麻沙音の横では文乃が周囲を警戒し、美岬は作業を続ける。
今彼女らが何をしているのかと言えば、それは――
カチャン
「あ、開いた! 開きましたよ麻沙音ちゃん!」
「よし、よくやった……文乃、周囲には誰も居ないな?」
「はい。少なくとも、今の物音に気付いた方は居ないかと」
「淫スタも問題無し、と。じゃあ、バレる前にちゃっちゃと済ませちゃいましょうかねぇ……SS寮内探索!」
バイブを模した万能解錠機――アンアンロックを用いてのピッキング。
即ち、SS学生寮への不法侵入であった。
「文乃は私と一緒で……畔さんはどっかその辺で何か探しといて」
「ラジャラジャです!」
「むべ……」
寮内に立ち入ったチームα――そのうち、チームリーダーとして指揮を執る形になった麻沙音は二人に指示を出す。
美岬の熱い視線に雑な指示を返す麻沙音であったが、それでも尚頼られたことの方が嬉しかったのか跳ねるようにその場を飛び出す美岬の姿に、流石の麻沙音もほんのり罪悪感が湧いてくる。
麻沙音は美岬のことが生理的に無理である。
日常的にドギツイ下ネタや悪ふざけを繰り出し、公衆の面前でいきなりオナニーを始めだす存在を生理的に受け入れられる人間が居るかはともかくとして、麻沙音のビッチ好きという性癖を持ってしても畔 美岬という存在は容易には受け止めきれない人物だった。
しかし本質的に善性かつ善良で、仲良くなろうと全力で押しまくる美岬のことを嫌いにはなれないというのもまた事実であり――麻沙音が折れるのも、時間の問題であることは明白であった。
「あっ、こんなところに叡痴の書が……ほほう、TSボクっ娘催眠本ですか……大したものですね」
……明白であった。
「……行くぞ」
「承知いたしました」
麻沙音と文乃はそれぞれ目的の為の行動へと移す。
彼女らが淳之介に託された任務は葉と呼ばれる少年の捜索であったが、麻沙音はその任務を果たすつもりは無かった。
しかしそれは決して淳之介の任務を違える訳ではない。
見方を変え、事の詳細を知っている者からすれば麻沙音の行動は任務通りとも言えたからである。
「葉月さんの部屋は……なんだこれ」
「69号室、1919号室、4545号室……葉月様のお部屋は0721号室のようです」
「あぁうん……そうね……」
大広間にて、掲示板に貼られた部屋割りを確認する。
こうしたささやかな所までドスケベに染められている青藍クオリティに最早胡乱な返事しか出せない麻沙音に対し、文乃が全く動揺していないというのが聊か印象的であるが、彼女もまた青藍島出身ということであろう。
なお、SHO関係の建物は全て似たような部屋番号が割り当てられている。
(違和感を感じなくなった時がお終いだな……)
素性不明、身長160前半の男性――その程度の情報から探さなければならないと思っている淳之介であったが、それは麻沙音と文乃には適用されない。
より正確に言えば、彼の正体を知っているが故にわざわざ面倒な手間をかける必要は無いという話である。
しかし彼女らはそれを指摘することはなく、事情を知る者の間だけで完結させる。
何故ならそれが彼の――否、彼女の頼みだったから。
「……ふぅ。よし、それじゃあ、はい、入るぞ……」
部屋の前に到着した麻沙音は息を整え、身だしなみのチェックを始める。
髪を何度も撫で付けたかと思えば、服装のほつれが無いか確認し、そして脇の臭いを嗅いでは顔を顰めて性感スプレーを吹き付ける。
麻沙音は恋い慕う人の部屋へ入るのに、入念な準備を行う
「…………」
「…………」
文乃がそれを黙って見守る中、ようやく準備を整えた麻沙音が腕を上げコンコンコン、と控えめな音が廊下に響き渡る。
文乃は気遣いの出来る優しい子であった。
「……返事がない?」
しかし、数秒ドアの前で待機した麻沙音たちへ返ってきたのは無応答という結果。
身だしなみの甘い自分を見られない嬉しさ半分、病欠となっているはずの部屋の主が出て来ない怪しさ半分に微妙な表情を浮かべつつも、麻沙音はドアノブに手を伸ばす。
音を立てないようにゆっくりと回したノブは途中で引っかかることも無く、開かれた扉から恐る恐る中を覗く麻沙音であったが、その視界の先には予想していた人の姿は無く、また麻沙音の想像よりも随分と寂しげな部屋が広がっていた。
「ここが、葉月さんの部屋……」
室内は十畳ほどの広さに、ベッドやクローゼットなどの基本的な家具が並んでいる。
机の上にはデスクトップPCが置かれているが、それ以外に目に付くような物は殆ど無い。
「……ご不在のようですね」
「SSの話では体調不良で休んでるって聞いたけど……」
麻沙音たちは揃って部屋の中へと入ると、葉月への手がかりとなるものを探す。
とはいえ、整理整頓が成された室内は凡そ手がかりと呼べるような物は一見して見つからない。
部屋の広さからしても、せいぜい三十分もあれば探索を終えることだろう。
「ベッドや椅子のハヅキニウム蓄積量からしてここ最近で使った形跡が無い……という事は、葉月さんはこの部屋に戻ってないのか?」
「埃の積もり具合からしても、人の出入りは殆ど無かったと推測されます。麻沙音様がおっしゃる通り、こちらには戻られていないものと思われます……――?」
「そこまで分かれば十分か……でも、取り合えずもう少し探してみよう。何かあるかもしれないし……って、どした文乃?」
「あ、いえ……」
そうして十数分ほどで捜索の約八割を完了させた後、麻沙音は文乃が困惑した様子でこちらを見つめていることに気付く。
むべ……むべ……と鳴き声のような声を漏らすその奇妙な姿に麻沙音は首を傾げる一方、文乃の中では麻沙音に声を掛けるべきか否か思考を迷わせていた。
「……何か言いたいことがあるなら言いなよ。別に今更文乃のことイビったりしないから」
その躊躇うような様子に、麻沙音は過去の出来事に反省を覚える。
というのも、麻沙音は文乃に出会った当初は敵愾心を剥き出しに接していた。
それは妹ポジションを奪われかねないという理不尽な――本人にとっては切実な――理由が殆どであったが、生来の人見知り気質であったこと、そして何より文乃が葉月の正体について言いふらすのではないかと危惧していたからであった。
『知ってる事を洗いざらい吐いてもらうぞあぁん……?』
『……!』
文乃が橘家に泊まる事となったその日、麻沙音はあらゆる事情について知っているであろう文乃を問い詰めた。
葉月と文乃の関係性は何か、あの人は今どこで何をしているのか、お前自分が犬みたいで可愛いからって調子に乗るな、等々。
そうやって話を聞くことで文乃も葉月の正体を明かすつもりはないと知り心配は解消されたが、文乃が予想以上に善良かつ、皮肉さえも真っ正直に受け止める性格だった事で麻沙音は逆に罪悪感を覚えることになったのはまた別の話。
ともかく、会話の中で文乃自身も葉月の行方が分からず想定外の状態に陥っているかもしれないという情報を麻沙音と文乃は共有したことで、彼女らはNLNSの面々とは内密に協力関係を結んだ。
それからはこうして素直に言葉を交わせるようになった麻沙音と文乃。
麻沙音の促しに文乃はじっと目線を合わせると、やや躊躇うように口を開け――
「では、その……」
「うん」
「……麻沙音様は、何故、布団の中に潜り込んでいるのですか……?」
葉月のベッドに潜り込んでいた麻沙音へと、そう告げた。
「え……はうあっ?! き、気が付かなかった……アサちゃんの無意識によるハヅキニウム欠乏症がまさかここまでだったとは……」
「はづきにうむ……」
「ふぅ、危ない危ない。今ここで葉月さんのベッドで寝落ちなんて最高に気持ちいいことしてたら時間が無くなるとこだった……スゥゥーーーーーッ」
「はづきにうむ……?」
顔面を枕に押し付け欲望を振り払う麻沙音と、オウムのように麻沙音の言葉を繰り返す文乃。
「よし……と――それじゃあ気を取り直して……作業、続けるぞ」
「むべ……承知しました」
正気を取り戻した麻沙音は、文乃へとそう告げて調査を再開するのであった。
「はいどうも皆さんこんにちは。SS代表兼水乃月学園生徒会長の冷泉院 桐香です♪」
誰も居ない空中へと語り掛けるのは、翡翠の髪と瞳を持った少女――冷泉院 桐香。
丈の短いスカートとビキニのみという非常に大胆な格好をしているのにも関わらず、彼女が纏う高貴な雰囲気がいやらしさを微塵も感じさせない。
風にたなびくストールを広げる様子はまさに荘厳華麗。
全裸でも無ければその第一印象が崩れることは無いであろう、美しい少女であった。
そんな彼女は今――――
「うげろげろげろえろ……」
寮へと向かう階段の手前であられもない姿を晒していた。
というか、吐いていた。
「けぷっ……やはりこちらが近道とはいえ、挑むべきじゃなかったわ……」
口元を拭い、若干悪くなった顔色で微笑みを浮かべる桐香。
彼女が何をしようとしていたのかと言えば、それは階段を昇るというただただ単純な作業。
しかし彼女にとって、その単純な作業がフェルマーの最終定理が如く難解な問題となる。
桐香は階段を昇降することが出来ない。
正確には、自然界に無い人工的な段差というものが理解出来ない。
彼女にとって階段というものは、不自然で構造が理解出来ないものであり――故に彼女は階段を上がろうとすると、理解不能な構造物への情報処理が脳内で行われた結果エラーを吐き、現実にフィードバックされてしまうのであった。
「仕方ありません――……っ!」
桐香は身に纏っていたストールを広げ、指からコインのような丸い物体――羅漢銭を弾いて周囲の木々へと飛ばす。
飛んで行った羅漢銭には糸が巻き付けられており、それらが木の枝へ引っ掛かっていくのを見届けると桐香は指を曲げ――――飛んだ。
「私の能力はプレイ中の攻守を自由に入れ替えることが出来る――性具の納め時よ! 喰らいなさい、ペニスバンド!!」
「イクッ!大自然の中で乳首シコられながらケツアクメキメるぞォ!!見てろよォ!!テメェら!!フッフッフッ――フッ!!?」
「メス豚調教ハードプレイでお楽しみの所申し訳ありません、少し通りますね」
木々と木々の間の糸を引っ張り、身体ごと傾斜をかけ上がっていく。
それは最早上がるというより飛ぶと呼ぶに相応しく、その姿はさながらスパイ○ーマン。
この場合ウーマンと呼ぶ方が適切であろうが、それはともかくとして桐香は遂に坂を上りきる。
「ふぅ、やっぱりコレが一番ね。礼や葉月は危ないから止めてって言うけど、階段よりこっちの方が早くて楽だと思うのだけれど」
いやその理屈はおかしい。
桐香の世話係である“とーかちゃん係”が居ればそう言ったであろう発言も、桐香一人であるが故にぽつりと宙へ溶けていく。
それをほんの少し、桐香は寂しく感じた。
「今のって、水乃月学園の桐香様よね……?」
「あ、あぁ……」
「……空、飛んでたわね」
「あぁ……ってちょっ動かないでベニパンがっ♡ あっ、タマイト射精るぅ♡♡」
「――! ぉ――――!」
「あら?」
寮へと辿り着いた桐香は、向かおうとしていた部屋の中から声が聞こえてくることに気付く。
一度聞いたことを忘れない桐香にとってその声が最近転校してきた同級生の少女の物だと理解し、それと同時に彼女がここに居る理由と目的を察し――数秒、思案して。
いつもの微笑を浮かべ、桐香は部屋の中へと突入することにした。
「嗚呼……満たされてゆく……!」
「SSの学生寮に不法侵入とは、意外と大胆な性格だったんですね。麻沙音さ――」
「――――あ」
「――……ん?」
まずは可愛らしい盗っ人に軽く挨拶を――そう考えていた桐香の思考が停止する。
目の前に居る盗っ人――麻沙音も突如現れた桐香の姿に驚いたのか、口をポカンと広げている。
「れ、冷泉院さん……!?」
――やっべぇ淫スタ見るの忘れてた。
そんな麻沙音の焦りが表情にありありと浮かぶ。
一方桐香の方はと言えば、ぽけーっとした表情である一点を見つめている。
何が桐香の思考を妨げているのか――それは麻沙音の方、正確には麻沙音の頭頂部が原因だった。
だらだらと冷や汗を流しながら、桐香の視線が己の頭頂部にあると気づいた麻沙音は言い訳の言葉を幾つか思い浮かべるが、緊張や驚きからそれが口から出ることは無い。
とまぁここまで迂遠な表現を繰り返したわけであるが、結局何をしていたのかと言えば――女物の水色パンツを被った変態の姿が、そこにはあった。
「…………まぁ♡」
「ぅッッ!!!」
「麻沙音様!?」
うめき声を上げ、胸を抑える麻沙音に駆け寄るもう一人の存在に桐香は気付く。
淡色の髪を帽子の中に仕舞い込み、水乃月学園の男子制服を纏うその人物は――
「あなたは確か……吹上さん、でしたか。直接お会いした事はありませんでしたが、しかし、成程……あなたも
「……!」
「青藍島の住人の、それもSS代表の冷泉院さんに“うっわやべぇ変態が居る”みたいな視線を向けられるなんてアサちゃん一生の不覚……ッでもそれはそれとして冷泉院さんみたいなThe・清楚って感じの人から蔑みの視線向けられるのすごい興奮するというか興奮してきたえへっへへへぇえ」
「あ、麻沙音様……? いえ、それよりも……!」
「あら、そう慌てなくてもいいですよ? 私としてはこの状況を予想していなかったという訳ではありませんし……それに、いくつかお聞きしたいこともありますしね?」
動こうとしない麻沙音の身体を引っ張ろうとした吹上少年であったが、桐香が入口のドアの前に立ち塞がったことで動きを止める。
この部屋の入口は一つしか無く、また部屋の構造が直線になっているため麻沙音たちがこの部屋を脱するには桐香の横を通るしかなくなってしまったのだ。
吹上――文乃の瞳が僅かに揺れるのに対し、桐香は泰然とした様子で二人に語り掛ける。
「改めまして、S代兼長の冷泉院 桐香です♪ お二人のご友人……反交尾勢力の皆さんは、揃っていらっしゃらないようですね?」
「……はっ! こんなことしてる場合じゃ、ってか私たちのことがバレてる!?」
「麻沙音様、彼の者はえすえすの頂点に君臨する人物……決して油断してはなりませぬ」
「随分警戒されちゃってますねぇ……心配しなくても、悪いようにはいたしませんよ?」
どうすればいい、遅れて麻沙音は考える。
相手はSSの代表で、しかもこちらが反交尾勢力とバレている。
正体がバレてしまっている以上ここから逃げ出せたとしても捕まるのは時間の問題であることは明白であり――そも逃げ切ること自体がかなりの難易度である。
(せめて、文乃だけでも――――)
やぶれかぶれの特攻を麻沙音は考える。
自身が鈍くさいことは自覚していたが、傍にいる少女を――母を亡くし、父親から追われる立場にある文乃を守らねばと、そう気を奮わせて体勢を整えようとした。
「……麻沙音様、ここは私が囮となります。その隙にどうかお逃げ下さい」
「はぁ!? ふみ――あんた何言って……!」
「彼の者から完全に逃げ切るのは不可能です。それに……わたしなら、平気ですから」
だが麻沙音のその行動は文乃によって止められる。
言いかけた本名を咄嗟に誤魔化すも、動揺を抑えきれない麻沙音。
何をもって平気と言い張るのか麻沙音には分からない――いや、納得が出来ない。
けれども文乃はそれに何も答えず、ただ麻沙音の前へと歩みを進める。
「文乃は強い子です。ですからどうか……どうか、麻沙音様はお逃げください」
そう告げると文乃は帽子を下ろし、桐香の前に立ち塞がり――
「私の名は琴寄 文乃。今の青藍島を――ドスケベ条例を生み出した、仁浦 俊明の庶子でございます」
自らの正体を明かすのであった。
「うーん……」
どうしてこうなったのでしょう、と桐香の頭上に疑問符が浮かび上がる。
目の前では男子制服を纏った小柄な少女――文乃が隙を伺うようにこちらを見つめており、その近くでは麻沙音が慌てた様子で文乃に話しかけている。
何やら文乃が犠牲になる必要は無いとか、文乃が捕まった所で私を逃がす保障は無いだとか――思わず問い質したくなるような内容もあったがとにかく色々。
全く自身が信用されていない様子に内心傷付いていたが、それをおくびにも出さずとりあえず誤解を解こうと声をかける。
「だからっ、一緒に逃げないと――!」
「盛り上がってる所すみません、私の話も聞いてもらっていいですか?」
「っ、れ、冷泉院さん……」
怯えと緊張の混じった視線を向ける麻沙音。
その姿がどこか知らない人の前に連れてこられた子猫のようだと桐香は感じる。
桐香は子供や動物に好かれない気質である。
犬や猫であれば怯えられ威嚇されたり、鳥であれば帽子からの出現マジックが成功せず、赤ん坊をあやそうとすればギャン泣きされる。
そんな桐香であったが、今回の相手は同い年の少女――同じ人間ならば仲良くなれる筈だと、さも当然のように思えて現実はそんなに甘くない根拠を信じて桐香は話しかける。
「どうせ二人とも逃げられないのですから、大人しくしていた方が良いと思いますよ?」
「ひえっ……!」
あれ、何か間違えただろうか。
麻沙音の反応にそんなすっとぼけた感想を抱く桐香。
なおこの娘、悪意ゼロである。
「麻沙音様――!」
あ、不味い。
いつの間にかどこからか取り出したスナイパーライフルを構えた文乃の姿を見て、桐香は顔には出さず焦り始める。
取り押さえる事自体は容易――文乃とライフルという組み合わせに謎の恐怖を感じていたが――だが、桐香は出来れば二人を傷付けたくなかった。
「あ、まってまって、待ってください」
「…………」
「私、誤解されやすいんです」
「……?」
「私、誤解されやすいんですよ?」
「え、何で2回言ったの今……」
桐香は会話というコミュニケーションがド下手くそである。
それは触れた相手のことをある程度理解できるという特異体質と、彼女が生まれた時から抱える障害ゆえのもの。
しかしそれはそれとして、人の心を理解できない桐香は、それはもう何度も何度も人の傷口に塩を塗りたくってきた。
『前髪に関して煽ってくるメスガキを何とかして欲しい……それは大変でしたね。確かにあなたが前髪スカスカなのは
『物語をもっと面白くする方法……? そうですね、色々方法はありますが……読者から好感が持てて、主人公の仲間としても頼れるキャラクターを登場させましょう。数話かけてそのキャラの深堀をして、いい感じに盛り上がってきたところで――殺すといいんじゃないでしょうか?』
そんな桐香に、せめて悪気は無いのだと相手に伝える為に――ある少女は桐香に一つの知恵を授けた。
「ですからはい、こちらをどうぞ」
「……何ですか、これ」
「とーかちゃん翻訳機です」
「とーかちゃん翻訳機」
手渡された手の平サイズほどの機械には小さな液晶と複数のボタンが付いており、液晶にはSDキャラ――可愛らしくデフォルメされた、桐香を模したであろうちびキャラがわたわたと動き回っている。
「その名の通り、私の声に反応して私がどう思っているかを表示してくれる装置です。結構当たる優れものなんですよ?」
自分専用の翻訳機があるのか……てかとーかちゃん翻訳機ってネーミングもほぼ嫌がらせじゃん……麻沙音はそう思った。
「ではもう一度改めて、お話をしませんか? 私、以前から反交尾勢力の皆さんには興味があって、ぜひ一度お話をしたいと思っていたんです」
『私、あなた達のことが気になるハメ〜!』
「……わ、私としてはこのまま見逃してくれないかなぁ、なんて」
「すみません、私これでも生徒会長ですから寮内に不法侵入した人を放置することは流石にNGなんです……あぁ勿論、あなたがた次第で私の行動は決まるんですけどね?」
『まぁ生徒会長だからどうにでももみ消せるんだパコねぇ』
「…………」
「ではこうしませんか? 私がここを見逃す代わりに、お話の場を設けるというのは?」
『ズコバコズコバコ孕めオラ〜♪』
「ああこれうっさいな!!しかも何でハメパコ口調!?絶対これ壊れてるだろ!!」
「いえ、合っていますよ」
「合ってるの!!? アンタ今そんなこと考えてたの!?」
ご冗談でしょう、冷泉院さん――そんな言葉が脳裏に浮かぶ麻沙音。
……警戒は解けないが、いつまでもこの状況を続けていても仕方がない。
そんな空気が三人の間に流れる。
麻沙音と文乃が顔を見合わせ、暫く視線を交わし頷き合う。
「……分かりました。その提案を呑みます」
「麻沙音様……」
「大丈夫……多分、冷泉院さんは嘘を吐いてない……と思う。文乃も何となく分かるでしょ?」
「……」
「では、交渉成立ということで。立ち話もなんですし、リビングの方で話しましょうか。どうぞこちらへ」
桐香は二人を案内しようと手招きする。
翻訳機からは「ミッション大性交!」というプラカードを掲げたちび桐香の姿が映っている。
「あぁ、折角のご招待ですし、紅茶も準備しないと――」
どこか浮ついた様子を見せる桐香。
彼女がひとり頷き、両手を当ててさも良案だと準備に取り掛かろうとした――その時。
「ちぇすとぉぉおおおおおおお!!」
「――っ!?」
桐香の背後にアホ毛が突き出た紙袋を被った不審者――美岬は持っていた紙袋を桐香に被せると、麻沙音と文乃の手を取り廊下へと駆け抜ける。
「麻沙音ちゃん!文乃ちゃん!この隙に逃げますよ!」
「ほっ、畔さん!? 何その紙袋!?」
「畔ィ!? 違います、今の私は謎のヒロインSEX! 全てのカロリーを抹殺する者!」
「聞いてないんですけど!?」
「そんな事より早く! 会長さんがこのまますんなり逃がしてくれるはずが――」
ない――そう続けるつもりだったセリフは、キィンという突然の金属音により遮られる。
「――っ皆様、止まってください!」
「うわっ!」「うひぃ!?」
「えぇ、行かせませんよ。例え視界が塞がろうと、音と気配であなた方の位置を特定することぐらいは出来ますから」
金属音――羅漢銭が弾かれる音が麻沙音たちの耳に届いた次の瞬間、文乃の張り詰めた声と、格子状の糸が麻沙音たちの目の前に張り巡らされる。
「な、これ……もしかして、糸ですか!?」
「糸使いって問答無用で強キャラじゃん!あぁもう駄目だアサちゃん降参しますですから糸でアサちゃんを操ってぎゅうぎゅうのトラックの中に無理矢理ねじ込むのだけはご勘弁をぅ……!」
「安心してください、私の糸は人体を切り刻む程度の力しかありませんから」
「生々しくてもっと怖いぃーーー!!」
恐怖から美岬の背後に隠れる麻沙音。
そんな麻沙音を守らねばと奮起する美岬であるが、麻沙音が地味に背中を押して桐香の方へと追いやっている事には気付かない。
一方桐香はと言えば、先ほどから明後日の方向を向いて話しかけており――桐香の視界は未だ紙袋で覆われているからではあるのだが、それを取り外すような気配は無い。
紙袋取らないのかな、そんな疑問を浮かべていると桐香はコツコツと歩き始める。
「まさか私の気配察知を掻い潜るとは、反交尾勢力には優秀な隠形術を身に付けた方もいらっしゃるのですね」
「えっ、普通に廊下走って来たんですけど……」
「……文乃気付いた?」
「……誠見事な隠形術かと存じます」
「ですが、隠密というのは得てして正体を表してしまえば脅威ではありません。切り札はいざと言う時の――へぐっ」
「あ、壁に頭ぶつけた」
コツンではなくゴツンと。
紙袋も相まって、先程までのカリスマ生徒会長とは思えない悲鳴が漏れ出る衝突具合である。
「……何で外さないんだろ」
「聞いた話によると、自力では外せないらしいですよ?」
「え」
この目で見るまでは正直半信半疑でしたが。
そう続ける美岬は信じられない物を見た――こいつも紙袋を被っているのであくまでも想像だが――とでも言いたげな視線を桐香へ向けている。
「……すみません、これを取ってもらえないでしょうか?」
「……え、これマジな奴?」
「…………むべ」
「あ、ここ隙間がありますよ」
「え? ……あ、マジだ。しゃがめば通れそう」
「麻沙音さん? ……そこに居るのですよね? もしもし? もしもーし?」
「もしかして私、放置されました?」
「すみません、冷泉院さん……」
「…………」
「いやぁ、危ない所でしたねぇ!」
被っていた紙袋を外しながら明るい声を上げる美岬。
「お二人の様子を見に行ったらあの会長さんがいらっしゃるものですから本当に焦りましたよ。二人が会長さんに捕まるんじゃないかってドキドキしちゃって……」
「何でだろう、助けられたのは間違いないんだけどものすごく釈然としない」
「……ところで、美岬さんはどうしてこちらに?」
「あっ、そういえばすっかり伝え忘れてましたね。寮で何やら良さげな資料を見つけたので、それをお二人に見せようと思ったんです! はいこれ!」
「これは……」
美岬が取り出した物は、先端から根本に駆けて複数の玉が付いたピンク色の棒――
「いやアナルビーズじゃねぇか」
「あっ間違えました。こっちですこっち」
「おい待て何をどう間違えたらアナルビーズが出てくるんだよというか付けてたのか最初から?」
アナルビーズを後ろにしまい直した美岬は改めて資料の束らしきものを前に出す。
麻沙音はそれを嫌そうに受け取ると、A4のクリアファイルに纏められた資料を取り出し両隣から覗き込む二人へ見えるように資料を広げる。
どうせ大したモノでは無いだろう、麻沙音はこの時そう考えていた。
むしろこの段階では資料よりも桐香のことに思考が割かれていた。
何せ反交尾勢力と正体がバレてしまった直後である――それをどうするか、麻沙音がひたすら考えてしまうのも仕方がないと言えるだろう。
桐香の謎の誘い、その目的とは何か、どうすれば自分たちが捕まらずに済むか。
しかしそんな麻沙音の焦る思いとは裏腹に、この時得た資料こそが葉月へと繋がる重要な情報となり、後の桐香への交渉の札へとなる。
半ば適当に開いたその資料の見出しは“行方不明者名簿”――そう不吉な文字が綴られていた。
「わたちゃん達をありがとうございます……」
「いやいや、こんな小さな子供が襲われそうになってるのを見過ごすなんて出来ないよ」
繁華街から少し外れた道通りにて、打倒ドスケベ条例の情報を探っていたNLNS――チームβ。
一通り調査を終えた後、道端で迷子になっていたユキちゃんと呼ばれる女の子を見かけた三人は彼女の母親を探しながら行動を共にしていた。
「ロリじゃ――」
「わたちゃーん、ほーら飴ちゃん食べる?」
「えっいいの? わーいありがと奈々瀬ちゃん!」
「でも本当に助かりました。あなたが居なければ二人がひどい目に合わされていたかもしれないと思うと……」
「僕は大した事はしてないよ……でも、そうだね。いくらこの島だからって、子供には手を出しちゃいけない。そんな当たり前のことも分からない人がこの島には居るという事を、改めて痛感したよ」
途中、あられが食べたいというユキちゃんの為にヒナミを傍に置いてコンビニへ向かった淳之介と奈々瀬であったが、戻ってきた二人を待っていたのは言い争う複数の男と、それを怯えたように見つめる少女二人の姿。
淳之介が慌てて駆けつけると男たちは一人を残して立ち去るが、残った男はさも安堵した様子であり、その後やって来た淳之介たちに対してやや警戒した様子を見せるが、ヒナミが淳之介の名前を呼んだことでそれも霧散する。
何があったのか事情を確認すると、どうやら逃げた男たちはヒナミたちに性交渉を持ち掛け、しかし年齢故に断ろうとした二人を無理矢理連れ去ろうとしていたのだと言う。
「……その口ぶりだと、もしかしてあなたも島外から来られた方なんですか?」
「あっ、えっと……うん、実はそうなんだ。あなたもってことは……もしかして君もかい?」
「! っはい、そうなんです! 今年の五月からこっちにやってきて――」
そしてそれを見かけ男たちを咎めたのが、この最後に残った一人の男性であった。
彼はつい最近勤めている会社からこの島に派遣されてきたのだと説明し、まだこの島の風土に慣れていないながらも明らかに未性人、それも無理矢理連れ去ろうとする男たちを見て義憤に駆られたのだという。
その行動からもしやと問いかけた淳之介の想像は的中し、彼らは出会って間もないながらも意気投合。
話していく内に彼が島唯一の自慰道具専門店「仮初の皮膜」の主人だと分かると、彼らはこの島唯一の同士と認定し合い、そして熱く語りだす。
――保健体育の教科書に描かれている素朴な画風の裸体イラストは一周回って逆にえっちである。
――水着の上からパーカーを羽織っている子は、水着だけの子よりかえってスケベである。
――何の変哲もない普通のエロ画像を非エロ画像フォルダの中に一枚だけ入れるとドスケベ指数が飛躍的に向上する。
――TS娘は完全に女の子化するよりもちょっとだけ男の時の要望が残ってる方がより興奮する。
「俺の名は橘 淳之介。友よ――ぜひあなたの名前を教えてください!」
「勿論だとも、友よ! ……とは言っても、そんな大層な名前じゃないんだけどね」
女性陣を他所に仲を深めた二人はさながら歴戦を共にした相棒のような雰囲気を見せ合う。
男は柔和な笑みを浮かべると、淳之介が差し出した手を握り名を告げる。
「僕は手嶋 俊英。しがないサラリーマンさ」
どこかで聞いたことのある声だが、何と言おうと畔 美岬役はこはる凪氏である、いいね?
>とーかちゃん
あのあとハメドレイくんが来るまで放置プレイされていたそうパチ。