抜きゲーみたいな島に住んでるTS娘はどうすりゃいいですか? 作:パチドリくん
俺と淳之介が公園で知り合ってから半年が過ぎた。
あれから俺たちは一緒に遊ぶ機会が何度かあり、今ではお互いの家にお邪魔する程度には仲良くなることが出来た。
淳之介はどちらかと言うと家の中で遊ぶことが多かった。
この前のように外に居るのは休日母親と出かける時ぐらいでしか外出しないようで、普段は漫画やゲーム、たまにPCの前で3DCADを使ってモデリングをしているようだった。
・・・・・・漫画やゲームはともかく、3DCADでモデリングする5歳児って何だ?
淳之介のオナホ製作スキルはこの時から培われてきたのだなぁ・・・・・・と色んな意味で感嘆する俺なのであった。
今日は淳之介の家で遊ぶ予定となっていた俺はいつもの恰好――メーカーのロゴが入ったTシャツに半ズボン――で向かう。
・・・・・・我ながら女子らしさの欠片も無い恰好だが、未だに自分が女になったとあまり実感出来ない俺にとってはこれが一番過ごしやすいのだ。
それに――――男装女子って、素敵やん?
母はどちらかと言えば可愛らしい服装に着替えさせたそうにしているが、俺があまり気乗りでないことを察しているのか無理矢理という風にはしてこなかった。
・・・・・・まぁ、俺の気持ちの問題なのだから出来るだけ早く見せてあげたい・・・・・・とは思ってるのだが。
人生は長いのだ、申し訳無いが踏ん切りが着くまで待ってもらいたい。
閑話休題
淳之介の家の前で橘と書かれたネームプレートの下にあるインターホンを押し、人が出てくるのを待つ。
「はーい・・・・・・あら、葉月ちゃん、いらっしゃい」
「こんにちは、愛衣梨さん。 淳之介って居ますか?」
「えぇ、ちょっと待っててね呼んでくるから。 淳ちゃーん!葉月ちゃん来たわよー!」
出てきたのは橘家の奥様、橘 愛衣梨さん。
見た目は
愛衣梨さんが二階に向かって声をかけると「はーい!」と二階から淳之介の声が返ってくる。
愛衣梨さんはそれを聞くとリビングの方へ移動し、俺は淳之介がくるまでの間に玄関で靴を脱ぎ揃えているのだった。
「いらっしゃい葉月くん。 立ち話もなんだし取り合えず僕の部屋行こっか」
「よっす淳之介。 借りてた漫画もついでに返しに来たぜ」
そうやって俺たちは一緒に二階の淳之介の部屋に向かう。
「よし、じゃあ今日も適当に何かするか!」
「おおーっ!」
部屋に着いてからは一緒に対戦型ゲームをやったり、借りてた漫画の感想を淳之介に話したり、遊んでいた途中でお菓子を持ってきた愛衣梨さんにお礼したりと、そんな友達同士のよくある日常が繰り広げられた。
なんてことのないいつもの光景だが、俺にとってこの日常は過去――前世の子供時代――を思い出させる出来事で、楽しいだけでなく、どこか過去を偲ばせるのであった。
一通り遊び終え時刻が夕方に差し掛かったころ、不意に淳之介があることを聞いてきた。
「ねぇ葉月くん、来年は僕たちってしょうがっこう?ってとこに行くことになるんだよね・・・・・・どんな所なんだろうね、幼稚園とは違うのかな?」
・・・・・・そうか、もうそんな年になるのか。
今は8月の頭、今年で6歳になる俺たちは来年から小学校に通うこととなる。
特に理由も無ければ近所の公立小学校に通うことになるのだろうが、淳之介が聞きたいのはそんなことではないのだろう。
「そうだなぁ・・・・・・小学校にもよるだろうけど、人の数が幼稚園とは比べ物にならないだろうなぁ。 何せ幼稚園は広くても3歳差しか無いけど、小学校は1年生から6年生まで。 最大6歳差もあるから、それだけ人が増える」
「へぇ~そうなんだ・・・・・・詳しいんだね葉月くん。 僕はつい最近お母さんに聞いたばっかりだから全然知らなかったや」
「まぁ、これぐらいはね・・・・・・で、どうしたんだ淳之介。 淳之介ならこれぐらいPCですぐ調べられるだろ? ・・・・・・何か気になることでもあるのか?」
そう、尋ねる。
そうなのだ。
幼いころから電子機器に触れている淳之介にとって分からないことはすぐに調べられる環境にある。
それなのに俺に聞いてくるということは――
図星だったのか、淳之介は目をキョトンとさせ、すぐに苦笑して目を逸らす。
「やっぱり凄いな葉月くんは・・・・・・ただ聞いただけでそこまで分かっちゃうんだ。 ・・・・・・うん、そうなんだ」
「で、何なんだ? 気になることって。 話してみろって、お前は気にしてるかもしれないけど、話してみたら意外と大したことじゃなかった、なんてことはよくあることなんだからさ」
淳之介とはこの半年で大分仲良くなれたつもりだ。
初めはぬきたしの主人公に会いに行くという不純な動機だったかもしれないが、少なくとも今では困っているなら手を貸してやるぐらいの情を俺は淳之介に抱いていた。
「えっと、ね・・・・・・僕って友達って言える人が葉月くんぐらいしか居ないんだ・・・・・・だから、その・・・・・・」
「・・・・・・公園で遊んでた時の奴らは、友達じゃないのか?」
「あれはたまたま声をかけて貰っただけで・・・・・・普段は幼稚園でも一人でおもちゃで遊んだりしてる。 どっちかと言うと僕にはその方が気が合うから」
「つまり淳之介は小学校で友達が出来るか不安・・・・・・って事か? それぐらいなら――」
「――それもっ、それもあるんだけど・・・・・・。 そうじゃなくて、その・・・・・・」
・・・・・・何だ?妙に歯切れが悪い。
友達が出来るか不安じゃないのかと思ったがそれだけじゃないって・・・・・・
――ふと、俺の頭の中で唐突にアラームが発せられる。
嫌な予感が冷や汗として背中を伝い、その感触が嫌に明確に感じられる事で10秒にも満たない淳之介の言葉を待つ時間が1分にも1時間にも感じる。
――一体、何が起こるというんだ。
そんな中、遂に淳之介が口を開く
「――・・・・・・葉月くんと同じ小学校に行けたら、その、安心出来るんだ。 ・・・・・・ダメ、かな?」
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・――
「――――――エ゛ン゛ッ゛!゛!゛」
な・・・・・・なんだこれは・・・・・・!?なんなんだこの感情は・・・・・・!?
俺はショタコンなどでは決して無かったはずだ・・・・・・決して無いはずなのだ。
だと言うのに、この上目遣いで許しを乞うかのような表情の淳之介を見ていると思わず抱きしめたくなるこの感情は、一体どこから溢れ出てくると言うのか。
そもそも相手はショタとは言え男だ。
ホモでもバイでもないノンケの俺がロリに言われるなら兎も角ショタに言われて喜ぶなんてことは無い。
可愛いショタに俺が喜ぶなどと、そんなのは二次元でしか有り得ないのだ。
・・・・・・この世界元々二次元だったわ。
しかも今の俺の性別は女だし・・・・・・あれ?じゃあ、いい・・・のか?
「――――淳之介」
「ど、どうしたの葉月くん・・・・・・? 思いっきりむせてたけど大丈夫・・・・・・? ――え、なんで近づいて――わぷっ」
俺は座っていた淳之介の頭を胸元で抱きしめるように抱きつく。
幼児特有の柔らかさと、サラサラの茶髪を手で梳く感覚が心地よく、いつまでも抱きしめていたくなるような感覚が、そこにはあった。
これが愛おしいと思う心。
これを守るためならば、全てを捧げてもよいと思う心。
そうか、これが――
「――――――――母性、か」
今なら世の母親や、母性を売りにしているヒロインたちの気持ちがわかる。
そうか・・・・・・これが母性って奴なんだな・・・・・・ヒナミ、奈々瀬、まだ会ったことの無い君たちの気持ちが今、俺には分かったよ――
「は、葉月くん!? 恥ずかしいから早く離して欲しいんだけどっ!?」
「あっ・・・・・・す、すまん! 今離す!」
慌てて俺は淳之介から手を離し、先ほど話していた位置までの距離を取る。
あ、危なかった・・・・・・もう少し抱きついていたら俺の中で何かが芽生えてしまうかもしれないショタ之介の破壊力に心の中で戦慄する。
荒れている心を落ち着けると、先ほどのお願いについて考える余裕がようやく生まれてくる。
一緒の学校に行きたい、か・・・・・・まさかそれほどまでに懐かれているとは思わなかったが、本人曰く俺以外の友人が居ないとなれば、そう考えるのも不思議では無いだろう。
――まぁ、良いか悪いかと聞かれれば俺としては
「別に、僕は一緒の小学校でも問題ないよ」
「え――ほんとっ!?」
「でも、それはあくまで僕だけの意見。 実際に決めるのは僕と淳之介のお父さんとお母さん。 ――この話、ちゃんと伝えてるか?」
そう、結局はそこが一番重要になる。
ウチはあくまで一般家庭であり、特に理由も無ければ公立の学校に通うだろう。
しかし橘家が私立の学校に行かせる予定だったりした場合、どちらかが合わせるか、若しくは妥協点を探ったりしなければならない。
そしてその説得は、俺たちがやらなければならないのだ。
「えっと・・・・・・まだ、だけど・・・・・・」
「ならまずは両親にその事を伝えるんだ。 元々同じ学校に通う予定なら何の問題も無いけど、もし違ったら説得する必要があるだろ? ・・・・・・まぁ、それよりもお互いが通う予定の学校を聞くことからだな。 違ったら違ったで、また今度どう説得するか考えよう」
「・・・・・・うん、そうだね。 ありがとう葉月くん、僕のために色々考えてくれて」
「気にするなって! これも友達が居ない可哀想な淳之介のためにってことよ!」
「それでもだよ。 葉月くんに断られたらどうしようって思ってたから・・・・・・本当にありがとう」
「お、おう・・・・・・軽く暴言吐いたのにお礼言われるとは思わなかった・・・・・・」
嬉しそうに笑う淳之介に、俺も嬉しくなり釣られるように笑う。
・・・・・・この調子なら、小学校に上がっても楽しく過ごせるだろう。
そう思えるくらい穏やかな空間がここには広がっていた。
しかし、俺はこの時ある事を忘れていたのだ。
――橘一家は淳之介が小学校中学年の時に祖父母の実家、つまり、青藍島へ引越し一つのトラウマを抱えることになるのだと言うことに。
『――こちらE-13、校舎2階、周囲に反交尾勢力らしき怪しい人影はありません。 引き続き巡回を行いつつ性産的行為の指導を行います』
「こちらE-1、了解した。 引き続き警戒に当たれ」
部下からの連絡を無線越しに聞きながら、私はこの後の行動をどうするべきか迷っていた。
淳之介が転校してきてから2週間が経過していながらも、私は今のところこれといった行動を起こしてはいなかった。
というのも、転校してきてからは淳之介達の行動を監視することに注視していたためだ。
この世界はぬきたしの世界を基としているが、あくまで現実だ。
行動を一つ違えただけで未来は如何様にも変わる。
そもそも各ヒロイン毎のルートに加え、私という存在がいるのだ。何が起こっても不思議ではない。
だから私はまず初めに原作で描写があった所が実際にはどういう風になっているのか確かめて、それを元に私が採る行動を決めていく必要があった。
そして今日までの確認で、淳之介達の行動は今の所概ね原作と大差ないという事が判明している。
橘 淳之介は片桐 奈々瀬と知り合い、ドスケベセックスから逃れようとしていた人達の末路を目撃し、そして今日もまたドスケベからの逃走MAP作成の為に学園内に戻ってきていた。
これならば、今日は間違いなく“あの出来事”が起こるのだろう。
今日という日は、ドスケベ遊園地でイベント「たたイって皮かぶってジャンケンポン」が行われている。
いつもより人の数が校舎から居なくなっており、校舎内は静けさに包まれている。
(淳之介は予定通りやってきた。ならば私も、いつまでも迷ってはいられない)
生徒会室から淳之介が校舎内に入ったのを見届けてから、私は一人SS専用の個室部屋に向かう。
この水乃月学園にはSSだけが許可されている個室やシャワー室が学内に設置されており、SS達の休憩室としてや、訓練後の汗を流すために使われている。
普段は誰かしら休憩していたり、シャワー室でドスケペプレイに勤しんでいたりするのだが、イベントで人が出払っているおかげか部屋には誰も居なかった。
私は個室に備え付けられているロッカーの元へ向かい、中に入っていた“ある服装”に着替える。
この服装は私にとって原作の流れを変えるのだという一つの覚悟の表れであり、周囲に正体を隠すために用意したものだ。
今までこの服装を使って行動する機会は少なかったものだが・・・・・・これからは使用する機会も多いだろう。
着替え終えた私は校舎の4階へと移動する。
タブレットを確認し、画面に表示された光る点の数を確認する。
このタブレットに表示されている光点は、この青藍島の住人が必ずタブレットにインストールさせられるアプリ――
この位置情報は電源を切らない限り常に発信され、それを活用してSSやSHOは住民たちに監視まがいの行動をしている。
正にディストピア感溢れる代物だが、今回はそれが役に立つ。
高さまでは表示されないが――校舎内を動くSSと思われる光点に、ある教室の位置で動きが無い二つの光点、そしてそれに近づいている一つの光点。
二つの光点がある位置に近づくと、教室の中から何か言い合うような男女の声が聞こえてくる。
(――タイミングとしてはベストだったな)
覗いてみると、そこには予想通り一人の男子生徒に詰め寄られる一人の女子生徒――片桐 奈々瀬の姿がそこにあった。
男子生徒は奈々瀬に性行為を頼んだものの、それを断られ怒っているらしい。
その剣呑な雰囲気に奈々瀬は相手を宥めるようにしながらも、困った様子で顔に汗を浮かべている。
「はぁっ!? 今日も駄目ってどういうことだよ!?」
「――――っ・・・・・・ちょっと落ち着いて、ね?」
この青藍島での片桐 奈々瀬という人物の評判は水乃月学園一のギャルビッチ、というものである。
彼女の噂を全て挙げるのはキリがないが、抜粋するならば
「学園の男は全部片桐奈々瀬の穴兄妹」
「放課後は常に50人待ち」
「男子の頭を挿入しなければ満足できないクレイジーサイコビッチ」
といった、本当にそれ信じる奴いるのかという噂まで広まっているほどのビッチである・・・・・・というのがこの青藍島での立ち位置だ。
しかし私は本当はそうではないということを知っている。
彼女は見た目がギャルっぽいからビッチだろうという周囲の勝手な勘違いと、彼女自身が誤解を解けない性格且つ自身にとって都合が良い、という事情で広まったそれは、この青藍島で彼女が平穏に過ごしていくために必要なものであった。
そう、彼女は自らをドスケベなギャルビッチだと周囲に勘違いさせる事で常に忙しく、生半可なセックスでは満足出来ないと、そう周囲に見せつける事で今までドスケベから逃れてきたのだ。
――しかし、それでいつまでも逃げ続けられる筈もなく。
私は二人が居る教室とは別の教室に入り込み、こちらに向かってくる一つの光点――淳之介がやって来るのを待つ。
隣の教室からは男子生徒の怒鳴り声が響いてくる。
思わず飛び出しそうになるが、それは私の役目ではなく、淳之介の役目だ。
ならば、今だけは怒りを抑えなければならない。
そして何より、この後の私の取る行動に失敗は許されない。
これで全てが変わる・・・・・・このぬきたしの運命・・・・・・この私の運命!
淳之介の運命・・・・・・そして、奈々瀬たちヒロインの運命も!!
――・・・・・・これで最後だあーーーー!!
――いや別に最後じゃあないが。
しかし、心の中でふざけた事で、ほんの少しだけ心が軽くなる。
私は今から決定的にぬきたしの物語が変わる出来事を行おうとしている。
その事にどうしても緊張してしまい、動きがぎこちなくなっているのが自分でも分かった為どうにかしようと思ってやってみたが・・・・・・案外上手くいくものだ。
若しくは自分という人間は案外単純なのかもしれない。ともあれ――
(――ありがとうバー〇ック。ありがとう鳥〇明先生)
とにかく、覚悟は決めた、緊張も解いた。
ならばあとは行動するだけだ――。
「行くぞ奈々瀬――!!」
「ごほっ、ごほっ・・・・・・えっ、あ、うん・・・・・・っ」
「待てやコラ! おい!!」
奈々瀬を押し倒し首絞めをしていた男子生徒を殴り倒し、奈々瀬の手を握り走り出す。
逃げる最中、奈々瀬に「お前、誰とでも寝るビッチなんだろ!?」と問うと、想像もしていなかった数々の回答が奈々瀬から返され、思わず顔を覆いそうになる。
なんだよ「外見からビッチって噂が立って、逃げるのに都合が良いから話を合わせてた」って――!
そんな予想外の事実に驚愕しながらも、俺たちは廊下を駆ける。
後ろからは俺が殴り倒した男子生徒が追ってきている。
もしもこんな状況をSSにでも見られたら厄介なことになる。
――・・・・・・性産的行為の妨害は、ドスケベ条例違反である。
そして、条例違反者にはその罪に対する罰が与えられる。
ドスケベセックスという名の、罰が――――
しかしその不安は唐突に、裏切られることとなる。
急に近くにあった教室の扉が開き、中から誰かが出てくる。
すわ巡回のSSかと警戒をすれば、出てきたのはスーツを身に纏い、ウエスタンハットを被り、顔の上半分を鷲をモチーフにした仮面で覆った黒髪の“少年”であった。
「――っ、あの子は」
「っ、おい奈々瀬、どうした!?」
奈々瀬が出てきた少年を見て一瞬固まり、それに俺も釣られるように立ち止まってしまう。
「奈々瀬! ここで立ち止まったら後ろの奴に追いつかれるぞ!」
「え、ええっ、それは分かってるんだけどあの子は――」
「――――退いて」
少年がこちらを見て、男にしては妙に高い声で一言そう告げる。
気が付くと彼は胸元からある物を取り出し、こちらへ向けていた。
それは俗に拳銃と呼ばれるもので――よく見れば、SSが腰に提げているハンドガンと同じ形状をしていることが分かった。
「――はっ?」
急な展開が連続して起こったことで、頭が追いつかない。
彼は一体? 何故銃を向けられている? 何のために現れた?
その思考停止している時間が不味かったのか、後ろからやってくる男子生徒との距離はもう殆ど無くなってしまっていた。
「はぁ・・・はぁ・・・ようやく追いついたぞ奈々瀬ぇ・・・・・・!」
「やばっ、追いつかれた・・・・・・! 淳、あんたは早く逃げなさい!ここはアタシが――」
「馬鹿言うな! こうなったのは元々俺の責任だ。 お前は条例も違反していないんだから、さっさとどこかへ行っていいんだぞ――!」
「・・・・・・」
どうする。
後方からは怒り狂った男子生徒、前方には銃を構えて立ち塞がる謎の少年。
男子生徒からは逃げ切れなければ奈々瀬は捕まり、俺はSSに通報されるだろう。
そして目の前の少年は――待て、さっきこの少年は退いてと言ったか?
「――早く!」
「あっ、ああっ! 奈々瀬、こっちだ!」
「淳――!?」
少年の言う通りに射線から外れるために奈々瀬を抱き寄せ廊下の端へ移動する。
そして少年と男子生徒が顔を合わせた瞬間、少年の持つ拳銃から何かが破裂したような乾いた音――発砲音が鳴り、発せられた弾丸は男子生徒の顎に命中した。
「――ガッ!?」
銃弾を受けた男子生徒はそのまま気絶し、仰向けに倒れる。
そして近くには先ほど彼が撃ったであろう弾丸――ゴム製のライオット弾が一発、廊下に転がっていた。
「――どういう、ことだ」
いきなり現れたこともそうだが、彼は何故銃弾を男子生徒に?
「・・・・・・あの子は、多分反交尾勢力よ」
「奈々瀬・・・・・・知ってるのか?」
「えぇ・・・・・・アタシがこの島に転校した時に、何度か助けてもらったことがあるの」
「――――――」
そんな人物が――。
思わず、喉を鳴らす。
彼のような人が居たことを、俺は心のどこかで期待していた。
島の価値観に染まっておらず、ドスケベ条例に反旗を翻す人物など居ないのだと、半ば諦めていた心が再び燃え上がってくる。
彼は男子生徒に近寄り体調を確認し、問題無い事が分かると転がっていたライオット弾を回収しこちらに顔を向ける。
「――橘 淳之介」
「っ、俺のことを知ってるのか?」
そう聞くと、彼は静かに頷きこちらを見つめてくる。
「君は、このドスケベ条例をどう思っている?」
――――やはり彼は
「同調圧力を用い、ドスケベを嫌がる者にまで強要するこの島の条例をどう感じている?」
あぁ、そうだ。
俺はこの時を待っていたのだ。
思想を同じくする、ドスケベ条例に反旗を翻す人たちの存在を。
「そんなの、決まっている――!」
「俺はそんなふざけた条例が許せない!」
「例え国が許そうとも、俺は絶対に許すつもりはない――!!」
俺はドスケベ条例から逃げるのではなく、戦う道を望んでいたのだ。
俺の矜持とプライド、そして妹の平穏を守るためならば、俺はどんなことでもしてみせる。
「・・・・・・ならば、これを。 これに書かれた場所に向かえ。 そうすれば、君たちはこのドスケベ条例に抗う力を手に入れられる筈だ」
彼は一つのメモ紙を取り出すと、俺に渡してくる。
俺がそれを受け取ると、彼は俺たちに背中を向けてどこかへと行こうとする。
しかし、それを止める存在がここにいた。
「待って!」
「・・・・・・」
「前のことも含めて、助けて貰ったことは感謝してる・・・・・・ありがとう。 でも、君は一体何者なの?・・・・・・何が目的でアタシたちを助けてくれたの?」
奈々瀬が問う。
すると少年は立ち止まり、こちらに顔だけを向けて振り返る。
・・・・・・確かに彼の存在は謎が多い。
俺たちを助けてくれたことに加え、SSのハンドガンを何故持っているのか。
それに何より、彼の目的を聞いていない。
「・・・・・・僕はこの島の歪んだ条例の誤謬を正す者。 その中で、近くに居る人に危険が迫れば助けるだけ。 ――ただそれだけです」
そう言うと、それ以上は話すつもりがないのか彼は顔を背け、そのまま廊下の奥へ行ってしまう。
・・・・・・不思議な少年だった。
顔を隠しているせいで表情は伺えないし、教えてくれた目的もアレが全てというわけではないだろう。
しかし、彼は俺にとって恩人だ。
諦めかけていた心を蘇らせ、希望まで託してくれた。
――いつか、彼にはこの恩を返そう。
そう胸に誓うのだった。
彼を見送った後、俺たちはまず渡されたメモ紙を見ることにした。
そこに書かれていたのは――
「学園のエレベーターに入って↑↑↓↓の後に↑↓同時に3回押せ・・・・・・?」
なにこのゲームの隠しコマンドみたいな指示。
えっ? これさっきまでの謎に包まれた少年が書いたの?
まさか――
「実は結構オタク趣味だったりするのか・・・・・・?」
「えぇ・・・・・・どういう考えからその発想に至ったの・・・・・・?」
「主人公たちが窮地に陥った際に現れる謎に包まれたキャラというのは大抵物語の中盤正体が明かされると同時に仲間になるのが定番・・・・・・まさかあの姿もキャラ付けで・・・・・・?」
「いやあの・・・・・・流石にそんなふざけた理由じゃないと思うケド・・・・・・?」
「クッ、何てカッコイイ立場に居るんだ・・・・・・羨ましい!」
俺もそんなカッコイイ登場がしてみたい――!
・・・・・・だがしかし、いつまでも羨んでいても仕方がない。
このお返しは、彼に恩を返す時に取っておくべきだろう。
今は、このメモの指示に従ってみるしかない。
「・・・・・・奈々瀬、お前はどうする。 俺はこれからもドスケベ条例からは抗い続けるつもりだ。 そしてその為の力というのがこの先にあるのなら、俺は行く」
「・・・・・・はぁ、そんなのもう今更じゃない。 ここまで関わっちゃったなら行かない選択肢なんてアタシにも無いわよ」
そう答える奈々瀬はどこか疲れたように――しかし口元に笑みを浮かべるのであった。
「じゃあこれから・・・・・・いや、これからもよろしくな。 奈々瀬」
「――えぇ、よろしく、淳」
こうして俺は、この青藍島で初めての仲間を――ドスケベ条例に抗う同士を見つけることが出来るのであった。
――廊下の角から少しだけはみ出る帽子と、顔の半分だけを出す謎の少年はその光景を見て静かに呟く。
「はぁ・・・・・・! 淳奈々てぇてぇなぁ・・・・・・! この為だけに生きてる・・・・・・ありがとう、ありがとう・・・・・・おえっ」
その姿は間違いなく、謎のヴェール関係なくただの限界オタクとしか言いようが無い姿なのであった。
幼少期淳之介が綺麗すぎて書いてて「誰だこいつ」ってなったパコ
ちなみに変装中の服装は次元〇介に鷲モチーフの仮面を付けた姿を想像すると分かりやすいパチ