「……!!参りましたわ」
「ありがとうございました!」
俺はエリカさんに勝利した。しかも翠がものすごく頑張ってくれたおかげで、翠一匹で勝ち抜いた。これでいいところも見せられたと思う。だがさすがにジムリーダーと戦っただけあって、翠は傷だらけだった。
「翠、ありがとな」
俺は翠をねぎらい、傷薬を使う。
そうしてるとエリカさんも自分のポケモンたちを回復させてねぎらいながら俺に近づいてきた。
「噂に違わぬ強さでしたわ。ではお約束の通り、レインボーバッジを預けます。そしてこれからのあなたの行動で想いを見極めさせて頂きますわ」
「はい!見ていてください。必ずあなたに相応しい男になってみせます!」
俺は両手でバッジを受け取り、大事に握りしめた。
「それから」
その言葉に、俺は彼女に視線を戻す。
「これもお使いになって」
彼女からわざマシンを渡された。そういえばゲームじゃジムリーダーのバトルの後にわざマシンをもらえたことを思い出す。タケシとカスミ、それにマチスからはもらってないから忘れてた。まあそれも当然だろうな。今思えばあの時の俺の態度は最悪だった。そんなやつに好意でプレゼントなんて普通しない。これはゲームじゃなくて現実だ。……あとで謝罪に行こう。
「わざマシンの中身はメガドレインです。与えたダメージの半分がポケモンの栄養になる素晴らしい技ですわ」
正直、エリカさんから物をもらえるなんてすごく嬉しい。けど。
「いいんですか?こんなものを頂いても?」
「ええ。あなたとポケモンの絆という素晴らしいものを見せて頂いたお礼と、あなたへのちょっとばかりのエールですわ。これからの旅も、謝罪も、きっと苦難の連続でしょう。それでも、このワタクシを口説いてくれたあの情熱が、嘘やその時だけの勢いじゃなかったとワタクシは信じています」
また涙が溢れた。
あの告白は嘘なんて絶対ない。その時の勢いは、……正直ちょっとあったと思う。けどその想いは今だけじゃない、この先もずっと変わらないって自信を持って言える。でも、それは伝えることがとても難しい。言葉の信憑性は、それまでの行動や言葉で伝わるものだと思うから。今まで好き勝手やってきた俺の言葉なんて誰が信じる?だけど、そんな俺の言葉を、情熱を、惚れた人が信じてくれた。しかももっと信じようとしてくれる。
男が泣くなんて、しかも惚れた女性の前ならなおさら恥ずかしいしカッコ悪い。けど俺の涙は止まらない。ならせめてその姿が見られないように、俺は手で顔を隠して
「はい。俺のコレからを、こんな俺を少しでも信じてくれた俺を、見ていてください」
心の底からの決意と共に答えた。
それから俺はポケモンセンターで休憩した後、手持ちのポケモンたちに謝った。さすがに暴力はふるってないけど、態度は横暴だったと思うし、求める水準はめちゃ高だから苦労させたと思う。謝った後に俺は態度を改めていくこと、それでもポケモンリーグ制覇は諦めないこと、そしてこれ以上俺についていけないのなら、交換や逃す事もすることを話した。そうなれば当然これまでゲットしたポケモンのほとんどが離れ行った。わかってた事とはいえ、いざ現実に起こって見れば相当ショックだった。けど、それでも、だからこそ翠を始め数匹残ってくれたのがすごい嬉しくて、泣きながら大事にすると誓った。
ポケモンとの関係を整理したら俺は地元、マサラタウンに戻って迷惑かけた人たちに謝って回った。当然警戒されたし、キレられたし、無視された。信じてもらえず、許してもらえるわけもない。俺はそれでも、ゆっくりでも、時間がかかっても、少しだけでも許してもらっていけるようにしようと決めた。
ただ、中には許してくれたり、エリカさんと同じように、これからの行動で判断してくれるという奇特な人たちもいてくれた。こんな俺でも、まだ信じようと、信用してくれようとしてくれる人がいたっていうのは嬉しかった。こんなにもこの人たちの気持ちを裏切りたくない、絶対裏切ったりしないと思えたのは初めてだった。
次に謝りに行ったのは家族。本当なら一番最初に行くべきところだって思ってたけど、一番近い人間だからこそ、反応が怖かったし、躊躇した。そんな気持ちも、恋心も、たくさんの謝りたい事も、包み隠さず全部話した。さすがに転生者って事だけは伏せて。
俺の行動に目に余るものがあるって思ってた家族は、それでも俺から謝って、全部話したという事で全員許してくれた。とは言っても父親にはビンタくらったし、母親にはめっちゃ泣かれた。正反対にじーちゃんと姉ちゃんは笑いっていた。
じーちゃんは「間違えるのも子供の特権じゃ。子供のうちに何度でも間違えて、反省して、何度でもやり直しなさい。ただし、絶対にやってはいけないことはしてはいかんぞ。それとあまり父さんと母さんを心配させちゃいかんぞ。そこはほどほどにな」とか言って研究所へ戻って行った。
姉ちゃんは「ちゃんとみんなに謝ってるんでしょ?じゃあ大丈夫。いい出会いとエリカには感謝しなきゃ」と言ってしばらく姉ちゃんに撫で続けられた。その時にちらっと話してくれたけど、姉ちゃんとエリカさんは友達らしい。めちゃくちゃ驚いた。
最後は旅に出て俺と関わってくれた人たちに謝るため、俺は再びマサラタウンからタマムシシティまで同じルートで進み、関わりの強かった人たちに謝って歩いた。
やっぱり最初はあまりいい反応をされないけど、それでもあまり関わった時間が長くなかったせいか、許してくれる人は多かった。特にジムリーダーは人ができてるのか、エリカまでに出会った3人共が許してくれた。
タケシは、
「わかる!わかるぞ!エリカさん清楚で可憐でカワイイもんな!あれは惚れても仕方ない!それがきっかけで変わろうとしてるなら信用できる!全部許そう!ついでにこれを持ってけ!」
とすごくウザ(ゲフンゲフン)……共感と共に妙な信頼をされ、これまたものすごい生暖かい目で見られながらわざマシンを押し付けゲフゲフ)……譲ってくれた。
「また遊びにこい。歓迎するぞ。ていうか応援するからまた話を聞かせろよ」
そしてなぜかタケシとの友好が深くなった。
カスミは正直、俺の印象と態度の悪さ、カスミの性格とその時のやりとり等を考えて、許してくれない可能性の方が高いと考えた。
「いいわ。許してあげる。見かけだけじゃなくてちゃんと心がこもった謝罪だったしね。っていうかあなた変わりすぎよ。恋ってそこまで人を変えちゃうもんなの?ねぇねぇ、色々詳しく聞かせなさいよ」
とあっさり許してくれたけど、根掘り葉掘りめっちゃ聞かれた。家族の次に色々疲れた相手だったけど、最後には逆に話のお礼としてわざマシンをくれた。俺はちょっとカスミを誤解していたのかもしれない。
「たまにこっちに戻ってきたらまた話にきなさいよ。ちょっとだけ歓迎したげるから」
そしてなぜかカスミとの友好が深くなった。
マチスは、
「hahaha!ナンダソンナコトカ。アノテイドノ
とさっぱりと気持ちよく許してくれた。器が大きいというか、大人っていうか、あの余裕は正直ちょっと見習いたい。
「トコロデユー、エリカトハドコマデイッタンダイ?モウヤッチャッタ?」
……さすが軍隊、そっちの会話もスケールでかいというか、懐が深いというか、エロにも寛大だ。ていうか肩組んでくんな!拳で横腹グリグリしてくんな!地味に痛いわ!
こんな感じで、なぜかマチスがウザく(ゲッフンゲッフン)友好が深くなった。
どいつもこいつも恋バナ大好きかよ!
まあ、それで許してもらってるからあまり責められないんだが。
そして数ヶ月かけて再びタマムシシティまでたどり着いた俺は、今回はエリカさんに会わずに旅立つつもりだ。本当は会って話したい。いや、遠くから見るだけでもきっと俺は嬉しい。でもあの出会いからまだ数ヶ月、どうせ会うならもっと成長した俺を、会って恥ずかしくない俺を見てほしい。
そんなわけで翌日、タマムシシティから出発しようとして
「ウフフ、前より良い顔になりましたね。まるで別人ですよ。男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ、とはよく言ったものです」
なんと街の出口でエリカさんが待っていてくれていた。俺が再びこの街に来たことも、会わずに旅立つつもりだったのもバレていたらしい。
会いにきてくれただけでも大気圏を突破できそうなくらい嬉しいのに、俺のことを知ってくれていて、褒め言葉を言われたらその勢いは宇宙の果てまで逝ってQしてしまう。
「貴方のお姉さんや、他のジムリーダーから話を聞き、貴方の本気さや誠意は伝わってきました。その気持ち、嬉しく思います。まだその気持ちにお応えすることはできませんが、まずはお友達から始めましょう」
「はい!ありがとうございます!」
前回は友達すら断られたのに、今回は向こうから「友達になろう」と言ってもらえた。嬉しさのあまりにまた涙が出そうになる。感動の涙まんて前世加えてもまずなかったのに、いつから俺はこんなに涙脆くなったんだろう。
「がんばってください」
そんな顔を見られたくなくて、下を見ていたら急に両手が引っ張られた。
「へ?」
急なことで頭がついてこず、手元を目で追っていけば、そこにいたのは慈愛の笑みを浮かべたエリカさん。そう、これは白くて細くてすべすべで柔らかくて、ちょっとだけひんやりとしたのが気持ちいいエリカさんの手だった。
「へーーーーーーーーっっっっっ!?!?!?」
それに気づいた俺の顔が急に熱くなって、脳が沸騰するような錯覚をする。これは夢か?いや、このギュッとされる俺の手から伝わる感触が、これは現実なんだと教えてくれる。
現実と理解すれば、嬉しさとか恥ずかしさとか、とにかく色んな感情が爆発的に起こって連鎖して、熱暴走してオーバーヒートする。
「?グリーンさん?おーい?」
「はっ、はひぃっ!?」
思わず自分でも変で面白い声が出たと思う。
やば、変なやつとか思われただろうか?気持ち悪がられただろうか?今の俺、手汗もすごそうだし。
「あの、手を握られるの、嫌でした?」
ちょっとだけエリカさんの顔が曇る。
「そんな訳ないじゃないですか!嬉しさのあまりに言葉がちょっとおかしくなっただけです!」
エリカさんにそんな顔をしてほしくなくて、俺は勢いだけで自分でももうなにを言ってるのかわからないフォロー?をする。
「グリーンさんって思ってたよりも面白い方ですね」
そんなこと言いながらまた、それでいてさっきとは違う笑顔で笑うエリカさんがすごく尊い。
「わたし、噂や上辺だけで判断してしまってグリーンさんの事を全然知らないのね。あの、もしよかったら、旅先で手紙とか頂けませんか?わたし、もっとグリーンさんの事を知りたくなりました」
「え?」
彼女は今、なんて言った?手紙が欲しい?もっと俺の事を知りたい?……やっぱりこれは夢かな?
エリカさんと握ってた手を離して頬をつねってみる。
「痛ててて」
「ど、どうされました?」
「痛い。夢じゃない。マジか!?」
「ぷっ。現実にそういうのをやる人、初めて見ましたわ」
また笑ってくれた事が嬉しくて、夢じゃないことがまだ信じられなくて。エリカさんの笑顔が眩しくて。つられて、
俺も笑った。
「俺、手紙書きます。きっと最初は拙くて、読みにくいかもしれませんけど、そこも上手くなって見せます。面白い話もいっぱい書きます。だから、楽しみにしててください。俺の事、たくさん知ってください」
「はい。楽しみにしておりますわ」
お互い笑いながら俺たちはそんな約束をした。
「それじゃ」
俺はエリカさんからゆっくり離れてこれから歩き出す道を見る。思えばここまで色々あって、なんだかようやくスタート地点に立った気がする。俺の本当の旅はここからが始まる、そんな気分だった。俺は決意を改めて気合いを入れなおし、
「行こう、翠」
エリカさんに別れを告げながら、ボールから出てきた翠と共にタマムシシティから一歩踏み出した。