今日の早出は小鳥遊だった。先日の凡退を気にしてのことなのだと思ったが、あいつ、テンション高めで入ってきたと思ったら見たことない弾道でスタントにぶち込んできた。あいつはなんなんだ、完全にアーチストじゃないか。
むしろそれができるならなぜやらなかったと聞いてみたいところだったが、目がいってるため考えるのをやめてしまった。
それと、今日はなんだか酒よりブラックコーヒーを浴びるように飲みたいなぁ。
デーゲーム、試合はすでに最終回を迎えていた。点差は二点差でこっちが負けてしまっている。
この試合を落とせば順位が落ちてしまう・・・なんとしてもそれだけは避けないといけない。
「ラビッツ選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー横尾に代わりまして・・・松原。」
相手のクローザーはメジャーでも活躍した大投手。僕の子供の頃の憧れの一人だ。
勢いのあるストレートに鋭く落ちるスプリット・・・タイプ的には一番苦手なタイプ。
「けど、簡単に打ち取られるわけにはいかないんだよね。」
咲さんの・・・彼女の前で情けない姿は見させられないし。そのためにスイングルームでひたすら出番を待つ。耳に入る歓声すべてをシャットダウンして、そのひと振りを研ぎ澄ませる。
「小鳥遊いくぞ!」
コーチから呼び出される。先頭二人が出てくれて、一打サヨナラ。いいね、最高。
「ドルフィンズ選手の交代をお知らせいたします。千原に代わりまして代打小鳥遊。」
バッターボックスに向かう一歩一歩が僕を奮い立たせる。歓声が僕の翼になる。この感じ、だから野球はやめられない。
そして、ボックスに立って構える寸前、見えてしまった。
・・・咲さん。ちょうど、ベンチの上。心配そうな目でこっちを見てる。
ははっ、なんでそんな顔してるの?まるで飼い主を心配してるワンちゃんみたいだよ。
だからさ、ちゃんと見ててよ。今の僕は・・・
「負ける気がしない・・・!」
一球目、140キロのスプリットがアウトローに決まり1ストライク。
二球目、これまた142キロのスプリット。二球続けて・・・ずいぶんと焦ってるのかな。先頭二人出しちゃってるからか、余裕がなさそう。
もう一度咲さんを見る。・・・うん、大丈夫。頭はさえた。
次の瞬間、来た球を目いっぱいフルスイング。打球はレフトスタンドの中段へ突き刺さった。サヨナラ・・・!
「きめたぁぁぁぁああああ!小鳥遊!なんとプロ初ホームランはチームの勝利を導いたサヨナラホームラァァァァン!!!」
実況ここまで聞こえてくるんだけど。
「やりやがった!」「いいっじゃんいいじゃん!!!」
チームメイトから水の嵐。そのあとベンチに戻るときに咲さんの方に近寄った。
何も言わなかったけど、咲さん。あなたのために打ちましたよ!
と、そんな思いが通じたのか、にっこりと笑顔を見せてくれた。
咲さんも、チームメイトも、ファンも、みんなの歓声が聞こえてくる。なんていうか、この瞬間って本当に好きかもしれない。
「放送席放送席、ヒーローインタビューです!今日のヒーローは、見事なサヨナラホームラン、小鳥遊空選手です!」
名前が告げられると再びスタントから歓声が沸く。
「あのホームラン、かなり緊張があったかと思いますがどうでしたか?」
「とにかく、来た球を振りぬくつもりでした。風が吹いていたのでホームランになったのはラッキーでした。」
「打席に入った時、何を思ってましたか?」
「まだ、チームが優勝争いから脱落したわけじゃないので、僕たちはまだやれるって意地を見せたかったですね」
「そうでしたか。今日のヒーローは小鳥遊選手でした!」
鳴りやまない歓声、でも僕の視線はただ一か所に向いていた。
「咲さん。」誰にも聞こえないその声。けど、彼女が振り向いてくれたのがわかると、ゆっくりvサインを向けてベンチに下がった。
もちろんロッカーにもどったらまた盛り上がってたけど。
・・・個人的に、夜がすごく楽しみだ。