咲さんパート。ふと思ったんですけど、遠征するときの恋人ってどんな気分なんですかね?
「今日のお天気をお伝えします・・・」
いつものスタジオといつもの天気図。これが私の仕事場。
「鳴瀬さんありがとうございました!さて次はドルフィンズのコーナー。昨日から関西での三連戦に挑むドルフィンズ・・・」
けど、これだけは・・・これだけは・・・!
『早く帰ってきて空くん!!!』遠征に出かけると電話もつながらないし、ラインも見事につながる時間が違ってきちゃう。付き合ってまだ一か月も経ってないのに、どこか彼を求めてしまう。
「というわけで小鳥遊選手の活躍には目を見張るものがありますね!しかもイケメン!」
ふふっ、でもすっごく甘えん坊さんなのよ?この間もずーっと膝枕したし、ぎゅーってしちゃったし!
「彼女いないなら私立候補したいぐらいかっこいいですよね!」
・・・お、落ち着いて私。そう、彼の心はもう私だけのものなんだから・・・っ!
・・・・
「もー・・・咲ってば飲みすぎよ?」
仕事終わりの夜、彼と出会う前から通っていたバーでお酒をあおる私。目の前にはバーテンダーであり、大学からの友人である立花かざみがあきれた表情をしていた。
「らってー・・・あの子、私の恋人と付き合いたいなんてテレビで言うんだもの!内緒にしてるから表立って言えないし・・・むぅ、ミモザ!」
ちなみに彼女、かざみは私たちの関係を知っている数少ない友人。私は職場恋愛じゃないし、公表しても・・・って思ったけれど、彼たっての希望ということもあってほんの僅かな人にしかこのことを伝えていない。
彼曰く、何かあった時に私が巻き込まれないようにするためって言ってたけれど、私はまだ彼の全部を知ってるわけじゃなくって。
「ほら、彼また活躍してる。」それを見かねたかざみが携帯の画面を見せてくる。今日は確か広島だったっけ。]
「期待の新星 来季年俸大幅アップか?彼氏さんってば最近すごく活躍してるもんね~?彼女さんもがんばらないと。もっとかわいい子に奪われちゃうわよー?」
むぅ・・・でも、前まではこんなこと考えるようになるなんて思わなかった。それも全部・・・
「彼に夢中になっちゃったから、かぁ。」
「でも、浮気の心配は絶対ないと思うわよ~?彼、前にここに来た時言ってたもの。『咲さんは僕にはもったいないぐらい尽くしてくれて、素敵な人です。そんな僕が彼女にできるのは、たった一人の女性を愛し尽くすだけですから。』って。お酒も入ってないのにこりゃ敵なしって感じだったしね。」
・・・もう、あの子ってばそんなこと私の前じゃ一言も言ってくれないのに。こんなところじゃなくてもっとちゃんと目の前で言ってほしかった。
「首ったけってこんな感じなのかしらねー。私も早く恋人ほしい。」
「かざみこそ、早くいいひとみつけないとね?私たちが結婚しちゃう前に。」
結婚。女性の憧れ。私も、子供の頃に読んだ絵本のお姫様に憧れてお嫁さんになりたいって思ったこともあるけど、実際にはいろんなことがあって。最近そんなことを忘れちゃってた。でも、彼になら。彼のお嫁さんになら。私はなってもいいのかなって。
けど・・・
「寂しい・・・」寂しいものはやっぱり寂しい。お店から戻って部屋のベットに寝転ぶと、今まで何も感じなかったダブルサイズのベットがやけに広く感じてしまう。電話、してみようかな。でも、寝てたりどこかに遊びに行ってなかったらどうしよう。
そんなことを考えていた時。携帯に着信。彼からだった。
「も、もしもしっ!?」「うわっ、咲さん。よかったぁ・・・もう寝ちゃったと思ってた。そっちはどう?」
たった三日。それなのに、彼の声が聞こえると思わず涙がこぼれそうになる。いけない、私ってこんなに涙もろかったかしら。
「先輩がさ、こまめに遠征中は連絡しとけってアドバイスしてくれて。けど咲さんっていつも寝るの早いでしょ?だからいつかけようか迷ってたんだけど・・・そっか。明日お休みだもんね。」
「ふふっ、そうよ?恋人にはちゃんと連絡しないと帰ってきたときひどいんだから。」
その一瞬の会話が心地よくて。
「じゃあ帰ってきたときは彼女さんにお土産買ってこないと。広島だから・・・もみじまんじゅうかなぁ。」
お土産なんかより、ただあなたが帰ってきてくれるだけで、それだけでいい。
「じゃあ、今度のお休みはお土産をゆっくり開けましょうか。ふふっ、私ご飯作って待ってるから。それじゃあ・・・もう寝るわ。明日も頑張ってね?」
電話を切って、ベットに潜る。明日の試合、かざみのところで見れるかな。