ここは自分のいた世界とは違うんだという事を窓の外を見ると改めて実感する。
初めて見たときはまるで、映画の中の近未来的な光景を見ている様な気分になったものだ。
木桜ミヤは自分の腹を撫でながら、お腹が空いたなあと独り言のように呟く、三日前に妊娠がわかり、この病院に運ばれたときは驚いたが、今、自分の体内は空っぽだ、それというのも胎児の成長の安全の為、胎児は特殊な施設で保護を受けているのだ。
ラノベや漫画なら猫耳、尻尾があるなど、可愛らしい姿を想像してしまうのだが、性別はわからないし、そもそも相手は牛だったのだ、頭は牛で首から下は人間の姿、といっても尻尾はあったなあと思い出す。
どうしてあんなことになったのだろう、正直、今、思い出しても不思議だった。
あの日、風呂から上がってすぐに寝ようと思ったところ、ドアを開けるとそこは別の世界だつた、国境、いや、あれはトンネルではなかったか、抜けると、そこは別世界というのを思い出したが、目の前にはハロウィンの仮装よりもリアルな牛人間がいたのだ。
「えっ、まさか、ヒューマンか」
自分よりも相手が驚いていたのが不思議だった。
裸の自分を見て気の毒に思ってくれたのか服を貸してくれた相手を、いい人、いや、牛だと思ったのは自分が日本人だからだろうか。
それに今まで、間近で見たことがなかったのだが、まじまじと見ると案外、可愛い顔をしていると思ったのだ、牛、牛の顔がだ、だからなのか、嫌ただで泊めて貰って御飯を食べさせてもらったからなのか、セックスをしたのだ。
相手は人間ではない妊娠なんてありえない、子供ができたとしたら、それこそファンタジーだが、それが牛人との間の子供かと言われたら疑問だ。
というのも、数日前に彼氏としたからだ、一応、避妊はしていたのだ、ピルではないので確実、100パーセントとはいえないのだ、それに、別れようと思っていたのだ。
正直、今まで彼氏というか、仲良くなり、親しくなった男性と、そういう関係になっても気持ちいいと思ったことはなかった。
それを相手に言えば男のプライドを傷つけるだろう、性格が悪ければ後々、面倒な事にならないとも限らない、暴力、いや、変な噂をばらまかれたりしたら大変だ。
だから、にっこりと笑って良かったわと嘘をつく、ところが、この牛人相手としたとき。
気持ち良かったのだ、正直に言う、自分は本来セックスが心底、好きというタイプではないと思っていた。
牛人は広くはないがアパート住まいだった、自分が獣人としてはランク、レベルが高くないからだと言っていたが、自分のいた世界でも一人暮らしで風呂無しのアパート住まいなんて珍しくない、食事はたまに自炊もするが、固形食、カロリーメイトが殆どらしい。
だが、人間の自分は、野菜を食べたい肉を食べたいというと買ってきてくれたのだ。
わざわざだ、所持金なし、服はバスタオル一枚、仕方ないので牛から借りたシャツ、ズボンは小さいサイズを買って貰って、自分は何ができると思ったとき、相手が言ったのだ。
ヒューマンとセックスとすると凄く気持ちがいい、らしい、だから一度でいいからしてみたいと言われた時は驚いた。
少し迷ったが、いいわと言ったのはお礼の意味もあってのことだ、
牛といっても人みたいな体型だし、だけど、四つん這いのスタイルというのは何だか嫌だなあと思うのを少し遠慮がちに言うと、それは自分も嫌だという、親という返事が返って来たので愕いた。
二足歩行になると、そういう四つ足スタイルは原生、昔の獣だった頃の名残を彷彿とする様で、嫌らしいのだ。
では普通に正常位というスタイルでと思ったのだが始める前にシャワーだけでも浴びておこうと思ったのは、一応の礼儀というやつだ。
本当なら風呂に入ってからと思ったが、このアパートに浴槽はない。
いずれ自分の家に戻ったら、風呂に入ってゆっくりしたい、この時はそんな事を暢気に考えていたのた。
髪の毛を洗い、体全体、あそこも綺麗に洗っておこう相手が人間でなくとも、獣人だから鼻は良さそうだし、もし、臭いとか言われたらショックだからと思っているといきなりドアが開いて牛人が入ってきた、それも裸でだ。
「すぐに出るから」
「このままでいい」
意味が分からずシャワーを止めようとすると、体の向きを変えさせられて抱きかかえられた。
抱きしめるではなく、抱えられるようにして、思わず日本人のなよなよとした男なら無理ではないかと思うような態勢に慌てたのも無理はない。
胸全体をなめ回すように舌が動き周り短い体毛がぴったりと密着し、それがくすぐたい。
嫌という拒否感よりは気持ち良さが勝ってしまった。
そして下半身にゆっくりと入ってくる違和感。
(大きい、ちょっと、く、苦しい)
「大丈夫、か」
「んっ、た、多分」
中に入ってくるのを感じながら、今、やめてくれと言ったら相手もだが、自分も許せなくなりそうだ。
「中に入ったというか、射精したのよね」
「大丈夫だ、妊娠はしない、俺はDランクだからな」
階級制度があるんだ、だけど、この時思ったのは自分、人間はどんな立場なんだろうということだ。
ここへ来て数日が過ぎたけど人間はいた、だが、純粋な人間を見たことがない、耳や尻尾が生えていたりした、いわゆるコスプレのような外観の人間はいた、しかも皆、若い。
だが、普通の自分の様な人間は見たことがないのだ。
「人間だと、それも」
「Dランクの居住区です、しかも長官、妊娠しているらしいのです」
「馬鹿な、あり得ない」
「事実です、それも造型ではない」
部屋の中が急に静かになった、作られた者ではない生粋の人間がこのシティにいるという事実を聞いて高官達は黙りこんだ。
「一体、どういうことだ」
「そうだ、いつ、どうやって、ここに来たのだ」
「それはわからん、だが、その人間を」
「決まっている、保護するべきだ」
保護、その言葉を口にしたのは犬狼の士官だ。
「ヴァイルド殿、まさか、取り込もうというのではないだろうな、」
含みのある物言いをしたのは熊人の総司令官、マーヴィスだ。
ここ数年、獣人族の出生率は低下している、人工出産で生まれてくる子供は成人するまでに病気や怪我でなくなるということも珍しくない、殆どの獣人、しかも高ランクの、このシティに住む獣人にでさえ例外ではない。
「人間、ヒューマンは我々獣人とは別種の生き物と聞く、扱いを間違えば」
「まるで、モノを扱う様な言い方、詭弁ではないか」
「妊娠というが、それは人の子供ではないのか」
「いえ、その、医師の報告によりますと、相手は確かに獣人だと」
手元に送信されてきたデータを見ながら、報告者のマクヴェルは両目を大きく見開いた、鳥族の目は、よく見える、だが、今はそれが正直、恨めしいと思ったくらいだ。
「ランクD、牛人の子供です」
部屋の中はしんとなった。