外を歩いていると周りは獣人ばかりだ、だが、人間に似た者もいる、最初のうちは緊張していたが、少しずつ慣れてきた。
外に出たいといったとき、最初は駄目だと言われて落ち込んだが、翌日、出かけてもいいと言われたときは嬉しくなった。
しかし、自分の子供に会いに行きたいというと難しい顔で拒絶された、理由は色々とあるらしいが、仕方ないと諦めるしかなかった。
人間、それも純血のヒューマンが、この星にいるらしいという噂を聞く様になったのは、ここ最近だ、ゲートも転移装置も使わずにまれに人間がやってくることはかなり昔にはあったらしい、だが、ここ最近、いや、数百年というもの、そんな事はなかった。
混乱を防ぐ為、ゲートは特殊階層、特権階級の者達が住む街、シティにしか設置されなくなってから随分と立つ、なのに、今になって、そんな噂が。
「なあ、本当かな、あの噂」
「人間でしょ、嘘よ、だって凄く弱いって図書館の資料で見たことあるわ、寒かったり暑かったりするだけでも死んだりするんですって」
「そうなんだ、ジョシュア、よく知ってるね」
クラスで一番の成績を誇る猫獣人はお父さんの具合、良くないのと聞いてきた。
「仕事は休まず行ってる、クラス階級の試験が迫っているから、でも」
「お父さん、混血の狼人でしょ、ドラゴンの血が混じってるのよね」
輸血を受けただけだよと少年は小声で呟いたが、その声には元気がなかった。
突然の奇病って、すぐ死ぬ訳じゃないけど、だんだんと体が弱くなるって、友人と別れた少年は真っ直ぐに家に帰る気分にはなれなかった。
父親は仕事で忙しく、最近は真夜中近くに帰って来る事が多い、食事も殆ど固形のエネルギー食料だが、少年はそれがあまり好きではなかった。
保護収容所にいた頃は肉や魚などを殺菌処理のされていない食べ物がでることがあった、といってもちゃんと安全の為に表面等を高温で加熱、冷凍処理したりするのだ、その日はとても楽しみだった。
だが、自分が養子として貰われシティで生活するようになると、そういう食事や嗜好は一部の獣人たちの間では嫌悪されているということがわかった、多分、施設の管理者が人間の亜人だったせいかもしれない、シティに来たばかりの頃、その事を話すと驚いた目で見られた、中には階級が下の獣人って野蛮だとあからさまに言われたりもしたものだ。
街の中央の広場には様々な屋台が並んでテーブルや椅子が並んでいる、以前は、ここを撤去をしようとい動きもあったが、そうならなかったのは外部の星の獣人の反対があったてからだと聞いている、ここで食事をするのは少年の楽しみだった。
へえっ、新しい店が出ている、目よりも鼻が擽られる様な匂いは肉の串焼きだ、メニューを見るとおにぎりもある、昔に亜人が持ち込んだ食べ物だ、施設で出たことを思い出し、少年は屋台に近づいた。
「すみません、串焼きとおにぎりを下さい」
屋台からひょっこりと顔を出したのは虎人の男性だ。
「へえっ、子供なのに食べられるかい」
「以前、施設で食べたことがあります、肉も魚も」
「嬉しいね、だったら少年、魚を食べてみるかい、生なんだけど」
ちゃんと処理はしてあるから、それに今日仕入れたばかりなんだよと言われて少年は頷いた。
「なあっ、施設で食べたっていうけど、もしかして」
虎人の言葉に少年は驚いた、施設の名前が虎人の口からでてきだからだ、どうして知っているんだろう、存続が危うくなった事もあるくらいの小さな施設なのに。
「あそこは昔、人間の保護施設に認定されこともあるんだよ、だから食べ物も色々なものがでるんだよ」
人間の保護施設、そんなこと初めて聞いた、少年は、ぽかんと驚いた顔で虎人を見た。
「まあ、今は人間も殆ど亜人だけどな」
テーブルに並んだ食事は家で食べるエネルギー食とは違う、おにぎり、肉の串焼き、刺身、これは黒い醤油という調味料をつけて食べるらしいが、野菜、薬味も添えられていて、とてもカラフルだ、見ているだけで楽しくなってくる。
どんな味がするのかドキドキしながら一切れ食べてみる。
(うん、おいしい、表面だけ焼いてあるんだ)
この時、少年は視線を感じて顔を上げた、自分をではなく、テーブルの上に並んだ食べ物を見ているのだと気づいて相手を見た。
獣人ではなかった、体つきも大きくはない、白いシャツに黒っぽいズボン、髪も黒っぽい、もしかしてヒューマンの亜人かと思ったが、よく見ると耳や尻尾がない、最近は手術でより、獣人に似せようとする亜人もいるのだ。
相手がゆっくりと遠慮がちに近づいてきた。
「あ、あの」
少年は驚いた、そして自分でも驚く言葉を口にした。
「よかったら、食べませんか」
「ありがとう」
相手は向かいの席に座ると頂きますといいながら両手を合わせたが、串焼きに手を伸ばそうとして、その手を止めた。
「あたし、木桜ミヤ、あなたは」
名前を聞かれて少年は思わず自分の名前を口にする、だか、相手は、そうと頷くだけだ。
「二階層・サイルズ・グレイスと言います」
「な、長い名前ね、グレイス君って呼んでもいいかしら」
相手は、にっこりと笑いながら食べ始めたが、しばらくして少年は周りの視線に気づいた。
「見て、生じゃない、魚を喰べてるぜ」
「肉もよ、ちゃんと処理されているのかしら」
「なんで亜人じゃない、しかも二階層の子供まで、やっぱり育ちの違いってやつね」
明らかに自分たち二人の事を言っているのだ、最初はひそひそとした声だが、獣人の耳にははっきりと聞こえてくる。
「ねえっ、あたし達の事、言ってるのかしら」
「あっ、そ、そうだと思います」
楽しい気分で食べていたのにと思っていた少年はわずかに目を伏せた。
「うーん、悪口かなあ、何言ってるか、わからないわ」
少年は驚いた、言葉が理解できないと言ったのか、でもシティにいるなら、もしかして旅行者なのだろうか。
「美味しいのにね、獣人は肉を食べないのかしら」
「おまえたち、下層市民だろう、どうして」
一人の狼人が近寄って来ると、二人をじろじろと見下ろした。
「下品だな育ちがわかるってもんだ」
そのとき、誰かがテーブルに近づいてきた。全身と言うより頭からすっぽりと被っていた相手はマントを取った、そこから現れたのは全身が青い鱗で覆われたドラゴンだ。
「彼らは君に迷惑をかけたのかね、私には、食事を楽しんでいるだけに見えるのだが」
狼人は口を、ぽかんと開けて相手を見上げた、だが、それは周りの獣人達もだ。
その時、駆け寄ってくる複数の足音と声がした。
「失礼します、ロルバーン・フェイク通信の広報部の者です、アロイド・カイン司令官ですね、インタビューを、いえ、一言、お願いしてもよろしいでしょうか」
「公務で来たといいたいところだが、今、食事をしているところだ」
「失礼ですが、お一人ですね」
「勿論だ、そして、つい先程だが、私は獣人族のランク保持者の姿を見た、正直、残念な気分だよ」
インタビューのマイクを向けてきた女性、兎人は素早く周りを見回した。
他星の高官、しかもドラゴンが一人で獣人のシティの中で食事をしているなど前代未聞といってもいい、しかも周りには護衛の姿もない。
「今はプライベートだが、こんなことがニュースになるかね」
兎人は興奮した、これは了承だ、自分がこの星に来たことを放送してもいいと言っているのだ、数日前から噂にアンテナを張っていたかいがあったというものだ。
「なんだ、あの男は、何故、シティに、こちらへ挨拶に来るのが先だろう」
思い切り机を叩いたマーヴィスは我に返った、熊人の中でも自分は力がある、机を叩き割らなくて良かったと思いながら、どういうことだとそばにいる狼人に声をかけた。
「情報が漏れていたということか、会議はまだ先だプライベートで来たというなら挨拶の必要はないかもしれない」
「そういうことではないだろう、ヴァイル、それに何故ヒューマンがあそこにいるんだ」
それを聞きたいのは自分の方だと思いながら、狼人は歯ぎしりでもする様に口を堅く閉じた。