驚いただろう、カイン、モニターに映し出された猿人が自分に話しかけている事にドラゴンは驚いた、数日前の面会からは想像もできない姿だ。
自分を騙して、いや一体何だって、こんなことをしたのか、だが、話をきくことしかできない、モニターの猿人は死んでいるからだ。
「怒らないで、そして、この映像を見た後は完全に消去してほしい、頼みたいことがある」
そんな気力もない、数日前に葬儀がすんで、その準備で疲れていたからだ。
猿人は話、その内容に、を聞いているうちにカインはなんとも言えない気持ちになった。
こんな時間の訪問をお許し下さいと頭を下げた相手をカインは押しとどめた。
「すっかり騙されていたんだな、でも、最期まで苦しまずに」
「はい、ですが、その事は秘密です」
勿論だとカインは頷いた、猿人のあの病気は発症事態が少ない、だから治療方法もわからないのだ、そして末期になると大変な苦痛が伴う、それがわずかでも暖和されるとなれば驚きだ
「実は、もう一つ大事なことが、これは口頭でお知らせするようにと言われました、あれは事故ではないとサルヴァ殿は調べていたようです」
事故、一体何のことだ、すぐにはわからずカインは相手の顔をじっと見た。
養護施設の一件です、その言葉にカインは椅子から腰をあげた。
「サルヴァ殿は疑っておられました、調べる際も、誰にも、貴方にも知られないようにと」
「何だと、俺が信用できないと、いや」
種族の違いはあっても自分と彼は子供のころからだ、ならば、その理由は。
「事故ではない、だとすれば故意にか」
頷く当ての表情にカインは馬鹿げていると呟いた。
「あの件を調べていて亡くなった獣人がいます、狼人ですが、健康な狼人でした」
施設の事故、あれは事故ではなかったのか、最初は疑ったのだ、だが、あの時の自分に何ができただろう。
サルヴァが彼を火葬、解体を燃やすと言ったときは驚いたものだ、彼は人間の国では そうするんだと言って断固譲らなかった、だが今にして思えばあれば最善の方法だったと思う。
人間の血肉を食べればという、半ば狂った思考の持ち主なら生きていなくても、その可能性を友人は案じたのではないだろうか、だから、そんな奴らから守ろうとしたのだ。
「人間が来た、だと」
室内に響まくいた、その声に周りの獣人達はひそひそと声を漏らした、誤報では以前にもこの噂はあったが、だが、それは亜人だった、また、ぬか喜びになったら、今度こそ取り返しのつかないことになると。
「死因はわかっているのか」
「それが、細胞の変化はありませんでした」
「説明できないというのか、だったら何故、あの猿はっっ」
怒りを抑えようとしても自然と声が荒くなる、苛立ちが抑えきれないのも無理はない、自分達より劣っていると見下してきたのだ、子供のころから、下等な種族だと思っていた、なのにだ。
そう、子供のころから自分たちは狼は獣人族の中でも高位だと言われてきた、学校でも首席だった、ところが卒業間近というと気になって突然編入してきた猿人に負けたのだ。
しかも、あの猿人は生まれも育ちも自分たちより劣っていたのだ。
自分は今まで努力してきた筈だ、それなのに、たかだか、一匹の猿人に全てを否定されたような気持ちになった、そんな自分の気持ちを周りは感じ取ったのだろう、周りが動いた。
その事を知ってはいたが、止めることはしなかった、自分が命令したわけではないし、直接手を下した訳ではないのだから、罪悪感を感じる必要はないと思っていた、そして傍観することにしたのだ。
しかし、何故か自分の予想はことごとく裏切られた。
「凄いじゃないか、あの猿人、今度、試験を受けるんだろう」
「卒業まで半年だろう、なんでだ」
「なんで、あと半年だろう」
「知らないのか、あいつは施設からの援助を受けているんだ、合格すれば卒業、そうしたら援助を受ける必要はなくなるからな」
「凄いな、じゃ、本気で」
学院内での噂をきいた時は信じられなかった、卒業して高官試験を受ける、というのも最近になって外交官の虎人が体調の不調を理由に役職を早期退職するという話が広まっていたからだ、難関だ、それを、あの猿人が受けるだと。
自分より劣っていると思った種族、それも突然、現れた猿人は学院を去って行った、見事、合格してだ、そして。
「死んでからも邪魔をするのか」
呟きを漏らした狼人は、屈みに映った自分の体を、白い毛皮を恨めしそうに見た。