※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

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※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第弐拾壱話 赫蝶は日輪との逢引を楽しむ

カナヲに連れられて、炭治郎が到着したのは大きな店舗であった。炭治郎は店前に立つと、茫然としながら店名を口にした。

 

「し、"白滝"……?」

 

「うんっ! "白滝屋"って言うんだって! 炭治郎っ! お店の中に入ろっ!」

 

「で、でもこんな大きなお店……って、カナヲっ!」

 

「早く早くぅ!❤」

 

炭治郎は先に"白滝屋"の店内に入ろうとするカナヲを思わず制止しようとしたが、カナヲは店から翻して及び腰の炭治郎の腕を引っ張って暖簾を共に潜り、店内に入って行った。

 

「いらっしゃいませっ!」

 

元気そうに清楚な着物を着た女性店員が、炭治郎とカナヲに声を掛ける。だが炭治郎の恰好を見て、一瞬固まった。すると、女性店員は慌てた様子で二人に声を掛けた。

 

「お、お客様っ! 少々お待ち下さいませっ!?」

 

女性店員はそう言うと、炭治郎とカナヲに一礼してから、慌てた様子で店の奥へと走って行った。

 

「カ、カナヲっ。やっぱり俺達が入ったら行けなかったんじゃ……っ。」

 

「あの人から拒絶とか、そんな匂いがしたのっ? 炭治郎っ?」

 

「……ううん、そんな感じの匂いはしなかったよっ。」

 

炭治郎は女性店員の反応を見て少々慌てたが、カナヲの指摘で冷静さを取り戻した。二人で大人しく待つと、初老の男女と店員と思われる人々が一斉に集まって整列した。

 

「いらっしゃいませ。ようこそお越し下さいました、()()()様。」

 

「っ!」

 

そう言って全員で炭次郎とカナヲに一礼した。老齢の男性の"鬼狩り"の単語を耳にして、炭治郎が大きく反応する。するとカナヲが炭治郎に指摘する。

 

「炭治郎っ。表に藤の花の家紋も横に有ったんだけど、気付かなかった?」

 

「う、うん。全然気付かなかったよ。お店に圧倒されてたから……っ。」

 

「ふふっ❤ 炭治郎ってば慌てん坊さんだねっ❤」

 

カナヲはそう言って楽しそうに笑うと、前に出て"白滝屋"の一番偉い人物と思われる立派な着物を着た初老の男性に近付いて行った。

 

「炭治郎に……あの人に着物を見繕って欲しいの……三着……いや五着くらいっ。」

 

「畏まりました……幹也っ! それからお前たちも早速準備をっ。」

 

「はい、大旦那様っ。ささっ。鬼狩り様。どうぞこちらへっ!」

 

「え、えっとっ……そのっ!」

 

「"白滝屋"の二代目を務めております。白滝幹也と申します。恐縮ですが、お着物を見繕わせて頂きます。」

 

「え、えぇ~~っ!!」

 

炭治郎はあっという間も無く幹也と店員達に連れられて行った。それをカナヲと初老の女性、大旦那と呼ばれた男性が見送った。

 

 

 

 

 

 

「鬼狩り様、大変お似合いでございます。」

 

大旦那様と先刻、二代目店主の幹也に呼ばれた初老の男性が炭治郎の着物姿を褒める。カナヲもうんうん、と同意する様に頷いていた。

 

「あ、ありがとうございます。えっと……。」

 

「初代目の富之丞にございます。既に隠居した身ですが、青臭い婿殿の尻拭いをしておる者です。」

 

炭治郎が口籠るのを察して、自己紹介する富之丞。富之丞の言葉を聞いて、幹也は困った様に頭を掻いて誤魔化した。しかし、炭治郎はそれどころではない。

 

「あ、あのっ! こんな立派なお着物を俺が着ても良いんですかっ!?」

 

「勿論でございます、鬼狩り様。どうかご遠慮なさらず」

 

炭治郎は黒と紅色の市松模様の着物を着せられていた。良質な生地で作られている着物を着て、炭治郎は酷く緊張していたからだ。

 

カナヲはそんな炭治郎を気にせず、富之丞に話し掛ける。

 

「この着物は着て帰るから……着ていた隊服共々残りの着物を包んでくれる?」

 

「畏まりました。」

 

「ありがとう、代金は合計で幾らっ?」

 

カナヲは富之丞に礼を言うと、支払いをすべく代金の総額を尋ねた。それを聞いて富之丞は慌て始める。

 

「とんでもないっ! 鬼狩り様からお金を頂くなど……っ。」

 

「今回は私用で来てるからそう言うのは関係ないのっ。ちゃんとお金は払わないと……ねっ?」

 

カナヲが有無を言わさない態度で富之丞にそう言うと、折れた様子で富之丞は了承する。

 

「……畏まりました。ではこれだけ頂きたいと思います。」

 

そう言って総額をカナヲと炭治郎に伝える。すると炭治郎は金額に驚愕し、カナヲは怪訝そうに富之丞を見た。

 

「そ、そんな高い物を買って貰う訳には……っ!」

 

「……ねぇ? その金額で合ってる? 思ってたより安い……。」

 

「正直に申しますと、全額の三割程値引きさせて頂いております。こちらの気持ちとお考え下さい。」

 

富之丞はそう言って頭を下げると、カナヲは富之丞に承諾した。

 

「分かったっ……じゃあお金を……。」

 

「ちょっと待ってくれっ! カナヲっ!!」

 

支払いを済ませようとするカナヲに対し、炭治郎は阻止しようとする。炭治郎は故郷での質素倹約を重んじる生活から、高額な品物に対して畏れの様なものを抱いていた。

そのため、今回のカナヲの買い物に対して遠慮しようとしていたのである。しかし、カナヲは炭治郎のその気持ちを汲み取った上で炭治郎を黙らせる。

 

「炭治郎っ、遠慮しないで? わたしの方がまだ炭治郎よりお給金は高いし、この前の任務で賞与も届くだろうから……大好きな人に贈り物がしたいの、良いでしょう?」

 

「っ……分かった……その、ありがとうっ。」

 

「うんっ❤!」

 

鬼殺隊において隊士は基本給に加え、討伐成功時に賞与が与えられる。この賞与は討伐した鬼の強さや数で金額が変わって来る。

カナヲは下弦級の鬼を二体も討伐しているので、それだけ支払われる予定の賞与は高いと予想出来た。

 

カナヲの気持ちを無下に出来なかった炭治郎は、申し訳なさそうに承諾してカナヲに感謝する。そんな炭治郎の様子にカナヲは満足そうに返答した。

 

 

 

 

 

 

"白滝屋"での買い物を済ませると、富之丞達に一同総出で見送られながら炭治郎とカナヲが出て来た。炭治郎は隊服ではなく、黒と紅色の市松模様の着物を着ている。

 

その手にはカナヲが炭治郎のために購入した着物が入った風呂敷包みを持っていた。その中身は隊服と着物一枚一枚を個別に包装してある徹底振りであった。

 

"白滝屋"を出て少しすると、炭治郎がカナヲに話し掛けた。

 

「カナヲ、ありがとう。こんな良い物を買って貰って……っ。」

 

「良いの。炭治郎ってば普段は隊服か蝶屋敷の患者さん用の服しか着てないじゃない? だから私服を買ってあげたかったの。」

 

「ううん……確かに服装なんて気にもしてなかったなぁ……カナヲ、俺もカナヲにお礼がしたいんだけど、何かして欲しい事は無いかな?」

 

「ううん、そんなのないよ。そもそも、ね……。」

 

カナヲは其処で一旦、閉口すると炭治郎と肩をくっつけたまま歩き続ける。

 

「こうして、炭治郎と二人っきりでいるだけでわたしは幸せだからっ❤」

 

「……っ。」

 

カナヲの言葉に、炭治郎は嬉しさから言葉が出ない。

だが尻目で後方を見ると、炭治郎は顔を引き締め直してからカナヲを見た。

 

「カナヲ。君さえ良ければもうちょっと歩かないか?」

 

「っ?……うんっ! 良いよっ!!」

 

炭治郎が差し出した左手を、カナヲは嬉しそうに掴むと手を繋ぎながら歩き続けた。

 

そうして少し経つと、炭治郎は大通りから方向転換をする。路地裏を見つけて其処へ向かって歩き出した。

 

明治五年(一八七二年)の大火で銀座は焼け野原となり、その凶事を吉事に変えるべく当時の明治政府が巨額の予算を投じて、西洋風の煉瓦街へと銀座を変貌させたのだった。

 

その金額はその時の国家予算の二十七分の一に相当する大金だったと言う。

要所とは言え、たかだか廃墟寸前の街一つにこれだけの予算を集中して使う辺り、当時の明治政府がどれ程銀座の将来性に本気で賭けたかが伺い知れると言うものだ。

 

そしてその大博打は見事に的中し、日本最先端の街の一つとして国内外でその名を轟かせるに至っている。

しかし、どれ程の予算を投じようと街作りはその過程で光陰がはっきりと別れる。

 

銀座も例外ではなく、やはり一部は人目の着かない薄暗い路地裏が出来るものだ。

 

炭治郎が何故、その様な場所を選んで歩き始めたのかと言うと、それにはきちんと理由がある。

カナヲは最初こそ疑問に思ったが、背後からの視線を感じて炭治郎の行動理由を察した。

 

 

 

 

 

 

「ちょっとちょっと。真昼間とは言え、こんなところを歩いていたら危ないよっ?」

 

炭治郎とカナヲは背後から掛けられた声を聞いて、足を止めて振り向いた。其処には二十代前半と思われる三人組の男性が立っていた。

ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる彼らに対し、炭治郎は三人組の男性から漂う悪意の匂いに顔を顰めた。

しかし、直ぐにある匂いを感じて少し目を見開いて、笑みを浮かべてから男性に答える。

 

「そうですか、すみません。教えて下さりありがとうございます。」

 

炭治郎はそう言って頭を下げてから大通りに戻ろうとしたが、三人の男性が炭治郎とカナヲを遮った。

 

「なぁ、お嬢ちゃん? 銀座歩くんだったら俺達と一緒に行かない? お茶くらい奢るからさ?」

 

「そっちのお上りさんのボクと歩くよりよっぽど楽しいぜっ?」

 

「ああ、そんな冴えない坊やと一緒に居ないで僕達と銀座を過ごそうじゃないか?」

 

三人組の男性は炭治郎などまるで存在しない様に扱いながらカナヲにだけ声を掛け続ける。しかし、最後の一言がカナヲの怒りに大火を灯した。

しかし、カナヲはその怒りを表情には出さず、氷の如き笑みを浮かべたまま炭治郎に小声で話し掛ける。

 

「炭治郎、ちょっと待ってて? すぐ終わるから❤」

 

「あっ!? カナヲっ!?」

 

炭治郎は大声でカナヲを呼んだ、しかし、その頃にはカナヲは鞄を炭治郎に預けて三人組の男性の下へ楽しそうに歩いて行っていた。

自分達の方向へ歩いて来るカナヲを見て、下心満載の笑みを浮かべる三人組の男性。

 

「へぇ?……カナヲちゃんって言うんだっ?」

 

「良い名前だなっ、さっ……俺達と一緒に行こうか? カナヲちゃん?」

 

「ああっ、ボク? カナヲちゃんは此処からは僕達と過ごすからさ?……一人で帰ってくれよな?」

 

最後の男性がそう言うとカナヲの肩に手を置こうとする。するとカナヲが逆にその手を掴んだ。

そしてもう片方の手を男性の肩において思い切り力を籠める。

 

「おにーさん、おにーさん♪」

 

「へっ?」

 

「えいっ❤」

 

男性が間抜けな声を出し、カナヲが可愛らしい掛け声を上げた瞬間、男性の右肩からポキッ! と音が鳴った。そして男性の右腕はだらんと下がる。

 

「ぎゃああああああああああっ!!!???」

 

「は?」

 

「幸次っ!?」

 

次の瞬間、惚けていた男性は肩に激痛を感じて叫声を上げた。幸次と呼ばれた男性は痛みのあまり、両膝を地面に着いて右肩を左手で抑えた。

その叫声を聞いて、残りの二人のうち一人は状況を飲み込めず惚けた様子で間抜けな声を出し、一人は名前を呼んで心配した。その男性は惚けた様子の仲間をより状況を理解してカナヲに怒声を浴びせた。

 

「おいっ!? 幸次に何をしやが「うっさいっ!!」……た……がっ!?」

 

カナヲは激昂した様子で男性の鳩尾を思い切り殴ると、幸次と同様に右肩を外して脱臼させた。

残った一人は仲間の二人を置いて逃げ出そうとしたが、直ぐにカナヲに掴まり右肩を脱臼させられて壁に叩き付けられた。

 

「あっ……あっ……っ。」

 

「ひぃ……ひぃ……っ。」

 

「いてぇ……いてぇよ……っ。」

 

三人組の男性は脱臼した右肩を抑えながら、ブルブルと震えていた。その鼻からは一筋の血が流れていた。この後カナヲに顔面を殴られてから、そのまま壁に並べる様に叩き付けられていた。

 

「ねえ、お兄さん達? 良い歳した大人が年下の子供に絡んで無様に返り討ちに遭うとか情けなくないの? そもそもその行動自体をやる前に恥ずかしいとは思わなかったの? こんな馬鹿な事に時間費やして、貴方達は何のために生きてるの?」

 

「「「……っ。」」」

 

カナヲの存在否定とも言える言葉の数々に、三人組の男性は口籠り右肩の痛みを忘れて顔を俯かせた。

 

カナヲは部屋の大掃除を終えたが如く、スッキリとした表情をしていた。カナヲは血の付いた右手を幸次の服で拭き取ると、着物に返り血が付いてないか確認している内に炭治郎が駆け付けて来た。

 

「あっ! おっまたせ~炭治郎っ❤」

 

「カナヲっ!!」

 

カナヲは炭治郎に近付こうとしたが、炭治郎が大声で名前を呼んだので少し驚いて立ち止まる。

 

「その……少しやり過ぎじゃないかっ……っ?」

 

「……っ?……そんな事無いよっ。折ったんじゃなく外しただけだし。」

 

「……カナヲ。外した肩って戻せる?」

 

「うん? 戻せるけど?」

 

カナヲは造作も無いとばかりに、炭治郎にあっけらかんとした様子で答える。炭治郎は頭を抱えつつカナヲに言った。

アオイ達と違い治療行為が下手だったカナヲだったが、治療時や機能回復訓練中、または任務遂行中に隊士の脱臼をしのぶや隠が戻しているところを何度か見ただけでそのやり方を覚えていた。

 

「……カナヲ。今直ぐこの人達の肩を戻してくれっ。」

 

「ええっ~別に気にしなくても良いじゃない? こんな人達放っといて行こうよっ、炭治郎っ❤」

 

「駄目だっ!」

 

「っ!」

 

炭治郎の叱責に身体を竦めるカナヲ。そんなカナヲに対して炭治郎は優しく諭し始めた。

 

「カナヲ、これは幾ら何でもやり過ぎだよ。早く治してあげて。」

 

「……分かった。」

 

カナヲはしょぼくれた様子で三人組の男性に近付いて行く。カナヲが近付いて来る事に気付いた三人は怯えて逃げ出そうとした。

 

「ひっ!?……待って「五月蝿いっ! じっとしてないと本当に肩を使い物にならない様にするよっ?」……っ!」

 

カナヲの恫喝を聞いて咄嗟に黙り込む三人。カナヲはそれを無視してせっせと右肩を嵌めて元に戻す。

 

「ふんっ。」

 

不服そうにカナヲは鼻を鳴らすと、三人から離れて行く。すると今度は炭治郎が近付いて行った。

警戒する様に炭治郎を見る三人に対し、炭治郎は財布を取り出すと幾許かの金を手渡した。

 

『っ!?』

 

「炭治郎っ!?」

 

「……」

 

この炭治郎の行動にその場にいた全員が驚く。しかし炭治郎はそんな反応に気にも掛けず、幸次と呼ばれた男性の手を両手で握って話し掛けた。

 

「これは治療費です。一応、お医者様に診て貰って下さい。

貴方達の事情なんて知ってる訳が無い俺に、どうこう言う資格は無いかもしれませんが……今は辛くても、苦しくても、思い通りに望みが叶わなくても自分から正しい道を外れる様な真似はしないで下さい。

真面目に生きていたら何時かきっと、良い事が訪れますから……ねっ?」

 

『……っ。』

 

炭治郎はそう言い終わると、カナヲを連れて路地裏を去るために歩き出した。一方の三人組は呆然としながらそれを見送る。ある程度三人から離れると、カナヲが炭治郎に歩きながら質問をした。

 

「ねぇ炭治郎? どうしてお金なんて渡したりなんかしたの?」

 

「うん……あの人達から苛立ちと悲しみ、後は悔しいって匂いがしたから……きっと壁にぶち当たって乗り越えられなくて、鬱憤を晴らしたかったんだと思うんだ……まぁ俺の勝手な思い込みかもしれないけどね……。」

 

「……炭治郎ってば、やっぱり優しいね……わたし、炭治郎のそんなところが大好きっ❤」

 

カナヲは炭治郎の行動の理由を聞いて、愛おしそうに炭治郎の左腕に抱き着いた。炭治郎は苦笑しながら、カナヲを好きにさせて歩き続けた。

 

一方の三人組は炭治郎達が去ってから、幸次が起き上がって二人に話し掛ける。

 

「智也、勇樹。大丈夫か?」

 

「お、おう。」

 

「僕も何とか……っ。」

 

智也と勇樹も幸次に倣って起き上がり、三人で路地裏を出るべく歩き始めた。

暫く沈黙していた三人だったが、智也が不意に開口する。

 

「なぁっ。」

 

「うん?」

 

「何だい?」

 

幸次と勇樹に返答された智也は顔を俯かせて続けた。

 

「自分より年下の子供に絡んで返り討ちに遭った挙句、金を恵んで貰うなんて……最高にだせぇよなぁ。俺達。」

 

「……っ!」

 

「は、ははっ……言葉も無いや。」

 

智也の自虐に二人は耳が痛そうに同意する。すると幸次が開口した。

 

「あの子……手が傷だらけだった。」

 

「…っ……ああ、そうだったな。」

 

「どんな人生を歩めば、そんな手になるんだろうね……っ?」

 

幸次達は炭治郎の言葉に思わず反論しようとしたが、炭治郎の傷だらけの両手を見て絶句するあまり言葉を失ったのだ。そして黙ったまま炭治郎達を見送る事しか出来なかった。

再び三人の間を沈黙が包んだが、勇樹が沈黙を破る様に開口する。

 

「……とりあえず、"医術開業試験"の勉強、し直そうよ。まだ後期試験まで時間あるし、こんなところで腐ってないでさ?」

 

「……おう。」

 

「そうだな……っ。」

 

幸次と智也、勇樹の三人はそう言って路地裏を去って行った。この三人は後に医者として、炭治郎と再会する事になるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

東京府・銀座

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:昼

天気:曇り

 

 

炭治郎とカナヲは大通りに戻ると、路面電車に乗って銀座中を見て回っていた。そしてある程度すると、カナヲが途中で路面電車から降りて炭治郎と共に再び銀座を歩き始めた。

炭治郎をカナヲにこれから何処へ行くのか、手を繋ぎながら歩いていた。

 

「カナヲ。これから何処へ行くんだいっ?」

 

「うん……その前に炭治郎はその……お腹空いてる?……蝶屋敷で食べてからそんなに経ってないと思うけど……っ?」

 

「あ~~うん。実は俺、あの時あんまり食欲湧かなくて何時もより食べなかったろ? だから正直、お腹がペコペコで……。」

 

炭治郎は照れた様に自身のお腹を擦る。カナヲは炭治郎が空腹ではないかもしれないと心配していたのだが、炭治郎の様子を見て安堵した笑みを浮かべた。懸念が無くなって嬉しいのか、カナヲは笑顔を浮かべながら説明を始めた。

 

「これから行くお店は"煉瓦家"って言ってね。ハイカラな西洋料理の専門店なのっ! 恋柱様の行きつけのお店なんだって!」

 

「へぇ……恋柱……甘露寺さんだっけ? その人御用達のお店なんだ? 俺、西洋料理なんて食べた事ないなぁ。」

 

「私も初めてなのっ!……しのぶ姉さんが恋柱様とお話してたのを以前聞いて……どうせなら、炭治郎と一緒に食べてみたいなぁ……って思ったから。」

 

カナヲは頬を赤くしながら、照れた様子で炭治郎に言った。炭治郎はカナヲの心遣いに嬉しさで胸が一杯になる。

そうして歩いていると、カナヲが止まる。炭治郎がカナヲを不思議に思って顔を覗くと、目を見開いた驚愕の顔をしていた。

炭治郎は益々謎が深まったので、カナヲが見ている方向に視線を向ける。すると炭治郎はその理由を理解した。

 

「う~ん。どうしよう……せっかく来たのになぁ~。」

 

"煉瓦家"の前で苦悩していたのは、しのぶと同様に鬼殺隊が誇る柱の一人である恋柱・甘露寺蜜璃であった。

 

過去のある経緯から腰まである両端の三つ編みの黒髪から桃色の髪色に、先端が黄緑色になったと言う特異な経緯の持ち主である長身の美女だ。

 

純白の羽織を着ているが、隊服は胸元が大きく開いており、下半身はカナヲと同じ短洋袴(ミニスカート)だが下は黄緑色の長靴下(ニーソックス)を着用している。

標準的な隊服と比べて大きく肌が露出しており、通行人がちらちらと蜜璃を横目で見て通り過ぎていた。

 

「恋柱様っ!?」

 

カナヲが驚いてそう言うと、蜜璃が反応してカナヲの声の聞こえた方向を見る。カナヲと炭治郎を見つけると、嬉しそうに駆け寄って来た。

 

「あ~~っ! カナヲちゃんだぁっ! そっちは……炭治郎君だよね? お久しぶり! 改めまして、恋柱・甘露寺蜜璃ですっ!」

 

「は、はいっ! 改めまして、竈門炭治郎ですっ!」

 

炭治郎は顔を赤くしながら、蜜璃に頭を下げて挨拶をした。その際に蜜璃の豊満な乳房と開かれた胸元に一瞬だが視線を奪われ、慌てて目を反らした。

しかし、カナヲは炭治郎のその様子を見逃しはしなかった。青筋を立てムスッとしながら、横目で炭治郎をカナヲは睨み付ける。

 

「……っ。」

 

「え、えーと……そうだっ! 甘露寺さんは此処でどうしていたんですか? 何やらお困りのご様子でしたが……っ?」

 

カナヲから発せられる憤怒の匂いを嗅ぎ取った炭治郎は冷汗を流しつつ、蜜璃に質問をした。

すると蜜璃は乾いた笑みを浮かべながら、炭次郎の質問に答えた。

 

「実はね? 遅めのお昼ご飯を"煉瓦家"で食べようと思ったんだけど、手持ちのお金だけじゃ心許なくて……其処で諦めて帰るか、ちょっとだけ食べて帰るか悩んでいたのっ。」

 

蜜璃は自身の事情についてそう言い終えると、少しばかり恥ずかしそうに頬を赤くして顔を俯かせた。

 

「そうだったんですか……そうだっ!」

 

蜜璃が悩んでいた理由を知った炭次郎は、突如解決策となる妙案を思い付いたのか、大声を出した。

炭治郎は早速、自身が思い付いた妙案を蜜璃に提案し始める。

 

「甘露寺さんっ! 甘露寺さんさえ良かったら、お昼ご飯は俺達とご一緒しませんか? 丁度、俺とカナヲも"煉瓦家"(此処)で食べようと思ってたんですよ。これも何かの縁ですし、足りない分は俺が支払いますから。」

 

「た、炭治郎っ?」

 

「ええーっ!? 本当にっ!? 良いのっ!?」

 

炭治郎の提案に動揺を隠せず、カナヲは焦燥する。カナヲとは正反対に、蜜璃は炭治郎の提案に歓喜の表情を隠せず、されど半信半疑で炭治郎に質問した。炭治郎は蜜璃の質問に笑顔で答える。

 

「する気も無いなら、俺もこんな提案しませんよっ。銀座に来る時、幾ら必要か不安だったから所持金は全額持って来ているんです。遠慮せず沢山召し上がって下さい。」

 

「わーい!❤ 炭治郎君ありがとうーっ!❤❤」

 

「うぷっ!?」

 

「……っ!!」

 

蜜璃は胸をときめかせると、炭治郎に思わず抱き着いた。蜜璃の方が炭治郎より長身なためか、炭治郎は飛び込む様に蜜璃の胸元に埋まると、林檎の如く顔を赤面させた。

しかし、自分から離れようとはしない。厳密には、炭治郎が蜜璃の膂力に勝てなくて抵抗出来ないのだが。

カナヲは炭治郎と蜜璃のやり取りを見て、静かに青筋を立てて怒りを覚える。

 

「じゃあ早速っ! お店の中に入ろうよっ!!」

 

「か、甘露寺さんっ!」

 

興奮気味に蜜璃は炭治郎の腕を引っ張りながら、"煉瓦家"に入って行く。カナヲは炭治郎と蜜璃を見送る事しか出来なかった。

 

「……チッっ!!」

 

炭治郎との逢引(デート)を思わぬ形で妨害され台無しにされたカナヲは、激怒しながら二人の後に付いて行った。

 

 

 

 

 

 

「ん~~美味しいっ❤!!」

 

「「…………」」

 

"煉瓦家"に入って行った炭治郎達は店員の案内を受けて卓子(テーブル)に着席した。其処から蜜璃が品書き(メニュー)を手に取ると、怒涛の勢いで注文を始めた。

蜜璃の注文を受けて、"煉瓦家"の店員は次々と料理を運び始める。炭治郎達は知る由もないが、蜜璃が"煉瓦家"に入った瞬間、店長(オーナー)に連絡し、厨房に総力戦に入る様に号令が掛かって居た。

 

カレーライス(ライスカレー)トンカツ(ポークカツレツ)牛カツ(ビーフカツレツ)チキンライス(チッケンライス)オムライス(オムレツライス)牛肉煮込み(ビーフシチュー)ビーフステーキ(ビフテキ)ポークステーキ(トンテキ)、コロッケ、ハムエッグ、ポークソテー、ロールキャベツと言った炭治郎やカナヲが見た事も無い西洋料理が、次から次へと三人に運ばれて行った。

 

卓子(テーブル)から溢れ出そうな怒涛の料理群の前に、蜜璃は何の苦も無く次から次へと絶品の西洋料理を空にして行き、白皿の山が築かれて行った。そしてその白皿の山を店員が急いで片付けて行く。

炭治郎は蜜璃の食欲を始めて目の当たりにして、驚きを隠せない。また、その場にいる他の客も、蜜璃を見て驚きながら食事する手を止めていた。

すると蜜璃が手を付けない炭治郎とカナヲに気付いて食事を一時中断して話し掛けた。

 

「炭治郎君、カナヲちゃんも、どうしたの? これ、全部美味しいよ。」

 

「……」

 

「あ、はい……っ。」

――炭治郎……やっぱり恋柱様の食欲に驚いてるなぁ……初見じゃ誰でも驚くよね……っ。

 

カナヲはじっと炭治郎を見る。炭治郎も蜜璃の常人離れした大食漢振りに驚いているのだろうと思った。しかしカナヲの予想は半分合っていたのだが、残り半分は想像と外れていた。

 

「凄いですねっ! 甘露寺さんっ!!」

 

「「っ!?」」

 

炭治郎は眼を輝かせて蜜璃を称賛した。思わぬ反応に蜜璃とカナヲは逆に驚いた。蜜璃は炭治郎の反応に当惑しながら、少々安堵していた。

 

「えっと……引いてる訳じゃないの?」

 

「はいっ?……そんな訳無いじゃないですか。沢山食べられるって事はそれだけ体力があるって証拠だし、同時に元気な証です! むしろ尊敬しますっ!!」

 

「……っ!」

 

蜜璃の質問に、炭治郎は大声で否定し、称賛の理由を並べた。満面の笑みで純粋にそう言ってくれた炭治郎に、蜜璃は目を熱くした。

 

「そんな事言われたの、お父さんとお母さん……いや、師範以来かも……っ。」

 

「師範っ?」

 

「うんっ……私の師範はね、炎柱の煉獄杏寿郎さんでその人の継子だったのっ。」

 

「っ!!」

 

「……っ。」

 

蜜璃の言葉に、炭治郎は驚愕する。カナヲはしのぶからそれとなりに聞かされていたので、驚きは無い。そう言えば、と思ったくらいだ。すると店員が二名、炭治郎達の下へやって来る。

 

「お客様。次のお料理が来るまで、少しばかりお時間頂けますでしょうか? 出来ましたら直ぐにお持ちしますのでっ!」

 

「あ、うん……分かりました。」

 

「ありがとうございますっ! お皿は下げさせて頂きますっ。」

 

店員は「失礼しますっ!」と大声で言って会釈してから、山積みの皿を運んで行った。大声で店員がそう言ったため他の客の耳にも入り、視線を炭治郎達から外れて食事の手を止めていた手を動かし始めた。

 

「うん、そうだなっ……炭治郎君になら、別に話しても良いかなっ……っ。」

 

驚いたままの炭治郎を余所に、蜜璃は両手の小刀(ナイフ)肉叉(フォーク)卓子(テーブル)に一旦置くと、杏寿郎を始め、自身について語り始めた。カナヲは静かにその話に耳を傾ける。

 

生まれ付きの特異体質で普通の女性よりも背が高く、成人男性の十倍近い膂力と大食漢のせいで世間や他人から奇異の目で見られていたこと。

最初は黒髪だったが、髪色が変化してから更に奇異の目が更に強くなったこと。

これらが要因となってお見合いでは化け物扱いされて破談になったこと。

それが嫌になって全てを偽る様に生活し、人生に絶望していたこと。

鬼殺隊に入ってありのままの自分で生きられる様になり、救われたこと。

 

「……しのぶちゃんや炭治郎君の様に、鬼の存在のせいで、大切な家族を奪われて人生を壊された人達が沢山居るのは分かってる……でもね、私は鬼殺隊が存在していたから、今こうしてありのままの自分で生きていられるんだ……ごめんねっ。」

 

「……っ!?」

 

「……っ。」

 

炭治郎は蜜璃の唐突な謝罪の意味が一瞬分からず、動揺する。一方のカナヲは蜜璃の言葉の意味を痛い程、深く理解していた。

自身も鬼殺隊が存在していたから、栗花落カナヲはカナエとしのぶの二人と、胡蝶姉妹と出会えたのだ。

 

「もしも鬼が居なければ」あの二人は御両親と一緒に今も幸せに暮らしていただろう。しかし自分は最愛の姉二人に出会えただろうか? あの地獄に身を浸かり続けながら朽ち果てていたのだろうか? それとも花街で遊女として男に身を売りながら生きていただろうか? 「もしも」や「たられば」など何の意味も無い。しかし、その想像がカナヲを恐怖でブルっと身を強く震わせる。

 

そんなカナヲを、炭治郎は見逃さなかった。炭治郎はカナヲの口からその半生を直接、耳にしているのだ。

鬼殺隊に所属する人間は大きく二種類に分かれる。鬼に家族や恋人を殺されて鬼殺隊に入隊した者と、居場所を無くして鬼殺隊に拾われたか入隊した者だ。炭治郎やしのぶが前者ならば、蜜璃とカナヲは間違いなく後者だ。

炭治郎は一度、両眼を瞑って沈黙すると再び開眼して質問した。

 

「甘露寺さんに……それからカナヲに一つだけ、お聞きした事があります。」

 

「何っ? 炭治郎。」

 

「なぁに? 炭治郎君。」

 

「お二人は今、幸せですか?」

 

「「っ!!」」

 

蜜璃とカナヲは炭治郎の質問に驚く。反射的に二人は視線を合わせると、炭治郎の眼を真っ直ぐ見詰めた答えた。

 

「私は……鬼殺隊に出会えて、今とっても幸せだわ。」

 

「私も……姉さん達に拾われて、夢の中に居ると思うくらい……幸せっ。」

 

二人は正直に、自身の現状について断言した。それを聞いて、炭治郎は二人に微笑んだ。

 

「良かったです。カナヲも甘露寺さんも幸せで。」

 

「「……っ!」」

 

驚く二人に対して、炭治郎は微笑んだまま語り続ける。

 

「えっと、確か……"人間万事塞翁が馬"って故事があります。意味は簡単に言うと、吉事も凶事も何時反転するか分からないって意味なんですけど……俺の場合、家族を殺されて、禰豆子も鬼に変えられてしまって、この世で誰よりも不幸だと思った事もありました……でも鬼殺隊に出会えたお蔭で、普通に生きてたら絶対に出会えなかった人達と出会えて、俺は新しい幸せを手に入れる事が出来たんです。その人達の中には勿論、甘露寺さんもカナヲも含まれてます!」

 

「「……っ!!」」

 

「だからっ……だから、お二人も他人(ひと)に遠慮せず、もっともっと幸せになって下さい! もしその事で文句を言う奴なんていたら、俺が全力でそいつに頭突きしてやりますからっ!!」

 

「……っ、ありがとう……炭治郎。」

 

「ほんと……嬉しいわっ……でも頭突きはやめてあげてね、可哀想だから。」

 

カナヲは手巾(ハンカチ)で必死に両眼を拭きながら、炭治郎に礼を言った。蜜璃は嬉しさを隠せず、泣きながら炭治郎の言葉に苦笑する。

三人の間に沈黙が包み込むと、複数の店員が出来立ての料理を持って来て、卓子(テーブル)に並べ始めた。

 

「……料理も来た事だし、遠慮しないで二人も食べて食べてっ!!」

 

「……はいっ!」

 

「俺、こんなハイカラな料理食べるの初めてなんで楽しみですっ!」

 

まるで初めて食べるが如く、今度は三人で食事を始めた。楽しい時間を過ぎ去って行く。

 

 

 

 

 

 

「おい、君。この店は妖まで客として招くのかね?」

 

『……っ!』

 

毒の籠った声が"煉瓦家"の店内に響いた。店内中の人間が声の主に注目する。

其処にはハイカラな洋装を着た肥満男性が店員に話し掛けていた。

 

右眼には片眼鏡を付け、顔はちょび髭が特徴的だった。男性の隣には護衛と思われる付き人の男性が一人立っていた。

その男性は蜜璃を睨み付けると、フンと鼻を鳴らして続けた。

 

「大体、何なんだねその馬鹿げた髪色は? しかも女子ともあろう者がそんな牛や豚の様に貪り食うとは羞恥心と言うものを持ち合わせていないのかな? ああ、怪物に人間の様な常識など求める私の方が愚かと言うものか。全く、折角の料理を楽しみにしていたの言うのに全てが台無しだよ。どう責任を取ってくれるんだねっ?」

 

「あっ……っ。」

 

蜜璃は思わぬ罵倒を受けて、動揺を隠せない。顔中から汗を流している。過去の精神的外傷(トラウマ)を抉る様な言動を受けたせいか、目の焦点が定まっていない。

 

「巫山戯るなぁっ!!!」

 

『っ!!』

 

突然バァン! と言う音が鳴り響いた。そして続けて物が落ちて割れる音が鳴り響く。炭治郎が卓子(テーブル)を叩き割らん勢いで叩き、その衝撃で白皿の山が崩れて床に落ちたせいだった。

しかし炭治郎は憤怒の表情のまま、肥満男性に近付いて行く。すると付き人の男性が炭治郎の前を遮った。

 

「おい、旦那様にちがぁっ!!??」

 

付き人は炭治郎を止めようとしたが喋ってる途中で炭治郎に胸倉を掴まれ、そのまま頭突きを浴びせられた。付き人は額を割って血を流しながら気絶した。

炭治郎は今日は嫌な奴と多く出会う日だと思いながら、そのまま肥満男性に再び近付き、胸倉を掴んで宙に浮かせた。

 

「がぁっ!? こ、小僧っ!! 儂を誰だと……がぁっ!」

 

「知るかっ!! 甘露寺さんに謝れっ!!!」

 

炭治郎は激昂しながら肥満男性に謝罪を要求した。炭治郎の怒号は続いて行く。

 

「甘露寺さんは優しくて思いやりのある素晴らしい女性だっ! 人の一面だけを見てその人の全てを否定する様な恥ずかしい真似なんかするなっ!! 今直ぐ彼女に謝罪しないと許さないぞっ!!!」

 

「……っ!!」

 

「ふ、ふん。何故儂があんな女に謝罪などせねばならん? 小僧の方こそ今直ぐ土下座して儂に謝らねば後悔するぞっ?!」

 

炭治郎に胸倉を掴まれて謝罪を要求されても、肥満男性は余裕の笑みを零さない。炭治郎は男性から嘲笑の匂いを嗅ぎ取って、更に怒りが増大する。

 

「このっ……「それ以上はいけません!!」……っ!」

 

炭治郎は怒りのまま肥満男性を殴ろうとする。しかし、其処に初老の男性がやって来て炭治郎を止める。肥満男性は勝利を確信して笑みを浮かべていた。

 

「おお、店主(オーナー)。この小僧が儂に無礼を働いたんだ。今直ぐ追い出してくれ。」

 

「……ええ、今直ぐ出て行って頂けますか?……お客様がっ。」

 

「……っ!」

 

店主(オーナー)は退店を要求した。炭治郎にではなく、肥満男性にである。肥満男性は驚愕し、顔を真っ赤にして店主(オーナー)に抗議した。

 

「な、何故儂が追い出されねばならんっ!?」

 

「……お耳を拝借っ。」

 

店主(オーナー)は肥満男性の耳に小声で話し込むと、真っ赤だった顔が急激に青褪めて行く。炭治郎は肥満男性から後悔と恐怖の匂いを嗅ぎ取った。

肥満男性は店主(オーナー)を押し退ける勢いで炭治郎の前に出ると、その場で勢い良く土下座した。

 

『っ!?』

 

「ま、まさか産屋敷家の関係者の方々だったとは……存ぜぬ事とは言え、大変な無礼を致しまして申し訳ございませんでしたっ!!」

 

肥満男性は恥も外分もなく、頭を床に叩き付けて炭治郎に謝罪する。しかし、炭治郎の気は一切晴れはしない。

 

「俺にではなく、本人に謝るべきでしょう!! 良いから早くっ、甘露寺さんに謝って下さいっ!!!」

 

「は、ははっー!!」

 

炭治郎に言われて、肥満男性はドタドタと急いで蜜璃の下へ行き、炭治郎と同様に土下座して謝罪した。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:夕方

天気:曇り

 

「えへへっ。私達、得しちゃったね。炭治郎君、カナヲちゃん。」

 

「ええっ……まぁ。」

 

「そうですねっ。甘露寺さん。」

 

炭治郎と蜜璃、カナヲの三人は"煉瓦家"を後にして大通りを歩いていた。

 

あの後の出来事だが、蜜璃は肥満男性の謝罪を受け入れて水に流そうした。すると肥満男性は許してくれた事に落ち着きを取り戻して、お詫びと称して炭治郎達の食事代と割れた食器の弁償金を全て支払ってくれた。

 

どうやら、炭治郎達を通して産屋敷家と繋がりを作ろうとしたらしい。しつこいくらい、話し掛けて来た。

産屋敷家と直接関係しているのは精々、蜜璃くらいである。自分とカナヲは関係していないと知ったらどうなるのか、炭治郎は必死で笑うのを堪えていた。

 

炭治郎達はその後、小物店でお土産を買ったりしながら後藤隊士と待ち合わせの場所へと向かって行った。

少し歩くと、後藤隊士が車に乗ったまま、窓から手を振っていた。

 

「おーい。此処だぞ~。」

 

「後藤さん、お待たせしましたっ!!」

 

「あっこんにちわ。お疲れ様です。」

 

「あっはいっ! お、お疲れ様ですっ!」

 

後藤隊士は蜜璃に挨拶され、直ぐ様返礼する。遠目で見た時は動揺して落ち着かせるのに必死だった。

そんな後藤隊士に気にも掛けず、カナヲが後藤隊士に話し掛ける。

 

「後藤さんっ! 買っておいてくれたっ!?」

 

「おう。"近江屋"のバタークリームケーキ。確かに胡蝶様達とお前らの分、ちゃんと買っておいたぞ。」

 

「よしっ! ありがとう、後藤さんっ!」

 

カナヲは後藤隊士の買い物結果に満足して礼を言った。すると蜜璃が話に加わって来る。

 

「あっ~! "近江屋"(あそこ)のバタークリームケーキっ! 甘くて美味しいよね~っ!!」

 

「へ、へぇ。ですが……恋柱様の分はありませんよ?」

 

「えっ……あ~そうだよね……。」

 

蜜璃が後藤隊士の言葉に、落ち込むしかなかった。そんな蜜璃の様子が居た堪れなくて、炭治郎も話に加わる。

 

「後藤さん。そのばたーくりーむけーきでしたっけ? 俺の分はありますよね?」

 

「おうとも、勿論あるぞ。ついでにあの黄色いのと猪の分もな。」

 

「……甘露寺さん。俺達はこれから蝶屋敷に帰るんですけど、良かったらご一緒しませんか? 俺と善逸と伊之助の分のばたーくりーむけーき、食べて下さっても構いませんから。」

 

「ええーっ!? 本当にっ!? 良いのっ!?」

 

「はいっ!」

 

蜜璃のあまりの喜びようを見て、炭治郎は微笑ましく思いながら蜜璃に答える。すると後藤隊士が炭治郎に話し掛けた。

 

「おい、炭治郎。良いのかよ? そんな事言って。」

 

「良いんですよ。また何時の日か買って食べれば良いんですからっ。」

 

「……まぁ良いか。俺の分も有るんだが、恋柱様にやっといてくれ。」

 

「分かりましたっ! ありがとうございます!!」

 

後藤隊士の気遣いに感謝しながら、炭治郎は蜜璃とカナヲと共に車に乗り込む。そして車は銀座を後にした。

 

「炭治郎君。今日はありがとうね?」

 

「甘露寺さん。俺、何もやってませんよ?」

 

走っている車の車内で、炭治郎と蜜璃は後部座席で会話をしていた。カナヲは蜜璃に気を使って助手席に座っていた。

 

「ううん。"煉瓦家"では私のためにあんなに激しく怒ってくれたじゃないっ? 凄く嬉しかったわっ。」

 

「そんな……当然の事ですよ。」

 

「それでもよ。ありがとう❤ 炭治郎君❤」

 

「どういたしまして、ふふっ。」

 

炭治郎と蜜璃は車内談話に花を咲かせるが如く、盛り上がる。するとカナヲが助手席から参加して来た。

 

「炭治郎っ! また来ようねっ❤!!」

 

「うんっ! カナヲも今日は本当にありがとうっ!!」

 

「……ふふふっ。」

 

後藤隊士は嬉しそうに談話する三人を見て、炭治郎達が楽しい一時を過ごせたのだと思うと自身の事の様に嬉しくなって笑みが零れた。

 

炭治郎一行はそのまま走り続けて、一八時前には蝶屋敷に到着した。




お待たせ致しました! 炭カナデート編です。まぁ途中で思わぬ人物が追加しましたが。

作中に登場した店は全て実在する名店をモデルに名前を変えて登場してます。弐話の団子屋と一緒ですね。

今更ですが、年月や日付、天気とか追記しました。ちゃんとその時代を生きていると言う風にしたかったので。
鬼滅本誌は春夏秋冬が分からない鬼滅時空ですが(分かるのは鬼滅本誌一話が雪の降る季節だった事くらい)こちらでははっきりさせてます。

次は時系列に関しての説明です。

1912/7/14 竈門炭治郎 十五歳の誕生日

1912/8/1~8/7 最終選別

1912/8/10~11/15 沼鬼~那田蜘蛛山

1912/11/16~1913/2/28 蝶屋敷~無限列車

となってます。理由は手鬼が大正時代と知ったのは炭治郎に聞かされてから知ったので、年号が変わったばかりと解釈しました。

次回は炭カナ本番です。幼児退行(?)に関してある事が分かります。

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
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