※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

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※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ・タグ編集大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


緊急柱合会議編
第弐拾伍話 日輪は人外の紫蝶と合流す


東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十四日(金)

時間帯:早朝

天気:晴れ

 

 

『…………』

 

蝶屋敷の神崎アオイの部屋に五人もの人間が集まっていた。蝶屋敷の主である胡蝶しのぶを筆頭に、竈門炭治郎、甘露寺蜜璃、神崎アオイ、栗花落カナヲの五名だ。

 

全員、度合いに差はあれど赤面している。

 

事の発端は先ずしのぶに有る。しのぶは仮眠を取るためにカナヲの部屋を借りて就寝した。

 

カナヲの暴走によってしのぶの自室は未だ半壊状態なのだから、当然である。壊れた家具は撤去しただけで、とても安眠出来ない。

 

炭治郎に激しく抱かれて疲弊したしのぶは寝台(ベッド)に横になった瞬間、泥の様に眠りに就いた。しかし、四時を回って間も無く鎹烏が伝令にやって来たのだ。

緊急出陣命令かと飛び起きて身構えたしのぶだったが、その内容は驚くべきものだった。

 

件の鬼、珠世が蝶屋敷に護送されると言う連絡だった。それだけではない。蝶屋敷に一度案内したのち、指定した者達と共に産屋敷邸まで来る様にとの厳命だった。

 

密命を帯びたしのぶは早速着替えてから行動に移った。

先ずはすみとなほときよを起こして入院患者の朝食の仕込みを頼んだのだ。

 

次に竈門兄妹の自室に赴いて幸せそうに失神しているカナヲに苛立ちながら、しのぶ特製の気付け薬を嗅がせて無理やり叩き起こす。

天国から一転して地獄へ叩き落されたカナヲは完全に目を覚まし、しのぶを睨み付けた。

 

このしのぶ特製の気付け薬は嗅覚に特化した炭治郎が嗅げば、一瞬程度とはいえ悶絶して動けなくなる程に強力な物だ。

 

しのぶの開発する薬の効果は絶大なのだが、効率重視のためか味覚や嗅覚に配慮したものでは無い物が多く、それが特徴的でもあった。そのため鬼殺隊からは、非常に信頼されかつ恐れられている。

 

カナヲに睨み付けられたしのぶだったが、そんなものは微風程度にも気にせずカナヲの隊服を顔面に向かって叩き付けると、率先して竈門兄妹の部屋を掃除を始めた。

因みにこの時、しのぶは『紙眼』を全て回収しておいた。

 

師であるしのぶに逆らえる筈も無く、カナヲは早々に掃除を手伝う。精液と愛液でドロドロになった布団は、蝶屋敷の敷地内にある大型焼却炉で焼却処理する事となった。

これが竈門兄妹の部屋から寝台が撤去され、和風になった大きな理由である。寝台(ベッド)では乗れる人数に限りが有り、掃除も手間であった。

 

それが従来の布団ならば最悪、そのまま捨てて処分出来たのだ。

 

しのぶ達は本来はもっと物を大切にする性分である。

しかしそれも炭治郎と結ばれる前の、関係が少しばかり深まった段階から詰まらぬ事で貴重な時間を浪費する事を嫌う様になった。

 

明日どころか今日の命の保障すら無い現状、炭治郎と過ごす時間が彼女達にとって何ものにも変え難い至宝であったのだ。

 

しのぶは炭治郎とアオイが移動しているのを去り際に聞いているので、今度はアオイの部屋に向かう。

もしも自分ならば、緊急でも無いのに情交(セックス)の時間を邪魔されようものなら、その場で知らせに来た者を殺してしまう自信が有った。

それにアオイには負い目がある。そのせいか邪魔をするのも気が引けたのだが、今回は仕方が無い。

 

その結果としてアオイの部屋に入ったのだが、其処には顔を真っ赤にしている蜜璃と炭治郎、それから失神して寝台(ベッド)で寝かされているアオイの姿が在った。

しのぶとカナヲは何故蜜璃がアオイの部屋に居るのかと疑問に思い動揺したのだが、まずしのぶはアオイを叩き起こすために気付け薬を嗅がせて起床させた。

 

飛び起きたアオイは、周囲を見渡せば最愛の恋人とこの蝶屋敷に居る現主要女性陣が一斉に自室に居る事に驚いた。

そんな驚いたアオイを余所に、しのぶは何故蜜璃がアオイの部屋に居るのかとその理由を尋ねた。

 

質問を受けて動揺して狼狽する蜜璃に対し、炭治郎が仕方なく蜜璃がした事を説明する。

 

それを聞いたしのぶは能面の如く無表情になり、アオイは今一度失神するのではと心配になる程、一瞬にして顔を赤く沸騰した。

カナヲもまた赤面していたが、話の半分を理解していなかった。

 

しのぶは対『(カクシ)』に所属している前田まさお用の油とマッチを手に取ると、換気も兼ねて窓を開けてから効力を失った『紙眼』を燃やして焼失させた。

 

『紙眼』を焼失させた後、しのぶは全身を震わせながら羞恥心で顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……あの、しのぶ姉さん……この符について、私にも説明して欲しいんだけど……っ?」

 

「あっ! うんうんっ! 私もこの符が何なのか知りたいっ!」

 

「……えぇ……っと……。」

 

カナヲの質問に蜜璃も便乗する。自身への言及を避けたいと言う思惑もあるが、関連しているため時間稼ぎにもならない事に気付いていない。

このカナヲの質問に言い澱むしのぶに対し、炭治郎が助け舟を出す。炭治郎は『紙眼』を手に取って説明を始めた。

 

「カナヲ、甘露寺さん。この符は『紙眼』……略して『紙眼()』と言ってね? 愈史郎さんって言う、鬼の血鬼術で作られた代物なんだよ。」

 

「……えっ?」

 

「えっ?」

 

「えぇ――っ!?」

 

炭治郎の暴露に驚いた二人だったが、先ず最初に驚いたのはアオイだった。

得体が知れないとは思っていたが、まさか鬼の血鬼術で作られているとは思いも寄らなかったからだ。

 

炭治郎はアオイから発せられる、恐怖の匂いと身体の震えを察して直ぐに行動に出た。

 

「っ!……た、炭治郎さんっ?」

 

『っ!!』

 

アオイからは少々の困惑と多大な歓喜の混じった声が室内に響いた。炭治郎がアオイの下へ駆け寄って抱き締めたからだ。

 

「アオイさんっ。信じてほしい……愈史郎さんは鬼だけど、口が悪いだけで本当はとっても良い人なんだ……もしも……万が一の時は俺がアオイさんを守るから、落ち着いてくれないか。」

 

「は……はいっ❤」

 

アオイは炭治郎から抱擁されている喜びから、うっとりとしながら身を任せ、両眼を閉じながらそう返答した。

思わぬ役得を得たアオイだったが、これを黙してじっと傍観する者は居なかった。

 

「炭治郎っ! 私も怖いっ!!」

 

『っ!』

 

嘘の有無を調べる必要が無いぐらいに露骨過ぎる嘘を吐いて、カナヲが炭治郎に抱き着いた。

即座に妨害されたアオイは炭治郎に身を任せたままカナヲを睨み付け、カナヲもまたアオイを睨み付ける。

 

「え、えーと……じゃ、じゃあ私も……。」

 

この流れに何故か便乗して蜜璃が炭治郎に接近しようと試みる。

 

 

 

バァン!

 

 

 

『っ!?』

 

その瞬間、室内に何かが弾けた様な大音が響いた。それはしのぶが壁を固く握りしめた拳で強く叩いたせいで鳴った大音だった。

 

「……話を、戻しましょうか……?」

 

『……はいっ。』

 

満面の笑みで青筋を立てるしのぶを前に、炭治郎達一同はそう言って従うのがやっとだった。

「炭治郎君は私の隣に戻りなさい。」と言うしのぶの言葉を切っ掛けに、再び室内は落ち着きを取り戻した。

 

アオイとカナヲは炭治郎から引き剥がされたのを不服に思ったが、その思いは内心に留めて真剣に話に耳を傾けた。

これから鬼に関連する話を聞くのだ。生半可な気持ちで聞く事は出来ない。

しのぶは皆の顔が引き締まったのを見て、満足そうに頷いてから事の真相を話し始めた。

 

「では話しましょうか……これから私達と共闘する事になるであろう鬼達の話をっ。」

 

その言葉を口火にしのぶは静かに語り始めた。

 

しのぶは其処から、自身が炭治郎に薬師寺ひさの屋敷で聞いた珠世と愈史郎に関する説明を、何点か加えてアオイ達に説明し始めた。

蜜璃は思わぬ存在の話に、真剣な表情でしのぶの話に耳を傾ける。

 

その説明の過程で、しのぶは自身に『紙眼』を貼って姿を隠して実演してみると、カナヲは出目金の如く両眼を見開かせて驚いた。

 

『紙眼』に関しては、途中で蜜璃が見つけた新たな操作方法を教えて貰い、大いに話題が盛り上がったが。

しかし、その話も途中で情交の時の話になった途端に空気が変わる。

 

「……これを使って姉さんもアオイも覗き見していたなんて……。」

 

カナヲは顔を赤くしてジト目で責める様に二人を睨み付けた。アオイは申し訳なさそうに顔を俯かせたが、しのぶは開き直っているのかしれっとしていた。

しのぶはカナヲの視線を流すと、蜜璃に話し掛けた。

 

「私はカナヲ以上に、甘露寺さんが『紙眼()』を使いこなすと言う想定外に驚きを隠せないのですが……どうして、額に貼ってみようという発想に至れたんですかっ?」

 

「あ、あははははははっ。」

 

今度はしのぶがジト目で責める様に蜜璃を睨み付けると、蜜璃は誤魔化す様に乾いた笑い声を上げた。尤も、しのぶは蜜璃を責めるつもりなど毛頭無い。

自身が独占欲を拗らせてアオイを眠らせる様な真似をしなければ、そもそもあんな事態にはなっていないのだ。しのぶは心底自身の軽率な行動を後悔した。

それはアオイも分かっており、顔を上げたアオイはしのぶを静かに睨み付けた。ギスギスとし始めた雰囲気を察して、炭治郎が声を上げる。

 

「ま、まぁもう過ぎてしまった事を言っても仕方無いですよ……それにしても、どうしてしのぶさんは甘露寺さん達に珠世さん達のお話をする気になったんですか?」

 

「甘露寺さんなら私以上に珠世さんへの理解が有ると思いましてね……それからその珠世さん達と合流することが決まりました。今現在、『隠』達に連れられてこの蝶屋敷に向かっているんです。その後に産屋敷邸までご案内する様に、御館様直々に指令が来たんですよ。」

 

『っ!?』

 

しのぶの発言に、カナヲ達は驚愕した。炭治郎もだ。まさか其処まで話が急展開を迎えていたとは思わなかったからだ。

驚愕する炭治郎達を余所に、しのぶは話の続きをする。

 

「御館様は緊急柱合会議を開いて珠世さん達を柱全員に紹介する事になるでしょう。珠世さんと愈史郎さんの護衛に私、炭治郎君、善逸君、伊之助君、禰豆子さん、カナヲ、アオイ、そして甘露寺さんの八名が選ばれました。」

 

『っ!?』

 

続けて話したしのぶの発言に、炭治郎達は更に驚愕した。当事者である炭治郎はともかく、無関係な善逸達まで参加する事になるとは思わなかったからだ。

この決定に最も動揺し、抗議したのはアオイだった。

 

「お待ち下さいっ! しのぶ様っ!……わ、私はもう日輪刀(かたな)は……。」

 

「アオイ。これは御館様の決定なの。大人しく従って頂戴。」

 

「っ……。」

 

アオイを黙らせたしのぶは、全員を一見して見渡した後に再び話し始める。

 

「もう間も無く、珠世さん達が蝶屋敷に到着する筈です……この説明をするために善逸君と伊之助君を竈門兄妹部屋に集めましょう。アオイ、カナヲ。貴女達はすみ達を呼んで来てくれる? 禰豆子さんと同様、この珠世さん達も蝶屋敷(此処)で暮らす予定だからっ、紹介しておきたいの。」

 

「はいっ。」

 

「分かりましたっ。」

 

 

 

♦︎

 

 

 

蜜璃は禰豆子を、しのぶは善逸と伊之助を、アオイとカナヲはすみときよとなほを呼び集める為に一度その場を解散した。炭治郎は隊服に着替えるので先に自室へ戻る。

善逸達はまだ日が昇らない早朝に叩き起こされて悪態を吐いていたが、しのぶが殺気をぶつけた途端に静かになった。

 

しのぶ達が最初に到着すると、次に蜜璃も禰豆子を連れて入室して来た。蜜璃はあの扇情的な隊服を身に着けている。

善逸が早速、禰豆子と蜜璃にすり寄ったが炭治郎に因って引き剥がされた。

最後にカナヲがすみ達を連れて入室する。しのぶはやっと揃ったと思ったが、アオイが居ない事に気付いてカナヲに尋ねた。

 

「カナヲ。アオイはどうしたのかしら?」

 

「朝食の仕込みがあるからと言って厨房の方に……。」

 

「そう、まぁ良いでしょう。」

 

アオイ不在の理由を聞いて納得したしのぶはそのまま、珠世達の件について善逸達に説明を始めた。

その話を聞いて炭治郎とカナヲと蜜璃を除く全員が驚愕し、『紙眼』の性能の実演時は大いに感嘆した。

 

善逸と伊之助が特に騒がしかったが、しのぶが再び黙らせた。伊之助は『紙眼』を執拗に求めたが、しのぶの殺気を浴びて身を縮こませた。

懲りない伊之助に一同が呆れていると、アオイが室内に入って来た。

 

「失礼します。遅くなりました。」

 

「アオイ、朝食の仕込みはもう良いの?」

 

「はい。必要な分は大方終わりました。昨夜の内に済ませていたのもありますし幸い、蝶屋敷に残っている患者もそう多くは無いので。」

 

「流石はアオイね。」

 

多くは無いとは言うものの、決してその人数は少なくは無かった筈だ。

しのぶはアオイの手際の良さを称賛すると、アオイは「恐縮です。」と頭を軽く下げて炭治郎の隣に移動した。

すると善逸が気になった事があるのか、炭治郎に質問をする。

 

「なぁ、炭治郎。しのぶさんが言ってる珠世さんって鬼はさ……もしかして、美人か?」

 

「あーうん。そ「そうですよ。」……っ。」

 

「……っ!?」

 

「お、おい。しのぶ?」

 

「姉さんっ?」

 

『しのぶ様っ?』

 

「しのぶちゃんっ?」

 

炭治郎が善逸の質問に答えようとすると、しのぶが割り込む様にその質問に答えた。

その場にいる全員がしのぶに注目する。しのぶの発言が気になったと言うのもあるが、最も気になったのはしのぶの纏う空気だ。

 

しのぶの声色には怒りが混じっていた。青筋もしっかり立っている。炭治郎は嗅覚で、善逸は聴覚でそれを察して閉口した。

 

「私も今日初めてお会いするので知りませんが、炭治郎君が頬を赤く染めてものすっっごく嬉しそうに珠世さんの事を話していたのをよ~く覚えていますよ。『とっても綺麗な美人さん。』なんですよねぇ。炭治郎君?」

 

「えっと、はい。」

 

『……』

 

しのぶが言った内容に炭治郎が同意すると、しのぶの怒りが増大した。また、アオイとカナヲのこめかみもピクピク動き出し、なほ達もムスッとした顔になった。

善逸は両眼を血走らせて睨み付けていた。

 

「『綺麗なだけじゃなくて、頭も良くて様々な知識、特に医学知識の造詣(ぞうけい)が深いんです。

どんな状況であっても取り乱さない冷静沈着な女傑でもあります。

でもその本質は優しくて穏やかな人格者と言う、絵に描いたような大人の女性。珠世さんはそんな尊敬に値する、素晴らしい女性です。』……そうですよねぇ、炭治郎君。」

 

「は、はい。」

 

薬師寺ひさ邸で自身がしのぶに行った説明をしのぶが一語一句間違えずに言い放った事に少々怖気が走ったが、何とか声色に恐怖の色を交える事無く肯定する。

 

『……』

 

するとしのぶの怒りの匂いが強くなった。それを感じ取った炭治郎はビクッと身体を震わせた。

同時にアオイとカナヲの額にも青筋が浮かび、きよ達も不服そうに頬を膨らませた。

善逸に至っては竈門兄妹が最初の任務で戦った沼鬼を彷彿とさせる程に歯を削る勢いで歯軋りしていた。

 

この状況に炭治郎だけでなく、蜜璃も困惑して様子を見守った。するとカナヲが最初に動いた。

 

「姉さん。要は敵がノコノコ蝶屋敷にやって来るんですね……何も考えず斬って良いよね?」

 

「待ってくれっ、カナヲっ! 珠世さん達は敵なんかじゃ、あいだだだだだっ!?」

 

カナヲの殺意の籠った発言に炭治郎は慌てて止めに入るが、善逸が炭治郎の頭に噛み付いたため失敗に終わる。

眼を血走らせた善逸が憎悪のたっぷりと籠った恨み言を炭治郎に吐き始める。

 

「炭治郎……どうしてお前んところにばっかり良い女が集まって来るんだよぉっ! 自分だけイチャイチャイチャイチャイチャイチャしやがって!! お前変われ頼む変わってお願い変わって下さい!!!」

 

「痛いっ! 痛いって! 善逸っ!! 頼むから離してくれっ!!」

 

炭治郎に噛付亀(カミツキガメ)の如くしがみ付き噛み付いて離れ様としない善逸を中心に、現場の混沌具合が加速する。蜜璃は更に困惑し、アオイは溜息を吐いた。

 

「あ、あわわわわわ。ア。アオイちゃんどうしようっ!?」

 

「はぁ~~……。」

 

「……善逸君。今直ぐ炭治郎君から離れないと新薬の実験体にしますよ?」

 

「すみませんでしたっ!!」

 

善逸は電光石火の如き速さで炭治郎から離れて正座した。それを見てしのぶは次に荒ぶるカナヲに声を掛ける。

 

「カナヲ。これから協力関係を築く相手を斬るなんて駄目に決まっているでしょう?……第一、貴女の新しい日輪刀はまだ届いていないし……それからこちらに大義名分が無い内は駄目よ? 良いわね?」

 

「はいっ! 姉さん。」

 

――言ってる内容が物騒過ぎるっ!!

 

しのぶ達の会話を聞いて炭治郎は静かに戦慄し、いざと言う時は自身が身を挺して珠世達を守ろうと決意した。

するとカナヲが炭治郎に声を掛ける。

 

「女と聞いて思い出したんだけど……炭治郎に聞きたい事があるの。」

 

「何だいっ? カナヲ。」

 

カナヲの言う内容が理解出来ず、炭治郎はカナヲの発言の続きを待った。

必然的に全員から注目を集めたカナヲは気にせず炭治郎を真っ直ぐ見詰めて尋ねた。

 

「昨日、浅草の小物店とかお土産を買えるお店でね……炭治郎は六つの髪飾りを買ってたんだけど、その事で聞きたいの。」

 

「……どうして、その事が知りたいの?」

 

炭治郎は嫌な予感をしつつ、されど表面には出さずにカナヲに尋ねた。するとカナヲの薄紫色の瞳がスッと澱んだ様に見えた。

 

「最初は私達に買ってくれたと思ったんだけど、恋柱様も含めて、私達にくれたのは花柄模様の描かれた手鏡だったじゃない?……六つの髪飾りの内の一つは今、禰豆子ちゃんが付けてるでしょう?」

 

そう言うと、全員の視線が禰豆子に向かう。確かに禰豆子の豊かな長髪には桃色の貝殻の髪飾りが付いてあった。

 

「それでね……残りの五つの髪飾りって、誰のなの?……教えてくれるよね? 炭治郎っ?」

 

「あの……えっと……それは……。」

 

『……』

 

言い淀む炭治郎に、しのぶ達の視線は鋭くなった。数が合わないのだから、絶対に蝶屋敷の面々への贈り物ではない。そうなると必然的に、別の誰かへの贈り物になってしまうと言う事だ。

 

「お、おい炭三郎っ。隠してねぇで吐けってっ!」

 

「本当に洒落になんないからさっ! 買い忘れたんだろっ? そうだろそうだと言ってくれよ炭治郎っ!?」

 

しのぶ達の憤怒を音と肌で感じた善逸と伊之助は、焦燥感を露わにして炭治郎に問い詰める。

善逸も当初は先程と同様、しのぶ達側について炭治郎を問い詰めようとしたのだが、しのぶ達の憤怒の音を聞いて炭治郎の説得に回ったのだ。

 

しかしそう説得されても、炭治郎は頭を抱えるしかなかった。何故なら何も隠していないし、この五つと言う数で間違いないからだ。

これ以上言う事は無く、また嘘を吐いても直ぐにバレるために言うだけ無駄だった。

 

「……炭治郎君、その髪飾りは今何処にあるのかしらぁ?」

 

「……えっ?」

 

青筋を立てて静かに憤るしのぶに、炭治郎は困惑する。その様子を見てアオイ達の視線も鋭くなった。

 

「皆っ! 探して頂戴っ!!」

 

『はいっ!』

 

しのぶの号令で家宅捜索が始まろうとしていた。一斉に動き出す一同を前に、炭治郎が慌てた様子で答えた。

 

「ま、待って下さいっ! もう髪飾りは手紙と一緒に鎹烏で昨夜のうちに送って……あっ。」

 

「……へぇ。」

 

「ほう……。」

 

「ふ~ん。」

 

炭治郎は咄嗟に口に手を当てて押さえるが、一度吐いた言葉を無かった事には出来ない。

伊之助と蜜璃を除く面々が半眼で炭治郎を睨み付ける。

 

伊之助は無関心気味でポカンと、蜜璃は何故か尊敬する様にキラキラとした眼で炭治郎を見詰めていた。

あまりの居心地の悪さに、炭治郎は誤魔化す様に頭を掻くしか出来なかった。

 

「そうですか……で、何処のどなたに送ったんですかねぇ……?」

 

しのぶは苛立ちながら、炭治郎に質問をする。対して、炭治郎は冷や汗を掻きながらも毅然と答える。

 

「すみません。手紙のお相手については話せません。」

 

「……だったら直接、手紙を見て調べます!」

 

「うんっ! 炭治郎だったら手紙をきちんと保管しているだろうしねっ!」

 

文通相手について話す事を炭治郎が拒否すると、苛立ったアオイとカナヲが再び家宅捜索しようと室内にある箪笥に近付こうとした。

 

「ちょっ!? アオイさんっ! カナヲっ!!」

 

「「きゃっ!?」」

 

「……っ。」

 

炭治郎は慌てて二人を止めるために両手を腰に回して抱き寄せる様に引き留める。すると二人は小さく悲鳴を上げて、炭治郎の胸元に手を置いた。

 

アオイもカナヲも炭治郎の思わぬ行動に頬を赤く染めて笑みを浮かべ、逆にしのぶの額の青筋は濃くなっていった。

 

「このっ!……「カァ―――――!! カァ――――!!」……っ。」

 

しのぶがアオイ達の行動に激昂して飛び掛かろうとした瞬間、鎹烏の大きな鳴き声が蝶屋敷の外から聞こえて来た。

すると間も無くして喚起のために開けていた窓から一羽の鎹烏が室内に入って来た。

 

「胡蝶シノブッ! 間モ無ク"例ノ客人"ヲ『隠』達ガ連レテ来ル。直グニ出迎エル様ニッ!! 繰リ返スッ! 胡蝶シノブッ! 間モ無ク"例ノ客人"ヲ『隠』達ガ連レテ来ル。直グニ出迎エル様ニッ!!」

 

室内に着地した鎹烏はしのぶの方を見て、そう告げた。するとしのぶは苛立ちを隠す事無く舌打ちした。

 

「ちっ……ちょっと迎えに行って来ます。この一件は後で必ず追及しますからね……それから私が居ない間にお痛などはしないように。」

 

「は、はい。」

 

「はーい❤」

 

「はい、分かりました。」

 

アオイとカナヲをしのぶが一睨みして警告してから珠世達を玄関で出迎える為に退室した。

 

「「……ちゅっ!❤」」

 

『っ!?』

 

しかし、しのぶが去った後にアオイもカナヲも抱き着いている炭治郎の頬にほぼ同じ時期(タイミング)口付け(キス)をした。

二人の積極的過ぎる行動に、室内に残っていた周囲は仰天する。

 

「っ!……ふ、二人共っ!? しのぶさんがお痛はするなって……。」

 

「そんなの知らなーい❤」

 

「炭治郎さん、前に言いましたよね?……私、慎ましく自重なんてしないって。」

 

炭治郎の注意も何処吹く風と言わんばかりに、最愛の恋人である炭治郎に積極的に接近(アプローチ)するアオイとカナヲ。

これには注意した炭治郎も、嬉しく思って口元を緩ませてしまう。

 

『……』

 

「むぅ~~っ。」

 

「シィイイイイイイイィィィィィィィィっ!」

 

いちゃつく三人に、すみときよとなほは羨望の念を抱きながら涙目で様子を見る。

禰豆子も唸り声を上げながら嫉妬心を隠さず睨み付け、それを蜜璃が頭を撫でつつ宥める。

そして最後に善逸が雷の呼吸を吐きながら殺気立つ。これには炭治郎も焦燥感を隠せない。

冷静でいたのは蜜璃と伊之助だけだった。

 

「ちょ……ちょっと俺も珠世さんを出迎えて来る!!」

 

居た堪れなくなった炭治郎が適当な理由として、そう言って慌てて退室しようとした。

しかし、善逸が高速移動して炭治郎の退路を断つ。その両手には自身の日輪刀が握られていた。

 

「そんな見え透いた理由で逃がす訳無いだろうがぁ! 不肖、我妻善逸っ! この世のモテない男性を代表して!! お前を成敗してやるうぅぅぅぅぅぅっ!!!」

 

「ちっ!……伊之助さんっ! 善逸さんを押さえてくれたら今度天ぷらの大盛りを用意してあげますよっ!!」

 

「本当かアオイっ!!」

 

――伊之助……動物より動物(けだもの)してる……っ。

 

アオイは咄嗟に伊之助を天ぷらを餌に焚き付けると、善逸に突進して吹き飛ばし取り押さえた。

伊之助の反応速度とその理由に、カナヲは呆れ果てていた。

 

「善逸っ!……ごめんっ! 伊之助っ! そのまま善逸を押さえててくれっ!!」

 

炭治郎は伊之助が善逸を押さえ込んでいる内に、部屋を退室するとアオイとカナヲも炭治郎の後を付いて行った。

 

「どけぇ伊之助!! 俺は世のモテない男性達に変わってあの女ったらしに制裁を加えないといけないんだあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「うるせぇぞこの弱味噌っ! 俺様の天ぷら大盛りのためにも大人しくしてろ紋逸っ!!」

 

伊之助に取り押さえられた善逸は暴れて自由の身になろうと試みるが、伊之助もまた天ぷらの大盛り欲しさに全力で善逸を押さえ込む。

 

「ねぇすみちゃん、きよちゃん。珠世さんってどんな方だと思う?」

 

「炭治郎さんと禰豆子さんのためにお力を貸して下さるお方よ。きっと良い方だわ。」

 

「そうだよなほちゃんっ! それにとってもお美しい方らしいし……っ。」

 

『……はぁ。』

 

きよの言葉に、三人は溜め息をついた。子供ながらも炭治郎に静かに想いを寄せる三人にとって、やはり美女が炭治郎と接点があるのは心苦しい事だった。

 

「賑やかだなぁ……ねぇ禰豆子ちゃんっ。珠世さんてどんな人なのかしらね? 私、お会いするのがとっても楽しみだわっ!!」

 

「ん~~っ♪」

 

一方の蜜璃と禰豆子は、珠世の到着を楽しみにしながら二人して遊んでいた。この二人の間にのみ、平穏と平和の空気が流れていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ご丁寧にどうも。私が珠世です。こちらは助手の愈史郎になります。」

 

「……」

 

玄関でしのぶの一礼を受けた珠世と愈史郎は、直ぐ様返礼として頭を下げてしのぶに挨拶をする。

竹製の口枷を咥えた男性に肩を貸す女性も頭を下げた。

既に護衛役の村田隊士と『隠』の隊士達はしのぶを見た瞬間に頭を下げていた。

 

双方ともに互いの礼を終えた後、しのぶは珠代の整った顔を見て思う。

 

――綺麗な顔をしている……それに隣の鬼は殺気丸出しなのに対して、敵地とも言って過言じゃないこの蝶屋敷に身を置いても平然としている。

気に入らないけれど、炭治郎君が見惚れて尊敬するだけの事はあるわね。

 

「立ち話も何ですから、部屋まで案内させて頂きます。炭治郎君も禰豆子さんも、珠世さんとお会い出来るのを楽しみにしていますよ。」

 

「そうですか、私も炭治郎さん達と再会するのが楽しみです。」

 

そう言って玄関から珠世達が上がって廊下を歩き始めると、前方から足音が聞こえて来た。

 

「……珠世さんっ!」

 

しのぶ達の前に現れたのは炭治郎だった。その直ぐ後ろにアオイとカナヲも付いて来ている。

 

「まぁ……おはよう。お久しぶりね、炭治郎さん。」

 

「はいっ! おはようございます! お久しぶりですっ! 愈史郎さんもお久しぶりにお会い出来て嬉しいですっ!」

 

『……』

 

炭治郎と珠世が挨拶して再会の喜びを露わにしている中、挨拶された愈史郎は返答せず沈黙を守る。

また、周囲も黙ったまま二人を見ていた。するとアオイとカナヲが炭治郎の前に出る。

 

「……初めまして。勿体無くもこの蝶屋敷をしのぶ様より任されている、神崎アオイと申します。」

 

「……蟲柱・胡蝶しのぶの継子である栗花落カナヲです。初めまして。」

 

そう言って二人で珠世達に一礼する。その声色から警戒心が含まれている事に気付いた愈史郎は青筋を立てて睨み、珠世は愈史郎を宥めつつ苦笑しながら返礼した。

 

「初めまして。アオイさん、カナヲさん。珠世と言います。こちらが愈史郎です。私の助手兼護衛を務めてくれています。」

 

尤も、その警戒心が嫉妬や炭治郎への恋愛感情から来るものであるとは、流石の珠世も想像が付かなかった。

しのぶはそんなアオイ達の挨拶を無視して、炭治郎に質問する。

 

「炭治郎君、どうしてこちらに?」

 

「あーえっと……はいっ、珠世さんに早く会いたくて来ちゃいました。」

 

返答に困った炭治郎は、咄嗟に嘘だが本当でもある思い付きの理由を言ってその場を切り抜ける。

 

『っ!』

 

「まぁ……っ。」

 

炭治郎の思わぬ発言に、珠世は困った様な、されど嬉しい様な顔をして笑みを浮かべた。

良く見ると頬も薄っすらと赤くなっている。

 

『……』

 

その珠世の反応が、周囲に化学反応を引き起こした。

しのぶとアオイ、カナヲに愈史郎が青筋を立てて苛立ちを心中に抱える。

 

一方の村田隊士と『隠』達は半眼で炭治郎を見る。そしてこう思った。

「噂も存外間違っていないかもしれない。」と。

 

「さぁ皆さんっ! 部屋まで案内しますよっ! 急がないとそろそろ日が差してしまいます。どうぞ付いて来て下さいっ!」

 

炭治郎は不穏な空気を匂いで察すると、そう言って強引にその場を切り抜ける事にした。

 

 

 

♦︎

 

 

 

竈門兄妹の自室に帰還した炭治郎達は、早速室内に待機していた蜜璃達に珠世達の紹介を始めた。

しかし、たかだか自己紹介で一悶着起こしたのは何時も通り、善逸と伊之助であった。

 

「美しいお姉さんっ! 俺と結婚して下さいっ!!」

 

「……ふんっ!」

 

「げほぉっ!!」

 

光速で珠世の両手を掴んでそう告白した瞬間、激昂した愈史郎に鳩尾へ一撃を喰らい気絶した。

 

「うちの善逸がすみません。」

 

「全くだっ。」

 

気絶した善逸を抱えながら、炭治郎は愈史郎に謝罪した。此処で初めて愈史郎が口を開いた。

 

「お前が炭五郎が言っていた珠世だなっ! 山の王、嘴平伊之助様だっ! 俺と勝負しろっ!」

 

「……ふんっ!」

 

「げほぉっ!!」

 

間を置く事無く伊之助が珠世に向かって指を指しながらそう言い放った瞬間、激昂した愈史郎に鳩尾へ一撃を喰らい気絶した。

 

「うちの伊之助がすみません。」

 

「全くだっ。」

 

気絶した伊之助を善逸の隣に並べてから、炭治郎は愈史郎に再び謝罪した。

 

「はぁ~~。」

 

しのぶは溜め息を吐いて気絶した善逸と伊之助に気付け薬を嗅がせて叩き起こす。

 

「あ――――っ!!!」

 

気付け薬を嗅がされた二人は、悶絶して絶叫しながら室内を転げ回った。炭治郎も咄嗟に鼻を押さえながら、二人に呆れた視線を送る。

珠世と愈史郎の紹介でそんな騒ぎも起きたが、ある意味先の二人以上に注目を集める者達が出て来た。

 

禰豆子が着用している物と同様の竹製の口枷を着けた鬼に寄り添う様に一人の美女が出て来た。

 

「……初めまして。草薙要の家内、草薙綾と申します。」

 

綾と名乗った美女は水玉模様の着物を着ており、髪を後頭部辺りに団子状に結んでいた。

深く頭を下げて一礼すると、綾は炭治郎の前に出た。

 

「っ?……っ!?」

 

『っ!?』

 

炭治郎を筆頭にその場にいる全員が驚いた。何故なら、綾が勢い良く畳に手を置くと、そのまま炭治郎に土下座したからだ。

綾は頭を伏せたまま、炭治郎に向かって口を開いた。

 

「竈門炭治郎様っ! 夫を殺さず命を助けて頂き、本当にありがとうございましたっ!!」

 

「……っ……綾さんっ。俺はお礼を言われる様な資格はありません。むしろ俺が貴方達に謝らなければならない……っ。」

 

炭治郎は一瞬悔しそうに顔を歪めると、綾と同様に今度は炭治郎が綾に向かって土下座した。

 

「俺が鬼舞辻無惨を相手に不用意な行動を取ったばかりに、お二人を巻き込んでしまいました。この罪の必ず、全力で償わせて頂きます。本当に、すみませんでした。」

 

『っ!』

 

「……」

 

綾は頭を上げると、炭治郎にも姿勢を戻して欲しいと頼んだ。綾に促され、炭治郎は土下座を止めて綾に視線を向ける。

 

「珠世様は仰ってました。鬼になった時点で、鬼狩り様に討伐される対象なのだと。あの場にいたのが炭治郎様でなければ、夫は生きてはいなかったと……私、嬉しいんです。夫を未だに人間(ひと)として扱ってくれる炭治郎様が……だから……ありがとうございましたっ!」

 

「……っ。」

 

綾からお礼の言葉に、炭治郎は感極まって胸が熱くなる。不可抗力とは言え、草薙夫婦を巻き込んでしまった事が未だ炭治郎の心中に罪悪感として残っていたのだ。

罵倒される事も覚悟していた炭治郎だったが、こうも感謝の気持ちを伝えられるとは思っていなかった。

 

「炭治郎君。誇って良いんですよ。」

 

「しのぶさん。」

 

両眼を潤ませる炭治郎に、しのぶが声を掛けた。全員の注目がしのぶに集まる。

 

「普通の鬼殺隊の剣士なら……いや、たとえ柱であったとしても"人殺しになる前に早く殺そう"とは考えても、"人殺しをしない様に助けなければ"なんて絶対に思いません。炭治郎君は凄い人です。尊敬します。」

 

しのぶは炭治郎にそう言って浅草での英断を称えた。この言葉の裏にはしのぶの自嘲も含まれていた。

もし自身なら真っ先に殺していた。いや、鬼にも優しかった死んだ姉のカナエでも炭治郎と同様の英断は下せなかったと思った。

そう自嘲するしのぶに、綾が話し掛けた。

 

「胡蝶しのぶ様。御迷惑をお掛け致しますが、夫共々よろしくお願い致します。」

 

「迷惑だなんてとんでもない。御二人の実家だと思って気楽に寛いで下さいね。」

 

「……では一つだけ、お願いがあります。」

 

「何でしょうか?」

 

綾の言葉に、しのぶは首を傾げて綾が何を続けて言うか待った。

 

「私は夫共々、正式な免許を持っている医者なのです。良ければ、しのぶ様の治療のお手伝いをさせて頂けないでしょうか?」

 

『っ!?』

 

「えぇ――――っ!! そうなのっ!?」

 

蜜璃が草薙夫婦の思わぬ正体に、驚いた様に尋ねた。すると綾が静かに笑みを浮かべて答える。

 

「はい。新宿にある医院で勤めておりました。」

 

「……んっ? でも新宿の医院を働いていたのに、どうして浅草の方に……?」

 

善逸が疑問に思ってそう呟いた。すると綾の顔が悲しみに歪む。綾は嗚咽を漏らしながらその理由に答えた。

 

「ひっく……漸く医院の方が落ち着いたから、夫が私を遅めの新婚旅行に連れて行きたいと休みを取って浅草へ来たんです……それが予定外の急患の治療が終わって夜に浅草に着いた途端にあんな事になってしまって……うぅっ……っ。」

 

――うわぁっ……。

 

思わぬ地雷を踏んだと、その場に居る全員が絶句して閉口する。新婚旅行初日であんな事が起きれば、自暴自棄になってもおかしくない。

質問した善逸は罪悪感から汗を垂れ流していた。

 

「えっと……すみませんでしたっ!!」

 

善逸は泣きじゃくる綾に平謝りするしかなかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

綾が落ち着いたのを見計らって、しのぶが綾の提案を快諾した。

 

「純粋に医療関係者が増えるのは大歓迎ですよ。それに私の様なモグリの医者ではなく、正式な医者が働いているとなれば多少は大っぴらに出来る事が増えますしね。」

 

しのぶはそう言って綾を歓迎した。勘違いしやすいが、しのぶは医者も裸で逃げ出す程に医学知識への造詣が深いだけであって正式な医者ではないからだ。

後にあの野口英世も受けて医師免許を得た、最難関の"医術開業試験"を受験して合格出来れば年齢も性別も関係無く医師免許を習得出来るのだが、鬼殺隊での多忙さ故にその様な事は不可能であった。

 

無免許医が治療行為を行っているとなれば、国法に触れる。世俗から乖離している鬼殺隊の世界と言えど、国法からは切り離せなかった。

しのぶの治療活動に支障を来たさない様に、産屋敷家が蝶屋敷の実態が世間に露見しない様に工作してくれているのだ。

また、産屋敷家傘下の提携医院とも積極的に連携を取って治療している。だからこそこの少人数で蝶屋敷は運営に成功しているのだ。

 

後は雑談を少しばかりすると、しのぶがすみときよにある指示をした。

 

「すみ、きよ。アオイが作ってくれた()()。持って来てくれる?」

 

「あれ?……はいっ! 分かりました。」

 

「直ぐに持って来ますね!」

 

そう返答すると、二人は駆け足で退室した。炭治郎は疑問に思ってしのぶに質問する。

 

「しのぶさん。すみちゃん達は何を持って来るんですか?」

 

「直ぐに分かりますよ。炭治郎さん。」

 

炭治郎の質問に対し、アオイが自信満々な様子で答えた。すると間も無く二人が戻って来る。

 

「あっ、お帰り……っ!」

 

「「しのぶ様っ。戻りました。」」

 

「お疲れ様。」

 

炭治郎は二人を見て驚いた。自身が日中を移動する時に禰豆子を入れている箱を二人が背負っていたからだ。

これを見た炭治郎に、アオイが説明する。

 

「炭治郎さんが鬼との戦闘中で箱が壊れない可能性なんて無いじゃないですか。だからもしもの時に備えて材料を取り寄せて予備を作っておいたんです。こんな形で役に立つとは思っていませんでしたけどね。」

 

「凄い……アオイさんっ! 本当に凄いよっ!」

 

アオイの器用さを見て炭治郎は心から称賛する。するとアオイは嬉しそうに笑みを浮かべた。

そんなアオイを無視して、しのぶが珠世と愈史郎に話し掛ける。

 

「珠世さん、愈史郎さん。私がしたい事が分かりますね?」

 

「はい。禰豆子さんと同様に、小さくなって箱の中に納まれば良いんですよね?」

 

「そうです。この方法が結局、一番早いので。」

 

産屋敷邸までの移動方法として、箱に納まって移動する方法をしのぶが提案し、珠世が承諾した。

すると愈史郎がしのぶに初めて、開口して話し掛けた。

 

「おい、胡蝶しのぶ。話す事は話しただろう? 今から、俺が指定した奴は此処に残ってそれ以外の他の奴らは出て行って貰おうかっ?」

 

「何ですか? 藪から棒に??」

 

殺気の籠った一方的な発言に、しのぶは苛立ちながら愈史郎に返答をする。

言う通りにしないしのぶに、愈史郎は苛立ちから青筋を立てて声を静かに荒げる。

 

「さっさとしろっ。俺は別にこの場に居る全員の前で言っても良いんだぞ? お前達が余計な恥を掻いても良いならな?」

 

「……っ!!……分かりました……誰が残って誰が退室するんです?」

 

愈史郎の言わん事を察したしのぶは、頬を少し赤くしながら愈史郎に質問をした。

それを聞いて愈史郎に人物の指定に入った。

 

その結果、退室したのは善逸と伊之助、すみときよとなほ、草薙夫婦に村田隊士と『隠』達だ。

逆に残ったのは竈門兄妹にしのぶ、蜜璃にアオイとカナヲ、そして珠世と愈史郎だ。

特にしのぶは耳の良い善逸に細心の注意を払っていた。

 

「……で? 愈史郎さんは何が言いたいんです?」

 

しのぶは嫌な予感がしながら愈史郎に質問をする。すると愈史郎が青筋を立てて激昂した。

 

「……お前らっ!? 俺の『紙眼()』を一体、何に使っているんだよっ!?」

 

『っ!!??』

 

「「??」」

 

愈史郎の指摘に、炭治郎達一同は驚愕し、動揺する。全員が赤面していた。ただし珠世と禰豆子は分かっておらず茫然としていたが。

 

「ゆ、愈史郎さん……その……ですねっ!」

 

「炭治郎っ!! お前禰豆子を人間に戻す事が全てじゃなかったのか!? 少々見ない間に随分と爛れたな貴様っ!?」

 

「うっ……言葉もございません……。」

 

愈史郎にその爛れた性活を咎められ、炭治郎は頭を下げて謝罪するしかなかった。

そうしていると、カナヲが身体を震わせながら愈史郎を見ていた。アオイは赤面して固まっていた。

 

「貴方が知っているって事は……つまり……裸……見られた?……炭治郎以外の男にっ?……。」

 

そう独り言を呟くと、顔を俯かせたまま炭治郎に接近する。そしてカナヲは炭治郎の日輪刀を奪おうとした。

 

「カナヲっ!? ちょっと待ってくれっ! 俺の日輪刀を奪って何をする気なんだっ!?」

 

「良いから黙って私の邪魔をしないでっ! 炭治郎の日輪刀貸してっ!? じゃないとこいつ殺せないっ!!」

 

「カナヲっ! 頼むから落ち着いてくれっ!?」

 

『……』

 

カナヲはしのぶとの乱闘で未だ日輪刀を失っている。故に炭治郎の日輪刀を奪って愈史郎の殺害を試みようとしたため、炭治郎は慌ててカナヲを止めに入る。

混沌の極みに達した室内を見て、珠世は現状を理解出来ず茫然としたが、現状打破のためにパァン! と合掌するが如く両手を叩いて全員を静かにした。

 

「静かにしなさいっ!……愈史郎、私は全く状況が理解出来ていません。今直ぐ簡潔に説明しなさい。」

 

「はいっ! 珠世様っ!!」

 

「ちょっ!? 待って……っ!」

 

愈史郎を阻止しようとしたしのぶは、珠世に一睨みされて口籠った。そうしている間に愈史郎の説明を受けた珠世は、思わぬ内容を耳にして驚愕する事となった。 

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……つまり……炭治郎さん達の情交のために、愈史郎は『紙眼』を悪用された訳ね?」

 

「はいっ!……正確には炭治郎ではなくこの淫売婦共が悪用した様ですが……。」

 

『……』

 

しのぶ達は抗議したかったが、悪用したのは間違いないので押し黙るしか無かった。

珠世は一度、溜息を吐くとしのぶ達と向き合った。

 

「しのぶさん。確かに情交時で嬌声が漏れるのを防ぎたいと思い、使用したのは賢いと言えます。愛する殿方を常に、何時でも視界に入れられる様にしたいと言う気持ちも理解出来なくはありません……ですが、産屋敷の現当主と炭治郎さんとしのぶさんのお考えではこの『紙眼()』を鬼殺隊の隊士全てに配布する考えなのですよね?」

 

「「は、はいっ。」」

 

炭治郎としのぶは異口同音で珠世の質問に肯定した。すると珠世がある指摘をする。

 

「この『紙眼()』が配布された暁には、全ての隊士にその痴態の一部始終を見学される結果になりますが、その事実は理解してますか?」

 

『あっ!』

 

珠世の指摘を受けて、炭治郎としのぶだけでなくアオイもカナヲも蜜璃もその状況を想像して頭を沸騰させる勢いで赤面した。

話し合いの結果、珠世の仲裁もあってしのぶが所有していた九枚の『紙眼』は、一旦愈史郎に返却される事となった。

 

その後は全員で朝食を取り、食後の小休憩を取った。善逸達は炭治郎達が何時までも赤面している事から気になって質問するも、炭治郎達は岩よりも口を固く閉ざしたままだった。

産屋敷邸に出発する際、草薙夫婦の護衛も兼ねて村田隊士は蝶屋敷に残留し、代わりに後藤隊士と増援の『隠』が合流して産屋敷邸に向かう事となった。

 

 

 

 

 

 

東京府・産屋敷邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十四日(金)

時間帯:朝

天気:晴れ

 

 

広大な屋敷の縁側で一人の男性が座っていると、一羽の鎹烏が飛んで来て男性の眼前で着陸して人語を使い報告をする。すると男性は静かに笑みを浮かべた。

 

「そうか……珠世さんが炭治郎達と共に此処へ向かっていると……これは丁重に持て成して差し上げなくてはね……。」

 

男性はそう言って、再び静かに笑みを浮かべた。




お待たせしました。

タイトル一覧を見て頂ければ分かりますが、美蝶の色を変更しました。連載当初から悩んでいた、と言うか悩んでいる色ですがやはりこちらの方が上位互換かと思いまして。
それに読者の方から「しのぶは紫と言うより藤では?」と指摘を受けて悩んでいた案に変更する事にしました。
なお、珠世さんを「紫蝶」と例えましたが、炭治郎の相手役になるかはまだ未定です。したいけど愈史郎の存在が邪魔だ(失礼の極み)。

それから浅草の夫婦には姓名を与えて職業を医者にしました。無惨様ガチャでこれくらいの超レアキャラになっても良いよね。
本来なら一生眠っていた筈の巨龍を呼び起こした無惨様が悪いんだから。

最近何処で区切ろうか悩んでて頭が痛い……それに今回は何時もより面白くないかも(汗)。

次回の更新は六月中にします。

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透川様

pixivユーザーID
https://www.pixiv.net/users/23364086

日だまりにて、きみを待つ
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12751796
炭アオssです。繊細で丁寧な感情表現や描写に引き込まれる名作です。アオイの儚くも美しい炭治郎への想いは必見です。

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
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