※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

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※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*超辛口表現有り。苦手な方ご注意ください。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。



第弐拾捌話 日輪は本祭に身を投ず

東京府・産屋敷邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:深夜

天気:曇り

 

 

「……漸く終わったぞ。」

 

愈史郎は灯り一つ無い真っ暗な部屋で、椅子の背凭れに身体を委ねながら達成感の余韻に浸っていた。愈史郎は今の今まで室内の卓子(テーブル)の前で黒色を初めとした様々な色の紙を使い、『紙眼』作りに励んでいたのだ。

 

「それにしても流石は大名門・産屋敷家。庶民では手に入らん上質な紙を持っている。後で追加を蝶屋敷に送って貰うか。」

 

何故、通常の白紙を使わないかと言うと、それには明確な理由が有る。それは珠世と愈史郎が別邸を退所する辺りまで、時間(とき)は遡る。

 

『愈史郎さんっ! ちょっと良いですかっ!?』

 

『……っ?……何だっ? どうした??』

 

『ちょっとお願いがあるんです。』

 

『お願い?……珠世様じゃなくて俺にか?』

 

『はいっ! 愈史郎さんじゃなきゃ出来ない事ですっ!!』

 

『……聞くだけ聞いてやるっ。』

 

愈史郎は小声で話す炭治郎を怪訝そうに見ると、炭治郎はしのぶ達と距離を置いた事を確認して引き続き小声で話を続ける。

 

『……『紙眼』の機能を細分化して作れないか、だと?」

 

「はい、『紙眼』は超視力の貸与、夜目の確保、視覚同調、透明化、隠密特化と幾つもの機能を着けてます。」

 

『ああ、細かく分けるとそうなるな。』

 

『確かに複数の機能が付いているこの状態が一番かもしれません。ですが、細分化する事で使える機能が無くなる分、その機能の特化が可能にならないかと思って……。』

 

『試した事が無いから分からん。で、もし出来るならどれを望むんだ?』

 

『……ですっ。』

 

『っ!……それだけで良いのか?……まぁ良いだろう、やるだけやってやる。ついでに他の奴も作っておいてやろう。』

 

『本当ですかっ、ありがとうございますっ。』

 

『炭治郎。因みに、何枚居る?』

 

『では……()()程、お願いします。可能なら、明日の緊急柱合会議までに間に合えたら嬉しいですっ。』

 

『分かった、その時までに用意してやるっ。』

 

『よろしくお願いしますっ!』

 

「……はぁ。あいつらの鍛錬を見学していたせいで、完成予定時間が思っていたよりも遅くなったなぁ。」

 

愈史郎は溜め息を吐いて、軽々しく承諾した事を少し後悔した。しかし、直ぐに両頬を両手でパンパンッ! と叩いて気合を入れる。

 

「だが、これは盲点だったな……炭治郎の御蔭で気付く事が出来た。後であいつに礼の一つでも言ってやるか。」

 

「お疲れ様、愈史郎。」

 

「珠世様っ!」

 

愈史郎の下へ珠世がやって来た。愈史郎は慌てて、席を立って珠世に一礼した。

 

「炭治郎さんからの頼み事、やり遂げたみたいね?」

 

「はいっ! 思っていたより時間がかかりましたが、新たな可能性に気付けました。」

 

「其れは重畳ね……これから改めて製薬した薬を耀哉さんへ持って行くのだけど、一緒に来るっ?」

 

「はいっ! 勿論ですっ!!」

 

愈史郎が元気良く返答してから、二人で耀哉の居る部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:早朝

天気:曇り

 

 

夜明けが近付く中、灯り一つ無い産屋敷家の別邸で竈門炭治郎が目を覚ました。

 

「……」

 

炭治郎はカナエに対して向けた言動を思い出し、羞恥のあまりそのまま襖も障子も突き破って外へ転げ回りたい衝動に駆られた。

しかし、そうはならなかったのは炭治郎の周囲を囲む様に同衾している者達が居たからだ。

 

「「「「……」」」」

 

炭治郎の恋人達である胡蝶しのぶ、神崎アオイ、栗花落カナヲの三人が炭治郎に抱き着く様に眠っていた。

アオイとカナヲが左右の脇下から抱き着き、しのぶが炭治郎に圧し掛かる様に眠る。炭治郎は気を反らすために、カナエを思い出していた。

 

『あなた、柱合会議頑張って来てね❤……それから先刻(さっき)犯ったあれ、とっても楽しかったわ❤』

 

『私も色々考えておくから、あなたも考えておいてね❤ 普通に愛し合うのも素敵だけれど……また、ああ言うの一緒にしましょうね❤』

 

――我ながら、拙い演技だったなぁ……カナエさんを悦ばせるためにも、ああ言うのも勉強しないと駄目か。それにしても……。

「どうしよう……。」

 

炭治郎は重さは感じていたが、愛しさを覚える重みだ。それ自体に苦は無かった。

すると炭治郎の呟きが思っていたより大きかったのか、しのぶとアオイがモゾモゾと動き始めた。

 

「んっ……んんっ?」

 

「あっ……起こしちゃいましたか?」

 

「んぁ……おはよう……ございますぅ……。」

 

しのぶがそのまま起き上がり、アオイは片眼を擦りながら起床した。

カナヲは炭治郎に抱き着いて寝ていたが、炭治郎がスンッと一度匂いを嗅ぐとカナヲに声を掛けた。

 

「カナヲ、おはよう。起きてるよね?」

 

「……バレちゃった。おはよう、炭治郎。」

 

カナヲが指摘されたために、仕方なく起床する。

全員が身体を起こした後に、しのぶが炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎君。随分と長く寝ましたね。半日近くは寝てましたよ。」

 

「半日っ!?」

 

炭治郎は慌てて時計を確認すると、しのぶの言う事に間違いは無かった。夢幻世界に滞在した時間が何時もより長いとは思ったが、まさか半日近い時間が今世では経過しているとは思わなかったのだ。

 

しかし炭治郎は直ぐに頭を切り替えると、直ぐに全員で洗顔等の朝の準備をする。それが終わった頃にあまねと偶然遭遇し、耀哉の下へ来て欲しいと言って来たため、炭治郎達は全員で耀哉の居る部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「耀哉様、あまねです。胡蝶様達をお連れ致しました。」

 

「どうぞ、皆で入っておいで。」

 

耀哉の了承を得て、あまねは炭治郎達と連れて室内へ入室する。其処には布団から起き上がっている耀哉と付き添う珠世と愈史郎が部屋に居た。珠世は頭を下げて一礼して炭治郎達に挨拶を済ませた。

 

「「「「おはようございます、御館様。」」」」

 

「みんな、おはよう。」

 

炭治郎達はその場で一礼して、耀哉への挨拶をしてから着席した。

すると、愈史郎が炭治郎に向かって口を開いた。

 

「炭治郎。お前に頼まれた物だが、出来たぞ。」

 

「本当ですかっ!?」

 

炭治郎は身を乗り出す勢いで、愈史郎に質問する炭治郎。その顔は、雲一つ無い晴天を連想させる様な笑顔であった。

 

『……っ?』

 

満面の笑みを浮かべる炭治郎比べ、珠世と愈史郎を除く面々はその笑顔の意味が理解出来ず、首を傾げる。

そんな様子のしのぶ達に苦笑しながら、興奮気味の炭治郎は愈史郎に話を続けた。

 

「それで、今何処に在りますか!?」

 

「落ち着けっ、炭治郎。土産を待ち切れない子供みたいだぞお前っ……。」

 

「あっ……すみません、愈史郎さん。」

 

愈史郎に注意されて、炭治郎は恥ずかしそうに赤面し姿勢を正した。

そんな炭治郎を、その場にいる一同は微笑ましく見守る。

愈史郎は静かになったのを見計らって、懐から黒い紙を一枚取り出して炭治郎に渡した。

 

「頼まれていた奴だ。そうだな……『紙眼・()』とでも名付けるか。」

 

「……何がどう違うんです? 色しか違いが見えませんが?」

 

しのぶは首を傾げながら、炭治郎の持つ『紙眼』を凝視した。愈史郎はふふんと得意げな顔で通常の『紙眼』を取り出して説明を始めた。

 

「良いか? 俺の『紙眼』の能力の一つに"視覚同調"と言うものがある。だがこれは二人以上居ないと出来ないし、視界も第三者視点のものだ。通常の『紙眼(もの)』に比べて、この『紙眼・視』は"ものを見る事"のみに特化している。この言葉の意味が分かるか?」

 

「……まさかっ。」

 

耀哉の傍に控えていたあまねが、声を僅かに震わせて呟いた。普段の冷静沈着なあまねなら、絶対に見せない出来事だ。

 

「『紙眼・視(そいつ)』を付ければ、この一枚だけで視力を得られる。無論、盲目であろうとな。」

 

『っ!』

 

その場に居る全員の顔に、喜びの色が宿る。既に気持ちは期待でいっぱいだった。自然と、一同の視線は炭治郎の持つ『紙眼・視』に集まった。

炭治郎は熱の籠ったその視線を受けて、深呼吸してから耀哉に向かって話し掛けた。

 

「御館様、『紙眼・視(此方)』を目元にお着けしても良いですか?」

 

「勿論だとも。寧ろ私は現在(いま)、とてもワクワクしているよ。」

 

耀哉から期待と喜び、そして興奮の匂いを炭治郎は感じ取った。

 

――これで上手く機能しなかったらどうしよう……。

 

愈史郎に限って失敗は無いと思いつつ、一抹の不安が炭治郎の心中には有った。

しかし、このまま何もしない訳には行かないので、炭治郎は仕方無く愈史郎を除く室内に居る全員の期待の視線を受けながら実行に移った。

 

「……如何ですか? 御館様。」

 

「……」

 

「……御館様?」

 

沈黙する耀哉に対し、しのぶが心配して声を掛ける。耀哉はその声を耳にして、ピクッと身体を一瞬震わせてから顔を炭治郎達に向けた。

 

「いや、夜闇の世界が懐かしくてね……だけどその暗闇のせいで、皆の顔がはっきりと見えない……かな?」

 

「…っ!……直ぐに灯りを……「おい、ちょっと待てっ。」っ!」

 

日出するまでまだ時間はある。耀哉の言葉にあまねは直ぐに立ち上がるが、愈史郎が引き留めた。

 

「耀哉。指で擦る様に、右から左に流せ。そうすると『紙眼・視』が夜目形態に切り替わる。真っ暗闇でも昼間の様に見える様にした。逆もまた然りだ。」

 

『っ!』

 

周囲が驚く中、耀哉は愈史郎に頷いてからゆっくりと手を動かして、それからその手を降ろした。

 

「……っ……炭治郎、こっちにおいで?」

 

「は、はいっ!」

 

炭治郎は咄嗟に大声で返事をすると、恥ずかしそうに一度小さく咳をしてから耀哉に近付いた。

 

「……額の痣……花札の様な耳飾り……赤味掛かった黒髪と赤黒い瞳……報告が有った様に、炭治郎は本当に"赫灼の子"なんだね。」

 

『っ!!』

 

驚愕する周囲を余所に、耀哉が炭治郎の痣を撫で、そのまま左耳に装着している花札に似た耳飾りを撫でる。カランと音を立てながらそう言うと、今度は炭治郎の背後に居るしのぶ達に声を掛けた。

 

「しのぶは現在(いま)もその羽織を着ているんだね。カナヲもカナエの髪飾りを……アオイ、一年振りに顔を見るけれど、元気そうで良かったよ。」

 

『っ!!』

 

「耀哉様っ……!」

 

耀哉が一人一人にしっかりと顔を向けて話し掛けると、次にあまねに声を掛けた。

 

「また……あまねの顔が見れて嬉しいよ。でも少し痩せたかな……私のせいでごめんね?」

 

「いえっ……いえっ!……とんでもございませんっ……。」

 

あまねは眼尻を急いで拭き取ると、直ぐに平伏して頭を下げた。耀哉が顔を上げるように言ってから、今度は珠世と愈史郎を見た。

 

「珠世さん、愈史郎さん。本当にありがとう……貴方達の御蔭で、私は以前より元気になり、またこの眼に視力(ひかり)を取り戻す事が出来た……感謝してもし切れない……。」

 

「……いえ、私としてもこの程度しか出来ないのは寧ろ、医者として汗顔の至りです。」

 

「……珠世様はともかく、俺は大した事はしていない。礼なぞ不要だ……どうしてもと言うのなら、礼は全て炭治郎にでも言っておけ。」

 

耀哉が頭を下げて珠世達に礼を述べると、珠世は恐縮して頭を下げ、愈史郎は少し照れた様にそう言って顔を背けた。

そんな愈史郎の言葉に、耀哉は静かに頷いて炭治郎と向き合った。

 

「……炭治郎。「鬼舞辻無惨を倒すために、何時か珠世さんと合流を。」と私も考えていたけれど、しかしそれは少なくとも一年以上先になると私は考えていた。もしかすると、私の代では達成出来ないかもしれないと言う諦念も有った。」

 

「四百年以上前から産屋敷家当主にのみ珠世さんの事は代々伝えられ捜索していただけに、直ぐに合流出来るとは考えられなかった。」

 

「だがそれも君の尽力の御蔭でそんな懸念は杞憂で終わり、こうして私達は珠世さん達と合流する事が叶った。本当に、ありがとう。炭治郎。」

 

「……っ!」

 

耀哉は座ったまま、炭治郎に頭を下げて感謝の念を伝えた。あまねもまた、耀哉に倣って炭治郎に頭を下げる。

産屋敷夫婦に頭を下げられた炭治郎は、その言葉に双眸を濡らして身体を震わせると、直ぐに両手を付いて頭を下げた。

 

「とんでもありませんっ!……俺がしたのは、珠世さんに手紙を出したくらいで……決断してくれたのは珠世さんですから、お礼なんて……っ!」

 

恐縮した様に炭治郎がそう言った。そんな炭治郎に、耀哉はふふっと静かに笑ってから話し掛けた。

 

「謙遜しないでおくれ、炭治郎……ふふ、それにしても、珠世さんは本当に美しい女性だね……炭治郎が手紙にああ書く気持ちが良く分かるよ。」

 

「……っ?……炭治郎が、手紙になんて書いたんだ?」

 

愈史郎が気になって耀哉に尋ねる。それと同時にしのぶとアオイ、カナヲの視線がスッと鋭くなり、炭治郎の背中に冷や汗が一筋流れた。

 

「確か……『珠世さんは鬼でありながらとても穏やかで優しくて知的で聡明な、まさに才色兼備を絵に描いた様な美しい女性です。あの方が鬼殺隊に来て下されば千人力、いや万人力になります。必ず、柱にも勝るとも劣らぬ働きを為さるでしょう。今直ぐにとは言いませんがどうか、時期を見て珠世さんを御招きする御許可を頂けませんでしょうか?』……だったかな?……とても、力強く書かれてあったらしいね。あまね?」

 

「はい、私にはそう見受けられました。」

 

「ほう……流石は炭治郎だな。よーく分かっているんじゃないか……。」

 

「あ、あははははははっ。」

 

「「「……」」」

 

愈史郎が炭治郎の手紙の内容にうんうんと感心する中、炭治郎は照れた様子で笑いながら誤魔化す。しかし、しのぶ達の視線は一層鋭くなる。しのぶに至っては青筋が立っている。

 

「まぁ……炭治郎さんったら、恥ずかしいわ……。」

 

「……っ。」

 

「「「……」」」

 

珠世は炭治郎の手紙に書かれていた称賛の言葉の数々に、照れた様子で頬を赤く染める。しかし、その表情には喜びや嬉しさが有った。事実、炭治郎は匂いで喜びを感じ取っている。

そんな珠世の反応を見て、炭治郎は照れ顔で珠世以上に頬を赤く染めた。

 

しかし、そんな二人のやり取りをしのぶ達は面白くなさそうに睨み付ける。

今やしのぶだけでなく、アオイもカナヲも青筋が立っている。

 

「……」

――またしても珠世様の照れ顔を、おのれ炭治郎っ!!……しかし、こんな珠世様のお顔は滅多に見れない……見れた事に感謝するべきか……うーん、うーん……。

 

愈史郎もまた炭治郎を最初こそ嫉妬で睨み付けていたが、同時に感謝の念も抱くと言う複雑な表情をしていた。

炭治郎は背後から匂う殺意と怒りの匂いに先刻以上に冷や汗を流しながらも、先刻の耀哉の言葉を思い出す。

 

――御館様は、先刻(さっき)四百年以上前と仰られた……カナエさんから教わったけど、その時期は"始まりの剣士"が登場した時代と一致している……もしかしてっ!!

 

炭治郎は双眸を限界まで見開くとバッ! と頭を上げて珠世を見た。

唐突な炭治郎の行動に、耀哉達は少し驚きを覚える。

 

「すみませんっ!……珠世さんっ! お聞きしたい事があるんですっっ!!」

 

「は、はい。何かしらっ、炭治郎さん?」

 

炭治郎の勢いに面喰らいながらも、珠世は炭治郎の質問が気になるのか、興味深そうに炭治郎を伺う。

珠世から許可を貰った炭治郎は、鼻息すら荒くしながら珠世に尋ねる。

 

「あのっ!……珠世さんは、"始まりの呼吸の剣士"に会ってますか!?……四百年以上前の話になるんですけど……っ!」

 

『っ!』

 

炭治郎の質問に、耀哉を除く全員がその内容に驚いた。そして直ぐに全員の視線が珠世に集中する。

しかし、珠世も愈史郎も困った様に頭を傾げていた。

 

「えっと……珠世さんっ?」

 

「っ!……ああ、ごめんなさい。その……炭治郎さんが言っている"始まりの呼吸の剣士"と言う単語の意味そのものが、私には理解出来なかったものですから……。」

 

「す、すみませんっ!」

 

困った様子で微笑む珠世に、炭治郎は謝罪する。珠世に理解してもらうべく、炭治郎は説明を始めた。

 

「俺も名前は知らないんですけど……ああっ、俺と同様に花札に似た耳飾りをしていたそうです。この"始まりの呼吸の剣士"と呼ばれている由来は、鬼殺隊に呼吸術を齎して下さったからです。」

 

「その人が居た御蔭で、鬼殺隊は鬼狩りの効率を飛躍的に向上させたそうでして……なんでも、あの鬼舞辻無惨を後一歩まで追い詰めたと聞いています。」

 

「……っ!!!」

 

珠世は炭治郎の言葉に息を呑んで双眸を見開いて驚愕した。愈史郎もまた、そんな珠世を見て驚きを隠せない。

しかし、珠世は顔を俯かせて沈黙したため、愈史郎は心配になって声を掛けた。

 

「珠世様っ……?」

 

「っ!!……ああっ、私ったら……ごめんなさい、炭治郎さん……っ。」

 

愈史郎に声を掛けられて、珠世は我を取り戻す。珠世は一言謝罪すると、一度深呼吸してから炭治郎を真っ直ぐ見詰めた。

 

「はい……その"始まりの呼吸の剣士"と言う方を……継国縁壱さんを私は知っています。私は縁壱さんと戦国時代に出会ったわ……それも最初の出会いは縁壱さんと無惨が戦う時に、私がまだ無惨の傍で仕えていた頃だったっ。」

 

『っ!?』

 

珠世の言葉に、炭治郎達全員が驚愕した。特に耀哉の驚き様は凄まじいものだった。

 

「珠世さんっ!!……どうか、その話をもっと詳しくっ……ごほごほっ!!」

 

「耀哉様っ!」

 

「お、おいっ! 病人が興奮するなよっ!?」

 

耀哉が前のめりになって珠世に尋ねたが、急に身体を動かしたため激しく咳込んでしまう。あまねは心配そうに耀哉に声を掛け、愈史郎もまた耀哉の興奮ぶりを怒って諫めた。炭治郎もまた耀哉を心配してみたが、直ぐに珠世に視線を戻して質問した。

 

「じゃ、じゃあ珠世さんはその人の……縁壱さんの戦いを覚えているんですよね!?」

 

「ええ。勿論、覚えているわ。直接その戦いを見ていたもの……そう言えば、確かに彼は炭治郎さんと同じ耳飾りを着けていたわね。」

 

炭治郎の質問に、珠世は力強く頷いて肯定して見せた。

その肯定を受けて、炭治郎の表情に興奮の色が強くなる。炭治郎は続けて珠世に言った。

 

「珠世さんっ! 俺の"ヒノカミ神楽"を見ては頂けないでしょうか!?」

 

「見る?……その"ヒノカミ神楽"とは何かしら?」

 

「はい、実はですね……っ!」

 

炭治郎は隠せない興奮を押さえつつ、珠世に"ヒノカミ神楽"について説明を始めた。耀哉達もまた、真剣に炭治郎の説明に耳を傾ける。

 

炭治郎曰く、継国縁壱が使ったとされる全ての呼吸の原型ともなり、原点にして頂点である"日の呼吸"が、何らかの経緯を辿って竈門家に"ヒノカミ神楽"として名前を変えて伝わったと考えていると言う。

 

その理由としては、自身が使うもう一つの呼吸である"水の呼吸"とは比べ物にならない程に消耗が激しく、高威力の剣技が出せるらしい。

 

その他にもヒノカミ神楽"の剣舞を受けた鬼は十二鬼月で有ろうと無かろうと全員が例外無く、その傷に灼ける様な高熱と激痛を感じて再生力が低下したと言うのだ。

 

炭治郎の説明を受けた珠世は、顎に手を置いて一考する。十を数える程の沈黙を後に、珠世ではなく耀哉が開口した。

 

「炭治郎、"百聞は一見に如かず"と言う故事もある。故事に倣って、早速だけど庭先でその"ヒノカミ神楽"を私達の前で披露して貰えないかな?……折角、私の眼が見える様になったんだ。是非ともこの眼で直接見てみたい。」

 

「そうですね……耀哉さんの仰る様に炭治郎さん、見せて下さらないかしら?」

 

「はいっ! 早速ですが、準備しますっ!!」

 

炭治郎はそう言って勢い良く部屋から退室して、鬼殺隊の隊服に着替えて日輪刀と共に戻って来た。

そして炭治郎は庭に出て、日輪刀を構えて集中する。耀哉達全員が、そんな炭治郎に注目した。

 

「……竈門炭治郎、舞いますっ!」

 

炭治郎はそう言って、剣舞"ヒノカミ神楽"を演じ始めた。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:朝

天気:曇り

 

 

「んだァ?……俺が一番最後かよォ?」

 

産屋敷邸にある一室で、ある男性の声が室内に響いた。

 

胸元を大きく露出した隊服を着用している傷だらけのこの男性こそ鬼殺隊が誇る柱が一人、風柱・不死川実弥である。

 

実弥が言う様に、室内には複数の先客がいた。現役のヤクザ者すら全裸で逃げ出しそうな実弥の眼光を受けながら、微風程度にすら誰一人として感じてはいなかった。

 

室内に居たのは、以下の人物達である。

 

鬼殺隊・岩柱 悲鳴嶼 行冥

鬼殺隊・音柱 宇髄 天元

鬼殺隊・水柱 冨岡 義勇

鬼殺隊・蛇柱 伊黒 小芭内

鬼殺隊・霞柱 時透 無一郎

 

しのぶと蜜璃の二人を除いて文字通り、鬼殺隊の支柱たる現役の柱達が産屋敷本邸に集結していた。

一番最後に来た実弥は、不服そうに鼻を鳴らした。そんな不機嫌になった実弥に、柱筆頭である行冥が盲目の双眸から涙を流しながら声を掛けた。

 

「不死川。最後になったからと不機嫌になるな。私達もつい先刻(さっき)産屋敷邸(おやしき)に到着したばかりだ。遅れた訳では無いのだから、気にするな」

 

「……あんたがそう言うなら良いけどよォ……。」

 

実弥は頭を数回掻くと、そのまま入室しようとした。

 

「お待ち下さい。不死川様。」

 

「あん?」

 

入室しようとする実弥に対し、案内役を務めた後藤隊士が声を掛けた。声を掛けられた実弥は、足を止めて振り向いた。

 

「御館様からの御命令です。お持ちの日輪刀は()()、こちらにお預け下さい。」

 

「……何ィ?」

 

後藤隊士の言葉に、実弥は怪訝な表情を浮かべるもその反応を見た小芭内が声を掛けた。

 

「そいつが言っている事は真実(ほんとう)だぞ。俺達も既に己の日輪刀を預けている。」

 

「……けっ!」

 

小芭内の発言を受けて、実弥は忌々しそうに長刀である日輪刀と対鬼仕様の散弾銃(ショットガン)を預けた。

事実、実弥が来る前に行冥達は日輪刀を『隠』達に預けていた。

尤も、行冥の特殊過ぎる日輪刀は数人で必死に運び出していたが。

手渡された長刀と散弾銃(ショットガン)を見ると、後藤隊士は双眸を細めて実弥を見る。

 

「……不死川様、お言葉ですが自分は()()と言いました。預けて下さい。」

 

「……ちっ。」

 

実弥は舌打ちしてから、腰に隠していた脇差程度の長さのある日輪刀を二刀、後藤隊士に投げ渡した。

この二刀の日輪刀は、実弥の愛刀が使用不能になった時の予備武器である。

 

実弥程の実力者が日輪刀を刃毀れさせたり折られたりする事は先ず無い。しかし、万が一の時に備えた物であり過去に起因して、実弥は複数の武器を手に持たなければ安心出来無かった。

 

後藤隊士は実弥の舌打ちに内心では恐怖心を抱いたが、態度には出さず一礼してからそそくさとその場を去った。

去って行く後藤隊士を見届けると、実弥は入室する。

 

「……日輪刀(かたな)が手元にねぇってのは、落ち着かねぇなァ。」

 

「まぁな。尤も、現在(いま)今は日中故に万々が一など有り得ないがな。」

 

「はっ、違ぇねェ。」

 

実弥は小芭内の言う事に同意すると、行冥の隣へ胡座を書いて座り出した。

 

「んで、なぁんで日輪刀(かたな)を預けなきゃならねぇんだァ? 今までんなこたぁ一度も無かっただろ? 何か知らねぇのか悲鳴嶼さんよォ。」

 

「いや……私も何も聞かされていない……。」

 

「俺も分からんぞ。」

 

常に涙を流している行冥は手に持っている数珠をジャリジャリと擦りながら、実弥に答えた。

小芭内もまた、行冥に便乗する形で答える。

すると、沈黙を貫いていた義勇が静かに口を開く。

 

「……心当たりなど、一つしか無いと思うが?……そんな事も分からないのか、お前達は。」

 

「……あ"っ?」

 

「ほぅ……ならば教えて貰うか。さぁ勿体振らずにさっさとほざけ。下らん推測なら許さんぞ貴様。」

 

義勇の物言いに、実弥と小芭内は青筋を立てて憤る。

しかし、義勇は気にする事無く話を続ける。

 

「今から三ヶ月以上前……いや、去年の終わり頃に有った柱合会議が原因だろうな。」

 

「柱合会議だぁ?……別に日輪刀(かたな)を預かる様な事は起きなかっただろうが?」

 

「不死川……俺と同い年なのに、痴呆症が始まった様だな? この緊急の柱合会議が終わり次第、直ぐに胡蝶に診察して貰ったらどうだ?」

 

「あ"ぁっ!? 喧嘩売ってんのかテメェ……。」

 

「俺はお前を心配して言っているんだ。これ以上痴呆症が進んで、人と鬼の区別さえ付かなくなればそれこそ洒落にならないからな。」

 

「するかぁっ! 俺を痴呆症(ボケ)扱いしてんじゃねぇよ!!」

 

激昂して立ち上がる実弥に対し、義勇は変わらず表情の読めない顔を維持したまま淡々と話し続ける。

見兼ねた行冥は、実弥を制止して義勇を尋ねる。

 

「冷静になれ、不死川……富岡、柱合会議(あのとき)の何が原因だと言うのだ?……。」

 

「悲鳴嶼さんも本気で言っているのか?……無抵抗の少女に刃を一方的に突き立てたんだ。二度とあの出来事が起きぬ様にと、御館様は憂いたのだろう。」

 

「「「「っ!」」」」

 

義勇の発言に、無一郎以外の柱達は反応した。その発言に反論したのは小芭内だった。

 

「ふんっ。鬼に日輪刀(かたな)を突き立てて、何が悪い? 身勝手な勘違いも甚だしいぞ、富岡。」

 

「……伊黒。(――お前がそう言うのなら、()()()()()()は正しい行動なのだろう。だが御館様はそうは受け取らなかった。俺もそうは思わない。それが事実だ……)俺は、お前と不死川に後で胡蝶に診て貰え、とだけ言っておこう……特に頭と眼の方を念入りにな。」

 

「貴様っ……っ!」

 

小芭内が双眸を血走らせて義勇を睨み付けると、首に巻き付いている白子個体(アルビノ)のアオダイショウである鏑丸が威嚇する様にシャー! と唸り声を上げた。

尤も、どちらも義勇は気にも掛けなかったが。

 

実弥の怒りも相まって一触即発の状態にまで陥ったが、黙って状況を見守っていた天元が制止するために割って入った。

 

「おいおい、地味な口論は止めにしようぜ。御館様の御屋敷で派手に喧嘩する心算か?」

 

「「……っ。」」

 

天元の言葉に、実弥と小芭内は冷静になって怒りを抑える。しかし、義勇は違った。

 

「宇髄も偶には良い事を言う……(――お前達が何故そう怒っているのか、何に対して怒っているのか分からないが、少しは落ち着いたらどうだ?……それにしても先刻(さっき)から)五月蠅いから、静かにしてくれ。そんなにガミガミ怒っていると、益々頭を悪くするぞ?」

 

「「「「……」」」」

 

義勇の発言に怒りを通り越して、行冥達は沈黙して茫然になる。義勇は本心からそう言っており、自他共に誰一人として気付いていないが義勇の発言には一切の悪意が無いのだ。すると上の空で話の輪に入って居なかった無一郎が、不意に口を開いた。

 

「ねぇ……どうして僕達は御館様に呼ばれたの? 誰か何か知ってる?」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

無一郎の一言に、全員が注目する。しかし、考え込んだ行冥が先ず自身の推測を口にした。

 

「最近出没している、"十二鬼月ではない下弦級の鬼"についての対策ではないかと私は思っている。お前達も戦っている筈だ。」

 

行冥の推測に、次々と声が上がる。

 

「あぁ。俺も派手に四匹程倒したぜ。」

 

「俺は三匹だけだが遭遇した。」

 

「……俺も三体、倒した。」

 

「僕も三体くらい……あれ二体だっけ?……どっちでも良いや……。」

 

「けっ! 羨ましいこったぜぇ……俺ぁ一匹しか殺ってねぇってのによぉ……。」

 

それぞれ自身が遭遇し討伐した下弦級の鬼について報告し合った。すると天元が下弦の鬼とは違う話を始めた。

 

「悲鳴嶼さんの言う様に、恐らく今回の柱合会議の主題は下弦級の鬼共の話だと俺も思う。でもよ、()()()についても話すと俺は思うんだよなぁ……そう言えば、お前らは聞いているか? ()()()についてな。」

 

「っ!」

 

「噂だァ?」

 

「……」

 

「「?」」

 

天元の言葉に、一同はそれぞれ異なる反応を見せた。

小芭内は一瞬だけ双眸を見開き、実弥は怪訝そうに反応し、行冥は眉を顰めた。

義勇と無一郎は一切内容を理解していない様子で、首を傾げていた。

 

五人五様の反応を見せる行冥達に、天元は得意げな顔で話し始めた。

 

「よーし。何も知らねぇ奴もいるみたいだな。折角だから、この天元様が一から派手に説明してやるよ。情報収集も一応しておいたしな。」

 

天元は一度咳払いすると、噂について話を始めた。

 

「噂の出所は蝶屋敷でな。その内容は「胡蝶と継子が男を巡って派手に殺し合いをした」らしいぜ?」

 

『っ!』

 

天元のその一言で、行冥達全員が大なり小なり驚きの反応を示した。

しかし、直ぐにその噂を鼻で嗤う者達がいた。実弥と小芭内の二人だ。

 

「けっ! 下らねぇ噂を真に受けてんじゃねぇよォ。」

 

「不死川の言う通りだな。あの胡蝶が恋に陥る様な女だと宇髄、お前は本気でそう思っているのか?」

 

「俺も最初は下らねぇ地味な噂が流れてると思ったもんさ。でもよ、俺が昨日の昼過ぎに蝶屋敷に訪れた際に、実際に現場を見た入院中の隊士連中が"開いた口に戸は立たぬ"とばかりに言ってたんだよ。だから派手に問い詰めてやったぜ。そりゃも派手派手になぁ!」

 

『っ!』

 

信憑性皆無な噂を無責任に言っている隊士を見たのではなく、直接その現場を見た者がいたならば、話は別であった。

行冥達は些か動揺して、更に天元の話に食い入る様に僅かながら身体を前に詰めた。

 

「連中の言い方は大袈裟に聞こえたが、噂の内容は存外に針小棒大に言ってる様子じゃなかったみたいだった。俺は胡蝶や女達に直接聞こうと思ったが胡蝶は不在だったし、屋敷内で緘口令を敷いてたから女達は一切その事を話そうとはしなかった。まぁそれも無駄だったがな。しかも胡蝶達が取り合っていた男って言うのが、あの竈門炭治郎らしい。」

 

『っ!?』

 

炭治郎の名前が出た瞬間、義勇と実弥と小芭内の表情に驚愕の色が宿った。特に義勇が一番驚いていた。

 

「馬鹿な……(――有り得ん話だ。炭治郎はもっと真面目で誠実な男だ。複数の女と付き合うなど、)宇随ではあるまいし、考えられない。」

 

「……俺はどうでも良いだろうが……それにまだ竈門炭治郎(あいつ)が両方と付き合っていると派手に決まった訳じゃねぇ。とにかく、それが事実で真実らしいんだ。それから、俺が入手した噂の内容だ。派手に耳の穴かっぽじって良く聞けよ。」

 

義勇の言い方に天元は青筋を立てるも、激昂する事無く冷静に噂の内容の話を続けた。

 

・炭治郎としのぶが部屋で情交に励んでいた瞬間を、カナヲが目撃し激昂した。

・隊士達は乱闘の瞬間を直接目撃していなかったが、砕けた日輪刀が庭に転がっておりしのぶとカナヲの顔は殴り合ったのか青痣があった。

・カナヲは炭治郎に片思いをしていた様で、選りによって師匠であるしのぶに想い人を盗られた悲しみから人目を憚らず号泣していた。

・しかし、朝になるとカナヲが常に炭治郎と腕を組んで仲睦まじく過ごしていた。

・昼前に、炭治郎とカナヲが逢引するために銀座に向かった。

 

「……以上が、俺が入手した噂の内容だ。もっと念入りに情報収集したかったが、蝶屋敷に何時までも地味に長居する訳にも行かなかったんでな。」

 

「「「「「……」」」」」

 

天元が話した内容に、義勇は茫然としていた。そんな義勇の様子を見て、実弥と小芭内が口を開く。

 

「ちぃっ……一体全体何をやってんだあいつらはァ……。」

 

「馬鹿馬鹿しい……と切り捨てたいところだが、そんな簡単な話でも無い様だな。俄かには信じられんが。」

 

「……どっちでも良いよ。面倒臭い……。」

 

「あぁ……どちらにせよ柱が恋の縺れで継子と刃傷沙汰や喧嘩沙汰など、あってはならない前代未聞の大事件だ。隊士達にも面目が立たぬ……追及は免れないだろう……。」

 

行冥がそう言い締めると、義勇達は頷いて納得した。すると襖越しから、「失礼します。」と言って襖を開けて行冥達に声を掛ける者が現れた。

 

「お待たせ致しました、柱の皆様方。柱合会議の準備が間も無く整いますので、何時もの中庭までお越し下さい。」

 

其処に居たのは『隠』の後藤隊士だった。すると小芭内が後藤隊士を睨み付ける様に、顔ごと視線を向ける。

 

「ちょっとまてっ……甘露寺と胡蝶がまだ到着していない様だが?」

 

小芭内は蜜璃が不在な事に心配したのか、そう後藤隊士に尋ねると頭を伏せたまま、後藤隊士は小芭内に答えた。

 

「御二人ならば、間も無く柱合会議に到着されるので伊黒様、どうぞ御心配無く。先ずは皆様方がお越し下さい。」

 

「……っ。」

 

後藤隊士の言葉に、小芭内は不服ながらも納得する他無かった。こうして、行冥達は待機部屋から退室して中庭へと向かった。

盲目でありながら、常人の様に平然と前を歩く行冥は考えていた。

 

――御館様からの御手紙で騒動(こと)の顛末は聞いている……しのぶに新たな生きる喜びが得られた事は、私にとっても非常に喜ばしい出来事だ……しかし、私は心の眼で見たものしか信じる積もりは無い……この会議で君を見極めさせて貰うぞ……竈門炭治郎っ。

 

心中でそう思いながら、行冥は手に持っている数珠をジャリジャリと鳴らして中庭へと向かって歩いて行った。

しかし、行冥はまだ知らない。自身の予想を遥かに超える展開が、この緊急柱合会議で待っている事を。

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

行冥達が中庭に到着した瞬間、行冥が何か違和感を感じた。盲目の双眸を顔ごとキョロキョロと動かして、行冥をその違和感の原因を探す。

 

「どうかしたのかァ悲鳴嶼さんよォ」

 

「……いや、何も無い筈なのだが……何だか違和感を感じてな……。」

 

「違和感?」

 

行冥は視力を失った分、他の四感と第六感が常人よりも優れている。()()行冥が違和感を感じていると言うのだ。気のせいや勘違いで済ませられるものでは無い。

 

それを理解している義勇達は、キョロキョロと周辺を見渡し気配を探り始めた。しかし、義勇達の視線には何も見えず、また違和感や他人の気配も感じられなかった。

しかし、間も無く行冥達にそんな事もしていられない程の衝撃が訪れる。

 

「やぁ。待たせて悪かったね。私の可愛い剣士(こども)達。」

 

『っ!?』

 

行冥達は驚いて産屋敷本邸の方向へと視線を向ける。其処には崇拝し、敬愛して已まない産屋敷家の当主にして鬼殺隊の主人たる産屋敷耀哉が居た。

行冥達から見て耀哉の左斜め後ろには、控える様に愛妻のあまねと第三子で長男の輝利哉、そして上から第一子のひなき、第二子のにちか、第四子のくいな、そして末子である第五子のかなたの四人の娘達が鞄や袋を持って現れた。

 

『御館様っ!!??』

 

行冥達は突如降って湧いた様に登場した産屋敷一家の存在に驚いて、咄嗟に横一列に整列してから跪いて頭を垂れた。

そのため、産屋敷一家が咄嗟に紙の様な物を懐に仕舞う瞬間を見逃していた。

 

普段は半年に一度開催される柱合会議では、妻のあまねか実子の誰かが耀哉が来た事を事前に知らせて来てくれている。

これまでの例を考えれば、耀哉の方から先に会議に到着するなど今回が初めて、つまりは前例の無い前代未聞の事態である。

 

行冥達は産屋敷一家の気配を察知出来なかった事に愕然としながらも、それ以上に驚愕している事実が眼前に存在していた。

それは、耀哉があまねや輝利哉達の介助を必要とせず、一人で自力に行動している事だった。

 

自身達の知る耀哉は、呪いにより痣が広がりその命は元より身体の自由をも少しずつ確実に奪っていた。

しかし、今の耀哉の姿はどうだ。痣こそ広がっているものの、誰の支えも必要とせず、一人で自立している。不可思議なのは、額から目元まで覆う様に眼の紋様が描かれた不思議な紙を貼っている事だった。

 

この様な驚愕せざるを得ない事実を眼前にしたせいか、行冥達は一同に声を失っていた。

 

本来ならば、耀哉が登場した時点で柱同士で奪い合う挨拶の口上を行冥達の誰かが口にしている。表面上では冷静沈着な様子を取り繕っても、内心では早い者勝ちとばかりにソワソワと落ち着きを失い、互いを牽制しているのだ。

その様な事態に陥っているが故に、誰も挨拶の口上を口にするどころか、中には口を開けて惚ける間抜け振りを晒す始末であった。

 

「御館様におかれましては御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます。」

 

『っ!?』

 

突如として産屋敷本邸の中庭で、この場で現在は不在になっている筈の者の声が響き渡った。

 

「この声……胡蝶かっ!?」

 

義勇が叫ぶ様に呼んだのは同じ鬼殺隊の柱である蟲柱・胡蝶しのぶの名前だった。

行冥達は驚いた様子で周囲を探るが、何処にもその小柄な少女の姿は見つからない。

 

だが、行冥達がしのぶの姿を探し始めた刹那、それは起こった。

 

『っ!?』

 

行冥達が横一列に整列する中、その一番端から三歩程進んだ先でしのぶが行冥達と同様に跪いている姿が在った。

先刻までは、しのぶの影も形も無かったにも関わらずだ。

 

動揺する行冥達を見て、しのぶは楽しそうに、面白くて堪らない様に、可笑しくて仕方が無い様子でクスクスと笑い始めた。

 

「いやぁ……皆さん、お疲れ様です。良いものを見させて頂きましたよ。冨岡さん達が動揺する姿なんて、滅多に見れるものではありませんからねぇ。」

 

しのぶは右手に眼の紋様が描かれた白紙を手に持ってから、愉快そうにそう言った。

 

「しかし、冨岡さん達はちっとも気付いてくれなかったのに、悲鳴嶼さんだけは違ったから内心ヒヤッとしましたよ。私が此処に居るのがバレるんじゃないかとね。流石ですね、悲鳴嶼さん。」

 

「……胡蝶、その右手に持っている紙は何だ?……御館様も色違いの物を顔に貼っておられるが、その紙に絡繰りが有るのか?」

 

「そんなに焦らなくても直ぐに分かりますよ、冨岡さん。せっかちな男は嫌われますよ? 只でさえ、炭治郎君と違ってみんなから嫌われているんですから。」

 

「……俺は嫌われていない。」

 

「はいはい、そうですね。」

 

義勇はそう言ってしのぶの言葉を否定したが、しのぶは気にもせず右手の『紙眼』を懐に仕舞い込んだ。

昼間にも関わらず、『紙眼』が機能したのは、今が曇りで太陽が出て居ないからだ。日差しが出る前に『紙眼』を仕舞うのは道理である。

 

「しのぶの言う通りだよ。それについてはこれから説明しよう……それにしても、君達の凛々しい勇姿を再び、この眼で見れる日が来るとは昨日までは考えられなかった、想像する事も出来なかった……()には感謝しないとね。」

 

『っ!?』

 

行冥達は耀哉の言っている意味が分からなかった。何故なら、耀哉の視力は一年前の冬頃に呪いの進行で失っているからだ。

どう言う理由で視力が戻ったのか、行冥達には理解出来なかった。

 

「私が視力を取り戻したのは本当の事だよ?……そうだね……左から実弥、無一郎、天元、行冥、小芭内、義勇、しのぶ、の順番で並んでいる。違うかな?」

 

『っ!?』

 

耀哉の指摘に、しのぶを除く行冥ら鬼殺隊の柱達は驚愕する。

産屋敷家の唐突な登場で動揺した行冥達は、慌てて横一列に整列してから跪いていた。その際の順番など気にする余裕は一欠片も有りはしなかった。

 

もし並び順を気にする余裕が有ったなら、義勇を毛嫌いしている小芭内がその隣に並んでいる筈が無い。

また、背後に居るあまね達が耀哉に並び順を耳打ちした様子も無かった。

 

耀哉の視力が戻っていると言う事実に、行冥達は疑惑の念を抱く余地など有りはしない。歓喜と動揺を抱く行冥達に、耀哉は伝える。

 

「君達には、早速紹介したい人達が居るんだ。是非とも会って欲しい。」

 

「紹介したい者達……その者達が御館様の眼を治したのですか?」

 

「治したと言うと語弊があるけれど、概ね間違ってはいないよ。私がこうして元気なのは、間違いなく彼女達の御蔭だから……皆、彼女達は私にとって大事なお客様だ。粗相の無い様にお願いするよ。」

 

『御意。』

 

耀哉の視力を取り戻した耀哉の客人がどう言う人物か、行冥達は気になって仕方が無い様子だった。

尤も、耀哉の言う客人達がどう言う人物か知った時の反応を想像して、しのぶは笑いを堪えるのに必死だったが。

 

「皆の準備が出来たみたいだから、早速此処にお呼びしようか……蜜璃、皆と一緒に出て来ておいで。」

 

「はーいっ! 御館様っ!!」

 

「っ!」

――そうか、甘露寺も先に御屋敷に来ていたのか。

 

小芭内は同僚であり想い人の蜜璃の名前を耀哉から聞き、本人のその明るい声を聞いて蜜璃の存在を確認出来た事に安堵していた。

しかし、その安堵も間も無く一瞬にして消し飛ぶ事態が発生する。

 

『――っ!?』

 

行冥達から見て耀哉の右斜め後ろから、誰も居なかった筈の空間に次々と人が現れた。

先ずはその空間の左側に甘露寺蜜璃、栗花落カナヲ、神崎アオイ、竃門禰豆子の順番に現れ、反対の右側に竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助が姿を現した。

 

しのぶと同様の方法で登場しただけでも行冥達は充分に驚きを隠せないが、その蜜璃達の印象が霞む程の驚愕を齎す人物が間も無く現れた。

炭治郎達が守る様に、その空間の中心に二人の人物が登場した。紫を基調とした様々な華の絵柄が描かれた着物を着た女性鬼と書生の如き白服の少年鬼がいた。そう、珠世と愈史郎である。

 

「鬼っ……!?」

 

「鬼……だと……っ!」

 

行冥と天元は禰豆子以外の鬼が産屋敷本邸に存在している事に驚き、そう呟いた。

無論、義勇や無一郎と言った他の柱達も驚いて既に臨戦態勢に入って居る。しかし、行冥達には致命的な問題が有った。

 

――ちぃっ!? 手元に日輪刀(かたな)がねぇっ!!

 

実弥は日輪刀を手放して、『隠』に預けた事を心底後悔していた。憤怒のあまり、今直ぐ自分で自分を殴り飛ばしたいくらいだ。

 

「御館様っ! 早く其処を御離れ下さいっ! あまね様も他の方々もっ!!……テメェらっ! 揃いも揃って何やってんだくらァ!!!」

 

「甘露寺っ!! 早くその鬼共をっ……っ!!」

 

実弥と小芭内は産屋敷一家を鬼から距離を確保するために、日輪刀が無い今、身を呈してでも護るべく駆け出そうとした。

しかし、そうはならなかった。

 

「傍から見ると、見苦しい事この上無いですねぇ……良い歳した大の男が、と言うか柱ともあろう方々が、そう右往左往するのは止めてくれます? 好い加減、落ち着いて下さいな?」

 

『っ!!!』

 

挑発的な言動でその場を諌めたのは、中庭にいた柱で唯一動揺していなかったしのぶであった。尤も、事の発端を作った一人なのだから、動揺する筈も無いが。

 

「いやぁ、私も一歩間違っていたら悲鳴嶼さん達の(そちら)側に居たんですよねぇ。私、皆さんと違って蚊帳の外にされなくて良かったわぁ。」

 

動きを止める行冥達を他所に、そう呟くしのぶ。先刻から嘲笑も含まれる言動に、行冥達は顔を顰める。普段は感情が読めない義勇が珍しく苛立ちながら、しのぶに尋ねた。

 

「胡蝶……逆に聞くが何故、鬼が御館様の直ぐ近くに居るのにそんなに冷静で居られる?……丸で何か知っているみたいだなっ?」

 

「それは勿論、あの鬼達の正体はどなたなのか、知っているからですよ……正確に言うと、私と炭治郎君が産屋敷邸(ここ)へ連れて来たんですがね。」

 

『っ!?』

 

ごく普通の事だと言わんばかりにあっけらかんと暴露するしのぶに、行冥達は驚愕する。しかし、それも束の間の話。

先ず最初に実弥の顔に青筋が立ち、憤怒の色に染まったからだ。

 

「胡蝶テメェっ! 何を「五月蝿いですから黙っててくれます?」……っ!!」

 

しのぶを怒鳴り付け様とする実弥だったが、しのぶは対応するのも無駄と言わんばかりに無情なまでに斬り捨てた。

思いも選らぬしのぶの言動に呆気に取られて沈黙する実弥達を無視して、しのぶは立ち上がりさっさと歩き出す。

 

しのぶは耀哉に「失礼致します、御館様。」と一言伝えてから、履物を脱いで産屋敷本邸に入り炭治郎達と合流した。

 

「しのぶ姉さん、どうぞ。」

 

「ありがとう、カナヲ。」

 

しのぶは預けていた日輪刀を、カナヲから礼を言ってから受け取った。

受け取った日輪刀を腰に添えると、クルっと身体を動かして行冥達の正面に向いた。しのぶは行冥達の疑惑と追及する様な視線を、涼しい顔をして正面から受け止める。

 

「言っておきますが、私も炭治郎君も御館様の御命令でこの御二人を産屋敷邸(おやしき)に連れて来たんです。貴方方に責められる筋合いなど、私達には一切有りませんので悪しからず。」

 

『っ!』

 

『……』

 

其れらの視線を斬り捨てる様にふんっと鼻で嗤いながらしのぶが言うと、天元、実弥、小芭内の額に青筋が走る。行冥と義勇、無一郎は違ったが、苛立ちを覚えていた。

 

「しのぶが言っている事に間違いは無いよ。実際に私が珠世さんと愈史郎さんを産屋敷邸(ここ)まで連れて来る様に頼んだんだ。」

 

『っ!』

 

耀哉本人からしのぶの発言を裏付ける肯定的な言葉を受けて、行冥達は口を噤んだ。しかし、実弥を筆頭に行冥達は耀哉を信じられない様な視線を送った。

 

「……御館様、何故その様な鬼共を産屋敷邸(おやしき)に招かれたのか、我々にも御説明下さるのでしょうか?」

 

実弥は憤怒を抑えつつ、極めて慇懃な態度で耀哉へと質問した。

しかし、気の弱い人間ならば視線が遭っただけで心臓麻痺を起こしかねない程の鋭い眼光と殺気は健在であり、一つの感覚に特化した炭治郎、カナヲ、善逸、伊之助は其れを察知して辟易していた。

 

――うわぁ……冷静さを取り繕っても怒ってる匂いがはっきりするなぁ。

 

――視線を遭わせるだけでも疲れる……。

 

――おいおい、大丈夫なのかよっ!? なんかあのおっさんからすっげぇ禍々しい音が聞こえるんだけど!!!

 

――あの傷だらけ野郎……すげぇ、視線だけで肌がビリビリしやがるぞ。

 

緊迫した空気の中、耀哉は落ち着いた様子で実弥に返答を始めた。

 

「珠世さん……こちらの女性の鬼なんだけどね。四百年前まで無惨の側近をしていた人なんだ。」

 

『っ!?』

 

珠世の思わぬ過去に、行冥達は一同に驚愕した。その生きて来た年数もそうだが、無惨の側近と言う事は十二鬼月の上弦かそれに匹敵する地位にいた証拠に他ならないからだ。

 

「すると御館様は、鬼舞辻無惨の情報を得るためにその者達を産屋敷邸(おやしき)に招いたと?」

 

行冥は耀哉の言わんとする事を察して、そう指摘した。

 

「それもあるね。だけどそれは理由の一つに過ぎない。この二人は鬼だけど、とても頼もしい味方なんだよ。だから皆には珠世さん達が鬼殺隊に居る事を認めて欲しいと思っている。」

 

『!』

 

耀哉にそう言われ、行冥達は一瞬の驚きを露わにする。

 

「「……」」

 

行冥と天元は沈黙を貫いた。

去年の柱合会議の禰豆子と違い、珠世が鬼殺隊に齎すであろう情報の有用性を理解しているからだ。

 

鬼舞辻無惨と鬼殺隊の戦いの歴史は千年を超えるが、未だに鬼に関しての生態は謎に満ちている。

これまで幾度と無く鬼を生け捕りにし、拷問して情報を吐かせようとも自白させられた試しは一度として成功していない。

 

「(炭治郎が連れて来た鬼ならば、少なくとも信用は出来るでしょう。)……俺は御館様の御意思に従います。」

 

「僕はどっちでも……直ぐに忘れてしまうだろうから。」

 

『!』

 

義勇は顔色が読めない無表情の顔をしたまま賛成を表明し、次に無一郎が賛成とも反対とも取れる他人任せな発言をする。

 

「はいっ! はいっ!! 私は大賛成です! 御館様っ!!」

 

「御館様。炭治郎君と共に珠世さんを連れて来た私は勿論、賛成とさせて頂きます。」

 

『!』

 

続けて蜜璃としのぶが賛成を表明する。行冥達と違って珠世や愈史郎と先に交流を果たしている二人は、その人間性も有能さも理解している。反対する道理など皆無であった。

何より反対すれば炭治郎が悲しむだろう。最愛の恋人が悲しむ選択肢など、しのぶが選ぶ訳が無かった。

 

しかし、如何に道理や得られる利益を理性ではそれらを理解していようと、感情を優先してしまうのは人間の性である。

それはたとえ鬼殺隊隊士の頂点に位置する柱であろうと変わらない。否、むしろ長年柱として鬼の醜さを見て来たからこそ認められなかった者達が居た。

 

「信用しない、信用しない。只でさえ竈門禰豆子の存在だけでも業腹だと言うのに、これ以上鬼の存在が増えてたまるものかっ。それに無惨に仕えていたと言う事は、そいつらは人間(ひと)を殺して喰った経験が有ると言う人喰い鬼なのだと、否定の仕様が無い事実があるっ。そんな奴らの存在など、認められはしないっ。」

 

「伊黒の言う通りですっ、御館様っ! 情報が必要なのは認めましょう……ですがそれだけです!! そいつら持っている情報を、拷問してでも吐かせるだけ吐かせてからさっさと始末すれば良いっ!」

 

『っ!!』

 

暴論とも言える実弥と小芭内の意見に、その場に居る者の一部は顔を顰める。

しかし、耀哉は冷静に、穏やかな口調で二人を諭す。

 

「実弥、小芭内。落ち着く様に……私は言った筈だよ? この二人の御蔭で私の体調は良くなり、視力も取り戻す事が出来たのだとね……それは即ち、無惨側の情報を持っている事以外にもその有能さを表している事に他ならない。」

 

『っ!!』

 

「くっ……。」

 

「……ちっ。」

 

耀哉の指摘に、実弥と小芭内の二人は顔を俯かせて小さく舌打ちした。それが聞こえたのか聞こえなかったのかは耀哉にしか分からないが、耀哉は気にも留めなかった。

 

「皆が珠世さん達を認めてから……と思ったけど、貰った情報の一端を皆で共有しようか?……炭治郎っ。」

 

「は、はいっ!」

 

耀哉はそう言って炭治郎の方向へと振り向き、名前を呼ぶと炭治郎は声を掛けられるとは思わず、つい吃ってしまった。

炭治郎は恥ずかしかったのか、少し頬を赤く染めたが耀哉は何も言わず楽しそうに微笑んだ。

 

「炭治郎。君がしのぶに説明した様に、此処に居る全員に"珠世さんと愈史郎さん"の事と"鬼に植え付けられる鬼舞辻無惨の呪い"について説明してくれるかい?」

 

「はい、分かりました。御館様っ。」

 

「……呪い?……っ?」

 

誰が呟いたのか定かではないが、呪いと言う単語に疑問を浮かべた。尤も、事情を知らぬ者達全員が疑問に思っていたが。

炭治郎はそんな者達を余所に、姿勢を正して説明するための心の準備をしていた。一度深呼吸をしてから、炭治郎は説明を始める。

 

「えー……では恐れ入ります。俺が、竈門炭治郎が御館様の命によりこの二件について説明させて頂きます。実は……」

 

『……っ!!??』

 

炭治郎が始めた説明に、初見の者で驚愕しない者は居なかった。行冥達は皆、炭治郎に食い入る様に耳目を集中させた。

 

 

 

 

 

 

『……』

 

「……以上が、珠世さんと愈史郎さん及び無惨の呪いに関しての情報になります……御館様。」

 

「うん、十分だよ。ありがとう、炭治郎。ご苦労だったね。」

 

「いえ、とんでもないです。」

 

今から約一週間前、藤の花の家を務める薬師寺ひさ邸でしのぶに説明した様に、炭治郎は産屋敷一家や鬼殺隊の柱達を相手に説明して見せた。

耀哉が質問を一切許さず、炭治郎の説明を最後まで聞く様に言ったためものの十五分程でこの二件の説明が終了した。

耀哉が説明を終えた炭治郎を労うと、今度は自身が行冥達に話し掛けた。

 

「さて、先刻(さっき)炭治郎が説明してくれた内容に関しては、全て事実であると私が保証するよ……それにしても、千年以上掛かっても産屋敷家(私達)鬼殺隊(子供達)が手に入れらなかった鬼の真実に関する情報をこうも簡単に手に入れてしまうなんて、なんだか不思議な感覚だね。」

 

『……っ。』

 

「……」

 

耀哉は感慨深げにそう呟くと、行冥達は少し落ち込んだ様に顔を俯かせた。自分達の不甲斐無さ、無能さを遠回しに責められている様に思ったからだ。尤も、耀哉が行冥達を無能と謗り、責め立てる様な真似などする訳が無いのだが。

しかし、その中で天元だけが顎に手を置いて何やら深刻そうに考え事をしていた。天元の様子に気付いた耀哉が、気になって尋ねてみた。

 

「天元、どうかしたのかい?」 

 

「……はっ、御館様……俺から御館様に進言したい事が一つあります……っ!」

 

「何かな? 言ってみなさい。」

 

耀哉に促された天元は、一呼吸おいてから答えた。

 

「無惨の呪いに関しては理解しました……しかし、それだとこの産屋敷邸(おやしき)に鬼が三体も居る時点で、無惨に産屋敷邸(此処)を補足された恐れがあると思われます……っ。」

 

『!!!』

 

『……』

 

天元の発言に選り、その場の反応は真っ二つに分かれた。

何一つ情報を事前に知らず初見である行冥達と、事前に情報を精査している炭治郎達だ。

中でも行冥側で特に五月蠅く喚き散らすのが二人居た。

 

「いやああああぁぁぁぁぁ~~~産屋敷邸(此処)が無惨にバレた~~~~早く逃げないと殺されるうぅぅぅぅぅぅっ!!!」

 

「何喚いてんだ腰抜け紋逸っ! 鬼の親玉が自分から来てくれるってんなら上等だぁっ! 俺様がぶっ殺してやらあぁぁっ!!」

 

「……ちっ。」

 

善逸と伊之助である。正反対の反応を騒がしく示す二人だったが、そんな二人を不愉快そうにしのぶが見ていた。

 

「……っ!」

 

「「っ!……(コクッ)」」

 

しのぶはアオイとカナヲに目配せ(アイコンタクト)すると、直ぐに気付いた二人の行動は早かった。

 

「「フンッ!!」」

 

「「げほぉっ!!」」

 

カナヲが善逸を、アオイが伊之助の鳩尾に正拳を一撃入れ込むと、善逸と伊之助は悶絶して蹲った。

愈史郎の時と違い、手加減されたのか気絶まではしなかったが大人しくなった。

しのぶはその様子を見て、満足そうに頷いた。

 

「……あの馬鹿二人の言う事を支持する訳ではありませんが、御館様はお急ぎあまね様達をお連れして産屋敷邸(おやしき)から退避されて下さいっ。後の事は俺達が……。」

 

「おい、この馬鹿騒ぎは何時まで続ける心算だ?」

 

『っ!』

 

毒の籠った辛辣な暴言に、騒がしかった空気が一瞬にして霧散する。そう言ったのは、今の今まで沈黙を守り続けていた愈史郎だった。

しかし、産屋敷本邸襲撃の危機を馬鹿騒ぎと切り捨てられて怒りを覚えない行冥達ではない。先ず反応したのは進言した天元だった。

 

「てめぇっ! 何が馬鹿騒ぎだってんだオラァ……。」

 

「お前らは何を聞いていたんだ? 珠世様も禰豆子も自力で呪いの解呪に成功していると言っているんだよ……そして俺は珠世様の手で鬼にされた男だ。あんな臆病な小心者に仕えた覚えなど一切無いっ! 無惨とは何の縁も無いわっ!!」

 

「……っ。」

 

『……』

 

「「……」」

――ああぁ、始まってしまった……。

 

愈史郎の説明を聞いて、焦燥していた行冥達は落ち着きを取り戻した。しかし、愈史郎は変わらず嘲笑や嘲弄の混じった視線で行冥達を睨み付けていた。

一方の炭治郎と珠世の二人は額に手を当てて、頭痛にでも悩まされているかの様に頭を抱えていた。

 

「第一、お前らは去年の終わり頃、今から三ヶ月以上前に禰豆子を一度産屋敷邸(此処)に連れて来ているんだろうが……もし呪いが残っていたら今頃産屋敷邸(此処)はとっくに無惨に襲撃されて灰も残っていないんだよ。そんな事も分からんのか? この薄ら馬鹿共がっ。」

 

「……てめぇっ……。」

 

天元は青筋を立てて、愈史郎を睨み付ける。実弥や小芭内もだ。しかし、愈史郎は気にも留めず、視線を逸らさず睨み返す。そしてふっと鼻で嗤う。

 

「何だ? お前らが馬鹿なのは本当の事だろう? 特に其処の無駄に派手で馬鹿げた格好をしたお前っ! お前の様な図体だけの見た目が派手な見掛け倒しの大馬鹿野郎を、世間では何と言うか知ってるか? "大男、総身に知恵が回りかね"って言うんだよ! 俺に指摘されるまで空騒ぎしてた馬鹿は黙ってろ。無駄に騒いでいたのは事実だろうがっ! 人の話もきちんと聞かずガタガタと喚き散らしやがって、恥を知れ恥をっ!!」

 

「っ!……こ……のっ……っ!!」

 

盛大に愚弄された天元は、血管がブチ切れそうになる程の怒りを覚える。しかし、自身の軽率な進言がこの騒動を引き起こしたのは事実だ。天元は地面に拳が喰い込む程に思い切り殴って堪える他無かった。

 

そんな天元を見ても、愈史郎は変わらず鼻で嗤って嘲笑すると、そのまま前へ進み始める。炭治郎は愈史郎を止めようとしたが、愈史郎は気にしない様に言って前へ進む。しかし急に立ち止まった。

 

「……御館様の客人とやらは……随分と礼儀と言うものを知らぬ様だな……。」

 

『っ!』

 

重みの含んだ声でそう呟いたのは行冥だった。沈黙して座していた行冥だったが、天元達と同様、先刻から愈史郎の口にする暴言に立腹していたのだろう。

額には青筋が浮かび、手に持つ数珠には力を込め過ぎたせいか、罅が入っていた。

 

常人ならば恐れ慄くところだが、愈史郎は気に止めはしない。

 

「おい、デカブツ。俺が礼儀知らずなら、お前ら鬼狩り共は恥知らずな上に役立たずと救い様が無い存在だろう?」

 

『……っ!!!』

 

「……何だと……っ?」

 

愈史郎の鬼殺隊の存在そのものを愚弄する言葉に、行冥達は憤怒する。この場所だけ温度が上がっている錯覚に陥るも愈史郎は気にも掛けない。

 

「直ぐにその言葉の意味。鬼殺隊(お前ら)、馬鹿共に教えてやるから黙ってろ。」

 

愈史郎は其処まで言うと一方的に会話を切り上げて、耀哉へと近付いた。それを見て炭治郎も動き出す。

 

「善逸、この()()を預かっておいてくれないか?」

 

「えっ?……お、おう。分かった。」

 

炭治郎は懐に入れていた手紙を善逸に渡すと、今度はしのぶと蜜璃に話し掛けた。

 

「しのぶさん、甘露寺さん。すみませんが、あまね様達が居る反対方向へ移動しておいてくれますか?」

 

「っ!……えぇ、良いわよ。」

 

「分かったわっ! 炭治郎君っ!!」

 

炭治郎に言われて、しのぶ達はあまね達が居る反対側へ移動を始めた。

 

片側に人口密度が集中したが、炭治郎達が居る大広間は少なく見積もっても三十畳はある大広間だ。十分過ぎる広さが有った。

炭治郎はそう伝えてから、急いで愈史郎の直ぐ後ろまで付いて行く。いざと言う時に、飛び出して愈史郎を守れる様に。

 

「おい、耀()()。鬼殺隊の柱とやらは、良い意味でも悪い意味でも寛容で寛大だな。実力さえあれば、どんな馬鹿でも柱に成れるんだからなっ。」

 

『っ!』

 

愈史郎のあからさまに侮蔑の富んだ暴言に、行冥達は激怒する。しかし、それは暴言の内容に激怒した訳では無かった。

 

「おい 鬼ぃッ! 何、御館様の御名前を呼び捨てにしてんだテメェっ!」

 

激昂した実弥が飛び掛からん勢いで、愈史郎に問い詰めた。しかし、愈史郎は溜め息をついて軽く実弥をあしらう。

 

「喚き散らすな、破落戸(ゴロツキ)同然の三下風情が。そんなもの、本人から直接そう呼んで良いと俺が許可を貰っているからに決まっているだろうが。」

 

「愈史郎さんの言う通りだよ、実弥。私の事は名前で呼んで欲しいとそう頼んだのだから、気にしないで欲しい。」

 

『!』

 

「御館様っ!……しかしっ!!」

 

愈史郎の言葉に、耀哉が援護する様にそう証言した。実弥はそれでも抗弁しようとするが、愈史郎がこれを黙らせる。

 

「本人が良いと言っている事に、お前如きが嘴を挟む気か?」

 

「……っ!!」

 

愈史郎の指摘に、実弥は悔しそうに奥歯を噛み砕く勢いで歯軋りしつつ、何とか堪えて耀哉に膝を着き頭を垂れた。

漸く大人しくなった実弥に対し、愈史郎はそれでも鼻で嗤う。

 

「ふんっ。知性も理性も無い、薄汚い狂犬風情が。最初からそうやって行儀良くお座りしていれば良いんだよ。耀哉っ、この柱合会議が始まる前に、俺の言った要求を覚えているな?」

 

そう言ってからまるで路傍の小石を見るが如く、愈史郎は実弥への関心を失くして耀哉にそう尋ねた。

 

「ああ、勿論覚えているよ……でも剣士(子供)達には少し加減してくれると私としては嬉しいかな?」

 

「そいつは保証出来そうに無い……それだと"俺が言いたい事"が全部言えなくなるからな。」

 

『っ!』

 

愈史郎の言葉に、炭治郎やしのぶは緊急柱合会議が始まる前の事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

『先に断っておくぞ。俺は正直言って、珠世様と違ってこの合流に関しては納得していないんだっ。』

 

『『『『『『っ!』』』』』

 

『愈史郎さんっ!』

 

『愈史郎っ!』

 

珠世の話が終わった後に、突如として愈史郎がそう切り出した。

今更とも言える愈史郎の発言に、耀哉達は驚き、炭治郎も珠世も焦燥を見せる。

 

『今更、この合流にどうこう言う積もりは無い。だが一つだけ、許して欲しい事がある。』

 

『何かな? 愈史郎さん。』

 

耀哉が気になってそう尋ねると、愈史郎は答えた。

 

『俺は柱合会議で、下手に出る積もりも言う事を自重する積もりも無い。言いたい事は余さず言わせて貰う。たとえお前達にとって耳にするのも嫌な事も、俺は平気で言わせて貰うぞ。』

 

『っ!』

 

『……分かった。それぐらいであれば、お安い御用と言うものだよ。』

 

『なら、取引成立だな。鬼殺隊の頭領様は話が分かる様で助かる。』

 

耀哉が愈史郎の条件を承諾し、耀哉に要求が承諾された愈史郎は満足そうにそう言った。二人はそのまま自然な流れで握手を交わした。

 

『愈史郎……貴方は合流する時「私の意思を尊重する」と言ってそれ以降は何も言わなかったじゃない……。』

 

『はい、確かに俺は珠世様にそう言いました。』

 

珠世の言葉に、愈史郎は肯定した。愈史郎は続ける。

 

『俺は、珠世様と二人で静かに暮らせて行けばそれだけで良かった……だがそれでは珠世様の悲願は叶えられない。』

 

『俺の我が儘同然の願いなんて今更どうだって良い事だ。俺自身、二つの理由があってこの合流に賛成した。』

 

『二つの理由?』

 

炭治郎が復唱する様にそう言うと、愈史郎は肯定して頷いた。

 

『そうだ。一つ目の理由は勿論、無惨を倒す事が珠世様の長年の悲願だからだ。この手で叶えるお手伝いがしたい。』

 

『では、もう一つの理由は?』

 

『もう一つの理由はな……』

 

其処まで言うと、愈史郎は炭治郎としのぶを見て微笑んだ。

 

『お前達が無惨の鬼共との戦いに生き残って、幸せになって欲しいと思ったからだよ。炭治郎、しのぶ。』

 

『っ!?』

 

驚く炭治郎達を余所に、愈史郎は再び耀哉と向き合った。

 

『耀哉。とにかくだ。お前は今日集まって来る柱共を押さえ込んでくれよ。一々邪魔されては敵わんからな。』

 

『分かった。剣士達(こどもたち)には、私の方で言い聞かせておくよ。』

 

『頼んだぞ、耀哉。』

 

其処で耀哉と愈史郎の話は終わった。何も言えなかった炭治郎達だったが、炭治郎達は眩しいものでも見る様に微笑んだ愈史郎の微笑が忘れられなかった。




大変お待たせしました。今回から緊急柱合会議編の序章です。
今回で愈史郎の毒舌が片鱗を見せましたが、エンジンが掛かっただけです。次回で凄まじい罵詈雑言が飛び交うので、大荒れに荒れますが、御了承下さい。

次回の更新は八月中です。今回四十日以上掛かってますが、此れよりかなり早く更新しますのでお待ち下さい。

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槇野様
pixivユーザー
https://www.pixiv.net/users/36500165
しのぶ愛に溢れた方で炭しの・ぎゆしのssを中心に活動されています。
私は炭しのssしか読んでいませんが、どの作品も幸せに溢れていて読んでいるだけで気持ちが良くなる名作ばかりです。ブラックコーヒーがカフェオレに感じるくらい甘いですよ〜!

ユウユウ様
pixivユーザー
https://www.pixiv.net/users/51043097
炭しのssを中心に活動されています。

日の呼吸が使えるお日様の師匠は紫蝶
https://www.pixiv.net/novel/series/1336870
炭治郎君が義勇ではなくしのぶさんに拾われた。と言う原作改変ssです。タイトルやサブタイトルに拙作と類似性があるのは拙作を参考にされているからだそうです。実に光栄な話です。

mowlio様
pixivユーザー
https://www.pixiv.net/users/4367953
炭しのや炭ナエを書かれている作者様です。

真心は、グラスに添えて。
https://www.pixiv.net/novel/series/1345403
珍しい炭ナエでの現代パロss。花言葉ならぬカクテル言葉を交えて繰り広げられる大人な恋愛が魅力です。この作品を読んで初めてカクテル言葉と言うものを知りました。

"お酒は二十歳になってから"

長子力溢れる炭治郎君とカナエさんの大人なやり取りをお楽しみ下さい。

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
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