※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

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※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*超辛口表現有り。苦手な方ご注意ください。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第参拾弐話 日輪は荒れ狂う風を鎮める

「炭治郎。これで君は、左近次と義勇に加えて合計で五人の命がその双肩に掛かった事になる訳だけれど……私は大丈夫だと思っている。しかし、気は抜かない様に気を付けなさい。良いね?」

 

「はいっ!」

 

耀哉にそう激励と戒めを受けて炭治郎は再び抱き付いて離れない禰豆子に抱き締められたまま、重々承知と元気良く返答した。

炭治郎の返答を聞いて、耀哉は切り替えて自分から議題を切り出した。

 

「では、今度は私からある議題を始めよう……実弥、君の処分についての事だ。」

 

『っ!』

 

耀哉の切り出した議題に、大広間に緊張が走った。実弥は唇を僅かに噛む。

しかし、しのぶだけは禰豆子への苛立ちを抑えて、満面の笑みを浮かべながらその議題に先陣を切って話し始めた。

 

「御館様、不死川さんを処分する事に私は大賛成です……まさか皆さん、あんな大騒動を引き起こしておいて、処罰の一つも無いとでも本気で思っていたと?……個人的には、今直ぐこの手で殺してやりたいくらいなのですがね。」

 

『っ!』

 

「……っ!」

 

笑みが消え、しのぶは濁った双眸で静かに実弥を睨み付けた。日輪刀を手に掛けて何時でも抜刀出来る様にしており、顔中に青筋を立て濁った双眸は憤怒と憎悪と殺意で染まっていた。

 

しのぶの行動に、アオイとカナヲも同様に日輪刀に手を掛けた。アオイ達もまた、炭治郎を傷付けた実弥に強烈な怒りを覚えていた。

 

「あの……しのぶさん、そのっ……。」

 

しのぶ達の憤怒の匂いに咽そうになりながら、炭治郎がしのぶ達に声を掛けた。

炭治郎の声を聞いて、しのぶは手に掛けていた日輪刀から手を離した。しのぶは満面の笑みを浮かべながら、手を叩いて炭治郎に顔を向ける。

 

「冗談ですよ❤ 炭治郎君っ❤ 大真面目な話、そんな愚断を犯せば鬼舞辻無惨を喜ばすだけです。感情の制御が出来ない其処らのお馬鹿さん達と違ってそんな真似など致しませんよ❤」

 

「そ、そうですか……ほっ。」

 

愛情に満ちた笑みを浮かべて、しのぶは炭治郎にそう話し掛けた。炭治郎は匂いを嗅いで嘘ではないと知ると、安堵の表情を浮かべる。

 

しかし次の瞬間、炭治郎はしのぶの発言を聞いて固まってしまう。そうなるとはまだ知らない炭治郎を余所に、しのぶは再び耀哉に向かって話し掛ける。

 

「ですので、御館様。私、蟲柱・胡蝶しのぶが不死川さんの処罰について献策致します。不死川さんに関しては柱の地位を剥奪っ! 階級も一番下の『(みずのと)』に降格して死ぬまで使い潰すべきです。それこそ散々使い倒して、使いものにならなくなったらボロ雑巾の様に捨ててやりましょう!」

 

『っ!?』

 

妙案だと思っている自身の思い付いた提案を、満面の笑みで耀哉に献策する。これには行冥達も面食らって絶句してしまう。

何の反応も示さない行冥達に、しのぶはきょとんとした表情を浮かべた。

 

「どうなさいました、皆さん? 今後、珠世さんと愈史郎さんに手を出せば柱でも処罰されるのだと言う、良い見せしめが出来ますでしょう? それをすれば、不死川さんと同じ過ちを犯すお馬鹿さんが居なくなります。

不死川さんも柱として柵が無くなって動き易くなりますから、罰則と言っても利のある判断です。

御本人自ら言ってましたけど、自分は鬼を狩る事しか能が無いらしいですからねぇ?」

 

しのぶは未だ俯いて沈黙を貫く実弥を横目で睨み付けながら、そう言って持論を展開した。

 

「……っ。」

 

「何ですか、その薄汚い目線は? 死罪になって犬死する訳でも無く、謹慎なんて中途半端な処罰で飼い殺しにされて暇を持て余す事も無い、極めて妥当な提案をした心算なんですけどね。私に対して感謝の一言も無いんですか?」

 

塵芥でも見る様な蔑んだ視線で、しのぶは実弥を睨み付けた。しのぶは続けて吐き捨てる様に、実弥に向かって断言する。

 

「それから不死川さん。貴方は今後、蝶屋敷を永久に出入り禁止です。今後の治療や薬の入手等は、自分で勝手に医者や薬師を手配して下さい。蝶屋敷の敷居を一歩でも跨いだら、不埒な不法侵入者としてその場で処断してやりますからその心算で。」

 

「胡蝶……貴様、調子に乗るなよ……。」

 

しのぶの一方的な言い分に対して、ついに小芭内が怒りを込めて忠告する。しかし、しのぶは怯まず鼻で嗤う。

 

「何ですか? 伊黒さんに何か代案があるなら言えば良いだけでしょう? 御館様も仰いましたが、信賞必罰は組織を運営する上で必定です……まさかこのまま有耶無耶にして凌げるなんて、誰も思っていないでしょうね?」

 

「言葉を慎め、胡蝶……御館様に向かって無礼だぞ。」

 

熱り立って口調がきつくなって行くしのぶに対し、見兼ねた行冥が注意する。しかし、この行為がしのぶの怒りの炎に油を注ぐ。

 

「何故、御館様への無礼になるのか理解出来ないのですが? はっきり言っておきますけど、不死川さんが御咎め無しとなっては、無駄に傷付いた炭治郎君や『隠』の皆さんが報われないではありませんか?

「柱なら何をしても許されるのか。」と隊士達から反発を招きますよ?

珠世さん達へ危害を加えても処罰されないと、勘違いするお馬鹿さんの出現や対応も懸念されますし……第一、私は不死川さんや伊黒さんと同列に見られるなどごめん被ります。迷惑極まりないっ!」

 

「しのぶっ!!」

 

「おいっ! 胡蝶!!」

 

「……っ!」

 

行冥と天元が、大声を上げてしのぶに注意をする。二人のその大声に苛立ち、しのぶは青筋を立てる。

 

「しのぶさん。」

 

「っ!」

 

最愛の恋人である炭治郎に声を掛けられて、しのぶはハッとなる。しのぶの左手は、炭治郎の右手で優しく包まれていた。冷静さを取り戻したしのぶは三回程、深呼吸を繰り返してから耀哉に話し掛けた。

 

「御館様。御見苦しいものを御見せしてしまい、誠に申し訳御座いません。」

 

「いや、良いんだ。しのぶの言う事も一理有るのは事実。そもそも、眼前で大切な恋人(ひと)を傷付けられて、怒るのは当然の事だよ。」

 

「御館様……ですがっ。」

 

しのぶの謝罪に対し、耀哉は穏やかな声で先刻のしのぶが行った言動を擁護した。それに対し、行冥はしのぶのあまりに強硬な態度に異議を唱えようとする。

しかしそれに輝哉は一切構う事無く、実弥の処分についての議題を話し続ける。

 

「そう目鯨を立てる事は無い。しのぶの言う様にあれだけの醜態を引き起こしておいて、実弥が処罰の一つも受けずに済む筈が無いじゃないか……被害者が炭治郎だから、こうして内々で片付けられるんだよ?」

 

行冥達を宥める様にそう言った耀哉だったが、言い終わった途端に静かになった。しかし次の瞬間、実弥はブルっと身体を本能的に震わせた。

 

耀哉の目線は『紙眼・視』で隠れていると言うのに、その耀哉から丸で蛇に睨まれた様な鋭い視線を感じたからだ。『紙眼・視』の中心に描かれている瞳の部分が、不気味に上下左右に動き回る。

そして実弥の感じた、耀哉からの視線が錯覚では無かったと耀哉の発言から確信する事になる。

 

「……もし実弥が珠世さんを傷付けていたら、私は迷う事無く実弥を処刑していただろうから。」

 

『っ!?!?』

 

耀哉の口から直接、"処刑"の二文字が出た事に行冥達に戦慄が走った。妻のあまねも、実子の輝利哉達も驚愕を隠せない。炭治郎もまた、思わず固まってしまう。

そのためか、炭治郎はしのぶもアオイもカナヲも耀哉の言葉を耳にして暗い笑みを浮かべていた事に気付かなかった。

 

「お、御館様……御戯れを……。」

 

「……」

 

「「っ!?」」

 

行冥がその巨躯を僅かに震わせながら、耀哉を諫める様に諫言した。その瞬間、炭治郎と善逸が身体をブルっと震わせた。行冥がそう言った直後、耀哉の憤怒の匂いと音が強くなったからだ。

 

「行冥……まさか私がこんな事を冗談で言うと、本気で思っていないだろうね?」

 

『っ!?』

 

行冥達は耀哉の言葉に震え上がった。何故ならはっきりと分かる程に、憤怒を隠す事無く曝け出しながらそう言ったからだ。しかし、耀哉は行冥達に構わず話を続ける。

 

「私が招待した客人達に対して、『隠』の仲間(子供)達に暴力を振るってまで日輪刀(かたな)を奪い、感情のままに凶刃を振るうなど、許されると思っているのかな?」

 

「っ……しかし、こいつらは鬼で「小芭内っ。」……っ!」

 

耀哉が実弥のために弁論を吐く小芭内に対して、黙らせる様に強い口調で小芭内の名前を呼んだ。そのため小芭内は弁論の途中で、閉口して沈黙せざるを得なかった。

 

「殺意も敵意も抱かず、慈悲と慈愛を持って治療を施してくれた(珠世さん)と只々、憎悪に支配され感情の奴隷となって凶刃を振るった人間(実弥)……果たしてどちらが醜悪な存在なのだろうね?」

 

「っ!……そ、それは……っ。」

 

「私には、後者が人間の姿形をしている化け物にしか見えない訳だが……君は、皆はどうなのだろうね?……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私に共感してくれる筈だ。そもそも、答えは一目瞭然だと思うよ?」

 

『っ!?』

 

明確に憤怒を露わにしながら、耀哉は実弥を断罪する様にそう断言した。

 

 

 

バッ!!!

 

 

 

憤怒する耀哉に恐れをなして、行冥達は咄嗟に平伏して頭を垂れた。その中には汗をダラダラと絶え間なく流す者が幾人も居た。

 

「私はね。心の何処かで珠世さんと合流する事を諦めていたんだよ……炭治郎が尽力してくれるまでは。」

 

『っ!』

 

しかし、その様に戦慄する行冥達に一切気に掛ける事無く、淡々と語り始めた。

 

「無惨から隠れている珠世さんを見つけられたとしても、鬼を深く憎悪している君達がその存在を許容出来るとは思えない。

しかし、君達が鬼によって味合わされ来た艱難辛苦を考えれば、それも仕方が無いと私は諦めるしかなかった。」

 

「また、珠世さんからして見れば鬼殺隊(私達)を信じられる要素など一つも無かった。

愈史郎さんが先刻(さっき)言っていた様に、話も聞いてくれずに問答無用で殺される危険性を考えれば、合流など出来なかっただろう……。」

 

『……』

 

耀哉の語った本音に、行冥達は沈黙したまま耳を傾ける。

 

「だが、私は愈史郎さんの叱責で目が覚めた心地だよ。私の心中で、本当の意味で持つべき覚悟が決まったからだ。」

 

耀哉がそう言うと、強い決意を持って断言した。

 

「私が成さなければならない大望とは、鬼殺隊の創設者たる先祖からの悲願である"鬼舞辻無惨の討滅"。そのために剣士(子供)達に慮ってばかりいてはその大望も、未来永劫に渡って達成出来ないのだとね。」

 

『……』

 

「そして猛省もしている。私は今の今まで、剣士(子供)達に対して親馬鹿が過ぎていた様だ。私の自己満足でしかないこの親馬鹿のために、救えた筈の命が一体幾つ失われたのかと思うと、恥ずかしくて……情けなくて仕方が無い気分だよ。」

 

『……っ。』

 

行冥達は耀哉の言葉を受けて、沈黙が沈痛に変わった。自分達の行動が、立ち振る舞いが耀哉を煩わせていたのだと、漸く自覚したからだ。行冥達は大いに自身に恥を感じ、自己嫌悪に陥った。

 

「御主人様に此処まではっきり言われないと自覚も出来ないのか、この役立たずの駄犬共は。」

 

『っ!?』

 

沈痛する行冥達に対して、死者に鞭打つが如き苛烈な罵倒が襲った。それを口にしたのはやはりと言うべきか、当然と言うべきか、座らず壁側に寄り掛かっていた愈史郎だった。

 

「ゆ、愈史郎君……。」

 

「愈史郎っ!」

 

蜜璃が焦燥して困り果てた様子で、愈史郎に声を掛けた。珠世も語気を強めて愈史郎を呼ぶ、しかし、愈史郎は珠世に一礼するだけで止まる気配が無かった。

珠世は青褪めながら、愈史郎への視線を逸らさず見守った。

 

「耀哉に其処まで言わせるんだ。お前らは一体、どんな過去を持っているんだ? 家族を鬼に皆殺しにされて、そのまま喰われたか? それとも家族を鬼に変えられたか? はたまた両方か?」

 

『っ!!!』

 

「ちょっ!? ゆ、愈史郎さんっ!」

 

傷口に塩を塗るが如き、無遠慮で無神経な口撃が大広間に響き渡る。

炭治郎も流石に拙いと感じたのか、堪らず愈史郎に声を掛けた。しかし愈史郎は止まらない。

 

そして間も無く大広間に居る全員が、愈史郎の最初の口撃はほんの挨拶代わりでしかなかったのだと心胆まで思い知る事になる。

 

「貴様ら、柱共がどんなに惨めな過去を経験したか知った事では無いし、興味も無いがな……はっきり言って下らん負け犬の感傷だな!!!」

 

『!!!!!』

 

愈史郎は行冥達の過去を土足で踏み躙るが如き残酷な断言を下した。しかし、愈史郎は火が着いた松明の如き勢いを保ったまま止まろうとはしない。

 

「鬼殺隊が千年間敗北に敗北を重ね続けて来た所為で、鬼の被害者なぞ巨万(ごまん)と居るんだよっ! 自分だけこの世の不幸を背負った、三文小説に出て来る悲劇の主人公気取りかっ!? 貴様らが舐めた辛酸苦渋なんざ、其処ら中に転がっているわっ!!」

 

『……っ!』

 

激昂した愈史郎の発言に、行冥達は怒りで拳に力が籠もる。しかし、愈史郎は行冥達の様子を見てただただ鼻で嘲笑う。

 

「薄汚い憎悪を発散する理由付けも、好い加減にしろ! 無惨を探して倒すのに貴様らの身の上話が何の意味を持つ? 一体、何の役に立つと言うんだ?」

 

『……っ。』

 

挑発的な愈史郎の罵倒に、行冥達は怒りに身体を震わせるが、それしか出来なかった。

言葉は悪いが、愈史郎は正論しか吐いていないからだ。

 

耀哉に言われて自分達の立ち振る舞いが、結果的に鬼殺隊全体の足を引っ張っていたと自覚させられては、反論の仕様が無かった。

その事を重々承知している愈史郎は、更に行冥達の傷口を抉って広げるために更に苛烈な口撃を行う。

 

「貴様らの薄汚い憎悪を無惨本人にぶつける刻ならいざ知らず、今は何の役にも立たないんだよっ!! 身勝手な復讐心を胸中に抱いて憎悪の憂さ晴らしが許されるのは、あくまで一般隊士(下っ端)までの話だ!」

 

一般隊士(下っ端)ならば、眼前の鬼を如何に倒すかを全力で考えれば良い!……だが柱ならば! 如何に鬼の被害を食い止めるか!……無惨を、上弦の鬼共を如何に探し出して、どうやって倒すか!……もっと広い視野でものを見て考えろっ!

一般隊士(下っ端)共の上に立たねばならない(貴様ら)が、何時までも同じ土俵に立つ事が許されるなんて思うなよ?!」

 

『っ!』

 

愈史郎の鋭い指摘に、行冥達は反応するも未だに何も答えられない。愈史郎は、更に侮辱の念を込めて行冥達を断罪した。

 

「柱の責務を理解せず、只々眼前の鬼を倒して憎悪の憂さ晴らしを優先している貴様らに、柱の肩書を背負う資格は無い!

産屋敷本邸(此処)は理性を持って情報を共有し、無惨一党の対策を練る大人の場だ! 感情に振り回されてチャンバラごっこをしている餓鬼共の遊び場じゃないぞ!!」

 

幾度も鬼と戦い抜いて来たその結果、柱の地位を得た行冥達に向かって柱として相応しい資格が無いと無慈悲に斬り捨てると、止めとばかりに侮辱と軽蔑の念を込めて吐き捨てた。

 

「耀哉の言葉を今一度噛み締めてその胸に刻み込んでおけ!……それでも尚、理解出来ない、納得出来ないと言うのなら、さっさと柱の地位を捨てて産屋敷本邸(此処)から消え失せろ! 存在自体が邪魔だっ!! この糞餓鬼共っ!!!」

 

『!!!!』

 

愈史郎の止めの一言に、大広間はシンと静まり返った。

 

『……』

 

しかし、行冥達は沈痛したまま黙して行動に移る事は無かった。先刻と違って天元の様に武器になる物を持っていないと言うのもあるが、耀哉に叱責されて自身の不甲斐無さを嘆いていたのだ。

 

「愈史郎さん、其処までにしてあげておくれ。」

 

『っ!』

 

大広間を支配していた沈黙を破ったのは、耀哉であった。耀哉は先刻と違い、憤怒が消え去り穏やかな口調で愈史郎に話し掛ける。

 

「かなり乱暴な口調ではあったけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、心から感謝しているよ。ありがとう、愈史郎さん。」

 

『っ!?』

 

耀哉の言葉に、行冥達は強い衝撃(ショック)を受けていた。愈史郎の口調にこそ苦言していたが、内容には同意していたからだ。どん底に突き落とされた行冥達は、強烈な羞恥心をその身に叩き付けられる結果となった。

 

「さて……()達へのお小言もこの辺で切り上げるとしようか?……十二分に反省しただろうし、これ以上は時間の無駄になるからね。」

 

『……』

 

耀哉の言葉に、行冥達は返答する気力も無く只々頭を垂れる他に無かった。

 

「さぁ、議題(はなし)を続けようっ……もう一度言うが、流石に御咎め無しと言う訳には行かないし、そうする心算も無い……況してや有耶無耶にするなど、有り得ないんだよ。理解しているだろうね、実弥?」

 

「御意……。」

 

耀哉に話し掛けられて、実弥が初めてその重い口を開いた。

 

「己がしでかした醜態の罪深さ、重々承知しております。如何なる処罰も、甘んじて受ける所存に御座います。何卒、厳正なる処分を……っ!」

 

「そうか……なら、炭治郎。」

 

「は、はい! 御館様。」

 

耀哉の呼び掛けに、炭治郎は即座に応じた。そして周囲の驚愕させる言葉を口から走らせた。

 

「実弥の処分に関してだけど、君に全て一任しようと思っているんだ。」

 

『っ!?』

 

驚愕する周囲を余所に、耀哉は炭治郎を真っ直ぐ見詰めて淡々と続ける。

 

「俺に一任……ですか?」

 

「ああっ。『隠』の子供達も、皆が炭治郎の判断を尊重すると言ってくれているんだよ。

だから君が実弥への処罰を望まないと言うのなら、これ以上は実弥を咎めず不問にしよう……逆に死罪を実弥に求めるならば、今この場で私が実弥に切腹を言い渡そう……但し、介錯は炭治郎、君の手で実行して貰う事になっても良ければ、の話だけどね?」

 

『っ!!!』

 

耀哉の口から死罪の二文字が出て来た事に、行冥達は大いに驚愕した。先刻、"処刑"の二文字を聞いているとは言え、やはり驚愕を隠せない。

 

「御待ち下さいっ! 御館様っ!!……それはあまりにも……っ!」

 

「あまりにも?……小芭内、その言葉は炭治郎と実弥、どちらのために言っているのかな?」

 

「……っ。」

 

思わず立ち上がって抗弁する小芭内に、耀哉は指摘する。その指摘に小芭内は口を噤んだが、それも一瞬の間だけ。直ぐにはっきりと耀哉に向かって反論する。

 

「恐れながら、蛇柱・伊黒小芭内が御館様に申し上げます。被害者である竈門炭治郎に不死川の生殺与奪の権利を一方的に握らせるなど、それではあまりにも公平性に欠ける様に思われます。

胡蝶も先刻、指摘した様に柱を自らの手で欠けさせるなど、鬼舞辻無惨を喜ばせるだけ。何卒、御再考下さい。」

 

小芭内は自身の主張をはっきりと耀哉に伝えた。しかし、耀哉は『紙眼・視』で上半分が隠れた顔からはっきりと分からない笑みを浮かべるだけだった。

その不気味な笑みを浮かべたまま、耀哉は小芭内の主張に答えた。

 

「小芭内。君はちゃんと先刻(さっき)起こった大騒動を見ていなかった様だね?……そして未だに君は炭治郎と禰豆子、そして珠世さんと愈史郎さんの重要性が分からないみたいだ。」

 

『っ!』

 

「……御館様、それはどう言う……っ?」

 

先程の激怒した耀哉の様子を思い出して、小芭内は震えが止まらなかった。鏑丸も怯えて、顔を隠している。周囲もまた、耀哉の様子を見て動揺が走る。

 

「君達は"始まりの呼吸の剣士"以来の逸材だと、私は誇りに思っているよ。そんな皆にはっきりと言って置くけれど、私は君達と同等かそれ以上に珠世さんと愈史郎さん、そして炭治郎と禰豆子はこの先の鬼達との戦いと無惨との決戦時に無くてはならない存在だと認識しているんだ。」

 

『っ!』

 

耀哉の炭治郎達に対する評価に、全員が驚愕する。何より炭治郎達本人が一番驚いていた。禰豆子はよく分かっていなかったが。

 

「命を天秤に掛けるなど以ての外だけれど、実弥一人のためにこの四人は失われて良い命では無いんだよ。危うくこの先の対無惨、対上弦の鬼、対鬼用の戦略や作戦、計画が全て台無しにされるところだったんだ。

それに被害者と加害者……両者を天秤に掛ければ、加害者の権利が被害者の権利より凌駕してはならないのは自明の理だと思っているんだけど、小芭内の考えは違うのかな?」

 

「っ!……御館様の仰る事は御尤も……ですがっ!」

 

「もう良い……止めろ、伊黒。」

 

「っ!」

 

未だ耀哉に対して抗弁する小芭内に対し、制止する者が現れた。加害者として糾弾されている実弥本人である。

 

「庇ってくれんのは嬉しいけどよ、ケジメを着けなきゃならねぇのは事実なんだ。これ以上、俺に恥を掻かせないでくれ。」

 

「不死川……分かったっ。」

 

そう言って小芭内を実弥は制止した。すると別の人物も声を上げた。

 

「伊黒。その辺で諦めたらどうだ?」

 

「冨岡……。」

 

抵抗する小芭内に対し、声を掛けたのは羞恥心が抜けた義勇だった。義勇は更に続ける。

 

「(炭治郎が私情や私怨に満ちた判断を下す筈が無いだろう……)俺は好い加減にしろと言っている。これ以上の弁解は時間の無駄だ。見苦しい事この上無い。」

 

「何だとっ!?……冨岡、貴様……っ!」

 

「はいはい、喧嘩なら鬱陶しいんで余所でやって下さいねー。」

 

一触即発状態になる義勇と小芭内に対し、しのぶがウンザリとした様子で邪険する様に仲裁した。

しかし、そんな義勇達を置いて耀哉は強引に話を進めた。耀哉は少し強い口調で、小芭内に断言した。

 

「小芭内、これは決定事項……もう決まった事なんだよ。炭治郎っ。」

 

「……っ。」

 

「はいっ!」

 

小芭内を黙らせた耀哉は優しい声色で炭治郎の名前を呼んだ。炭治郎は元気良く返答すると、耀哉が炭治郎に尋ねた。

 

「実弥に下す処分は決まったかい?」

 

『っ!』

 

耀哉の質問に、大広間に居る全員が炭治郎に注目した。

 

「はいっ! 決めましたっ!」

 

『っ!!』

 

「……ほう。」

 

耀哉は炭治郎の言葉に、興味深そうに注目した。

炭治郎は耀哉の視線と興味の匂いを察して答えた。

 

「御館様、俺は……不死川さんへの処罰を求めますっ!」

 

『っ!!!』

 

振り下ろされる断頭台(ギロチン)の処刑刃が如き炭治郎の断言に、行冥達は驚愕した。

アオイ達一部の者達に至っては、優しさと善意の塊である炭治郎なら無罪放免にするだろうと思っていただけ、炭治郎の断言を耳にして固まっている。

尤も、しのぶだけは双眸を輝かせて炭治郎が次に何を言うのか期待していたが。

 

「……っ。」

 

そして実弥は、炭治郎の断罪の如き発言に顔を俯かせて拳を強く握りしめた。

そんな様子の実弥や固まる耀哉達を横目に、炭治郎は更に主張を続ける。

 

「ですが、死罪までは求めません。しのぶさんが仰った様に、無惨を喜ばせる様な真似はしたくは有りません。」

 

「だとしたら、炭治郎。君は実弥にどんな処罰を望むのかな?」

 

「はい、俺が望む不死川さんへの罰は……。」

 

其処まで言うと、炭治郎は一度深呼吸をしてからはっきりと断言した。

 

「絶対に俺の質問に正直に答える事と、絶対に俺のお願いに文句を言わずに承諾する事です!」

 

『っ!?』

 

炭治郎の想定外過ぎる要望に、大広間は騒然とした空気が流れた。

一方で、耀哉としのぶは非常に楽しそうに、興味深そうに笑みを零した。

 

「成程……確かに実弥にとって炭治郎に絶対服従を強いられるのは屈辱の極みだからね……分かった、許可しよう。」

 

『っ!』

 

「っ!……御館様、他の処罰ならば如何様にも謹んでお受け致しますっ!……ですが……ですがそれだけは……。」

 

実弥は懇願する様に、耀哉に対してそう言った。しかし、耀哉は変わらなかった。

 

「実弥……罰と言うものは受ける本人が嫌がるものでなければ本来の意味を無さないんだよ……この産屋敷邸に居る間は、炭治郎の言動は私の言動も同然だと思って接する様に。」

 

「…………」

 

「実弥っ。」

 

「っ!……御意っ。」

 

耀哉に強い声で呼ばれた後、実弥は内心では不承不承としながらも耀哉の言葉に従い、頭を垂れて承諾した。

 

「……すみません、失礼しますっ!」

 

『っ!』

 

炭治郎は実弥が耀哉の命令を承諾したのを見てから、一度立ち上がって実弥の眼前まで移動する。

実弥の周囲に居た者達は、空気を読んで道を開けて炭治郎を通した。

すると実弥の眼前に立った炭治郎は、姿勢を正してから対峙する様に実弥の前に座り込んだ。

 

「不死川さんっ! 早速ですが、俺には貴方に御尋ねしたい事が二つ程有ります!」

 

「……っ!」

 

実弥は視線すら炭治郎と交えるのが嫌なのか、顔を横に背けた。しかし、実弥のそんな態度にも大して気にする事も無く、炭治郎は質問を始めた。

 

「先ず一つ目……貴方は本当なら、珠世さんを殺す気も傷付ける心算も無かった。そうですよね? 不死川さん。」

 

『っ!』

 

「……っ。」

 

炭治郎の質問に対して、実弥は答えようとしない。尤も、炭治郎は気にしないのだが。

 

「不死川さんが珠世さんを斬ろうとした時……いや、それより前に珠世さんの顔を見て視線を交えた瞬間、俺は不死川さんから強い恐怖と拒絶の匂いが感じたんです。」

 

「でも、殺意の匂いは一切しなかった。ただ珠世さんを遠ざけたくて、珠世さんから離れたくて腕を振ったんだと思います。

もし本気で殺そうとしていたら、不死川さんなら咄嗟の動きでも頸を狙って斬ろうと思えば出来たと思いますからね。」

 

『っ!!』

 

「……」

 

「あぁ、もしそうなっていたら俺、冗談抜きで死んでいたかもね……色んな意味で紙一重で無事に終わって良かったんだなぁ……あはははっ。」

 

「笑えませんよ、炭治郎さん……。」

 

炭治郎が軽口を叩いて笑うと、珠世が苦言を呈した。もし炭治郎が死んでいたら、この緊急柱合会議は破綻していたのだから茶化して済む話では無かった。

 

「珠世さんの言う通りだよ、炭治郎……それはそうと実弥、炭治郎の指摘に間違いは無いかな? 有るならはっきり言う様に。」

 

「……御意。御館様の仰る通りで間違い有りません。」

 

炭治郎の質問には一切答え様とはしなかった実弥は、耀哉に尋ねられて初めて開口した。

 

「……っ。」

 

そんな実弥のあからさまな態度に、しのぶは青筋を浮かべて苛立っていたが、しのぶの様子に気付いた炭治郎が一度しのぶに声を掛けた。

 

「しのぶさん、落ち着いて下さい……それがはっきりしたなら結構です。俺はその件で貴方を責める心算はありませんので。」

 

「……」

 

炭治郎がそうはっきりと実弥に告げたのだが、実弥は再び顔を俯かせて炭治郎を無視した。しかし、炭治郎の一言が、実弥を無視出来ない事態に至らせた。

 

「ですが、不死川さんが珠世さんに危害を加えようとした事実に変わりありません。

なので、その償いとして……今後は定期的に不死川さんの稀血を珠世さんと愈史郎さんの御二人に提供する事を求めます。」

 

『っ!』

 

炭治郎の提案に、響きが大広間に広がった。しかし、耀哉だけが楽しそうに笑みを浮かべて炭治郎に話し掛ける。

 

「実弥の血を、珠世さん達に渡すのかい?」

 

「はい、御館様。どうせ摂取するなら、普通の血より稀血の方が珠世さん達の力になりますから。」

 

「成程、妙案だね……良いだろう、実弥。今後は定期的に珠世さんと愈史郎さんに、その稀血を提供しなさい……言っておくが、拒否する事など許さない。良いね?」

 

「っ!……っ……御意。」

 

実弥は絞り出す様に、苦しそうな声で耀哉に承諾した。しかし、それを見た珠世が遠慮がちに炭治郎に話し掛けた。

 

「あの……炭治郎さん。私達は別に無理に稀血を求める心算は無いわ。気を使わなくても良いのよ?」

 

「いいえっ! これは不死川さんの罰なんです! 珠世さん達こそ、御遠慮無さらないで下さいっ!」

 

珠世の言葉に対して、炭治郎は実弥への配慮など一切する事無くそう断言した。

 

「でも……。」

 

「珠世様、此処は炭治郎と耀哉の好意に甘えましょう。炭治郎の言う様に、俺達が遠慮する必要など何処にもありません……おい、三下。血を抜いても倒れずに済む様に、今後は怪我なんぞする事無く無惨の鬼共を倒せよな? まぁそんな実力もお前に無いのなら、話は別だがな。ふんっ。」

 

「っ!……ちっ。」

 

愈史郎が珠世を説得した後、実弥に向かって挑発的な言動をしてから鼻で嗤う。それを見た実弥は一瞬、青筋を浮かべるも何も出来る事はないため、舌打ちして顔を反らすしか出来なかった。

 

実弥と愈史郎の遣り取りが終わったのを見て、既に実弥から言質を取った炭治郎はしのぶに話し掛けた。

 

「しのぶさん。不死川さんの承諾を得たので……血も貰うにしても、新鮮な物に限ります。不死川さんの蝶屋敷出禁を解いてやって貰えませんか?」

 

「!……ええ、そうね。炭治郎君の言う通りだわ……不死川さんの出禁を解きましょう。不死川さん、先刻(さっき)の事は前言撤回します。ちゃんと蝶屋敷へ()()()通って下さいね。」

 

「…………ちっ。」

 

意地の悪い笑みを浮かべて、しのぶは実弥に向かって先刻と正反対の言葉をサラリとしたり顔で言ってのけた。しのぶの発言に、実弥は忌々しそうに舌打ちする。

 

これで実弥は今後、自身の稀血を提供するために毛嫌いしている鬼が何体も滞在している蝶屋敷へ通わなければならなくなったのだ。

 

その事に気付いたしのぶは内心で実弥の心情を嘲笑って敢えて"足繁く"と心にも無い事を笑って言いのけてみせた。しのぶの心情に気付いた実弥もまた、苛立ちながら舌打ちする他に無かったのだ。

 

一方の炭治郎は、実弥の事など一切気に掛ける事も無く二問目に入った。

 

「では、続けます。二つ目……と言うかこれが本題なんですけどね。単刀直入にお聞きします。貴方は()()と言う男を御存知ですよね?」

 

『っ!』

 

『っ?』

 

炭治郎の質問に、大広間は二つの反応に別れた。首を傾げる者と双眸を見開かせて驚く者でだ。尤も、前者の方が多く、後者の方が少なかったが。

 

「……いや、知らねぇ……。」

 

「不死川さん、嘘は吐かない約束ですよね? 真偽なんて、匂いで直ぐに分かるんです。無駄に時間を取らせない下さい……もう一度言いますが、()()を御存知ですよね?」

 

顔も合わせず小声で否定する実弥に対し、炭治郎は少し怒りを覚えながら声を強め、改めて実弥に質問した。

 

「っ……知らねぇって言ってんだろうがァ!……俺には()は居ねぇんだからよ!」

 

『っ!』

 

苛立ちが頂点に達した実弥が、炭治郎を突き放す様にそう否定した。

しかし、この時に口にした言葉を実弥は自覚していなかった。

 

「……今、貴方は"()"と口にしましたね? 不死川さん。」

 

「っ!?」

 

実弥は炭治郎の指摘を受けて、あっと言わんばかりに右手で口を押さえた。

炭治郎は動揺する実弥を見て、思わず笑みを零した。

 

「俺は"不死川玄弥"と姓名で言わず、名前しか口にしませんでした。それなのに御自分から"弟"と口にした……俺は玄弥が家族なのかすら、一言も言いませんでしたよ? 引っ掛けた俺も悪いですが、語るに落ちましたね? お兄さん?」

 

「テメェ……っ。」

 

炭治郎が意地悪い笑みを浮かべながら、実弥にそう言うと苛立ちから青筋を浮かべる。

しかし、炭治郎はそのまま畳み掛ける積もりは無かった。その理由は、カナエからの助言が理由に在る。

 

『あなた。不死川君に弟君の事を単刀直入に言っても、絶対に認めないと思うわ。前にしのぶがその事を不死川君に言ったら、頑なに弟だと認めなかったんですもの。

あっ! それから"鬼喰い"の能力についても知らないみたいよ。だから気を付けてね? 知ったら不死川君、ブチ切れるのが目に浮かぶから。』

 

――……なら別方向で攻めて認めさせれば良い。でも()()()を言ったら不死川さん、ブチ切れるだろうなぁ……。

 

炭治郎は激昂する実弥を脳裏で想像しながら、心中で覚悟を決めて話を続けた。

 

「不死川さん。改めて尋ねます。玄弥は貴方と血の繋がった弟ですね?」

 

「……違うっ!……あんな奴は俺の弟じゃねェ!!」

 

『っ!』

 

実弥は先刻よりも大声で炭治郎の質問に対して、強く否定した。

 

「……そうですか、分かりました。」

 

『っ?』

 

炭治郎は実弥の否定に対して、何か言う訳でも無かった。此処から炭治郎が実弥に怒涛の追求が始めるのだと思っていたばかりに、大広間には拍子抜けの雰囲気が広がる。

 

実弥もまた、怪訝そうに炭治郎を見た。

そんな雰囲気に押される事無く、炭治郎は冷静に淡々とした様子でゆっくりと言葉を吐いた。

 

しかし、炭治郎は冷静に、淡々としながらゆっくりと答えた。

 

「不死川さんがあくまでも「玄弥は弟なんかじゃない、赤の他人だ。」と否定し続けるなら、俺もこれ以上追求しません。」

 

『っ!』

 

「っ!……っ?」

 

「寧ろ俺としても、不死川さんに謝罪する手間が省けるから逆に良いくらいですよ。」

 

「……謝罪だァ……?」

 

満面の笑みを浮かべた炭治郎の一言に、実弥は益々怪訝そうに炭治郎を見た。自身が炭治郎に謝罪される謂れなど、実弥には心当たりが無かったからだ。

 

『……っ?』

 

『っ!』

 

行冥達は頭を傾げていたが、炭治郎の一言に心当たりが有るのかあっとした表情をする者達が居た。

産屋敷家と善逸の八人だ。そして善逸だけが顔色を青くしていた。

 

「お、おい! 炭治郎っ!! その話は……。」

 

「善逸、良いから黙っててくれ。」

 

善逸が思わず声を荒げて炭治郎を止めるが、炭治郎は逆に善逸を黙らせると自分から話を切り出し始めた。

 

「俺、"最終選別"を玄弥と一緒に参加したんですが……終わった後に少し喧嘩をしてしまいまして。で、その刻に玄弥の右腕を俺が圧し折ってしまったんですよ。」

 

『っ!?』

 

「なっ……!!」

 

炭治郎の思わぬ過去の暴露話に、行冥達は驚愕する。実弥も炭治郎の暴露話が一瞬、理解出来なかったのか双眸を見開かせて驚愕した。

 

「玄弥の腕を圧し折った事に後悔や罪悪感は一欠片も無いんですけど、ちょっと遣り過ぎたかなぁって思わなくも無かったんです。だから代わりにお兄さんに謝罪しようと思ったんですが、手間は省けました。ありがとうございます。」

 

「……テメェ……今何つったァ?……玄弥の腕を、圧し折りやがっただァ?」

 

実弥は炭治郎の言葉を、もう一度尋ねた。すると炭治郎は自身の行いに何とも思う事無く、左腕を前に出してから右手で掴んで説明を始めた。

 

「はい、ですからこうやって俺が玄弥の右前腕部分を掴んでからミシッ!……って感じで圧し折ったんですよ。握り潰す勢いでやったんですけど、人間の骨って存外硬いですよねぇ……ってあれからもう半年以上経つと思うと懐かしく感じるなぁ。あはははは。」

 

炭治郎が体験した、嘗て起きた出来事を懐かしそうに語ると、楽しそうに笑って見せた。

 

「……っ。」

 

この挑発的な炭治郎の態度が、実弥の堪忍袋の緒を引き千切る事になる。

そして実弥がそうなると予想した炭治郎はもまた、匂いで実弥の気配が変わったのを察知した。

 

――凄い怒りの匂いだっ!……っとまた不死川さんの右腕っ!!

 

「おわっ!?」

 

「っ!」

 

『っ!!』

 

実弥が激昂するのが予想出来たので、匂いを察した瞬間に身体を右側へ動かした。

すると既に実弥は唐突に身体を僅かに起き上がらせて、風の如き速さで炭治郎に接近していた。炭治郎の首が在った位置へ、実弥の右手が空を切った。

 

――速っ!?

 

しかし、それも紙一重だ。一呼吸でも炭治郎が遅れていたら、今頃は実弥に首を握られて鷲掴みにされていたに違いない。炭治郎はそれを理解して背中に冷や汗を流した。

 

「……フザけた事抜かしやがってェ糞餓鬼がァ! あァ!?」

 

実弥は顔どころか、首の血管をも浮かせる程に怒り狂っていた。あまりの殺意の強さから、もし首を掴まれていたらそのまま圧し折られていた可能性を考える程だ。

 

空振りに終わった実弥の初撃だったが、だからと言って諦められる程、実弥の怒りは浅くない。もう一度炭治郎の首を狙って動こうとした、その瞬間だった。

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

「っ!……テメェは!」

 

「止めろ、不死川……これ以上の狼藉は俺が許さん。」

 

『っ!』

 

実弥の肩を掴んで制止したのは義勇だった。実弥に警告した様に、これ以上の狼藉は許さないと義勇が実弥を睨み付けた。普段は何を考えているか分からない、その容姿端麗なれど無表情な顔には怒りで青筋が浮かんでいた。

 

「邪魔ァすんじゃねぇよ冨岡ァ! こいつは俺とこの餓鬼の問題だァ!!」

 

それに対して実弥もまた、妨害されている怒りから炭治郎から視線を外し顔を横に向けて義勇を睨み付ける。

 

「不死川。自分が今、どの様な立場に立たされているのかを未だに理解していない様だな?……(周囲(まわり)を良く見渡して見ろ、頼むから落ち着いてくれ。このままだとお前は本当に殺されるぞ。)……お前は何処まで恥を晒せば気が済むんだ?」

 

「あ"ァ!?」

 

双眸を血走らせて怒り狂う実弥だったが、義勇の言葉を聞いて前方の異変に気付いた。

 

「しのぶさん、禰豆子っ……皆……っ!」

 

「炭治郎君、貴方は下がってて……っ!」

 

「うっー!!」

 

「三下、貴様!!」

 

「「「「……」」」」」

 

『っ!』

 

炭治郎を庇うためにしのぶを筆頭に、禰豆子、カナヲ、アオイ、珠世、愈史郎、そして善逸と伊之助が実弥の前に立ちはだかった。愈史郎、善逸と伊之助は警戒心と敵意を抱きながら実弥を睨み付けたが、しのぶ達女性陣に至っては、殺意すらその宝石の如き双眸に宿していた。

 

「……っ。」

 

しのぶ達の殺気に気付いた実弥だったが、だからと言って自ら手を引く事は出来なかった。愛する家族を傷付けられたと聞いて、黙って居られる事など実弥に出来る筈が無かったのだ。

 

導火線に火が着いたが如き、何時爆発してもおかしくない一触即発の空気が大広間に広がる。

 

しかし、此処で誰もが思わぬ人物がこの火が着いた導火線に水を掛けて鎮火する働きを見せた。

 

「ど、どうか! もう御止め下さいっ! 不死川様っ!!」

 

『っ!?』

 

実弥の暴走を止めるために、炭治郎の下へ駆け出したのは耀哉の四女で末っ子の産屋敷かなただった。これには実弥も面食らって動揺する。

 

「かなた様っ!?」

 

「かなた様っ!? 何故……。」

 

「……っ!」

 

しのぶと実弥は当惑しながら乱入して来たかなたに尋ねたのだが、かなたは答える事無く炭治郎を庇う様に抱き着いた。

 

『っ!?』

 

「っ……竈門様は……竈門様はただ私を助けて下さっただけなので御座います。お願いですからもうこれ以上、竈門様を傷付けないで下さい!!」

 

『……っ!?』

 

「かなた様を……助けた、だと?」

 

疑問符を思い浮かべながら、かなたが口にした内容を義勇が復唱する様に呟いた。

義勇の呟きが、水面に波紋を広げる様に大広間に広がって行く。

しかし、そんな周囲を眼中に入れる事無くかなたは炭治郎に心配そうに声を掛けた。

 

「竈門様……御怪我は御座いませんか?」

 

「はい、かなた……様。今度は俺がかなた様に助けられちゃいましたね。」

 

炭治郎の腰に抱き着きながら心配するかなたに、炭治郎は安心させるべく笑顔でかなたにそう答えた。

 

『……』

 

事情を知らない行冥達は、沈黙して炭治郎達を見守る事しか出来なかった。一方でしのぶ達は、半眼で炭治郎を睨み付けていた。

 

「ふむ……私はかなた本人からこの話を何度も聞いているけれど、皆は……と言うか行冥すら何も聞いていないとは意外だね。」

 

「私が……ですか、御館様。」

 

耀哉に名前を呼ばれた行冥は、少し当惑しながら耀哉に答えた。

 

「うん……しかし、事情を知らないと話に着いて行けないだろう。輝利哉、当事者の一人として皆に当時の状況を説明してあげなさい。」

 

「はい、父上。」

 

耀哉に促されて、かなたと共に当時の現場にいた輝利哉が状況を説明するべく前に出た。

 

「これは去年の八月上旬に行われた"最終選別"で起きた出来事です。竈門炭治郎様、我妻善逸様、嘴平伊之助様、栗花落カナヲ様、不死川玄弥様、合計で五名様が見事に七日七晩を生き残り合格されました。」

 

『……』

 

輝利哉が口火を切る様に、炭治郎達が参加した"最終選別"について語り始めた。

行冥達は輝利哉の話を聞くために、閉口して話に傾聴する。

 

「事が起きたのは"最終選別"が終わった八日目の朝です。私達が鬼殺隊へ入隊するに当たって説明をしていたのですが、不死川玄弥様は説明を聞かず「早く日輪刀を寄越せ。」と言いながらとても苛立っていました。私達はそれを無視して説明を続けると苛立ちが限度を超えたのか、不死川玄弥様がかなたを何度も殴って乱暴を働いたのです。」

 

『っ!?』

 

想像を超える話題の内容に、事前に知っていた産屋敷家及び炭治郎と善逸を除いた面々は絶句する。

 

「なん……だと……私は何も聞いていないぞっ。」

 

行冥は度々流している涙を止める程に絶句し、怒りに震えた。額には青筋が立っており、新しく持って来た数珠が力を込め過ぎたせいか早速、ピシッと音を立てて一筋の罅を入れていた。

 

「っ……其処へ不死川様を見兼ねた竈門様が、私を庇って不死川様を止めて下さったのです……っ。」

 

かなたは実兄の輝利哉を説明に補足を付け足す様にそう説明しながら、炭治郎に抱き着く力を強めた。

微かに震えるかなたを察して、炭治郎は優しくその頭を撫で始めた。

 

「げ、玄弥が……かなた様に、そんな狼藉を……っ。」

 

実弥は輝利哉とかなたから実弟の玄弥が"最終選別"でしでかした愚行を聞かされたせいか、炭治郎への憤怒は当の昔に霧散し、その心中は動揺を中心に怒りや罪悪感などがぐちゃぐちゃに混在していた。

 

輝利哉とかなたから話を聞いて、しのぶ達もまた動揺を隠せない。しのぶは目撃者であろうカナヲ達に即刻、この一件について尋ねた。

 

「カナヲ、善逸君、伊之助君。貴女達はそれを目撃したの?」

 

「いいや、俺は速攻で山を降りたから何も知らねぇぜ!」

 

「えっと……私も知りません。いえ、何も覚えていません。」

 

「ちょっ!? 何でカナヲが知らないのよ?! 伊之助さんはともかくあんたは当事者の筈でしょうが!?」

 

「そーだよっ!? アオイちゃんの言う通りだよっ!! て言うか、何で覚えていないのさ!? カナヲちゃんの眼の前で起きた事じゃん!? 其処はちゃんと覚えていようよっ!?」

 

「……はあ。」

 

伊之助は当時の現場に居なかったため、開き直った様に胸を張って答えた。カナヲもまたキョトンとした顔で首を傾げるので、当時について何も覚えていないと言うのは間違いない様であった。

 

不在だった伊之助はともかく、カナヲが何一つ覚えていないと言う事にアオイと善逸は激しくツッコミを入れ、しのぶは思わず溜息を零した。

 

「……不死川の弟がかなた様に狼藉を働くとは……成程、深い血の繋がりを感じるな。」

 

『っ!』

 

しみじみとした様子で、義勇がぼそっと呟いた。その声量は呟きとは言えない程、大きな声ではあったが。

 

「義勇さん、どうしてこの一件が不死川さんと玄弥の間に深い血の繋がりを感じるんですか?」

 

炭治郎は率直に疑問を浮かべて、義勇に質問した。

 

「おい、待ちやがれェ……っ!」

 

実弥は慌てた様子で義勇を阻止しようとした。しかし、義勇が先にその理由を口にしたことから失敗に終わる。

 

「不死川は柱になって初めて参加した柱合会議で、御館様に聞くに耐えない悪口雑言を吐いたからだ……不死川は御館様に、不死川の弟はそのお嬢様に……兄弟揃って産屋敷家への無礼千万の狼藉、とても良く似た兄弟だと俺は思う。」

 

『っ!?』

 

「……っ。」

 

義勇によって思わぬ過去を暴露された事で、その過去を知らなかった面々は絶句した。同時に実弥ならやりかねないと納得もしてしまったのだが。

 

「派手だったなーあん時は。」

 

「南無……私は不死川に悪霊でも取り憑いているのかと思い、真面目に御祓いを勧めた程だ。」

 

当時、その柱合会議に参加していた行冥と天元は懐かしそうに呟いた。

 

「不死川……っ!」

 

「"血は争えない"とはこの事ですねぇ。」

 

「酷いよ、不死川さんっ!」

 

「えっと、"同じ穴の狢"って言うんだっけこう言うの?」

 

まだその当時、柱に就任していなかった小芭内達は、実弥の狼藉に非難轟々だった。

 

「……(絶句)」

 

「三下、昔っから見境無く人に噛み付く奴だったんだな。と言うか今より酷いとか、良く考えたら相当だなっ。」

 

「だからって御館様にまで噛み付くのは、如何なものかと……。」

 

「……最っ低。」

 

「え、うわぁ……何それ超ドン引きなんですけど……っ。」

 

「見た目通りの狂犬野郎だったてぇ訳だなっ!」

 

そして珠世達もまた、実弥を非難しながら散々に罵倒していた。

 

「……っ……っっ……っっ。」

 

抹消したい過去を大暴露され、針の筵に座った状態に陥った実弥は羞恥心と憤怒で震えながら、顔を真っ赤に染めて耐える他に道は無かった。

 

 

 

ポン

 

 

 

「っ!」

 

身体を震わせる実弥に、誰かが肩を軽く叩いた。実弥は振り返って見ると、実弥の肩を叩いたのは義勇だった。

 

「不死川……(別段、そんなに気にする必要は無い。)確かにお前は御館様に悪口雑言の限りを吐いたが、(それも過去()の話だ。お前は本当は優しい奴だから、未だに気にしている様だな。だが少なくとも御館様と)俺は気にしていない。気にしたところで、事実は消えないからな。潔く諦めろ。」

 

「冨岡、テメェ……っ。」

――テメェなんざどうだって良いんだよっ! 余計な事だけベラベラ喋りやがってェ……っ。

 

実弥は激昂して義勇を殴り倒したい衝動に駆られたが、同時に更に強烈な羞恥心を抱えて沈黙する。しかし、ムフフと笑って話し掛ける義勇の表情が実弥にとって実に立腹ものであった。

 

憤怒や羞恥心と言ったあらゆる感情を全て押し殺しながら、実弥は炭治郎とかなたの前へ移動し始めた。それを見てアオイ達は騒ぐのを止めて警戒したが、しのぶに言われて道を開けた。

 

実弥は炭治郎とかなたの前に、正確にはかなたの前に立つと、勢い良く膝を尽き頭を垂れて土下座した。

 

「玄弥がかなた様に対して、その様な狼藉を働いたとは露知らず……誠に申し訳御座いません!」

 

『っ!』

 

実弥は悲壮な面持ちで、かなたに向かって謝罪した。

 

「……」

 

かなたは炭治郎から離れると、実弥の真正面に立った。

 

「何故、不死川様が私に御謝りになられるのですか?」

 

『っ!』

 

「っ!」

 

かなたの質問に対して、実弥は答えられなかった。

 

「不死川様は先程、不死川玄弥様は実弟(おとうと)ではないと仰られました。であれば、不死川様が御心を痛めて私に謝罪する必要など無い筈です。不死川玄弥様は、貴方様にとってどう言う御方なので御座いますか?」

 

『っ!』

 

「っ!!……それは……っ。」

 

毅然とした様子のかなたの姿は、僅か八歳の童女の姿では無かった。

 

かなたの質問に動揺した実弥は咄嗟に何か答え様とした。しかし結局、実弥はかなたに何も答えず沈黙を貫いた。

 

「……不死川様、お頭をお上げ下さいませんか?」

 

「……っ?」

 

かなたに促されて、実弥は頭を上げた。そして間髪入れる事無く、事は起こった。

 

 

 

パシィッ!

 

 

 

『っ!!??』

 

突如、大広間に響いた音に周囲は騒然となる。

 

何故ならば、かなたが思い切り右手で実弥の顔に平手打ちをしたからだ。殴られた実弥は、左頬を小さい範囲で赤く染める結果となった。

 

「か、かなた様……。」

 

動揺が深まった実弥は、声を震わせながら殴られた左頬を左手で押さえた。

 

「っ……私は……私はっ! 御自分の弟を素直に"家族"と認められない方に、謝って貰いたくなどありません! その様な謝罪など、最初からなさらないで下さいっ!!」

 

『っ!』

 

かなたは実弥に一切慮る事無く、実弥を睨み付けながら大声で怒号を浴びせた。

普段の気が弱いかなたとは思えない、別人の様な姿に対して産屋敷家を筆頭に周囲は反応し切れず固まった。

 

「…………」

 

かなたに怒号を浴びせられた実弥は強い衝撃(ショック)を受けて打ちひしがれていた。

 

「……もう結構で御座います。早く下がって下さい……。」

 

「……御意っ。」

 

かなたは実弥の顔を見るのも嫌になったのか、顔を反らしながら突き放す様にそう断言した。

実弥もまた、顔を俯かせたまま消えそうな声で返答した。

 

すると、この二人の間に割って入る者が現れた。

 

「待って下さい、不死川さん。俺の話はまだ終わってはいませんよ? そんな勝手に下がって貰ったら、俺が困ります。」

 

『っ!』

 

立ち上がろうとした実弥に向かって、今まで状況を見守っていた炭治郎が阻止するためにそう言った。

 

「かなた様はああ仰いましたが、俺の言動は今だけなら御館様の言動も同然です。どちらが上か、考えるまでもありませんね?」

 

「……っ。」

 

食い下がろうとした実弥に対し、炭治郎は一言で一刀両断して黙らせる。これに耀哉も加わった。

 

「実弥、炭治郎に従いなさい……だけど、流石に自分を危険に晒す挑発は感心しないよ? 炭治郎、今後は慎む様に。」

 

「はい……すみません、御館様。ですが、これで玄弥が不死川さんにとって大切な家族なんだと、自分から証明してくれました。」

 

『っ!』

 

『……』

 

炭治郎の意図に気付いた者達は、炭治郎に感嘆した。それと同時に、しのぶ達は無茶をした炭治郎に怒っていたが。

 

「不死川さん……もう聞くまでもありませんが、貴方の口からはっきり聞いておきたいんです。玄弥は貴方の大切な家族……弟ですね?」

 

炭治郎は、この質問に嘘は吐かないで欲しいと実弥に願いながら尋ねた。すると実弥はストンと胡坐を書いて畳の上に座ってから、重い口を開いた。

 

「……あぁ、そうだ。あいつはァ……玄弥は俺に残された、たった一人の……どうしようもねぇ弟だッ!」

 

『っ!』

 

「……」

 

実弥はついに、玄弥が自身の実弟である事を炭治郎に認めた。それを聞いて、炭治郎もまた実弥の前にゆっくりと腰を下ろして座り込んだ。

 

「不死川さん。やっと認めてくれましたね。ここから先はもう逃げ回るのは止めて、俺と腹を割って話しましょう。」

 

「っ!」

 

「不死川さんは……玄弥の何が気に入らないんですか?」

 

炭治郎が実弥に、玄弥の何に怒っているのかその理由を明確に知るために質問した。

 

「……玄弥(あいつ)が鬼殺隊に入隊した事そのものが気に入らねェ……呼吸の一つも使えねぇあんな愚図野郎に、鬼殺隊に居場所なんざねぇんだよ……っ!」

 

『っ!』

 

「……」

 

血の繋がった実弟への言葉とは覚えない実弥の暴言に、周囲は驚愕した様子で実弥を見た。

しかし、炭治郎は事前に予想出来ていたため動揺は少なく、更に冷静にある一点に気付いていた。

 

――不死川さんのあの様子だと、鬼喰いについて知らないみたいだな……よしっ!

「……御館様。一つ御聞きしたいのですが、玄弥の今の階級は幾つなのでしょうか?」

 

『っ!』

 

「玄弥の階級かい?……確か、この前の討伐任務で『(ひのと)』に昇進したばかりだよ。」

 

炭治郎は実弥の回答を聞いて、耀哉に鬼殺隊における玄弥の階級を尋ねた。

鬼殺隊の隊士全員を我が子として愛情を注いでおり、どんな些細な情報も逐次記憶している耀哉にとってその質問は即答するのに問題など一切無かった。

耀哉から玄弥の階級を聞き出した炭治郎は、耀哉に感謝してから実弥に話し掛けた。

 

「そうですか。ありがとうございます、御館様……不死川さん。玄弥って凄いですね!」

 

「……何ィ?」

 

炭治郎の唐突な玄弥への称賛の言葉に、実弥は怪訝そうに炭治郎を見た。その視線に気付いた炭治郎は、実弥にその理由は話し始めた。

 

「考えても見て下さい。呼吸が使えないのに、俺と同期で入った人が柱を除いてもう上から四番目の階級を手に入れているんです……きっと玄弥は凄い努力家で、沢山頑張ったんだと思います。」

 

「……」

 

心から炭治郎が玄弥を称賛する言葉に、実弥は黙って聞き入れる。実弟が称賛されて、嬉しくない訳では無かったと言う内情も有る。次の炭治郎の一言で、そうも思っていられなくなったが。

 

「まぁ、玄弥の場合……()()()()()()も含めての結果だとは思いますが。」

 

『っ!?』

 

「っ!?……()()()()……()()だとォ……っ!!」

 

大広間に驚愕が広まる中、激昂した実弥が顔どころか首にまで青筋を立てて憤怒していた。

 

「はい、文字通り、鬼の肉を食べる事で一時的に鬼化して自分を強化する能力らしいですけど……えっ? 不死川さんは御存知無かったんですか?」

 

炭治郎は実弥の怒りを無視しながら質問した。その態度は事前に承知していて聞いている様な、態とらしいものであったが。

 

「っ……知ってる訳ねぇだろうがァ!……おい、悲鳴嶼さんよォ! こいつが言っている事は本当なのかァ!?」

 

実弥が乱暴にそう答えると、そのまま行冥を睨み付けてそう尋ねた。

 

「……あぁ、本当の事だ。玄弥は鬼喰いの能力の持ち主だ。」

 

『っ!』

 

涙を流しながら、数珠をジャリジャリ擦り合わせて行冥がそう言った。それを聞いて、実弥の憤怒が増大する。

 

「あんたはァ!……んな真似をする玄弥を野放しにしてたってのかァ!?」

 

「……あぁ、そうだ。」

 

「っ!……好い加減、止めて貰えませんか? 不死川さん。」

 

「「っ!」」

 

行冥が肯定した事で炭治郎は実弥が激昂すると容易に予想出来たので、炭治郎は先手を打って実弥を牽制した。そして炭治郎の予想通り実弥が激昂して立ち上がろうとしたのだが、出鼻を挫かれた形で不発に終わった。

 

「悲鳴嶼さんに怒る理由も分からなくもありませんが、玄弥を無視し続けて突き放して来た貴方にとやかく言う資格など無いんです。こんな時だけ、お兄さん面して怒らないで下さい。見苦しいだけですよ、あまりに身勝手過ぎて。」

 

「……っ!!」

 

炭治郎の辛辣な言葉に、実弥の憤怒具合は上昇する。しかし、炭治郎は視線を逸らす事無く、一切怯まず実弥と対峙する。

 

「ですが、不死川さんが玄弥をとても大切に思っている……そう分かって安心しています。」

 

「っ!」

 

炭治郎の一言に、実弥は双眸を見開いて驚いた。炭治郎は実弥に構わず話を続ける、

 

「今の貴方からは火傷しそうなくらい、大きな怒りの匂いがします。ですが、憎しみの匂いは一切無い。そして深い愛情の匂いが常にしています。」

 

「……」

 

炭治郎の指摘に、実弥は答えず沈黙を貫いた。しかし、その沈黙が炭治郎の指摘を肯定している事は、誰の眼から見ても一目瞭然であった。

 

「……"大切なものの守り方"って人それぞれだと思うんですけど、俺は大きく二つに分けられると思うんですよ。」

 

『っ?』

 

炭治郎は実弥に言う訳でも無く、独言の様に一人で話し始めた。唐突な炭治郎の様子に、周囲は怪訝そうにしながら耳を傾けた。

 

「一つは、俺みたいに"常に自分の眼に入って手に届く範囲に、大切なものを置いておく"方法です。俺は自分が居ないところで家族を失いましたから、禰豆子を常に傍に置いておかないと安心出来なくなりました……自分勝手な話ですけどね。」

 

『……』

 

自嘲する様に、苦笑しながら炭治郎はそう言って話を続ける。

 

「もう一つの方法ですが……それは"危険な目に遭わせないために、大切なものを遠くへ遠避ける"方法です。不死川さんが玄弥にしている様にね。」

 

「っ!」

 

そう言った炭治郎に、実弥は一瞬動揺して自身の身体を震わせた。

 

「玄弥が心配だから、気に入らないんですよね? 命を懸けて鬼と戦う、この鬼殺隊に入隊している事実が。」

 

「……あぁ。」

 

実弥は力無く炭治郎の質問に答えた。

 

「御気持ちは家族を持つ者として良く分かります……ですが、はっきり言って貴方のやり方は根本から間違っています。」

 

『っ!』

 

「……あ"ァ?」

 

炭治郎が格上の実弥を断罪する様に容赦無くそう断言すると、大広間に響きが静かに広がった。

自身のやり方を全面的に否定された実弥は、静かに怒りの火を灯して青筋を立てた。

 

「そもそも、大前提から貴方は大間違いを犯しています。」

 

「っ!」

 

しかし炭治郎は一切構わず、実弥に怯む事無く実弥を見る。そしてゆっくりと話を始めた。

 

「先ず……貴方が本当に玄弥の事が大切なら、分かった段階で止めるべきでした。

何時、どの任務で玄弥が命を落とすか分からないからです。

口で説得して鬼殺隊を辞める様に促す、せめて剣士としてではなく『隠』として仕事してくれと説得するとか……最悪、極端な話ですが玄弥の手足を圧し折って再起不能にして、戦えない身体にするとかして鬼殺隊そのものを辞めさせるべきだったんです。」

 

「っ!……っ。」

 

炭治郎の手厳しい言葉に、実弥は沈痛する他無かった。炭治郎は実弥の様子に胸を痛めたが、それでも炭治郎は言葉を止める積もりは無かった。

 

「鬼殺隊の柱の一人として、御多忙な日々を送っている事は勿論分かっています……ですが、残されたたった一人の家族の命の大切さを考えれば、そんなものは何の理由付けにもなりません。

不死川さんは玄弥について、何一つ自ら知ろうとはしなかった。玄弥がかなた様に暴行を働いた事も、鬼喰いの能力についても、今日の今日まで貴方は何も知らないままだった。」

 

「それなのに貴方は玄弥に会っても暴言だけ吐いて突き放して、分かって貰えない身勝手で独り善がりな願いを押し付けるだけ……そんなもの、無意味な自己満足を満たしているだけで何もしていないのと一緒です!

冷たく突き放して邪険にされ続けたからって、たったそれだけの理由で鬼殺隊を辞める訳が無いっ!! それだったら最初からお兄さんを追い掛けて鬼殺隊へ入隊なんてしませんよ!! 大切なお兄さんが命懸けで鬼と戦っているのに、自分だけのうのうと平穏を謳歌出来ると思いますかっ!!!」

 

炭治郎は蝶屋敷に滞在していた際に、すみから玄弥について聞く事が出来ていた。

そしてカナエから玄弥の情報を更に詳細に貰っている。その御蔭で炭治郎は実際に見ていた様に話す事が出来ているのだ。

尤も、何割かは炭治郎の想像任せなところが有る事は否めない。今回の場合、それが功を奏しているが。

 

「……っ……だったら俺にどうしろってんだよォ!?」

 

『っ!』

 

実弥は痛い点を容赦なく指摘されて、反論出来ず感情の赴くままに激昂して炭治郎の胸元を掴む取った。

胸元を実弥に掴まれた炭治郎だったが、抵抗する事無く実弥に目と鼻の先まで引き寄せられた。

 

『……』

 

実弥がそんな行動を取ったのを見て、しのぶ達は殺気立って日輪刀に手を添えた。

 

「テメェや胡蝶みてぇに、兄弟で仲良く鬼退治をしろって言う心算かァ?! あァ!?」

 

「……」

 

実弥は射殺す勢いで炭治郎を血走った双眸で睨み付けながら、そう叫んだ。実弥に問い詰められた炭治郎は、一度双眸を閉じると、ゆっくりと開眼して実弥を宥める様に話し掛けた。

 

「……そうするか否かは結局……貴方達、御兄弟の問題です。俺は別に、貴方の想いを否定したい訳じゃない。貴方のやり方が間違っていると言いたいんです。」

 

「っ!」

 

炭治郎の言葉に、実弥は僅かだが冷静さを取り戻した。炭治郎は話を続ける。

 

「不死川さんが玄弥に鬼殺隊を辞めて欲しいなら、はっきり本人に御自分の意志を伝えるべきです。」

 

「……それで辞めてくれんなら、俺ぁ苦労なんざしねぇんだよォ!……あいつは、玄弥はどうしようもねぇ程、優しい奴なんだからなァ……っっ。」

 

「っ!」

 

実弥は力無くそう言うと、炭治郎から手を離して顔を背けた。

 

「優しい……ですか? そうでしょうね。じゃなきゃお兄さんを追って鬼殺隊に入隊なんて普通、出来る筈がありませんから。」

 

「……」

 

炭治郎が実弥の呟きに肯定すると、実弥は沈黙した。

 

「……そう言えば、俺は不死川さんにもう一つだけはっきりさせたい事が有るんですよ。」

 

「……?」

 

炭治郎の呟きに、実弥は首を傾げる。間髪入れず、炭治郎はその疑問を口にした。

 

「不死川さんの御気持ちは良く分かりました……ですが、貴方は玄弥が今日まで倒した鬼や救い守った人々の命……玄弥の貢献や働きまで否定する御心算ですか?」

 

「っ!?」

 

炭治郎の思わぬ質問に、実弥は逸らしていた顔を戻して炭治郎を真っ直ぐ見た。炭治郎の表情から、この質問から逃げる事は許さないとばかりに強い視線を感じていた。

 

「不死川さんっ。」

 

「……いや、俺は……そんな心算はねェ……。」

 

『っ!』

 

「っ!……良かったです。そう思って頂けて。」

 

炭治郎は実弥の言葉に嘘は無いとその嗅覚で感じ取ってから、安堵した様に呟いた。

それから炭治郎は実弥に対して、自身の要求をはっきりと口にした。

 

「では不死川さん。これが俺が要求する、二つ目のお願いです。もう予想が付くとは思いますが……不死川さんは玄弥と直接会って、今後について二人で良く話し合って下さい。一回とは言わずに、何回でも。」

 

『っ!』

 

「……っ。」

 

炭治郎の言葉に、実弥から拒否感は感じなかった。しかし、まだ覚悟が決まっていない、恐怖の匂いが僅かにしたのを炭治郎はしっかりと感じ取っていた。

 

「このお願いに関してですが、一つだけ絶対に約束して欲しい事があります。」

 

「約束?……っ?」

 

炭治郎の口から出た言葉に、実弥は疑問を浮かべる。

 

「はい……たとえ玄弥との話が平行線で終わろうとも、仲直りだけはして下さい……お願いします。」

 

「っ!」

 

炭治郎はそう嘆願すると、深く実弥に頭を下げた。実弥は炭治郎が頭を下げた事に当惑する。

自分の事でも無いのに、こうも躊躇無く他人に頭を下げられるその姿勢が理解出来なかったからだ。また実弥の心情には、互いに毛嫌いしていると言う考えも在った。

 

「何で……テメェは俺や玄弥のために其処まで出来るんだ……?」

 

「……俺は別に、玄弥と仲が良い訳ではありません。蝶屋敷で玄弥に何回声を掛けても無視され続けて、未だに一言も喋れてませんからね。それから……。」

 

思わず呟く様に口にした疑問は、はっきりと炭治郎の耳に入って行った。炭治郎は双眸を一度閉じてゆっくり語りながら頭を上げると、実弥を真っ直ぐ見詰める。

 

「不死川さん。はっきり言わせて頂きますと、俺は貴方の事が嫌いです。禰豆子を刺した事は今でも許してはいません。」

 

『っ!』

 

真顔で飾る事無く、躊躇無く実弥に向かって炭治郎は断言した。

 

あの日の事を炭治郎が思い出してしまうと、火が着いた様に炭治郎は怒りの炎が燃え盛ってしまう。あの日は炭治郎の無力さを思い知らされた日でもあるからだ。可能ならば思い出したくも無いのである。

 

「っ……だったら尚更解せねェ……テメェに何の利が有って此処まで……っ。」

 

「俺には一利の利益も有りませんよ。誰かに褒められたい訳じゃない、見返り欲しさにやっている訳でも無い……そもそも、禰豆子の一件とこの一件は関係が有りません。」

 

「っ!」

 

実弥が疑問を浮かべて益々困惑する様子を見て、炭治郎は語り始めた。

 

「俺は人の一面だけを見て、その人の全てを否定する様な恥ずかしい真似はしたくない……そんな小さい人間になりたく無いんです。たとえ俺が嫌いな人でも苦手な人であっても、その人達の凄いところは凄い、良いところは良いとちゃんと認められる、そんな人間になりたいと思っています。」

 

『っ!』

 

炭治郎は恥ずかしそうに赤くなった頬を人差し指で掻きながら淡々と、されどはっきりと断言した。

炭治郎は顔から赤が引いてから、続きを語る。

 

「家族とは仲が良くて当たり前だと思ってました。でも故郷を出て、それが当たり前の形では無い事を知った。血が繋がっているからこそ憎しみ、啀み合う悲しい家族の形も在存在すると知ってとても悲しかった……。」

 

「だけど貴方と玄弥は違います。お互いに想い合っているのに、擦れ違い続けているのはとても悲しいと思います……折角、血が繋がった家族として生まれて来たんです。どんな最期がこの未来(さき)待っているにしても、やっぱり仲良しで居て欲しいじゃないですかっ。」

 

「っ!」

 

炭治郎の言葉に、実弥は双眸を見開かせて炭治郎を見詰めた。炭治郎は実弥を真っ直ぐ見ながら言う。

 

「良いですね、不死川さん。ちゃんと玄弥と仲直りして下さい。「良くやった。」とか「頑張ったな、偉いぞっ。」って玄弥を褒めて上げて下さいね。約束ですよ?」

 

「……」

 

炭治郎が子供を注意する親の様にそう言って釘を刺すと、実弥は思わず視線を炭治郎から逸らした。

五つ数える程の沈黙が過ぎた後、実弥は行動に移った。

 

「っ!」

 

「っ……約束は必ず守るっ……。」

 

そう言って実弥は両拳を畳に着けると、炭治郎に勢い良く頭を下げた。実弥が承諾したのを見て、大広間には安堵の溜息が広がった。

 

「……」

 

しかしその中で唯一、行冥だけが一抹の不安を抱いて状況を感じ取っていた。




お待たせしました。

耀哉の憤怒&柱への叱責シーンは無惨と十二鬼月のオマージュです。まぁ元を辿れば同じ血筋ですからねぇ。

初期構想の一つで書きたかった、不死川兄弟の原作における矛盾を突いた話を何とか書けました。これで和解への道も開かれたかなぁと思います。

ですが、実弥に厳罰を期待した方が居たらすみません。炭治郎君の性格では、やはり厳しく断罪するのは無理だろうと言う判断です。事前にカナエさんから色々聞かされていますのでね。

最後に、未だ言葉足らずで火に油を注ぎ続ける義勇さん(笑)。書いてて楽しかったです。

次回の更新は9月中です。お楽しみに。

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
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