※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

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※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第参拾伍話 日輪と鬼殺隊の柱は共有す

――愈史郎さんへの反発や敵意、嫌悪の匂いが皆から薄れて行く……完全に無くなった訳じゃないけど、良かった……それにしても、愈史郎さんの方も()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()だよ……。

 

炭治郎は内心でホッとした様子で一息付き、達成感の余韻を静かに味わっていた。

 

炭治郎はカナエが愈史郎に断罪された時、自分達を夢幻世界で傍聴しているであろうカナエの事を想うと、内心では愛する恋人を侮辱されて穏やかで居られなかったのだ。

そのため、炭治郎は何としてでもカナエの名誉を守りたかったのである。

 

炭治郎は不意に、チラッと天井へ視線を向けてみた。今世には居なくとも、夢幻世界で愈史郎の罵詈雑言を聞いて落ち込んでいるかもしれないと心配だった。

自分の反論で、少しでもカナエの心情が良くなった事を願った。

 

尤も、カナエが狂喜して身悶えている事など知る由も無い。それは炭治郎が眠りに就き、夢幻世界に行かなければ分からない事であったが。

 

炭治郎は不意に視線の先を珠世に変えると、珠世も自身と同様にホッとした様子で安堵していた。

 

「炭治郎、悪かったな。」

 

「?」

 

炭治郎に向かって、愈史郎が不意に謝罪の言葉を掛けた。炭治郎はそれを聞いて、首を傾げる。愈史郎はそんな炭治郎の様子に苦笑して説明する。

 

「お前が斬られた一因が、俺にも有る。だから、此処で謝らせてくれ。炭治郎、すまなかった。」

 

『っ!!』

 

愈史郎が頭を下げて炭治郎に謝罪する様子に、再び耀哉達が驚愕した。

炭治郎も同様に驚愕したが、それよりも喜びが大きかった。

 

「そ、そんな……俺は気にしてませんよ! 愈史郎さんっ。」

 

「……そうか。お詫びと言っては何だが、改めて尽力すると約束しよう。」

 

「ありがとうございます! 珠世さんと一緒に愈史郎さんが鬼殺隊(俺達)の力になってくれると、とっても頼もしいです!」

 

「……っ。」

 

炭治郎の感謝の言葉に、愈史郎は思わず笑みを零した。

 

「シュウウウゥゥゥゥ、シュルルルルル!」

 

『?』

 

突如、謎の声が大広間に響き渡った。全員が気になって音源を探って見る。

 

「鏑丸、どうかしたか?」

 

それは蛇柱・伊黒小芭内の相棒にして親友である白子個体(アルビノ)のアオダイショウの鏑丸であった。

 

「シュルルルルル。」

 

『?』

 

鏑丸は半身程、身体を炭治郎に向かって伸ばし始めた。

 

「え?……俺に用が有るの? 鏑丸?」

 

鏑丸の匂いと動きで察した炭治郎は首を傾げながら、身体を伸ばす鏑丸を見た。すると間髪入れず、鏑丸はある行動に出る。

 

「痛っ!? 痛たたたたたっ!!??」

 

『っ!?』

 

なんと左耳に付けている炭治郎の髪飾りに鏑丸が噛み付いて、引っ張り出したのである。

鏑丸の思わぬ行動に輝哉達全員が驚く中、炭治郎は痛みから少しでも軽くするために鏑丸の方へ移動する。

 

鏑丸が満足するまで炭治郎が接近すると、耳飾りから口を離して真っ直ぐ炭治郎を見詰めた。

 

「痛かったぁ……いきなり何をするのさ?」

 

炭治郎が左耳を押さえ涙目になりながら、鏑丸を半眼で抗議の視線を送る。

 

「シャ――ッ! シュルルルル!!」

 

「おい、鏑丸!……っ。」

 

炭治郎に向かって鏑丸が鳴くと、何故か小芭内が少し焦燥した様に鏑丸を呼んで諫めた。

 

「っ?……えっ?……えぇっ!? そうなの?!」

 

『っ?』

 

鏑丸を見詰めていた炭治郎が突如、驚愕した様子で双眸を見開きながら小芭内を見詰めていた。

炭治郎のそんな様子に、耀哉達が首を傾げながら不思議そうに見ていた。尤も、それも炭治郎の一言で態度が覆るのだが。

 

「伊黒さんの右眼って、実は見えてないの!?」

 

「シュルルルルル!! シュルルルルルルルル!!」

 

「なっ……っ!?」

 

『っ!?』

 

炭治郎の呟いた一言で、大広間に響めきが広がった。当人の小芭内は炭治郎の指摘に動揺し、次に怒りに染まった。

 

「竈門炭治郎、貴様……何故その事を知っている!?」

 

「うぐぅっ!?」

 

『っ!?』

 

隠していた秘密を暴露された小芭内は、激昂して炭治郎の胸倉を掴んだ。不意に胸倉を掴まれた炭治郎は、思わず声が漏れた。

 

「ちょっとっ!? 伊黒さんっ!!」

 

「っ!……チッ!」

 

「っ!……ふぅ……。」

 

蜜璃から咎める様に声を荒げて名前を呼ばれると、小芭内は冷静さを幾分か取り戻して苛立ちながら炭治郎を離して解放した。小芭内から解放された炭治郎はゆっくりと一度、呼吸して息を整えた。

 

「……俺が知っている理由は……と言うか鏑丸に今、教えて貰っただけです。」

 

「……何だと?」

 

「信じて貰えないかもしれませんけど俺、動物と意思疎通が出来るんです。」

 

『っ!?』

 

炭治郎が唐突に暴露した自身の特技に、大広間はどよめいた。小芭内もまた、怪訝そうにネチっこい視線を炭治郎にぶつける。

 

「……それを真面に信じろと?」

 

「事実なんですけどねぇ……そうだ! "百聞は一見に如かず"って言いますし……鏑丸っ! 君と伊黒さんしか知らない秘密、何か簡単なものでも良いから教えてくれないかな?!」

 

炭治郎は困った様子で笑みを零すと、不意に妙案を思い付いた様にそう呟いてから鏑丸に質問した。

 

「シュルルルルルル! シュルルルルルルル!!」

 

「えーと、何々……『昨日出した甘露寺さんへ宛てた手紙に、『今度、浅草に有る天ぷら屋さん"天籐屋"へ一緒に食事へ行かないか?』って小芭内が書いていた。』って言っています!」

 

『!』

 

「き、貴様っ!?」

 

小芭内が炭治郎の言い放った一言に、赤面して狼狽する。

小芭内は羞恥心と怒りから炭治郎に再び掴み掛りそうになるが、再び蜜璃の怒りを買う事を恐れて行動に移せない。小芭内が動揺しているその事実が、内容の真偽を証明していた。

 

「小芭内、炭治郎の言った事は本当かい?」

 

「……っ。」

 

耀哉が真偽をはっきりさせるために、敢えて小芭内を尋ねた。小芭内は赤面しながら、言葉を詰まらせた。

 

「……御意。竈門炭治郎が言った内容は、全て事実です。」

 

『っ!!』

 

小芭内が静かに、炭治郎が言った内容に肯定した。炭治郎が小芭内の手紙の内容を知っている筈が無く、事前に見る方法など有る筈も無い。

炭治郎が動物と意思疎通が出来る事が証明された瞬間であった。

 

――伊黒さん……手紙出してくれてたんだ。となると手紙は今頃、私の屋敷かなぁ。

 

蜜璃は内心で、そう呟いていた。蜜璃はしのぶ達と一緒に産屋敷本邸に居たのだから、手紙を受け取れる筈が無かった。

 

「驚いた……炭治郎は超人的な嗅覚だけで無く、動物と意思疎通も出来るなんてね。感嘆したよ、炭治郎。」

 

「……いや、この能力の所為で家族には苦労させました。俺の父は炭焼きの他に狩猟で獲った獲物を捌いてくれたんですけど、俺は動物の言葉が分かるからとても狩猟なんて出来無くて……竹雄達は秋冬に獲れる獣肉が大好きだったのに本当、悪い事したなぁ……。」

 

『……』

 

炭治郎が悲しそうに家族の話を口にして感傷に浸ると、耀哉達は掛ける言葉が見つからず沈黙する。

 

「コホン……それで竈門炭治郎、何故鏑丸はお前に俺の右眼について話した?」

 

『っ!』

 

「えっ?……あ――……それはぁ……っ。」

 

小芭内が感傷に浸る炭治郎に半ば無理矢理、話を振る形で質問した。炭治郎もまた、我に返って困った様子をしながらも小芭内に回答した。

 

「はい。鏑丸は俺に「『小芭内にも御館様や悲鳴嶼さんと同様の『紙眼()』を用意しろ。』と言って来ました。」

 

『っ!』

 

「っ!……っ。」

 

炭治郎が通訳した鏑丸の要望に耀哉達が反応する中、小芭内は反論した。

 

「必要無い。俺には無用の長物だ。」

 

「……でも両眼が使えた方が、視覚が開かれて便利な筈です。そもそもこれは俺の要望では無く、鏑丸の貴方への気遣いから来る要望(もの)です。それは重々承知ですか?」

 

「シャ――。」

 

「……この眼は生まれ付きのものだ。そして鏑丸が俺の右眼の代わりになってくれている。何の不自由も無い。」

 

「そうですか……だから鏑丸は常に貴方の右側に控えているんですね。」

 

小芭内が意固地に拒絶するために、炭治郎は尋ねる相手を変えた。

 

「鏑丸っ。伊黒さんはそう言ってるけど?」

 

「シャ――! シャ――――!!」

 

「っ!」

 

「……伊黒さん。『自分では援護に限界が有るから。やはり己の眼で戦ってくれるに越した事は無い。』と鏑丸は言っていますが?」

 

「……」

 

鏑丸の強気な言葉に、流石の小芭内も即座に反論出来なかった。五つを数える程の沈黙が訪れると、再び小芭内が開口する。

 

「おい、愈史郎。」

 

『っ!』

 

「っ!……何だ?」

 

小芭内は炭治郎では無く、愈史郎に話し掛けた。驚いた愈史郎だったが、即座に対応する。

 

「お前の血鬼術の能力で"視覚同調"と言うものが出来る。間違いないな?」

 

「あぁ、間違いない。」

 

「……ならば条件だ。()()()()()()調()()()()()()()()()使()()()()()()。」

 

「!!」

 

「……何っ?」

 

小芭内の出した条件に、愈史郎は怪訝そうに小芭内を睨み付けながら反論を始めた。

 

「お前のその白蛇は、お前に気遣ってそう自分の意志を伝えたんだろうが……そんな事をして何の意味が有る?」

 

「そ、そうですよ、伊黒さん! 第一、蛇と人間では視覚が異なります。視覚を共有したら却って戦い悪くなりませんか?」

 

愈史郎の反論に炭治郎が加わって、小芭内の説得を始めた。しかし、小芭内の意思は固かった。

 

「鏑丸は俺の右眼の代わりなだけの存在じゃない。俺と出会ってからずっと、今日まで俺を支えてくれた。鏑丸は俺にとって唯一の親友であり、相棒だ。死んでも蔑ろには、絶対にしない。」

 

『!』

 

小芭内は断言する様に、そう炭治郎と愈史郎に向かって言い放った。炭治郎が困った様に愈史郎を見ると、愈史郎は数回、後頭部を掻いてから開口した。

 

「……分かった……お前と鏑丸、一人と一匹だけが使う専用の『紙眼()』を作って見よう。」

 

『!!』

 

愈史郎は折れた様子で、そう提言した。すると小芭内が初めて笑みを零した様に見えた。尤も、顔半分下は包帯で隠れているため分からなかったが。

 

「シャ――。」

 

「良いんだ、鏑丸。お前の気持ちは嬉しかったよ。」

 

鏑丸が鳴くと、小芭内が感謝の意を込めてそう言った。続けて愈史郎に、そして炭治郎に面と向かって開口する。

 

「愈史郎、感謝する……竈門炭治郎、お前にも礼は言っておく。」

 

「!」

 

「!……ふん、礼なら出来てから言うんだな。」

 

感謝されるとは思わなかったのか、炭治郎は驚き、愈史郎は思わず顔を背けた。その様子を見て、不意に善逸を開口する。

 

「そう言えば……俺のチュン太郎の通訳、何時もしてくれてたもんなぁ……炭治郎は本当に動物の言葉が分かるんだな。」

 

「……はは。チュン太郎って可愛い名前で呼んでるけど、あの子は女の子で本当の名前は"うこぎ"だよ。ちゃんと名前で呼んであげなよ、善逸。」

 

「でも、うこぎって可愛く無いじゃんよ……。」

 

「一昨日も、本当は好物のうこぎ御飯が食べたいのに豆しか食わせてくれないって、愚痴零してたよ?」

 

「うっ……。」

 

善逸が鎹烏役のチュン太郎の逸話について話していると。続けて愈史郎も話に加わる。

 

「確かに、炭治郎は茶々丸と仲が良かったな……そうか、そんな理由が有ったのか……っ。」

 

『?』

 

愈史郎の呟きに、耀哉達は首を傾げた。茶々丸とは何者なのか分からないのだから、当然の反応である。

そんな行冥達の様子に気付いた様で、珠世は苦笑しながら答えた。

 

「あのドタバタの大騒動で、茶々丸の紹介が遅れました……出て来て良いわよ、茶々丸。」

 

 

 

みゃおぅ

 

 

 

『っ!?』

 

唐突に猫の鳴き声を耳にして、耀哉達は驚いて鳴き声の場所を探すと珠世と愈史郎の間に皮製の背嚢を背負った一匹の三毛猫が居た。

胸元には愈史郎の『紙眼』を着用していたため、珠世に関する猫だと何人かは気付いた。

 

「キャ――――ッ!!❤ 可愛いっ!!!❤❤」

 

「南無……可愛い猫が……。」

 

「……」

 

猫好きの行冥と蜜璃が茶々丸の登場に歓声を上げる。その一方でしのぶは身体を小刻みに震わせながら、じりじりと炭治郎に近寄っていた。

 

そんな大広間の騒動を余所に、茶々丸は大広間に入室して愈史郎の下へ近付いて行った。

愈史郎は茶々丸に着用していた『紙眼』を剥がす。茶々丸の『紙眼』は鳴くと、血鬼術が発動し、また解除される様に作った特製の物だ。鳴く度に姿が出たり消えたりするのは、はっきり言って面倒である。

 

「紹介します。この子の名前は茶々丸。人間並みの知性を持つ賢い子で、私達と炭治郎さんとの間の連絡係……分かり易く鬼殺隊(そちら)風に言うと、鎹烏の役割を果たしてくれていました。」

 

「俺達が鬼殺隊(お前ら)と合流した以上、これから先の連絡は鎹烏の方が早いからな。これで茶々丸はお役御免って訳だ。」

 

「みゃうぅぅっ!」

 

珠世が茶々丸の紹介をした後の愈史郎の言い分に、茶々丸が抗議する様に一度鳴き声を上げた。すると、行冥と蜜璃が茶々丸に声を掛ける。

 

「茶々丸君! おいでおいで!!❤」

 

「南無……良ければ、私の方に……。」

 

「……みゃおぅ。」

 

茶々丸が二人の声に反応して、珠世から離れて行冥の方に接近した。

 

「っ!!……おおぉぉぉっ。猫とは、斯様な可愛らしく愛くるしい姿をしていたのか……っ!」

 

盲目だった頃は形から物の姿を想像する他に無かった行冥は、愈史郎の『紙眼・視』を通して見れた事に感動を隠せなかった。一心不乱に、茶々丸をモフモフと触りまくり始める。

 

「ああぁぁっ!……悲鳴嶼さん、良いなぁ……。」

 

茶々丸が自分では無く、行冥の下へ向かった事に蜜璃は指を咥えて羨望の視線を送る。すると蜜璃のその視線が気になったのか、行冥から離れると一直線に蜜璃の下へ向かって行った。

 

「きゃああっ!!❤ きゃああああっ!!!❤ 茶々丸君可愛いっ!!❤❤」

 

自身の下へ来てくれた事に歓喜の声を抑え切れない蜜璃は、無我夢中で茶々丸の相手をし始めた。

 

『……』

 

茶々丸の登場で、何人かが茶々丸に気を取られ始めていると珠世から声を掛けられた。

 

「皆さん、そろそろ……私から無惨一党の話を始めても宜しいでしょうか?」

 

『!!!』

 

珠世からの鶴の一声で、大広間の空気は一瞬にして引き締まった。耀哉が代表して、珠世の質問に回答する。

 

「勿論だとも、珠世さん。お待たせして悪かったね。」

 

「いえ……では、改めて鬼殺隊の皆さんに話したいと思います。私が持つ無惨とその一党の鬼共の情報を。」

 

『っ!!!』

 

輝哉達は表情にこそ出していなかったが、珠世の言葉に内心では興奮を抑え切れなかった。

 

数え切れない程の犠牲を払って死体の山を、血の大河を築き千年と言う膨大な年月が掛かっても得られなかった、歴代の鬼狩り達が渇望し欲して已まなかった無惨の情報が今この瞬間に聞く事が出来るのだ。

 

それも側近として無惨の傍に仕えていた鬼からの情報である。その情報の精度は、推して知るべしと言うものであった。

 

「では、早速ですが……先ずは最大にして最終標的である私達の共通の宿敵、"原初の鬼"たる鬼舞辻無惨から話したいと思います。愈史郎、()()をっ。」

 

「はいっ! 珠世様。」

 

「!!!」

 

珠世の一言で、大広間の気温が上昇した錯覚に陥る。否、大広間の気温が上昇したのではなく、大広間に居る全員が感情を高揚させ興奮から体温が上がったのだ。

 

何人かに至っては頬を紅潮させていた。一方で何人かは冷静さを保っている様に装っているが、その瞳孔は凛々と輝いていた。

 

全員の視線が珠世に集中する中、愈史郎が大広間の片隅に置いて合った大箱を三つすべて重ねて持って来た。そして重ねた箱を珠世の背後に置く。

 

 

 

ドン! ガシャン!

 

 

 

『っ!』

 

愈史郎は重ねて運んでいた二つの箱を畳へ降ろすと、一番下の箱から道具がぶつかりあった音を立てた。

しかし、その音を愈史郎は一切気にする事は無い。

 

愈史郎は大小二つの箱を横一列に並べてから、大箱を珠世の左隣に置き、小箱を自身の近くに置いた。

珠世が愈史郎に礼を述べてから大箱の蓋を開ける。顔を顰めて青筋を浮かべる程の怒りを覚えながら、綺麗に丸められた一枚の和紙を取り出した。

 

「愈史郎。悪いけれど、これを皆さんに見える様に広げて頂戴。」

 

「はいっ!」

 

珠世に元気良く返答してから愈史郎は和紙を受け取ったが、今度は愈史郎が苦虫を嚙み潰した様に顔を顰めたまま、忌々しそうに丸められた和紙を大広間に居る耀哉達、全員の目に行き渡る様に場所を移動してから両手で和紙の上端を持って広げて見せた。

 

「っ!?……き、鬼舞辻無惨っ!?」

 

愈史郎が広げた和紙は一枚の肖像画であった。炭治郎が驚愕した様子で、肖像画に描かれた人物の名前を大声で口にした。

 

闇の如き漆黒の短髪。

猫の如く縦に裂けた、血を連想させる様な紅梅色の瞳孔。

肖像画なので正確な身長は判断出来ないが、細身の筋肉質な体型をしている。

肉体年齢が二十代半ばから後半の若い美青年だ。見た目だけでは千年以上生きているとは思えないし、そう判断出来ない程若々しい。

炭治郎が浅草で遭遇した無惨は小洒落た洋装を着用し、絵では黒を基調とした着物の和装をしていると言った違いは有ったが、間違い無く"原初の鬼"鬼舞辻無惨本人であった。

 

『!!!!!』

 

炭治郎が言い放った言葉に、全員が驚愕して再び無惨の肖像画を見る。すると、耀哉が炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎、君は浅草で無惨と遭遇しているね……この肖像画()と全く同じ姿形をしていたかい?」

 

「はい、浅草では洋装を着ていましたから服装は異なりますが……間違い無く、俺が浅草で見た鬼舞辻無惨そのものです!!」

 

――!!!!……コイツがァ!!!

 

――これが……!!

 

――この男がっ……!!

 

――肖像画()に描かれた奴が……!!

 

――鬼舞辻無惨!?

 

――鬼共の親玉かっ!!

 

炭治郎が確信を以て言い放った言葉に、今度は大広間に居るほぼ全員が憎悪を抱きながら無惨の肖像画を睨み付けた。

その殺意と憎悪が籠もった視線は、目を合わせただけで人を殺害出来そうな程に鋭いものだった。

 

――やはり耀哉と無惨の容姿は瓜二つだな。双子の様にそっくりだ。耀哉の痣で分かり辛いがな。

 

愈史郎は耀哉と無惨の顔を比較して、内心でそう呟いた。決して口にしない理由は、行冥達の憤怒を爆発させないためだ。

珠世のためならいざ知らず、無惨の所為で怒りの矛先が自身に向けられるのは迷惑極まりない。

 

一方、行冥達とは逆に耀哉に声を掛けられた炭治郎は、冷静さを取り戻していた。炭治郎は何とかこの殺伐とした空気を変えようと、珠世に話し掛けた。

 

「そ、それにしても、随分と上手な肖像画()ですね……珠世さん、どうやってこんな立派な肖像画()を用意出来たんですか?」

 

「この無惨の肖像画()は私が描いたものよ、炭治郎さん。」

 

『っ!』

 

「えっ!? そうなんですか!?」

 

肖像画の出処を聞いた炭治郎は、珠世自身が描いた物だと知って驚愕する。

 

「その……とても御上手です。珠世さん。」

 

「ふふっ、ありがとう。気分転換に始めたら、何時の間に上達しただけなのだけど。」

 

『……』

 

炭治郎の他意無き素直な称賛に、珠世は少し照れながら受け取った。だが、この些細な遣り取りもしのぶ達にとっては面白くない光景だった。

 

「……うん、炭治郎や伊之助が描く絵画とは大違い。」

 

「んだとぅ!? 紋逸っ! テメェもう一度言ってみろ!!」

 

先刻の一件から頭を切り替えた善逸がボソッと呟くと、伊之助が怒って善逸に絡み始めた。

 

善逸の言っている事は間違ってはいない。炭治郎も伊之助も画力が皆無で、見るに堪えない物だからだ。かと言う善逸もまた、炭治郎達とは違う意味で画力が悪いのだが。

 

「黙りなさいっ!」

 

「「がぁっ!?」」

 

苛立ったしのぶが善逸と伊之助の鳩尾に向かって、鋭い正拳をぶつけた。

しのぶの正拳をまともに喰らい、善逸と伊之助はその激痛に悶絶して静かになった。

 

「ふんっ……。」

 

「……続けます。この無惨ですが、先ず今日(いま)まであなた方が狩って来た鬼達の様に鬼殺隊(そちら)日輪刀(かたな)で頸を斬っても、無惨を殺す事は出来ません。」

 

『!!』

 

激痛で悶絶する善逸と伊之助を鼻で嗤うしのぶを横目に、珠世が鬼殺隊にとって最も重要な情報を口にした。

大広間に居る大半の人間がその情報に驚愕する中、耀哉を筆頭に一部の人間は驚愕している様子では無かった。それはまるで予め予想していた様であり、その様子に珠世が気付いて指摘した。

 

「あまり驚かれてませんね?……もしや、耀哉さんはそうではないかと思っていたのですか?」

 

「あぁ……半信半疑だったけどね? ただ、無惨を配下の鬼達を同一視するのは危険だと思っていただけだよ。」

 

「素晴らしい洞察力かと。貴方の仰る通り、無惨は普通の鬼とは次元が違います。」

 

『っ!』

 

「無惨は何時の間にか、頸の弱点を克服していました。私が鬼にされる前からか、鬼にされた後かは最早永遠に分かりませんし、分かりたいとも思いませんが……無惨を倒すには、陽光灼けによる焼殺の他に方法が有りません。」

 

「では、必然的に持久戦と言う事になるね?」

 

「はい。太陽が出る場所に引き摺り出して拘束しなければ、絶対に無惨には勝つ事が出来ません。」

 

『っ!』

 

炭治郎達は珠世が伝えてくれた無惨の倒し方を、しっかりと脳髄に直接刻み込む勢いで記憶した。

しかし、炭治郎達はこの貴重な情報すら始まりに過ぎない事を知る。

 

「無惨と戦う上で、皆さんに知っておいて欲しい事は他にも幾つも有ります。先ず、無惨の再生力についてですが……っ。」

 

『っ!?』

 

「た、珠世さんっ!?」

 

「珠世様っ!?」

 

珠世が説明している最中に、炭治郎達が驚きの声を上げた。何故なら珠世が腕の袖を捲ると、爪を立てて一本の血筋を立てたからだ。

珠世の白い腕に一本の赤い血筋が生まれ、重力に従い流血した。そして数秒も経つと、再生して傷口が塞がった。

 

珠世は再び、炭治郎達に向けて無惨について語り始めた。

 

「私達、鬼は通常……この様に傷が出来ると自然と再生が始まります。そしてこれは禰豆子さんみたいな例外を除けば、無惨の血が濃い鬼であればあるだけ高い再生力を誇ります。再生力が高ければ高い程、間隙が少ないのです。」

 

『っ!』

 

「……珠世殿。つまり、無惨の再生力は上弦の鬼ですらその比では無いと?」

 

「はい、冨岡さん。無惨の再生力は異常です。無惨ならば、斬った事すら自覚出来ないぐらいの速さで再生します。

切断は()()()日輪刀では不可能……それこそ刃を入れて動かした瞬間から、傷口が癒着して再生するでしょう。」

 

『っ!?』

 

「……()()()?」

 

斬撃が無効とも言える事実に、炭治郎達は驚愕する。だが、耀哉だけは珠世が言った意味深な言葉を聞き逃さなかった。珠世は続けて、更なる事実を告げる。

 

「それから無惨にとって強みであり、弱点とも言える特徴が一点有ります。これは知っているか否かだけでも戦いに大きく影響します。」

 

『っ!!』

 

珠世の言葉に、炭治郎達は息を呑んで耳を傾けた。

 

「無惨の無限に等しい再生力を支え、その驚異的な生命力の源となっている秘密が、要因の一つが無惨の身体には有ります。それは通常の臓器を心臓と脳に造り変えており……その結果、無惨の体内には七つの心臓と五つの脳が存在しているのです。」

 

『っ!!??』

 

『鬼舞辻無惨は頸を斬られても死なない。』と珠世に知らされた刻とは比較にならない衝撃が、炭治郎達を襲った。炭治郎達は何も言えず、双眸を見開き口を半開きにして言葉を口に出来なかった。

数えて五つの数字に届こうとした沈黙が続くと、漸く行冥が心情に思った言葉を口にした。

 

「脳と心臓が複数有るなど、言葉にされても俄かに信じ難し。臓器と言う複雑な物を一個体の限界保有数を容易く凌駕して、造り出す事が出来るとはとても……なれど、此処まで来て珠世殿を信じない理由も無い。疑う必要もまた、何処にも有りはしない。」

 

『!!』

 

行冥の言葉で、一部の柱達に生まれていた疑心が払拭された。耀哉もまた、行冥の言葉に肯定して頷いた。

 

「行冥の言う通りだ。疑う必要など、何処にも有りはしない。それにしてもこの情報は、鬼殺隊(私達)がどれだけ望んで得たいと思っても決して得られなかった……大変貴重な、唯一無二のものだ。」

 

『……(コクッ)』

 

輝哉が断言して行冥に同意すると、炭治郎達は一斉に静かに頷いた。炭治郎達のその反応を見て、珠世は続けた。

 

「本来なら二ヶ所で済む急所を、その六倍の十二ヶ所に増やした事だけでも厄介な話ですが……無惨は更にこの無駄に増やした脳味噌と心臓を体内に自由自在に移動させられるので、位置が定める事が出来ません。

外からでは一見しても位置を特定出来ず、攻撃の難易度が極めて高いのです。」

 

「……チィッ。厄介って一言で簡単に済ませられる話じゃねぇなァ……。」

 

『……っ。』

 

「……」

 

実弥が舌打ちしてから忌々しそうにそう言った。自然と何人かが、実弥に同意して頷く。珠世もまた双眸を閉じて同意の意思を伝えたが、それを脳裏で振り払って語り続ける。

 

「無惨の身体について、私から報告すべき事が他にも有ります。愈史郎、今度はこれを」

 

「はいっ! 珠世様っ!!」

 

愈史郎は無惨の肖像画を放り投げる様に投げ捨てると、珠世から別の和紙を一枚受け取った。

 

それから愈史郎は再び顔を顰めて青筋を浮かべる程に怒りながら、苦虫を嚙み潰した様に顔を顰めたまま、忌々しそうにその和紙に描かれている絵が大広間に居る耀哉達、全員の目に行き渡る様に場所を移動してから両手で紙の上端を持って広げて見せた。

 

『!?』

 

愈史郎が広げた和紙にもまた、無惨が描かれた肖像画であった。しかし、只の肖像画ではない。両腕が変化している。

 

両腕を鞭の如き肉塊の触手に変化させており、先端は歪で鋭利な刃物状に鋭く尖っている。更には鋭利な牙が隙間無く生えた無数の口が形成されている。

 

「この肖像画()は一体……っ?」

 

小芭内が疑問に思って、無意識にそう呟いた。珠世はその小芭内の呟きを耳にして、即座に答えた。

 

「この肖像画()に描いた無惨の両腕が、無惨の基本的な攻撃手段になります。無惨は血鬼術を使った搦め手よりも、自身の人智を凌駕した己の身体能力を駆使した肉弾戦を好みます。」

 

『!!!』

 

珠世の報告を聞いて、炭治郎達は肖像画の無惨を凝視した。正確には、その鋭利な両腕をだが。

すると耀哉が肖像画から視線を外して、珠世に尋ねる。

 

「無惨の事だ。この攻撃手段には何か、絡繰りでも有るのではないかい? 珠世さん?」

 

『っ!』

 

「……御明察。これだけでも直撃すれば即死しますが、実は掠っただけでも大変危険です。」

 

「っ!……どう危険なんですか? 珠世さんっ。」

 

耀哉の指摘に答えた珠世の返答に対し、蜜璃に疑問が思い浮かんだため、珠世から更なる回答を望んで質問した。すると珠世から、衝撃の返答が齎された。

 

「無惨は攻撃する際に、自身の血を大量に混ぜるんです。伸縮自在で間合いは三十三尺(十m)程。攻撃速度ははっきり言って神速の領域に達します。柱級の剣士で漸く、攻撃を躱せると言っても過言では有りません。」

 

「そしてその攻撃で掠り傷でも受けようものなら……瞬く間にその猛毒同然の穢れた血に身体を犯されて、全細胞を破壊され苦しみながら死に絶えます……もしも逆に、無惨の血に耐えてしまったら最悪……鬼に変貌して無惨の手先に成り果ててしまうでしょう。」

 

『なっ!……っ!!』

 

珠世が報告した情報は、周囲が思わず声を漏らしてしまう程の衝撃を齎した。中にはあんぐりと、口を半開きになっている者も居た。珠世はそんな周囲に構わず、更にある事実を口にした。

 

「今から四百年以上前に……そんな無惨の神速の攻撃を一度も掠る事無く、一人で十二ヶ所の急所を斬って後一歩のところまで追い詰めた伝説的な剣士が居ました。」

 

『っ!?』

 

『……』

 

珠世が語った昔話に、大広間は二つの反応に分かれた。

 

一つは驚く事無く冷静で居る者達である。炭治郎や蝶屋敷組、愈史郎に産屋敷家だ。輝利哉達、耀哉の実子達はある程度、教育されているので驚いてはいなかった。

 

そして炭治郎達は愈史郎が作成した『紙眼・視』で耀哉が視力を取り戻した際に全てでは無いにせよ、珠世からある程度の詳細な話を聞いていた。

 

炭治郎達以外の者達は信じられない様子で、双眸を見開いて驚愕していた。珠世は行冥達の反応を見てから、愈史郎に話し掛けた。

 

「愈史郎、此方を。」

 

「はいっ! 珠世様っ!!」

 

愈史郎は無惨の肖像画が傷付かない最低限の配慮をしつつ乱雑にしまうと、珠世から貰った別の和紙を受け取って広げた。

 

『っ!!!』

 

其処には一人の男性が描かれていた。腰まで届きそうな長髪をポニーテールで纏め、額の左側に炎の如き痣が特徴的であった。

 

「この方こそ、継国縁壱さん。全ての"呼吸法"の原点にして頂点たる"日の呼吸"の使い手であり、鬼殺隊(あなた方)に"呼吸術"を伝授し、当時は剣術の流派だった水・炎・風・岩・雷を今日の"呼吸術"にまで昇華させた中興の祖。」

 

『!!!』

 

「この人が……っ!」

 

珠世から緑壱の紹介を受けて炭治郎がそう呟いてから、肖像画をマジマジと凝視する。耀哉達も同様であった。

珠世は縁壱を思い出す様に語り始めた。

 

「あの当時の頃の私は人間としての正気と理性を取り戻していたのですが、呪いのせいで無惨の呪縛から逃れられず絶望していました。

そんな矢先に、私は無惨と一緒に行動した際に、縁壱さんと遭遇した。これが、私と縁壱さんの最初の出会いでした。」

 

『……』

 

「縁壱さんと無惨の戦いは凄かった。私でも、とても眼で追う事が出来なかった……そして縁壱さんが無惨の神速の攻撃を搔い潜り、無惨を切り刻んだあの瞬間は未だに忘れられない……っ!」

 

『っ!!』

 

珠世が些か興奮した様子で語り始めたのを見て、行冥達は少しばかり驚きながら、その内容を聞き漏らさない様に耳を立てていた。

一方で、炭治郎達に驚きはあまり無く、同様に話を聞き続ける。

珠世の表情から興奮の色が更に濃くなり始めた。

 

――嗚呼……興奮する珠世様も美しい……。

 

一方の愈史郎は、珠世を見詰めるのに忙しかった。きちんと話の内容を聞いている辺りは流石であったが。

 

しかしそれも次の瞬間、珠世の端麗な美貌に憤怒の色で宿る。珠世は忌々しそうに口にした。

 

「しかし、其処まで追い詰めたのに……追い詰められた無惨は縁壱さんから逃げて生き延びるために、身体を分裂させて逃亡を図ったんです!」

 

『!!??』

 

珠世が叫ぶ様に言った内容に、炭治郎達は驚愕する。炭治郎達は想像もしなかった無惨の逃走方法に、暫しの間、理解が追いつかなかった。

 

「分裂、したんですか?……あの無惨が逃げるためだけに……?」

 

自尊心が高い筈の無惨が見下している人間から逃走するとは、炭治郎は想像する事が難しかった。

 

「私が言った言葉通りです、炭治郎さん……無惨は自分の身体を一千八百個もの肉片に分裂すると、縁壱さんは即座に対応して次々と無惨の肉片を細切れにして行った。

幾ら縁壱さんでもそれだけの肉片を一人で斬り尽くせ無かった。一千八百個の内の一千五百個を斬って残りの三百個近い肉片を、人間の頭部程の大きさになる量の肉片を逃してしまったのです……っ!」

 

『!!』

 

「え、えっと……珠世さん、それだと鬼殺隊(俺達)が無惨を倒すには……(ゴクッ)。」

 

説明して感情が高ぶり始めた珠世に向かって善逸が震えながら、一度唾を呑み込んで自己理解させるためにその必要条件を口にし始めた。

 

「太陽が当たる場所に無惨を引き摺り出した上で、掠り傷でも受けたらいけない間合いも速さも反則な攻撃を避けつつ、十二ヶ所の急所を狙って攻撃し、肉体の分裂に選る逃走を阻止しなきゃいけないって事ですよね……どうしよう、自分で言ってて出来る気がしない。

その縁壱って剣士、本当に人間かよ……。」

 

『……っ。』

 

善逸が青褪めながら、無惨と緑壱に畏怖に近い恐怖感を覚えて呟いた。炭治郎達は善逸の呟いた言葉に答えなかったが、その沈黙が善逸に同意していた。

 

「……珠世さん?」

 

炭治郎が顔を上げて、珠世に声を掛けた。珠世から憤怒の匂いがして、徐々に強くなったからだ。事実、珠世は怒りで身体を強く震わせていた。

 

「あの日を思い出すと、今でも身体が溶けて無くなってしまいそうな怒りを覚えます。

無惨は縁壱さんに斬り刻まれて、再生しない自身の身体に当惑していた。切断された頸を支えるのに精一杯だった。

私は無惨がこれから死ぬのだと、これでこの世に生きる()()()()()()()のだと思うと興奮せずには居られなかった!……本当に、後もう少しだったのに……あの生き汚い臆病者がっ!!」

 

『っ!?』

 

「っ!?……珠世さんっ、どうか待って欲しい……っ!」

 

ある言葉が憤怒している珠世の口から放たれた事で、大広間に響めきが広がった。耀哉もまた、その言葉を無視出来ず語っている最中の珠世を制止する。

 

「っ?……どうかしたのですか? 耀哉さん。」

 

語っている最中に制止された珠世は水を差されたと少し不機嫌になったが、御蔭で冷静さを取り戻せたため感謝しつつ耀哉に制止させられた理由を尋ねた。

耀哉は震えながら、珠世に確認する。

 

「珠世さんは言ったね……『()()()()()()()』と……無惨が死ねば鬼は滅ぶ……それは本当かい?」

 

『……』

 

耀哉が尋ねると同時に、嘘なら許さんと言わんばかりの剣呑な空気が大広間に漂った。大広間に居る全員の注目が、珠世に集まった。

一方の珠世はと言うと、きょとんとした表情で首を僅かばかり傾げていた。

 

「私、言いませんでしたか?……はい、本当の事です。無惨は支配下に置いた全ての鬼に、裏切り防止のための呪いを掛けてあります。ですから無惨が死ねば掛けられている呪いの所為で、自動的に鬼は道連れにされて滅ぶのです。」

 

『っ!!!』

 

珠世が断言すると、大広間に居る一部の者達が歓喜して拳を強く握り締めた。

 

「っしゃぁっ!! やる事が派手に決まったなっ!」

 

「うむ。これで"推測"が"確信"へと変わった。」

 

「醜い鬼共は全部殲滅してやる心算だったがァ、手間が省けたってもんだぜェ……!」

 

「……やる事は当初と変わらない。」

 

「だが、推測でやるのと確信を持ってやるのとでは、士気の差に雲泥の差が有る。」

 

「この事実を知ったら、皆の喜ぶ顔が浮かぶわね!」

 

「……」

――少しばかり空元気で喜んでいるわね、けれども気持ちは分かる。無惨を倒せば鬼との戦いに勝利出来ると分かっても、その無惨を倒す事そのものが至難の業だと分かってしまったのだから。

 

珠世は行冥達の心情を察して同情した。しかし、直ぐに感情を切り替える。

 

――しかし、私個人のこんな同情なんて何一つ、何の役にも立たない。だから出来るだけ多く、無惨側の情報を炭治郎さん達に提供しなくては……。

 

珠世は自身にそう言い聞かせると、再び開口して語り始める。

 

「皆さんが喜んでいるところを、水を差す様で誠に申し訳無いのですが……更に一つだけ、無惨に関して懸念事項が有るのです。」

 

『っ?』

 

「っ?……珠世さん。一つだけとは言わず、俺達に遠慮しないで欲しいです。寧ろ、有るなら有るだけ仰って下さい。無惨一党の情報なんて一つでも多く欲しい……寧ろ幾ら有っても足りないくらいなんですから。」

 

珠世が躊躇しながら言い放った内容に対して、炭治郎が発言を促す様に気遣った。

炭治郎の言葉に何人かが同意して無言で頷いた。珠世はその反応を見て、自身が抱く懸念を口にする。

 

「私が懸念する事項についてですが、これはあくまで私が知っている今から四百年以上前の無惨の戦闘方法になります。

しかもあの当時、無惨は縁壱さんを侮って斬り刻まれたので全力で戦ってはいませんでした……もしかすると、無惨は現在(いま)では両腕以外に攻撃手段を幾つも持っている可能性が大いに有ります。」

 

『!!!』

 

珠世が口にした懸念事項に、炭治郎達は"目から鱗が落ちる"思いがした。

 

「珠世さんの言う通りだ。この情報はとてもありがたいけれど、固定観念になってしまっては命取りになるかもしれない。皆もその心算で頼んだよ。」

 

『御意……。』

 

耀哉が念押しする様に炭治郎達に忠告すると、全員が了承する。そして今度は別の忠告をするために、愈史郎が開口する。

 

「この戦いは先刻(さっき)俺が言った様に、人間と鬼の戦争だ。大将首を取って終わりなんて、簡単に出来る話じゃない。」

 

「将棋で例えるなら現状、互いに歩兵の駒をすり潰し合っている様なもの。

それで時折、金銀飛車角の駒がでしゃばってるくらいで王手なんて掛ける機会が無い……それに無惨を倒す云々言う以前に、どうしても無視したり放置したりなんてする事が出来ない()()が存在している。」

 

「上弦の鬼達……の事だね?」

 

「そうだ。上弦の鬼は柱と同様、そんなポンポン湧いて来る様な存在じゃない。鬼自身が無惨の血に順応出来ないと死ぬからだ。

無惨との決戦に勝つためには、先手を打って如何に上弦共を一体でも多く討ち取って有利な状況に持ち込めるかに掛かっている。」

 

『!!』

 

耀哉が呟いた指摘に炭治郎達の表情は緊張が走り、怒りの色で染まる。

全ての元凶たる無惨への怒りと憎悪の念は強い。

 

現状、最も直に仲間に手に掛けているのは無惨の手足と言える上弦の鬼達である。

無惨と同様、さして変わらぬ怒りと憎悪の念を抱くのは当然の事であった。

 

「それも結構ですが……上弦の鬼の話に進める前に、まだもう少しだけ、あの当時起きた過去の出来事を話さなければなりません。」

 

『!』

 

「それも気になるね……珠世さん。縁壱が無惨を逃した後はどうなったのだろう?」

 

『!!』

 

珠世の発言と耀哉の質問で、全員の視線が珠世一人に集中した。珠世は再び過去について語り始めた。

 

「無惨が逃亡した後、当時はまだ掛けられていた呪いが弱まった事を知り、縁壱さんに私が知っている事を全て話しました。」

 

「それから死ぬ心算でしたが、縁壱さんは私を信じて『後の剣士達が無惨を倒せる様に、彼らの手助けをして欲しい。』と言って下さった。だから私はその頼みに答えるために、今日まで生き恥を晒して来ました。」

 

『っ!!』

 

縁壱の英断と言って差し支えない行いに、耀哉達は感嘆する。

 

「待って下さいっ!……もし珠世さんが縁壱さんに無惨の情報を提供していたなら、鬼殺隊はとっくに知っていた筈では無いんですか?」

 

『っ!!』

 

炭治郎の質問で、耀哉達はハッとなった。確かに縁壱が鬼殺隊に所属していたならば、報告している筈だ。縁壱が報告を怠ったとは、考えにくかった。

 

「それについても、これから話しましょう。」

 

『!』

 

「私は縁壱さんに頼まれた後、()()()()をしようとしましたが……その直後に他の鬼狩りが駆け付けて来たため、縁壱さんに言われて逃走しました……。」

 

()()()()?」

 

炭治郎がオウム返しの様にそう呟いた後、珠世が頷いてから続けた。

 

「縁壱さんには双子の兄が居ました。名前は継国巌勝。当時、"日柱"だった緑壱さんに次ぐ、月の呼吸の使い手……"月柱"だった鬼狩りです。」

 

『!!』

 

『!!……っ。』

 

耀哉達は縁壱に兄弟が居てそれが双子だった事に驚いたが、それ以上に兄弟揃って鬼殺隊の柱をしていた事に驚いた。

しかし炭治郎を筆頭に、何人かが怪訝そうに珠世を見詰める。それは珠世が、何故か深刻そうな表情と声色をしていたからだ。

 

「……それで? その月柱様がどうしたってんだ? 珠世さんよぉ。」

 

『っ!』

 

天元に尋ねられた珠世は、意を決して衝撃的な真実を耀哉達に伝える。

 

「この巌勝ですが……縁壱さんを、鬼殺隊を裏切って無惨に寝返り、鬼になってしまったのです……!」

 

『!?!?』

 

無惨の情報を得た時と変わらぬ衝撃が、耀哉達を襲った。

 

「柱が裏切って、鬼になったってのかァ!?」

 

「そりゃねぇだろ……んなもん有りかよ……。」

 

「しかも鬼にされたのではなく、自ら望んで鬼になっただと!?」

 

「馬鹿な……有り得ぬっ!!……有ってはならぬ事態だっ!」

 

「……とても……この情報は公開出来る物では無い。」

 

「そんな……そんなっ!」

 

「「……っ!!」」

 

行冥達は動揺を隠せぬまま、次々と開口して狼狽した。しのぶと無一郎だけが何も言わなかったが、明らかに動揺していた。ただ、しのぶと無一郎の違いは無一郎が青褪めていた事だった。

 

『っ!?……っ!!』

 

炭治郎達に至っては、言葉に出来ない程の動揺っぷりであった。

 

「巌勝は鬼に変貌した後、無惨への忠誠の証として当時の第六十五代目産屋敷家当主の首を刎ねて首級として捧げました。

この際に産屋敷一族を皆殺しにしたと直接、私は無惨と共に巌勝の報告を受けています。実際は一人息子で当時六歳だった後の第六十六代目産屋敷家当主とその母親は別行動を取っていたため、殺されずに済んだのですが。」

 

『……っ!!!』

 

「……四百年前と言えば、丁度『隠』が設立された時期と重なる。産屋敷邸の隠蔽がより厳重になったんだよ。」

 

産屋敷家の当代当主と一族が柱の裏切りに選って殺害されたと知り、全員が愕然となった。その後は一部の者達は口元を押さえながら涙を浮かべ、一部の者達は憤怒に震えた。

 

「酷ぇ真似を……ッ!!」

 

「外道がっ!!」

 

実弥と小芭内が怒りを抑え切れず、激昂して叫ぶ。尤も、誰もその事について注意しない。大広間に居る、全員が同じ気持ちを抱いていたからだ。

 

「……こうして巌勝は無惨から"黒死牟"の名前を与えられ、忠実な配下に加わりました。

私が居た頃は十二鬼月の制度など在りませんでしたから、推測でしか有りませんが……柱としての実力に加えて、鬼になった事も加味すると恐らく十二鬼月筆頭、最強の"上弦の壱"に君臨しているものと見て間違いないでしょう。」

 

『!!!』

 

珠世の推測に対して、異論を挟む者は居なかった。柱が鬼になったともなれば、鬼舞辻無惨麾下筆頭であっても決して不思議では無いからだ。

推測を終えると、珠世が箱の中から一枚の和紙を取り出して愈史郎に手渡した。

 

「此処から先は、巌勝を黒死牟と呼ばせて頂きます。先ずは、この肖像画()をご覧下さい。」

 

『!』

 

愈史郎が広げた肖像画には、一人の男性が描かれていた。

 

その外見は緑壱と瓜二つの外見であった。

服装は紫の袴下に黒の袴という侍然とした物を着用していた。

髪型は黒色の長髪を後ろに束ねたポニーテール。

額の左側頭部側に緑壱と同様の炎の如き赤黒い痣が有った。縁壱と異なるのは、右側の首筋にも赤黒い痣が見える事ぐらいか。

 

しかしその容貌は双子の弟である縁壱とは、否、人間とは掛け離れていた。

三対計六つの赫眼金瞳をした、視線を合わせた者全てを戦慄させる様な禍々しい眼が均一に並んでいた。

肖像画にも関わらず、その姿は重厚にして威厳に満ちていた。

 

「この男が……黒死牟……っ。」

 

炭治郎が圧倒された様に、黒死牟の肖像画を見て呟いた。

 

『……っ。』

 

それは炭治郎だけで無く、柱として何百体、中には一千体以上もの鬼と対峙して来た行冥達も同様であった。

 

「……チィッ!……おい、この鬼は"月の呼吸"ってぇのを使うって言ってたよなァ?……聞いた事もねェ呼吸だッ……実際にどんなもんか知らねぇのか、鬼……じゃなかった、珠世さんよォ?」

 

『っ!』

 

一瞬でも圧倒され、怯んでしまった事実に苛立ちながら実弥が珠世に質問した。その質問内容が気になって炭治郎達が視線を珠世に向けた直後、珠世が実弥の質問に回答する。

 

「はい。無惨は鬼になったばかりの黒死牟に"月の呼吸"がどんなものか見たかったので、私も隣で見せて貰った事が有ります。その当時の一面を絵画に描いたので、それを見ながら説明しましょう。」

 

『!!』

 

珠世がそう言うと新たな和紙を一枚、箱から取り出した。間髪入れず、愈史郎が手に取ってその和紙の両端を持って広げて見せた。

 

『っ!!』

 

愈史郎が広げた絵画には、黒死牟が真横に描かれ居合斬りを放っている。

鞘や鍔、目釘に無数の眼が浮かんだ、持ち主同様眼の存在が目立つ不気味な造形の刀を持ち、横薙ぎに真向斬りを放っていた。不気味な造形の刀から一振りの斬撃が放たれ、その周辺には三日月の如き無数の月輪が描かれている。

 

「……珠世さん。これが"月の呼吸"の剣技で間違いないかな?」

 

「はい。早速ですが説明させて頂きます……この"月の呼吸"ですが、剣閃に沿って長さも大きさも数も不定形かつ無作為に、三日月状の無数の斬撃が襲い掛かって来ます。黒死牟に迂闊に接近して斬り合えば、斬り刻まれて刀の錆になるのがオチでしょう。」

 

『!!……っ!』

 

「っ……でェ?……この気色の悪ィ刀は何だァ?……まさか日輪刀じゃねぇだろうなァ?」

 

「この刀は本人の血肉から精製された物です。壊れても直ぐに再生するので、武器破壊を狙っての弱体化は望めません。血肉から出来ているが故に、形も自由自在に作り替えれるものと考えられます。」

 

「四百年以上前の"月の呼吸"の型は四つしかありませんでしたが、今もそうとは思えません。相手は剣士ですが、間合いは剣士のそれを遥かに凌駕している事に留意して下さい。」

 

珠世はそう言ってから、更に三枚の和紙を順番に広げた。最初の和紙に描かれたのが壱の型であり、残り三枚の和紙には壱の型と同様、弐から肆の型が描かれていて、珠世がそれらの剣技を丁寧に説明した。

 

『……』

 

想像を超える難敵の存在が発覚した事に、炭治郎達は沈痛する。すると炭治郎が何かに気付いた様子で、ハッとした様子で焦燥感を抱きながら珠世に尋ねた。

 

「お兄さんが鬼になったと知らされて、縁壱さんはその後どうなったんですか!?」

 

『!』

 

「……」

 

当初は妹の禰豆子を自分諸共処刑しようとした程、鬼殺隊の鬼に関する隊律が厳しい。それが鬼殺隊を裏切って自らが鬼となり、産屋敷の当代当主を殺害したとなればどんなとばっちりを受けるか想像も出来なかった。

 

他人事ではない縁壱の境遇に、炭治郎は焦燥感を抱かざるを得なかったのだ。炭治郎の質問を聞いて、耀哉達も気になって珠世に強い視線を向ける。注目された珠世は双眸を閉じてから強く見開くと、縁壱について再び語り始めた。

 

「縁壱さんは無惨を仕留められなかった事と私を討たずに逃がした事……そして黒死牟の三件について責任を糾明され、鬼殺隊を追放されました。鬼殺隊はこの時、混乱の極みに居たので私が縁壱さんに伝えた情報も受け取らず、時の流れと共に失われたのでしょう。」

 

「縁壱さんは多くの鬼狩り達に責められ、当初は自刃する様に他の鬼狩りから要求されたそうなのですが、それは第六十六代目産屋敷家当主が取り成して追放に留めたそうです。」

 

「私は縁壱さんが五十代の頃に再会し、その時の事を『母君を除く家族を一夜にして全て失い、心の弱っている幼子に更なる心労を掛けて本当に申し訳無かった。』と苦しそうに言っていました。」

 

『……』

 

「縁壱さんは悪く無い……。」

 

縁壱が受けた処遇を聞いて、耀哉達は言葉が出なかった。質問した炭治郎は増々焦燥しながら、そう呟く他に無かった。

 

「チィッ! 救えん馬鹿共だっ! 自らの手で最高戦力を手放すとはなっ!!」

 

『!!』

 

青筋を立てる程の憤怒を露にしながら、愈史郎がそう罵倒する様に呟いた。それを聞いて、珠世は静かに宥める。

 

「愈史郎、止めなさい……敬愛する主人を殺された当時の鬼狩り達の怒りは推して知るべしだわ。本人に怒りのぶつけ様が無ければ、親族に怒りの矛先が向かうのは古今東西の道理と言うものよ。」

 

「……はい、珠世様……っ。」

 

珠世に注意された愈史郎は三回程深呼吸をして心情を安定させると、珠世に返答して頭を下げた。

 

「……無惨と黒死牟の件については、以上になります。此処から私が持っている他の上弦の鬼に関して話したいのですが、その前にお願いが有ります。」

 

『!』

 

「お願い……?」

 

「珠世様、お願いとはどの様なものでしょうか?」

 

無惨と黒死牟の説明を終えた珠世はある頼み事を口にした。その頼み事の内容を知るべく、あまねが珠世に質問する。

 

「私が持つ上弦の鬼の情報と、鬼殺隊(あなた方)の持つ上弦の鬼の情報には齟齬が生じている様に思うのです。ですから、先ずは鬼殺隊(あなた方)の持つ上弦の鬼の情報を開示して頂けないでしょうか?」

 

「っ!……確かに珠世さんばかり語らせるのは、申し訳無い事だ。あまね、頼めるかい?」

 

珠世の頼み事を承諾した耀哉はあまねに自身に代わって答えてる様に頼むと、あまねは承諾して語り始めた。

 

「御意……珠世様、そして皆様方に申し上げます。先ず上弦の肆・伍・陸に関して、鬼殺隊は一切の情報を持ってはおりません。」

 

『……』

 

「!!……そうですか。では、上弦の弐と参の情報は御持ちなのですね?」

 

「はい、仰る通りです。」

 

あまねがどの上弦の鬼に関しての情報を持っているか答えると、珠世の視線を察して回答する。

 

「上弦の参の名前は"猗窩座"。格闘術を使い越す武道家で……と言う報告を受けております。」

 

『!』

 

「……ちょっと待てっ。鬼殺隊(お前ら)が持っている情報ってそれだけか!?」

 

あまねが口にした報告内容の質量の無さに、たまらず愈史郎がツッコミを入れる。あまねは顔色一つ変えず、真顔で愈史郎に答えた。

 

「はい。この猗窩座(上弦の参)の情報自体は百年以上前……正確には百十年以上前から有るのです。」

 

『!!』

 

「何?……期待した俺が馬鹿だったな。そもそも鬼殺隊は上弦の鬼共の情報なんて碌に得られていない癖に何故、猗窩座(上弦の参)に関しては情報を持っているんだ? しかも何故、その情報を共有していない?」

 

珠世が感嘆と疑念を抱きながら、そして次に愈史郎が怪訝そうにあまねに尋ねると、予想外の回答があまねの口から飛び出して来た。

 

「情報を公表しなかった最大の理由は……猗窩座(上弦の参)が女性だけは殺さない……いえ、傷付けようとすらしないからです。」

 

『!?』

 

上弦の参(猗窩座)が……女性だけは殺さないから……っ!?」

 

情報源獲得の理由を知って、行冥達は驚きを隠せなかった。炭治郎もまた、信じられない様子であまねを見詰めた。

 

「はい、私が伝えた情報も嘗ての花柱が生還して持ち帰った物……その花柱が残した報告書によると、『私との戦いでは猗窩座(上弦の参)は逃げ回り躱し続けるだけで攻撃せず、最後は日輪刀を圧し折るだけで、最後の最後まで私を傷付けようとすらしないまま逃走した。』との記述が残っています。

 

「それから幾人もの女性隊士が猗窩座(上弦の参)と遭遇した際も同様の結果でした。見向きもせずに逃走するか、日輪刀(かたな)を砕くだけで殺さず傷付けず、逃走しております。」

 

『!!!』

 

行冥達はあまねの言った内容に驚愕する。だが愈史郎は益々、怪訝そうにあまねを睨み付けていた。

 

「それで?……それの何処が鬼狩り共にまで、猗窩座(上弦の参)の情報を秘匿にする理由にする理由になるんだよ?」

 

「……女性は殺さない、傷付けない。この情報を事前に持っていた場合、無意識に相手を侮り油断する可能性を考慮して、今日まで秘匿にされていました。」

 

「……っ。」

 

『……』

 

「何を馬鹿な。」と愈史郎を筆頭に何人かは口にしたかったが、そうはならなかったと断言する自信も持ち合わせていなかった。そのため、反論せず沈黙する他に選択肢は無かったのである。

 

炭治郎も愈史郎達と同様であったが、それよりもある事に気付いた。

 

――アオイさん?

 

炭治郎は振り向いて、アオイを見た。アオイから恐怖の匂いを感じて、気になったからだ。

 

「っ……っ!……。」

 

「「……」」

 

アオイは上弦の参(猗窩座)の名前を聞く度に、恐怖で身体を震わせていた。

必死で身体の震えを押さえようと自身を強く抱き締めている。しのぶとカナヲはそんなアオイの様子を見て、何も言わずアオイを辛そうに黙って見詰めていた。

 

「アオイさん。」

 

「っ!……た、炭治郎さんっ!」

 

炭治郎はアオイから恐怖の匂いが出ている事に感付いて、ゆっくりと接近する。そして右手でアオイの左手を優しく握った。

 

「何か遭ったか分からないけれど……大丈夫だから、ね?」

 

「は……はいっ❤」

 

最愛の恋人である炭治郎が自身を気遣い、手を握ってくれた事にアオイは歓喜していた。アオイの心には既に恐怖心は無く、ただ炭治郎の温もりを感じる事に集中していた。

 

「「……」」

 

その様子を見ていたしのぶとカナヲだったが、先ず抱いた感情はアオイが落ち着きを取り戻してくれた事に関する安堵と炭治郎への感謝だけであった。

 

しかし、其処に羨望や嫉妬が無かった訳では無かった。

 

「炭治郎君っ❤」

 

「っ!……炭治郎!❤」

 

「おおっ!?……っ!!」

 

「っ!?」

 

しのぶは炭治郎の背中を目掛けて抱き着き、出遅れたカナヲは空いていた炭治郎の左手を右手で握り締めた。

 

炭治郎は奇襲の如きしのぶとカナヲの襲来に驚いたが、直ぐに口を閉ざした。その理由は炭治郎が背中から感じるものに、強く意識が向かったからだ。

 

しのぶの乳房が、衣服越しにむにゅっと形を変えて炭治郎の背中に押し付けられたからだ。

 

しのぶは実は先刻の小休止時に、普段はキツく締めている晒を外していた。そのためしのぶの乳房を衣服越しとは言え、炭治郎は直接(ダイレクト)に感じていたのである。

 

「し、しのぶさん……その……っ。」

 

「何ですか、炭治郎君? ふふっ❤」

 

情交(セックス)する際は、時にしのぶが気絶するまで乳房から手を離さず執拗に揉み続けている炭治郎だ。

 

しかし、それでもその柔らかさに慣れる事が無い。寧ろ知っているからこそ、想像が容易く感情を揺さぶられる要因となっていた。

 

――嗚呼❤ 意識しちゃって、炭治郎君は可愛いなぁ❤ えい❤ えい❤

 

そんな炭治郎の様子に、気が付かないしのぶでは無い。愛おしさを覚えながら自身の乳房を押し付けて、愛する恋人の反応を楽しんでいた。

 

「「……っ!!」」

 

最愛の恋人が姉と仲睦まじくしている様子を見せられて、アオイとカナヲは面白い訳が無い。二人仲良く青筋を立てて、炭治郎としのぶを睨み付けていた。

 

「「……ふんっ!」」

 

「おゎっ!?」

 

アオイとカナヲは炭治郎に密着すると、握っていた手から腕に握り直して、自身の谷間に腕を押し付ける様に抱きしめていた。

 

「「っ!」」

 

「……これでしのぶ姉さんと御相子。」

 

「良いですよね? 炭治郎さんっ、しのぶ様。」

 

有無を言わせないとばかりに、更に強く炭治郎の腕を自身の谷間に押し付けてそう断言した。

 

「むー。」

 

そんな炭治郎と胡蝶姉妹の遣り取りを面白く無さそうに、睨み付けている者が居た。炭治郎の実妹、禰豆子だ。禰豆子は早速、兄の炭治郎譲りの行動力を発揮する。

 

「「「「!」」」」

 

「うっ!」

 

禰豆子は素早く炭治郎の前へ移動すると、普段は陽光避けの専用箱に入るための最小化の体型になって炭治郎の膝上に占領したのである。

これは禰豆子が現状、最も炭治郎に迷惑を掛けない決断であるとの英断であった。

 

――ぐっ!……こんなあっさり炭治郎君の膝上を奪うなんて、流石は禰豆子さんだわっ。

 

――禰豆子ちゃん、やるなぁ……。

 

――恐ろしい、やはり禰豆子さんは油断出来ない相手ねっ。

 

そんな禰豆子に、しのぶ達は感嘆と僅かながらの畏怖を抱きながら禰豆子を見詰めていた。

 

「……」

――しのぶちゃん達、楽しそうだし幸せそう……良いなぁ……。

 

蜜璃はしのぶ達の幸せそうな遣り取りの様子を見て、自身でも気付かない内に羨望の眼差しで見詰めていた。

 

「……コホン。」

 

するとそんな洒落合いを続ける炭治郎達を余所に、一度咳払いをしてから珠世が開口する。

 

「そうですか……あまねさん、ありがとうございました。……炭治郎さん。それから伊之助さん。貴方達二人は上弦の参(猗窩座)の姿形、容貌を覚えていますか?」

 

「っ!……はい、勿論覚えていますっ!」

 

「忘れる訳ねぇだろうが!」

 

炭治郎と伊之助が珠世の質問に即答すると、珠世は一度頷いてから行動に移り始めた。

 

「お二人が遭遇したと言う上弦の参(猗窩座)ですが……この男ではありませんか?」

 

『!?』

 

『!!!』

 

珠世は大箱から一枚の丸められた和紙を手に取って広げると、其処には一人の男性が描かれていた。

 

容貌は細身で筋肉質な美青年である。

服装は素肌に直接袖無しの羽織に砂色の洋袴(ズボン)、両足首に数珠を着用しているだけの軽装。

髪型は紅梅色の短髪。身体には藍色の線状の紋様が全身を走っており、足と手の指先も藍色で染まっている。

扁桃(アーモンド)の如き釣り目。罅割れ模様が特徴的な藍眼黄瞳。左眼の黄瞳には"()"、右眼の黄瞳には"上弦"の文字が刻まれていた。

 

「っ!!……上弦の参(猗窩座)ァァ!!」

 

『!』

 

炭治郎が憎悪を剥き出しにして、顔中の血管を浮かせて唸った。

 

「炭治郎君っ!」

 

「炭治郎っ!」

 

「炭治郎さんっ!」

 

「むうぅ!」

 

そんな炭治郎を見て、禰豆子と胡蝶姉妹が声を荒げて注意する。

 

「っ!!……ごめん、皆……ありがとうっ。」

 

注意されて我に返った炭治郎は、四人に感謝の言葉を送った。そんな炭治郎を他所に、伊之助が立ち上がって叫び出した。

 

此奴(コイツ)だぁ!! 列車ん時にあのギョロ目をぶっ殺した鬼野郎に間違いねぇ!!」

 

『!!』

 

伊之助の証言で上弦の参(猗窩座)の容貌に確信が得られると、耀哉達は再び上弦の参(猗窩座)の肖像画を凝視した。

その中で一際、憤怒と憎悪の感情を抱きながら睨み付けている男が居た。

 

――この男が、杏寿郎の仇敵(かたき)っ!……っ!!

 

それは小芭内であった。ブチ切れそうな程に顔中の血管を浮かせて、肖像画を睨み付けていた。

 

「……けっ! 紳士気取りの自己陶酔野郎がァ……ッ!」

 

実弥は苛立ちを隠す事は一切せず、そう吐き捨てる様に口にした。

 

――煉獄さんを殺した鬼……くっ!…………んっ?

 

蜜璃も穏やかな顔が紅潮して冷静さを失いかけたが、ある違和感に気付いたために理性を保つ事が出来た。

 

「あ、あれ?……珠世さん、猗窩座(上弦の参)の眼の文字が"弐"になってますよ?」

 

『!』

 

蜜璃の指摘で、漸く肖像画に描かれた猗窩座(上弦の参)の眼の文字が"参"では無く"弐"である事に耀哉達は気付いた。

珠世もまた、蜜璃の指摘に対して即座に返答する。

 

「はい、良く気付かれましたね……ですが、これには明確な理由が有ります。その明確な理由を答える前に……私はしのぶさんに一つだけ、お聞きしたい事が有るのです。」

 

『!!』

 

『っ!……はい、何でしょうか? 珠世さん。」

 

突如、話を振られたしのぶだったが、即座に珠世に対応する。そんなしのぶを見て、珠世は上弦の参(猗窩座)の肖像画を仕舞ってからある質問をしのぶにぶつけた。

 

「鬼殺隊が持つ上弦の弐に関する情報ですが……その鬼の名前はもしや"童磨"と言うのではありませんか?」

 

『っ!?』

 

「っ!?……ど、どうして珠世さんがそれを知っているんですか!?」

 

炭治郎は驚愕した様子で、珠世に尋ねた。すると珠世がその美しい顔を歪ませる程、顔を顰めて呟いた。

 

「そうですか……しのぶさんの御姉さんを殺したのは、あのいけ好かない男でしたか……っ!」

 

『っ!!??』

 

「た、珠世様……もしや、童磨(上弦の弐)を御存知なのですか?……でも一体何処で……っ!?」

 

耀哉達は驚愕した様子で珠世を見た。しのぶに至っては固まった様子で珠世を真っ直ぐ見詰めている。

 

愈史郎も同様に心底、驚愕した様子で珠世に尋ねた。耀哉達も気になって少し姿勢を前のめりにして珠世を凝視した。

 

珠世はそんな視線を受けながら、驚くべき事実を口にした。

 

「知っているも何も……私は一度だけ、無惨の刺客として送られて来たあの男と交戦した事が有るのですよ。」




お待たせしました。今回で珠世さんによる無惨一党の講義の話でした。

炭治郎×鬼滅女子成分が最後辺りに有ったと思いますが、量少なくて本当にすみません。

と言うか何故原作はもっと情報の共有をしなかった?(汗)

猗窩座に関しては、私的な願望も含まれた設定です。でもこれが許されるなら、かなり無惨様から厚遇されている事になるんだよなぁ。でも情報を共有していない理由付けははっきり言って強引です。本当に申し訳無い。

実は「鳴女が珠世と同期」って設定にして無限城の情報も提供しようと思いましたが、やりすぎだと思って止めました。もし実際にそうなら生き恥ポップコーンする前に鳴女が無惨様を救出していると思うので。

次回ですが、情報共有の続きです。原作ではカナエさんがしのぶさんに伝えていた童磨の情報は、珠世さんが代わりに話してくれます。情報量も精度も段違いですが。

更新は十月の予定です。お楽しみに。

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
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