※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

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※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第参拾陸話 日輪と鬼殺隊の柱は対策す

『っ!?!?』

 

「こ、交戦したぁっ!?」

 

無惨の時に匹敵する驚愕の事実が、珠世に選って明らかとなった。その事実が、早速ある人物に多大な影響を齎した。

 

「っ!……ぐっ!!」

 

「珠世さんっ!! 童磨(アイツ)と戦ったのは本当なの!? どんな容貌をしていたの!? 得物は何っ!? どんな血鬼術を使って来るのよっ!?」

 

『っ?!?!』

 

それはしのぶであった。炭治郎から一瞬で離れると、普段の笑顔も冷静さもかなぐり捨てて、珠世の胸元を掴み何度も揺らす。自身も身体を震わせ憎悪を剥き出しにしながら、質問の嵐を浴びせていた。

 

「しのぶさんっ!!」

 

「しのぶ姉さんっ!」

 

「しのぶ様っ!」

 

「おいこらっ!? しのぶっ!!」

 

「っ!!!……っ。」

 

必死の炭治郎達に声を掛けられて、しのぶは我に返り珠世から両手を離した。

 

「っ……すみません、珠世さん。私、どうかしていました。」

 

「お気になさらないで、しのぶさん。愛する家族の仇敵(かたき)の情報と知って、冷静で居られる筈が無いもの。」

 

珠世に謝罪するしのぶに対し、珠世は優しく声を掛けた。しのぶはもう一度、珠世に頭を下げてから元の場所へ戻ろうとした。

 

「うっ!」

 

「っ!……禰豆子さんっ?」

 

「禰豆子っ!?」

 

すると年齢相応の状態に戻った禰豆子が、しのぶの手を握っていた。驚きの声を上げる炭治郎としのぶを他所に、禰豆子はしのぶを引っ張り始めた。

 

「禰豆子さん……何をっ……っ!」

 

「んっ!!」

 

しのぶの抗義に対して、禰豆子は聞く耳を持つ事無く無視すると、ある場所にしのぶを押し付けた。

其処は先刻まで自身が座っていた、炭治郎の膝上であった。

 

「っ!!……炭治郎君?」

 

「し、しのぶさん。大丈夫ですか?」

 

しのぶは愛しさを思い起こさせる温もりを感じて、最愛の恋人の名前を呼んだ。しのぶに名前を呼ばれた炭治郎もまた、しのぶを慮って声を掛ける。

 

しのぶは禰豆子に押し付けられる形で、炭治郎の膝上にすっぽりと座り込んでいた。

 

「うっ!」

 

それを行った禰豆子は、実に満足気に二人を見ていた。

 

「っ……禰豆子さん。」

――大好きな炭治郎君を譲られる程、私は焦燥していたのかしら……何だか、禰豆子さんには悪い事をしたみたいだわ……。

 

しのぶは先刻の自身の取り乱し様を思い出して、その醜態振りに羞恥心を抱いて猛省した。思わず禰豆子に謝罪しようとしたが、しのぶはそれが正しい答えではないと咄嗟に閉口して、別の言葉を口にした。

 

「禰豆子さん、ありがとう。」

 

「んっ!!」

 

しのぶが飾りではない本物の笑顔で感謝の言葉を口にすると、禰豆子もまた満面の笑みでそれに答えた。

それからしのぶは炭治郎にもたれかかる。

 

「っ!」

 

「ごめんなさい、炭治郎君……もう暫くこうしてても良いかしら?……そうじゃないと私、また冷静で居られないかもしれないから……っ。」

 

「っ! 駄目な訳無いじゃないですか。寧ろ喜んでっ! ですよ!」

 

しのぶの嘆願に対し、炭治郎は喜んで受け入れた。

 

「しのぶ様っ。」

 

「しのぶ姉さんっ。」

 

アオイとカナヲが二人に近付いて、しのぶの手を優しく握る。

 

「アオイ、カナヲ。取り乱してごめんなさい。」

 

「どうか謝らないで下さい。しのぶ様。」

 

「アオイの言う通りよ。しのぶ姉さんの気持ち、私達も痛い程分かってる心算だからっ。」

 

「……っ。」

 

しのぶが妹分の二人に謝罪すると、アオイ達は固辞して更に強く、されど優しく手を握る。二人の気遣いに、しのぶは嬉しさが胸中に湧いていた。

 

「……んっ。」

 

しのぶを見て安心したのか、禰豆子はちょこちょこと炭治郎の背後に移動して、勢い良く抱き着いた。しのぶと禰豆子の位置が、真逆になった瞬間であった。

 

「……コホン。」

 

そんな落ち着きを取り戻したしのぶを見て、珠世が一度咳払いをしてから開口を始めた。

 

上弦の弐(童磨)について語る前に、少し昔話をさせて頂きます。それは今から、凡そ百十三年程前の事になります。」

 

『!!!』

 

――百十三年前?

 

珠世が語り始める内容に行冥達が集中する中、耀哉を筆頭に一部の者達だけはその時期が()()()()と重なっている事に気付いた。珠世は語り続ける。

 

「その時、私は薬草を採取するために夜中に行動していたのですが……其処へ()()()"上弦の弐"と"上弦の伍"が襲撃して来たのです。」

 

「っ!!……上弦の鬼が、二体同時に!?」

 

炭治郎は驚愕しながら、珠世の言葉を反芻した。上弦の参(猗窩座)一体と遭遇した時でさえ、言葉に表現出来ない程の絶望感が有った。

それが二体と来ては、如何に絶望的な状況か分からない筈が無かった。

 

「私の前に現れた()()()上弦の弐ですが……それは皆さんが上弦の参と言っている猗窩座の事です。」

 

『!?』

 

「っ!?……だから、珠世さんの肖像画()には"弐"の文字が入って居た訳ですね!!」

 

蜜璃が合点がいった様に、そう呟いた。蜜璃に対し、珠世は笑みを浮かべて答える。

 

「甘露寺さんの仰る通りです。何故今は"参"の数字なのか、それは後で説明します……上弦の弐(猗窩座)は直ぐに私を当時の上弦の伍に任せて立ち去りました。……『女と戦うのは好かん。』とそう言って立ち去っていましたから言葉通り、私が女だったから手を出さなかったのでしょうね。」

 

『……』

 

「……当時の上弦の伍ですが、火炎系の血鬼術を使う大男でした。私は苦戦の末、呪いを発動させて勝利を得ました。」

 

『!?』

 

「上弦の鬼を相手に戦って勝ったんですか、珠世さん……っ!!」

 

柱ですら返り討ちに遭い続けている上弦の鬼を相手に、逆に返り討ちにして勝利したと聞いて驚愕する。

 

『……』

 

耀哉達一部の者達は()()()()を珠世に尋ねたかったが、今は話を遮るのは得策では無いと判断して沈黙を貫き通す。珠世は語り続ける。

 

「前にも炭治郎さんには言いましたが、鬼同士の戦いなどはっきり言って不毛です。互いに相手を殺せる決定的な手段を、持ち合わせてなどいませんから。」

 

「ですが、私と愈史郎は違う。私達は無惨の呪いに縛られないがために、相手の鬼に植え付けられた呪いを発動させると言った勝利を得る手段が有る。鬼との戦いにおいて、私達は絶対的な利点を持っているのです。」

 

「成程……因みに愈史郎さんは、どうやって鬼の呪いを発動させるんだい?」

 

珠世の説明に納得した耀哉だったが、不意に気になって愈史郎に尋ねた。炭治郎も気になって、愈史郎に注目する。刺客が放たれた時に、愈史郎が直接戦っているところを見ていないからだ。

 

「簡単な事だ、造作も無い……ふっ!」

 

 

 

ズブブッ!

 

 

 

『っ!?』

 

愈史郎が突如、自身の頭に十指を頭を抱えるが如く揃えると、そのまま十指を頭に突き刺して脳を抉る。

 

「うえ――――っ!? 何してんだキッショオッ!!」

 

伊之助が驚愕して、そう叫声を上げる。愈史郎の蛮行に顔を青くする者や、双眸を見開いて驚愕する者もいた。

 

当の本人である愈史郎は、双眸を流血させながらしれっとした表情で解説を始めた。

 

「何って……俺流の鬼の倒し方を見せてるんだよ。

俺は鬼の頭をこうやって突き刺して脳味噌を乗っ取ってから、無惨の名前を口に出させて呪いを発動させる。それで鬼は自滅しておしまいって寸法だ。」

 

「愈史郎はこのやり方で、今日まで下弦級の鬼も含めて三十体以上もの鬼を返り討ちにしているんですよ。」

 

「珠世様、正確には三十七体です。」

 

『……』

 

愈史郎流の鬼の倒し方を知って、絶句から言葉が出ない炭治郎達。其処へ逸早く我に返った耀哉が、称賛の言葉を愈史郎に掛ける。

 

「日輪刀も無しに、鬼を倒すなんて凄い事だ。珠世さんと愈史郎さんはとても強いんだね。」

 

「……世辞なぞ言われても、何も出んぞ?」

 

耀哉に称賛された愈史郎はそう言ったが、表情はまんざらでも無かった。

 

「っ!……話が逸れてしまいましたね。続けさせて貰います。」

 

『っ!』

 

珠世の一言で、大広間の空気に再び緊張感が宿った。

 

「私は無惨の呪いを発動させて、当時の上弦の伍が死亡した事で勝利し、安堵しました……しかし、其処へ新たな上弦の鬼が襲撃して来たのです……っ!」

 

『っ!!』

 

「っ!!……それが……上弦の弐(童磨)だったんですね? 珠世さん。」

 

珠世が口にした新手の襲撃者を察して、そうしのぶは指摘した。珠世はしのぶの指摘に対して、ゆっくりと首を縦に振って肯定する。

 

「その通りです。ですが童磨はあの当時"上弦の陸"でした。」

 

『っ!?』

 

「上弦の……陸!?」

 

炭治郎が驚愕する中、珠世は新たな和紙を大箱から一枚取り出して広げて見せた。其処には一人の男性が描かれていた。

 

容貌は女性受けしそうな細身の美青年だ。

両手には蓮の花が描かれた金色の鉄扇を二つ持っている。

服装は血飛沫模様が描かれた赤と黒の服装。

髪型は白橡色の長髪に服装と同様、血を被った様な血飛沫模様が有る。

そして特徴的な虹色の瞳をしており、右眼の虹瞳に"陸"、左眼の虹瞳には"上弦"の文字が刻まれていた。

 

「こ、この男が上弦の弐(童磨)……っ!!」

 

「カナエ姉さんの……仇敵(かたき)っ!!」

 

「「……っ!」」

 

炭治郎としのぶは憤怒から、額に青筋を浮かべて睨み付ける。それはアオイとカナヲも同様であった。

 

――っ!?……何でだ?……童磨(コイツ)の顔を見てると胸がゾワゾワするぞ……?

 

伊之助は胸中に説明出来ない不快感を覚えて、胸に右手を置いた。幸い、猪の被り物の御蔭で悟られる事は無かった。

 

そんな五人を他所に、珠世は肖像画を掲げながら語るのを再開する。

 

「この当時の上弦の陸(童磨)は上弦の鬼で最弱の筈にも関わらず、その戦闘能力は最初に戦った当時の上弦の伍よりも遥かに上だった。力も速さも血鬼術の精度も比較するのも烏滸がましい程、高かった……っ!」

 

「っ!!……どんな血鬼術を、使うのでしょうか?」

 

しのぶが憤怒と憎悪を抑えながら、珠世に尋ねた。珠世は持っていた肖像画を仕舞うと、今度は一度に複数の丸められた和紙を手に取って畳の上に置くと、その内の一枚を愈史郎に渡して広げさせた。

 

『!』

 

上弦の陸(童磨)が使って来るのは、氷雪系の血鬼術です。特に注意しなければならないのは、この鉄扇から放たれる目視不可の霧状の凍てついた血です。これを吸い込んで肺に入ってしまうと、肺胞が壊死して呼吸が出来なくなってしまいます。」

 

『っ!?』

 

あからさま過ぎる程、対鬼殺隊仕様の血鬼術の存在を聞かされて、炭治郎達は驚愕する。其処から珠世は知りうる限りの上弦の弐(童磨)の血鬼術を絵画と共に解説を続けた。

 

生み出した蓮華状の氷から大量の冷気を生み出す血鬼術。

蓮葉状の氷から氷の蔓を伸ばして拘束する血鬼術。

煙氷霧を生み出し、対象を氷漬けにする血鬼術。

氷の巫女を二体生み出し、その吐息で広範囲を凍結させる血鬼術。

頭上や正面から氷柱が雨霰と降り注ぐ血鬼術。

対の鉄扇を使った氷の斬撃を伴う高速斬撃。

 

「……以上が、私が上弦の陸(童磨)と戦った時に見た血鬼術です。本気では無く私を甚振って楽しんでいたから、大技と言った物は無いと思います。それでも、もし私が人間だったら……少なくとも十回は、死んでいるでしょうね。」

 

『……』

 

珠世の説明を受けて、炭治郎達は沈痛した。上弦の弐(童磨)の恐ろしさや強さが、珠世の丁寧な解説で良く理解出来たからだ。すると耀哉が感嘆した様子で、珠世に尋ねた。

 

「しかし……良く珠世さんはその上弦の陸(童磨)から逃げられたね?」

 

「はい……実はこの時、戦いの途中で炎柱と名乗る鬼狩りが乱入して来たんです。」

 

『っ!!??』

 

珠世が言い放った内容に、炭治郎達は驚愕する。耀哉もまた驚いたのだが、直ぐに納得した様子で頷いた。

 

「ふむ……続けて貰えるかい?」

 

「はい……その炎柱が乱入して来た時に、私は上弦の陸(童磨)に血鬼術を仕掛けてから逃走しました。

追い詰められていた私は逃走する前にその炎柱と共闘して上弦の陸(童磨)を倒す、などと言った発想は出来ませんでしたし、たとえしたところで実現出来無かったでしょう……この様な結果だけを見れば、命を救われたと言っても過言では有りません。」

 

「成程……そして現在(いま)の状況を考えると、当代の炎柱は上弦の陸(童磨)に敗死した。

だけど上弦の伍の死亡も知った当時の第八十九代目産屋敷家当主は鬼殺隊の士気向上のために、それを利用した……と言う事になるね?」

 

『!!!』

 

「恐らく……そうなるかと。」

 

『……』

 

「ふんっ! 珠世様の功績を奪うとは、厚顔無恥な図々しい奴だな!!」

 

隠されていた真実に、炭治郎達は沈痛する。百十三年前に柱の手で上弦の鬼を倒していたと言う記録が実は真っ赤な偽りだと知らされれば、衝撃(ショック)も大きい。

一方の愈史郎は、珠世の功績が鬼殺隊に奪われた事実に激昂していた。

 

そんな思いを振り払って、しのぶは上弦の弐(童磨)について知るべく更に質問した。

 

「珠世さん。他に上弦の弐(童磨)に関しては何か覚えていませんか?」

 

「この血鬼術は全て厄介な物ばかりですが、上弦の陸(童磨)は他人の神経を逆撫でして冷静さを奪う事に関しては天才的でした。

尤も、あれは素で性格が悪いのだと思いますが……それから私に向かって『鬼じゃなかったら、喜んで食べていた。』と言っていて、どうやら女性を喰らう事に執念深いところが有ります。

確かに男性より女性の方が、栄養価が高いので理に適ってはいますけどね。」

 

「……チィッ!」

 

しのぶに質問されて珠世が語った内容に、愈史郎が苛立って舌打ちをしてから開口した。

 

「これでお互いの無惨一党の情報は出し切った訳だ。おい、余韻に浸っている暇は無いからな?……これから無惨一党にどう対抗するか、議題()を切り替えるぞ。」

 

『!』

 

「ちょっと待って下さい、愈史郎さんっ! その前に……珠世さん。良いですか?」

 

炭治郎が愈史郎を止める様に、横から嘴を挟んだ。

 

「何かしら? 炭治郎さん。」

 

「はい。何故、童磨は上弦の陸から弐に昇格出来たんですか?」

 

『!』

 

「……上弦の陸(童磨)は言っていました。『逃れ者の珠世を捕らえた暁には、褒美として無惨(あの方)に"入れ替えの血戦"をする許可を得る。』のだと。」

 

「"入れ替えの血戦"……?」

 

珠世の言葉に、炭治郎は首を傾げる。珠世は直ぐに続けた。

 

「何でも、下位の鬼が上位の鬼に一騎討ちを申し込む試合の事らしいです……上位の鬼が勝利すればそれまでですが、下位の鬼が上位の鬼に勝利出来ればその地位を奪えるそうです。」

 

「っ!?……じゃあ……上弦の参(猗窩座)は……。」

 

「はい。推測でしかありませんが、上弦の陸(童磨)上弦の弐(猗窩座)に"入れ替えの血戦"で勝利して、"弐"の数字を奪ったと考えられます。」

 

『!!!』

 

「……くっ!」

 

炭治郎は上弦の参(猗窩座)を相手に勝利した上弦の弐(童磨)の強さに戦慄し、悔しそうに唇を噛んだ。そんな炭治郎に、愈史郎が話し掛ける。

 

「炭治郎。悔しがっている暇は無いぞ? 無惨との決戦までにどれだけの上弦共を減らせるかが勝利に繋がる。これからそいつらを纏めて倒さなければならない事を、肝に銘じておけっ。」

 

「っ!……そうですね、愈史郎さん。」

 

愈史郎に喝破を掛けられて、炭治郎は直ぐに立ち直った。

 

「あの……僕からもちょっと良いかな?」

 

『!』

 

恐る恐る右手を上げて挙手したのは、今まで沈黙していた無一郎だった。耀哉達の視線が自身に向かったのを確認して、無一郎は珠世にある質問をした。

 

「えっと、珠世さん……最初に話してくれた縁壱って人にはさ、子供は居たんだよね?」

 

「っ!……えぇ。お子さんなら居たそうですよ。」

 

「っ!! そ、そう!……ほっ、良かった。」

 

『?』

 

『……』

 

無一郎の質問に珠世が答えると、望んでいた回答だったのか炭治郎は無一郎から安堵の匂いを感じ取った。

 

しかし、そんな無一郎の安堵も、束の間の儚いものでしか無かったと思い知らされる事になる。

 

「縁壱さんには"うた"さんと言う、奥さんがいました。その方との間に子供が出来たのですが、出産に備えて産婆を呼びに外出して帰って来た時に……鬼に襲われて二人とも亡くしています。」

 

「えっ!?」

 

『っ!?』

 

衝撃的な事実を聞かされた炭治郎達は、驚愕して双眸を見開かせた。無一郎に至っては、驚愕して岩石の如く固まってしまっている。

 

「珠世さん。だったら縁壱さんは……。」

 

「はい。縁壱さん御本人は『私が愛する女性は後にも先にも、うた一人だけだ。』と言っていましたから、恐らく別の女性との間に子を設けたとは考え難い話です。

この一件が鬼狩りになる事を縁壱さんに決意させた程ですから、よっぽど大切で、深く愛していたのだと思います。」

 

『っ!!』

 

縁壱が鬼殺隊へ入隊した理由が自分達と然程変わらない事に、一瞬だけ親近感が湧いたがそれも直ぐに霧散した。無一郎に至ってはそれどころでは無く、ある一考のせいで今にも失神しそうな程に青褪めていた。

 

「……時透君、大丈夫っ!?」

 

そんな無一郎の様子を見て、炭治郎が心配そうに声を掛けた。其処へ珠世が罪悪感を抱きながら、ある報告を行った。

 

「黒死牟も鬼狩りの道へ進む前に、家も妻子も捨てて来たそうです。恐らく……そう言う事かと……。」

 

『……っ!!』

 

珠世が口籠る意図を察せない者は、大広間には居なかった。すると無一郎が震えながら、ボソボソと語り始めた。

 

「僕は……僕()は四年前、あまね様に『『始まりの呼吸の剣士』の子孫の力を貸して欲しい。』って言われたのが切っ掛けで、鬼狩りを始めたんだ。」

 

『!』

 

「そ、それが……蓋を開けてみれば……鬼殺隊史上、最低最悪の裏切り者の子孫だったなんて……っ……っ!」

 

『……っ。』

 

無一郎は両手で頭を抱えながら、倒れ込む様に身体を畳の上に倒した。

暫くして直ぐに身体の全身を震わせながら、耀哉に向かって平伏する。

 

「御館……様っ……僕の先祖が、取り返しの付かない大罪を犯してしまい、誠に申し訳御座いません……っ!……罪を償うために、如何ある処分も甘んじて受ける心算です……っ!」

 

『!!』

 

「無一郎……。」

 

無一郎はそう言って耀哉に向かって深く謝罪すると、右眼から一筋の涙を流す。その涙は悔恨で染まっていた。

 

「……」

 

謝罪された耀哉はゆっくりと立ち上がると、真っ直ぐ無一郎の下へ歩みを進めた。

無一郎の眼前まで進むと、腰を下ろして右手を優しく無一郎の頭に乗せた。

 

「そんなに自分を責めては駄目だ。無一郎、君が罪の意識に苛まれる必要なんて無い。」

 

「っ!」

 

無一郎は耀哉の言葉で頭を上げると、耀哉はそのまま撫でながら左頬に右手を添えた。

 

「確かに君の血筋を当てにした、その事実は認めよう。だけど先祖が犯した罪を、子孫である君が贖罪する必要は無いんだ。良いね? 無一郎。」

 

「っ!……っ……あっ……ありがとう……御座いますっ……っ!!」

 

耀哉の優しい言葉を聞いて、無一郎は嗚咽を漏らし溢れ出る涙を拭きながら感謝の言葉を紡いだ。

 

――良かったぁ……。

 

炭治郎は無一郎の様子を見て、安堵していた。

 

「ふん……。」

 

状況を見守っていた愈史郎もまた、鼻を鳴らしながら安堵した表情を見せる。

 

「今度は俺から言いたい事、聞きたい事が幾つか有る……先ず一つ、炭治郎達を守って上弦の参(猗窩座)に殺された煉獄杏寿郎って柱の実力はどれくらいのものだったんだ?」

 

『っ!』

 

愈史郎の質問を聞いて、自然と耀哉達の意識が愈史郎一人に集中する。そんな視線に怯まず、愈史郎は続けた。

 

「具体的である必要は無いんだ。大体で構わんから、誰か分からないか?」

 

『……』

 

「……絶対勝てるって派手に断言出来るのは、其処に居る悲鳴嶼さんくらいだろうな。」

 

『!』

 

愈史郎の問いに対して回答したのは、天元だった。天元は愈史郎が言葉を返す前に、独言の様に呟きながら続けた。

 

「そんで、五分五分って言えるのは……冨岡、不死川、伊黒の三人くらいだな。」

 

「……見た目に似合わず、謙虚な事だな? お前の名前が入っていないが?」

 

「はっ! 俺程度が、あの煉獄と互角な訳ねぇだろ?」

 

天元の回答を聞いて愈史郎が茶化す様に言うと、天元が自嘲する様に両肩を竦めながら答えた。

愈史郎は予想外の天元の言葉に少し驚いたが、関心を持ったのは別の事だった。

 

「現柱の実力は分かった……はっきり言おう。お前らは上弦共に遭遇しても、一対一(サシ)での戦闘は絶対にするな。」

 

『!!』

 

「理由は分かるだろう? 上弦共と一対一(サシ)で殺り合えば、お前らが確実に負けて死ぬからだ。最低でも二対一に持ち込めなければ、お前らに勝機が有るとはとても思えん。」

 

愈史郎は臆する事無く堂々と、行冥達が単独では上弦の鬼に勝てないと冷酷に判断して戦闘は避ける様に警告した。

 

「……俺達に背を向けて逃げろと言うのか、愈史郎?」

 

沈黙していた義勇が愈史郎に尋ねる。しかしその口調には威圧感と怒りが滲み出ていた。

 

「ああ、そうだ。一般隊士(下っ端)は元より一般人(カタギ)も見殺しにしてでも、お前ら柱は生き延びる事を最優先事項にするんだ。」

 

『……っ!!』

 

愈史郎は其処まで言うと、浅く頭を下げた。そんな愈史郎の態度に虚を突かれて、咄嗟に反論する機会を行冥達は失ってしまう。愈史郎は更に話し続けた。

 

「お前らに酷な事を言って、悪いとは思っている。だが、上弦共を相手に一般隊士(下っ端)なんて、それこそ千人ぶつけても勝率なんて無いに等しいっ。」

 

「上弦共は"量は質を凌駕する"なんて常識が通じる相手じゃあないんだ。猗窩座(上弦の参)以下の肆・伍・陸も本当に猗窩座(そいつ)より弱いのか、それも分からんのが現状だ。」

 

「だが俺の推測では柱級の実力者に限り、二人か三人もぶつければ、勝機も生まれて来る。だからもっと自分の命の価値を、良く自覚する事だっ。」

 

『……』

 

愈史郎が義勇の言葉に怯む事無く、自身の持論を語り続けた。時折、先刻の一方的な暴言からの反省からか、謝罪の言葉も織り交ぜながら穏やかに語ったためか、反発を覚える者は居なかった。

 

「……愈史郎君はそう言うけど、私……眼前で誰かが命を落としそうになってたら、やっぱり見捨てる事なんて出来ないよ……!」

 

『!』

 

蜜璃が愈史郎の持論に対して、悔しそうにしながらもそう言って反論する。しかし、愈史郎もまた頭を掻きながら、蜜璃に説得する様に話し始めた。

 

「その高潔な考えは尊重するがな、甘露寺。たとえお前が自分の命を引き換えに百人救えたとしても、それは一時的な救済措置でしか無いんだ。

その百人の中に炭治郎みたいな存在が居るならまだ良いが、もし居なかったらお前は犬死に等しい結末で終わる。無惨を倒す日が、また遠退いてしまうんだぞ。」

 

「っ!……でもっ!……でもぉっ!」

 

愈史郎の持論に反論する術を持たないのか、蜜璃は涙を目元に浮かべながら愈史郎を睨み付ける。

 

「愈史郎、貴様……っ。」

 

「何だ、伊黒。異論が有るなら、聞いてやって良いぞ。俺を納得させられる異論が有るならな。」

 

蜜璃を泣かせたからか、小芭内が苛立ちを隠さず青筋を立て殺意を込めて愈史郎を睨み付ける。

愈史郎も小芭内の殺意を感じ取って、負けじと小芭内を睨み付けた。

 

「……みゃおぅ。」

 

『!』

 

そんな一触即発の大広間の空気に耐え兼ねて、茶々丸が一度鳴いてからゴロゴロと喉を鳴らしながら、身体を蜜璃に擦り寄せて慰める様な行動に出ていた。

 

「茶々丸君……。」

 

「其処までにして貰いたい。」

 

「っ!……悲鳴嶼か。」

 

蜜璃が落ち着きを取り戻したのを見計らって、愈史郎に意見して来たのは行冥だった。行冥はそのまま蜜璃に代わって、愈史郎と言葉を交わし始める。

 

「お前の意見も尤もなのだろうが、私は甘露寺を支持する。少なくとも私は、人助けをする前に各々に助けるに値するかの有無を計算し、その価値を算盤で弾く様な器用な真似は出来ないからだ。」

 

『っ!』

 

「煉獄が無限列車で炭治郎達のために、その命を燃やし尽くして守り抜いてから死んで逝った。あの場に煉獄では無い他の柱が居たとしても、きっと同じ事をしただろう。

若い芽は摘ませない。

命を賭して他人や後輩を守り抜くのは、柱として当然の責務。強さだけではない。それらを無意識に出来る者だからこそ、柱となる資格が有るのだ。」

 

行冥の持つ持論に、大広間に居る全員が口を挟まず耳を傾けた。行冥が語り終えると、はぁと溜め息を吐く声が聞こえた。

 

「分かった。俺の意見を押し付ける心算は無い。だが、頭に入れておけ。一般隊士(下っ端)共と違って、柱の代替なんてそうは居ない。

柱が少なければ、それだけ無惨を倒せる確率が減る。柱が欠ければ欠けた分だけ、残された奴の負担が増えるんだ。」

 

「今日まで百十三年間、いや二百八年間か……とにかく、上弦共を一匹も狩れずに返り討ちに遭っている(お前ら)では、どれだけ立派な事を言ってもはっきり言って説得力が無い。力無き崇高な想いや正義など、悪にも劣ると言う事実を良く肝に銘じておけ。」

 

『……』

 

愈史郎の正論に対してぐうの音も出ないのか、今度は行冥すら何も言い返せず、大広間を沈黙が支配してしまう。

其処へ耀哉が大広間の雰囲気に耐え兼ねて、開口した。

 

「……普通に考えれば、柱の君達が一般隊士(子供)達を鍛え上げるべきだろう。常識的に考えれば、それが一番の近道だからね。

だが多忙な柱に一般隊士(子供)達を鍛えるなんて、そんな贅沢な時間は無い。

只でさえ警備担当地区の管轄が広大な上に自身の鍛錬、一般隊士(子供)達に出来ない任務の肩代わりとやって貰わなければならない仕事が多過ぎるからだ。」

 

「御館様。それから、鬼の情報収集も(俺達)の仕事です。」

 

「そんな仕事、今まで(お前ら)は一度も遂行出来ていないだろうが! 

どさくさに紛れてしてもいない、やった事も無い仕事をしているなどと……先刻(さっき)まで柱の自覚が足りず、大局も見れず感情のままに行動していた未熟者共が、生洒々(いけしゃあしゃあ)と寝惚けた事を抜かすな。」

 

『……っ。』

 

耀哉に補足する様に進言した天元に、愈史郎が激昂して叱責した内容に、耀哉達は再び口を閉ざさるを得なかった。鬼殺隊の情けない現状を、改めて責められては反論する言葉も無かった。

 

「……お前が言っている事は一理有る。しかし、これも一般隊士(若手)の連中が次々と死に続け、死に過ぎているから起きている問題だ。

一般隊士(若手)が使えないのだからその分、柱が仕事をやらざるを得なくなる。」

 

「育手の連中も、もっと見込みの有る奴らを育ててくれれば良いんだがなァ。はっきり言って、見る目が無さ過ぎる。」

 

「時間さえくれりゃ、俺が派手に一般隊士(ヒヨッコ)共を性根から鍛え直してやるんだがな。

まぁこんな事を言うと、「無いモン強請りすんな。」って何処ぞの口の悪い誰かさんに地味に言われるかもしれねぇけどよ。」

 

次々と愚痴が混ざった意見が、大広間に飛び交って行く。それをしっかり耳にしてから、愈史郎がぼそっと呟いた。

 

「……実力の底上げにはならないが、一般隊士(下っ端)共の生存率と討伐成功率を上げる方法なら、俺から一つ提案が有る。」

 

『!!』

 

「興味深い話だね? 愈史郎さん。その夢の様な提案、早速教えて貰えるだろうか?」

 

耀哉が無意識に身体を少し前のめりにする程、愈史郎の議題に食い付いて来た。隊士を我が子以上に愛情を注いでいる耀哉は、普段から隊士の訃報に心を痛めている。この愈史郎の提案に、興味を抱かない訳が無かった。

 

「言う前に、俺から一つ問題だ。人間の二本の腕と十本の指は何のために在ると思う?」

 

『?』

 

愈史郎の唐突な質問に、耀哉達の脳裏に疑問符が思い浮かんだ。すると沈黙していた、厳密には閉口を厳にしのぶから命じられていた伊之助が愈史郎の質問に答えた。

 

「んなもん決まってるだろう! 獲物を取ったり飯を食うためだ!」

 

「正しいが間違ってるぞ。と言うか、お前はもっと箸を使い熟す訓練をしろ!」

 

愈史郎は伊之助の回答を呆れながら一蹴する。

 

――危な……『美味しい御飯を食べるために。』とか思わず言いそうになっちゃった……。

 

蜜璃が内心、伊之助と類似した回答を口にしそうになったため思わず両手で口を押さえる。

そんな蜜璃に気に掛けず、今度は天元が答えた。

 

「だったら一つしかねぇだろ? そいつぁな?……愛する嫁の手を握って離さねぇためさ。」

 

「そんな甘酸っぱい甘美な答えは求めていない!……頼むから、巫山戯るのは見た目だけにしてくれ。」

 

天元の回答に思わず頭痛を覚えながら、愈史郎は伊之助の回答と同様に即座に一蹴する。

 

――宇髄さん。奥さんが三人いるんだっけ? とっても大切に思っているんだなぁ……。

 

天元の発言と同時に愛情の匂いを察した炭治郎は、三人の妻への愛情の深さに感心しながら愈史郎に回答する。

 

「愈史郎さん、無難な答えですみませんけど……道具を使うとか、そう言う時のためじゃないんですか?」

 

「っ!……やっと真面な答えが来たな。炭治郎、ありがとう。」

 

愈史郎は炭治郎の回答に、思わず感謝の言葉を口にした。愈史郎は更に続ける。

 

「炭治郎が言った回答が概ね正解だ。俺が求めた正しい答えは『道具を生み出して使い熟すため。』だ。」

 

「つ、つまり……?」

 

「道具の最大の利点はな……『使い方を学べば、誰にでも扱う事が出来る。』と言う事だ。」

 

『!!』

 

愈史郎がそう言い終わると、懐から紙の束を取り出して炭治郎達に配布する。

 

「こいつはもう知っての通り、俺の血鬼術『紙眼』だ。お前らは勿論だが、先ずは一般隊士(下っ端)共にも全員に行き渡る様に配布する。」

 

愈史郎の思惑とは他所に、配布された『紙眼』を、天元達は各々で着けたり外したりしながら、性能を確認していた。

 

「成程、『紙眼(こいつ)』を着けている者同士は互いに見える訳か。」

 

「当たり前だ、同士討ちなんぞされてたまるか……余程の馬鹿でなければ、この『紙眼()』が如何に今後の戦いに便利か、それが分かる筈だ。」

 

実弥が呟いた事に反応して回答した後、愈史郎が挑発する様にそう言ってみせる。そして直ぐ様、反応が帰って来た。

 

「俺と違って他の奴らも夜目が利くってだけでも、戦い易さに天と地ぐらいの派手な違いが有るな。」

 

「この人間には無い鬼の超視力を使えば、索敵範囲も大きく幅を広げられるだろう。」

 

「姿を消して鬼を撹乱させたり、気付かれずに接近して首を刎ねる事も可能かもしれん。尤も、連中にそんな技量があれば良いが。」

 

「……」

 

小芭内が口にした言葉を最後に、全員が『紙眼』の性能確認を終了していた。それを見計らって、耀哉が愈史郎に話し掛けた。

 

「愈史郎さんの『紙眼()』は、確かに素晴らしい。数多の可能性が秘められている事は間違いない……しかし、道具の利点である『使い方を学べば、誰にでも扱う事が出来る。』は同時に弱点にもなる。鬼に奪われた時の対策は有るかい?」

 

『!!』

 

炭治郎達がハッと息を呑んで、耀哉の指摘に反応する。

 

「安心しろ、抜かりは無い。」

 

炭治郎達の注目が行く前に、愈史郎が不敵に笑って断言した。

 

更に愈史郎は断言した事に嘘偽りは無いと証明する様に、一枚の『紙眼』を取り出して空中に放つ。

 

『紙眼』が空中でゆらゆら舞う中、愈史郎がパチンと指を鳴らす。すると『紙眼』に描かれた眼の紋様が光り輝く。

 

 

 

ボン!

 

 

 

『!?』

 

赤く光り輝き出した『紙眼』は突如爆発を起こしその結果、粉々になって四散した。

 

「どうだ? これで分かっただろう? もし無惨の鬼共が俺の『紙眼()』を奪って身体に着けたらその瞬間、俺が遠隔操作で爆発させてやる。殺せはしないが、頭を吹き飛ばすくらい訳は無い。」

 

『……』

 

「……うん、安心したよ。疑って悪かったね、愈史郎さん。」

 

懸念事項が消えたのは良かったが、何時でも愈史郎に生殺与奪の権利を握られてしまった様な感覚に襲われ、咄嗟に言葉が出なかった。

 

そんな耀哉達を気にも掛けず、愈史郎は更に別の『紙眼』を懐から取り出した。

 

「最初に配布した奴は、はっきり言って一般隊士(下っ端)共用の常備品だ。柱のお前らには、この特化型の『紙眼()』を試験運用として使って貰いたい……それがこの三枚の方になる。早速だが、説明させて貰う。」

 

『!』

 

愈史郎が配布しながら説明したのは、通常の白の『紙眼』とは異なる三色の黒・灰・黄色の『紙眼』だった。

 

「愈史郎さん。黒色は私と行冥が付けている物だけど、他の二色の『紙眼()』はどんな機能に特化しているのかな?」

 

「灰色の方は透明化と隠密特化の『紙眼・(いん)』。そして黄色の方は『紙眼・(でん)』だ。これを『耳』と呼称する。それから額や目元じゃなくて、耳に着ける。こんな感じにな。」

 

愈史郎はそう説明してから、片耳に貼り付けた。それを見ていた炭治郎達は、愈史郎を真似て装着する。

 

「炭治郎。一旦退室して、俺達と耳目の届かないところまで移動してくれないか。産屋敷本邸(やしき)の端まで行っても良いぞ。」

 

「離れれば良いんですか? その後は何をすれば?」

 

「喋る前に人差し指と中指をこうやって揃えて伸ばしてから、『紙眼・伝()』に触れて見てくれ。そうだな……俺の名前を呼んでくれ。その後は指を離して良いぞ。」

 

「分かりました。」

 

炭治郎は愈史郎を頼まれた通り、大広間から退室した。炭治郎は一礼してから退室して屋敷の端まで移動する。それを目視で確認出来る様に、愈史郎が茶々丸に『紙眼』を着用させて炭治郎に同行させた。

 

「耀哉、それから悲鳴嶼。悪いが、『紙眼・伝()』を着けている間は『紙眼・視()』を外せ。理由は後で説明するから、今は聞くな。」

 

「っ?」

 

「分かったよ、愈史郎さん。」

 

耀哉と行冥は、愈史郎に言われた通りに行った。着用していた『紙眼・伝()』をそのままに、『紙眼・視()』を外して再び暗黒世界の住人に戻った。

 

愈史郎は耀哉と行冥が自身の望んだ行動を取ったのを確認してから、双眸を閉じて炭治郎と茶々丸を確認した。これは炭治郎と茶々丸が現在、何処まで産屋敷本邸の邸内を移動したかを確認するためだ。

 

「……良し。」

 

茶々丸と視界同調して炭治郎が産屋敷本邸の端に移動したのを確認した頃に、炭治郎は左手の人差し指と中指の日本を伸ばして黄色の『紙眼・伝』に触れた。

 

「(愈史郎さん?)」

 

『!?』

 

「(……聞こえたよ、炭治郎っ。)」

 

『!?』

 

炭治郎達、全員が驚愕する。まるで声が脳内に直接響いている様な感覚に陥ったからだ。尤も、愈史郎だけは気にした様子も無く、炭治郎に話し掛け続けた。

 

「(炭治郎、もう茶々丸と一緒に戻って来て良いぞ。)」

 

「(……分かりました。)」

 

そして間も無く、炭治郎が茶々丸と一緒に大広間へ入室して来た。

 

「もう説明しなくても分かるよな? この『紙眼・伝()』の性能が。」

 

「……離れた所でも、会話が可能って事だね?」

 

「そうだ。触れない時に聞いて、触れる時に話す。これだけ覚えて置けば良い。」

 

「すげぇな……鎹烏要らずじゃねぇか。」

 

愈史郎の解説に、天元が感嘆した様子で称賛した。それは言葉にしないが炭治郎達も同様の思いであった。そんな炭治郎達に、愈史郎が慌てて一点だけ説明を付け加えた。

 

「それは過大評価と言うものだ。言い忘れていたが、通話可能距離は凡そ半径『十町(一km)』ってところだぞ。それ以上離れてしまうと通話は不可能だから、忘れるなよ。」

 

『……』

 

愈史郎の『紙眼・伝』の性能は、現代でいう『無線』や『電話』に等しいものだった。その性能の凄さに、炭治郎達は驚嘆して言葉を失った。

 

大正時代の日本と言えば、まだ電話が普及され始めて久しい。

 

米国(アメリカ合衆国)のグラハム・ベルが電話の発明者とされているが、それは勘違いである。最初に電話をこの世に生み出した電話の父とは、一八五四年(明治十三年)に電話の装置を開発した伊国(イタリア)のアントニオ・メウッチだ。

 

日本では一八六九年(明治二年)に東京~横浜間の電信線架設工事に着手し、一八九〇年(明治二十三年)に東京~横浜間で日本初の電話サービスが開通された。

 

しかしその電話料金は非常に高額で、月間基本料金は四十円。当時の一円=五千六百円であるため、現代の金額に換算すると二十二万円以上になった。

 

そのため加入者は非常に少なく、当初の加入数は産屋敷家を含めて東京で百五十五世帯、横浜で四十二世帯の僅か百九十七世帯と、二百世帯に満たない数だった。

 

その後、警察と軍の要望で電話回線網が急激に普及し、一八九七年(明治三十年)以降に電話加入権と呼ばれる電話加入制度が始まる。

一九〇〇年(明治三十三年)にこれまで電信局・電話局内などといった電話所にしか無かった公衆電話が初めて東京の街頭に登場し、日本全国の登録者数が十万人を超えた。

 

しかし、電話が普及しても相変わらず電話の月間基本料金が低落するどころか、逆に高騰するという意味不明な現象が起こる。明治期末期には月間基本料金が六十六円と言う金額になり、この時点の貨幣価値は一円=四千二百円となっていたがそれでも三万円以上の値上がりとなっていた。

 

明治末期の銀行員の初任給が四十円。五円で人としての必要最低限の生活、十円で人並みの生活を送れた当時の金銭事情の事を考えれば、如何に電話の月間基本料金が高額だったかが、良く理解出来るだろう。

 

そんな大正期の時世で、東京~横浜間の二十七分の一程度の距離程度とはいえ、たった一枚の紙で金も掛からず設備の設置も要らず、遠距離通話が可能というのは有り得ない現象だからである。

 

「……解せねぇなァ。」

 

『!!』

 

愈史郎が提示した高性能な特化型の『紙眼』に対して、実弥が怪訝そうな表情で愈史郎を睨み付けた。

思わぬ反応を示され、愈史郎は不快感を隠す事無く額に青筋を立てて実弥を睨み付けた。

 

「なんだ? 文句が有るなら言って見ろ。」

 

「あぁ、有るぜッ。なんで、()達に『色付き』の試験運用なんてさせやがんだァ? 最初っから全員に配布すりゃ良い話じゃねぇかァ……テメェ、何考えてやがる?」

 

「っ!……あぁ、そんな事か。」

 

実弥が自身を怪訝そうな表情で睨み付けていた理由が分かったのか、あっさりと力を抜いて肩を竦めた。

 

「何ィ?」

 

「それにしても『色付き』か……馬鹿にしては面白い呼称を思い浮かんだものだな。」

 

「んだとコラァ!?」

 

毒気が抜かれた様に気を抜いた愈史郎に、実弥は苛立ちながら更に強く愈史郎を睨み付け、侮辱されて激昂した。

そんな実弥も眼中に無い愈史郎は、独言を吐く様にその理由を語り始めた。

 

「何でも都合良く、事は運ばないものだ。この特化型の……『色付き』だがな? 機能だけなら通常型の二倍以上は有るんだ。だが二枚以上同時に身体に装着すると、両方の効果が相殺されて無効化してしまう。つまり、只の紙屑になってしまうんだよ。」

 

『!?』

 

思わぬ『色付き』の弱点が露見した事に、炭治郎達は驚愕した。義勇も驚いたが、納得した様に一人で呟いた。

 

「成程……つまり、この三枚の『色付き』を使おうと思えば、状況に応じて着脱を繰り返さなければならないと言う訳か……。」

 

「そう言う事だ。」

 

義勇の独言に、愈史郎が肯定する。そして行冥が続けて愈史郎が言いたい結論を口にした。

 

「南無、つまり……汎用性に富み、たった一枚で全ての機能が使える通常型に比べて、機能こそ優れているが臨機応変に使い熟さなければならない特化型の『色付き』とでは、初見で……しかも戦闘中に着脱を繰り返し行うなど通常の剣士では至難の業だと言いたい訳だな?」

 

「そうだ。戦闘補助のための道具が原因で、人死にが出ては敵わんからな。」

 

行冥の分析した結論に、愈史郎は大いに同意した。

 

「事情は把握したよ、愈史郎さん。では、この『色付き』だけれど……柱と腕利きの剣士(子供)達にのみ、試験運用として試そう。」

 

「ああ、そうしてくれ。」

 

熟考の結果、愈史郎の血鬼術で編み出した『紙眼』は通常型を一般隊士に、特化型の『色付き』は柱を筆頭に準柱級の実力が有る剣士にのみ、試験運用を名目として配布される事となった。

尚、愈史郎が遠隔で爆破出来る事は、非公表となった。

 

『紙眼』の議題が終了すると、愈史郎は今度は別の議題を話し始めた。

 

「実はな、『紙眼()』以外にもう一つ開発した道具が在る。柱級、準柱級の剣士には不要な道具かもしれないがな……一つだけ、珠世様の御提案で武器を試作して来た。」

 

『っ!?』

 

愈史郎が言い放った一言に、炭治郎達は驚愕しながら珠世に視線を移す。特に耀哉は興味津々と言った様子で、珠世を見詰める。

 

基本的に鬼が死ぬ、殺す方法は太陽光か日輪刀の二つの他に無い。特殊条件としてしのぶの毒殺と言う、新たな第三の方法の他に、無惨の呪いを発動させると言う第四の方法も有るが特殊過ぎて現実的では無い。

 

過去に武器開発を考えた者は何人も居たのだが、やはり日輪刀で鬼の斬首と言う基本的な結論に戻ってしまうのである。

 

「武器と言っても、鬼を殺せる武器ではありません。どちらかと言えば、しのぶさんを参考に……結果的には、宇髄さんの派生と言うべきでしょうか。」

 

「俺の派生だぁ……っ?」

 

「っ!……私を参考に?」

 

天元が珠世の発言に驚き、しのぶは無意識に顔を顰めた。天元は珠世の発言の意図が理解出来ず、しのぶもまた参考にされる理由が理解出来なかった。

 

しのぶが毒の開発に着手したのは、自身の非力さから来る苦肉の策である。叶うならば、他の隊士と同様に戦いたいのだ。しのぶが珠世の発言に不愉快になるのも、無理は無かった。

 

そんな天元としのぶを他所に、珠世が愈史郎から二つの小箱を受け取ってその中身を取り出した。

 

「こちらは、愈史郎が作ってくれた"吹き矢"とそれを飛ばすための"吹き矢筒"です。」

 

『っ!!』

 

珠世の紹介を受けて、炭治郎達の視線は自然と吹き矢道具二点に移る。

 

吹き矢筒の長さは一尺(三十センチ)程で、吹き矢は先端が鋭く尖っている。凝視すると、吹き矢は簡単に抜け無い様に返しの細工がされていた。

 

「!」

 

耀哉は珠世の意図に気付いたのか、楽しそうに吹き矢筒と吹き矢を持つ珠世に質問する。

 

「珠世さん。この吹き矢を作ってくれた理由は剣士(子供)達の呼吸術を活かすためかな?」

 

『!!』

 

「御明察の通りです。」

 

珠世は耀哉を称賛する様にそう言うと、道具二点の説明を始めた。

 

「この吹き矢筒は飛距離を犠牲にして、携帯性を優先して短く作ってあります。それでも隊士の皆さんが吹けば、十間(五十m)は飛ぶでしょう。

吹き矢の方には返しがついているので、撃ち込まれた鬼が抜くのに時間が掛かる様に作りました。と言っても一、二秒の誤差だと思いますが……。」

 

「待って欲しい。珠世さん、そんな事をするより、鬼の頸を斬った方が早いんじゃない? 狙ったところで、躱されるだけだし……。」

 

珠世の説明が終わるのを見計らって、無一郎が質問する。珠世は直ぐに返答を始めた。

 

「これは鬼を狙撃するための物では無く……在る程度の距離まで近付いて撃ち込む事を想定して作っています。狙撃するためなら、もっと長大な吹き矢筒が必要になりますから。」

 

「となると……胡蝶みたいに鬼を毒殺するのでは無く、宇髄みたいに動きを止める、或いは鈍化させるための小道具と言う訳だな?」

 

無一郎の次に小芭内が珠世に指摘すると、珠世もまた直ぐに返答を始める。

 

「仰る通りです。この吹き矢は、鬼を怯ませ動きを止めるための物です。

柱の様に、実力が有る人にこんな小手先の道具は必要有りません。

それ以外の剣士達が片手で撃ち、動きを止めている間に鬼の頸を斬る手助けになればと思って開発しました。」

 

「っ!!……ですが、珠世さん。毒の扱いは素人には難しいのではありませんか? 藤の花の毒は、人間にとっても有害なのですよ?」

 

「そうだぜ。ド素人が毒なんか使えば、却って思わぬ災難に遭っちまう可能性も有る。」

 

薬毒の専門家(スペシャリスト)であるしのぶと天元が、自身の抱く懸念を珠世に伝えた。

しかし、珠世はその懸念も想定済みだったのか、微笑みながら直ぐに二人に返答した。

 

「吹き矢の先端にしか塗りませんから、問題は無いでしょう。念のために、解毒薬の方も作っておきましたから。」

 

「それに毒とは言っても、所詮は痺れ毒だ。大袈裟な事にはならんだろう……ふっ!」

 

『っ!?』

 

愈史郎が突然、一枚の和紙を床の間に向かって投げ付けると同時に吹き矢筒を口に加えて中に装備された吹き矢を射出させた。

 

吹き矢は勢い良く飛んで行き、和紙に突き刺さってそのまま壁に固定された。

愈史郎が投げた和紙は無惨の肖像画であり、吹き矢は見事に無惨の額に命中していた。

 

「おおっ!……これは狙っても当たらないところに当たったなぁ。」

 

愈史郎はそう言って機嫌を良くしながら、固定された無惨の肖像画を見る。それから、炭治郎達に話し掛けた。

 

「どうだ? 威力も速さも申し分無いだろう? これに呼吸術が加われば間違い無く鬼には躱せず命中する筈だ。」

 

自負心から自信を持って愈史郎がそう言うと、耀哉が同意する様に答えた。

 

「確かにそうだね……珠世さん、愈史郎さん。吹き矢の件はありがとう。実物を目の当たりにして、私は目から鱗が出る思いだよ。

これ程、呼吸術を活かした手段は存在しないと言うのに、どうして思い付かなかったんだろうね?」

 

愈史郎の試射の結果を見て、確信を得た耀哉が珠世と愈史郎に感謝の言葉を伝えた。

 

「……お気になさらず。どんな発想でも気付けば数秒で思い付く物であっても、気付かなければ千年経とうと気付かないものです。……これで少しでも、柱の皆さんの御負担が減ってくれれば良いのですが。」

 

「珠世様が仰る通り……と言いたいところだが、耀哉。今度はこちらの頼みを聞いて貰えるか?」

 

『!』

 

謙遜した珠世に対して、愈史郎が耀哉に頼み事を始めた。

 

「私に出来る事が有るなら、喜んでさせて貰うよ。」

 

「別に大した事を頼む訳じゃない。」

 

 

ガシャン!

 

 

愈史郎はそう言ってから、小さい方の箱を手に取って畳の上に置いた。箱の中身がぶつかり合って音を立てる。

愈史郎は鳴った音を気にする事無く、箱の蓋を開けた。

 

「っ!……それは……っ!」

 

「"採血の短刀"?」

 

『?』

 

炭治郎としのぶが箱の中身を見て反応した。箱の中には、百本以上の採血の短刀がびっしりと入っていたのだ。

 

「禰豆子を人間に戻すために、炭治郎は倒した鬼の血を採血して俺達に提供している……だがこいつ一人だと限界が有るし、研究が延々と進まないんだよ。」

 

「南無……つまるところ、私達も炭治郎と同様……倒した鬼から血を採血して提供しろと言うのだな?」

 

「その通りだ。雑魚鬼共の血でも構わんが、可能なら上弦共の血が一番欲しいところだ。」

 

愈史郎と行冥の話し合いを聞いて、耀哉が回答した。

 

「その道具で血を採血出来るんだね?……見たところ、頸を斬った後に投げて刺す物かな?」

 

「そうだ……別にしたくない奴はしなくても構わん。炭治郎に協力したいと言う奴だけ手伝ってくれ。」

 

「本当に刺しただけで、採血など出来るのか?」

 

『!』

 

小芭内が少し疑問を思いながら、確認のために愈史郎に質問した。するとその言葉に反応したのは、愈史郎では無く別の人物だった。

 

「……不死川?」

 

スッと立ち上がった実弥に、義勇が気になって声を掛けた。しかし、実弥は義勇に反応せず真っ直ぐ採血の短刀が入っている箱に向かった。

 

それから実弥は腰を下ろして採血の短刀に右手を伸ばすと、六本程度の採血の短刀を鷲掴みにして手に持った。

 

そして、そのまま自身の左腕に向かって突き刺したのである。

 

『!?』

 

『なっ!?』

 

『ちょっ!?……っ?!』

 

実弥の唐突な行動に炭治郎達が驚愕する中、実弥は気にする様子も無かった。採血の短刀に自身の稀血が容量一杯になるのを見てから、ぶっきらぼうに愈史郎に突き出した。

 

「ちゃんと血は採れるみてぇじゃねぇかァ……ほらよ。」

 

「……」

 

採血の短刀を投げると、青筋を立てた愈史郎は一つも落とさず受け取る。それから愈史郎の怒りが爆発した。

 

「……こぉらぁっ!? 自分に刺す奴があるかぁ!?」

 

愈史郎がそう言って激昂すると、今度は医療箱を持って来て実弥の左腕の治療を始めた。

 

「……珠世さん、鬼の血の研究は無惨を倒す上でも役に立つだろうか?」

 

「言うまでも無く。」

 

珠世が即答するのを見て、耀哉は刹那の間のみを置いて即決した。

 

「吹き矢道具と共にこの採血の短刀も、『隠』の技術班に送って作らせる。剣士(子供)達には血の採取も行う様に指令を打診しておくよ。」

 

「っ!」

 

「御願いします、耀哉さん」

 

「製造方法を載せた設計図も有るから、そいつもついでに送っておいてくれ。」

 

「……っ。」

 

炭治郎は禰豆子を人間に戻す事は、自分にしか出来ないと思っていた。自惚れからそう思ったのではなく、誰も協力してくれるとは思わなかったからだ。寧ろ不可能だと馬鹿にされ、嘲笑される覚悟だった。

 

それが今ではどうだろう。珠世と愈史郎と出会い、禰豆子を人間に戻す中核の役割を担ってくれている。そして最愛の恋人であるしのぶが協力を申し出て、今では鬼殺隊全体で協力体制を整えてくれた。

 

炭治郎の胸中で、熱が上昇して行くのが分かった。下手すると、目頭まで熱くなってしまいそうである。

炭治郎はそれを隠す様に、深く耀哉に向かって頭を下げた。

 

「御館様、何から何までありがとうございます……本当に。」

 

「良いんだよ、炭治郎。寧ろ今の今まで鬼殺隊が君に協力しなくて、悪かったね。」

 

耀哉は炭治郎に、今まで鬼殺隊が非協力的だった事に謝罪する。炭治郎はそんな謝罪の言葉を耳にして、一度頭を上げてから再び平伏した。

 

「これで柱じゃない剣士(子供)達の練度不足が解決した訳じゃないけれど、愈史郎さんが言った様に生存率と討伐成功率の向上が見込める算段が付いた。

柱の剣士(子供)達の負担も大いに減ると言うものだよ……次はその柱の剣士(子供)達について、私達から一つ話そうか。」

 

『!!』

 

その一言で、自然と注目が耀哉に集中する。それを見て耀哉はあまねに話し掛けた。

 

「あまね。頼んだよ。」

 

「御意……皆様についてこれからお話するのは、"痣"についてで御座います。」

 

『!』

 

『?』

 

あまねが切り出した議題に、大広間の反応は二つに分かれた。知っている者は驚いた様子で注視し、知らない者は首を傾げながらあまねを見ていた。

 

「戦国時代……"原初の鬼"鬼舞辻無惨を後一歩のところまで追い詰めた始まりの呼吸の剣士と当代の柱達……彼らは全員、鬼の紋様に似た痣を発現していました。これを"痣者"と呼称しています。」

 

『!?』

 

あまねの説明に、痣について知らなかった者達は驚愕する。

 

「伝え聞くなどして、御存知の方は御存知です。」

 

「俺は初耳です。何故、伏せられていたのです?」

 

実弥の質問に対し、あまねが答えた。

 

「鬼殺隊は今日まで何度も壊滅状態になり、その過程で伝承と継承が途絶えたと思われます。産屋敷家でも曖昧な伝承しか伝わっていないのです。」

 

「そうでしたか……あまね様。痣とは何なのか、詳しい説明を御願い致します。」

 

義勇があまねに軽く頭を下げて御願いをすると、あまねは承諾して答え始めた。

 

「この痣ですが、発現に成功した時に身体の何処かに痣が生まれるそうです。発現者によって痣の位置は千差万別。しかし一番重要なのは……痣者は鬼に匹敵する身体能力を得られると言う事です。」

 

『!?!?』

 

あまねの言葉に、炭治郎達は驚愕した。その事実を知って益々、痣への興味が湧いて出て来ていた。

 

「痣とは、そんな都合の良い存在ではありませんよ。」

 

『!!』

 

水を差す様に辛辣な声色で珠世が吐き捨てる様に言い捨てた。驚く炭治郎達だったが、産屋敷家の反応は違った。そんな周囲の反応など一切眼中に入れず、珠世は痣について語る切っ掛けを口にした事を責める様に、耀哉に尋ねた。

 

「……耀哉さん。痣について語るのは、まだ早計だったと思うのですが?」

 

「私は共有出来る情報は全て、今の内に話しておくべきじゃないかと思うよ。」

 

不機嫌に表情を歪める珠世に、耀哉が宥める様に優しく反論した。

 

「何故、お前は痣の事を隠そうとする? 俺達に知られては不都合な事でも有るのか?」

 

珠世の態度に不信感を抱き、睨み付けながら珠世に問い詰めた。この小芭内の態度に愈史郎は額に青筋を浮かべる。

 

「私個人に不都合な事情など、一切有りません。この痣はただ単純に、代償が大き過ぎるのです。」

 

『!』

 

珠世はその言葉を切っ掛けに、痣について説明を始めた。説明を始める前に一度産屋敷夫婦に目配りすると、二人揃って頷いた。頷いてから、耀哉が不機嫌な珠世に説明を始めた。

 

「私が話そうと思った理由はね。柱では無いのだけれど、不完全ながら痣を発現させた剣士()が居るからだよ。」

 

『なっ!』

 

『っ!』

 

「……炭治郎さんですね?」

 

「えっ!?」

 

『っ!?』

 

名前を呼ばれるとは思わなかったのか、炭治郎は戸惑った様子で声を上げた。周囲も驚きながら、炭治郎に視線を移した。珠世は再び溜息をすると、炭治郎に優しく尋ねた。

 

「炭治郎さん、此処最近……今まで体温が上がって、逆に身体の調子が良い時はありませんでしたか?」

 

「えっ?……あ、はい。そんな時も有りました。」

 

「!」

 

炭治郎の返答に、耀哉はピクっと反応を示した。

 

「……そうですか。もう此処まで耀哉さんもあまねさんも話してますから、痣について今から話しましょう。」

 

炭治郎達の耳目が自身に集中する中、珠世は溜め息をついて痣について語り始めた。




おまたせしました。どうしてもこの日に投稿したかったんです。めっちゃ中途半端で遅いですけど。

無惨一党の情報は喋り尽くし、これから鬼殺隊強化の話に移ります。
愈史郎の血鬼術も含め、これから現状有る物だけで可能な限りの強化を行います。だから、チートと判断される様な極端な物は出さない予定です。
尤も、この時点で愈史郎の『百眼符』はかなりチート臭いですが(汗)。

吹き矢は呼吸術を生かせる一番の武器だと判断しました。短筒なら片手でも扱えますからね。

変更点:第弐拾話 夢幻の桜蝶は日輪を督励す
変更理由:しのぶが杏寿郎より先に柱になっていたため。

正直に言うと、私はワニ先生の柱就任系列を信用していません。義勇とカナエの矛盾の件があるからです。ですが原作を尊崇している一ファンとして何とか折り合いをつけます。

活動報告でも載せましたが、こちらにも載せておきます。





リクエストキャンペーン(常時)

ちょっとしたネタバレになりますが、拙作の緊急柱合会議編が終了後、拙作は『閑話』『閑談』とよく言われる幕間の場面になります。尤も、文字通りではなく本編も関わっておりますが。

鬼滅の刃原作では無限列車編→空白の四ヶ月以上五ヶ月未満→吉原遊郭編となっており、現状、拙作の半月間はこの『空白の四ヶ月以上五ヶ月未満』の一部となっております。

其処でこの残り『四ヶ月以上の空白の月日』を、リクエスト作品で埋めたいと作者は強く望んでいます!

先に説明するその理由も、このリクエスト投稿の順番はリクエスト順で投稿する予定では無いからです。

リクエストして下さった方の順番を例えとしてⒶ→Ⓑ→Ⓒ→Ⓓ→Ⓔとします。
ですがネタの内容と本編のストーリーの辻褄合わせを第一に考えておりますので、
投稿の順番が 例)Ⓐ→Ⓓ→Ⓑ→Ⓔ→Ⓒだったり、 例)Ⓐ→Ⓔ→Ⓓ→Ⓒ→Ⓑになるかもしれない訳です。リクエストが増えれば、それだけ順番も変わり前後する可能性があります。

私としても後からリクエストを受けて「嗚呼、このネタならあのネタの前にしたかったなぁ……」って後悔せずに済むので、もしリクエストしようか悩んでいる方は是非、リクエスト内容を『メッセージ』にて御送り下さい。コメントでのリクエストは受け付けておりません。

キャプションでも投稿する度にしつこく説明していますが、此処でも必要最低事項は載せておきたいと思います。

※100%受け付けられると保証された訳では御座いません。リクエストのネタ次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。ですのでネタの打ち合わせは密になる事を御了承下さい。

※炭治郎×鬼滅女子のみ。それ以外または他CPとの合わせは断固拒否。例:炭カナ+伊アオや炭しの+おばみつetc…

※CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。

※ネタの内容次第で、遊郭編後に持ち込む可能性が有ります。その点も御留意下さい。

※ネタの打ち合わせの為、何度もメッセージを送ると思います。リクエスト投稿者の方は対応よろしくお願い致します。

※作者は恥ずかしながら遅筆です。それでも良ければリクエスト下さい。
※※一年近く待たせている方々へ、投稿の遅さをお詫び申し上げます。申し訳ございません。

※※大正時代のみ受け付けております。キメツ学園はNGです。

2020年10月16日(金)0時時点でpixiv・ハーメルン両サイトから頂いたリクエストは

全年齢 2作 R作品 14作

合計で16作品となっております! 現在、その内の13作品をこの『四ヶ月以上の空白の月日』に執筆・投稿予定です。リクエストして下さった方々に心から御礼申し上げます。

※2020年11月14日(水)0時の時点で全年齢 3作 R作品 21作 合計で24作品に増加。

その内の20作品を執筆予定。

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
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