※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

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※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*超辛口表現有り。苦手な方は御注意下さい。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第参拾捌話 日輪と鬼殺隊の柱は結束す

ガシッ!

 

 

 

『!?』

 

『禰豆子っ!?』

 

『禰豆子さんっ!?』

 

「「禰豆子ちゃんっ!?」」

 

「禰豆子ちゃあああああああんっっっ!!??」

 

「禰豆公っっ!?」

 

何と禰豆子が突然炭治郎の日輪刀を抜き、刀身を両手で鷲掴みにしたのだ。これには炭治郎達は騒然となった。禰豆子は力を込めて日輪刀の刀身を握っているため、両手から流血を始めていた。

 

「何をするんだ禰豆子っ!」

 

「何をしているっ!? 禰豆子っ、早く日輪刀(かたな)から手を放せっ!!」

 

炭治郎と義勇が動揺しながら、血相を変えて禰豆子の自傷行為を止めようとした。しかし、禰豆子はそれらの言を聞き入れる事無く、更に力を込めて日輪刀の刀身を握り締める。両手から更に出血量が増して、日輪刀の刀身が血で染まり始めていた。

 

「禰豆公もうやめろぉ!!」

 

「止めて止めて禰豆子ちゃんっ! 御願いだからっ!?」

 

「どうしてこんな……禰豆子さん早く止めなさいっ!」

 

「禰豆子さんっ! それ以上は指が斬れます!!」

 

「御願いだから止めて禰豆子ちゃんっ!!」

 

伊之助に善逸、しのぶとアオイとカナヲも動揺しつつ禰豆子の自傷行為を止めるために呼び掛けた。埒が明かないと力付くで禰豆子を止めようとした、その瞬間であった。

 

 

 

ボッ!

 

 

 

『っ!!??』

 

「っ!? 馬鹿な……竈門禰豆子の出した炎で、日輪刀(かたな)が燃えている、だと……っ!」

 

小芭内が指摘した様に、炭治郎の日輪刀が突如として炎で包まれた。炎に包まれた炭治郎の日輪刀に、更に変化が起こる。

 

「っ! 見てっ! 日輪刀(かたな)の色が赫くなってるっ!!」

 

「南無っ……炎熱で日輪刀(かたな)の温度が上昇しているからか……っ!」

 

炭治郎達が見守る中、炭治郎の日輪刀に起きていた変化が終了した。黒曜石の如き漆黒の黒刀は、赫く染まり深紅の赫刀へと変化していた。

 

「珠世さん……これは……。」

 

「この灼けた様な匂いと熱……()()()()()()()()、間違い無く赫刀です……っ!」

 

『!』

 

珠世が赫刀と断言した事で、炭治郎の日輪刀に視線が注目する。その中で、珠世と愈史郎だけは禰豆子の炎に注目した。

 

――あれが炭治郎さんから報告の有った、禰豆子の血鬼術"爆血"かしら?

 

――鬼だけを焼く叛逆の鬼火……俺達にも害するって点だけは厄介だな。

 

そう思い僅かに、珠世と愈史郎は禰豆子の血鬼術に警戒心を抱いた。自身を害する力なのだから、警戒するのは当然である。

 

「しかし……これは赫刀なのかな? それだと第三の方法が誕生した結果になるけれど……赫刀とは違うだろうから、これは"爆血刀"とでも呼ぶべきかもね?」

 

耀哉の考察に、炭治郎達の間に疑問が生まれた。この日輪刀を果たして赫刀と断言して良いのか、という疑問が。しかしこの疑問を明らかにする方法を、珠世は口にした。

 

「これが赫刀かどうか、判別する方法なら有ります。」

 

『!!』

 

珠世の一言で、炭治郎達の注目は赫刀から珠世に移った。珠世はその視線を受けながら、左腕の着物の袖を捲り、白くて細い腕を露にした。

 

「私がその日輪刀(かたな)に斬られて内臓が灼ける様な痛みを覚え、再生力の遅延が起きれば間違い無く赫刀です。」

 

『っ!?』

 

珠世が提案した赫刀の判別方法に、炭治郎達は驚愕する。そして真っ先に反対する者が現れた。

 

「駄目ですっ! そんな方法など、俺は認めない!!」

 

『!』

 

「どうしてもやると言うのであれば、俺が斬られます! 珠世様は御下がり下さい!!」

 

愈史郎は血相を変えて、反対を口にした。愈史郎からすれば、眼前で尊崇する珠世が傷付く光景など、耐えられるものでは無い。反対するのは、当然の成り行きであった。

代わりに斬られ役を買って出るという、愈史郎の代案に対して珠世はゆっくりと頸を横に振って却下した。

 

「っ!……何故ですか、珠世様……っ!」

 

「貴方は赫刀の痛みを知らないからよ。私は縁壱さんに無理を言って赫刀で斬られた事が有り、その痛みを良く覚えています。これは私で無ければ、出来ない事です。」

――尤も、緑壱さんの赫刀で斬られた傷は薬を作っても完治させるのにニ百年以上掛かったのよね……でも、炭治郎さん達に緑壱さん並みの威力を求めるのは、きっと酷な話だわ。

 

珠世は内心で縁壱との思い出を回想しながら、愈史郎の代案を却下した。しかし、反対するのは愈史郎だけでは無かった。

 

「珠世さん。俺は愈史郎さんと同じ意見です。」

 

炭治郎である。幾ら検証のためとはいえ、誰かが傷付くなど言語道断であった。

 

「炭治郎さん。貴方の優しさは嬉しいわ。でも私も死ぬ訳では無いし、再生も遅くなるだけだから気にしなくても良いのよ?」

 

「嫌ですっ!……俺は珠世さんに傷付いて欲しく無いんです!」

 

珠世の説得に対して、炭治郎は頑なに拒絶した。一度決めたら、何が起きようと絶対に曲げない頑固な一面を持つ炭治郎である。こうなってしまっては、たとえ死んでも意見を代えようとはしないだろう。

そんな炭治郎を見て、ある人物が珠世に話し掛けた。

 

「珠世殿……それは絶対にしなければならない事なのか……?」

 

珠世に質問をした人物は、義勇であった。珠世は質問の内容に対して、頸を縦に振って頷いてみせた。

 

「"推測"よりも"確実"な情報の方が、価値が有るのは確かです。」

 

「……承知した。」

 

珠世からの回答を得た義勇の行動は素早かった。

 

「えっ!? 義勇さんっ!?」

 

義勇は炭治郎が持っていた爆血刀を素早く奪取すると、珠世の下へ瞬時に動いていた。その速さには柱を除いて、追い付くどころか目視で追跡する事も出来なかった。

 

「珠世殿……ごめんっ!」

 

義勇は珠世に謝罪してから、爆血刀を珠世の左腕に向かって振り下ろした。

 

『!?』

 

上腕から斬られた珠世の左腕はそのまま宙を飛び、中庭まで飛び出て陽光を浴びて消失した。

 

「うぐっ!……ああぁぁぁっ!!」

 

珠世は義勇に斬られて、激痛から叫声を上げて右手で左腕を押さえた。

 

「珠世様ぁっ!!」

 

「珠世さんっ!!」

 

大広間に炭治郎と愈史郎の悲痛な叫声が鳴り響いた。しかし、そんな二人に珠世が一喝する。

 

「落ち着きなさいっ!!」

 

『!』

 

珠世にそう一喝された炭治郎と愈史郎は、驚きから静止する。珠世はそれを見て微笑を浮かべて、優しく二人に話し掛けた。

 

「私なら大丈夫よ。落ち着いて、ね?」

 

「「……っ。」」

 

珠世にそう言われては、炭治郎達は動かずにその場を静止している他に無かった。

 

「珠世さん……苦しんでいるところを、無粋だとは思う。結果を聞いても良いかな?」

 

『!』

 

「はい……この灼けた傷口からの出血量の無さ、炎で身体を直に炙られる様な激痛、そして再生力の遅延……赫刀そのものと言っても過言ではありません。」

 

『!!!』

 

耀哉の質問に対して、珠世は確証を以て赫刀であると断言した。そのため、大広間には響めきが広がった。

 

珠世からは激痛からか玉の如き大粒の汗が流れ落ちているが、既にあまねが手巾(ハンカチ)で汗を拭っている。それを見て耀哉は珠世をあまねに任せて、今度は禰豆子に視線を向ける。

 

「禰豆子。悪いんだけど、他の日輪刀(かたな)でも同じ事は出来るか、試して貰えないかな?」

 

「うっ?……うっ!!」

 

「っ!……御館様っ!!」

 

炭治郎は耀哉の頼み事を耳にして、抗議する様に耀哉を呼んだ。たとえ敬愛する耀哉であろうと、唯一にして最愛の家族である禰豆子が傷付く様な真似はさせられなかった。

 

「ううっ!」

 

そんな炭治郎の心情など露にも掛けず、禰豆子はしのぶの下へと駆け寄った。

 

「っ!……禰豆子さん。」

 

「うっ! うっ!」

 

禰豆子はしのぶの日輪刀に向かって指を差す。先刻の行動を鑑みれば、しのぶの日輪刀を爆血刀に変えようとしている事は明らかだった。

 

炭治郎は禰豆子の積極的な行動振りを見て、止めようとするのを諦めた。そんな炭治郎を見て、しのぶは日輪刀を抜刀して禰豆子の前に差し出した。

 

「うっ!」

 

禰豆子は差し出された日輪刀に指先を触れさせると、日輪刀が勢い良く燃え上がり、爆血刀が出来上がった。

 

『!!』

 

「……どうやら最初は力み過ぎていただけで、実際は軽く血を塗り付けるだけで充分みたいだね?」

 

耀哉は驚きながら、禰豆子の行動を冷静に分析した。それから更に無一郎とカナヲの日輪刀でも検証した結果、全て爆血刀に変える事に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

「禰豆子、頑張ったな。」

 

「ん~~❤」

 

炭治郎は赫刀の検証を終えた禰豆子がトコトコやって来たので、抱き締めながら頭を撫でてその貢献を労った。

禰豆子流の赫刀の発現方法だが、過度な流血を必要としない事が明確となり、炭治郎も内心複雑ながらも安堵していた。

 

幾ら再生するからといっても、心情としては唯一にして最愛の家族である禰豆子が傷付き流血する姿など、炭治郎は極力見たく無かった。

 

炭治郎と禰豆子を一度見てから、珠世が爆血刀から受けた傷が回復するのを見計らって耀哉が声を掛けた。

 

「珠世さん。怪我の方はもう大丈夫かな?」

 

「えぇ、もう大丈夫です。心配は要りません。」

 

「……珠世殿。先刻(さっき)は大変申し訳無かった。深く、御詫び申し上げる。」

 

珠世が耀哉に答えると、今度は義勇が珠世に向かって、平伏して謝罪した。

 

「冨岡さん……良いんです。寧ろ、この件は此方が感謝しなければなりません。冨岡さん、ありがとうございました。」

――痛みは完全に無くなっている……やはり縁壱さんに匹敵する赫刀では無かったわね……。

 

珠世はそう言って、義勇に頭を下げて礼を述べた。それを見た行冥は突如、数珠を持っている手を合わせ音を立てて合掌した。

 

「珠世殿。貴女が御身を呈して鬼殺隊(我々)に尽力して下さる事に、改めて心から敬意を評したい。今一度、この場で深く御礼申し上げる。」

 

行冥はそう言って、珠世に向かって平伏した。そんな行冥を見て、耀哉も倣う。

 

「珠世さん。私からも礼を言わせて欲しい。本当に、ありがとう。」

 

耀哉はそう言って、珠世に頭を下げた。あまねと実子の輝利哉達も耀哉に倣い頭を下げる。それを見た天元達も行冥と同様に平伏して、珠世に感謝を示した。

 

「皆さん、頭を御上げ下さい。幾ら何でも大袈裟過ぎます。」

 

珠世は耀哉達の多謝に少しばかり困った様子を見せながら、楽になる様に促した。それから珠世は一度咳払いをしてから、新たに語り始めた。

 

「皆さん。早速ですが、次に赫刀よりも上位の、痣の力を極限まで引き出しその境地に達して覚醒した者だけが得られる"透き通る世界"について説明したいと思います。」

 

『!』

 

珠世はそう言って"透き通る世界"の説明を始めた。

 

"透き通る世界"とは、それも痣者の中から選ばれし覚醒者にしか獲得できない、赫刀とは違ってはっきりとした"能力"や"異能"と呼ばれるものである。

 

覚醒者は他者の身体が透けて見える"透視"が可能になり、他者の骨格や筋肉の動きは勿論、内臓から神経の一本一本、血流すら見える様になると言う。

 

「……それだけ身体の構造が見えると言う事は、相手の"起こり"を見て対応が可能と言う事です。」

 

「"起こり"?」

 

炭治郎が聞き慣れぬ単語を耳にして、首を傾げながら呟いた。そんな炭治郎に微笑みながら、珠世は起こりについて説明を始めた。

 

「例えば、人が物を掴む時に腕を動かしますね? 実はその時に、腕より肩が先に動きます。そして肩よりも本当は先に、腰が僅かに動いています。物事の始まり、目的のための事前動作。これが"起こり"です。」

 

「つまり……相手の動きを予測、いや予知して先読みが可能と言う事ですか?」

 

しのぶが驚いた様子で、珠世が言わんとしている意図を察して指摘した。

 

「可能です。更に言えば、神経や血流の流れを見て予知が可能だそうです。縁壱さんはこの力を使って、無惨の不死身の秘密を知りました。だから死の一撃を躱しつつ脳と心臓を、的確に攻撃する事が出来たんです。」

 

『……』

 

縁壱の偉業を知って、炭治郎達は感嘆から何も言えずに沈黙した。

 

「……この"透き通る世界"ですが、戦国期に多数居た痣者の中でも、覚醒者にまで辿り着いた者はたったの五人しかいなかったそうです……そして境地に達したこの五人の覚醒者の中には、あの黒死牟も含まれていました。」

 

『!!!』

 

黒死牟の更なる力を知って、炭治郎達は驚愕しその警戒度を更に一段階、いや二段階上げた。その中でも、無一郎の反応は顕著に現れていた。

 

「くっ!……何でっ!……其処まで剣も技も……呼吸も極めておきながらっ!!……どうしてっ……鬼なんかにっ!!……っ!!!」

 

無一郎は掌の皮を爪で突き破りそうになる程強く握り締め、唇から血を滲まさんばかりに強く噛んだ。無一郎からは、強い憤怒と悲痛の匂いと音がしていた。

 

「時透君……。」

 

炭治郎も悲しげに無一郎を呼んだが、掛けてやれる言葉が見つからなかった。そして唐突に、炭治郎の脳裏にある記憶が過る。炭治郎はたまらない様子で、珠世に話し掛けた。

 

「あの、珠世さん。」

 

「どうしました? 炭治郎さん。」

 

「実は……生前、父が言っていた事を思い出したんです。」

 

『!』

 

その一言で、大広間に居る者達の注目は炭治郎に集中した。顔を俯かせていた無一郎も、炭治郎の言葉を耳にして視線を向ける。

 

炭治郎の父親といえば、"日の呼吸"を極めた痣者である可能性が高かった。耀哉達が炭治郎に注目するのは、無理も無い話だった。

 

「父は生前、俺によく言い聞かせていました。」

 

炭治郎はそう言ってから一度深呼吸すると、父・竈門炭十郎が言い残した言葉を復唱し始めた。

 

「『"ヒノカミ神楽"は幾度も幾度も繰り返して形を覚えて"出来る"様になり、無駄な動きを削ぎ落として"使い熟せる"様になり、正しい呼吸と動作を覚え、血管の隅々まで動作を認識し"極める"事が出来る様になれば……最小限の動きで最大限の力を無意識に引き出せる。そうする事で余計な思考を排除して頭の中が透明になって行く。これを弛まぬ努力を以てやり遂げれば、"透き通る世界"に辿り着く事が出来る様になる』と。」

 

『!!??』

 

炭治郎が口にした炭十郎の遺した言葉の内容に、耀哉達は驚愕した。この言葉が意味するところは、炭十郎が境地である"透き通る世界"にまで極めた事に他ならないからだ。

珠世も驚愕していたが、納得した様子であった。

 

「やはり炭治郎さんの御父様は、覚醒者に間違いありませんでしたか……っ!」

 

「そう、なりますね……父さんは細身でしたけど、身体能力は同じ人間とは思えない程、高い人でした。」

 

炭治郎はそう言うと、ある逸話について語り始めた。

 

それは炭十郎が病死して此の世を去る十日前の、満月が印象的な冬の夜の出来事であった。

 

炭治郎の故郷である雲取山から一つ隣の山で、一家六人が大熊に襲われ皆殺しにされる惨劇が起こった。

 

竈門家もまたその大熊に警戒して、生家の周辺に篝火を焚いて鈴を付けた縄を幾重にも張り巡らした。

 

すると突然、炭十郎が起床して炭治郎を連れて生家の外へ出た。何かに警戒しながら、右手に手斧を持ったまま。

 

起こされた炭治郎の疑問は、間も無く絶望へと変わった。其処には巨大な熊が、涎を垂らしながら歩いて来たからだ。炭治郎は匂いで直感的に、件の人喰い熊だと悟った。

 

大熊は威嚇のために立ち上がると、それはそれは天をも突く様な大きさだった。実際に、その大熊の体長は十尺(三m)に迫る巨躯であった。

 

「えっ? ちょっと待って、炭治郎君。大熊の大きさが……えっ?? 十尺(三m)??」

 

蜜璃が当惑した様子で、炭治郎が口にした大熊の体長を口にした。そんな蜜璃に同意する様に、アオイも開口する。

 

「炭治郎さん。この関東一帯に出没する熊って、ツキノワグマって言いまして……体長は大体が六尺(百八十cm)ぐらいが平均で、大きいものでも六尺六寸(二m)超えないくらいの筈なんです。北国の羆でも無ければそんな大熊が居る訳が……。」

 

最愛の恋人に対して遠慮しがちな様子でアオイが語ると、炭治郎は困った様に笑いながらそれに答えた。

 

「うん。正直、俺も信じられなかったよ。でもね、本当なんだ。後から知ったんだけど、その大熊は"穴持たず"って言って冬眠出来なかった熊みたいでね。

父さんはこの巨躯だから、冬眠に適切な場所が作れなかったんじゃないかって言っていたのを覚えているよ。」

 

炭治郎が真顔で嘘が言える筈が無いので、それが事実なのだと分かると、耀哉達は驚きを隠せなかった。

炭治郎は他に質問などが無いのを確認すると、逸話の続きを語り始めた。

 

大熊はそのまま炭十郎に襲い掛かろうとしたため、炭十郎は大熊の首に目掛けて跳ぶと、斧を二回振って首を斬り落とした。

大熊の首はコロンと雪原の上に落ちると、大熊の胴体から血が泉の如く吹き出してから、ズドンと大音を立てて崩れた。

 

『!?』

 

炭治郎が語った大熊の末路を聞いて、大広間に居る誰もが言葉を失う程の驚愕を齎した。

 

「ちょ、ちょっとまて。炭治郎。」

 

今度は義勇が当惑した様子で、炭治郎の語りを止める。

 

「何ですか? 義勇さん。」

 

「……お前の父は、その……猟銃でも使ってその大熊を仕留めたんじゃないのか?」

 

義勇は信じられない様子で、炭治郎が何か言い忘れたのではないかと思い、そう尋ねた。しかし、待っていたのは炭治郎の否定の言葉だった。

 

「俺の生家(いえ)には、猟銃なんて有りませんでしたよ。」

 

「っ!……しかし、お前の父は秋冬に狩猟で獲物を仕留めてお前や弟妹に獣肉を振る舞ったと……。」

 

「父さんは秋冬になると定期的に荷車を引いて、それから手斧(おの)と短刀だけ持って一人で山中に入って行くんです。

そして生家(いえ)に帰って来る時には、既に血抜きがされた首無しの獲物を荷車一杯に乗せて持って帰って来ていたんですよ。」

 

「……」

 

炭治郎が語った炭十郎の逸話に、今度こそ義勇は言葉を失った。

炭十郎が野生動物を相手に、手斧で仕留めていたとはっきりしたからだ。短刀でも仕留めていたかもしれないが、どちらかと言えば解体向けだ。

少なくとも、常人に出来る所業では無かった。

 

「その取って来た獣肉を焼いたりお鍋にしたり、後は毛皮と一緒に肉を町まで持って行って、売ったり他の物と物々交換をしたりしてました。ふふっ、懐かしいなぁ……。」

 

炭治郎はそう言って、過去の記憶に少しばかり身を浸かせた。しかし、直ぐに頭を切り替えて語るのを再開する。

 

「父さんは大熊を仕留めた後、俺に「ちゃんと動きを見たか?」と尋ねました。

父が感情を震わせず、植物みたいに静かに気配無く動いた様子を見た俺は頷く事しか出来ませんでしたけど、現在(いま)になって分かりました。」

 

「あれは俺のために、父さんなりの"見取り稽古"だったんだと。俺が何時か"透き通る世界"に辿り着くための、その一助になる様に力の一端を開放して見せてくれたのだと、俺は思っています。」

 

「……炭治郎。君の御父上は、凄い人だったんだね。」

 

炭十郎の逸話を語り終えた炭治郎に、耀哉が称賛の言葉を送った。耀哉は話を続けて語る。

 

「これ程の御仁が在野に埋もれていたとは、痛恨の極みだ。」

 

「はっ。御館様の仰る様に、かの御仁が一介の炭焼き職人では無く、鬼狩りであったならば……どれだけ鬼殺隊の力となり、多くの罪無き人々を救えた事でありましょう……。」

 

耀哉の言葉に、行冥が賛同する様に炭十郎を惜しんだ。耀哉と行冥の言葉に炭治郎は嬉しく思ったが、同時に困った様に頬を掻いた。

流れが妙な事になって来たため、珠世が阻止するべく耀哉に話し掛けた。

 

「耀哉さん。他に何かお聞きしたい事などは有りませんでしょうか?」

 

「っ!……そうだね。珠世さんはどうやって無惨に対抗するか、考えている対策方法を鬼殺隊(私達)に教えて貰えると嬉しいかな? 鬼殺隊(私達)も何か、珠世の御手伝いが出来るかもしれないからね。」

 

『!』

 

耀哉の要望を聞いて、反射的に炭治郎達の視線は珠世に集中した。無惨への対策方法など、鬼殺隊にとって咽喉から手が出る程に渇望している情報だからだ。

 

しかし、珠世は難しい顔をして双眸を閉じながら首を横に振った。

 

「大変申し訳ありませんが……私は今、産屋敷本邸(此処)でその件について鬼殺隊(あなた方)に話す心算は一切有りません。」

 

『っ!?』

 

珠世が強い拒絶感を以て、耀哉の要望を拒否した事に炭治郎達は騒然となった。

 

「ど、どうして、鬼殺隊(俺達)に話せないんですか? 珠世さんっ。」

 

戸惑いを隠せず、吃りながら珠世に拒絶の理由を知りたくて尋ねた。

 

現在(いま)、こうして御集まり頂いている皆さんが、決戦までに無惨と遭遇せず生きている保証が無いからです。

"謀は密なるを良しとす"の故事曰く、直接関係する方以外は最後の最後まで秘密にさせて頂きます。御了承下さい。」

 

『!!!』

 

珠世が言い放った理由に、炭治郎達は一度息を呑むも尤もな理由は反論出来ず納得した。しかし、この期に及んで納得していない者が居た。

 

「珠世……貴様は鬼殺隊(俺達)が無惨に捕まり拷問でもされれば、ベラベラとあっさり情報を吐いて味方を売る様な恥知らずだと、そう言いたいのか?」

 

『!?』

 

吐き捨てる様にそう言ったのは、青筋を立てて憤怒する小芭内だった。

 

「シャ――!?」

 

「ちょっと!? 伊黒さんっ!!」

 

これを見て鏑丸と蜜璃が、諫める様に小芭内に向かって声を荒げた。

 

「大丈夫です、甘露寺さん。」

 

そんな蜜璃に、珠世は優しく声を掛けて落ち着かせる。そしてそれから、小芭内に向かって真剣な表情で語り始めた。

 

「私はその様な考えなど、微塵も持ち合わせていませんよ。伊黒さん。

そもそも無惨は情報を得るのに相手を拷問するなど、その様な回り諄い方法など取る事は有り得ません。」

 

『!!』

 

「っ!!……ほう、実に気になる情報だね。珠世さん、無惨はどんな方法で情報収集するのかな?」

 

沈黙したまま成り行きを見守っていた耀哉だったが、珠世の一言が気になって質問をした。珠世は返答するために、語るのを続ける。

 

「無惨の持つ能力の中に、"記憶を読む"と言うものが有ります。これは喰い殺した対象の細胞に含まれている記憶を読み取る事で、情報を得る事が出来るのです。」

 

『!?』

 

珠世が言い放った無惨の新たなる情報に、炭治郎達は驚愕した。その情報を聞いた耀哉もまた、納得が行った様子で深く頷いていた。

 

「それなら……尋問も拷問の必要も無いね。どれだけ剣士(子供)達が頑張って貝の如く口を閉ざそうと、其処までされては何の意味も無い訳だ。」

 

「はい。無惨は臆病者ですが、手下の鬼達に全部任せて自分は何もしていない怠け者ではありません。

闇夜の中で蠢動しながら、手駒に成り得る人材の発掘と太陽克服の手段を探しています。其処で無惨と遭遇しないと言う保証は、誰にも存在しないのです。」

 

『!!!』

 

珠世の言葉に、炭治郎達は胸が引き締められる思いがした。

 

「分かった。無惨の対策方法に関しては、言わなくて大丈夫だよ……その対策方法は、しのぶと今後練る訳だね?」

 

耀哉の質問に対し、珠世は静かに頷いた。珠世としのぶの二人で練る対策方法など、薬毒による対策方法としか思えなかった。

だが先刻の無惨の能力を聞かされては、その事実すらも直接、口にする事すらしたいとは思えなかった。

 

僅かな間、沈黙が大広間を支配したが再び耀哉の開口で珠世への質問が飛んだ。

 

「珠世さんの一言で、私も聞きたい事がもう一つ出来たよ……教えてくれないだろうか?」

 

『?』

 

「?……私に答えられる事でしたら、何なりと。」

 

耀哉がこれから言う質問の内容が気になるのか、耀哉へ一斉に炭治郎達が注目する。

 

「私は知りたいんだ。無惨は()()()()()、太陽の光を克服しようとしているのかをね。」

 

「っ!……()()()()()……ですか?」

 

「うん。恥ずかしい話だけど、鬼殺隊(私達)は無惨の目的は確かに分かっている。

だが、その講じようとしている手段までは分かっていないんだ。……珠世さん、無惨は如何に、太陽を克服しようとしているんだろうか?」

 

『!』

 

耀哉の質問内容を耳にして、炭治郎達の珠世を注目する視線は益々強くなった。

 

そんな視線を一身に受けつつ、珠世は冷静に返答を始める。

 

「無惨が講じ様としている方法は、二つ程有ります。一つは、『太陽を克服した鬼を創り、これを喰らう』事です。

これが人間(ひと)を鬼に変える主な目的であり、手駒となる上弦級の鬼に成り得る逸材の発掘は二の次になります。」

 

『!』

 

珠世が最初に口にした方法に、炭治郎達からは其処までの驚きは無かった。

推測すること事態、そんなに難しい事では無いからだ。そうでなければ、無惨も鬼を創る必要など無いだろう。

 

しかし、推測と確信では擁する意味に天と地程の差が生じている。千年もの間、曖昧で推測でしかなかった、無惨が人間を鬼に変える理由が明言された瞬間であった。

 

「第二の手段ですが……それは"青い彼岸花"の捜索です。」

 

『!?』

 

初めて耳にする単語を聞いて、炭治郎達は双眸を見開いて反応する。

 

「彼岸花……別名では"曼珠沙華"とも言う赤い花だったね?」

 

「えぇ。ですから、区別を付けるために"青い"彼岸花です。」

 

「……彼岸花は確か基本色が赤色で、他に現存するのは黄色、桃色、紫色、そして白色の五色の筈です。青色の彼岸花なんて、そんな植物が実在するのですか?」

 

耀哉が呟いた彼岸花の豆知識を肯定する珠世に、しのぶが疑問に思って質問した。

 

「私も無惨から捜索を命じられただけで、真偽は不明なのです。因みに、側近級の鬼のみ捜索を命じられていました。現状を推察すると……恐らく、上弦の鬼がこの任務を担っているかと。」

 

「あの……珠世さんは何故、無惨が青い彼岸花なら太陽を克服出来るって根拠を持っているのか、御存知なんですか?」

 

蜜璃が遠慮がちに、珠世に青い彼岸花について質問をする。

 

「えぇ、知っています。その理由を話すとなると、無惨が人間だった頃の昔話までする必要が有りますが、聞きますか?」

 

『!!??』

 

無惨の人間時代の情報と聞いて、大広間に響めきが広がった。無惨の人間時代となると、千年以上前。平安期の時代の話である。聞きたいと思っても聞ける話では無い。

 

珠世の問いに対して拒否する者は一人もおらず、大広間に居る全員が無言で首を縦に振った。それを見て珠世は、無惨の人間時代の話を語り始める。

 

無惨は生まれた時から重度の虚弱体質であった。生まれ落ちた瞬間から死産と勘違いされ、荼毘される寸前で産声を上げて助かった。

それでも一日の大半は薄暗い日陰の有る室内に、敷いてあった布団の上で過ごした。身体に陽光が当たれば、直ぐに肌が焼け爛れた。

 

二十歳までしか生きられないと宣告され、兄弟達が日の当たる庭で楽しく遊んでいるのを眺めながら、嫉妬心を抱え鬱屈とした日々を過ごしていた。

 

其処へ無惨の下へ、一人の医者が現れた。

無惨が少しでも生き長らえられる様にと苦心していたにも拘らず、一向に治療の効果が出ない現状に癇癪を起こした無惨の手によって、背後から鉈で頭部を叩き割られて殺害された。

 

『なっ……っ!?』

 

口を挟まず黙って聞いていた炭治郎達だったが、医者の予想外過ぎる末路に思わず声を上げる程に絶句してしまう。

 

「……ふん。どうやら人間だった頃から、既に無惨の性根は腐り果てていた様だな。」

 

愈史郎は珠世が伝えた内容を聞いて、吐き捨てる様にそう言い放った。

嘗ての自身と同様、虚弱体質だったと言う共通点が有った事実が更なる苛立ちを募らせる原因になっていた。

 

珠世はそんな周囲の反応を他所に、更に無惨について重大な事実を語り始める。

 

無惨が医者を殺害してから間も無く、医者から投与された薬の効能が効き始め虚弱体質だった身体は一転して強靭な肉体に変貌した。

 

しかし、此処で二つの問題が生じた。食人欲求と太陽への恐怖である。前者は人間を喰らえば治まるため、無惨にとって大した問題では無かった。だが、後者が無惨にとって一番の問題であった。

 

無惨は本能的に悟った。太陽の下には出られない。一歩でも出たら死ぬのだと悟り恐怖で震えた。

 

その事実が屈辱的だった無惨は、太陽の下でも死なない身体を得るべく医者の資料を読み漁った。

その結果、無惨に投与された薬は試作段階の物であり、最終的には"青い彼岸花"と言う植物が調合に必要だった事が明記されていた。

 

日誌などを調べた結果、青い彼岸花は実在する植物だと言う事が分かった。しかし、此処で一つ問題が生じた。

その日誌には、青い彼岸花がどの季節に咲くのか、何処に生息しているのか、栽培は可能なのか、その記述が一切残されていなかったのである。

 

無惨は青い彼岸花を得るべく日本中を練り歩いて捜索したが、発見には至らなかった。

そのため無惨は青い彼岸花の捜索と太陽を克服出来る体質の鬼の発見、この二つの目標を大願成就のための最優先事項と定めたのである。

 

「……チィッ! 鬼殺隊(俺達)なんざ、その気になりゃ何時でも潰せる。眼中にねぇって事かよォ。」

 

珠世の話を聞き終えて、実弥が苛立ちを隠す事無くそう言い捨てた。この実弥の発言に、珠世が同意する。

 

「そうですね。私が居た頃も無惨は自分自身を『天災と同等の存在。』と称して、鬼狩りを『時折現れる、目障りな害虫(虫けら)。』としか見ていませんでしたから。」

 

『!』

 

珠世から無惨の鬼殺隊への印象を聞いて、炭治郎達は怒りに震える。しかし、天元だけは額に青筋を浮かべながらも、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「そりゃ派手にありがてぇ話だな。敵に警戒されるより、侮って油断して貰えるに越した事はねぇ。

それから、派手に感謝してるぜ。鬼舞辻無惨(馬鹿)が油断している御蔭で、鬼殺隊(俺達)現在(いま)まで存続出来ているんだからな。」

 

『!』

 

天元の一言で、炭治郎達に募った怒りが消失する。その内の何人かは天元に同意して、不敵な笑みを浮かべた。

 

大広間の雰囲気が落ち着いたのを見て、耀哉が開口する。

 

「天元の言う通りだ。だけど鬼殺隊が今日まで存続出来ている最大の理由は、皆が思う『誰かを、愛する人を傷付け奪う鬼が許さない。』と言う強い想いだ。」

 

「鬼殺隊は真っ当では無い、歪な組織だろう。しかしその歪さが、鬼殺隊が幾度も叩き潰され壊滅されようと不死鳥の如く復活して存続させている。」

 

「鬼殺隊が生きている。これが想いは不滅なのだと、何よりも証明している。」

 

耀哉の言葉に、炭治郎達は静かに頷いた。耀哉は其処まで言うと、珠世に向かって話し掛ける。

 

「珠世さん、ありがとう。御蔭で千年間、確信に至れなかった無惨の目的とその手段を知る事が出来た……となると、鬼殺隊(私達)が先手を打ってその青い彼岸花を手に入れる必要が出て来たね。」

 

耀哉が珠世に感謝の言葉を伝えて、新たに達成しなければならない目的を口にした。すると、伊之助が耀哉に思った事を正直に伝え始める。

 

「探すったってよ、無惨の野郎が探せねぇもんをどうやって探し出すんだよ? 千年も探して見つけられねぇんなら俺達は鬼共だけに集中しといて、青い彼岸花(そっち)は放っといても良いんじゃねぇか?」

 

青い彼岸花への対策に否定的な伊之助は、捜索せず放置して鬼への対策に集中すべきだと伊之助は進言した。

柱を差し置いて恐々する事無く耀哉に意見出来るのは、伊之助が持つ生来の素直さと無遠慮さ故である。

 

そんな伊之助に好感を抱いた耀哉だったが、伊之助の青い彼岸花に対する意見に関しては首を横に振るい却下した。

 

「いいや、そう言う訳には行かなくなった。良いかい、伊之助? 確かに今日まで、無惨は青い彼岸花を見つけられなかったかもしれない。

でも今宵も見つけられないなんて、この世の誰が断言出来る? 神や仏すら、それは出来ないだろう。なら、先手を打って阻止するしか道は無いんだ。」 

 

もし無惨が太陽を克服してしまった場合、鬼殺隊ですら手の付け様が無い無敵の存在になってしまう。この世に夜明けが来ない、永遠の暗黒時代の幕開けとなるだろう。

その様な最悪な事態は、全てを犠牲にしてでも避けなければならなかった。

 

耀哉が言った様に、千年以上掛かっても唯一の弱点を克服出来ないからといって、明日も克服出来ないなどと誰が断言出来ると言うのだ。神仏ですら、その様な事は出来る筈が無かった。

 

炭治郎達は耀哉に諭されて、その危機感を明確に自覚した。

もし先手を打って潰せる手段ならば、絶対にそうしたい。

 

皆がそう思ったが、青い彼岸花について手掛かりが一つも無い状態だ。言う慣れば砂漠の中から、一粒の金剛石(ダイヤモンド)を探すに等しい状況である。

 

「……っ!」

 

すると大広間に居る一人が、ハッとした表情をして両眼を見開かせた。そして身体を少し震わせてから、耀哉に向かって平伏して進言した。

 

「御館様に……私から申し上げたい事が一件有ります!……発言を御許し願えませんでしょうか?!」

 

「カ、カナヲ!?」

 

その様な行動に移った人物とは、カナヲだった。

炭治郎の御蔭で銅貨(コイン)を投げずに物事を判断出来る様になっただけで無く、性格すら明るくなったカナヲだ。

 

まさか炭治郎が関連しない案件で、人前でものを言う事が出来る程の急成長を遂げていたとは思わなかったのか、しのぶが動揺した様子でカナヲの名前を呼んだ。

 

緊張から全身を震わせるカナヲに、耀哉は微笑みながら答えた。

 

「勿論だとも。遠慮なんて無用だよ、カナヲ。思った事を言ってみなさい」

 

「は、はいっ!」

 

耀哉から快く快諾されたのを見て、カナヲは一度深呼吸してから自身の考察を語り始めた。

 

「あの……生前のカナエ姉さんに一度、蝶屋敷の図書室に置いて有った外国の花の図鑑を読んで貰った事があるんです。

それで描かれていた花の中には一年に一度、何十年に一度……中には百年に一度しか咲かないと言う、希少な花の解説も在りました。」

 

『っ!!』

 

カナヲが説明した考察から、炭治郎達はカナヲが言わんとしている事を察した。当然、耀哉も察してそれを口にし始める。

 

余談だが、蝶屋敷は入院している隊士が退屈しない様にと、図書室が屋敷内に設けて在った。

其処には多数の本が陳列されているのだが、利用率ははっきり言って芳しく無かった。

 

「カナヲ、つまり君は青い彼岸花はその決まった周期にしか咲かない……希少な類の花であると、そう言いたい訳だね?」

 

「はいっ! 御館様の仰る通りです!」

 

耀哉が口にした言葉の内容が、自身の結論と同意見な事に歓喜しながら、元気良く肯定した。

 

「御館様。俺からも一つ具申してよろしいでしょうか?」

 

『!』

 

其処へ、耀哉へ新たに進言する者が現れた。天元である。天元はカナヲの意見に対し、こう異論を述べ始めた。

 

「胡蝶の継子が今言った考察は、一考の価値が有ると思います。しかし、例えばの話ですが……もしそうなら五十年に一度なら二十回、百年に一度でも十回、無惨には青い彼岸花を見つける機会があった。

それを『()()()見つけられずに済んだ。』と、単純に片付けて良いものでしょうか?」

 

『!!』

 

天元の異論を耳にして、耀哉は右手を顎に置いて一考を始めた。

 

「……天元。すると君は決まった周期以外にも、無惨が青い彼岸花を見つけられない理由が有ると、そう言いたいんだね?」

 

「御意っ。……まぁ、俺が地味に考え過ぎかもしれませんがね。」

 

『……』

 

炭治郎達は天元の考察を耳にして、頭を悩めた。無惨や鬼に見つけられない理由となると、簡単には思い付かなかった。

 

「っ!……御館様っ! 恐れ多い事ですが、神崎アオイからも具申したい事が御座います……っ!」

 

『っ!』

 

抱き着いていた炭治郎から離れて、一歩前に出て平伏しながらアオイが耀哉へ進言していた。

 

「良いとも、アオイ。何か思い付いたのかな?」

 

「はい。と言っても自分でも荒唐無稽な考えだと思いますが……。」

 

アオイはそう言って僅かに頬を赤く染めて頭を俯かせると、意を決して顔を上げてから具申を始めた。

 

「無惨が、元い鬼が青い彼岸花を絶対に見つけられない理由ですが……決まった周期で咲くだけで無く、日中にしか咲かないのでは無いでしょうか?」

 

『!!!!!』

 

アオイが具申した内容に、炭治郎達は双眸を見開いて驚愕した。

確かにそれが理由ならば太陽が天敵の鬼では、絶対に青い彼岸花を発見出来ない。しかし、炭治郎達は同時にこう考えた。『その様な特殊条件を持つ花が、この世に実在するのだろうか?』と。

 

「……それだっ。」

 

『!!』

 

耀哉がボソッと小声で、身体を震わせながら呟いた。小声ではあったが、一滴の水が水面に落ちて波紋を広げるが如く、大広間に広がった。

 

「あっははははは! あっははははははははっ!! それだよ、アオイ! そうだっ! きっとそうだっ! そうでなければ、無惨が千年もの長い年月を使って探し出せない筈が無い!!」

 

『!?』

 

昂揚した様子で、興奮気味に耀哉が叫ぶ様にアオイの考察を肯定した。炭治郎達、特に柱の行冥達は初めて見る興奮気味の耀哉を目撃して、驚愕から固まっていた。

 

少し時間が経ってから我に返った耀哉だが、少しばかり深呼吸を繰り返してから、普段通りの落ち着きを取り戻した。

 

「ふぅ……柄にも無く興奮してしまった様だ。珠世さん。アオイの考察だけれど、私は正しいと思っている。珠世さんは、どう思うか教えて欲しい。」

 

「っ! そう、ですね。私も彼岸花が咲き誇る残暑から秋の夜にしか捜索しませんでしたから……もし日中の間にしか咲かないとなれば、鬼には未来永劫、青い彼岸花を発見する事は出来ません。アオイさんのその考察を、荒唐無稽と斬り捨てるのは乱暴だと思います。」

 

珠世の一言が、決定的なものとなった。これを受けて耀哉が青い彼岸花に対する対応策を発表した。

 

「では、飽くまでも仮定の話である事を承知で推し進めるけれど……全国で彼岸花が咲いている場所を調査し尽くしてから、青い彼岸花の回収を行う事にする。」

 

『!』

 

耀哉の発表に反応した炭治郎達だったが、その発表に疑問を抱いて質問する者が現れた。それは珠世であった。

 

「それは、大いに構いませんが……まさか、鬼殺隊の皆さんだけでその計画を実行する御心算ですか?」

 

珠世は怪訝な表情を隠そうともせずに、耀哉に向かって質問した。その数百人だけで行おうものならば、一体どれ程の歳月が掛かるのか、はっきり言って計算したくも無かった。

 

「いいや、違う……産屋敷家の人脈と財力を活かして、人海戦術を行使する予定だよ。鬼殺隊の剣士(子供)達には、鬼との戦いに集中して貰わなくてはならないからね。」

 

「それを聞いて、安心しました。」

 

珠世は耀哉の選んだ手段の内容を知って、ホッと安堵して一息ついた。

 

「耀哉、仮にだぞ? もしもお前が青い彼岸花を発見と回収が出来たとして、その後はどうする予定なんだ?」

 

愈史郎は青い彼岸花の行方が気になって、耀哉に質問をした。その質問を受けて、耀哉は笑みを零した。

 

「愈史郎さん。それはまだ、秘密だよ。」

 

「はぁ?」

 

思わぬ回答に愈史郎は動揺したが、耀哉に限って悪用するとは思えなかったのか、これ以上聞くのは止める事にした。

 

「まぁ、青い彼岸花についてはお前に任せてやる。悪用したりはせんだろう……話が変わるんだが、俺達の今後の処遇はどうなるんだ?」

 

『!』

 

愈史郎が口にした疑問を切っ掛けに、議題は青い彼岸花から珠世と愈史郎の鬼殺隊における待遇へと議題が変更された。

 

「それは有耶無耶になりそうだったけど、私は二人を賓客として……。」

 

「その件なんだがな、耀哉。」

 

「耀哉さん。私達を慮って下さるのは嬉しいですが、それは拙い対応だと思うのです。」

 

『!』

 

耀哉が最初に決定した処遇に関して、珠世が申し訳無さそうに異議を唱えた。愈史郎を頭を抱える様に、悩んでいる様子だった。

 

「拙い対応、とは?」

 

「はい。鬼への復讐心や罪無き無辜の人々を守りたいと言う、義憤や憎悪などの感情面を全面的に押し出している組織としては歪な鬼殺隊を鑑みれば……只でさえ鬼を迎え入れると言うだけでも、予想される反発は大きい筈です。」

 

「っ!……確かに実弥みたいに暴走する子が、出るとも限らないけれど……其処は産屋敷家当主として、絶対に珠世さんと愈史郎さんには危害は加えさせないよ。」

 

耀哉は断言する様に、珠世に誓ってそう言った。しかし愈史郎は耀哉の誓約を鼻で嗤って、ある宣言をした。

 

「お前が動く頃には、そいつらは俺達に危害を加えようとした後だろうがな。その時はそいつらを半殺しにさせて貰う。馬鹿共を殺さないだけ、ありがたいと思え。」

 

「……っ。」

 

耀哉は愈史郎の宣言が正しいと思っているからか、その事について何も言えなかった。

 

「……そうだね。正当防衛は勿論、認めるよ。だけど、せめて五体満足にして貰えるかな?」

 

「その点は問題無いぞ。再起不能なんて、そんな勿体無い事はしない。そんな馬鹿な奴らでも、死ぬまで使い潰した方が効率的だからな。」

 

万が一、暴走した隊士に襲われた際の事を話し合った結果、愈史郎は自身が満足する結果で終わった。すると愈史郎は、何かを思い出した様に開口する。

 

「話が逸れた。耀哉、俺にとって非常に癪な話なんだが……熟考の結果、鬼殺隊に生じる混乱や動揺を少しでも抑えるために、俺達は正式に鬼殺隊へ入隊するべきだと珠世様は御判断された。」

 

『!!』

 

愈史郎が言い放った内容に、炭治郎達は驚愕した。耀哉もまた、驚きを隠せない。

 

「……良いのかい? 正直に言うと、私としては願っても無い話だけれど……。」

 

「構いません。耀哉さんの体面も考えれば……やはり私と愈史郎は正式に耀哉さんの、産屋敷家の傘下に有るのだと、はっきりと内外に示すべきです。」

 

「まぁ私情を捨てて大局を見ろなんて言った俺が、私情を全面に出して文句を言う訳にはいかんだろう? 大いに癪だが、俺もお前の下に着く決心が出来たからな。」

 

珠世にそう強く進言され、愈史郎の後押しも有って耀哉は思考するために一瞬の間だけ沈黙する。そして耀哉は決断を下した。

 

「分かった。では、今この瞬間から二人は鬼殺隊の一員であり、私の隊士(子供)達だ。君達を侮辱し傷付ける者が居るなら、私が必ず報いを受けさせる。

先刻(さっき)も言ったけど……鬼と人の違いは有れど、無惨を倒したいと思い願う気持ちは同じだ。皆で力を合わせて、結束して事に当たろう。皆も、良いね?」

 

『っ!……御意っ。』

 

威圧感すら含んだ耀哉の宣言に、行冥達は一瞬慄いてから平伏した。炭治郎はとても喜んでいたが。

 

「御館様。恐れ入りますが、鬼殺隊での珠世さん達の階級はどうなるのでしょうか?」

 

『!』

 

しのぶの何気無い質問に、炭治郎達の興味は集中した。何より、耀哉の判断が気になった。

 

「良い質問だね、しのぶ。珠世と愈史郎に関してだけど……新たな部署を、『隠』に次ぐ第二の部署を設立する事にする。」

 

『っ!?』

 

耀哉の決定に、炭治郎達は驚愕した。たった二人のために、部署の新設まで行うとは考えられなかったからだ。耀哉は更に続けた。

 

「部署の名前は『反鬼衆』。名前の由来は『鬼舞辻無惨に反する鬼』もしくは『反旗を翻す』を捩っている。私の直轄の部署にして、権限は柱と同等のものにさせて貰うよ。」

 

『!?!?』

 

炭治郎達の間に激震が走った。厚遇されるものだとは予想していたが、やはりいざ言葉に直接されるのとでは、その衝撃の度合いが違ったからだ。

 

耀哉はそんな炭治郎達に眼中に無い様子で、炭治郎達を余所に当惑している珠世と満足げな愈史郎に話し掛けた。

 

「耀哉、本当に良いのか? 俺としては願ったり叶ったりだが……?」

 

「勿論だとも、遠慮する必要なんて無いよ。それから皆に合わせる必要も無い。君達の好きな様に、自由に振舞ってくれて構わない。君達の功績を考えれば、これだけも足りないくらいだ。」

 

「しかし……本当に良いのですか?」

 

「珠世様。耀哉がこう言っているのですから、俺達の方から遠慮する必要は無いでしょう?

それに俺達は鬼殺隊(此処)に来て一日しか経っていませんが……少なくとも何年も鬼殺隊に在籍している癖に、禄な戦果も挙げられず無駄な歳月ばかり過ごしている何処ぞの柱共よりも、俺達の方がずっと貢献しているではありませんか。」

 

『っっ!!!』

 

愈史郎の露骨過ぎる程にあからさま過ぎる挑発的な言動に、流石の行冥達も青筋を浮かべて苛立った。しかし全てが事実であるため、言い返す事が出来なかった。

 

そんな行冥達など歯牙にも掛けず、愈史郎は耀哉に礼を述べた。

 

「耀哉。礼を言うぞ。俺個人で言えば、後にも先にも様付けするのは珠世様だけだ。

お前の下でも就くだけでも嫌だと言うのに、柱共(こいつら)の下など腸が煮えくり返るぐらい業腹な話だったからな。」

 

行冥達の下に就くなど想像するだけでも腹立だしいのか、愈史郎は鼻で嗤って行冥達に更に挑発的な言動を続ける。

 

「何だ、どうした? 俺はこれ以上無い事実しか口にしていないが、何か文句でも有るのか? 俺達を上回る功績の一つでも、お前らは何か残せたか? 何も成し遂げられてやしないだろう?」

 

『……』

 

「少しでも悔しいと思うなら、さっさと鍛錬に励んで少しでも力を付けろ。その力で上弦の鬼共の頸を、一つか二つでも獲って来い。青臭い理想論はそれからだ。」

 

「珠世様の御薬が、鬼狩り共の傷を癒す。そして俺の『紙眼()』が、鈍重な鬼狩り共に代わって無惨も上弦の鬼も雑魚鬼共も一匹残らず炙り出してやる。」

 

「更には小道具支給のオマケ付きと、至れり尽くせりの大判振る舞いと来た。

自分の腕しか頼れず負けに負け続けて負け犬根性が染み付いた、負けっぱなしの鬼殺隊(お前ら)に、俺達が此処まで御膳立てはしてやったんだ。

分かったらさっさと柱の責務とやらを果たし来い。無惨一党(向こう側)に傾き続けている天秤を、少しでも鬼殺隊(こっち)に引き寄せてみろ。」

 

「此処までして何も成し遂げられずに『鬼に挑んだけど勝てずに返り討ちに遭って、喰い殺されてしまいました。ごめんなさい。』なんて間抜け極まり無い無様で巫山戯た報告でもしてみろ。その時は、俺がお前らを殺してやるからなっ。」

 

『っ!』

 

行冥達はこの言動の数々の中には、自分達への配慮や激励が含まれている事を理解していた。

しかし、あまりに情け容赦の無い愈史郎の言い分に、更に青筋を濃くして苛立ちを覚えざるを得なかったが。

 

「……チィッ!」

 

「ふんっ……。」

 

「……御二人の御尽力、無駄にはしないと御約束しよう。」

 

「感謝する。」

 

「今に見とけよ。上弦の頸を獲って、派手に吠え面掻かせてやるからな。」

 

「言われっ放しは、僕の趣味じゃない。」

 

「え、えーと……ありがとうございますっ! 珠世さんっ! 愈史郎君っ! 私達、頑張ります!」

 

愈史郎の挑発的な激励に行冥達、鬼殺隊の柱が七人七色の反応を見せる中、珠世は罪悪感から静かに行冥達に頭を下げて謝罪した。

 

耀哉は珠世に頭を上げる様に言ってから、あまねに視線を向ける。それだけで耀哉の意図を察して、あまねは一本の日輪刀を持って来た。

 

「愈史郎。君には、この日輪刀(かたな)を貰って欲しいんだ。これは私が幼少期に無理を言って、刀鍛冶の里から一本取り寄せた物だ。

尤も、適正が無かったのか私は日輪刀(かたな)の色が変わる事は無かった。病弱な私は十回素振りをしただけで、体調を崩してしまったけれどね。」

 

「っ!……それで? 何故、俺に日輪刀(かたな)を譲渡する話になる? 俺も剣術は扱えないぞ?」

 

愈史郎は戸惑いながらも、耀哉にそう言って日輪刀の受取りを拒否しようとした。拒否された耀哉は、優しく愈史郎を宥めて日輪刀を手渡した。

 

「まぁ良いから、日輪刀(かたな)を持って抜いて見て欲しい。」

 

「……」

 

愈史郎は仕方無く、日輪刀を耀哉から受け取って抜刀する。すると日輪刀の刀身は、根本から鮮やかな緑色へと変化して行った。

 

『!』

 

「色が変わったっ?! それにその色は……。」

 

「ある程度の鍛錬を受けないと通常は色は変わらないものだけれど、鬼だからかな? 直ぐに色が付くとはね……それから愈史郎の適正は、"風の呼吸"なんだね。」

 

耀哉は愈史郎をそう評価した後、日輪刀を持たせた理由を話し始めた。

 

「私はね。君と珠世に他の剣士(子供)達と同様、"全集中の呼吸"を初めとした呼吸術を覚えて欲しいと思っているんだ。」

 

『っ!!』

 

「……私達がですか?」

 

珠世は耀哉の言葉に少し面食らった様子で、そう質問をした。耀哉は微笑みながら、珠世の質問に肯定する。

 

「そうだよ。鬼の身体能力なら、造作も無い事だろう? 人間に出来て、鬼に出来ない筈が無いからね。」

 

「……まぁそうだな。」

 

耀哉にそう言われて、愈史郎は静かに肯定した。

愈史郎の返答を聞いて、耀哉は更に話を続ける。

 

「珠世には研究が有るから、鬼狩りに出て貰う心算は無い。それでも、呼吸術が使えればそれだけ有利だろう?

でも愈史郎には、他の剣士(子供)達と同様に最前線で鬼と戦って貰いたい。」

 

『っ!』

 

「っ!?」

 

耀哉の提案に、行冥達は驚いたが納得もした。愈史郎の身体能力は一般隊士の基準を大きく凌駕している。もし呼吸術を使い熟せる様になれば、相応の戦力になるに違いなかった。

 

一方で、炭治郎を筆頭に愈史郎の性格を熟知している者達は嫌な予感を覚えて冷や汗を一筋流した。その予感は、間を置く事無く的中した。

 

「絶対に断るっ!!」

 

『!」

 

愈史郎はそう言って、抜刀していた日輪刀を鞘に納め耀哉に日輪刀を突き出した。

 

「俺は珠世様の御傍を、少しの間でも離れたくないんだっ! 誰が鬼狩りなぞするかっ!?」

 

「っ! おい、テメェ!!」

 

愈史郎の拒絶っぷりに、実弥が青筋を浮かべながら激昂して睨み付ける。

 

「耀哉さんに……御館様に従いなさい、愈史郎。」

 

「珠世様っ!?」

 

背後から撃たれたとばかりに、困惑しながら愈史郎は狼狽した。それから珠世は鬼殺隊所属になったという自覚からか、耀哉への呼称も変えていた。

 

「俺は珠世様から離れたくは……それに俺が居なかったら、助手はどうするんです!?」

 

愈史郎は動揺を隠せないまま、珠世に抗議する。しかし、珠世は冷静に愈史郎の懸念を打ち消す理由を話し始める。

 

「今後の研究に関しては、しのぶさんとの共同研究になります。それに蝶屋敷なら保護した綾さんもいますし、アオイさんにも手伝いを頼めるわ。だから、別に愈史郎が無理に必要って訳では無いのよ。」

 

「!?」

 

暗に自身の存在は不要と、そう解釈出来る珠世の言葉に対して、愈史郎はまるで飼い主に捨てられた子犬の如き表情を浮かべる。

 

――うわぁ……愈史郎さん、可哀想……。

 

炭治郎は愈史郎から漂う悲しい匂いを感じ取って、思わず愈史郎に強く同情した。そんな愈史郎に、珠世は微笑みながら優しく諭し始めた。

 

「愈史郎。私はもう、一人でも多くの罪無き人々が無惨の餌食にならないで欲しいと、切に願っているわ。貴方が鬼を一体斬ればそれだけで百人もの命が、上弦の鬼を狩れたなら千人……いいえ、万人の命と未来が救われるの。だから、どうか分かって頂戴。」

 

「っ!……しかしっ……。」

 

珠世の説得に対して尚も食い下がろうとした愈史郎だったが、珠世が更に言葉を重ねた。

 

「愈史郎の存在が必要になった時、私は必ず貴方を呼びます。だから今は、御館様の力になってあげて。」

 

「……分かりました。」

 

珠世に其処まで懇願されては、愈史郎も折れる他に無かった。愈史郎は渋々ながら了承して、珠世に頭を下げる。

其処から愈史郎は、苛立ちを隠さないまま耀哉の方へと顔を向けて話し掛ける。

 

「おい、耀哉。珠世様たっての願いだ。頼みは引き受けてやるから精々、珠世様と俺に深く感謝をするが良い。分かったらさっさとお前が用意出来る、最高の師を連れて来い。」

 

「愈史郎。良い加減、少しは己の言動を慎んだらどうだ?……身の程を弁えろ。御館様に向かって無礼だぞっ。」

 

行冥が流石に愈史郎の言動に看過出来ず、数珠をピシッと音を立てて罅を入れながら注意した。そんな行冥に対して、耀哉は優しく宥める。

 

「良いんだよ、行冥。気にしないでおくれ……愈史郎、それなら大丈夫だ。もう用意が出来ているからね。」

 

「用意が出来ている?」

 

愈史郎は耀哉の言っている内容が一瞬、理解出来ていなかった。"風の呼吸"の適正が有る事が判明したのは、つい先刻の事だからだ。

 

――この展開も予知で知っていて?……いや、そんな素振りなど耀哉は見せていない……そうなると、どの適正になっても良い様に予め全ての流派の育手と、事前に連絡でも取っていたのか?

 

愈史郎が疑問に思っていると、直ぐにその答えが分かった。

 

「実弥。愈史郎の指導は任せたよ。」

 

「……は?」

 

「えっ?」

 

『!?』

 

耀哉からの言葉に、誰もが一瞬理解出来なかった。間を置くと、言葉の意味を理解して大広間に居る全員が狼狽した。

特に激しく困惑を隠せなかったのは、耀哉に指名された実弥だった。

 

「な、何故っ!?……俺なのですかっ?! 御館様っ!!」

 

実弥は困惑しながらも、耀哉に尋ねた。

 

「決まっているだろう? 君が鬼殺隊において、"風の呼吸"の中では最高の使い手だからだよ。だから愈史郎への教育は任せたよ、実弥。」

 

「……御言葉ですが、御館様。不死川が"風の呼吸"の中で最高の使い手なのは事実ですが、最高の使い手である事と最高の師が直結するとは思えません。」

 

耀哉の決定に対して、小芭内が恐る恐る異議を唱えた。そんな小芭内に、実弥も愈史郎も期待から、双眸を輝かせて小芭内を見詰めていた。

 

「確かに、小芭内の言っている事もまた正しい。しかし、愈史郎を育手に預けて悠長に修行を付ける時間の余裕など、何処にも存在しない事もまた事実だ。」

 

「……っ。」

 

耀哉の言葉に、小芭内は反論の糸口を見つけられず沈黙した。耀哉は更に自身の意見を認めさせるために、語り続ける。

 

「其処で、愈史郎に実弥を付けるんだ。実戦で手っ取り早く呼吸術を身に着けて貰うのが、現状では一番の近道だと思う。幸い、愈史郎は丈夫な身体の持ち主だ。無惨でも出てこない限り、最悪の事態が起こるとは考え難いからね。」

 

『っ!』

 

耀哉が暗に『鬼なんだから、少しばかり手酷くやっても大丈夫だろう。』とも解釈出来る発言に、炭治郎達の顔は若干引き吊った。

一方の実弥は、打って変わって獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「御館様……確認致しますが、多少手酷くやってもよろしいので?」

 

「其処は実弥に任せる。ただし、つまらない八つ当たりでしか無く何の身にも付かない指導だったり、万が一愈史郎を死なせる様な真似をしたら……その時は君の命で償って貰うよ、実弥。」

 

「っ!!……御意。」

 

耀哉に警告された実弥は、一瞬動揺しながらも直ぐに合意して承諾した。一方の愈史郎は、我を取り戻して耀哉に抗議しようとしていた。

 

「おいっ!? 俺が何時、不死川の指導を受ける事を「愈史郎っ。」……珠世様っ。」

 

抗議しようとしていた矢先に、珠世に呼び止められた愈史郎は沈黙した。

 

「愈史郎。貴方は『鬼殺隊に尽力する。』と宣言したわよね?……貴方は自分自身の口から吐いた言葉を、無かった事にする様な真似はしないと私は信じています。……頑張って来れるわね?」

 

「っ!!……はい。」

 

珠世にそう言われては、愈史郎も頷く他に無かった。俯く愈史郎に対して、珠世は間髪入れずに激励の言葉を送る。

 

「愈史郎が一人でも多くの罪無き人々の命が救える、立派な鬼狩りの剣士に成れる事を私は心から祈っているわ。頑張って来てね、愈史郎。」

 

「っ!!!……は、はいっ! 珠世様っ!!」

――くそ。珠世様にこうまで言われては、受けるしかない……。

 

珠世の激励を受けて、愈史郎は内心では悪態を吐きながらも元気良く返答した。これにより愈史郎は風柱・不死川実弥の継子として、鬼狩りの剣士の道を進む事が決定した。

 

愈史郎の思わぬ決定が終わってから珠世は、耀哉に話し掛ける。

 

「御館様。私達を信頼してのこの厚遇、大変嬉しく思います。ですがこの会議を設け、誰よりも尽力したのは間違い無く炭治郎さんです。どうか、彼にもこの働きに見合った褒賞を与えて欲しいのですが……。」

 

「っ!……そんな、珠世さん。俺は何もしていませんよ?」

 

珠世からの嘆願の内容が自身の事であると理解して、炭治郎は遠慮しがちにそれを否定した。

しかし、炭治郎の言葉を否定したのは珠世からの嘆願を聞いた耀哉だった。

 

「炭治郎、そんな事は決して無いよ。君からの鬼殺隊(私達)への貢献は、過去を遡っても類を見ない程のものだ。」

 

「っ!……っ?」

 

耀哉はそう炭治郎を称賛した後、炭治郎はある事に気付いた。耀哉から罪悪感の匂いを感じ取ったからだ。

事実、耀哉は申し訳無さそうに炭治郎に開口する。

 

「しかし、そんな大功労者である君に私は、()()頼み事をしなければならない。聞いて貰えるかな、炭治郎?」

 

『???』

 

――()()頼み事?

 

柱を差し置いて一般隊士の炭治郎に()()とまで言わせる程の重要な指令とは、一体何なのだろうか?

そうしのぶ達、炭治郎を愛する女性陣を筆頭に大広間に居る全員が耀哉がこれから口にする内容が気になった。

 

「は、はいっ、御館様っ! 俺に出来る事でしたら喜んでっ!!」

 

炭治郎はどんな指令が来るか気にしながらも、自身で耀哉の力になれるならと快く快諾した。

 

「……そうか。では、心して聞いて欲しい。」

 

耀哉は炭治郎の快諾を得ると、内心で罪悪感を抱きながらこの緊急柱合会議で有る意味、一番の爆弾発言を耀哉は口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「炭治郎。君にはね、今日付けで鬼殺隊を辞めて貰いたいんだよ。」




お待たせしました。

甘々と真面目を混ぜられると思いましたが、今回は真面目成分が多めの回でしたね。爆血刀(拙作では爆血赫刀)と透き通る世界、青い彼岸花、そして珠世陣営の最終的な厚遇の話でした。

愈史郎に関しては完全に因果応報。今まで言いたい放題言って来たツケを支払う時が来ました。
それは何と実弥の継子として、正式に鬼殺隊の剣士になりました。こんな奇想天外な展開、数ある原作改変ssでも拙作だけではないでしょうか?

"風の呼吸"の適合者なのは、愈史郎の性格とか諸々私の自己判断から来るものです。珠世さんは日輪刀を振り回すイメージが湧かないので、常中だけの習得予定です。研究を最優先で進めないといけませんから。

最後に出ました、耀哉の発言のその意図とは一体何なのか……。

次回の更新は11月20日(金)を予定しております。暫くの間、お待ち下さい。

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
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