※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

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※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第参拾玖話 日輪は本祭を成し遂げる

「えっ?」

 

炭治郎は耀哉が自身に言い放った言葉の内容が理解出来なかった。何より信じられなかった。

 

それは炭治郎だけではない。

その場に居る全員が炭治郎と同様に、耀哉の言葉に自身の耳を疑った。そして炭治郎達よりも先に我に返った。その反応は二種類に分かれた。

 

 

『はあぁぁっ!?』

 

 

しのぶを筆頭に、何人かが立ち上がって耀哉の言葉に驚愕し反発した。

 

 

 

――何で?

 

 

 

一方で義勇を筆頭に、当惑しながら何人かが茫然自失としていた。しかし、最も当惑していたのは他ならぬ炭治郎だ。

 

「えっ?……どうして……御館様……何で俺が……。」

 

鬼殺隊と珠世。関係性だけを考えれば鬼狩りと鬼の相容れない反目し合う両者が、鬼舞辻無惨と言う共通の宿敵を倒すために大同団結し結束したばかりだ。

 

この目出度い門出の日にも言えるその日に、何故自身は用済みと言わんばかりに追い出されるのか、炭治郎は理解出来無かった。

 

「フッ――、フッ――……あの、御館様……俺が何か、してしまったのでしょうか……。」

 

炭治郎は必死で取り繕っているが、内心では何時恐慌状態(パニック)に陥ってもおかしくない状況であった。

また顔中から脂汗が噴き出ており、涙腺は涙が溜まって崩壊寸前だった。

 

「た、炭治郎君っ! 大丈夫よっ! きっと大丈夫だからっ!!」

 

そんな焦燥しきっている炭治郎を見兼ねて、蜜璃が慰める様に炭治郎を優しく抱き締めた。

 

「炭治郎君っ……くっ!……御館様っ!! それはどう言う意味なのですか!?」

 

しのぶは炭治郎の悲しむ様子を見て、初めて殺意を込めて耀哉を睨み付けながら強く問い詰めた。

普段は尊崇している主君であるが、最愛の恋人を悲しませるなら誰であろうと許せなかった。

アオイとカナヲも、事と次第では許さないとばかりに、耀哉を睨み付けていた。

 

「皆、落ち着きなさい。」

 

『!』

 

耀哉の言葉で、一先ず大広間の騒然とした空気は霧散した。しかし青筋を浮かべた愈史郎が、耀哉を睨み付けながら悪態を吐く。

 

「誰の妄言の所為で、こんな事態になっていると思っている? 御託は良いから、さっさと説明しろこの間抜け。」

 

愈史郎は苛立ちを隠す事無く、耀哉に回答を急かした。

耀哉は愈史郎の様子に苦笑しながら、炭治郎に話し掛ける。

 

「確かに結論を急ぎ過ぎるあまり、言葉足らずだった事は認めるよ。先ずは謝らせて欲しい。炭治郎、ごめんね?」

 

「っ!……い、いえっ!……でもどうして、俺にそう言ったんですか?」

 

耀哉に謝罪された炭治郎は、最初より幾分か冷静さを取り戻す事が出来たため、耀哉が口にした言葉を意図を知るべく尋ねた。それから炭治郎は蜜璃に一言礼を述べると、蜜璃は笑顔で返答して元の席へ戻った。

 

「その質問に答える前に……私から炭治郎に一つだけ、君に聞きたい事が有るんだ。」

 

「何でしょうか?」

 

質問を質問で返された炭治郎は、先刻の事も有って身構えた。

 

「炭治郎、仮定の話だけれど……鬼殺隊(私達)が無惨との戦いに勝利した際に、最高の結果で終わったとしよう。この"最高の結果"とはどの様なものかな?」

 

「"最高の結果"……ですか?」

 

耀哉の質問を受けて、炭治郎は一考する。それから間も無く答えた。

 

「"最高の結果"とは……『無惨を倒して、一人でも多く生き残っている。』事です。」

 

「その通りだ。そうで終わって欲しい。一人でも多くの剣士(子供)達が死なずに済んで欲しいと、私は心から願っている。」

 

炭治郎の回答を聞いて、耀哉は満足する。しかし、顔色を少し沈めてゆっくりと語り始めた。

 

「だが、私は鬼殺隊の頭領として常に"最悪の結果"も考え、それらに備えなければならない……その一つが『無惨を倒す前に、炭治郎を失う事。』だ。」

 

「っ!」

 

炭治郎は耀哉から其処まで思われているとは思わなかったのか、大いに驚愕していた。耀哉は語り続ける。

 

「鬼殺隊の歴史を鑑みても、黒刀持ちの剣士(子供)達は少ない。"日の呼吸"の適合者なら、当然の結果だ。

だから四百年以上に渡って"日の呼吸"を受け継ぎ使い熟して来た君の血筋は、君が思う以上に尊い存在なんだよ。」

 

『!』

 

耀哉が竈門一族に対して非常に高い評価を下した事に、炭治郎達は驚きを隠せない。

 

「御言葉の意味が、愚鈍な私にも漸く理解出来ました。御館様は炭治郎を前線から遠避けて、保護する御心算ですかな?」

 

「えっ……?」

 

『なっ!』

 

行冥が耀哉にある程度確信をもって指摘すると、一斉に耀哉に視線を向けて注目する。耀哉は、ゆっくりと頷いて見せた。

 

「その通りだよ、行冥。私はね、炭治郎。君には鬼狩りを引退して貰って、妻を設けて子供を作り"育手"になって貰いたいと思っている。」

 

『っ!?』

 

耀哉の思惑を聞いて、大広間は騒然とした空気が流れる。しかし、そんな澱み始めた空気など気にする事無く耀哉は珠世にある質問をした。

 

「珠世、しのぶの容態はどうだろう? 身体を毒に蝕まれているしのぶは、子を産めるかな?」

 

『!!!』

 

耀哉の質問に対し、何名かが息を呑んだ。それは知りたいと同時に、知りたくない情報だったからだ。

藤の花の毒を呷り続けたしのぶの身体は、素人から見てもとても正常では無い。それを考えると、自分から知りたいとはとても言い出せるものではなかったのだ。

 

しのぶは耀哉の質問を受けて、無意識に身体を震わせて自身を抱き締めた。珠世から一度診察は受けているが、その場では答えて貰えなかった。

 

確かに炭治郎から、妊娠出来ない身体でも構わないとは言われた。だが結ばれてからしのぶは内心では炭治郎の子の妊娠への渇望と、嘗ての自身の愚行への後悔が膨らんでいた。

 

自身の診断なら、まだ耐えられる。覚悟の上だから、諦めが付く。だが第三者からの診断結果を聞かされるのは、はっきり言って怖かったのだ。

 

何よりも人間の身体とは存外、頑丈だが繊細な一面も在る。そして一度壊れたものを治すのは、壊す時よりも何倍もの力が必要だという事もしのぶは知っているのだから、心中に抱いている恐怖心は計り知れないものだった。

 

「しのぶさん……」

 

立ったまま震えるしのぶを見て、堪らず炭治郎はしのぶに声を掛けた。しのぶの身体からは、不安と罪悪感の匂いがした。

 

「しのぶさんの容態ですが……。」

 

しのぶの容態、その診断結果について珠世が口にしようとした。炭治郎達は息を呑むだけで無く、生唾も呑み込んで結果を待った。珠世は一瞬沈黙したが、直ぐに微笑を口に浮かべた。

 

「安心して下さい。しのぶさんの解毒薬と私の解毒薬、そして呼吸術を併せれば蓄積された毒は無くなるでしょう。

それから内臓機能を回復させれば、そうね……大目に見越しても一年間、治療を続けて行けば健康な身体を取り戻せます。元気な稚児を産む事だって、決して夢では有りませんよ。」

 

『っ!!!』

 

炭治郎達は驚愕から一瞬、脳内が真っ白になる。珠世から齎された診断結果を反芻して、信じられない様子で隣に居る者と顔を見合わせた。

 

 

 

ストン

 

 

 

『!』

 

立ち上がっていたしのぶは腰が砕けた様に、畳の上に座り込んだ。珠世は心配して、しのぶの正面に移動する。陽光に当たらない様に気を付けながら。

 

「たまよさん……ほんとう……ですか……。」

 

弱弱しい声で、しのぶは見上げる様に珠世に真偽を確認した。しのぶは解毒を続けていたが、それでも内臓、子宮は毒に一度犯されている。

 

そのため妊娠は不可能、手遅れだと諦念を抱いていたのだ。そんなしのぶに一筋の光明が舞い降りたのだから、縋ろうとするのも無理は無かった。

 

そんなしのぶの様子を見た珠世は優しくしのぶの頭を撫でてから、そっと左頬に右手を添えて微笑んで見せた。

 

「嘘じゃないわ、本当よ。諦めなくても大丈夫。だから頑張って、一緒に治療を続けていきましょうね。」

 

「っ!!……――っっ。」

 

 

 

バッ!

 

 

 

「っ!……しのぶさんっ。」

 

「~~~~っ!!!~~~~~~っ!!!!」

 

しのぶにとって、珠世が下したこの診断結果は感謝の言葉も出ないぐらい歓喜に満ちたものだった。

珠世に抱き着いたしのぶは、声を押し殺す様に珠世の胸元に顔を押し当てて泣き崩れた。

しのぶの唐突な行動に驚いたが、珠世は女神の如き優しい表情を浮かべてしのぶの頭を優しく撫でた。

 

「しのぶ姉さん……良かったぁ……よかったよぉ……っっ。」

 

「珠世さん……ありがとうございます!……ありがとうございます!!」

 

しのぶが泣き崩れる様子を見て、カナヲとアオイが貰い泣きしながら珠世に深い感謝の意を伝えた。

 

「しのぶぢゃん……よがっだねぇっ!!……っ。」

 

「南無……実に喜ばしい事だ。」

 

蜜璃が鼻水を垂らすぐらい号泣しながら、しのぶを祝福していた。小芭内が隣で必死に手巾(ハンカチ)で蜜璃の涙と鼻水を拭き取っていた。

行冥も何時もの倍に当たる量の、滂沱の涙を流していた。

 

「……」

 

炭治郎は双眸を潤ませながら、珠世に頭を下げた。感動屋な炭治郎ならアオイ達の様に号泣してもおかしく無いが、それには理由が有る。

 

炭治郎は緊急柱合会議の前に、珠世からこの診断結果を聞かされているのだ。その際に既に号泣している。それも声を上げる程の、凄まじい泣きっぷりだったのだ。

 

愈史郎が予め炭治郎には伝えた方が良いと、その進言有っての報告であった。炭治郎が愈史郎に深く感謝の意を伝えたのは、言うまでも無い。

 

「おめでとう、しのぶ……珠世も、素晴らしい情報をありがとう。」

 

耀哉はしのぶに祝福を送ってから、珠世に感謝の意を伝えた。耀哉の祝福と感謝の言葉を聞いて、しのぶは珠世から離れた。その双眸は赤く腫れていた。

 

「だが……贅沢な話だとは思うけれど、()()()妊娠出来ないのは実に残念な話だね。」

 

『!!』

 

耀哉が呟いた言葉に、炭治郎達はその意図を理解した。しのぶに炭治郎の子供を妊娠して欲しいと、暗に言っているのだと。

 

「無いもの強請りなどしても仕方無い、か……アオイ、カナヲ。君達は炭治郎の子供を妊娠して欲しいと私が言ったら、頼まれてくれるかな?」

 

「「!!」」

 

耀哉に名指しで指名されたアオイとカナヲは、双眸を見開いて耀哉を見詰めた。しかし、それも直ぐに収まる。

 

炭治郎の正室と言えるしのぶが現状、妊娠出来ないとなれば側室である二人に声が掛かるのは当然の流れだ。

動揺を収めたアオイとカナヲは互いに見合わせた後、小さく頷いて耀哉に平伏した。

 

「御館様。御身から直々に御頼みされる事、大変光栄に思います。」

 

「ですが、謹んで御断りさせて頂きます。御無礼の段、どうか御許し下さい。」

 

『!!!』

 

一般隊士でしかないアオイとカナヲの二人は、鬼殺隊の頭領である耀哉の頼みを正面から拒絶した。

その事実だけでも驚きだが、驚愕した理由はもう一つある。最愛の男性の子供を妊娠する事を拒絶した。この事に純粋に驚愕したのだ。

 

「ふむ……二つ返事で受けて貰えると思ったけれど、理由を聞いても良いかな? しのぶに気を使っていると思うが。」

 

耀哉から質問されたのを受けて、平伏していたアオイとカナヲは頭を上げて開口する。

 

「御意。正直に言うと、それもあります。ですが私は一人の鬼殺隊隊士として、しのぶ姉さん達と最後まで戦いたいんです。」

 

「鬼狩りとして戦えなくなってしまった私ですが、そんな私を炭治郎さんは凄い人だと言って下さいました……この戦いが終わるまで、私も私なりに戦い続けたいんです。」

 

「「御館様。どうか、私達の我が儘を御許し下さい。」」

 

そう言ってアオイとカナヲは、再び平伏して耀哉に謝罪した。

 

正直に言えば、アオイもカナヲも炭治郎の子供の妊娠願望は有る。本心では「喜んでっ!!」と、大声で叫びながら快諾したかった。

 

しかし、しのぶを差し置いて先に妊娠する気など無かった。二人にとって、しのぶは大恩人だからだ。

 

カナエが亡くなってから、本心を押し殺して自分達を支え導いてくれた。

そして炭治郎の恋人になる事を許してくれたのだ。しのぶに対してそれらの大恩を仇で返す様な恩知らずな真似など、死んでもしたくなかった。

 

「ふむ……二人が其処まで言うなら、強制なんてとても出来ないよ。では、今後もしのぶと共に君達の力を貸して欲しい。」

 

「「御意っ。」」

 

アオイとカナヲは耀哉の頼み事を聞いて、一度頭を上げてから頷いて承諾した。

 

――これで何とかなったかしら?

 

――炭治郎さんもこれで、鬼殺隊に残れる筈だわ。

 

この時二人は、これで炭治郎の相手が誰も居なくなったので辞めさせられる事は無いと考えた。その考えは浅慮なものであったと、直ぐに思い知らされる。

 

「では、わたしとしてはこの手だけは使いたく無かったんだけど……仕方が無い。あまね、炭治郎に()()を。」

 

「はい。」

 

耀哉一度だけ重い溜め息をついてから、あまねに指示を出した。あまねは明言しなかった耀哉の曖昧な指示に対して、その意図を承知した様子で直ぐに動き出した。

 

「皆も一度座ると良い。」

 

『?』

 

炭治郎達はこれから耀哉が何をしようとしているのか分からず、首を傾げた。そんな炭治郎達に、耀哉が座る事を促すと全員が座り込んだ。

それから間も無く、あまねが一つの黒箱を運び込んで来た。あまねはその黒箱を、炭治郎の眼前に設置し一礼してから耀哉の下へ戻った。

 

「実は無限列車の任務前に、しのぶからある程度"ヒノカミ神楽"の報告は受けていたんだ。半信半疑だったんだけど、それも珠世の御蔭で確信へと変わった……炭治郎、箱を開けて見て御覧。」

 

「は、はい……。」

 

炭治郎は嫌な予感を感じながらも、拒絶する事など出来ず耀哉に言われた通りに黒箱を開けた。

 

「……写真?」

 

炭治郎の背後から少し立ち上がったカナヲが首を傾げながら、黒箱の中身について口にした。炭治郎が黒箱の中身を手に取った。

 

「御館様。この写真は一体、何なのでしょうか?」

 

嫌な予感を感じたしのぶが青筋を浮かべて不機嫌な態度を隠す事無く、炭治郎に代わって箱の内容についての説明を求めた。

 

「それは炭治郎と縁談をする事になるだろう、私が用意した御令嬢達の写真だよ。」

 

 

 

 

 

 

『!?!?!?』

 

 

 

 

 

 

耀哉の爆弾発言により、炭治郎達は強い衝撃を受けた。大広間に居る全員が、石化したと表現して良い程に固まってしまった。輝利哉達も知らされていなかったのか、炭治郎達と同様に衝撃を受けて固まっていた。

 

「まぁ私の最大の誤算は、炭治郎が先に恋仲になる女性達を作ってしまった事だけれど……。」

 

固まって石化している炭治郎達に向かって、耀哉がボソッと呟いた。すると一足早く我に帰った炭治郎が、手に取った写真を次から次へと捲り始めた。白黒の写真がなんと五十枚も入っていた。

 

写真に写っていた女性は皆、美人であった。白黒なため色までは分からないが、品の有る着物を着ている。

一部の写真に至っては、炭治郎が付き合っているしのぶやアオイ、カナヲに似た女性達も居た。

 

「お、御館様っ! 俺にはしのぶさん達が……っ!」

 

「そう言わずに、会ってあげるだけでも出来ないかな? 彼女達の家には、既に炭治郎は産屋敷家の遠縁と紹介してあるんだ。

向こうも「産屋敷家の縁者との縁談ならば、娘を妻にとまでは言いません。妾の末端(はし)に加えて頂いても光栄な話です。」って乗り気なんだよ。」

 

『!?』

 

『!』

 

耀哉と独断と縁談の相手側の主張を聞いて、大広間に者達は驚愕から絶句する。

 

「……まぁ正直に言うと俺も耀哉の意見、分からなくも無いんだよなぁ。」

 

『!!?』

 

驚愕する出来事が更に続いた。愈史郎が耀哉に賛成を表明したのである。

 

「愈史郎っ、貴方はどうして賛成なの?」

 

愈史郎が呟いた言葉の意味に興味が出来た珠世は、愈史郎に賛成の理由を訊ねた。愈史郎は即座に、珠世に答えた。

 

「はい。理由を説明しますと……実はこの一ヶ月で俺が返り討ちにした鬼共を殺す前に、情報収集の足しになればと思って記憶を奪いました。それで鬼共が無惨に受けている指令内容が分かりました。」

 

『!!!』

 

愈史郎の報告を受けて、炭治郎達の視線は熱を帯びて愈史郎に注目する。すると愈史郎が照れた様子で、慌てて一言付け足した。

 

「言っておくが、予想が付くものばかりだぞ? あんまり内容に過度な期待はするな。」

 

「それでも構わない。教えてくれないか、愈史郎。」

 

耀哉は強い興味があるのか、愈史郎に催促する様に促した。それを受けて、愈史郎は淡々と話し始めた。

 

「下弦級の鬼共の記憶には、青い彼岸花の情報は無かった。鬼共に下された指令は、鬼殺隊の殲滅。産屋敷家は勿論だが……柱と炭治郎・禰豆子の竈門兄妹が名指しで標的になっている。」

 

『!?』

 

愈史郎は其処まで言うと、更に一言付け加えた。

 

「どうやら無惨にとって炭治郎と禰豆子の首の方が、柱よりも価値が上らしいぞ? 尤も、首を取れば褒美として大量の血が分け与えられるのは共通しているが……鬼共には『花札に似た耳飾りの剣士』と『私に楯突く鬼の小娘』と伝えられているらしい。」

 

『!!!』

 

報告を受けて驚愕する炭治郎達を余所に、愈史郎は耀哉に自身の意見を伝えた。

 

「今後、炭治郎達が狙い撃ちにされる事を考えれば……まぁ耀哉の懸念も間違ってはいない。」

 

「愈史郎、貴重な情報をありがとう……私は此処に居る君達こそが無惨を倒すと、心からそう信じている。でも失敗した時の備えとして、炭治郎の実子を確保して命脈を保つ必要性も感じているんだ。」

 

愈史郎が自身の意見を伝えた後、耀哉が補足して語った。其処へある人物が耀哉に異議を唱えた。

 

「御館様……御言葉ですが、御館様は竈門炭治郎に対して依怙贔屓が過ぎるのでは有りませんか?」

 

『!』

 

「っ!……伊黒さん……っ。」

 

炭治郎が驚いた様子で双眸を見開いて、耀哉に反論する声の持ち主を見た。それは小芭内であった。小芭内は続けて耀哉に反論する。

 

「命を狙われていると言っても、それは鬼殺隊に所属する者全員がそうです。別に特別な事でも何でも無い……その理論が通用するならば、稀血の不死川も引退させなければならなくなります。」

 

「っ! 俺だァ……?」

 

小芭内は実弥を例題に出して、炭治郎の鬼殺隊除隊に異議を唱え始めた。

 

「御館様。通常の稀血でも、百人の人間と同等の価値が在りますっ。不死川さんの稀血なら更にその倍……いえ、十倍の千人に相当する価値が在ります。伊黒さんの言う事も尤もかと。」

 

しのぶが小芭内に同調して、耀哉に異議を唱える。小芭内はしのぶの援護を受けて、更に異議を唱え続けた。

 

「それに血筋を残すと言う観点だけを考えれば、竈門禰豆子も対象になる筈です。

竈門炭治郎如きに其処まで過大な厚遇をするなど、その様な必要性が有る様には見えません。」

 

「ちょっ!? あんた何言って……禰豆子ちゃんもってどう言う意味だよっ!!」

 

小芭内から禰豆子の名前が出た事で、禰豆子に想いを寄せる善逸が動揺しながらも怒って小芭内に問い詰めた。

 

「黙ってろ格下の愚図が。俺は今、御館様と話をしている。自分可愛さに他人を見殺しにする、薄汚いロクデナシの身内は身の程を弁えていろ。」

 

「!」

 

兄弟子の獪岳諸共、小芭内に侮辱された善逸は怒りから額に青筋が浮かび上がる。睨み合う小芭内と善逸だったが、耀哉が右手を振ってその険悪な空気を振り払った。

 

「小芭内、それは禰豆子が鬼だからだよ。鬼の身体のままでは、生殖能力が有るとは思えない。

何より、他にも不確定要素が多過ぎる。だから炭治郎に白羽の矢が立ったんだ。」

 

「……"日の呼吸"を継承させるだけなら、五大流派と現存している呼吸術と同様、書物に記述すれば良いだけの話です。」

 

耀哉は禰豆子が指名されなかった理由を、明確に話した。小芭内はその理由に内心、納得感を抱いたが直ぐに別の理由で耀哉に反論した。

 

小芭内が口にした反論の材料とは、書物である。五大流派はそれぞれ育手が指導しているが、各々で"炎ノ書"、"水ノ書"、"風ノ書"、"雷ノ書"、"岩ノ書"と言う指南書を保管している。

 

五大流派から派生した亜流である"霞の呼吸"を記した"霞ノ書"や"花の呼吸"を記した"花ノ書"も在る。

嘗ては百種類以上の呼吸術が生まれたとされるが、それらは"日の呼吸"と共に鬼の襲撃や時代の流れ、後継者不足から失伝していった。

 

小芭内は"日ノ書"を復刻させる事を提案したのだ。しかし、耀哉は首を横に振ってそれを否定する。

 

「勿論、それも忘れずに作るよ。だが一度言った様に、"日の呼吸"の使い手は数が非常に少ない。確実に使い熟せる血筋とは、非常に希少な存在なんだ。」

 

「たとえ"日ノ書"を遺したとしても、適合する使い手がいなければ無用の長物でしか無い。

黒刀の使い手も、炭治郎を除けば最後の一人が四日前に鬼に殺されて死んでしまったからね。」

 

「……っ。」

 

耀哉は小芭内の主張を認めた上で、炭治郎の存在の希少さを説いた。その内容に、小芭内は苛立ちを隠せなかった。

 

「御館様。竈門炭治郎の功績は認められて然るべきですが、それは幾ら何でもやはり過大評価……過保護が過ぎると思います。」

 

小芭内は毅然と、耀哉の判断に異議を申し付けた。小芭内は更に続ける。

 

「隊士が死に続けている今、竈門炭治郎ははっきり言ってまだマシな方に分類されます。

如何に強力な呼吸術の適合者であろうと、実力が二流ならそれも意味は無い。」

 

「無惨に狙われていると言うのなら、寧ろ積極的に任務を与えて囮にでも何でも利用して鬼共を釣るべきだと俺は考えます。

そもそも特別扱いなどせず他の隊士と同様に扱い、死ぬか戦えなくなるか自分から鬼殺隊を辞めるまで戦わせるべきです。」

 

飽くまでも余計な依怙贔屓はせず、炭治郎をこれまでと同様に通例通りに扱うべきだと小芭内は主張する。そして最後に、小芭内は本音を一言漏らした。

 

「御館様。俺達は今日まで、痣にも"日の呼吸"にも頼る事無くやって来れたではありませんか。本当に鬼殺隊の利益になるか分からない力を盲目的に頼りにするのは、良い事だとは思えません。」

 

小芭内にとって、その発言は自身の自負が込められたものだった。しかし、この迂闊な発言が耀哉の逆鱗に触れる。

 

「小芭内……それは今日まで負け続けて来たの間違いじゃないかな?」

 

「っ!……それは……っ。」

 

耀哉の指摘を受けて、小芭内は動揺する。

 

「愈史郎が言っていた様に……鬼殺隊(私達)は今の状態のままだったから、千年に渡って負け続け百年以上もの間、上弦の鬼に柱を討たれ敗北を重ね続けているのだろう? まさか、もう忘れたと言う訳じゃないだろうね?」

 

「……っ。」

 

耀哉は叱責する様にそう言うと、小芭内の動揺は更に深まる。しかし、そんな小芭内に耀哉は気にも掛けなかった。

 

「それから……小芭内は私が炭治郎を依怙贔屓にしていると言ったけれど……君は自分なら炭治郎と同じ事が出来たとでも?」

 

小芭内にそう問い掛けた耀哉は、小芭内の返答を聞く事無く炭治郎が挙げた功績を一つ一つ、指を折りながら耀哉はゆっくりと数え始めた。

 

「この会議の間だけでも……炭治郎は珠世と愈史郎を鬼殺隊(私達)の下へ招き入れ、無惨一党と青い彼岸花、痣とそれに付随する情報に戦力増強の知恵と道具を齎してくれた。」

 

「そして私の体調を改善させて行冥共々視力を取り戻し、行冥の過去を清算し、義勇の闇を祓い、実弥と玄弥の兄弟の仲を取り持ち、無一郎の記憶まで取り戻した素晴らしいおまけまで付いて来ている。果たして炭治郎以外の他に誰が、この功績の一つでも成し遂げられただろう?」

 

『……』

 

問い掛ける様に語った耀哉に対して、誰も答える事は出来なかった。代わりに耀哉自身が自問自答の如く、自らの結論を答える。

 

「柱の君達が全員で力を合わせても、出来なかっただろうね。この偉業は、炭治郎にしか成し遂げられなかった。何故ならこれは鬼への復讐心や憎悪、鬼から罪無き人々を守りたいと言う感情ばかりしか持たない者には出来ないからだ。」

 

『……っ。』

 

耀哉の問い掛けに、行冥達は誰も答える事は出来なかった。炭治郎が挙げた功績は、大喝采を浴びて絶賛されるべきものだ。

 

眼前の鬼を斬る事しか今日まで出来なかった歴代の柱では、先ず成し遂げる事など不可能。行冥達に至っては、最早言うまでも無い。沈黙する他に、行冥達に道は無かった。

 

耀哉は沈黙する行冥達を一度見詰めてから、更に語り続ける。

 

「炭治郎は肉体的または剣術の腕でまだまだ柱の君達に劣っているけれど、その欠点を補って余りある強靭な理性と優しくて強い心の持ち主だ。」

 

「鬼や人間の垣根を超えて善悪の区別が付き、鬼も嘗ては人間だったと、無惨の被害者なのだと考え死んで行く鬼達のためにも涙を流せる……そんな人格者で誰よりも強い心を持つ優しい炭治郎だからこそ、この偉業は成し遂げられたのだと私は思っている。」

 

「強さというものは、肉体に対してのみ使う言葉では無いんだよ。炭治郎は強い子だ。それは柱の君達にも劣らない。この子が弱いなどと、私が絶対に言わせない……小芭内は現実を直視し、現状を今一度見直す様に。」

 

『!!』

 

「っ!……御意。」

 

耀哉に注意された小芭内は、力無く承諾した。

 

――……っ!

 

炭治郎は耀哉の発言から、ある事を思い出していた。

 

――嗚呼っ……杏寿郎さんと一緒だ……っ。

 

杏寿郎が生前、自分のために言ってくれた同様の内容の言葉を言ってくれた事に、炭治郎は感激していた。

 

「お、御館様っ!……嬉しいですけど、それは言い過ぎです。それに柱の皆さんは優しい人達です。しのぶさんも甘露寺さんも義勇さんも悲鳴嶼さん達他の柱も皆、優しい人達ばかりですよ。」

 

我に返った炭治郎だったが、耀哉から絶賛されるのが居た堪れなくなったのか、赤面しながら耀哉に反論した。

 

「行冥達が優しい子達だと言う事は、私が一番良く分かっているさ。だが、それは()()()()()()だけだよ。それが本来、普通なのだけどね。」

 

耀哉は炭治郎の公言に対して、そう言い終えてから一度首を横に振るって行冥達を見る。

 

「鬼殺隊は名前通り、鬼に対して見敵必殺を信条としており鬼を憎んだり恨んだりする剣士(子供)達は多い。だが……その想いの強さが結果的に、勝利から遠避けていたのもまた事実。痛烈過ぎる程の皮肉だねぇ。」

 

『っ!……っ。』

 

耀哉が口にした言葉の内容を耳にして、行冥達は顔を俯かせて口を噤むしか出来なかった。

 

「どうか勘違いしないで欲しい。君達がその事で罪悪感を抱いたり、炭治郎に劣等感を抱く必要は無い。君達と炭治郎とでは神様より与えられた、成し遂げるべき役目が違う。それだけの話に過ぎない。」

 

「役目……?」

 

炭治郎が不思議そうに、耀哉が呟いた言葉を復唱する。耀哉は炭治郎に微笑みながら、それに答えた。

 

「そう。役目だよ、炭治郎。人は何かしらの役目や使命といったものを、持って生まれて来るものだ。炭治郎は一足先に、その役目の一つを成し遂げたに過ぎない。」

 

耀哉はそう言い終えると、今度は行冥達に視線を変えた。

 

「そして君達は君達に課せられた役目を成し遂げるために、今日まで生きて来た。それは決して、無駄な歳月などでは無い。

だから私は期待して待っているよ。君達が神様から与えられた、それぞれの役目を成し遂げてくれる事をね。」

 

『!!!』

 

行冥達は反射的に、耀哉に平伏して頭を垂れた。

 

「御意……我ら柱一同。今まで以上に御館様の御為、鬼殺隊のために粉骨砕身の働きをして御覧に入れましょうぞ。」

 

行冥は柱を代表して、耀哉にそう固く誓いを立てた。耀哉は満足した様子で深く頷くと、炭治郎と向き合った。

 

「っと……話が逸れてしまった。炭治郎。悪いけどこの縁談、受けてくれるね?」

 

『!』

 

炭治郎は再び耀哉から縁談の話を持ち掛けられて、炭治郎は露骨に顔を歪めた。

 

「別に一人しか選ばないといけない訳じゃない。何なら全員、選んでくれても構わないよ。掛かる経費は全て、産屋敷家が負担するから遠慮は無用だ。」

 

「御館様……っ。」

 

普通の男にとっては夢の様な話だが、炭治郎にとってはそうではなかった。

 

「しかし、このままだと君も納得出来ないのもまた事実だ。そうだね……身も蓋も無い話をすると、私は君の血を受け継いだ実子が確保さえ出来ればそれで良いんだ。炭治郎の実子がある程度の人数を確保出来れば、君の鬼殺隊の復帰を認めよう。」

 

『!!!』

 

耀哉の本音とも解釈出来る発言に、炭治郎達は騒然となる。それは縁談する女性達と婚姻に関係無く、炭治郎に子供を作れと言う事を意味するに他ならないからだ。

 

――本当は珠世の話を聞いて、()()()()から禰豆子共々戦場に出したくないのだけど……現時点では私の妄想でしかないからね。余計な事を言うのは拙い、か……っ。

 

耀哉は()()()()から竈門兄妹を保護しようと画策していたが、まだ秘密にするのが吉と判断し沈黙を貫いた。

 

「……」

 

炭治郎は一度深呼吸してから、双眸を閉じて沈黙した。

 

『……』

 

しのぶ達は青筋を立てて耀哉を睨みつけた後、炭治郎を見守った。双眸を閉じて一考していた炭治郎だったが、カッと見開いて耀哉を真っ直ぐ見詰める。

 

「御館様の御気持ちは分かります。ですが俺は会った事も話した事も無い見知らぬ女性達と関係を持ったり、目的を成し遂げるためだけに子供を設ける事は出来ません。」

 

炭治郎は耀哉の子作りの指令に対して、真正面から拒絶した。耀哉は炭治郎の答えが想定内なのか、特に反応を示さなかった。

 

「私の頼みだと、そう言っても受ける事は出来ないかい? 炭治郎っ?」

 

「はい。そもそも、たとえその女性の方々と子供を作る事になっても、俺はその子供達に鬼狩りになる事を強要させたく無いんです。

もし俺の子が此の世に生を受けて誕生するその頃には、既に鬼の存在に怯えなくて済む、鬼が居ない世の中で在って欲しいと思っていますから。」

 

『!!!』

 

「ですので……御館様には大変申し訳無いとは思いますが、この縁談の話をお引き受けする事は出来ません。」

 

再度質問された炭治郎は、毅然と耀哉の言葉を明確に拒絶した。

静かに炭治郎と耀哉、二人が睨み合う様に顔を合わせていると、炭治郎が開口した。

 

「……俺は常日頃、御館様には深く感謝をしています。」

 

『!!』

 

炭治郎が口にしたのは、耀哉への感謝の言葉だった。炭治郎は更に続けた。

 

「御館様とその御先祖の皆様が鬼殺隊を創設しているから、家族を失った俺は居場所を失わずに済みました。御館様が認めて下さったから、鬼の禰豆子も俺とこうして一緒に生きていられます。

珠世さんと愈史郎を仲間に加えて下さった御蔭で、無惨を倒せる可能性が大きくなりました。」

 

炭治郎は其処まで言うと、一度深呼吸をして呼吸を整えた。

 

「何より、御館様の御蔭で……俺は俺の生涯を賭けて幸せにしたい、心からそう思える大切な女性(ひと)達と出会う事が出来ました。」

 

『!!!』

 

炭治郎はそう言うとしのぶ達に顔を向けて、優しく微笑んだ。

 

「「「~~~っ!」」」

 

しのぶ達は炭治郎に微笑まれて、歓喜から顔を赤く染める。アオイに至っては、涙腺に涙が溜まっていた。炭治郎は其処から再び、耀哉の方へ顔を向ける。

 

「御館様から頂いたこの大恩! 俺が一体でも多くの鬼を倒し、一人でも多くの人を救い、鬼に殺される人を減らす事で……無惨を倒す事で恩返しをして見せます! どうか、俺をこれまで通り、鬼殺隊の隊士として働く事を御許し願えないでしょうか!? 御願いします!!!」

 

『!!!』

 

炭治郎はそう言って、額を畳に叩き付けて平伏し耀哉に嘆願した。

 

「……もう良いではありませんか、御館様。」

 

「っ!……珠世。」

 

炭治郎の嘆願に対して、最初に開口したのは珠世だった。珠世はそのまま、耀哉にある指摘をした。

 

人間(ひと)が嘘を付く時、無自覚に身体が反応します。その癖は人間(ひと)によって千差万別です……御館様が嘘を付く時は左耳がピクピク動くのですが、その縁談の話……真偽の方は如何程でしょうか?」

 

『!?』

 

珠世の指摘に対して、大広間は騒然となった。一方で、納得している者達が何名かいた。

 

「やっぱり、嘘だったんだ……でも本当の匂いも混じっていたから、何処まで信じて良いのか分かりませんでしたよ。」

 

炭治郎は納得した様子で、そう安堵しながら呟いた。

 

「やれやれ、バレてしまったねぇ。」

 

耀哉は珠世に指摘されて、クスクスと笑声を上げた。笑い終えた後、耀哉は真相について話し始めた。

 

「確かに縁談自体は私の嘘だよ。でも炭治郎が承諾してくれれば、直ぐにその写真の御令嬢達の家に連絡を入れて、縁談の準備をする予定だったんだ。」

 

『!』

 

「「「……」」」

 

耀哉の暴露とも言える真相を聞いて、炭治郎達は驚いた。炭治郎の回答しだいで、本当に縁談が行われる可能性があったからだ。

 

しのぶ達の心中には、驚愕の他に安堵が広がった。もし自分達が炭治郎と結ばれていなければ、何処ぞの馬の骨とも知れぬ小娘と結ばれていたかもしれなかったのだ。

 

「「「……っっ。」」」

 

そう考えると憤怒の炎が、心中で生まれ始める。

しのぶに至っては今直ぐ炭治郎の持つ写真をバラバラに引き裂き、油を掛け火を付けて焼き払い、灰に変えてしまいたいとすら考えていた。

 

「炭治郎、もう無理強いはしないよ。驚かせて悪かったね?」

 

「い、いえ! 御館様の御事情を考えれば、仕方が無かったと思います!」

 

耀哉に謝罪された炭治郎は、恐縮した様子で頭を下げた。

 

「良かったわね、炭治郎さん……皆さん、不束者ですが、愈史郎共々、これからもよろしくお願いします。」

 

珠世は炭治郎に声を掛けてから、行冥達に改めて挨拶をして頭を下げた。

 

「あ、はいっ! よろしくお願いしますねっ、珠世さんっ!…………。」

 

「はい、甘露寺さん……どうかしましたか?」

 

蜜璃と挨拶を交わした珠世だったが、蜜璃からの視線が気になって尋ねた。

 

「あっ!? いやぁ……そのぉ……っっ。」

 

蜜璃は珠世から尋ねられて、困った様子で顔を逸らした。そんな蜜璃を見て、珠世は微笑を浮かべて話し掛ける。

 

「甘露寺さん、私に遠慮なんて無用です。お聞きしたい事があれば、何でも仰って下さい。」

 

「えっ?……えっと、それじゃあ……。」

 

珠世に促された蜜璃は、意を決してある事を尋ねた。

 

「どうして、珠世さんみたいな優しくて頭も良くて素敵な人が、鬼になんかになってしまったんですか?」

 

『!?!?』

 

蜜璃が無垢な表情で、思わぬ質問(特大の爆弾)を珠世に投げ掛けた。その内容に、炭治郎達は絶句して騒然となる。

 

「甘露寺ぃぃっっ!!!」

 

「きゃっ!?……ご、ごめんなさいっ!!」

 

愈史郎が青筋を立て双眸を血走らせて激昂しながら、蜜璃に怒鳴り付けた。愈史郎に怒鳴られた蜜璃は、慌てて謝罪の言葉を口にした。

 

「止めなさい、愈史郎……甘露寺さんも、私に謝らなくても良いですから。」

 

『!』

 

激昂する愈史郎を宥め、自分に謝罪する蜜璃の頭を上げさせた珠世は、大広間が静まったのを見計らって語り始めた。

 

その事を愈史郎は止めなかった。

 

愈史郎自身も、珠世が鬼になった経緯を聞いていないからだ。本音では、知りたいと思っていたため止めなかったのである。

 

「何百、いえ何千もの命を奪った私が理由を語ったところで言い訳に過ぎませんが……私は誘い手を間違えて取ってしまったんです。」

 

「誘い手を、間違えて取った……?」

 

蜜璃が良く理解していない様子で、珠世が口にした内容を復唱した。

 

「はい。私は夫と共に医者をしていました。庶民より裕福な暮らしが出来ていたし、息子を産んで幸せでした。ですが年月が経って私は死病に身体を犯され、死の淵にいたところを無惨がやって来たんです。」

 

『!!』

 

珠世の過去を聞いて、炭治郎達は嫌な予感に駆られ胸騒ぎを覚えた。その予感は、間も無く珠世によって的中する。

 

「『二度と病に侵されない身体が欲しくは無いか?』……私はとにかく生きたかった。病を治してあの日常を取り戻したかった。無惨の甘言に乗ってしまった私は鬼に変えられ、見守っていた夫と息子を喰い殺してしまった……っ。」

 

『えっ?』

 

『なっ!?……っ!!』

 

珠世の悲痛な告白に。炭治郎達は言葉を失った。

 

――鬼になった者は、体力を消耗して身近に居る者を食料として襲ってしまう傾向がある。禰豆子と違って、珠世殿は抗えなかったんだな……。

 

義勇はそう考えながら、珠世の話を黙って聞いていた。

 

「自暴自棄になった私は只管、遣り場のない憎悪を罪無き他人にぶつけ続けました……あの時、私は潔く死んでおけば良かったと、今でも後悔しているのっ…………っっ。」

 

語り終えた珠世は涙こそ零さなかったが、身体を小刻みに震わせ頭を俯かせていた。そんな弱弱しい珠世を見て、炭治郎は思わず動いた。

 

「珠世さん。」

 

「っ!」

 

「……っ?」

 

炭治郎は珠世の前まで移動して座り直すと、珠世の両手を優しく包む様に握った。

 

『!?』

 

「っ!……炭治郎さん?」

 

「俺は、珠世さんを尊敬しています!」

 

「っ!」

 

戸惑う珠世に、炭治郎は真っ直ぐ見詰めてから言った。炭治郎は更に語り続ける。

 

「鬼にされても御自分で人間(ひと)としての理性を取り戻し、愈史郎さんと出会うまで四百年以上も一人で無惨と戦い続けて来た珠世さんを、俺は心から尊敬しています!……そんな珠世さんを見て、旦那様とお子さんは珠世さんを恨んだりなんかしないっ! 俺達には見えないだけで、きっと……いや絶対に珠世さんの背を今日(いま)も支えてくれているに決まってます!!」

 

『!!!』

 

炭治郎はそう断言して、珠世を激励した。炭治郎は純粋に幽霊の存在を信じている。

それは狭霧山で今は亡き兄弟子の錆兎と姉弟子の真菰に鍛えられた一件と、カナエとの出会いが根拠となっている。炭治郎は、珠世の夫と息子が今も珠世を愛しているのだと信じたかった。

 

「っ……ふふっ。ありがとう、炭治郎さん。」

 

炭治郎が何を言いたいかその意図が読めない程、珠世は鈍感では無い。顔を見上げた珠世は双眸を濡らして、炭治郎に微笑んだ。其処から珠世は思わぬ行動に出る。

 

握られていた両手を炭治郎から解放すると、両手を伸ばして炭治郎の頭を掴み、包み込む様に自身の胸に抱きしめたのだ。

 

『!?』

 

珠世の行動に、大広間は騒然となる。炭治郎は双眸を見開いて驚く事しか出来ず、愈史郎としのぶ、アオイとカナヲは双眸を見開き大口を開けて唖然としていた。

そんな炭治郎達に構わず、珠世は炭治郎の頭を撫でながら双眸を閉じて呟いた。

 

「私はこうして息子を抱き締めたかった……ただ、息子が大きくなるのを見届けたかっただけなの……。」

 

「珠世さん……。」

 

『っ!』

 

珠世の呟いた内容に、炭治郎は名前を呼ぶ事しか出来なかった。苛立っていたしのぶ達も思わず、嫉妬の炎を収めた。

 

「……俺、似てたりしますか? 珠世さんの息子さんに?」

 

炭治郎は頭を優しく撫でる心地良さを感じながら、珠世に尋ねた。自分を息子と思ってしてるのだろうと、そう考えてだ。

 

「……いいえ。多分、息子には似てないと思うわ。」

 

「え?」

 

『?』

 

だが、炭治郎の予想とは異なる回答が返って来る。炭治郎と同様の予想だった様で、耀哉達も首を傾げた。

 

「どちらかと言うと、夫の方に似てるわね。」

 

「……えっ!?」

 

『!?』

 

当惑する炭治郎達を余所に、珠世は抱き締めていた炭治郎を解放する。そして右手で炭治郎の頬を優しく撫でた。

 

「鬼化の影響で記憶は殆ど摩耗して、もう名前も顔も思い出せないけれど……これだけは覚えているわ。私の夫は、炭治郎さんみたいに優しくて、太陽みたいな笑顔をする素敵な人だった。」

 

『!!』

 

「……っ!!」

 

頬を赤くしながら、炭治郎に珠世は優しく微笑んだ。炭治郎は初めて見る珠世の表情に、沸騰する勢いで赤面する。

 

「なっ……あっ……。」

 

「ぬぅっ……。」

 

「っ……っ……。」

 

しのぶ達はそんな炭治郎と珠世のやり取りを見て、炭治郎とは異なり憤怒と嫉妬から赤面する。

 

「……」

 

一方で愈史郎は、二十年以上の歳月を珠世と共に過ごして初めて見る珠世の表情に、茫然とした様子で見詰めていた。

 

「……ふふっ、あはははははははははっ!」」

 

『!』

 

大広間に突如、大きな笑声が響き渡った。それは耀哉が爆笑する声であった。

 

『!?』

 

行冥達は生まれて初めて見る耀哉の様子に、茫然としながら得体のしれないものを見る目で耀哉を見た。

 

「……っっ。」

 

耀哉の笑声を聞いて我に返った珠世は、赤面したまま慌てて炭治郎から距離を取った。

耀哉の笑いが収まると、二人の男性に声を掛けた。

 

「炭治郎。君は本当に、女性にモテるんだね。……此処はやはり、"鬼殺隊一の色男"の称号も、炭治郎に譲渡しないといけなくなったんじゃないかな? 天元?」

 

『!』

 

「っ!……ははっ。」

 

耀哉に話し掛けられて、苦笑したのは音柱・宇髄天元だった。そんなやり取りをする二人に、善逸が凄まじく怪訝そうな表情で耀哉に言った。

 

「御館様……冗談ですよね? こんな奇想奇天烈な格好したおっさんが、女の子からモテる訳無いでしょう?」

 

『!?』

 

「ちょっ!? 善逸っ! 柱に向かってそんな……!」

 

天元に向かって暴言を吐いた善逸に、炭治郎が慌てた様子で諫めた。

 

「冗談でも嘘でも無いよ、善逸。天元は本当にモテるからねぇ。」

 

「まぁ、そんな事を自分から自称した覚えはありませんが……尤も、俺は派手で華やかな色男ですから当然の話です。女房も三人居ますからね。」

 

「「!?」」

 

天元が複数の妻を持っている事は、鬼殺隊では周知の事実だ。炭治郎もカナエから知らされているため、今更驚きは無い。しかし初耳な情報に、善逸は驚愕する。因みに、伊之助は関心が無かった。

 

「 三人!?  嫁……さ……三!?  テメッ……テメェ!! 」

 

善逸は顔を崩す程に激昂しながら、天元を睨み付けた。最早、階級など眼中に無かった。

 

「 なんで嫁三人もいんだよ炭治郎じゃあるまいしざっけんなよ!!! 」

 

善逸は嫉妬心から、遂に暴走寸前になる。しのぶが苛立ちながら、炭治郎は慌てながら善逸を止めようとした。

 

「善逸、落ち着いて。」

 

「!」

 

耀哉が善逸に声を掛けた瞬間、暴走寸前だった善逸がピタッと静止した。

 

「そんな顔をしていたら、女の子にモテないよ? 善逸は折角整った良い顔をしているんだから、もっと冷静にね?」

 

「え、あっ……はい、すみませんでした。御館様。」

 

善逸は赤面しながら、正座して身を縮こまらせた。炭治郎はそんな善逸を見て、ホッと安堵の息を吐いた。

 

「……っ!」

 

すると、炭治郎はある事に気付いた。それは耀哉の末っ子で四女の産屋敷かなたが、悲しい匂いを出しながら自分を見詰めていた事に気付いたからだ。

かなたは炭治郎と視線が合うと、露骨に顔ごと視線を逸らした。

 

「……炭治郎君?」

 

しのぶは突如、立ち上がった炭治郎を見て声を掛けた。しかし炭治郎はしのぶに反応せず、そのままかなたの前まで移動する。そしてかなたと視線を合わせる様に、腰を下ろして話し掛けた。

 

「竈門様……。」

 

「かなた様、大丈夫ですか?」

 

「……っ。」

 

炭治郎はかなたを心配して、声を掛けた。かなたは逸らしていた顔を戻したが、再び視線だけは炭治郎から逸らしてしまう。かなたから悲しい匂いを感じた炭治郎は確信する。

 

――俺の所為……だよなぁ。

 

炭治郎は自分自身が、かなたを悲しませている元凶だと悟り、謝罪の意を込めて話し掛けた。

 

「すみません、かなた様……複数の女性と付き合っている男なんて、幻滅されましたよね?」

 

「……」

 

炭治郎はそう言ってかなたが悲しんでいる原因を語ったが、かなたは何も答えない。それでも炭治郎は意を決して話し掛けた。

 

「ですが……俺にとってしのぶさんもアオイさんもカナヲも……禰豆子と同じ位、俺の命より大事な人達なんです。誰に何と言われようと、思われようと、これだけは絶対に誰にも譲りません。」

 

『!』

 

炭治郎は誓約するが如く、そう断言した。それを聞いてしのぶ達の心中は、歓喜と幸福で包まれた。しのぶに至っては良く良く観察してみれば、鼻の穴が広がっている。

 

「……っ。」

 

炭治郎からそう聞いたかなたは、逸らしていた視線を思わず戻して今度は顔を少し俯かせた。

 

――かなた様が悲しんでいるのは見ていて辛い……ん?……でもこの匂いは……?

 

炭治郎はかなたから在る事に気付いて、首を傾げた。

 

『……』

 

炭治郎とかなたのやり取りを見ていた行冥達は、疑問を抱きながら二人を見守っていた。因みに耀哉達産屋敷家は二人の関係を知っているのか、何も言わなかった。

 

――炭治郎君とかなた様は、"最終選別"で縁が出来た事は知っているけれど……それにしても親し過ぎる様な……。

 

しのぶは怪訝な表情を浮かべて、炭治郎とかなたを見守っていた。すると突如、かなたが動き始めた。

かなたが意を決した様な、強い輝きを瞳に宿して炭治郎を見詰めていた。

 

「あの、竈門様……貴方様に、お聞きしたい事が御座います!」

 

「っ!……はい、何ですか?」

 

炭治郎はかなたの様子に驚きながらも、笑顔で答えた。かなたは一度だけ小さく深呼吸して、ある事を炭治郎に質問した。

 

「竈門様……いえ、炭治郎様っ……炭治郎様はもう一人だけ、御傍に置く御心算は御座いませんか?」

 

「えっ?」

 

かなたが口にした言葉の内容に理解が追い付かなかった炭治郎だったが、かなたは気にせず炭治郎の両肩に両手を置くと、ゆっくりと顔を近付けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュッ❤

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

『!?!?!?!?』

 

かなたはそのまま吸い付く様に、炭治郎と口付け(キス)を躱した。かなたは無意識にきつく双眸を閉じたが、炭治郎は逆に驚愕から限界まで見開いたままだった。

 

かなたが炭治郎にしたのは舌を入れたりせず、啄む様な触れるだけの口付け(キス)であった。しかし口付け(キス)に夢中になって少し吸い付いたため、離れる時に小さく銀色の虹を作った。

 

「か……かなた様……。」

 

「う、産屋敷かなたは……藤襲山で貴方様とお会いしたあの日から……竈門炭治郎様を深くお慕いしております……❤」

 

雪の如く純白の肌を熱した鋼鉄の如く赤く染めて、かなたはその小さな胸中に抱き続けていた想いを炭治郎に告白した。

 

「これは……まさか、()()かなたが此処まで行動に出るとは……。」

 

「はい……。」

 

耀哉とあまねは、かなたの行動力に驚いていた。

かなたは五つ子の中でも、一番気が弱く臆病な性格の持ち主だ。嘗ては天井から糸を垂らして降りて来た蜘蛛が片手に乗った時、極限の恐怖心から失神してしまったという逸話が在る程である。

 

そんなかなたが人前で初恋の想い人に自分から口付け(キス)を交わし、想いを告白するなど想像だにしていなかった。

 

「あらあら。」

 

「まぁ。」

 

「か、かなた……っ!」

 

「嘘……っ!!」

 

かなた以外の耀哉の実子達も、かなたの行動力に驚きを隠せなかった。その反応は、四者四様であったが。

 

「「……竈門炭治郎様っ❤」」

 

すると長女のひなきと次女のにちかの二人が顔を合わせた後に、輝利哉とくいなを置いて行動に移る。

 

「えっ?……ええっ!?」

 

『!?』

 

炭治郎達の混乱が冷めやらぬまま、更に大広間に混沌を促す出来事が起こった。

ひなきとにちかが、それぞれ炭治郎の腕に抱き着いたからだ。それも炭治郎に逃げられない様に、しっかりと両腕を回して抱き締めた。

 

「ひ、ひなき姉さんっ! にちか姉さんまでっ!!」

 

かなたは怒った様子で頬を僅かに膨らませながら、姉二人の行動を非難する。しかし、何処吹く風と言わんばかりにひなきとにちかは気にもしない。

 

「ふふっ❤ ()()()から御人の良さは分かっていた心算だったけど……今日の一連の炭治郎様を見て、私達の想像以上に素敵な殿方だと知ってしまったんですもの❤❤」

 

「えぇ。もっともっと貴方様の事を、私達に教えて下さいませんか? 炭治郎様❤」

 

 

 

 

チュッ❤

 

 

 

 

ひなきとにちかは楽しそうにそう言うと、首を伸ばして炭治郎の両頬に口付け(キス)を落とした。

年齢不相応に大人びて余裕そうな口調ではあったのだが、二人は照れ臭いのか頬を赤くしながら、されど嬉しそうに炭治郎に絡んでいた。

 

「かなたってば何て破廉恥な……それにひなき姉さんににちか姉さんまで……。」

 

そんな姉二人の行動を見て、不満を覚える者がかなたの他にもう一人いた。三女のくいなである。

 

「狡い……わ、私も混ぜて下さいぃっ!!」

 

『!?』

 

くいなは弾丸の如く走り出すと、そのまま炭治郎の胸元に飛び込んで行った。

 

くいなは耀哉の五人の実子の中で、最も身体能力が高く活発的だ。かなたを失神させた蜘蛛を、素手で掴んで中庭に放り出すなど勇敢な性格もしている。

勢いに任せているとはいえ、炭治郎の胸元へ飛び込むのはくいならしい行動と言えた。

 

「ちょっ!?……わっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

炭治郎は咄嗟にかなたを庇うために、ひなきに抱き着かれている左手を半ば無理やり動かしてかなたを抱き寄せた。するとくいながかなたとは反対側に飛び込み炭治郎に抱き着いた。

 

――わわっ! 私、何て事を……っ❤

 

炭治郎に抱き着いたくいなは我に返って羞恥心を抱いたが、それでも自分から炭治郎と離れようとはしなかった。

 

こうして、炭治郎は左腕にひなき、右腕ににちか、胸元にくいなとかなたに抱き着かれているおしくら饅頭状態となった。

 

「おやおや……。」

 

「……っ。」

 

「嘘でしょ……っ。」

 

耀哉は楽しそうに炭治郎達を見詰め、あまねは開いた口を右手で隠し、輝利哉は額に右手を置いて頭を抱えた。

 

「姉上っ! くいなもかなたもっ! 炭治郎に迷惑ですよっ!」

 

頭を抱えていた輝利哉は我に返ると、ひなき達を注意して炭治郎から離れさせようとした。しかし、ひなきとにちかは可笑しそうにクスクスと笑い始める。

 

「そんな事言って、本当は貴方も私達が羨ましいのでしょう?」

 

「前々から「炭治郎様みたいな兄が欲しかった。」って言ってましたものねぇ。此処は見栄を張らずに、素直に炭治郎様に甘えたら如何かしら?」

 

「うっ……っ!」

 

輝利哉はひなき達からそう指摘されると、自身の心情を勝手に暴露されたからか、赤面して顔を露骨に反らした。

 

『!?!?!?!?』

 

一方で、大広間には混乱と衝撃が齎され、鎮火どころか拡大の一途を辿っていた。

石化する者、顎が外れる寸前まで開口する者、出血するのではないかと思わせる程に双眸を血走らせた者に溢れ混沌の極みに立っていた。

 

「……ん? ()()()……だと?」

 

『!』

 

そんな中で、一足先に我に返った義勇がひなきの呟いた一言に反応した。

義勇の一言を聞いて、行冥達も連鎖して我に返った。するとその手紙の件について、耀哉が説明を始める。

 

「炭治郎は藤襲山の"最終選別"以降、輝利哉とかなたの文通相手になってくれてね。其処にひなきとにちかとくいなも加わって、頻繁に手紙のやり取りをしていたんだ。

尤も、炭治郎は前回の柱合会議の時まで輝利哉達が私の実子だとは知らなかったみたいだけど、変わる事無く手紙を送ってくれたんだよ。」

 

『!!!』

 

炭治郎と輝利哉達の関係を知って、行冥達は驚愕した。

 

「テメェ……何つー恐れ多い真似を……ッ。」

 

炭治郎が輝利哉達にしていた事を知って、実弥は戦慄していた。

 

神にも等しい存在である耀哉の実子である輝利哉達に気軽に手紙を送るなど、柱である行冥達には考えられない事であった。尤も、多忙過ぎてそんな時間はそもそも無かったりするのだが。

 

「構わないよ、実弥。炭治郎の手紙は、今では輝利哉達にとって一番の楽しみなのだから……そうそう、炭治郎。輝利哉達に()()()を贈ってくれてありがとう。皆、とても喜んでいたよ。」

 

『!』

 

耀哉の説明を受けて、特に顕著な反応を示したのはカナヲだった。

 

「か、髪飾りって……一昨日、私が炭治郎と銀座に出掛けた時の……っ?」

 

「うん。輝利哉様達の御土産にと思って、買って贈ったんだよ。」

 

炭治郎は耀哉の説明に補足をして、カナヲに真相を伝えた。

 

「喜んでくれていたなら、良かったです。もし気に入らなかったらどうしようって心配でしたから……。」

 

「そんな事は無かったよ。輝利哉達はとっても喜んでいて、『着けるのが勿体無い。』なんて言って部屋に飾っているんだから。」

 

不安そうな表情を浮かべていた炭治郎に、耀哉は輝利哉達が髪飾りを受け取った時の反応を伝えた。輝利哉達の歓喜に満ちた感想を聞いて、炭治郎は安堵した。

 

「私達の所為で、炭治郎様にご不安を抱かせてしまってごめんなさい。」

 

「炭治郎様から贈り物を頂いた時、私達は本当に嬉しかったんですよ。」

 

ひなきとにちかの二人が、謝罪の意を込めて炭治郎にギュッと強く抱き着いた。それを見てくいなとかなたも姉二人に対抗心を抱いて、炭治郎を強く抱き締めた。

 

『!!!』

 

「「「……っ!!!」」」

 

「むぅ~~~~~~っっ!!!」

 

しのぶ達、炭治郎を愛する女性達が嫉妬心から青筋を浮かべて苛立つ中、禰豆子も面白く無さそうに唸り声を上げた。禰豆子は不満を隠す事無く、炭治郎達に接近して行く。

 

「っ!!……お前達、早く竈門様から離れなさい。早くっ……っ!」

 

「っ! は、はい!」

 

あまねが禰豆子の行動を見た後、ひなき達を連れて急いで炭治郎から離れた。

 

「むぅ~~~~~~っっ!!!」

 

 

パチン

 

 

禰豆子は不満そうに唸り声を挙げながら、両手で炭治郎の頬を挟んだ。力を込めていないとはいえ、炭治郎の顔が小さい火男の如く唇が突き出た顔になる。

 

「ね、ねじゅこ?」

 

「……んっ!」

 

禰豆子に問い掛ける炭治郎を無視して、何か妙案を思い浮かんだ様子であった。すると間髪入れずに禰豆子は身体を変化させて、長身で肉感的(グラマラス)な体型になる。

 

「んっ……ふふっ❤」

 

魅惑的な大人の女性になった禰豆子は、妖艶な笑みを浮かべると双眸を閉じて唇を突き出しながら、炭治郎に顔を近付けていった。

 

 

 

 

 

 

 

チュッ❤

 

 

 

 

 

 

 

「んぐっ!?」

 

『っ!?!?』

 

「んっ……❤」

 

なんと禰豆子はそのまま、炭治郎に向かって口付け(キス)をしたのだ。歓喜から頬を赤く染める禰豆子に対して、炭治郎は困惑から双眸を見開いて、呆然と禰豆子の瑞々しい唇の感触を体験するだけであった。

 

っ!?………私のっ……炭治郎君なのにっ!……炭治郎君はっ!……私のものなのにっ!……どいつもこいつもっ!……私の許しも得ずにっ!……私のっ!!

 

炭治郎と禰豆子の情熱的な口付け(キス)を見たしのぶが、顔を俯かせながら全身を震わせてぶつぶつと呟いていた。この緊急柱合会議で溜まりに溜まった鬱憤と苛立ちが、ついにしのぶの怒りの臨界点の限界を超える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブチッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しのぶの頭の中で、何かが盛大に切れる幻聴が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の炭治郎君にっっっ!!! 何て事してくれてんのよこの糞餓鬼(クソガキ)ッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンッ!!  バキッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔中の血管を浮かび上がらせて激昂したしのぶは渾身の踏み込みを入れると、畳を踏み砕いてから弾丸の如く電光石火の速さで駆け出した。

 

『っ!?!?!?』

 

しのぶの勢いに理解が追い付かず、行冥達は茫然としのぶを見送るしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

 

 

 

「離れろっ!? 離れっ……なさいよっっ!!! このっ……離れろって言ってんでしょうがあぁああああああああああああぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

「んっ~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

 

しのぶは禰豆子の髪の毛と新たに生えた角を鷲掴みにすると、引き千切らんばかりに引っ張って必死の形相で禰豆子を炭治郎から引き剥がそうとする。対して禰豆子も青筋を浮かべながら、死んでも炭治郎を離すものかと言わんばかりに、口付け(キス)をしたまま炭治郎にしがみついた。

 

「んぐっ!?……んんっ!!??……んぐぐっ!?」

 

炭治郎は更に禰豆子に強く唇を押し付けられて、徐々に呼吸が継続出来なくなっていく。

禰豆子の膂力に抗えずされるがままであった炭治郎は、禰豆子から離れようと両手を突き出す。

 

炭治郎の両手は、大きく成長した禰豆子の豊満な乳房に直撃した。

 

「んんっ!❤……んぁん❤……んっ!❤」

 

「っ!? この助平餓鬼(エロガキ)ィィッッ!!!!」

 

炭治郎と口付け(キス)している口から僅かに漏れる嬌声を聞き、零れ出る唾液を見てしのぶの憤怒が上昇していく。

 

「ね、禰豆子さんっ!? 早く炭治郎さんを離して下さいっ!! このままだと炭治郎さんが窒息してしまいます!!」

 

「姉さんっ!! お願いだから落ち着いてよっ!? しのぶ姉さんったら!?」

 

禰豆子が炭治郎に口付け(キス)をしたのを見て激昂しそうになったアオイとカナヲだったが、大激昂したしのぶの大暴走を見て最早それ所ではなかった。

この混沌を収拾すべく、急いで力を合わせていた。

 

「ね、禰豆子ちゃあああああああぁぁぁぁん?! テメッ、炭治郎、テメェッ!? 自分の妹まで手籠めにするとかおかしいだろぉっ!? 何処までとんでもねぇ炭治郎なんだよオメェはよおおおぉぉぉ!!!」

 

善逸は想い人の禰豆子が炭治郎に情熱的な口付け(キス)をするのを目の当たりにして、双眸を血走らせて激昂した。

 

「何だ!? 喧嘩か?! 俺も混ぜやがれ!!」

 

伊之助は状況を見ず結果だけ見て判断し、自身も混ざろうと善逸と共に炭治郎達に突撃しようとする。

 

「…五月蝿いっ。」

 

「「ぐえっ!?」」

 

無一郎が苛立ちを隠す事無く、善逸と伊之助の鳩尾に一撃を見舞いして一瞬で沈黙させた。無一郎に殴られた善逸と伊之助はそのまま白目を剥いて失神した。

 

「……」

 

無一郎は禰豆子としのぶを睨み付けると、苛立ちを隠す事無くゲシゲシと気絶する善逸と伊之助に八つ当たりを始めた。

 

「おーおー、派手に情熱的な口付け(キス)じゃねぇかっ!」

――いーなー、俺も攻められて―なー、でも力の差がなぁ……一遍に襲ってこさせたら行けるか?

 

禰豆子の情熱的な口付け(キス)を見て、天元も自身の愛妻達に同様の事をさせたいと一考していた。

 

「(このままだと炭治郎が窒息する……その事に禰豆子も胡蝶も気付いていない。此処は俺達も胡蝶の継子達に加担するべきだろうか?)不死川、お前はどう思う?」

 

「…何の感想を求められているんだよ俺はよォ?……つーか何なんだよこの状況はァ、どうしろっつーんだよぉ?!」

 

義勇は炭治郎に迫る危機を把握していたが、心中でそう分析するだけで動き出そうとはしなかった。

実弥は唐突に義勇に訊ねられたが、眼前の状況を見て何をすれば良いか判断に困っていた。

 

「きゃああああああああっ!?❤ キャ――――――ッッ!!!❤」

――えっ!? ええぇっ!? 何で炭治郎君と禰豆子ちゃんがキス……えええぇぇぇぇっ!?!?

 

蜜璃は禰豆子の情熱的な口付け(キス)を見て、黄色い歓声を上げていた。一方で内心では炭治郎と禰豆子の関係性に半ば確信を抱いて混乱していた。

 

「甘露寺、頼むから落ち着け。君まで暴走しないでくれ。」

 

そんな蜜璃の意図など読める筈も無く、小芭内は必死で蜜璃を落ち着かせようとした。

 

「嗚呼……しのぶのあの姿は、まさにカナエが生きていた頃そのものっ。まるでしのぶが生き返った様だ。あの頃の様に伸び伸びと感情を表に出せる日が来ようとは、こんなに喜ばしい事は無い。」

 

行冥だけは炭治郎と禰豆子の情熱的な口付け(キス)に眼もくれず、しのぶの様子だけを見て歓喜から滂沱の涙を流して心から喜んでいた。

 

「ああああっ!? どうしましょう、どうしましょう。このままだと炭治郎さんが!……ゆ、ゆしろうっ! わ、わたしたちはいったいどうしたらっ!?」

 

「珠世様、落ち着いて下さい。それから急いで少し下がりましょう。炭治郎の事だから、大丈夫です。此処は放っておきましょうっ!」

 

珠世は狼狽しながら、炭治郎達の騒動を見て愈史郎に解決の為の助言を求めた。

すると愈史郎は冷めた眼で炭治郎達を見ながら、珠世を落ち着かせてから少し距離を取って静観を決め込んだ。

 

「プッ……くくっ……くくくくっっ……っ!……も、もう駄目だっ……くふっ……堪え、切れないっ……ぷくっ……あっはっはっはっ! あーはっはっはっはっはっはっ!!!」

 

眼前で起きている騒動を見て、耀哉が堪え切れず非常に楽しそうに大爆笑する笑声が産屋敷本邸に響き渡った。

 

「あははははははははっ!! あーはっはっはっはっはっ!!!」 

 

耀哉の愉快な笑声が産屋敷本邸に響き渡る中、波乱万丈な展開が間髪入れずに次々と訪れた緊急柱合会議は、こうして無事に幕を閉じたのだった。




お待たせしました。

ある読者様からのQ:輝利哉様達は炭治郎に堕とされるの?
作者のこの時のA:炭治郎は堕とす心算は無いです。(だってもう堕としているし。)

忘れた方のためにも書きますが、第拾捌話で登場した「五つの髪飾り」ですが、正体は輝利哉達への炭治郎からの贈り物でした。
勘の鋭い方はもうとっくに見抜いていたのではないでしょうか? まぁかなたが炭治郎を庇ったあのシーンで察した方々もいるとは思いますが……。

それからはっきり断っておきますが、幼女であるかなた達とのエロシーンはありません。拙作の竈門炭治郎君はおっぱい星人であって、ロリでもショタでもペドでもありません。
拙作の竈門炭治郎君はおっぱい星人であってロリショタペドではありません。(大事な事なので弐回書きました。)

漸くですが、半年近く掛かった緊急柱合会議が終了しました。まだ全てが終わった訳じゃないけれど、大筋が終了出来て非常に安堵しております。そしてしのぶさん書いてて滅茶苦茶楽しかったです(笑)

次回は……二次会ですかね。この騒動を引き摺る……かもしれません(笑)。

更新予定は11月29日(日)です。お楽しみに!

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
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