※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

4 / 65
※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第肆話 無垢なる赫蝶は日輪を求める

東京府・某所

 

大正二年(一九一三年) 三月六日(木)

時間帯:早朝

天気:晴れ

 

 

まだ太陽が姿を現さない、暁闇(ぎょうあん)の薄暗い時間帯。人を喰らう鬼殺隊の怨敵にして宿敵『鬼』が太陽から姿を晒してなるものかと姿を隠し始めるこの時間帯に、一人の美少女が疾走していた。

 

右側のサイドポニーテールが特徴のこの美少女の名は栗花落カナヲ。鬼殺隊が誇る最高位の剣士である柱が一人、蟲柱・胡蝶しのぶの直弟子に当たる継子である。階級こそ鬼殺隊第六位階『(つちのと)』であるが、鬼殺隊の最高位たる『柱』に次いで二番目に高く、かつ一般隊員の最高位である鬼殺隊筆頭位階『(きのえ)』の隊士達を抑えて現在、最も柱に近いとされる実力を持つ天才美少女剣士だ。

 

そんな彼女だが、鬼の討伐任務を完了し、仮眠を取った後に自身の活動拠点である蝶屋敷へと疾走していた。それだけならば何時も通りの事なのだが、今回は事情が違っていた。その要因はカナヲの同期に当たる鬼殺隊隊士・竈門炭治郎にある。

 

カナヲは幼少期、両親に愛されず虐待された経緯がある。自己防衛のために何も感じない、自身では何一つ判断出来ないようになってしまった。人買いに売り飛ばされていたところを胡蝶姉妹に救われたのだが、その自己判断出来ない指示待ちの性格は変わらず、他人からの指示以外は、今は亡き元花柱・胡蝶カナエから渡された表裏の字が片面ずつ刻まれた銅貨による銅貨投げ(コイントス)で全てを決める有様だった。

そんなカナヲだったが、炭治郎との出会いが彼女に激変を齎した。カナヲは息が切れない程度に疾走しながら、その時の様子を回想していた。

 

『この世にどうでもいいことなんて無いと思うよ。 きっと。』

 

『よし! 投げて決めよう!』

 

『カナヲがこれから自分の心の声を良く聞くこと!』

 

『表が出たらカナヲは心のままに生きる!』

 

『頑張れ!!  人は心が原動力だから 心はどこまでも強くなれる!!』

 

『偶然だよ。それに裏が出ても表が出るまで何度でも投げ続けようと思ってたから。』

 

あの時の事を思い出すだけで、カナヲの心は火が灯したように、陽の光が差したように温かくなる。あの地獄と絶望の日々で壊れたと思っていた心は生きていて、あの日に光が差したのだ。蕾のように閉じていた心は、しっかり陽を浴びて花開いたのだ。

以来、カナヲは変わった。その変化は殆ど見ても分からないようなものであったが、少しずつ他の事にも関心を持つようになり、特に炭治郎の事が何時も気になった。

 

炎柱・煉獄杏寿郎の訃報を知った時、真っ先に心配したのはその任務に同行していた炭治郎の容態だった。アオイに頼んで治療の準備を手伝わせて貰い、炭治郎の帰還を待った。炭治郎に会えたら、「おかえりなさい。」と声を掛けてあげたい。あの時のようにお話がしたい。もし傷ついていたら、その年齢不相応に武骨で傷だらけの手を握ってあげたい。とカナヲはそう思ったのだ。

 

しかし、一日千秋の思いで炭治郎の帰還を待つカナヲに鬼の討伐任務の指令が下った。炭治郎を待っていても、鬼は待ってくれない。私情で指令に逆らい、任務を放棄するなど出来る訳が無く、通達して来た自身の鎹烏を斬り殺したくなる衝動と殺意を抑えて任務に向かった。任務が来た以上は、さっさと終わらせて帰ろう。そうカナヲは決意して。

 

カナヲは食事も休息の時間も惜しんで任地に向かい、指令を通達された日の晩に鬼を見つけて一刀両断にした。これで蝶屋敷に帰れる。カナヲが炭治郎を想って急いだ結果、鬼の襲撃から命を救われた夫婦の涙ながらの感謝を聞き流しつつそう思ったが、無情にもそのままカナヲに別の鬼の討伐任務が下ったのだ。

 

カナヲは通達にこめかみをピクピク動かしながら、夫婦に一度会釈をして新たなる任地に向かった。今度こそ、さっさと任務を終わらせて、炭治郎に会いに行こうと決意して。

 

二度目の指令の任地は一度目の指令の任地から一時間程走ったところにあり、討伐対象の鬼は獲物を巡って争っていた二体の鬼を漁夫の利を得る形で纏めて討伐した。

今度こそ帰れる、そう思ったカナヲに不運は続いた。鬼の討伐任務が完了しても矢継ぎ早に任務が通達されたのだ。

 

それも合計で六度もだ。その中には一度に二つの指令を下された事もあった。

鬼が集中して出現した任地に最も近くに居た隊員がカナヲだったと言うのもあったが、それにしてもカナヲは運が無さ過ぎた。

 

三度目の任務が通達された時は青筋を立て、四度目と五度目の任務が同時に通達された時は奥歯をギリっと歯軋りしてから日輪刀に手を掛け、六度目の時はついに我慢出来ずに日輪刀を抜いて鎹烏に斬り掛かろうとした。

 

そんな我慢に我慢を重ねて、漸く帰還命令及び帰還後の休息命令が下った時は、カナヲは心底ほっと安堵したものだ。

 

もしもこれが七度目の討伐任務の指令だったならば、間違い無く鎹烏はカナヲの手で斬り捨てられていた。炭治郎と出会う以前のカナヲならば、何度鬼の討伐任務の指令が通達されようと顔色一つ変えなかったであろうが。

 

この時既に、杏寿郎の訃報を蝶屋敷で聞いてから五日以上の日々が経過していた。

早く帰還して炭治郎と再会するために、休息を惜しんで東奔西走していた濃密な日々を終え、そこから半日掛けて蝶屋敷に戻るために疾走していたのだ。そしてカナヲは次の日の朝の七時頃に蝶屋敷に到着した。

 

――炭治郎は元気にしてるかな……会う前に身体を綺麗にしてからの方が良いよね……。

 

カナヲは今直ぐにでも炭治郎に会いたい気持ちを抑え、まずは自室に行って着替えを取りに行き、風呂場で身体を念入りに洗ってからなほに炭治郎のいる部屋を聞いて向かった。

炭治郎の部屋へと近付くと、何やら言い争う声が聞こえて来た。しかしそれは炭治郎の声では無い。カナヲは足を進めて部屋に向かいノックもせずに扉を開けた。

 

「………」

 

「貴女もしつっこいですねっ! アオイっ! 何度も言わせないで下さいっ!! 炭治郎君の治療は私が責任を持って行いますので、アオイは普段の業務に戻りなさいっ!! これは上官命令ですよ!!」

 

「しのぶ様こそ真顔で寝惚けた事を何度も仰らないで頂けますかっ! 大真面目に巫山戯た事を言うのも大概にして下さいっ!! 職権乱用も甚だしいですよ!!」

 

そこには顔を赤くして寝込んでいる竈門炭治郎がおり、その隣にはカナヲの師匠である蟲柱・胡蝶しのぶとこの蝶屋敷を任された先輩にあたる鬼殺隊隊士・神崎アオイが怒りのあまり、炭治郎に負けないくらいに顔を赤くし、青筋を浮かべて激しい口論を繰り広げていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月六日(木)

時間帯:朝

天気:晴れ

 

 

カナヲが蝶屋敷に帰還する前まで時間は巻き戻る。

 

「……ん……。」

 

しのぶに休養を言い渡されていたアオイが目を覚ました。しかし彼女は一人では無かった。既に完治していたが、最愛の想い人である炭治郎との過ごす時間が惜しんで添い寝を頼んでいた。

その炭治郎が自分の直ぐ隣で寝ている。アオイはその事実に歓喜しながら、確かに寝ている事を念入りに確認すると、肩に手を置いて静かに炭治郎の唇に口付け(キス)をした。

 

「んっ❤️………んっ?!」

 

炭治郎と口付け(キス)を交わしたアオイは全身に言葉に出来ない幸福感が全身を巡ったが、普段と違う炭治郎の異状に気付いためにその幸福感は跡形もなく霧散し、焦燥感を抱いた。

 

「炭治郎さんっ!?」

 

アオイはガバっと寝台(ベッド)から起き上がると炭治郎の額に手を置いて熱を測る。明らかに常温の熱さでは無かった。

 

「す、凄い熱……っ! 早くっ、速く! しのぶ様に見せなきゃ!!」

 

アオイは着替える間も惜しんで炭治郎を担いで自室を飛び出し駆け出した。鍛錬を休んで十数日経っていたが、それでも体重が六十一kgある炭治郎を一人で担いで駆け出すぐらい訳は無かった。

 

「三十九度六分……完全に風邪ですね。」

 

しのぶはこの光景に既視感を感じながら、炭治郎の診断結果をアオイに報告していた。アオイはしのぶが診断中に部屋に着替えに戻り、再び医務室に訪れて心配そうに熱冷ましを飲んで寝ている炭治郎を見ていた。

 

「炭治郎さんの風邪……絶対私のせいですよね……。」

 

「状況だけ見れば。炭治郎君にはアオイのようにならないでと言ったのですがねぇ……。」

 

アオイは炭治郎が風邪を引いた事に罪悪感を抱いて居た。原因に心当たりが多過ぎたからだ。そんな心当たりなど知らないしのぶは気にせず、アオイに質問をする。

 

「なったものは今更どうこう言っても仕方がありません……アオイ、もう業務復帰しても大丈夫ですか?」

 

「はい、今まで休ませて頂きありがとうございました。直ぐにでも業務の方に掛かれます。」

 

「そうですか。ではまたよろしくお願いしますね、アオイ。」

 

「はいっ!」

 

しのぶはアオイの復帰に喜び笑みを零すが、直ぐにそれを納めて今度は目を細めながらアオイに質問をした。

 

「しかし、アオイもよく炭治郎君が熱で苦しんでいると気付きましたね? 貴女の部屋は炭治郎君と禰豆子さんの反対側にあったはずですが?」

 

「……そんな些細な事など、今はどうでも良いのではないでしょうか? 大事なのは炭治郎さんの容態を回復させる事です。そうではありませんか? しのぶ様?」

 

しのぶの質問を綺麗に無視してアオイは正論を叩き付けた。そんなアオイにイラつきながらもしのぶは渋々同意する。

 

「ええ、アオイの言う通りですね。では私が炭治郎君の看病を務めましょう。ですからアオイは朝食を取ったら業務に戻って大丈夫ですよ。」

 

暗にさっさと医務室から出て行けとしのぶに言われたアオイは激昂するのを抑えて、どうにか冷静に反論する。

 

「しのぶ様、今は冗談を言っている場合などでは無いでしょう? 柱ともあろうお方が重篤でも無い一隊士如きの看病になど、時間を割いている場合では無い筈です。炭治郎さんの事は私が責任を持って、お世話させて頂きますからっ。」

 

「いえいえ、炭治郎君は御館様や私を始め、亡くなった煉獄さんも期待を寄せている鬼殺隊の将来を担う大切な逸材です。万が一、億が一が有ってはなりません。ならば、私自らが炭治郎君の看病を担当すると言うのが筋と言うものです。」

 

「でしたら、その万が一、億が一が起きた時に私がしのぶ様を御呼び致しますよ。第一、炭治郎さんが風邪を引かれたのは私が原因も同然です。ならば、私が責任を持って炭治郎さんのお世話をするのがしのぶ様の屁理屈と違って、本当の意味で筋と言うものです。それまではどうか、炭治郎さんの事は私にお任せ下さい。」

 

「事が起きてからでは遅いんですよ。そんな事も分かりませんか? アオイ、別に貴女の事が信用出来ないとかそんな事を言っている訳では決して無いんです。それよりも休養して鈍った腕のキレを取り戻すために、さっさと業務に復帰した方が良いんじゃないですかぁ?」

 

「いえいえ、私の業務は柱様の御勤めと違って、二日、三日手を付けなかったからって鈍るような難しい仕事でもないんですよ。それよりも、何時まで貴重な御時間をこんなところで浪費する御積もりなのですか? 柱って存外、御暇だったりするのでしょうか?」

 

しのぶとアオイは一切、互いに全く相手に譲渡する気が無いのか、内心に怒りを蓄積しながら青筋を立てて激しく毒の混じった口論を続けて行く。

もはや上官と部下ではなく、姉妹が玩具を奪り合いをしているが如き、姉妹喧嘩と化していた。

二人の口論はそれは沈静化するどころかより激しさを増して行き、カナヲが蝶屋敷に帰還してなお続いていたのだった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「これは……一体……っ?」

 

カナヲは状況が全く掴めないのか、困惑の声を上げる。カナヲに気付いたのか、しのぶとアオイは言い争いを止めてカナヲの方に注目した。

 

「カナヲ、おかえりなさい。今戻ったんですか?」

 

「カナヲ、おかえりなさい。怪我とかしてない?」

 

「は、はい……栗花落カナヲ。只今より鬼の討伐任務を終え、帰還しました。異状はありません。」

 

カナヲは戸惑いつつも帰還を二人に報告した。しかし二人はその報告には一切興味が無いのか、無視して同時に前に出てカナヲに言った。

 

「カナヲ! 何とかしてしのぶ様を止めるのを手伝ってくれないかしらっ?!」

 

「カナヲ! この石頭の分からず屋を何とかしたいから手伝いなさいっ!!」

 

「あ、あの一体何が何やら……それはそうと炭治郎がっ……!」

 

カナヲは顔を赤く染めて寝込む炭治郎を見るなど考えてもいなかったからか、動揺を隠せなかった。カナヲの様子を見て、しのぶが一部始終を説明した。

アオイは、しのぶに都合の良いように脚色して説明しないか監視していたが。

しのぶがカナヲに説明している内に、炭治郎が重い頭を抱えながら起き上がった。それを見てしのぶとアオイは直ぐにカナヲを放ったらかして炭治郎に向き合った。

 

「う~~~んっ、頭が重い……あれここは……?」

 

「炭治郎君っ! 目を覚ましたんですね!!」

 

「……チッ!……炭治郎さんっ! 無理はしないで下さい……!」

 

しのぶが先に駆け寄って炭治郎を支え、一歩遅れたアオイは誰にも聞こえないように舌打ちしてから、炭治郎の身を案じて声を掛けた。カナヲは二人に付いて行けず、未だ置いてけぼりを喰らっていた。

炭治郎は今度はアオイからどうなったのか説明を受けると、炭治郎は頭まで赤くなった顔を掻きながら申し訳なさそうに謝った。

 

「その、ご迷惑をお掛けしてすみません……。」

 

「炭治郎君が謝る事ではないですよ。治るまで私がしっかり看病しますからねっ。」

 

「……っ!」

 

しのぶは先手必勝とばかりに自分が看病を担当すると宣言して炭治郎から言質を取ろうとした。

アオイは出遅れたっ! と内心怒り狂いながら状況を見守った。

カナヲは茫然としながら状況を見守る事しか出来ず、一方の炭治郎はしのぶの言葉に笑顔で答えた。

 

「しのぶさん、ありがとうございます……嬉しいですっ。」

 

「はいっ! 万事、私に任せて下さいねっ!」

 

「……っ!」

 

その返答にしのぶは花が満開と言わんばかりの笑顔で歓喜し、アオイは悔しそうに顔を俯いた。

しかし、炭治郎の次の一言で状況が一変する。

 

「でも、柱であるしのぶさんのお時間を頂くなんて申し訳ないです……ですから、お気持ちだけ頂きますね。」

 

「……。」

 

「……っ!……っ!……っ!」

 

しのぶは笑顔のままピシッ! と石化したが如く固まり、アオイは笑いを堪えるために顔をそのまま、俯いたままでいた。笑いを必死で噛み殺してからしのぶを押し退けて炭治郎に向かって言った。

 

「炭治郎さんっ! 炭治郎さんの看病は私が請け負おうと思うんです!……前にご病気になったら私に看病をして欲しい、その時は私が喜んでお世話しますって言ったの、覚えてますよねっ?!」

 

「う、うん。勿論、覚えているよ。」

 

「……っ!」

 

アオイは炭治郎が約束を覚えていた事に安堵し、承諾されたとばかりに歓喜した。

一方のしのぶは笑顔を顔面に張り付けたまま、その様子に青筋を立てて苛立ちを隠せない。

カナヲはオロオロしながら状況を見守ったが、嫌な予感がしていた。その嫌な予感は間も無く的中した。

 

「でも俺のお世話に専念してたらなほちゃん達が大変だし、申し訳ないよ。アオイさんはお仕事の方に専念してくれたら、俺の方も気が楽で良いかなっ?」

 

「……っ。は、はい、分かりました……っっ。」

 

「ぷっ、くくくくっ。」

 

「……っ!」

 

炭治郎の思い遣りに満ちた言葉を無碍に否定する事などアオイに出来るはずが無く、不承不承で承諾する他無かった。

しのぶは溜飲が下がったと言わんばかりにアオイを嘲笑し、それを聞いたアオイは青筋を立てて横目でしのぶを睨み付けた。

 

「あ、あの……っ!」

 

此処まで来て、漸く状況を見守るだけで傍観者に甘んじていたカナヲが初めて口を開いた。炭治郎もカナヲの声を聞いて初めてカナヲの存在を認識した。

 

「カナヲっ! ゴホッゴホッ……カナヲ、帰って来てたんだねっ。」

 

「うん……炭治郎、無理しないでっ。」

 

カナヲは心配そうに炭治郎の傍に近付いた。しのぶとアオイは睨み合うのに忙しいのか、カナヲの相手などしていられなかった。

 

「炭治郎、とっても苦しそう……。」

 

「あはは、大袈裟だよ。心配しないで。それより、カナヲ。おかえりなさい。会えて嬉しいよっ。」

 

「……っ❤」

 

――ああ、温かい❤ 炭治郎の笑顔を見ているだけで、声を聞くだけで身体の内側から温かくなる。心が満たされて行く……❤

 

カナヲは胸の内から湧き出て来る幸福感を味わうのもそこそこに、カナヲはある決心をして身を翻してしのぶに向き合った。

 

「師範っ!」

 

「……っ。な、何ですか? カナヲ。そんな大声を出して……。」

 

しのぶはアオイとの睨み合いをやめて少し驚いた様子でカナヲを見た。アオイもまた普段見られないカナヲの様子に驚きを隠せない。

 

「私に、炭治郎のお世話をさせて下さい!」

 

「「「!?」」」

 

カナヲの嘆願にその場にいた三人は驚愕した。指示以外は全て銅貨投げで決めなければ何も出来ない筈のカナヲが自分の意志で炭治郎の看病がしたいと言い出したのだから、驚くのも無理は無かった。

炭治郎の病気の事は部屋に来るまで知らなかったのだから、事前に銅貨投げで看病するか否かを決めていたとは考えられなかった。カナヲが続けて言った。

 

「私は任務を終えて休息を取るよう言われてるから時間はあるし……そ、それに私が炭治郎の看病がしたいって、そう思ったんです。炭治郎が嫌じゃなかったら……私がお世話したい、です。」

 

「それは……。」

 

「俺からもお願いして良いですか? しのぶさん。」

 

言い澱むしのぶに炭治郎がカナヲに助け舟を出した。炭治郎は続けて言った。

 

「カナヲが自分で決めたのなら、俺はその意思を尊重したい。後、とっても嬉しいよ。カナヲ。自分の意思で決めた事も、俺のためにそう思ってくれた事も、ね。」

 

「ありがとうね、カナヲ。」と炭治郎は満面の笑みでカナヲに微笑んだ。するとカナヲは炭治郎に負けないくらい顔を赤くして俯いた。しのぶとアオイは二人の間に入る余地など無く、見てる事しか出来なかった。

 

「「……っ。」」

 

しのぶとアオイの二人は、落ち込みながら顔を俯かせる事しか出来なかった。そんな二人に炭治郎は気付いて声を掛ける。

 

「しのぶさんとアオイさんのお気持ち、とっても嬉しかったです。ありがとうございました。カナヲもそうですが、お世話になります。よろしくお願いします。」

 

炭治郎の純粋な感謝に、しのぶとアオイの機嫌は先程の落ち込みなど欠片も感じさせないくらいに、一瞬にして良くなった。また、カナヲへの気遣いも僅かながらあったが、炭治郎に醜態は見せまいと今回の一件は大人しくカナヲに譲る事にした。

 

「カナヲ。炭治郎君の事は任せますから、何かあれば何時でも呼んで下さいね。直ぐ駆け付けますから。」

 

「カナヲ。手伝ってあげるから炭治郎さんのお世話、お願いね。」

 

「はい!」

 

そう言ってしのぶとアオイとカナヲの三人は医務室から退室した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「炭治郎、ご飯持って来たよ。」

 

カナヲがお盆に土鍋や水を載せて部屋に入って来た。ちなみに部屋とは医務室ではなく竈門兄妹に充てられた自室である。

実は炭治郎は三人が退室してから這う這うの体で自室まで移動しようとしていた。移動中にきよとなほとすみに見つかり、彼女達が泣きながら移動を手伝ったのだった。

当然、この事実はしのぶの耳に入り、飛んで来たしのぶに炭治郎が説教をしこたま喰らったと言うのは言うまでもない。

 

「わぁ。ありがとう、カナヲ。丁度、お腹が空いていたんだっ。」

 

炭治郎は喜びながらカナヲを迎えた。カナヲは食事を炭治郎の隣に置いて、食事の説明を始めた。

 

「今日は牛乳が手に入ったから、牛乳粥にしてみたって、アオイが。」

 

「わぁ、初めて食べるかも。良い匂いだなぁ。ふふっ。」

 

炭治郎が喜びながら土鍋の中を覗いている間、カナヲは料理中の事を回想していた。

 

『カナヲ。今から炭治郎さんのご飯を用意するから。私が全部やっても良いけど、カナヲが作ってあげたいでしょう?』

 

『そう、次に塩を……それは砂糖っ! 砂糖だからっ!!……ほっ……ちょっ!? それは多すぎ! そんなに入れなくて良いからっ!! ほんのちょっとだけで良いの……それは少なすぎぃ!!』

 

『はぁ、はぁ、はぁ。やっと出来た。そ、それを炭治郎さんに持って行ってあげて。あ、もし一人で食べられそうに無かったらカナヲが炭治郎さんに食べさせてあげてね。』

 

最後のアオイの言葉に、カナヲの顔が赤くなる。しかし、実行するべく匙で牛乳粥を掬って炭治郎の下へ運んだ。

 

「はい、あーん❤️」

 

「カ、カナヲ。そんな事しなくても俺は一人で……。」

 

「あ―――ん❤️」

 

「……あ、あーん。」

 

カナヲの熱意に根負けして炭治郎は大人しく食べさせて貰った。食べ終わった後、カナヲは満足そうに頷いた。

 

「ご、ご馳走様でした。」

 

「お粗末様でした。炭治郎、美味しかった?」

 

「う、うん。とっても、美味しかったよ。」

 

「良かった……ねぇ、炭治郎。」

 

「何だい? カナヲ?」

 

「炭治郎が治るまで、私が食べさせてあげるからね❤️」

 

「え? い、いやぁ、そこまでしなくても……。」

 

「食べさせてあげるからねっ❤️」

 

「……う、うん。よろしくお願いします。」

 

「うんっ❤」

 

一方的にカナヲが炭治郎から承諾を得ると、カナヲはもの凄く嬉しそうに返事してご機嫌な様子で、食器をお盆に載せて部屋から退室して行った。

炭治郎は黙ってカナヲが部屋から退室するのを見届けるしか無かった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「炭治郎、入るね。」

 

「ああ、カナヲ………それはお湯の入った手桶と手拭いかな?」

 

「うん、炭治郎に必要だと思ったから持って来たの。」

 

「そっか、ありがとうね。カナヲ……じゃぁ「私が拭いてあげるから。」……はいっ。」

 

炭治郎は自分で拭くと言おうとしたのだが、カナヲに先手を打たれて言質を潰されてしまい、カナヲの有無を言わせない力強い言葉に押されて承諾した。

 

「……フ――ッ、フ――ッ、フ――ッ。」

 

カナヲはかなり興奮しながら炭治郎の服を脱がせて行った。酷く興奮気味なカナヲに炭治郎は少々引き気味になったが、少しでも拒絶するとカナヲが泣きそうになるので、炭治郎は我慢してカナヲに身を委ねた。

 

「フ――ッ、今から拭いてあげるね、炭治郎っ。フ――ッ、フ――ッ。」

 

「う、うん。お手柔らかにね……?」

 

カナヲは相変わらず興奮しながら、されど出来るだけ長くやっていたいのか、ゆっくりと丁寧に炭治郎の身体を拭いて行った。

しかし炭治郎の身体を隅々まで丁寧に拭いて行ってると、ついに一ヶ所を除いて拭き終わってしまう。そう、炭治郎の股間部である。そこの部分を巡ってカナヲと炭治郎が激しく言い争い始めた。

 

「カナヲっ! そこは流石にしなくて良いから! 自分でやるから!!」

 

「フ――ッ!! フ――ッ!! 遠慮しなくて良いからっ!! 全部っ!! 全部私に任せて炭治郎は大人しくしててっ!!!」

 

「遠慮とかそういう問題じゃないって! カナヲっ! お願いだから此処だけは俺にやらせて!!」

 

「大丈夫だからっ!! フ――ッ!! 炭治郎の大事な部分(ところ)だもの!! 私が丁寧にじっくり拭いてあげるから!!! フ――ッ!! フ――ッ!!」

 

「してなくて良いってばっ! お願いだからやめてくれっ! 後で何でもカナヲの言う事を聞いてあげるから!!!」

 

興奮しすぎて理性が崩壊しかけていたカナヲだったが、炭治郎の一言で先程までの興奮っぷりは何処へ消え去ったのかと問い詰めたくなる程、カナヲは冷静さを取り戻した。

 

「……ほんと?」

 

「ほ、ほんと、ほんと。炭治郎、嘘吐かない。約束するよ、カナヲ。」

 

「……分かった。」

 

こうして何とか炭治郎は自身の、男性としての尊厳を守る事に成功した。と言っても、カナヲは炭治郎が自分で自分の股間部を拭く時も退室を拒絶して、背を向けるだけに留めていた。

炭治郎は疲れ切って逆に熱が上がりそうだったが、もうどうとでもなれと半分ヤケクソ気味だった。

炭治郎は疲弊した様子で、カナヲに願いを尋ねた。

 

「カナヲ。俺に出来る事なら、って条件が大前提だけど、何でもやるよ。遠慮せずに言ってご覧?」

 

「う、うん……今から考えるから、ちょっと待ってて。」

 

カナヲは真剣に炭治郎に叶えて貰う願いを考えていた。願いが決まったのか、椅子に座っていたカナヲが勢い良く立ち上がった。炭治郎は願いが決まったのだろうと聞く姿勢を取る。

この時のカナヲは鬼狩りの時ですらしない程、真剣な顔付きになっていた。因みに数分程度しか経っていないが、カナヲは数時間が経過したかのように錯覚していた。

 

「カナヲ。願いは決まったかい?」

 

「うん……でもちょっと待ってて。すぐ戻るからね、炭治郎。」

 

「……っ?」

 

カナヲはそう言って竈門兄妹の自室から退室すると、ドタドタと大急ぎで駆け出して行った。

数分後、再びドタドタと激しい音が聞こえていると、カナヲが部屋に入室して来た。隊服ではなく、寝間着になっていた。そしてカナヲは炭治郎にこう言った。

 

「炭治郎。一緒に寝よ……?」

 

「え……?」

 

その後はあっという間であった。カナヲは直ぐに炭治郎の寝台(ベッド)に潜り込んで添い寝をする。炭治郎が状況を理解した頃には、なんかこんな似たような状況がこの前あったなぁと現実逃避する事しか出来なかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「あ、あの。カナヲ。」

 

「何、炭治郎?」

 

「良いの? 俺、風邪だからカナヲに伝染(うつ)っちゃうかもよ?」

 

「大丈夫。私、馬鹿だから。」

 

「えっ?」

 

「馬鹿は風邪引かないって昔から言うでしょう? だから私は大丈夫っ。」

 

「……カナヲは馬鹿じゃないから、今後そう言う事は絶対に言わないでね……。」

 

炭治郎の真剣な様子で言った言葉に、カナヲは一瞬動揺するも話を続けた。

 

「分かった……でも本当の事だよ。私は自分で何も判断出来なかった。どんなに簡単な事でも自分で決断なんて、私には出来なかった……。」

 

「カナヲ……。」

 

「でも……でもね。炭治郎と出会って、私はほんのちょっとだけど変わったの。変わる事が出来たの。もし炭治郎がいなかったらこんな事、絶対に決められなかった……こんな未来は有り得なかった。全部、全部、炭治郎のお蔭なの……だから、だからね。」

 

語り終えたカナヲは改めて、炭治郎への感謝と好意を言葉に込める。

 

「本当に、ありがとう。炭治郎っ。」

 

「……っ。」

 

カナヲからの感謝の言葉に、炭治郎は胸がいっぱいになる。そして思わずカナヲを抱き締めた。

 

「カナヲ、俺の方こそありがとう。君は前から素敵な女の子だけど、今の方がずっと可愛くて素敵だよ。」

 

「炭治郎……っ!!」

 

カナヲは炭治郎から抱擁と称賛の言葉に歓喜して、カナヲも炭治郎を強く抱き締めた。暫くしてから、カナヲから会話を再開した。

 

「ねぇ、炭治郎。少しの間だけ離して。早く良く()るおまじないをしてあげる。」

 

「早く良く()るおまじない……? 分かった。良いよ。」

 

炭治郎が抱擁を緩めると、カナヲは炭治郎の頭部に触りながらこう言って顔を近付けた。

 

「早く炭治郎が元気になりますように。」

 

チュッ❤️

 

カナヲはそう言って炭治郎の額に口付け(キス)にを落とした。

 

「……」

 

「炭治郎、おやすみなさい❤️」

 

茫然とする炭治郎を余所に、カナヲは再び炭治郎を抱き締めてから目を閉じると眠りに就いた。そして炭治郎は茫然としつつ、更に熱が上がったように赤くなった顔色で呟いた。

 

「どうしよう。熱が下がるどころか、逆に上がりそうだ……本当に治るのかなぁ、俺。」

 

炭治郎の悩みを答えてくれる者は誰も居なかった。

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
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