※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

40 / 65
※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*超辛口表現有り。苦手な方ご注意下さい。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第肆拾話 日輪は鬼殺隊に処刑される

東京府・産屋敷邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:夜

天気:晴れ

 

大日本帝国有数の大名門・産屋敷家の邸宅で、一組の男女が満月を眺めて月見を楽しんでいた。

産屋敷家現当主・産屋敷耀哉とその妻・産屋敷あまねである。

 

「こんな風に、また君と月見を楽しめる日が来るとはね。人生、何が起きるか分からないものだ。」

 

「はい。」

 

耀哉は失った視力を愈史郎の手で取り戻した事で、一年振りに夜闇に浮かぶ夜景を楽しんでいた。

耀哉本人は月見酒と洒落込みたかったが、やはり体調に配慮して大人しく緑茶で我慢している。

 

最初の会話から沈黙が続いたが、暫くしてから再び耀哉の方から開口する。

 

「今日は鬼殺隊にとって、最も長い一日になった。」

 

「はい。」

 

「そう……最も騒々しく、忙しく、刺激的で……楽しく愉快な一日だった。」

 

耀哉はそう言うと、嬉しそうに微笑を浮かべた。

 

「炭治郎がね……見ていて、とても楽しかったよ。何時まで見ていても飽きない……寧ろ、目が離せないし放っておけないくらいだ。」

 

「っ!……仰る通りだと思います。」

 

炭治郎の話題になって、あまねも先刻よりほんの僅かだが強く反応した。自身の愛娘達の初恋相手なのだから、やはり気にはなるのだろう。

 

「そうなると……今流れている噂は炭治郎達にとって良くないね。何とかしてあげようか。」

 

「と言いますと……?」

 

「それはね、まだ秘密だよ。あまね。」

 

耀哉は何か思い付いた様子で、悪戯心が見える笑みを浮かべた。それから耀哉はあまねに頼んで、ある人物を呼んで貰った。

 

「あまね、()を呼んで貰えるかな? 少しばかり話したい事が有るんだ。それに先刻(さっき)行われた()()()は最高だった。また見せて貰いたいからね。」

 

「分かりました。早速、呼んで参ります。」

 

あまねが一礼してから退室するのを見届けてから、耀哉は月を眺めながら嬉しそうに、楽しそうに少し前に起こった出来事の回想を始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:夕方

天気:晴れ

 

緊急柱合会議が無事に閉幕となり、産屋敷本邸にて豪勢な晩餐会が開催された。

夕方から産屋敷本邸に勤める優秀な使用人達によって夕食の準備が行われ、全員の席に出来立ての料理が次々と並べられた。

 

因みに、晩餐会が行われたのは別の部屋だ。何故かと言うと、竈門炭治郎の恋人である胡蝶しのぶが畳を一部踏み砕いてしまったからである。

 

「……」

 

しのぶは一人、先刻の嫉妬に狂った衝動から引き起こした大醜態を振り返って、羞恥心から赤面していた。しのぶはあの後、大広間の一部を破壊した事を耀哉に土下座して謝罪をしていた。

 

そんなしのぶを他所に使用人達が料理が並び終えた事で晩餐会が始まったのだが、今度は炭治郎が当惑したまま落ち着きを失っていた。そんな炭治郎に、近くで座っている耀哉が声を掛ける。

 

「炭治郎。先刻(さっき)も言ったけれど、君は今回の立役者なのだから、遠慮せずに上座に座ってくれて良いんだよ?」

 

「でも、だからって御館様を差し置いて俺が上座になんて……。」

 

「竈門様。耀哉様がこう仰られているのですから、寧ろ甘んじて受けるべきです。竈門様の美徳ではありますが、謙遜も過ぎれば却って傲慢になります。どうぞ、御遠慮無く。」

 

「っ!……分かりました。」

 

あまねに諭された炭治郎は仕方無く、言われた様に大人しく胸を張って上座に座る事にした。

 

炭治郎が当惑していたのは、鬼殺隊の頭領で主君たる耀哉が上座に座る事を炭治郎に勧めたからだ。直ぐに固辞した炭治郎だったが、耀哉に押し切られて上座に仕方無く座っていた。

 

この事で異論や文句を言う者は出なかった。正確には、文句を言い出せなかったというのが正しい。もし口にしてしまえば、耀哉の顰蹙を買う事が分かり切っていたからである。

 

この晩餐会には鬼であり、通常の人間の食事が摂れない珠世と愈史郎、そして炭治郎の妹である禰豆子も出席して大人しく過ごしていた。

 

珠世はともかく愈史郎が大人しく出席している理由は、珠世のために耀哉が最高級の紅茶を用意しているからだ。

 

珠世にとって紅茶とは、血以外で唯一口にする事が出来る唯一の飲料である。

珠世は用意された紅茶を楽しんでいるから、愈史郎もそんな珠世を楽しく眺めながら大人しく過ごしているのである。因みに、禰豆子は炭治郎の背中から抱き着いて大人しくしていた。

 

一方でそんな珠世と愈史郎以上に、この晩餐会を楽しんでいる者達が居た。

 

「はい、炭治郎様。あーん❤」

 

ひなきがタラの芽の天麩羅を箸で掴むと、炭治郎の口元まで運ぶ。

 

嫡男の輝利哉を除く耀哉の実子達、ひなき達耀哉の愛娘達が炭治郎を取り囲んでいた。

 

ひなき達全員が、普段とは異なる髪飾りを付けている。

ひなきが桜の髪飾りを、にちかが菊の髪飾りを左側頭部に着用し、くいなが梅の髪飾りを、かなたが椿の髪飾りを右側頭部に着用している。

 

炭治郎は似た様な事がこの前有ったなと内心で思いながら、拒否出来ずに口に入れてタラの芽の天麩羅を食べ始めた。

 

「あ、あーん……み、皆さん。俺の事は構わなくても良いですからっ。」

 

「そんな遠慮など、どうか無さらないで下さい。私達は、好きでやっているのですから。」

 

「でもそれだと御自分が食べられないんじゃ……。」

 

「でしたら……炭治郎様が食べさせてくれると、嬉しいです……っ❤」

 

炭治郎は何かと理由を付けてひなき達と離れようとしたが、結局それが出来ず終始食べさせ合いに終わった。

 

『……』

 

そんな炭治郎達を、行冥達は何も口出し出来ずに見守る事しか出来なかった。尤も、一部の者達の行動は違ったが。

 

「……」

 

禰豆子は炭治郎の食事を邪魔しないためか、動かず大人しくしていた。

 

――……ふんっ!

 

しのぶは苛立ちながら、自棄(ヤケ)喰いに走っていた。

 

「んっ〜〜〜❤ どれも全部美味しい〜〜❤❤」

 

蜜璃は晩餐会に並べられた御馳走を、夢中になって堪能していた。

 

「甘露寺、これも美味いぞ。食べてみたらどうだ?」

 

「っ……わあっ! 伊黒さん、ありがとう!」

 

小芭内は食事に全集中する蜜璃のために、次々と料理を勧めていた。

 

「……ムフッ。」

 

義勇は大好物の鮭大根を出されて、滅多に見せない満面の笑みを浮かべて御満悦であった。

 

「…………」

 

そんな義勇の満面の笑みを目の当たりにしてしまった実弥は、青褪めた顔で食事を黙々と続けた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時刻:19:00

天気:晴れ

 

鬼殺隊随一の大喰らいである蜜璃が漸く箸を止めた事で、晩餐会は程無く終了した。

空になった大皿を始め食器が次々と撤去されていったが、卓子(テーブル)が素早く拭かれると今度は食後のデザートとして老舗から取り寄せた銘菓が次々と並べられた。

 

その中には、炭治郎が蛍と一緒にみたらし団子を食べた"朝田屋"の団子各種も有った。

 

――あっ、この団子は"朝田屋"の……何時かあの二人には、しのぶさんと御礼を言いに行きたいなぁ……。

 

在る意味、炭治郎としのぶが結ばれる切っ掛けを作ってくれた浅田夫婦の顔を思い出して、炭治郎は感謝の念を抱きながら必ず報恩すると心中に誓った。

 

各々で好きな銘菓を取って食べる中、上座に居る耀哉が不意に開口した。

 

因みに何故、先刻まで上座に座っていなかった耀哉が炭治郎と入れ替わっているのかというと、それは炭治郎が晩餐会終了後に耀哉へ急いで譲渡したからである。また、これ以上炭治郎を誂うのも可哀想だという理由も有った。

そして炭治郎と禰豆子が席を変わった時、そそくさとその隣をしのぶ、カナヲ、アオイの三人が移動して席を確保していた。

 

「そう言えば……もう()()()()、はっきりさせなければならない事が在った。」

 

『!』

 

耀哉の一言に、炭治郎達は注目した。

 

「御館様、はっきりさせなければならない事とは何でしょうか?」

 

炭治郎が全員を代表する形で、耀哉にそう訊ねた。訊ねられた耀哉は、笑みを浮かべて炭治郎に答える。

 

「勿論、炭治郎の事だよ。」

 

『っ!?』

 

耀哉の一言で、大広間は騒然となった。先刻の炭治郎追放未遂事件の一件も有って、誰もが緊張感を抱いていた。

 

「えっと……あのっ……。」

 

特に炭治郎に至っては眼の焦点が合わず、脂汗を滲ませていた。

 

「心配しないで、炭治郎。別に君を取って食おうって訳じゃないから。」

 

「当たり前です!」

 

しのぶは怒りを隠す事無く、炭治郎を抱き抱える様に抱擁した。そんなしのぶを見て、耀哉は不快に思う事無く微笑みながら話を続けた。

 

「私がはっきりさせたいのは、炭治郎への褒賞だよ。私の所為とは言え、先刻(さっき)の騒動で有耶無耶になってしまったからね。」

 

『!』

 

「っ!……っ。」

 

耀哉の意図を知ったしのぶは納得出来たのだが、それ以上に自身が先刻の騒動の元凶であるため、治まっていた羞恥心が再びぶり返し始めていた。

 

「俺の褒賞ですか?……でも、御館様。俺は別に欲しいとは思いません。それは全部、珠世さんと愈史郎さんに……。」

 

「そう言う訳には行かないんだよ、炭治郎。信賞必罰は此の世の常。一度言った様に、君の大功績は鬼殺隊の歴史を振り返っても類を見ない程の素晴らしいものなのだから。」

 

「……」

 

炭治郎は褒賞を固辞しようとしたが、耀哉に説得されて炭治郎は閉口して沈黙する。耀哉は異議を唱えなくなった炭治郎を見て、話を進めた。

 

「先ず最初に、護衛の任務を全うしてくれた五人の働きを称えたい。其処でカナヲ、善逸、伊之助の三人の階級を一つ昇進させる。アオイは……()()()()()()()()()()()()()からね。悪いけど、金銭で報いても良いかな? 望みが有れば、出来る限り答える心算だけれど……?」

 

『!』

 

「っ!……でしたら私の分の褒賞も炭治郎さんに上乗せしてお与え下さるなら、私にとってこれ以上の喜びはありません。」

 

――アオイさんの階級……?

 

アオイは一度だけ耀哉の言葉に反応すると、小さく頷いて承諾した。炭治郎はアオイの階級が気になったが、今はそれどころでは無かった。

 

「ふむ、ではアオイの要望通りにしよう……炭治郎、君に一つだけ聞きたい事が有るんだ。」

 

「は、はいっ! 何ですか、御館様?」

 

炭治郎は一度息を呑んで、耀哉から訊ねられるであろう質問に備えた。その質問の内容とは、驚愕すべきものだった。

 

「炭治郎、君は柱になる心算……いや覚悟は有るかな?」

 

『!?』

 

「えっ?……えぇっ!?」

 

炭治郎は元より、行冥達も驚きを隠せなかった。しかし、耀哉は笑みを浮かべてその話を繰り返した。

 

「私は本気だよ? 愈史郎の提案通り、柱の上限数は撤廃しようと思ってね。……尤も、そうでなくても杏寿郎の席が空いている。

鬼殺隊に残るならその席には是非、炭治郎に座って欲しいと思っているんだ。当初は君を辞めさせようとした、私が言うのも何だけどね。」

 

『っ!』

 

耀哉の口振りから本気で断言する様にそう言うと、行冥達の視線は自然と炭治郎に集中した。大広間に居る人間全員から視線を一身に受けた炭治郎は、無意識に生唾を呑み込んだ。

 

炭治郎は匂いで周囲の反応が複数に別れていると分かった。

 

賛成から歓迎する者と反対から反発する者、心配や不安の匂いを発する者や嫉妬する者と少なくとも四種類の反応が有った。

すると炭治郎だけでなく耀哉もその空気を察したのか、牽制する様に言葉を発した。

 

「言っておくけれど、周囲に慮る必要は無い。確かに君が柱になるための基本条件を達成しているとは、言い難いかもしれない。」

 

「だが杏寿郎達の援護有りきとはいえ、十二鬼月の魘夢(下弦の壱)を葬っているのもまた事実。その成熟した人格とまだ秘められている潜在能力を考えれば、君は認められて然るべき特別な子供なんだ。そもそも、基本条件など君が今日打ち立てた大功績の前では些末な事に過ぎない。」

 

「珠世と愈史郎を味方に引き入れ、薬と吹き矢……そして『紙眼()』を手に入れられた。無惨に関する情報を筆頭に、上弦の壱・弐・参に関する情報。"青い彼岸花"に"痣"、"赫刀"と"透き通る世界"といった情報も得る事が出来た。これらは全て、君の働き失くして得られなかった。この事実は誰にも否定などさせないし、私が許さない。君は柱になるに相応しい子だ。そしてこれは飽くまでも、君自身がどうしたいかだよ。炭治郎。」

 

「っ!……っ。」

 

柱になる事を推薦されたと解釈しても決して過言ではない耀哉の言葉に、炭治郎は双眸を閉じて一考を始めた。

 

耀哉達はそんな炭治郎を静観する中、ついに結論が出たのか炭治郎は双眸をゆっくりと開いて耀哉を真っ直ぐ見詰めて自身の結論について答えた。

 

「御館様、やはり俺はまだ柱になる事は出来ません。いいえ、そもそも俺には柱に資格すら有るとは思えません。」

 

『!』

 

炭治郎が出した結論とは、柱への就任を拒否する事だった。耀哉は炭治郎の結論を聞くと、耀哉が装着している『紙眼・視』の眼の部分が細くなって炭治郎を見詰める。

 

「ふむ、やはりそう来たか……では、その理由を聞こう。君は柱になりたいと、そう聞き及んでいるのだけれど?」

 

「はい。俺は御館様が仰る様に俺は柱になりたいと、心からそう望んでいます。」

 

耀哉の訊ねられた炭治郎は、正直に自身の願望を素直に答えた。

 

「ですが、俺が本当に欲しいのは柱に成れる程の強さです。柱はそのための目標や指針に過ぎません。柱の地位そのものになんか、興味なんて微塵も有りませんから。」

 

「ほう……?」

 

しかし、直ぐに炭治郎は自身が柱を目指す本当の理由を語った。本当に必要なのは強さであり、地位から得られる特権や名誉など、炭治郎にとって何一つ価値が無かった。

 

炭治郎はゆっくりと語り始めた。

 

「俺は禰豆子を人間に戻せれば、それで良かった。鬼殺隊に入隊したのも、罪の無い人達が俺と同じ悲劇を味わって欲しくないと思ったと同時に、一番人間に戻せる手掛かりが得られると思ったからです。」

 

「その目的さえ達成出来れば、他に望みはありせんでした。鬼殺隊での出世なんて何一つ関心が無かったし、正直言ってどうでも良かった。柱なんて、眼中にも有りませんでしたし、あけすけも無く言うと関わり合いたくも無かった。」

 

「君の場合、柱への第一印象なんて最低最悪のものだったろうからね。」

 

「えぇ、まぁ……普通に考えれば皆さんの見解が当たり前で正しかったのは事実ですし、無断で鬼を連れている俺がそもそもの原因なんですけどね。

当時の俺は身勝手にも最初、「なんて分からず屋しかいないんだろう。」って思ってました。今思うと、本当に恥ずかしいです。すみませんでした。」

 

炭治郎はそう言って、当時の自身の言動に関して謝罪した。

 

「そんなに自分を卑下する必要は無いよ、炭治郎。」

 

炭治郎の謝罪を受けて、耀哉は優しく窘めた。其処から耀哉は、ゆっくり語り始める。

 

「確かに長年、数多の鬼と対峙し戦って来た柱の剣士(子供)達が、鬼の禰豆子に反発する気持ちは正しいものだ。

罪無き人々から大切な人を奪い殺す鬼の存在を許さないと想うその気持ちは、鬼殺隊の隊士として何も間違ってはいない。」

 

耀哉は先ず、柱として抱く感情や私情、そして個人の事情を配慮してそう言って評価し擁護した。

 

「しかし、禰豆子に対してそれは誤りだった。大前提からして、間違いを犯している。非常識な存在に対して、常識に当てはめて対応しようとした事自体が大間違いだからだ。」

 

『!』

 

耀哉は刹那の間も置かず、直ぐに行冥達の判断は禰豆子の存在を理由に否定した。耀哉は、更に語り続ける。

 

「彼女が人間を襲わない事を誰よりも理解し、ずっと兄妹で力を合わせて傷付き血を流しながら共に鬼と戦って実績を重ねて来た炭治郎が、柱の剣士(子供)達の言動に不満を覚えるのもまた、当然の反応だ。」

 

耀哉は炭治郎が行冥達に反発した言動や態度を取った事実に対して、やむを得なかったと肯定する。

 

「第一……本来なら絶対的な力を持っている筈の柱の剣士(子供)達が、あろう事か寄ってたかって人の話や言い分すらも聞こうともせず、自分達より圧倒的な弱者であり、拘束され抵抗出来なかった炭治郎を一方的にかつ、頭ごなしに否定して独断で断罪しようとするなど、許されて良い筈が無い。」

 

「あの様な弱い者虐めの如き、醜悪で稚拙で愚かな言動と行動そのものに問題が有った。この醜い事実を前にしては、誰にも否定のしようが無いだろうね。」

 

耀哉はそう言い終えると、行冥達を一度ゆっくりと見渡してから、一度だけ耀哉は深い溜息を吐いた。

 

「鬼殺隊を支える柱とは、鬼を斬る刃だけの存在では無い……何よりも自分より弱き者達を支え、罪無き人々を守る盾でならなければならない。」

 

「「鬼だから構わない。何をしても良い。」などと思い上がった愚考を抱き、鬼を斬る事で悦楽や快楽を覚えるなど、人殺しで快楽を覚える殺人鬼と何ら変わらない。鬼を殺す事で達成感や充足感、満足感を得るなど、以ての外だ。鬼もまた、鬼舞辻無惨の手によって生まれた哀れな被害者であり犠牲者なのだから。」

 

「鬼殺隊の暗黙の鉄則。にも関わらずその基本中の基本を忘却の彼方に追いやり、柱の責務を放棄して愚かにも個人的な感情を優先した。」

 

「愈史郎が最初に言っていた様に、はっきり言って柱としての自覚がまるで足りていない、実に相応しくない戯言と愚行だったと評価せざるを得ないね。」

 

『…………』

 

耀哉に当時の自身の言動を戯言と、行動を愚行を責められ咎められた行冥達は、何も言えず顔を俯かせて沈黙を貫いたまま、身を小さくする事しか出来なかった。

そんな行冥達に一切気に掛ける事無く、耀哉は一人、こう呟いた。

 

「そして何よりもこの一件に関しては……禰豆子の対応を誤り、穏便に周知徹底を成す努力も怠り黙認だけで済ませていた、私の不手際と怠慢と無能が全ての元凶としか言えないだろう。」

 

『!!』

 

耀哉は特定の誰かに言う訳でも無く、自責の念から自身の愚行と愚断を責めた。それから、耀哉は炭治郎に向かってはっきりと断言した。

 

「今更私が後悔したところで、詮無き事だけれど……私がもっと、君達兄妹のために根回しを済ませて舞台を整えてさえいれば、あの様な見苦しい事態にはならなかった。全ての責任は私に在る……炭治郎、禰豆子、あの時は私の所為でごめんね。」

 

『!!!』

 

耀哉が竈門兄妹に頭を下げて謝罪した事に、大広間はザワついた。

 

「そ、そんな! 御館様が俺達に謝る必要なんて無いです!! どうか頭をお上げ下さい!!!」

 

炭治郎は慌てた様子で、耀哉に頭を上げる様に説得した。

 

『…………』

 

耀哉が頭を下げて謝罪する様子に行冥達も炭治郎と同様の事を言いたかったが、自身達がそもそもの原因である事を理解してか、何も言う事が出来ず沈黙するしかなかった。

 

行冥達はその後も沈黙したまま何とも言えない表情を浮かべる事しか出来ず、その中で三名程が顕著であった。

蜜璃は縮こまりながら、「ごめんね、ごめんね。」と小さく謝罪の言葉を繰り返し、しのぶと無一郎は青褪めて顔を俯かせていた。

 

蜜璃は終始中立を貫いていたのだから自責の念に駆られる必要性など皆無なのだが、竈門兄妹に味方しなかった事自体を自身の失態と解釈していた。

 

「し、仕方ないと思いますよ? 禰豆子さんはあまりにも特殊過ぎる……本当に奇跡的な存在なのですから。」

 

見兼ねた珠世が思わず、行冥達を擁護する発言を発した。しかし、鬼の珠世に擁護されたためこれが却って行冥達は更にいたたまれない気持ちを抱かせた。

 

「珠世様、別に擁護する必要など無いでしょう?

良い歳をした何処ぞの柱共が、大人に成り切れずに自分達の何一つ価値が無い、至極下らない些末な感情を優先して可能性の芽を自らの手で摘もうとしたんです。はっきり言って、阿呆の極みかと。」

 

「愈史郎っ!」

 

珠世の擁護を台無しにして傷口に塩を塗るが如く甚振る愈史郎の言動に、珠世は思わず声を荒げた。

 

「……まぁ禰豆子の場合、鬼の素質の高さだけで無く、家族である兄の炭治郎への深い愛情も鬼の本能を抑えて理性を保てた理由だと思うけれどね?

それに過ぎた事を色々後から言ったところで、今更意味は無い。ただ言えるのは、禰豆子の特性を常人が見抜くのは不可能と言っても過言では無い筈だ。」

 

「未熟で役立たずで愚図な(ボンクラ)共の言い訳作りも大変だな。下が馬鹿ばかりだと、上は無駄な苦労も多い事だろう? お前には心底同情するよ。」

 

『……』

 

不本意な人事を押し付けられた腹癒せのためか、愈史郎は毒舌な言動を緩める気など一切無かった。炭治郎は雰囲気を変えるべく、議題の軌道修正を試みる。

 

「コホン……最初こそ、義勇さん以外全然良く見てませんでしたけど……今は違います。しのぶさんと蝶屋敷で過ごした日々と……特に杏寿郎さんとの無限列車での合同任務が、俺にとっての契機になりました。」

 

「杏寿郎……最初こそ君達兄妹の斬首を求めていたけれど、同時に死に際で禰豆子を最初に認めた柱でも在る。尤も、義勇を除いてだけどね……あの子が炭治郎に送った言葉は、ちゃんと私にも届いているよ。杏寿郎は、本当に凄い子だった。」

 

「……っ。」

 

杏寿郎への称賛の言葉を聞いて、炭治郎は胸に熱が籠る感覚を覚えた。

 

炭治郎は深い感謝の念を抱いて、耀哉に平伏した。そして耀哉の宣言を聞いて、炭治郎もまた自身が抱いた抱負を公言する。

 

「俺は杏寿郎さんの遺志を紡ぐために、これ以上誰も悲しまなくて済む様に、俺は柱になります。なってみせます!……ただし、それは相応の力を得てからです。」

 

「その心意気はとても立派だけれど、十二鬼月はもう上弦の鬼しか居ない。新しい基準では、柱になる方法が厳しくなるよ? 炭治郎、君はそれでも良いのかな?」

 

炭治郎の抱負と誓約を聞いて、耀哉は優しさから気遣う様に忠告した。しかし、炭治郎の決意は変わらない。

 

「はい、良いんです。御館様からお褒め頂き、御評価して下さるのは嬉しいです。でも俺は皆と比べたら凄くないし特別でもありません。ただ、運良く今日まで誤った道へ足を踏み外さずに済んでいるだけでしかない。」

 

「それも自分の意志で、決断を下して来た訳じゃない。何時も誰かの導きの御蔭で、俺は誤った道を進まずに済んでいるだけで……明日も間違えないか、正しい道を歩めるか怯えているのを隠しているだけなんです。」

 

「そんな弱い今の俺に、柱になる資格などありません。でも御館様に誓いますっ。俺は何時か、今よりも強くなって上弦の鬼を倒して柱になります。

今日までの柱達が血反吐を吐く程の努力をして、幾つもの死線を潜り抜けて頑張って来た様に俺もそうします。だから御館様も、俺の事は簡単に認めないで下さい!」

 

『っ!!!』

 

『……』

 

大広間に居る者達は各々で反応しながら、炭治郎の啖呵をしっかりと耳にした。炭治郎は姿勢を正して、耀哉に平伏する。

 

「改めて、ありがとうございます。御館様から御褒めの御言葉を沢山頂いて、とても嬉しかったです。ありがとうございました。」

 

『……』

 

炭治郎は心から多謝の言葉を口にして、耀哉に感謝の念を捧げた。

 

「……分かった。其処まで言うなら、炭治郎の柱就任は保留にしよう。」

 

『!』

 

耀哉は炭治郎の意思を尊重して、柱の就任は諦めた。しかし、耀哉は炭治郎への褒賞を取り止めた訳では無かった。

 

「だが、階級は昇進させるよ。そうだね……『(ひのえ)』まで位上げする事にしようか。」

 

『!!』

 

「そ、そんなっ! 俺は一番下の『(みずのと)』なのに、いきなりそれは……っ!」

 

炭治郎は耀哉の言葉に動揺を隠せなかった。それもそうだろう。

 

頂点の柱になり掛けた事実を考えれば、どうしても印象(インパクト)が下がってしまうものの、いきなり一番下の階級である『(みずのと)』から、上から三つ目の『(ひのえ)』にまで昇進させようと言うのだ。

 

異例とは言え、この様な形の出世は別に前例が無い訳では無い。

過去十年に遡って例題を挙げるならば、行冥と無一郎が代表的な事例になる。

そして鬼殺隊の歴史を紐解けば、これまで柱の中でも飛び級で何度も階級を昇進させて柱になった例は何十人と存在している。

 

そして最も異例とされている事例は、元花柱のカナエである。カナエに至っては『(みずのと)』から、いきなり柱に昇進という前代未聞の出世を成し遂げているのだ。

 

だが、それでも炭治郎にとっては衝撃的な出世だった。鬼殺隊では遺族が居る場合、殉職後に二階級特進した階級の給与が遺族年金として支払われる制度がある。

 

それを考えると、炭治郎が三回殉職して二階級特進を繰り返しても届かない階級である。それを考えれば、驚くのも無理な話では無い。

 

遺族が路頭に迷わずに済む様にと言う産屋敷家の配慮から始まっているこの殉職制度だが、実はかなり時代を先取りしている先駆的な制度であった。日本軍では出来たばかりで、当時の警察には無かった制度なのだから。

 

余談ではあるが、そもそも殉職制度とは一九〇四年(明治三十七年)に勃発した日露戦争において、軍神と称賛された二人の名将、広瀬武夫海軍少佐と橘周太陸軍少佐が戦死した後、その軍功が大々的に称賛され、両者共に特進した事が殉職制度の始まりと言われている。

 

しかし、この時の両者は一階級特進のみに留まっており、最終的な階級は中佐であった。

 

この殉職制度が二階級特進にまで制度が改定されるまでには、一九三二年(昭和七年)に起こる第一次上海事変まで時代を待たなければならなかった。

 

「何言ってんだ、炭六郎。俺達の階級、『(みずのえ)』だぞ? 下から二番目。」

 

「えっ?」

 

驚きっ放しの炭治郎を余所に、伊之助が立ち上がって右手に握り拳を作ってからある言葉を唱えた。

 

「階級を示せ。」

 

すると手の甲に、『(みずのえ)』の文字が浮かび上がった。惚ける炭治郎に、しのぶが説明した。

 

言葉と筋肉の膨張によって文字を浮き出すこの技術は、"藤花彫り"と呼ばれる鬼殺隊専用の特殊技術である。因みに柱になれば、柱名が刻まれる。

 

「階級が上がる度に、文字は彫り直されるの。炭治郎君は蝶屋敷で、『隠』に彫り直されたのを……それより"最終選別"の後で藤襲山でされたのを覚えていない?」

 

「……すみません、全然覚えていないです。」

 

恥ずかしそうにそう言う炭治郎、しのぶは微笑みながら慰める様に頭を撫でた。

 

「……炭治郎。御館様が其処まで、お前の事を評価しているんだ。御館様を思うなら、謹んで受けろ。辞退は却って、御館様を侮辱する事になる。」

 

「っ!! 義勇さん……はい、分かりました。」

 

義勇に説得され、炭治郎は昇級を受ける事を決意した。これにより炭治郎は、鬼殺隊第三位階『(ひのえ)』に。カナヲは鬼殺隊第五位階『(つちのえ)』に、善逸と伊之助が鬼殺隊第八位階、『(かのと)』に昇進を果たしたのである。

 

――炭治郎に追い越されちゃった……階級なんてどうでも良いけど、どうせならもっと偉くなって炭治郎の役に立ちたいなぁ。

 

この結果にカナヲはそう思い、自身の精進を更に強化する事を決意した。

 

「分不相応、だと言わんばかりだね。炭治郎?」

 

「えっ!?……えーと、はい……。」

 

炭治郎は耀哉に心情を見抜かれて、困った表情をしながらも肯定した。

 

「君の謙虚な姿勢はとても好感が持てるけれど、これは信賞必罰を守って鬼殺隊の秩序を守るためだけじゃない。この昇進は、君のためでも在るんだよ。」

 

「俺のため……?」

 

耀哉が言っている言葉の意味が理解出来ず、炭治郎は首を傾げた。耀哉は苦笑しながら語り始めた。

 

「今後、鬼殺隊において珠世と愈史郎に何かあれば、炭治郎にも責任が及ぶだろう。君は珠世と愈史郎を鬼殺隊と合流させた、立役者だからね。」

 

『!』

 

耀哉の言った内容に、一部の者達は双眸を見開いて驚いた。

 

「おいっ!? 炭治郎にこれ以上、要らん責任背負わせる気か!?」

 

愈史郎が青筋を浮かべて激昂しながら、耀哉に問い詰めた。だが耀哉は一度だけ微笑を愈史郎に向けると、再び炭治郎に語り始めた。

 

「何かをすれば、責任が生じるものだ。そして目的を成し遂げたければ、相応の力が必要だ。そのためには権力を持つ事が、一番の近道になる。」

 

『!!』

 

「っ!……権力……鬼殺隊で、俺に偉くなれと?」

 

「そうだよ、炭治郎。珠世と愈史郎を、禰豆子を、何より君自身を守るためには、鬼殺隊で確固たる地位が必要だ。その地位が高ければ高い程、それだけ発言力も比例して高くなるからね。」

 

耀哉が炭治郎に如何に権力を得る事が大事か説明を終えると、微笑を浮かべてこう言い放った。

 

「と言う訳で、今からでも柱に成る心算は無いかい?」

 

「っ!?……い、いやぁ……それは、ちょっと……。」

 

耀哉からの提案に、炭治郎は困った様子を隠さず口籠った。それから三つを数える程の沈黙の後、コホンと一度咳払いしてから耀哉に向いて返答した。

 

「御館様の御言葉、肝に銘じたいと思います。ですがやはり、今の俺はまだ柱には相応しくありません。」

 

「……そうか。では楽しみに待っているよ。私が君を柱に任命するその日をね。」

 

「はいっ! ありがとうございます!! 必ず柱になるので、どうか待ってて下さい!」

 

炭治郎は勢い良く誓約を口にすると、頭を下げて平伏した。

 

「炭治郎、頭をお上げ……しかし、君が斬られて血を流してまで成し遂げたこの大功績に対して、この程度の褒賞では割に合わないと言わざるを得ないね。」

 

微笑みながら炭治郎に頭を上げる様に言うと、耀哉はそう言ってから顎に右手を当てて一考を始めた。それから耀哉は何か妙案を閃いたのか、ある事を炭治郎に伝える。

 

「そうだっ。良しっ……禰豆子の鬼殺隊入隊も、今日付けで正式に認めようじゃないか。」

 

『!!』

 

「んー??」

 

耀哉が思い付いた提案に、大広間は再び驚きが広まった。特に驚いたのはやはりというべきか、炭治郎であった。

因みに、炭治郎に膝枕されていた禰豆子は話の内容が理解出来て居なかった様だが、名前を呼ばれた事が気になったのか、起き上がって耀哉を見詰めた。

 

「い、良いんですか? 御館様っ。」

 

「良いも悪いも無いよ、炭治郎。既に珠世と愈史郎の二人が、正式入隊を果たしているんだ。そもそも順序で言えば禰豆子こそが、鬼殺隊に入隊した記念すべき鬼第一号だよ。」

 

耀哉はそう断言してから、更なる発表を行う。

 

「禰豆子の階級だけど、総合的に評価して……『(つちのと)』にしようか。」

 

『!』

 

「なっ!?」

 

「な、何ぃっ!?」

 

驚き様が顕著だったのは、善逸と伊之助だ。当然と言えば、当然かもしれない。

何故ならば、自分達が漸く、鬼殺隊第八位階『(かのと)』に昇進したと言うのに、禰豆子は『(かのと)』よりも更に自分達よりも二段階階級が高い、鬼殺隊第六位階『(つちのと)』になろうというのだから。

 

「それから、これはお詫びと言う心算は無いけれど、炭治郎が前に言っていた言葉を引用して、鬼殺隊全体に宣言しておくよ。その前に、産屋敷本邸(此処)に居る全員には先に言い聞かせておこうか。」

 

『!』

 

耀哉が言い放った発言の内容が気になって、炭治郎達は必然と耀哉に注目した。耀哉は自身に視線が集中して集まっている事を確認してから、はっきりと断言した。

 

「必要があればこの先、私は何度でも言おう。

禰豆子は、延いては珠世も愈史郎も鬼だけれど、人の心を持ち罪無き人々のために戦い続けてくれる限り、私にとって大切な隊士(子供)だ。この事実を認める事は強制しないけれど、否定する者は誰であろうと私が許さない。」

 

「善い鬼と悪い鬼の区別すら付かず判断も出来無い者など、誰であろうと鬼殺隊には必要としない。此の期に及んでその様な真似をする者など、最早私の隊士(子供)でも何でも無い。」

 

『!!!』

 

炭治郎達は瞬時に理解した。改めてこの瞬間から、禰豆子と珠世と愈史郎の三人は鬼殺隊の隊士として正式に認められたのだという事を。

炭治郎は思わず、目頭が熱くなる感覚を覚えた。

 

『……っ。』

 

一方的で、炭治郎以外の一部の者達は戦慄に近い驚きを覚えていた。

 

耀哉の宣言した内容の意味を考えれば、禰豆子達に不当な手出しをした者は厳罰に処されると解釈出来る内容だからだ。

特に小芭内と実弥の反応は顕著だった。どちらかと言えば、小芭内の方の反応が大きかったのだが。

 

「炭治郎。引き続き、禰豆子の手綱を頼んだよ。」

 

「は、はいっ! ありがとうございます! 御館様っ!!」

 

炭治郎は姿勢を正すと、改めて頭を深く下げて耀哉に感謝の念を捧げた。

 

「んーっ。」

 

『?』

 

禰豆子が突然、脈略も無く立ち上がった。そしてそのまま耀哉に向かって行くと、そのまま耀哉の首に両腕を回して抱き着いた。

 

「おっと……っ。」

 

『!?』

 

「禰豆子っ!?」

 

禰豆子の突拍子も無いこの行動に、炭治郎達は大口を開けて固まった。

 

因みに誰も禰豆子を阻止しようとしなかったのは、単純に炭治郎の下へ向かったと最初に思ったからだ。殺気も殺意も敵意も無かったのもまた、理由の一つである。

 

「うっ!!」

 

「おやおや……女の子の方から抱き着かれるなんて、私もまだまだ捨てたものでは無いらしい。」

 

禰豆子に抱き着かれた耀哉は不愉快に思う事無く、寧ろ嬉しそうにそう呟きながら禰豆子の抱擁を受け入れた。

 

「禰豆子、今日まで良く頑張ったね。でも今日からは一層、炭治郎共々よろしく頼むよ。」

 

「んっ!」

 

耀哉の言う事に禰豆子が元気良く承諾すると、耀哉への抱擁を解いて炭治郎の下へ向かって行った。

 

「炭治郎。最後にもう一度、君にお礼の言葉を言わせて欲しい。本当に、ありがとう。」

 

『っ!』

 

耀哉が言い放った言葉を聞いて、全員が鋭く耀哉を注視した。

 

「別に不思議に思わなくて良い。私は前に言ったね? 炭治郎が来てくれるまで、珠世との合流を諦めていたと……それは一段と諦念を私に抱かせる程の事件が、鬼殺隊で起きてしまったからだ。」

 

「御館様……その出来事とは、まさか……。」

 

行冥が心当たりを思い付いた様子でいると、行冥が口にする前に耀哉が答えた。

 

「行冥の思った通りだよ。その事件とは、カナエが亡くなってしまった事だ。」

 

『っ!!』

 

カナエの名前が出て来た事で、生前のカナエを知る者が大きく反応した。耀哉は更に語り続ける。

 

「カナエは鬼殺隊に入隊する前から鬼に対して同情的で、その存在に憐憫の情を抱いて居た。

私は直ぐにその考えも変わってしまうだろうと思っていたけれど、そんな事は無かった。カナエは鬼殺隊に入り、柱になって一年、二年、三年と年月が経過しようとその想いは強くなれど薄まる事は無かった。」

 

『……』

 

耀哉が語ったカナエの人柄を知って、カナエを知らない者達は思わず共通の考えが浮かんだ。とても炭治郎に似ている、と。

 

「そんなカナエを見て、私は決意したんだ。今まで秘密にしていた珠世の存在をカナエに伝え、合流するための極秘任務を任せよう、とね。」

 

『!!!』

 

「っ!?……御館様、カナエ姉さんは……珠世さんの存在を認識していたのですか?」

 

しのぶにとって初耳である情報を知らされて、気になって耀哉にしのぶはそう訊ねた。耀哉はしのぶの質問に対して、ゆっくりと首を横に振った。

 

「いいや、認識していない筈だ。私が任せる前に、カナエは亡くなってしまったからね。あの時は私も一縷の望みが断たれたと思い、とても悲しかったよ。」

 

「っ!……そうですか。」

――姉さんが珠世さんの存在を知る事無く亡くなった事は、果たして良かったのか悪かったのか……私には永遠に分からないわね。

 

しのぶは内心でカナエの事を考えると、簡単には表現出来ない複雑な感情を覚えた。

 

「……っ!……っっ!……っっ。」

 

「炭治郎様っ!?」

 

かなたが突然、悲鳴に近い声で炭治郎の名前を呼んだ。何故なら、顔を俯かせていた炭治郎が大粒の涙を流していたからだ。

 

「すっ!……ぐずっ、すみませんっ!!」

 

炭治郎はかなたの声を聞いて、慌てて袖で涙を拭った。涙を拭ってから炭治郎は潤んだ双眸をそのままに、頭を下げて耀哉に自身の心情を伝えた。

 

「カナエさんに任される筈だった大任を無事に遂行出来て……俺は、とても光栄に思います。」

――嗚呼、カナエ。聞こえてる? 御館様は貴女の事を、心から信頼していたよ。

 

炭治郎は心から歓喜していた。カナエは耀哉から本当に信頼されていて、珠世の事を任せようとした事が分かったからだ。飽くまで時間だけが足りなかったのだと、証明された事が嬉しかったのだ。

 

「……ふふっ。」

 

『!』

 

耀哉が唐突に、楽しそうな笑声を上げた。炭治郎はその笑声を聞いて、頭を上げて耀哉を見詰めた。

 

「もう起こり得ない事なのだけれど……もし炭治郎とカナエが生きて出会う事が出来ていたら、きっと仲良くなれていたに違いないって思ったんだよ。」

 

『!!!』

 

耀哉が思い付いた「たられば(もしも)」に、炭治郎達は反応した。尤も、炭治郎だけは大広間に居る他の全員とは異なる考えであったが。

 

「まぁ、考えるまでも無く仲良しになったんじゃないか? 俺はそれだけで済むとは思えんがな。」

 

そう答えたのは、愈史郎であった。その内容が気になった耀哉は、愈史郎に訊ねた。

 

「最後のはどう言う意味だい? 愈史郎。」

 

「お前の炭治郎に対する認識は甘過ぎる……決まっているだろう? もしカナエが生きていたら、炭治郎が侍らせている女が一人増えていただろうよ。」

 

「ぶっ!?」

 

『!?』

 

愈史郎が予測した「たられば(もしも)」を聞いて、炭治郎は思わず吹いてしまい、結果として思わぬ視線が集まってしまう。愈史郎はそんな炭治郎に構わず、語り続けた。

 

「い、いやそんな……幾ら炭治郎君でもカナエ姉さんとは……っ。」

 

「分からんぞ? カナエは炭治郎と考えが似ている上に、しのぶに負けない美人だったんだろう? そうはならなかったなんて、誰が断言出来る?」

 

「うっ……。」

 

愈史郎の「たられば(もしも)」を聞いて、しのぶが動揺しながら反論するも、愈史郎の一言を聞いて反論の糸口を失う。そんな二人を見て、炭治郎は冷や汗を掻きながら右往左往していた。

 

「い、いや。あの……それは……っ。」

――い、言えない……今まさにその通りになっていますだなんて、絶対に言えない……っ!

 

何か言おうとした炭治郎だったが、沈黙は金雄弁は銀とばかりに、これ以上の弁解はせず閉口した。

 

「……此の世に居ない者で、その様な想像しても答えは出ない。もう止めてあげなさい。」

 

「「!」」

 

しのぶと愈史郎の会話に、炭治郎の反対側の真正面に座り沈黙を貫いていた行冥が割って入りこれを終了させた。収拾がつかないと、そう判断しての事だ。

 

しのぶと愈史郎は行冥の正論を聞いて、一理有るとして話題を終了させた。それを見届けてから、行冥は突如、両手を大きく叩いてパァン! と大音を鳴らして合掌すると、行冥は断言した。

 

「最早、疑いの余地など有りはしない。誰が何と言おうと、私も絶対に君を認めるぞ。炭治郎。」

 

『!?』

 

行冥が突然、炭治郎を認める発言をした事に大広間に居る全員が驚いた。炭治郎達の視線が自然と、行冥に注目する。

 

「えぇっ?……わ、分からない……どうしてですか、悲鳴嶼さん?」

 

炭治郎は抱き着いて来る禰豆子を受け止めながら、何故自身が認められたのかその理由が分からなかったため、行冥にその理由を訊ねた。

行冥は炭治郎の問いに対して、ゆっくりと回答した。

 

「私の過去を覚えていると思うが……あの一件で私は自分でもウンザリする程に猜疑心が強く、人に対して疑り深い性格になった。

人間の建前と本性は硬貨の如く表裏一体であり、状況一つで一瞬にして変わってしまうと悟ったからだ。」

 

「……っ。」

 

「炭治郎、勿論君の事も疑っていた。普段は如何に善良な人間であっても土壇場で本性が出る……だが君は逃げず、目を逸らさず、嘘を吐かずひたむきだった。鬼殺隊の隊士として、君は誰よりも最善の行動を取り続けた。」

 

「今私が言った事は口にするのは簡単だが、どんな状況でも変わる事無くそう居られる者は多くは無い。御館様が仰られた様に、君は特別な子供なのだ。」

 

炭治郎をそう評価すると、行冥は更に語り続ける。大広間に居る誰もが、口を挟む事無く耳を傾けた。

 

「今日まで私が出会って来た人間の中で、君は御館様に次いで立派な人間であり……誰よりも素晴らしい鬼殺隊の隊士だ。

鬼は人間だったのだと、その事実を忘れる事無く罪と鬼を考え分け、人斬りをしている覚悟を持てる君は隊士の鏡と言っても、決して過言では無いのだ。」

 

「大勢の人間を心の目で見て来た私が言うのだから、これは絶対だ。未来に不安が有るのは、誰しも同じ。

君が道を踏み間違えぬ様に、妹が人間に戻れる様に、今日からは私も手助けをすると約束しよう……君達を疑って申し訳無かった。」

 

『っ!!!』

 

「っ!!……っ……っ……っっ。」

 

行冥からの称賛と謝罪を聞いていた炭治郎は、思わず双眸を濡らして声を詰まらせた。

 

「……頑張ります……ありがとうございますっ……。」

 

嗚咽を漏らしながら、鼻を赤くした炭治郎は何とか行冥に感謝の言葉を口にした。

 

「うっ!」

 

「よしよし、炭治郎君は本当に良く頑張りましたね。」

 

炭治郎を労う様に、禰豆子としのぶが優しく炭治郎の頭を撫で始めた。

 

「「……っ。」」

――出遅れた……っ!!

 

左からアオイ、カナヲ、しのぶ、炭治郎の順番で座っており、禰豆子がしのぶの反対側に割り込んで来た事も相まってアオイとカナヲは行動に移せず、羨望の眼差しを向ける事しか出来なかった。

 

「…………」

 

そんな炭治郎達を、何を考えているのか全く読めない表情で義勇が見詰めていた。

 

「ん?」

 

「……っ?」

 

「……何ですか、冨岡さん? 言いたい事が有るならさっさとどうぞ?」

 

義勇の視線に苛立ちを覚えたのか、しのぶが鬱陶しそうに義勇に訊ねた。

 

「いや……ただ、炭治郎と胡蝶は仲睦まじいなと思っただけだ。」

 

「っ!……うふふっ。当然じゃないですか。私と炭治郎君ですよ?」

 

しのぶは義勇の感想を聞き、一転して機嫌が良くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが有頂天になっていたしのぶの機嫌は、義勇の余計な一言の所為で地獄の底にまで叩き落とされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。嘗ては炭治郎の眼前で禰豆子を殺害しようとした胡蝶が、その炭治郎と恋仲になるとは考えてもみなかった。人生、何が起きるか分からないものだ。」

 

『!?!?』

 

しみじみと感慨深げに、義勇はうんうんと頷きながらそう語った。それを聞いたしのぶは、笑みを浮かべたまま石化したが如く固まってしまう。

 

「あの、えっと……ぎ、義勇さん?」

 

義勇が言い放った内容に、炭治郎は当惑を隠せない。そんな炭治郎の様子に、義勇は首を傾げながら更に無意識に口撃を続行した。

 

「どうした? もう忘れたのか? あれは何時だったか……ああ、そうだ。確か那田蜘蛛山で、炭治郎の言い分も俺の言い分も聞かずに、胡蝶は禰豆子を殺そうとしてただろう?……確かお前は、こうとも言っていたな? 『苦しまない様に、優しい毒で殺してやろう。』だったか? なぁ胡蝶?」

 

『ッ!!!』

 

懐かしそうにそう呟く義勇とは裏腹に、大広間には戦慄が走る。

 

「あっ、あの……その……それは……。」

 

特にしのぶに至っては、笑顔のままダラダラと冷や汗が流れていた。だが義勇の無意識な口撃は止まる事無く、更に別の人物にまで飛び火する。

 

「それから……確かあの後、胡蝶の継子が炭治郎の顎を蹴り砕いた後、禰豆子を斬り殺そうとしたという報告を後から知ったぞ。成程、義理とは言えまるで血が繋がった様に行動が似ている。流石はお前の妹だな、胡蝶。」

 

『っ!?!?』

 

感嘆した様子でそう言った義勇だが、この発言を聞いてカナヲは青褪めてしのぶ同様に冷や汗をダラダラと流し始めた。

 

「……っ……っ……っ……。」

 

「どうしたんだ、炭治郎? お前は覚えていないのか?」

 

そんなカナヲの様子など眼中に無く、義勇は自身の発言に何一つ反応しない炭治郎に向かって怪訝そうな表情を浮かべて訊ねた。

 

「っ!!……いや、しのぶさんの事は覚えていますよ?……でも俺、禰豆子の事で必死で、その後の事は何も覚えて無くて……カナヲの事は、今初めて知りました。そうか……あの時に俺の顎を蹴り砕いたのって、カナヲの仕業だったんだ……。」

 

「「っ!!!」」

 

嘘を吐けない炭治郎は、困った様子で義勇に正直にそう返答し、顎を撫でながら呟いた。炭治郎はしのぶとカナヲに一度視線を向けたが、直ぐに逸らしてしまう。その行動が、しのぶとカナヲにとって酷く悲しかった。

 

「……っっ……っっ……っっ……。」

 

「か、カナヲ?」

 

カナヲが今にも失神しそうな程に青褪めながら、カタカタと身体を震わせていた。

 

「……がう……」

 

「し、しのぶさん? うわっ!?」

 

『!』

 

カナヲと同様、身体をカタカタ震わせていたしのぶだったが突如、炭治郎の胸元へ飛び込む様に抱き着いた。

 

「違う……違うのぉ……っっ。」

 

「っ!」

 

しのぶは身体を震わせながら、途切れ途切れに言葉を漏らしていた。

炭治郎はしのぶが涙腺が決壊寸前まで涙を溜めている事と、強い罪悪感と後悔の匂いを漂わせている事に気付いた。

 

「あ、あの時は私……私、炭治郎君の事も禰豆子さんの事も何も知らなかったから……知ってたらあんな真似……ごめんなさいっ、お願い許して……っっ。」

 

「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っっっ。」

 

しのぶは俯かせていた顔を上げると涙腺がついに崩壊して、大粒の涙をポロポロ流しながら炭治郎に許しを懇願した。カナヲに至っては、泣きながらお経の様に謝罪の言葉を繰り返していた。

 

那田蜘蛛山での経緯は、しのぶにとってもカナヲにとっても一番に葬り去りたい黒歴史であった。

 

あの時まで時間を遡れるならば、迷う事無く当時の自分を殴り倒している。否、気が済むまで殴ってから竈門炭治郎という存在が如何に尊いのか延々と教育していたに違いない。

 

第一印象は、最低最悪のものだった。何故、他にもっと良い出会いは無かったのかと何度、運命や神仏を呪ったか分からない位だ。

 

二人はこの件について何時か炭治郎に謝罪しようとは思ってはいたが、思うだけで藪を突いて蛇を出す失態を恐れて、実行出来ずに今の今まで先延ばしにしていた。

 

その怠慢と臆病の代償として、最悪の形で義勇によって掘り返されたのだ。

こんな事になるなら、さっさと自分の口から切り出せば良かったと心底後悔したが、最早後の祭りである。

 

「しのぶさん、落ち着いて?……カナヲも、こっちにおいで?」

 

「「っ!!」」

 

何時もの優しい声色で炭治郎に呼び掛けられたしのぶとカナヲは、一瞬だけ身体をビクッと身体を震わせる。

それからしのぶは涙を流すのは止め無かったが一先ず動揺を落ち着かせ、カナヲもゆっくりと炭治郎へ近付いて行った。

カナヲが自身に近付いたのを見てから、炭治郎は手を伸ばしてカナヲをしのぶ諸共優しく抱き締めた。

 

「気にしないで……って言われても気にしちゃいますよね? だから俺は御二人を許します。この話は、もう水に流して終わりにしましょう。だからこの事に負い目を感じて、自分を責めないで下さいね。」

 

「炭治郎君……っ。」

 

「たんじろうっ……たんじろぉ……。」

 

しのぶとカナヲは炭治郎の優しい言葉を聞いて、より一層泣きながら炭治郎に抱き着いた。

 

「……うっ!!」

 

禰豆子もしのぶとカナヲが泣いているのを見て、慰めるために背後から二人を優しく抱き締めた。

 

「っ!……禰豆子さんっ。」

 

「ね、禰豆子ちゃんっ!」

 

「ん~……っ!」

 

しのぶとカナヲは背後の禰豆子から抱き締められた事に気付いて、首を動かして横目で禰豆子を見る。二人から視線を受けた禰豆子は、優しく微笑むだけだった。しのぶとカナヲにとって、その笑みは大いに救われるものだった。

 

「禰豆子さん……あの時はごめんなさい……っ。」

 

「ごめんね……禰豆子ちゃん。本当に、ごめんね……っ。」

 

「んんっ!」

 

二人から謝罪された禰豆子は、一切気にした様子も無く満面の笑みを零した。炭治郎はそれを見て、同様の笑みを零した。先刻までは炭治郎を巡って、二人で争っていたとはとても思えない光景である。

 

「禰豆子も何とも思っていないみたいですよ。だからもう、気にしたりなんかしないで下さいね?」

 

炭治郎はそう言うと、禰豆子共々しのぶとカナヲの気が済むまで抱き締め続けた。

 

「……フッ、"雨降って地固まる"と言う奴だな。炭治郎達が仲直り出来て良かった。」

 

「冨岡ァ。テメェはもう今後一切喋るんじゃねェ。」

 

「……?」

 

自分自身が雲取山で竈門兄妹に最初に出会った時に仕出かした所業を棚に上げて、一仕事したと言わんばかりにどや顔をする義勇に対して、不本意ながら近くに居た実弥が思わずツッコミを入れた。

 

義勇はしのぶとカナヲの姉妹と炭治郎の三人の関係に感心しているだけであり、悪意など一切無いのである。にも拘らず実弥に何故その様にツッコミを入れられたのか、義勇には理解出来なかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

義勇の所為で引き起こされた騒動だったが、何とか尾を引く事無く無事に収拾をつける事に成功した。

耀哉はそれを見てこの晩餐会も閉会しようと考えたが、其処へある男が割って入って来た。

 

「耀哉。閉会する前に俺の方から一つだけ、『紙眼()』に関して説明したい事が有る。」

 

『!』

 

「それは何かな? 愈史郎。」

 

耀哉は興味津々といった様子で、愈史郎に訊ねた。

 

「俺が説明を始める前に全員、『紙眼()』を着用して貰おうか。話はそれからだ。」

 

愈史郎がそう言うと、炭治郎達は緊急柱合会議で配布された『紙眼』を額に着用し始めた。全員が『紙眼』を着用したのを見計らって、愈史郎は説明を始めた。

 

「会議の時に説明しなかったが……実はこの『紙眼()』には、もう一つだけ使える能力が有るんだ。」

 

「使える能力……それって何ですか? 愈史郎さん。」

 

炭治郎が使用出来る能力が何なのか、気になって愈史郎に訊ねた。

 

「能力とは"記憶共有"。俺の記憶限定だが、その記憶を他人と共有する事が出来るんだ。」

 

『!!』

 

炭治郎達はその能力の内容を聞いて驚いた。

 

「ほう……愈史郎は無惨と似た様な事が出来るんだね。」

 

「おいこら、無惨みたいとか言うな……業腹な話だが、耀哉の言っている事は間違っていない。まぁ奴と比べれば、下位互換も良いところだがな。」

 

愈史郎は耀哉に気にしている事を言われて苛立ちながらも、その事実を素直に認めた。

 

「……愈史郎さん。この能力を特化させれば、他人の記憶を共有する……なんて真似、出来ませんか?」

 

『!!!』

 

炭治郎が思い付いた発想に、耀哉達は驚愕する。そして一部頭の回転が早い者達は、其処から齎される可能性と利益に自然と期待感を抱いた。

 

一方で訊ねられた愈史郎は、眉間に皺を寄せて首をゆっくりと横に振って炭治郎の発想を否定した。

 

「それは俺も思い付いて、作ろうとしたんだ。だが結論から言うと、作れ無かったんだよ……もしそんな物が出来ていたら、とっくに会議の時に使って珠世様の御記憶を全員で共有していただろうな。」

 

『……』

 

愈史郎の言葉を聞いて、炭治郎達は残念そうに溜め息を吐いた。言葉で説明を受けるだけのと実際の映像を見るのとでは、その価値に雲泥の差が有る。炭治郎達が残念に思うのも、無理は無かった。

 

――もしそれが可能だったら、杏寿郎さんの最期を皆に見せてあげられたのになぁ……。

 

炭治郎は思惑が思い通りにならない事を、心から嘆いた。

 

「無い物強請りをしていても、仕方が無い。因みにこの能力を説明しなかった理由としては、使う機会が無かったからだ。」

 

「でも今後、俺の『紙眼()』は大勢の奴らが使用する。だったらこの記憶共有の能力も日の目を見れるかもしれんと、そう思ったんだ。」

 

炭治郎達は愈史郎の話を聞いて、納得して頷いた。

 

「折角だから、御披露目ついでにとっておきの記憶を見せてやろう。」

 

『?』

 

愈史郎はそう言うと、右側頭部に人差し指を当ててみせた。すると、直ぐに眼前の光景が変化した。

 

『!?』

 

突然、眼前に或る光景が浮かび上がったのだ。否、正確には脳裏に映像が映っていると、そう言うべきなのか。その映像には、鬼殺隊の隊服では無く薄紫色の浴衣を着用している炭治郎としのぶが、何処かの屋敷の中庭を歩いていた。

 

「「!?!?」」

 

この映像を見て、最も動揺したのは炭治郎としのぶである。二人はこの場面に心当たりが有った。否、心当たりが有り過ぎた。

 

【あ、あの、しのぶさん。良かったら俺、お水でも持って来ましょうか?】

 

【………………】

 

『!』

 

そんな動揺している二人を余所に、映像は進行していた。炭治郎が気遣っているが、しのぶは無視していた。

 

「ふむ……愈史郎。これはもしかしなくても……?」

 

「ああ。今から一週間前に起きた、"藤の花の家紋の家"で在った炭治郎としのぶのやり取りだよ。」

 

『!!』

 

「「なっ!……っ!?」」

 

愈史郎の回答を聞いて、大広間は驚愕の渦に包まれた。炭治郎としのぶの動揺は、更に増してゆく。

映像は進んで行き、炭治郎がしのぶに謝罪して去ろうとしてしのぶに阻止されていた。それからお互いに、責任を取る取らなくて良いと押し問答の様なやり取りをしている。

 

「あ、あの……愈史郎さん。何処で、この時の様子を……。」

 

炭治郎は動揺を必死で抑えつつ、身体をカタカタ震わせながら愈史郎に訊ねた。しのぶもまた、非常に気になっている様子で炭治郎に追随している。

 

【ほら、私なんかより若くて健康的な娘達が蝶屋敷には居るじゃない? カナヲなんてどう? 

あの娘ね、炭治郎君は気付いてないかもしれないけれど、貴方の事がとっても大好きなのよ。きっと、貴方無しではこの先、生きて行けないくらいにはね……。】

 

【何だったらアオイも炭治郎君にはお似合いじゃないかしら? 

家事全般何でも上手に出来るし、細かい気遣いも出来るからきっと貴方にとって素晴らしい良妻賢母(つま)に成れると思うのよっ……だからね、炭治郎君は私の事なんか忘れて、他の素敵な女の子と幸せになって? それが私の一番の願いなのっ……。】

 

「「っ!?」」

 

映像は続いていた。炭治郎の告白を拒否したしのぶは、炭治郎にカナヲとアオイを勧めていた。この映像を見て、二人は双眸を見開いて驚愕している。

そんな映像を余所に、炭治郎としのぶを見て愈史郎は苦笑しながらその理由を語り始めた。

 

「実はあの時、お前らの真後ろに茶々丸が居てな……其処へ俺が偶然、"視覚同調"をしたんだよ。」

 

『!!!』

 

愈史郎の説明を受けて、炭治郎としのぶを除く全員が理解した。この当時、炭治郎としのぶは愈史郎に覗き見されていたのだと。其処へ耀哉が、愈史郎に訊ねた。

 

「では、愈史郎は結末を知っている訳だね?」

 

「おう、勿論だ。……全部、一切合切、一部始終を魅させて貰った。特に最後なんかは必見物だぞ。炭治郎が、これから凄く漢らしいところを魅せてくれるからな。しのぶ……お前、本当に良かったなぁ。」

 

愈史郎はうんうんと頷きながら、その時の様子を思い出していた。見た目は十代半ばの少年だというのに、その視線は我が子を微笑ましく見る親のそれであった。

 

『!!!!!』

 

そんな愈史郎を見て、耀哉達の期待度は膨れ上がって映像に全集中して鑑賞している。

 

「「…………………」」

 

だが当事者である炭治郎としのぶは、今にも失神寸前な程、半ば放心状態であった。愈史郎の言葉が頭に入っていないのではないかと、そう思わざるを得ない程だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォォン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ぎぃいやゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!?????」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを理解したその瞬間、一瞬にして全身を沸騰させる程に真っ赤に染めた炭治郎としのぶが、羞恥心に満ちた大絶叫を上げる。

 

その大絶叫は産屋敷本邸中ばかりか、産屋敷本邸の外にまで轟いたのだった。




お待たせしました。

炭治郎君以下、五感組(玄弥除く)の柱就任には至りませんでした。今後の活躍に期待をしましょう。

そして炸裂した義勇のコミ症、しのぶさん達の今後の義勇さんへの心情が心配です。有る意味、義勇さんによる胡蝶姉妹への公開処刑でもあります。

そしてメインですが
題目(タイトル)の真実:「日輪(と藤蝶)は鬼殺隊(の愈史郎)に(公開)処刑される。」が真実でした。

愈史郎が何故、炭治郎君としのぶさんに対して優しく気遣うのか疑問に思われた読者の方々は何名もおられましたが、お待たせしてすみません。

陸話の二人のやり取りを見て、感化されたというのが優しくしている理由になります。(ただし、『紙眼』の悪用の件は除く。)

はてさて、公開処刑された二人に明日は有るのか……?

最後に、私事ですがpixivに第一話を投稿してブックマークが千人を突破しました。ハーメルンでも拙作をお気に入り登録して下さる方が千五百人を突破しています。
最初は此処まで集まるとは思っていませんでした。ありがとうございます。

ついでにpixivに第一話を投稿して丁度一周年になりました。……でも素直に喜べませんね。何故なら予定では拙作の連載が終わっている筈だったのに、予定の半分にも到達していません。どうしてこうなった?

いえ、理由は分かっております。これも全て、私の更新速度が亀以下である事が全ての原因です。読者の皆様、大変申し訳御座いません(土下座)。

ですが連載を始めた瞬間から、完結を目指して頑張る決意はしていますので、どうか最後までお付き合い下さいますと嬉しいです。今後ともよろしくお願い致します。

長くなりましたが、次回の更新は十二月中になります。お楽しみに!

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
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