※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

42 / 65
※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第肆拾弐話 日輪と鬼殺隊の柱は交流を楽しむ ★

「うおおおぉぉぉぉぉすげええええぇぇぇぇっ!!!」

 

伊之助が興奮した様子で、大浴場に一番乗りを果たしていた。普段着用している猪の被り物は入浴のために外してあるため、顔だけ見れば女性と見間違えるその端正な美貌が見えていた。因みに、清々しい程の全裸状態である。

 

「これは……凄いな……っ。」

 

伊之助を追ってやって来た善逸もまた、眼前の光景を見て驚きを隠せず圧倒されていた。因みに善逸は伊之助と違って、脱衣所に用意されていた黄色い湯浴みを腰に巻いている。

 

善逸の目の前には、大浴場とは名ばかりの、それは何処ぞの最高級の旅館かと、十人が十人口を揃えて言いたくなる程に素晴らしい温泉風景があった。

大名門とはいえ、これ程までに凝った大浴場が在るのには理由が有る。

 

それは"原初の鬼"たる鬼舞辻無惨の不倶戴天の怨敵である産屋敷家が、一生涯を常に鬼から狙われている存在であるからだ。そのため表世界に出る事は殆ど許されず、修験者の如く、否それ以上の隠棲生活を強いられている。

 

そのため娯楽は非常に少なく、数も数えられる程に限られている。そのため、少しでも楽しめる様にと遠い昔に作られ、時折造り変えられているのがこの大浴場に広がる温泉風景だ。産屋敷家にとって、温泉は数少ない娯楽の一つなのである。

 

同時に、湯治が目的でもある。呪いの所為で代々病弱な産屋敷家の人間が少しでも身体を良くするために、薬湯でもあるこの温泉に入るのだ。

 

「よっしゃああああ伊之助様一番乗りぃぃぃっっっ!!!」

 

「おい待て伊之助ぇっ!?」

 

伊之助は善逸の静止の声を振り切って、温泉に飛び込もうとした。

 

「待ちやがれッ。」

 

すると音も無くスッと現れた実弥が、伊之助の首根っこを掴んで温泉への飛び込みを阻止する。不意に首を掴まれた伊之助は、潰された蟇蛙(ヒキガエル)の如き声を上げた。

 

「グエッ!?……何すんだよっこのツギハギ野郎!?」

 

伊之助はゴホゴホと咳を繰り返しながら、実弥に抗議した。

 

「馬鹿野郎ッ。風呂とか温泉に入る前に、先ず最初に全身を洗うのは礼儀ってもんだろうがッ。」

 

伊之助の抗議など何処吹く風とばかりに無視した実弥は、入浴の作法を守らない伊之助に説教をする。

その事に対して実弥は正論であるため、伊之助は口を詰まらせて沈黙した。

 

「温泉は逃げねぇから、パパっと洗っちまえ。背中は流してやるからよォ。」

 

「っ!?……お、おう! そうだなっ!!」

 

実弥の思わぬ優しい気遣いに、伊之助は困惑しながらもそそくさと身体を洗い始めた。時折身体の洗い方に実弥に指導して貰いながら。

 

「……」

――何この光景!? 風のおっさん、何か変なモンでも喰ったのかっ!?

 

善逸が実弥の面倒見の良さを目撃して、驚愕し過ぎて戦慄していた。

 

「おい、黄色いの。」

 

「っ!」

 

善逸が声のした方に顔を向けると、其処には天元が立っていた。用意されていた湯浴みは着用せず、伊之助と同様に堂々たる全裸であった。

 

「このまま派手に飛び込みたいところだが、先ず最初に身体を洗って汚れを落とすのは温泉の作法ってもんだ。不死川が派手に言った通りにな。」

 

「つー訳で、流せ。」とそう言って自身の広い背中を、天元は善逸に向けて見せた。唐突な展開に善逸は啞然としていたが、我に返ると天元に向かって猛然と猛抗議を始める。

 

「俺は黄色いのじゃなくて、我妻善逸って名前が有るんですぅっ!! 第一何で俺が、あんたの背中を流さなきゃならないんだよぉっ!? 自分でやりゃ良いだろうがっ?!」

 

「うるっせえぇっ!! 上官命令ださっさとしやがれっ。」

 

「ひっ!?……くうぅぅ~~何で俺があああぁぁぁぁっ……っ!!」

 

天元に凄まれた善逸は、一度だけ小さい悲鳴を上げる。それから涙目になりながら、不承不承とばかりに天元の背中を流し始めた。

 

すると天元達に遅れる形で、炭治郎を除く面々が大浴場へと現れた。義勇の言葉足らずに対して、行冥が説教を始めたためだ。尤も、先に入っていた天元達は我関せずとばかりに早々と立ち去ったが。

 

皆、脱衣所に用意されていた湯浴みを着用している。行冥は茶色の、義勇は青色の、無一郎は白色の湯浴みを着用していた。

 

「わぁっ! 凄い温泉だっ!」

 

そう言って感嘆の声を上げたのは、行冥達に遅れて最後に入ってきた炭治郎だ。市松模様の湯浴みを着用している

 

「義勇さんっ! お背中を流すのと、髪を洗うの手伝いますよ!」

 

「っ!……いやそれは…………頼んで良いか?」

 

「はいっ!」

 

炭治郎の好意からくる申し入れに対して、義勇は承諾して背中と髪の方を洗う手伝いを受け入れ任せる事にした。

 

当初、義勇は炭治郎の申し入れを咄嗟に断ろうとしたのだが、炭治郎が時折見せる頑固さと強引さを思い出して申し入れを受け入れる事にしたのだ。

 

もし義勇が炭治郎の申し入れを断っていたら、炭治郎と義勇の間で収拾の着かない押し問答が始まっていたに違いない。

 

「兄弟弟子同士、仲が良いのは良い事だ……。」

 

「…………ムゥ。」

 

行冥は涙を流しながら炭治郎と義勇を見た後、自身も身体を洗うべく行動に移った。無一郎は何故か少しばかり拗ねた様子を見せながらも、続けて身体を洗い始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「いってぇぇっ!?」

 

男性用の大浴場に突如、悲鳴が上がった。悲鳴を上げたのは実弥であった。右手を後ろに回しながら、背中を擦っていた。

 

「あぁっ? 柱の癖に、情けねぇ悲鳴なんか上げんじゃねぇ。紋逸でもあるまいし。」

 

「テメェッ!? 背中を強く擦り過ぎなんだよッ! もうちったぁ優しくしやがれッ!!」

 

伊之助の言葉を聞いて、実弥が背後に振り返りながら伊之助に苦情を言っていた。

 

この様な状況になった経緯を簡潔に説明すると、伊之助は実弥に身体を洗うのを手伝った礼として、「背中くらい流してやらぁ!」と叫んで実弥の背中を流す事を提案したのだ。

 

実弥は当初こそ遠慮無用と拒否しようとしたが、折角の好意を無下にするのも失礼かと結論を付けて快諾したのである。

 

尤も、その結果がこの様な事態を招いてしまったのだが。

 

「あの二人、お互い派手に落差のある絵面だなぁ。」

 

「その点に関しては、全面的に同意せざるを得ない。」

 

天元と善逸が実弥と伊之助のやり取りを見て、そう言葉を口にした。すると善逸が会話に集中したせいか、手の方が疎かになる。それを天元は見逃さない。

 

「おい、気合が地味に入ってねぇぞ? もっと派手に力を入れろおらぁ!」

 

「もう良いでしょおぉぉぉぉっ!? 何時までこうしてなきゃいけないんだよぉぉっ!!」

 

天元が善逸に苦情を言うと、善逸もまた天元に文句を言っていた。きちんと背中を流しながらだが。

 

「うしっ!……おい、そんくらいで良いぞ。」

 

善逸が天元の背中を流して少し経った頃、顔を洗い終えた天元が満足した様子で善逸にそう言った。

 

「ああ、やっと終わっ……たぁっ!?」

 

天元から解放された善逸は安堵した声を上げた瞬間、その声が素っ頓狂なものへと変わった。

 

「?」

 

天元は善逸の素っ頓狂な奇声を耳にして、天元が頭を傾げた様子で善逸を見詰める。

 

「なっ?!……えっ?……はあぁっ!?」

 

善逸はある方向へ指差しをしながら、続けて素っ頓狂な奇声を上げていた。その右手の指先は、微かにふるえている。

 

「な、何っっじゃその顔!? あんなケバケバしい化粧の下にそんな男っ前な顔が隠れてたのかよ!?」

 

其処には普段の派手な化粧が落ちており、天元の端正な容姿が姿を表していた。

 

「俺がド派手に男前なのは当然だろう? つってもすっぴんのこの顔は地味だから、俺はあんま好きじゃねぇんだけどな。てか、ケバケバしいとは何事だぁ? ド派手にイケた化粧だろうがっ!」

 

天元はさも当然の様に自身の容貌が優れている事を認めた後、自身が施している化粧スタイルを否定する善逸に抗議した。

 

「そう思っているのは此の世であんただけだよっ!? 俺はてっきり痣の真似して態とあんな化粧をする事になったと思ってたのに、タダの化粧でアレかよっ!?」

 

「…………あー悪いな、痣の事は全然、何一つ知らなかったわ。つーかあの時初めて知ったわ。」

 

天元は悪びれる様子も無く、痣について無知だった事を威張りながら開き直った。そんな天元の態度に、善逸は更に双眸を血走らせて青筋を浮かべる。

 

「偉そうに威張んな! ムカつく! タダでさえ嫁三人もいて腹立つのに、更に男前とかふざけんな! て言うかそんな良い顔してるのに地味だから好きじゃないとか、幾ら何でも贅沢過ぎるわっ!?」

 

善逸はそう言って、益々双眸を血走らせて青筋を濃く浮かべた。そんな善逸に、天元も異論を唱える。

 

「おいおい? 炭治郎だってもう既に嫁が三人居るし、これから先はもっと増えそうだろうが。」

 

「アイツは別なの!」

 

「酷ぇなおい。」

 

天元が同類とばかりに炭治郎の名前を引き合いに出したが、善逸はそれを一蹴する。そんな善逸の露骨極まりない依怙贔屓に、天元はただただ苦笑するしかない。

 

「でも禰豆子ちゃんを手篭めにしたのは許さん。」

 

「どっちだよ!?」

 

秒速で掌を返して炭治郎へ恨み言を呟いた善逸には、流石の天元も即座にツッコミを入れた。

 

「そう言ってやるなって。禰豆子もかなた様に嫉妬して対抗しただけだろう? 子犬に唇舐められた様なもんだ。」

 

「うっ……そう言われると……。」

 

炭治郎を擁護する天元の言葉に、善逸は口を詰まらせた。しかし、同時にその時の様子を思い出す。

 

――でもあの時の禰豆子ちゃん……一瞬だけ、愛情の音がしたんだよなぁ……それも家族じゃなくて夫婦や恋人同士に鳴る様な音が。でも邪魔をしたしのぶさんの所為で直ぐに怒りの音に変わったから、真相は分からないんだけど……やっぱり俺の気のせいかな?

 

善逸は天元に頭をガシガシと乱暴に撫でられながら、自身にそう言い聞かせる様に心中で呟いた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「義勇さん、終わりましたよ。」

 

「そうか……すまないな。」

 

義勇はそう言って、炭治郎に礼を述べた。義勇の胸まで届く程伸びた長髪の洗髪を、炭治郎が手伝ったからだ。

 

洗髪が終わったのを見計らって、義勇が大雑把に髪を纏め始めた。

 

「……」

 

炭治郎はそんな義勇を見て、特に行動には移らない。何故なら、人の髪を纏める事が出来ないからだ。そもそも、その様な機会に恵まれる事そのものが無かった。

 

禰豆子は常に今は亡き母・葵枝に髪を纏めて貰っていたし、直ぐに自分自身の手で出来る様になった。

末の妹・花子は禰豆子や葵枝に憧れて、自身の髪を伸ばしている最中に亡くなった。

 

こういった経緯から、炭治郎自身が人の髪を纏める経験もやり方を習う機会も得られずに終わった。

 

――そう言えば、禰豆子は甘露寺さんにとても懐いているよなぁ……同じ三つ編みにでもしてあげたら喜ぶかな?

 

尤も、最近では禰豆子が蜜璃に憧れているためか、三つ編みが出来る様に練習をすると決意していたが。

 

「……冨岡さん。」

 

「っ!」

 

「……時透?」

 

炭治郎が回想している間に、義勇に声を掛ける者が現れた。其処に居たのは義勇と同様に腰まで髪を、対照的に綺麗に纏めた無一郎だった。身体が濡れており、身体は既に洗い終えた様だ。

 

「そんな乱雑な纏め方だと、髪を痛めるよ?……僕がやってあげるから、任せてくれる?」

 

「……頼む。」

 

無一郎の進言に、義勇は一任する事にした。それを見て炭治郎は無一郎に話し掛けた。

 

「時透君。髪を纏めるの上手だね?」

 

「うん、身体が覚えていたみたいなんだ。」

 

炭治郎の問いに、無一郎は笑顔で即答する。無表情で義勇に話し掛けた時とは、かなり態度に差が有る。

 

炭治郎は無一郎に義勇の事を任せて、今度は自分が身体を洗おうとした。しかしその前に、ある事に気付いたため後回しにする。

 

「悲鳴嶼さん、お背中流しますよ。」

 

「っ!……頼めるか?」

 

「はい。」

 

炭治郎は快諾して早速、行冥の背中を流し始めた。

 

「……」

 

行冥は背中を炭治郎に洗って貰いながら、ある記憶が脳裏を過ぎった。

 

『先生っ! 私が先生の背中を流してあげるね!』

 

『遠慮しないでよ。僕達、まだ子供だから出来る事が少ないけど……少しでも先生のお役に立ちたいから。』

 

それは嘗て共に暮らしていた、本当ならばまだ別れの日は先であった筈の、孤児達との戻らない掛け替えの無い日常。

 

『悲鳴嶼様。私達姉妹が育手の下へ向かう前に、少しでも恩返しをさせて下さい。今宵だけで良いのです。せめてお背中だけでも、私共に流させては下さいませんか?』

 

『姉さんと私に身体を洗って貰えるなんて、光栄に思ってよね! 悲鳴嶼さん!!』

 

八年前、柱になったばかりの自分が救った美しい姉妹。後少しばかり到着が早ければ、両親の死に目を見ずに済んで、鬼とは無縁の生活を今も送れていたに違い無かった。

 

そればかりか、自分の所為で鬼殺隊に入隊して鬼狩りの道を歩ませてしまった。その結果、片や一人は此の世を去り、片や一人は己を殺して変貌を遂げてしまったのだ。

 

「……っ。」

 

今まで二十七年間生きて来て、後悔した事は沢山有る。その中でも一際大きな後悔が、この二つの出来事だ。

それをたった今、自身の背中を流してくれている太陽の如き少年が清算し救済してくれた。その事実が、行冥にとっては何よりも嬉しかった。

 

「っ!……悲鳴嶼さん?」

 

巌の如き行冥の巨躯が僅かに震えている事に気付き、炭治郎は思わず声を掛けた。

 

「何でも無い……本当に、何でも無いんだよ。炭治郎。」

 

「……」

 

行冥にそう言われた炭治郎は、それ以上尋ねる様な真似はしなかった。何故なら、行冥からは悲しい匂いでは無く歓喜の匂いがしたからだ。

その理由が何なのかは分からなかったが、無粋に知ろうとする様な愚かな真似など、炭治郎にはする気は一切無かった。

 

 

♦︎

 

 

 

身体を洗い終えた行冥は炭治郎に一言礼を述べてから温泉へと向かう。それを見送った炭治郎は身体をまだ洗っていなかったため、一人残る。

 

――さて、俺も身体を洗おうかな?

 

「炭治郎。」

 

「えっ?」

 

炭治郎が声を掛けられたので振り向くと、其処には無一郎と髪を纏め終えた義勇が居た。

 

「良かったら、僕が君の背中を洗おうか?」

 

「えっ!? 良いの!?」

 

「勿論だよ。」

 

炭治郎が確認する様に無一郎に尋ねると、無一郎は笑顔を浮かべて快諾する。

 

「……炭治郎、一つ聞いて良いか?」

 

「?」

 

「?……はい、何ですか?」

 

無一郎の背後に居た義勇が、炭治郎に尋ねた。炭治郎と無一郎は唐突に質問をして来た義勇に、首を傾げる。

 

「お前の身体だが、その赤い痕はどうした?」

 

「っ!?」

 

 

【挿絵表示】

 

提供:椿様

 

「……」

 

義勇の質問に、炭治郎はギョッとした表情を浮かべる。それを隣で聞いた無一郎は、何を言っているんだと言わんばかりの表情を浮かべて義勇を見詰めた。そしてこの会話の内容を聞いていたのは、炭治郎達だけでは無かった。

 

「あの人、炭治郎に何聞いてんの……?」

 

「あれで態とじゃねぇってんだから、派手に凄ぇよなぁ。」

 

「!?」

 

善逸が困惑を隠せない様子でそう呟くと、天元が同意した様に頷いた。その天元の様子に、善逸は驚きを隠せない。

 

「はい……って、あんたも聞こえてんすか?」

 

「ああ、普通に聞こえるぞ。」

 

ある程度距離が有り、炭治郎達も決して大声で会話している訳では無いので、常人では聞き取るのが難しく自分と行冥くらいしか聞こえていないと思っていたので善逸は驚いていた。

 

「……宇髄は常人よりも遥かに、聴力が優れているからな。」

 

「悲鳴嶼さんだって、あれくらい聞こえるだろう?」

 

「うむ、このくらいならばな。」

 

聴力に優れた三人はそう会話を続けていると、実弥だけ面白く無さそうにジト目で行冥達を睨み付けていた。

 

「……なぁおい。どうでも良いけどよォ、あいつら何喋ってんだァ?」

 

「どうでも良いって思ってるなら、聞く必要無いですよね?」

 

「あ"っ?」

 

「ひぃっ!?」

 

実弥が尋ねた際にその聞き方に善逸がツッコミを入れると、実弥が青筋を浮かべて睨み付けたため、善逸は震え上がった。

 

「不死川、よせ……炭治郎達はこう会話をしていた。」

 

「……っ!?……態と言ってんのかあいつァ……。」

 

行冥が実弥を止めて説明をすると、実弥はゲンナリとした表情を浮かべて炭治郎達に視線を移した。

 

「態とか否か、そんな地味な事ぁどうでも良い。俺は今、派手に楽しいからなっ!……おっ! 冨岡から話し始めるみたいぞ。」

 

「「「!」」」

 

天元の言葉に、行冥達は揃って炭治郎達に注目した。

 

「どうしたんだ? 炭治郎?……その赤い痕は虫刺されか何かじゃないのか?」

 

――えっ? 本気で言ってんのこの人?

 

無一郎は義勇の質問を聞いて、呆れ返った表情を浮かべて義勇を見ていた。それから面白く無さそうに、炭治郎の赤い痕を見た。そんな無一郎など知らず、炭治郎も大口を開けて義勇の言葉に反応していた。

 

「ん、んんっ!……そう、ですね!……これは虫刺されみたいなもんです。」

 

炭治郎は口を詰まらせながらも、義勇の指摘を肯定した。

 

「そうなのか……身体中に刺されているが、どんな虫に刺されたんだ?」

 

「!?」

 

続けて質問されるとは思わなかったのか、炭治郎は思わず固まってしまう。

 

「炭治郎。」

 

「は、はい!……えーと、ちょ……蝶々だったと思います!」

 

急かされる様に義勇に名前を呼ばれた炭治郎は、咄嗟にそう答えた。しのぶ達を蝶々と表現して。すると義勇は双眸を見開いて炭治郎を見詰めた。

 

「蝶々に?……蝶々が人を刺すなど、初めて聞いたぞ?」

 

「あ――……蝶屋敷には、そんな特殊な蝶々が居るんです。」

 

疲れた様子を見せながら、炭治郎はそう答えた。そんなおかしな状況を、無一郎が茫然としながら見守る。

 

――……冨岡さんは何で炭治郎が胡蝶さん達の事を、あそこまで匂わせて言ってるのに分かんないのかな? 此処まで来ると、純粋な疑問にしかならないよ。

 

無一郎がそう思うのを余所にゲンナリしている炭治郎だったが、次に来る義勇がそんな心情を一瞬で吹き飛ばす。

 

「そうか、なら……一層の事、俺の屋敷で一緒に住まないか?」

 

「はいっ!?」

 

義勇の提案に、炭治郎は素っ頓狂な声を上げる。義勇は更に話を続けた。

 

「そんなに虫に刺されては、住み辛い事この上無いだろう? 俺の屋敷ではそんな目には合わないから、どうだ? 一緒に住まないか? 勿論、禰豆子も一緒に。」

 

義勇はそう言って、竈門兄妹で同居する事を提案する。それに対して、炭治郎は最初こそ目を泳がせるも、直ぐに答えた。

 

「え、えーと……お誘いは、大変嬉しく思います。……ですが、俺はしのぶさん達と離れて暮らしたくありません。」

 

尊敬する義勇から一緒に同居を勧められた炭治郎は、喜びを感じつつも毅然と拒否した。第一、そんな事をしたらしのぶ達が泣いて悲しむだろう。そもそも今の炭治郎にとって、しのぶ達と離れて暮らすなど考えられない事だったからだ。

 

「そうか、分かった。」

 

「はい。すみません、義勇さん。」

 

義勇に申し訳無いと炭治郎は罪悪感から、頭を下げて謝罪した。しかし、次の瞬間。

炭治郎は、次に来る義勇の一言を聞いて抱いた罪悪感を跡形も無く吹き飛ばされる程の衝撃を受ける事になる。

 

「では……俺がお前や胡蝶達のためにも今度、休みを取って蝶屋敷の害虫駆除をしてやろう。」

 

「!?!?」

 

義勇の決意を聞いて、炭治郎は限界まで双眸を見開いた。

 

「それは絶対に止めて下さいっ!?」

 

炭治郎は義勇に嘆願して、しない様に強く求めた。そんな必死な炭治郎を見て、義勇は首を傾げる。すると炭治郎が咄嗟に義勇が納得出来る理由を口にし始める。

 

「え、えーと……蝶屋敷の害虫駆除は鎹烏達が普段、食事も兼ねてやって貰っているんですよ! だから義勇さんの手を煩わせるまでもありません!!」

 

炭治郎は咄嗟に言った理由だが、これも嘘では無い。冬を除いた季節の間は、鎹烏が花園に巣食う害虫を駆除している。中には飛んでいる蝉を、羽搏きで叩き落として食べる猛者も存在して居るのだ。尤も、蝶々には手を出さない様にしのぶが厳命しているため、鎹烏も蝶々にだけは手出しはしない。

 

「……そうか、炭治郎が其処まで言うなら、止めておこうか。」

 

「はい、ありがとうございます。義勇さん……さぁ、遠慮せず温泉に入って来て下さい。」

 

義勇が害虫駆除の宣言を撤回すると、炭治郎はあからさまな様子で安堵して、義勇に先に温泉に入る様に促した。義勇は承諾して温泉に向かうのを見て、漸く炭治郎は安心する。しかし、義勇が背中越しに口にした次の一言で、再び炭治郎の心情は荒れる事になる。

 

「炭治郎は聞いた事が有るか? 俺が(農業を営んでいる人達から)聞いた話によると……実は蝶々は見た目ばかり綺麗なだけで、実際は只の害虫らしいぞ?」

 

「それ、絶っっっ対にしのぶさん達の前では言わないで下さいねっ?! 本当に嫌われますからっ!!」

 

炭治郎は何時に無く真剣な表情で、義勇に強く釘を刺してその発言を封印させた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……はぁ。」

 

「炭治郎、お疲れ様……大変だったね?」

 

「あ、あはははは……別にそんな事は無いよ、時透君。」

 

温泉に向かう義勇を、炭治郎が疲れ果てた様子で見送る。

それから二人のやり取りを見守っていた無一郎が炭治郎に労いの言葉を掛けると、炭治郎は力無く礼を述べた。炭治郎が身体を洗う間、無一郎が背中を流して炭治郎を手伝った。

 

「時透君、ありがとうね。」

 

「っ!」

 

炭治郎は背中を流してくれる無一郎に、改めて礼を述べた。すると無一郎は少し目を見開くと、ゆっくり首を横に振ってから開口する。

 

「お礼を言うのは、僕の方だよ。炭治郎。」

 

「えっ?」

 

聞き返す様に呟いた炭治郎に、無一郎は続けて自身が礼を言うその理由を語り始める。

 

「炭治郎が珠世さんを連れて来てくれたら、僕は今こうして記憶を取り戻す事が出来た。

たとえ二人の力を借りずに何時の日か記憶が戻っていたとしても、それが明日なのか、一週間後だったのか、一ヶ月後か、半年後だったかなんて今となっては誰にも分からない。いや、記憶が戻る前に死んでいたかもしれなかったんだ。」

 

語り終えた無一郎は、改めて炭治郎への感謝と好意を言葉に込める。

 

「これも全部、君のお蔭だよ。本当にありがとう、炭治郎。」

 

「……っ。」

 

無一郎からの感謝の言葉に、炭治郎は胸がいっぱいになる。

 

「……」

 

「……っ?……時透君?」

 

炭治郎は自身の肩に重みを感じて、少しだけ後ろに首を回すと其処には頭を預けて凭れている無一郎が居た。しかし、その事に不快感など在りはしない。

 

――……そういえば、竹雄達も偶にこうやって静かに俺に甘えに来てくれる事があったな。ふふっ……懐かしいなぁ。

 

炭治郎は今は亡き家族である、竹雄達との家族の一面を思い出して旧懐の情を浮かべた。その中に有る、僅かな哀愁は悟られない様にしながら。

 

沈黙している炭治郎に身を預けていた無一郎は、双眸を閉じてその温もりを感じていた。そして少ししてから、無一郎は開口する。

 

「僕ね、新しい夢が出来たんだよ。炭治郎。」

 

「夢?」

 

炭治郎の肩に凭れたまま、無一郎が叶えたい夢について話し始めた。炭治郎は復唱する様に呟いてから、静かに耳を傾ける。

 

「僕は景信山って山で生まれた、杣人の子の出身でね……鬼を倒す事しか考えて無かった僕だけど、今は違うよ。この戦いに勝って生き残れたら、景信山に帰って亡くなった父さんや母さん、そして兄さんの墓を作ってあげたいって夢が出来たんだ。」

 

「……っ。」

 

炭治郎は無一郎の願望を聞いて、胸を打たれた様な感覚を覚えた。炭治郎はこの時、先刻の緊急柱合会議で無一郎は発言した一言と、事前にカナエに言われた一言を思い出していた。

 

『僕は……僕()は四年前、あまね様に『『始まりの呼吸の剣士』の子孫の力を貸して欲しい。』って言われたのが切っ掛けで、鬼狩りを始めたんだ。』

 

『何でも、鬼に家族と襲われた時に記憶を失ったそうよ。生き残ったのも彼だけで記憶を共有している人が全員いなくなってしまったから、取り戻し様が無くて……。』

 

――嗚呼、俺は何て馬鹿なんだ……事前にカナエに情報を教えて貰ったのに、何も生かせて無いじゃないかっ……。

 

炭治郎は悔恨して、自身の気の使えぬ不甲斐なさを呪った。

 

鬼に殺されたのは、兄の有一郎だけだ。しかし実はこの時に、炭治郎は無一郎が家族全員をその時に失ったと勘違いしていた。そんな炭治郎の心情など知る由も無い無一郎は、炭治郎を気にして声を掛ける。

 

「炭治郎?」

 

「っ!……ごめん、何でも無い。とても素敵な夢だと思うよ。」

 

無一郎に声を掛けられた炭治郎は、頭を左に振り向いてから流し目で無一郎を見ながらそう肯定した。

 

「うんっ! ありがとう、炭治郎っ!」

 

そんな炭治郎の言葉に、無一郎は嬉しそうに頬を笑みを浮かべてから続けて語る。

 

「そ、それでね……もし一緒に生き残る事が出来たら、君さえ良かったら……景信山に招待したんだ。……何も無い山だし、生家(いえ)も残っているか分からないんだけどね。」

 

「!」

 

無一郎は語っている途中で、恥ずかしそうに炭治郎に提案した。

 

「良いに決まってるよ!」

 

しかし、炭治郎は一切嫌な表情など浮かべず、身体ごと振り返ってから笑みを浮かべて無一郎に答える。

そして今度は炭治郎の方から、無一郎にある提案をした。

 

「実は俺も時透君と一緒で山生まれでね、雲取山ってところで代々炭焼き職人をしていたんだ……時透君も良かったらさ、俺の生家(うち)においでよ?……血塗れでボロボロのままだと思うけど。」

 

「っ!……うんっ! 喜んで行くね。」

 

炭治郎から故郷への招待を受けた事に歓喜しながら、無一郎は快諾した。そんな無一郎を見て、炭治郎も僅かに影が見えた笑顔から普段通りの満面の笑みへと変わる。

 

そして炭治郎は右手を無一郎に向かって差し出すと、無一郎もまた炭治郎に向かって左腕を差し出した。それぞれの手の小指だけを真っ直ぐ向けて。

 

「「無惨を倒して、一緒に生き残ろう。」」

 

二人は異口同音にそう言うと、指切りを交わしてお互いに生存を固く誓い、笑みを浮かべて同意した。

 

「っ!」

 

その際に無一郎は、炭治郎の身体中に浮かぶ赤い痕、口付け痕(キスマーク)が目に付いた。

 

「……っ。」

 

無一郎は何故か、その赤い痕に嫉妬心を抱き苛立ちを覚えた。

 

「時透君?」

 

炭治郎は無一郎から僅かに怒っている匂いを嗅ぎ取り、疑問に思って無一郎に声を掛けた。

 

 

 

 

 

ガブッ!

 

 

 

 

 

「あいったっ!?」

 

炭治郎は突如、軽いとは言い難い痛みを覚えて悲鳴を上げた。当然である。何故なら無一郎が指切りを解くと、自身の頭を炭治郎の左肩に近付けて、凭れた際に思い切り左肩に噛み付いたからだ。

 

痛みが引いてから炭治郎が視線を少しばかり下へ向けると、左肩に歯形がくっきりと刻まれているのが僅かに見えた。幸い、出血してはいなかった。

 

「と、時透君。今、俺を噛んだよね?」

 

困惑しながら、炭治郎は無一郎に尋ねた。

 

「うん。こう「ガブッ」って噛んだよ。」

 

「あ、あのねぇ……何で?」

 

しれっと悪びれる事無くそう答える無一郎に、炭治郎は言い返す事が思い浮かばず言葉に詰まり、漸く尋ねた。無一郎はそれに対して、笑みを浮かべてこう答えた。

 

「炭治郎が美味しそうだったから……色んな意味で。」

 

「お、美味しそうだったぁ?……それに色んな意味って、どう言う事なの?」

 

そんな楽しそうな様子でそう言った無一郎に、炭治郎は益々困惑しながら尋ねる。尋ねられた無一郎は再びニヒヒと笑いながら、楽しそうにこう言った。

 

「秘密♪」

 

そう言ってから炭治郎の両手を握って、無一郎は炭治郎に謝罪する。

 

「いきなり噛んだりなんかしてごめんね? 僕が悪かったよ。」

 

「あ、うん。別に良いよ。気にして無いから。」

 

無一郎に謝罪された炭治郎は、そう言って気にしない様に気遣った。そんな炭治郎の優しさに、無一郎は喜びから微笑んだ。

 

「良かった! じゃ一緒に温泉に入ろうよ、炭治郎!」

 

「うん。時透君、行こうか。」

 

そのまま無一郎は炭治郎と手を繋いだまま、温泉へと向かった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「た、炭治郎。大変だったな……プヒヒヒ。」

 

「派手な災難だったな、炭治郎……ぷっ、くくくくっ。」

 

「……」

 

善逸と天元が、温泉に入って来る炭治郎に向かって声を掛けた。それを必死で込み上がる、笑いを噛み殺しながら。炭治郎はそんな二人を見て、無言のままジト目で睨み付ける。

 

「時透、人の肩を噛んだりしては駄目だろう?」

 

「はい、すみません。悲鳴嶼さん。」

 

無一郎は先刻の行動について、近付いて来た行冥に注意を受けていた。シュンとした無一郎を見て、炭治郎が堪らず行冥に声を掛けた。

 

「悲鳴嶼さん。俺はもう、気にしてませんよ。別に血を流す程の怪我(もの)でも無いですし。」

 

「むぅ……炭治郎本人がそう言うなら、もうやめておこう。」

 

行冥は炭治郎の無一郎を擁護する発言を聞いて、説教を取り止めた。

 

「炭治郎、ありがとう。」

 

「どういたしまして、時透君。」

 

無一郎は炭治郎に礼を述べてから、軽く頭を下げた。それから無一郎は、再び炭治郎に声を掛けた。

 

「炭治郎。一つだけ、お願いしても良い?」

 

「勿論っ。俺に出来る事なら何でも。」

 

温泉に身を入れたまま、無一郎は炭治郎にある懇望をする。炭治郎は無一郎の懇望に対して、快く快諾する。

 

「難しいお願いじゃないんだ。ただ、胡蝶さんや冨岡さんみたいにさ……僕の事も、名前で呼んでくれないかな?」

 

『!』

 

無一郎は少し恥ずかし気に、頬を僅かに赤く染めながら苗字では無く、名前で呼んで欲しいと懇望した。

 

肩まで温泉に浸かっているため、一見すると美少女が意中の男性を相手にして照れている様な、そんな錯覚に陥りそうになる。

 

「良いの?……えっと、じゃあ……無一郎君?」

 

「っ!……うんっ!」

 

炭治郎が初めて無一郎の名前を呼ぶと、無一郎は頬を赤く染めたまま満面の笑みを浮かべて歓喜した。

それから笑顔では無いが、表情を柔らかくしたまま今度は善逸と伊之助の方へそれぞれ顔を向ける。

 

「君達は炭治郎のお友達なんだよね?」

 

「と、友達?……は、はい。そうです。」

 

善逸は無一郎に突然話を振られて戸惑ったが、無一郎の質問に肯定する。

 

「炭六郎とは親分と子分の関係だっ! 勿論、俺様が親分だ!」

 

「……友達じゃないの?」

 

無一郎の伊之助からの回答を聞くと、怪訝そうな表情を浮かべて伊之助を半眼で睨み付けた。

 

「ま、まぁ……友達でもある!!」

 

すると伊之助が口を詰まらせながら、遅れて無一郎の質問に肯定した。明らかに照れている様子だったので、友達と口にするのが純粋に恥ずかしかっただけであった。

 

――何を恥ずかしがっているんだろうね? 僕からしてみれば、炭治郎と最初に友達になった事が羨ましいくらいなんだけどなぁ……。

 

それを聞いた無一郎は、嫉妬心を心中に抱きながらも表に出す様な真似はしない。表向きは柔らかい表情を維持しつつ善逸と伊之助にこう伝えた。

 

「炭治郎のお友達なら、別に良いや……君達も僕の事は、無一郎って名前で呼んで良いよ。ついでに、僕に敬語なんて使わなくて良いから。」

 

『!』

 

無一郎が善逸と伊之助に名前で呼ぶ事を許した事に、行冥達は驚きを覚えた。善逸と伊之助もまた、度合いに差は有れど驚いていた。

 

「えっ? 良いんですか?……じゃなかった。良いの?……じゃあ、俺も善逸でよろしく。」

 

「おうっ! だったらそう呼ぶわ! お前も俺の事は名前で良いぞ!!」

 

善逸と伊之助はそう言って、無一郎に名前で呼ぶ事を許可した。

 

「……」

 

炭治郎に顔を向けていた行冥は何かを考え込む様に、沈黙を貫いていた。

 

「……うーむ。」

 

そんな無一郎の反応を見て、天元が顎に手を置いて一考する。すると結論が出たのか、天元が開口を始めた。

 

「おい、炭治郎。俺の事も今から天元で良いぞ。その代わり、お前は俺の弟分だからな。」

 

天元が些か尊大な態度で自身を名前で呼ぶ事を炭治郎に許可した。そんな天元を見て、炭治郎は苦笑しながら開口する。

 

「分かりました。改めて、よろしくお願いしますね? 天元さん。」

 

「おうよ。」

 

炭治郎に名前で呼ばれた天元は、嬉しそうに笑みを浮かべた。それから天元は何かを思い出した様に、善逸と伊之助が居る方向へ振り向いた。

 

「善逸、それと猪……伊之助だったか? お前ら二人にも特別に、この俺を「天元様」と呼ぶ事を許してやる。何なら俺は祭りを司る神だから「祭りの神」でも良いぞ。」

 

「あんたは脈略も無く、いきなり何言ってんの?!」

 

善逸は何一つ嬉しそうにする事無く、尊大な天元にツッコミを加えた。すると天元が堂々と言い放った、冗談なのか本気なのか判断が付かない発言に伊之助が喰い付いた。

 

「俺は山の王だ! よろしくな祭りの神。」

 

伊之助が普段から炭治郎達に言っている自称を、天元に伝える。

 

「何言ってんだお前……顔に似合わず気持ち悪い奴だな勿体無い……。」

 

「ああ"っ!?」

 

天元が冷めた様子で伊之助の発言を無碍に斬り捨てると、伊之助が激昂して天元を睨み付ける。

 

――なんつー五十歩百歩……どっちもお互いどっこいどっこいだろ!? それで引くのかよっ!?

 

――似た様な次元に……つーか同じ次元なんだけど、住んでる奴に対して嫌悪感が有んだな……これが同族嫌悪って奴か……。

 

善逸は口に出さない様に、心中で天元に対してツッコミを入れ続けていた。

 

「……不死川。」

 

「何だァ、冨岡ァ?」

 

そんな炭治郎達のやり取りを見ていた義勇は、実弥に向かって話し掛ける。実弥は、ぶっきらぼうに義勇に返答をした。

 

「お前も、炭治郎に名前で呼んで貰わなくて良いのか?」

 

「……ケッ。俺は別にあいつに、名前で呼んで貰いたい訳じゃねぇよ。」

 

義勇にそう言うと、実弥はプイと首を横に振るった。そんな二人を他所に、炭治郎は在る事に気付いた。

 

「……っ!……そう言えば、此処には柱では伊黒さんだけ居ないんですね。」

 

『!』

 

炭治郎が残念そうにそう言うと、行冥達が反応する。其処へ天元は炭治郎の呟きに答える。

 

「ああ。伊黒は何時も、口に包帯巻いてるだろう? 伊黒は食事中だろうが何だろうが、人前では絶対に包帯を外そうとはしねぇんだ。実際、飯の時に一口もご馳走を口にしなかったろ?あいつの素顔を知っているのは、幼馴染の煉獄とその親父……つーか、煉獄家の連中だけだろうな。」

 

「そう……ですか。教えて下さり、ありがとうございます。俺は別に素顔を無理に知りたいとかじゃないですけど、一緒に温泉に入れないのは残念ですね。」

 

炭治郎は天元に礼を述べると、改めて小芭内と一緒に温泉に入れない事を残念に思った。




お待たせ致しました。

温泉回が漸く本格導入です。

炭治郎君は義勇に振り回されていますね(笑)。それと行冥達と親しくなっていく炭治郎君の姿を掛けて満足しています。

鬼滅女子とイチャつく炭治郎君を書くのが好きなのですが、こうして男性陣と友情を深めるのも悪くないですね。

書いてて思ったけど、やっぱり実弥はハードル高いですねぇ(;^ω^)。

炭治郎と無一郎のやり取りですが、実は第肆話のオマージュが入っている事に気付いた方が居られたら嬉しいです。

更新予定は二月中です。お楽しみに!


宣伝

椿様
ユーザーID
https://www.pixiv.net/users/61503296

イラストも漫画も小説も御出来になる、素晴らしく万能なお方です。良ければTwitterの方も訪問してみて下さい。

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。