※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

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※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*未成年飲酒と未成年喫煙は犯罪行為です。絶対に真似しないで下さい。お酒と煙草は二十歳になってから。
*超辛口表現有り。苦手な方ご注意下さい。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第肆拾参話 日輪と鬼殺隊の柱は交流を深める ★

「楽しそうだな、お前ら。」

 

『っ!』

 

男性用の大浴場に入っていたのは、愈史郎であった。水色の湯浴みを着用している。

 

「にゃおぉ。」

 

更に愈史郎の足元には、茶々丸も同行していた。

 

『!!』

 

茶々丸の存在に気付いた炭治郎達は、驚きを隠せない。基本的に動物は立入禁止の大浴場に居るのだから、炭治郎達の反応は至って常識的である。そんな空気を察してか、愈史郎が咄嗟に茶々丸に関して話を始めた。

 

「茶々丸に関しては、耀哉から許可を得ている。好きにしてくれて良いそうだ。先ず外で洗うがな。」

 

そう言って茶々丸を擁護してから、自身の身体を洗い始めた。

 

「……愈史郎さん。身体を洗うんでしたら、背中を流すの手伝いますよ。」

 

温泉から出た炭治郎が、愈史郎の下へと向かって身体を洗うのを手伝いに向かった。

 

「別に気を遣わなくても良いんだぞ? 炭治郎。」

 

「俺が好きでやっていますから、気にしなくて大丈夫ですよ。」

 

炭治郎はそう言って、愈史郎に遠慮無用と胸に手を置いた。

 

「分かった。お言葉に甘えさせて貰うとしようか。」

 

「はいっ! 存分にお任せ下さいっ!!」

 

炭治郎は愈史郎から快諾されると、嬉しそうに喜色満面の笑みを浮かべた。しかしそれも愈史郎の一言で、間髪入れずに消滅する事になる。

 

「その前に炭治郎、お前……随分と喰われたんだなぁ……それ。」

 

「っ!?……あ、あのっ! えっと、その……あ、ははは……っ。」

 

 

【挿絵表示】

 

提供:椿様 

 

愈史郎が炭治郎の口付け痕(キスマーク)を指摘すると、炭治郎は困った様子で頭を掻いて、誤魔化す様に身体を反らした。

 

尤も、炭治郎の全身至るところに口付け痕(キスマーク)がところ狭しと存在するのだから、はっきり言って意味の無い無駄な抵抗である。

 

すると、愈史郎は新たに在る事実に気付いた。

 

「炭治郎、その歯形はどうした? しのぶかあの二人の誰かに噛まれたか?」

 

「!?」

 

愈史郎は炭治郎の左肩に在る歯形に気付いて、興味本位から炭治郎に尋ねるとあからさまな様子で炭治郎が狼狽した。

 

「えっと……その……違います。」

 

「っ!?……何だと?」

 

愈史郎は炭治郎から思わぬ返答を受けて、心配そうに炭治郎を見詰める。そんな愈史郎を見て、炭治郎は慌てて答えた。

 

「た、大した事じゃないんです! その……無一郎君に、付けられました。」

 

「無一郎?……まさかっ。」

 

炭治郎から歯形を付けた犯人を聞いて、愈史郎は温泉の方へ視線を向ける。そして再びゆっくりと、正面から炭治郎と向き合った。

 

「……時透か?」

 

「はい、そうです。」

 

「……」

 

歯形を残した犯人の名前を炭治郎の口から直接聞いた愈史郎は、ゆっくりを双眸を閉じて一瞬の間だけ沈黙する。

 

そして双眸を閉じたまま、炭治郎の両手をゆっくりと両肩に置いた。それから双眸を見開いて、炭治郎に淡々と愈史郎は忠告する。

 

「炭治郎。俺は他人(ひと)にとやかく言うのは好きじゃない。はっきり言ってしまえば、俺にとって珠世様以外の全てが基本的にどうでも良い事だからだ。」

 

そう言って愈史郎は、珠世の至高の位置に添えている事をはっきりと宣言した。愈史郎は語り続ける。

 

「忠告だ。俺とお前の仲に免じて、一度だけ忠告してやる。これだけは言っておくぞ。」

 

愈史郎は事前にそう言いはしたが、次に発せられる言葉は心底炭治郎の事を慮っていた。

 

「……同性愛(衆道)だけは、止めておけ。しのぶ達が泣く。」

 

「愈史郎さん、それは誤解です。」

 

炭治郎が愈史郎の忠告内容を聞いて、心底心外だとばかりに抗議する。

 

「炭治郎。確かに時透は初見だと、女と見間違わんばかりに整った顔をしている……だが男だ。服を剝いで全裸(はだか)にしても、お前の日輪刀を収める鞘なんて何処にも無いぞ? あいつの前に有るのは、一本の竿と二つの玉だけだ。……後ろなら無理矢理入れようと思えば、入れられる穴は有るには有るが……。」

 

しかし、愈史郎は聞く耳を持たない。真剣な表情で炭治郎の説得を続けていた。

 

「愈史郎さん、落ち着いて下さい。俺は衆道(その道)を歩む心算なんてありませんからっ……全っったくありませんからっ!!!」

 

愈史郎が真剣な表情で伝えた忠告に、炭治郎もまた真顔で返答を行った。

 

「ぷっ! くくくくくっ!!……いひひひっ!!……だーはっはっはっ!!!」

 

炭治郎と愈史郎の二人のやり取りの一部始終を見守って盗み聞きしていた天元は、堪え切れずに大爆笑して愉快な声を大浴場中に響かせていた。

 

「愈史郎。」

 

「「っ!」」

 

突然呼ばれた声を聞いて、炭治郎と愈史郎は声がした方へと顔を向ける。其処には何時の間にか温泉から上がっていた行冥が居た。

 

「……何だ?」

 

「茶々丸は私が洗おう。自分の身体を洗う事を、優先すると良い。」

 

「いや、そんな気遣いは別に要らん。」

 

行冥の提案に対して、愈史郎はそう言って断った。

 

「遠慮する事など無い。私に茶々丸は任せて貰いたい。」

 

「いやだから、別に要らんと……。」

 

「一切抜かり無く、茶々丸の身体の隅から隅まで、余さず洗ってみせる。」

 

「お前は先ず、俺の話をちゃんと聞け。俺は必要無いと最初から「全て、任せろ。」……お、おう。」

 

「うむっ! 任された!」

 

「「……」」

 

愈史郎は行冥に強引に押し切られる形で、茶々丸の洗浄を委託する事となった。愈史郎の傍に居た炭治郎も何も口を横から挟む事が出来ず、沈黙する他に無かった。

 

「茶々丸よ。じっとしているのだぞ? だが、痛ければ我慢せず鳴く様にな。」

 

「にゃおぉ。」

 

「南無。お前は良い子だな。」

 

行冥は緩み切っている頬を隠す事無く、茶々丸を洗い始めた。

 

「「……」」

 

一方の炭治郎もまた、愈史郎の背中を流し始めた。その動きを合図に、愈史郎も身体を洗い始める。

 

「愈史郎さんは、どうして大浴場(此処)に?」

 

「珠世様に先に行けと言われて、仕方無くな。」

 

そう話している間に、炭治郎は愈史郎の背中を流し終えて次に洗髪も行う。愈史郎が身体を洗い終えた頃に、その洗髪が終了した。愈史郎はお湯を頭から何度か被り、身体に付いた水滴を払う。

 

「……炭治郎。運ぶ物が有るから、手伝ってくれないか?」

 

「良いですよ。」

 

頼み事を依頼された炭治郎は快諾して、愈史郎の後に付いて行った。

 

「こんなものだろうか?……不満は無いか? 茶々丸。」

 

「にゃおぉ。」

 

「そうかそうかっ! ならば良いっ。」

 

行冥は笑いながら、茶々丸を機嫌良く抱き上げて少しばかり笑った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「おっ!? おいお前らっ! それってまさか……っ!」

 

天元が興奮した様子で、炭治郎と愈史郎を凝視していた。正確には、手に持っている物を凝視していたのだが。

 

因みに茶々丸を洗い終えた行冥は再び温泉に身体を浸かり、茶々丸は温泉で犬掻きならぬ猫掻きをして優雅に泳いでいた。

 

「耀哉とあまねからの差し入れだそうだ。……飲み過ぎるなよ?」

 

愈史郎がそう言った瞬間、大浴場で歓声が挙がった。尤も、歓声を挙げたのは主に天元であり、それに釣られた伊之助であったが。

 

しかし敬愛する産屋敷夫婦からの差し入れに、行冥達は心無しか喜んでいた。

 

「はい、皆さん取って行って下さい。」

 

炭治郎と愈史郎が持っていたのは、御盆に載せられていた徳利と酒盃であった。

 

「かあぁぁぁっ! 御館様もあまね様も気が利くねぇ。」

 

天元は嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら、徳利に手を伸ばそうとする。すると愈史郎がその前に口を開いた。

 

「言っておくが全部が全部、中身は日本酒では無いからな。」

 

『!』

 

愈史郎の一言に、行冥達は驚いた。全て徳利なのだから、日本酒では無いのはおかしいからだ。愈史郎はその事について早速、説明を始めた。

 

「耀哉の趣向でな、空の徳利に何種類もの酒を入れてあるんだ……まぁ湯気が出てるのは熱めの酒だと見れば誰でも分かるし、炭治郎に至っては匂いで分かるだろうがな。」

 

「うーんっ……愈史郎さん。確かに幾つかの徳利からは、果物の匂いがするのは分かります。」

 

愈史郎の言葉に炭治郎は肯定した。しかし同時に、困った様子で愈史郎に異議を唱え始める。

 

「待って下さい、すんすん……けど何個かは何の匂いかはやっぱり、原材料が何なのかそれすら分からないんですけど……いや、麦とお米かな? でも、それだけな訳じゃなくて、俺も初めて嗅ぐ匂いです。」

 

炭治郎は匂いを何度も嗅ぐが、どんな酒の匂いかまでは分からなかった。

 

「間違ってはいないぞ。寧ろ正しい……ああ、そうか……。いくら炭治郎でも流石に初見だと、何か分かる訳無いよな。種明かしをすると幾つかの洋酒……外国の酒も含まれているぞ。」

 

清酒や単純に酒と呼ばれていた日本酒が一般的な名称とされ始めたのは、明治時代以降である。それは様々な洋酒が日本に輸入され、国産も作られていったからだ。

 

其処で古来より作られていた清酒を諸外国への宣伝も兼ねて"日本酒"と呼称される様になったのである。

 

「そうでしたか……俺、外国のお酒の匂いなんて、生まれて初めて嗅ぎましたよ。」

 

愈史郎の言葉に納得した様子で、炭治郎は頷いた。

 

「大判振る舞いだねぇ……それにしても、御館様も面白れぇ事を思い付くじゃねぇか。」

 

「あのお方らしい……。」

 

天元は楽しそうに、行冥は納得した様にそう口にした。

 

「風呂場で酒を飲むと酔いが早く回るから、本音で言うと止めて貰いたいんだがな。」

 

愈史郎は医療関係者の立場からか、苦言する様に炭治郎達にそう言った。

 

「地味な心配すんな。この程度の酒の量で酔い潰れる奴ぁ居ねぇよ。よっしゃ飲むぞ~~。」

 

天元の言葉を口火に、全員が次々と徳利に手を伸ばし始めた。

 

「おおっ! こいつぁ初めて飲む酒だぜぇ!! 最初にツンと来るが、後引く味が何とも言えないっ。」

 

「その匂いは確か……火酒(ウイスキー)だな。麦が基本原料である洋酒の一つで、何種類かあまねが収集した酒も入って居るらしいぞ。」

 

「っ!……あまね様の収集品かっ……。」

 

行冥は愈史郎の話を聞いて、合点が行った様子で頷いた。愈史郎は酒を持たされた際に、説明が出来る様に珠世と共に酒の匂いを嗅がされているのだ。炭治郎はそんな行冥を見て、在る疑問を尋ねた。

 

「悲鳴嶼さん。あまね様ってお酒を集めたりするんですか?」

 

「うむ。あまね様はああ見えてお酒を嗜まれる……二時間(一刻)飲み続けても顔色一つ変えない蟒蛇なのだ。」

 

『!!!』

 

行冥からあまねの逸話を耳にして、炭治郎達は驚愕する。義勇と実弥も初耳なのか、双眸を見開いて驚愕していた。すると天元が火酒(ウイスキー)をもう一杯飲み干してから、同意する様に会話に参加する。

 

「悲鳴嶼さんの言う通りだ。一度だけ御館様に頼まれて一緒に酒を飲んだ事が有るんだが、嫁共々派手に潰されちまったなぁ。」

 

「「……っ。」」

 

義勇と実弥が信じられないものを見る様な目で、天元に視線を集中させた。

 

「ゴクッ……梅酒か……優しい喉越しだ。」

 

行冥は炭治郎程に優れている訳では無いが、嗅覚を使って比較的好んで飲む梅酒を選び、その味を楽しんでいた。

 

「……」

 

義勇は何も言わずに、井戸水で冷やされた日本酒の冷酒をチビチビと飲んでいた。

 

「……っ!……最初に苦みが有るが、その分後から来る甘さが際立つなァ……。」

 

葡萄酒(ワイン)だな。葡萄が原材料の甘味の強い酒だぞ。」

 

実弥は初めて飲む葡萄酒(ワイン)の味に驚きながらも、気に入ったのか僅かに笑みを浮かべていた。

 

「……あっ……僕、このお酒好きかも……。」

 

生まれて初めて酒を口にした無一郎は日本酒の熱燗を飲み干してから、熱燗の味を気に入った様子で笑みを浮かべた。すると自身が口にした酒盃を置いてから、もう一つの酒盃を取って炭治郎に渡した。

 

「炭治郎も飲んでみなよ? 僕が注いであげるから。」

 

「え……じゃあ、頂きます。」

 

炭治郎は無一郎から酒盃を貰って熱燗を注いで貰うと、礼に頭を軽く下げてから一気に呷った。

 

「……くぅ~~っ! 辛いなぁっ!……あっ、でもこの味、癖になるかも……。」

 

炭治郎は喉を焼く熱さを感じながら、熱燗の余韻に浸っていた。

 

「……」

 

するとそんな炭治郎を見た義勇が、徐に徳利を持って炭治郎に接近し始めた。

 

「炭治郎。今度はこの酒を飲んでみたらどうだ?」

 

「あ、はいっ。頂きますね、義勇さん。」

 

義勇に冷酒を酒盃に注いで貰った炭治郎は、一礼してから一気に呷った。

 

「……ふぅ……冷やすのと温めるのとでは、結構違うんですね……。」

 

「どっちが美味しかった? 炭治郎?」

 

無一郎が興味深そうな様子で、炭治郎に尋ねた。すると炭治郎は両方の酒の味を思い出しながら、結論を口にした。

 

「うーん。両方共美味しかったけど、どちらかと言うと……俺は熱燗の方が好みかな?」

 

「……そうか。」

 

「っ!……そっか! 僕達気が合うんだね!」

 

何故か無一郎は嬉しそうにそう言って喜んだ。義勇は何とも思っていなかったが。

 

「しゃあ!……俺も飲むぞぉ!!」

 

伊之助が手をわちゃわちゃと動かすと、徳利を一つ取って選択した。すると自身の酒盃は取らずに、徳利から直接飲もうとし始めた。

 

「何やってんだ、馬鹿たれェ。」

 

「いってぇ!?」

 

そんな伊之助の品の無い蛮行とも解釈出来る行動を見てすかさず、実弥が伊之助の頭に拳骨を落とす。

その際に伊之助は徳利を離して落としてしまうが、実弥が徳利を掴んだために温泉内に酒が零れる事は無かった。

 

「てぇ~~~っ……殴るこたぁねぇだろ!?」

 

「徳利から直接飲むんじゃねぇ。注いでやるから酒盃を持てェ。」

 

「……おう。」

 

実弥にそう諭された伊之助は、一転して大人しく酒盃に酒を注いで貰い、炭治郎を真似て一気に酒を呷った。

 

「っ!……ふぃ~~~。甘くて美味ぇ……。」

 

「お、おいっ!? 大丈夫か、おいっ!?」

 

伊之助は実弥と同じ葡萄酒(ワイン)を口にして、顔を赤くしながらフラッと身体を揺らした。実弥はそんな伊之助を見て、思わず声を掛けた。

どうやら毒耐性が強い伊之助も、酒精(アルコール)の耐性は低かった様だ。

 

「ゴクッ……この酒、美味いなぁ……ねぇ愈史郎。これも葡萄の味がするけど、同じ葡萄酒(ワイン)なの?」

 

善逸は選んだ徳利から酒を酒盃に注ぐと、一口飲んで味を確認した。その酒の味を気に入った善逸は、愈史郎に確認のために尋ねた。

 

「ん? すんすん……同じ葡萄で作られた酒でも、これは葡萄酒(ワイン)じゃなくて、葡萄地酒(ブランデー)だな。」

 

「そっちも旨そうだな。おい、善逸。その酒くれよ。」

 

善逸の名前を天元が呼ぶと、善逸の葡萄地酒(ブランデー)を催促した。すると善逸は天元の催促に対して、露骨に顔を顰めた。

 

「えぇ~~~……人のモン取ろうとしないで下さいよぉ。」

 

「ケチ臭い事を地味に言うなって。交換条件つーか、俺の火酒(ウイスキー)をやるからさ。」

 

「あんたのじゃないでしょうに……ほら、入れますよ。」

 

「おうよ。」

 

善逸は不承不承としながらも、了承して互いに酒を酒杯に注いだ。

 

この大浴場で広がる酒宴を見ると、初見では双眸を見開いて驚愕を覚える事だろう。炭治郎を含む四人の未成年者が、一切の躊躇を覚える事無く酒を口にしているのだから。

 

しかしこれは決して炭治郎達が不良だからとか、倫理観が欠如しているなどという訳では無い。

 

大正時代初期まではこれが当たり前の光景だったのだ。飲酒年齢という、現代社会では常識的な概念が存在しなかったからである。居酒屋などで親と幼い子供が酒を飲むなど珍しくも無い、ありふれた光景であった。

 

この未成年飲酒が法律違反という概念が生まれるには、『未成年者飲酒禁止法』が制定される一九二二年(大正十一年)まで待たなければならない。

 

因みにこの『未成年者飲酒禁止法』だが、実は一九〇一年(明治三十四年)に一度帝国議会に提出されているのだ。しかし、何と『屋内での飲酒の取り締まりは困難』という、通常では考えられない理由で否決されている。

 

尤も、もし可決されていればこれから起きる交流は存在しなかったのだから、この場においては吉と出たと判断しても過言では無い。

 

更に余談だが、この『未成年者飲酒禁止法』と対なる法案である『未成年者喫煙禁止法』は一九〇〇年(明治三十三年)に帝国議会で提出され可決となり、正式に制定されている。

 

尤も、呼吸術が隊士の生命線と言っても過言では無い鬼殺隊において、肺を著しく傷付ける煙草など許される趣味では無いため隊律で厳しく禁じられている。

 

もしこの隊律違反を犯した場合、一度のみ許されるが二度目を破ると鬼殺隊から追放される事になっている。

 

またこの隊律は未来の鬼殺隊の隊士達を育てる育手にも適用され、隊律違反を犯した育手は育手の権利を失い追放処分を受ける。育手としての心構えや資格が無いと判断されるのだから、妥当な処分では有るのだが。

 

尤も、炭治郎は煙草の匂いを毛嫌いしているので、はっきり言ってどうでも良い、無関係な話である。

 

 

 

*未成年飲酒及び未成年喫煙は犯罪行為です。絶対に真似しないで下さい。お酒と煙草は二十歳になってから。

 

 

 

そんな法案が将来成立する事など知る由も無い炭治郎達は、酒の批評を楽しんでいた。

 

「あまね様がお酒に強いなら、輝利哉様達もお酒に強いのかなあ。」

 

『!』

 

炭治郎が不意に疑問に思った様に、それと無くそう呟いた。炭治郎の呟きに、次々と反応が起きる。

 

「流石にあの歳では、まだ分からんと思うぞ。」

 

何を言っているんだと言わんばかりに、愈史郎は炭治郎にそう言った。

 

「輝利哉様達が(もうちょっと成長してから)飲めば分かる事だろう。」

 

義勇がボソッとそう呟くと、実弥が青筋を浮かべてツッコミを入れる。

 

「おいテメェ、冨岡ァ。今何を端折りやがった? もう騙されねえからなァ。」

 

実弥がそう言って義勇を睨み付けるが、義勇は何も答えず実弥を無視する。そのため実弥は酒杯を持っている手に、力を籠める程に苛立ちが増す。

 

――あの二人、仲が悪いなぁ……と言うより、不死川さんが一方的に義勇さんが気に入らないって感じかな?

 

義勇と実弥のやり取りを見ながら、炭治郎はそう分析した。しかし炭治郎は困った表情を浮かべながらも、二人の間を割って入る様な真似はしない。自分が割って入ったところで、状況が悪化すれど良くなる事は無いと理解しているからだ。

 

炭治郎は結局、義勇を心配しつつ不干渉を選択してその場を離れた。それから行冥の下へと向かう。因みに、無一郎も炭治郎の後から付いて行った。

 

「悲鳴嶼さん、お酌しますね。」

 

「っ!……そうか。ありがとう、炭治郎。」

 

炭治郎は徳利を一つ選ぶと、行冥の酒盃に注いだ。酒を注がれた行冥は、炭治郎に礼を述べてから一気に酒を呷った。

 

「ふぅ……ありがとう、炭治郎。」

 

「?」

 

すると行冥は一呼吸おいてから、再び炭治郎に礼を述べた。その事に、炭治郎は首を傾げる。それから炭治郎は少し困った様子で、もう一度酒を酒盃に注いでから行冥に開口した。

 

「悲鳴嶼さん。俺……二回もお礼を言われる様な事なんて、してませんよ?」

 

「酌をしてくれた事では無い……いや、酌をしてくれた事も礼を言うが、他の事で私は君に礼を言いたいんだ。」

 

「他の事?」

 

炭治郎の隣に居た無一郎が、炭治郎に代わって行冥の言葉を復唱した。それから行冥は、自身が炭治郎に礼を述べる理由を語り始めた。

 

()()()、沙代の事だ……君達兄妹が沙代を鬼の魔の手から救ってくれなければ、あの娘の命は既に此の世に留まっては居なかっただろう。」

 

「!」

 

行冥は炭治郎に沙代の命を、鬼から守り救った事に感謝を述べた。更に沙代について、行冥は語り続ける。

 

「何より……君が沙代から真相を聞き出してくれなければ、私は生涯に渡ってその真実を知る事は無かったに違いない。

私は昨日まであの娘に会いたいとも、もう一度話したいとも思っていなかった。況してや、和解しようなどと思う気持ちさえも抱いていなかったのだから。」

 

『……』

 

行冥の酒盃に入って居た酒が、僅かに揺れて酒盃の中で小さく波紋を広げる。

 

「そして()()()……君がしのぶを救ってくれた事は、私は幾ら感謝してもし切れない。」

 

『!』

 

しのぶが話題に出た瞬間、炭治郎達全員の注目度が沙代の時よりも格段に増した。

 

「しのぶが語っていた事を補足すると、あの娘がカナエと共に眼前で両親が鬼に殺された。その時の鬼を倒して二人を救ったのが、この私だ。」

 

『!?』

 

「……」

 

思わぬ過去を聞いた天元達は、驚愕しながら行冥を凝視する。

 

一方で炭治郎だけは冷静に、行冥の語った話に耳を傾けていた。カナエから夢幻世界で事前に話の一部始終を聞いているのだから、当然と言えば当然の話なのだが。

 

「その後、姉妹揃って私の屋敷にやって来た。鬼殺隊に入隊するための方法を、私から知るためにな……あの時に私は、二人から恨まれてでも市井の人として暮らさせるべきだったのではないか? 私の所為で、カナエとしのぶの運命を狂わせてしまったのではないかと……ずっと心の奥底で思っていたのだ。」

 

行冥が長年、心の奥底で抱き続けていた後悔の念を苦しそうに吐露した。しかし、これだけで今日まで抱いていた行冥の後悔の念は終わらない。

 

「何より辛かったのは……しのぶの身体が毒に蝕まれている事を知っていながら、私は何もしようとはしなかった事だ。否……何も出来なかった。私にはしのぶを止める資格も権利も、有りはしなかった……。」

 

『!!』

 

行冥の告白を聞いて、炭治郎達は驚愕した。継子のカナヲ達でさえ知らなかった事実を、行冥が知っていたとは思わなかったからだ。

 

尤も、一人だけ驚いていない人物が居た。愈史郎である。

 

「何だ。やっぱり悲鳴嶼はしのぶの身体の秘密を知っていたのか。」

 

『!?』

 

愈史郎が納得した様子を浮かべて呟いた一言に、炭治郎達は再び驚愕する。そんな炭治郎達を無視して、愈史郎は天元に向かって指摘した。

 

「それから、宇髄。お前もしのぶの身体の事に気付いていただろう?」

 

『えっ……?』

 

『何っ!?』

 

『!』

 

愈史郎の指摘を受けて、炭治郎達は驚愕しながら天元に注目を移した。

 

「バレちまうたぁ地味に驚きだ……何処で気付いたよ、愈史郎?」

 

「別に確信なんぞ有った訳じゃない。俺がしのぶの件を暴露した時に、お前と悲鳴嶼だけ動揺していなかった。それだけだ。正直に言うと、半信半疑だったよ。」

 

「そうかよ。」

 

愈史郎が二人を見抜いた理由を聞いて、天元は肩を竦めた。

 

「悲鳴嶼は感覚で察知したみたいだが、お前はどうやって知ったんだ?」

 

天元がどうやってしのぶの身体の秘密を知った理由が気になって、愈史郎が天元に尋ねる。

 

「おいおい、地味に忘れたのかぁ? 俺がお前に投げ付けた、あの苦無に塗られていた藤の花の毒をよ。」

 

「っ!……お前は毒に精通していたから、しのぶの身体の秘密に気付いたとでも?」

 

愈史郎は天元が言いたい事を察して、敢えて口に出してみた。

 

「その通りだ。俺を誰だと思ってやがる? "元忍び"の宇髄天元様だぞ。その界隈では派手に名前を轟かせた男だ。」

 

「あーもう良い。凄まじく頭の悪い発言を聞いた所為で頭が痛くなって来たわっ。何だ、その矛盾しかない発言は? 幾ら何でも巫山戯け過ぎだろうがっ。」

 

「嘘でも無いんだがなぁ。」

 

「「「……っ!」」」

 

天元の発言を聞いた愈史郎は、濡れた手で頭を抱えながら天元を睨み付けた。

 

しかし、天元は嘘は吐いてなどいない。事実、炭治郎達も各々の特化した感覚で真偽を見抜いていた。

 

「……炭治郎。」

 

『!』

 

天元と愈史郎のやり取りを余所に、沈黙していた行冥が炭治郎の名前を呼んだ。それを聞いて、天元と愈史郎も会話を止める。

 

次に行冥は憑き物が落ちた表情を浮かべて、炭治郎に顔を向ける。

 

「……ありがとう、しのぶを救ってくれて……心から感謝している……っ。炭治郎。本当に、ありがとう。」

 

「……っ。」

 

行冥の深い感謝の言葉に、炭治郎は咄嗟に何も言えず沈黙する事しか出来なかった。しかし、一度息を整えてから炭治郎は、行冥に向かって言葉を掛けた。

 

「悲鳴嶼さんのお役に立てて、とても嬉しいです。ですが……俺の方こそ、貴方に感謝しなければなりません。」

 

「!」

 

炭治郎は続けて、行冥に感謝をする理由について語り始めた。

 

「悲鳴嶼さんがカナエさんとしのぶさんを救ってくれたから、俺は巡り合う事が出来たんです……だから悲鳴嶼さん。二人を助けてくれて、俺達を結んでくれて、ありがとうございました。」

 

炭治郎は酒盃を温泉に浮かべているお盆に戻し、姿勢を正してから行冥に深々と頭を下げた。温泉に顔を着けない様に、気をつけながら。

 

「……」

 

そんな炭治郎を感じ取った行冥は、ゆっくりと片腕を炭治郎に向けて伸ばした。その際に水音が大浴場に響き渡る。

 

「!」

 

炭治郎が閉じていた双眸を見開く。頭に自身と異なる感覚が有ったからだ。それは行冥が片手をポンと、炭治郎の頭に乗せた感覚であった。

 

「……鬼の妹を背負いながら、たった一人で良くぞ此処までやり遂げて来た。改めて言うがこれからは私も、君の助けになるぞ。炭治郎……。」

 

「ありがとうございます……えへへっ。」

 

行冥が優しく炭治郎の努力と苦労を労うと、炭治郎は少しだけ涙を浮かべながらも、懐かしい感覚を覚えて笑みを零した。そんな炭治郎を見て、嘗ての自分と沙代の一面を懐かしんで行冥もまた優しく微笑む。

 

「……行冥で良い。」

 

「えっ?」

 

炭治郎の頭を撫でながら、行冥がボソッと呟いた。聞き取れなかった炭治郎は、反射的に聞き返す。行冥は今一度、はっきりと炭治郎に告げた。

 

「私の事も冨岡達と同様、名前で呼んでくれても構わない。寧ろ、その方が私も嬉しい。」

 

「っ!……じゃあ、お言葉に甘えますね。行冥さん。」

 

炭治郎は行冥の名前を呼んでから、嬉しそうにはにかんだ様な笑顔を見せた。『百眼符・視』を着用していない今の行冥だが、それでも炭治郎が笑顔で居る事が分かる様につられて微笑みを返した。

 

「……悲鳴嶼さん()()、そんな後悔が有るんだな。」

 

『!』

 

そんな二人のやり取りを余所に、義勇がボソッと一言呟いた。その義勇の呟きを耳にして、炭治郎と行冥が我に返る。その時には、大浴場に居た全員の視線が義勇に移っていた。其処へ無一郎が全員を代表する形で、義勇に尋ねた。

 

「冨岡さんも、悲鳴嶼さんと同じ後悔をした事が有るんですか?」

 

「ああっ。」

 

義勇は無一郎の質問に、力無く肯定する。

 

「だが、その前に……。」

 

義勇は炭治郎をしっかりと視線を合わせてから、一度その双眸を閉じる。

 

『?』

 

「……」

 

炭治郎達が疑問に思う中、義勇が閉じていた双眸を開いて再び炭治郎に視線を合わせた。

 

「炭治郎。鱗滝先生から、手紙で話は聞いている。お前が"最終選別"の時に、錆兎達を喰い殺した仇敵(かたき)の鬼を倒してくれていたそうだな?」

 

『!』

 

義勇が話した内容に、行冥達は注目した。その内容は義勇の事情を既に耳にした皆には、直ぐに理解出来た。

 

「遅くなって済まなかった。錆兎達の、俺の親友(とも)仇敵(かたき)を討ってくれて……ありがとう、炭治郎。」

 

義勇はそう言って、炭治郎に頭を下げて感謝の意を示した。

 

「義勇さん……。」

 

炭治郎は尊敬する義勇からの感謝の言葉に、胸が熱くなった。

 

「それから……正直に言うと、お前と禰豆子の事で俺は後悔している事が有る。」

 

『!?』

 

「えっ……?」

 

唐突な義勇の告白に、炭治郎は少し当惑した様子を見せる。しかし、その当惑が深くなる前に義勇がその理由について語り始めた。

 

「炭治郎は良く俺のお蔭で、禰豆子と共に救われたと言ってくれているが……俺は二年前のあの日の事で後悔している。もっと早く……せめて半日早く雲取山に到着していれば、間に合ったかもしれない。」

 

「俺が盾になっていれば、炭治郎は家族を失わずに済んで、禰豆子も鬼にならずに人間の少女にままで居られたんじゃないか……そしてその不甲斐無い俺の所為で、鬼狩りの道を歩ませてしまったと、本当に……本当に申し訳無く思っている……。」

 

『……』

 

義勇はそう言うと、気持ちが沈んだ様子で僅かに炭治郎へ頭を下げた。炭治郎は慌てて、義勇に答えようとした。

 

「義勇さんっ! 俺はっ「真面目に話を聞いて見れば、どいつもこいつも全く持って馬鹿馬鹿しい……。」……っ!!!」

 

『!!!』

 

炭治郎の言葉を遮断して吐き捨てる様に言い捨てたのは、黙って話を聞いていた愈史郎だった。

そんな愈史郎に、炭治郎達は双眸を見開いて反応する。

 

「おいこら、愈史郎。どう言う意味だよそりゃっ。」

 

天元が苛立ちを隠す事無く、青筋を浮かべて愈史郎を睨み付けた。天元に同意する様に、困惑する炭治郎を除いた行冥達全員が不愉快そうに愈史郎を睨み付けた。しかし、愈史郎は怯む事無く鼻で嗤う。

 

「はっ、聞こえなかったのか? 俺は悲鳴嶼の話も冨岡の話も、全部馬鹿馬鹿しいって言ったんだよ。」

 

再びそう吐き捨てると、愈史郎はその馬鹿馬鹿しいと思う理由について炭治郎達に説明を始めた。

 

「先ず、そんな『たられば(もしも)』なんて話して何になる? 考えるだけ時間の無駄だろうが。どんなに過去は変えたくても、誰にも変えられないんだからなっ。」

 

『……っ。』

 

愈史郎は正論を言うと、炭治郎達は何も反論出来ず沈黙するしか無かった。愈史郎はそんな炭治郎達を見てから、行冥に向かって話し始めた。

 

「悲鳴嶼。お前は色々ほざいていたがな、今度は俺が思い付いた『たられば(もしも)』を話してやる……もしお前がしのぶ達の鬼殺隊への入隊を許さなかったところで、別の方法で鬼殺隊に入隊する道を探していたさ。絶対にしのぶ達は諦めなかっただろうよ。」

 

『!』

 

愈史郎が語った『たられば(もしも)』に行冥達は思わず睨み付けるのを止めて、愈史郎の話に耳を全集中して傾けた。

 

「そして仮にお前の救出が間に合って、しのぶの家族全員で生き残れて万々歳だったとしよう……カナエについて俺は何も知らんし分からんが、しのぶを見れば俺でも分かる。」

 

愈史郎は一呼吸おいてから、己の推測を断言した。

 

「あいつらが自分達の知らないところで、鬼に殺される人々が居る。大切な人を奪われ、幸福を壊されている人々が居る。そんな残酷な事実を知って、何もしなかったとは思えないな。」

 

「っ!……それは……っ。」

 

『……っ。』

 

しのぶの性格を知った上で考え出した『たられば(もしも)』の話に、炭治郎達は思わず頷きそうになった。

 

鬼の事を知れば、たとえ家族が健在だったとしても鬼殺隊の門を勢い良く叩く胡蝶姉妹の姿が容易に目に浮かんだからだ。

 

そんな炭治郎達を見て一通り満足した愈史郎は、今度は義勇を標的にして語り始める。

 

「それから冨岡……お前は随分と、()()()()()()()()()()()を考えているよな?」

 

『!』

 

「っ!……何だとっ……愈史郎。()()()()()()()()()()()とは、どう言う意味だ……?」

 

義勇は不快感を隠す事無く、青筋を浮かべて愈史郎を睨み付けた。

 

「あっ? そのままの意味に決まっているだろうが。筋金入りの馬鹿か、お前は。」

 

愈史郎は義勇にそう言って鼻で嗤いながら反論し、一方的に語り始める。

 

「お前がもし雲取山に間に合っていたら、死体が一つ余計に増えていただけだぞ? その余計な死体とは無論、お前の事だ。この間抜け。」

 

「っ!……っ。」

 

愈史郎は当然の如く、もし間に合っていたら義勇は死んでいたと断言した。愈史郎の言葉を聞いて、義勇は悔しそうに唇を噛みながら反論を試みる。

 

「っ……だが俺が盾になる事で、炭治郎の家族を無惨から逃がせた可能性が……っ!」

 

「無い。そんな可能性は万どころか、億に一つも無い。」

 

義勇が語った『たられば(もしも)』を、愈史郎は無碍に斬り捨てる。

 

「分かっているのか? 無惨は最初にして最強の鬼だぞ?……たかだか上弦の鬼如き一人で倒せない奴が、無惨を相手にたった一人で挑んで勝利する事も、足止めのための時間稼ぎも、出来る訳が無いだろうがっ! 無惨にその程度の実力しか無いのなら、初めから珠世様も耀哉もこんなに苦労なんかしないんだよっ!!」

 

上弦の鬼を倒せる力を持たないというのに、無惨相手に何とか出来ると考えた義勇の一考を愈史郎は根底から否定する。

 

「これで分かったか? 分かったら自惚れも大概にしとけ。この役立たずの雑魚がっ。」

 

『!!!』

 

「……っ……っ……。」

 

鬼殺隊の頂点に位置する柱の一人である義勇を雑魚呼ばわりする、愈史郎の傍若無人な罵詈雑言に炭治郎達は絶句して固まる。

 

そして一方的に罵倒された義勇は、悔しそうに更に唇を強く噛んで愈史郎を睨み付けた。そんな義勇に、愈史郎は溜め息を吐いてからゆっくりと語る。

 

「はぁ……そもそもだ、冨岡。お前はどうして()()()()()()()()を見事に掬い取ったという、その自覚が無いんだ? 其処はもっと胸を張っとけば良いだろう?」

 

()()()()()()()()を掬い取った、だと……?」

 

義勇は愈史郎の言葉を理解し切れていない様子で、愈史郎が言い放った言葉を復唱した。愈史郎は再び溜息を吐いてから、ゆっくりと語り始める。

 

「耀哉も言っていたじゃないか。冨岡義勇だから、炭治郎と禰豆子を救う事が出来たんだと。」

 

「っ!」

 

義勇は愈史郎の指摘を受けて、ハッとした表情を浮かべる。

 

「耀哉の言葉を借りれば、禰豆子の特異性はお前じゃなかったら見抜けなかったと言っても過言じゃないという事だ。」

 

愈史郎はそう言って、義勇の英断を称賛する。

 

「……そう言われて見れば、俺でも簡単に想像出来るぞ? もし他の柱が炭治郎と禰豆子に出会っていたら、どんな結末が待っていたかをな。考えただけでもゾッとするわ。」

 

呟く様に断言した愈史郎は身体をブルっと震わせてから、忌々しそうに次の言葉を吐き捨てた。

 

「ああ、何て事だ。他の(馬鹿)が馬鹿な事を吐き捨てた挙句、大馬鹿をやらかすところが簡単に想像出来るぞ。炭治郎。二年前に出会った鬼狩りが冨岡で、本当に良かったな。」

 

『!!!』

 

愈史郎の称賛の含まれる指摘に、炭治郎達は双眸を見開いて驚愕する。言われた義勇に至っては、口を僅かに開ける程の驚き様だった。

 

「そ、そうですよ! 義勇さん!! 愈史郎さんの言う通りですっ!……俺も禰豆子も……あの時に出会えたのが義勇さんで、本当に良かったと思ってますから……。」

 

炭治郎はそう言って、もう何度目か分からない感謝の言葉を義勇に送った。

 

『……』

 

すると行冥と天元が、特に無一郎がバツが悪そうに困った表情を浮かべた。愈史郎の指摘に、一つとして反論出来なかったからだ。むしろ心中では正直に、その任務を自分が担当しなくて良かったと考えていた。因みに、実弥だけは小さく舌打ちをしていた。

 

――まぁ冨岡以外に可能性が有ったとしたら、カナエとしのぶの姉妹と、甘露寺の三人くらいか。しかし、見事に女しか居ないな。

 

愈史郎は炭治郎達の話を聞き流しながら、炭治郎の下へ駆け付けた鬼狩りが義勇以外だった場合を想定して、同様の結末を迎えられた可能性の有無について考察していた。

 

――……駄目だな。カナエは四年前に死んでいるから、考えるだけ時間の無駄だ。

しのぶも那田蜘蛛山とやらで禰豆子を殺そうとした前科が有るから、はっきり言って論外だ。

甘露寺も……駄目か。馬鹿力で炭治郎を片手で押さえ付けながら、もう片方の手で禰豆子を殺していたかもしれん。

やはりこの炭治郎と禰豆子の案件は、冨岡にしか裁けなかったんだな。

 

結局のところ、幾ら考察しても義勇だけがこの英断が下せたのだと結論付けた愈史郎は、無駄な考察をしたと内心で愚痴を零す。

 

「まぁ、酒が入って感傷的になったのか知らんが、無駄な事はもう考えない事だ。後ろを振り返るなとは言わんが、人間の時間なんて限られているんだから、なるべく前を向く事だな。特に冨岡、()()()()()()()()を掬い取ったのは、紛れも無い事実なんだ。今はそれだけで十分だろ。」

 

そう言って愈史郎はほぼ強引にこの話を打ち切らせた。炭治郎は続けて、行冥と義勇に向かって頷いてから軽く頭を下げる。

 

――……愈史郎の言い方はキツイけど、全部正論なんだよな。炭治郎も禰豆子ちゃんも無事で何よりだよ。

 

善逸が心中でそう思い見ながら葡萄地酒(ブランデー)をちびちびと飲みながら、善逸は感想を心中で述べていた。

 

「ああ、忘れていた。」

 

『?』

 

すると愈史郎が何かを思い出した様子で、徐に温泉から立ち上がった。そして義勇へと接近していく。

 

「っ?……まだ何か用か? 愈史郎?」

 

「ああ、有るともさ。」

 

 

 

ゴンッ!

 

 

 

『!?』

 

「〜〜〜っ!?」

 

愈史郎が何の前触れも無く、唐突に義勇の頭に向かって拳骨を落としたのである。

 

炭治郎達は予想外の展開に驚愕しており、また殴られた義勇も眼前に火花が散った様な錯覚を覚えて困惑した。

 

「……いきなり何をする、愈史郎……。」

 

自分が愈史郎に殴られる理由に心当たりが無い義勇は、頭頂部を押さえながら愈史郎に訊ねた。

 

「……っ。」

 

するとその一言が気に入らなかったのか、愈史郎は青筋を浮かべて義勇を睨み付けた。

 

「冨岡、お前……俺の『紙眼()』を着けたまま、大浴場(此処)に入って来ただろう?」

 

『!』

 

「……?」

 

愈史郎の質問を聞いて、何名かが愈史郎が怒っている理由を察して納得した。尤も、義勇は理解していなかったが。

 

「お前は何をしたのか、まだ分かっていない様だな?……」

 

そんな義勇の態度に、愈史郎が抱く憤怒の炎が益々燃え上がって行く。更に青筋を濃くした愈史郎は、激怒している理由について語り始めた。

 

「俺がちょっと気になって『紙眼()』を確認したら、着用して透明になったまま大浴場に向かう反応が見えた。俺の『紙眼()』を犯罪行為(覗き)に使う馬鹿が出たかと、本気で焦ったわぁ!」

 

『!』

 

少し青褪めた表情を浮かべながら、愈史郎は更に語り続ける。

 

「慌てて『視覚同調』して調べたら、本人にその気が無かったから良かった……まぁこれでもし女湯に入ろうとしていたら、迷わず頭を吹き飛ばしてやったがな。」

 

『……』

 

炭治郎達は義勇の頭が爆散する光景を脳裏に思い描いて、思わず冷や汗を流す。しかし、義勇は愈史郎の説明を受けても変わらなかった。

 

「……俺が女湯に間違えて入ったり、況してや分かって入ったりする訳が無いだろう? お前は一体、何を言っているんだ?」

 

「お前は! そう! 誤解! されかね! ない! 行動を! したと! 俺は言っているんだよこの朴念仁柱があぁぁぁっ!?」

 

愈史郎は怒り狂うあまり、言いたい言葉が一気に出て来なかった。

 

「ゆ、愈史郎さんっ! 落ち着いて下さいっ!?」

 

激昂して義勇に飛び掛かろうとする愈史郎を、炭治郎が必死で羽交い締めにして制止する。

 

「……冨岡さんのあれ、本気で言ってるのかなぁ?……本気で言っているんだろうなぁ……はぁ。」

 

「うむ……彼にはもう一度、説法を説く必要がありそうだな……南無。」

 

無一郎は何とも言えない表情をして、そう呟いた。行冥もまた、呆れた様子で無一郎に同意していた。

 

「良いぜェ……そのままやっちまえェ!!」

 

「ははははっ! 派手にやれぇ〜〜っ!!」

 

実弥と天元が酒を呷りながら、愈史郎に向かって煽る様に歓声を上げる。

 

「これでちったぁあの馬鹿も、反省してくれりゃあ万々歳なんだがなァ。」

 

「いや無理だろ。そりゃ派手に無理だわ。」

 

「二人共っ!? 面白がって火に油を注がないで下さいっ!?」

 

歓声を上げた後、対岸の火事とばかりに傍観者を決め込む実弥と天元を見て、炭治郎は愈史郎を羽交い締めにしたまま抗議の声を上げた。

 

「炭治郎、僕達も手伝うよ。」

 

「冷静になれ。落ち着くのだ、愈史郎。」

 

状況を見兼ねた無一郎と行冥が、炭治郎の助太刀に加わって愈史郎を宥め始めた。覗き見行為自体、既にしのぶや蜜璃がやらかしているのだが、男女では対応そのものが違うのは当然だ。尤も、蜜璃の場合は貰い事故に等しいものだが。

 

「……」

 

義勇は沈黙したまま、愈史郎の怒号を聞き流していた。

 

「ひっく……あぁ〜〜こっちのもうめぇな〜〜。」

 

伊之助は会話にも気付かず次々と用意された酒を一杯ずつ飲んで、益々酔いが身体を回っていた。

 

「……ぐびっ。」

――俺は関係無い……俺は関係無い……。

 

善逸は巻き込まれては堪らないと、必死で存在感を消そうとしていた。

そうしていると、不意に善逸は耳をピクっと一度だけ震わした。

 

――っ! この音は……っ!!!

 

「……」

 

天元は火酒(ウイスキー)が入っていた徳利を空にすると、今度は葡萄酒(ワイン)が入っている徳利を選んで飲み始めた。

その間も、善逸の様子の変化を敏感に察していた。

 

――あいつ……女湯の音を聞き取りやがったな……すげぇ派手にだらしない顔してやがる。

 

天元は心中でそう思いながら、善逸を注意深く見ていた。

もし口元が緩んで涎でも温泉内に垂らそうものなら、その見るに堪えない緩み切った馬鹿面を派手に殴り飛ばしてやろうと心に決めて。




お待たせ致しました。

男性陣の和気藹々は一旦終了です。今回の内容、少し退屈だったかもしれません。
ですが区切りが良いので此処で終了させて下さい。
私としては、珠世命だったのが竈門兄妹に続けて鬼殺隊に気遣える様になった愈史郎の成長を見せれた事に満足しています。

予告ですが二月四日(木)に鬼滅公式ガイドブックが発売されるので、この本に書かれている内容次第で拙作を一部修正します。ご了承下さい。

次回は二月中に更新します。
やっっっと鬼滅女子会に入ります。正直、此方の方が多分……いや絶対楽しい内容となっております。お楽しみに。


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れもんさわー様
ユーザーID
https://www.pixiv.net/users/63287764

炭しの漫画を描かれている作者様です。どの漫画も甘酸っぱくて見ていてほわほわする事間違い無しの至高の作品ばかりとなっております。是非ご覧になって下さい。

登場人物の性器発言ってどう思います?

  • 有り(エロくなるからばっちこい)
  • 無し(日輪刀、鞘とオブラートに揶揄って)
  • 作者にお任せ
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