※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

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※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*未成年飲酒は犯罪行為です。絶対に真似しないで下さい。お酒は二十歳になってから。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第肆拾漆話 日輪は混沌の渦から脱出す

「………………」

 

実弥は呆れ果てた様子で、自分を取り巻く惨状に硬直していた。呆然としながらも、見渡す様に周囲を確認する。

 

「う~ん……う~~~ん……っっっ。」

 

「愈史郎さんっ! 大丈夫ですかっ!?」

 

炭治郎が焦燥した様子で、痙攣しながら仰向きに倒れている愈史郎を看病していた。愈史郎は白目を剥いて横に倒れている。

 

炭治郎がもし冷静で居たならば、湯浴みが勃起した逸物で天幕(テント)を張っていた事に気付いた事だろう。尤も、炭治郎にそんな余裕などある筈も無く、それ故に気付いてはいない。

 

「フヒッ……フヒヒヒヒヒッ……っ。」

 

「こ、こいつ……気絶してる癖に鼻血垂らしながら派手に笑ってやがる……っ!」

 

天元がドン引きした様子で、愈史郎と同様に白目を剥いて更に鼻血を噴き出している善逸を見ていた。しかし愈史郎と違って、万人が見れば鳥肌が立つ様な気色の悪い笑みを浮かべていた。腹部は赤く色が変わっている。

 

大千世界(だいせんせかい)説誠実言(せつじょうじつごん)汝等衆生(にょとうしゅじょう)当信是称賛(とうしんぜしょうさん)不可思議功徳(ふかしぎくどく)一切諸仏(いッさいしょぶつ)所護念経(しょごねんぎょう)…………。」

 

「いたいっ……痛いよっ。悲鳴嶼さん……っっっ。」

 

一心不乱に浄土宗が持つ仏経の一つである阿弥陀経を唱えながら無一郎の両耳を両手で塞ぐ行冥と、自身の両耳を塞ぐ行冥の両手を外そうと血管が浮かぶ程に力一杯出し切って必死で抵抗する無一郎が居た。しかし鬼殺隊随一の怪力を持つ行冥に抗うには、無一郎はあまりに非力過ぎた。

 

「ヒック……ウィ~~~。」

 

そして最後に泥酔していた伊之助が、温泉の外で酔い潰れて眠っていた。

 

「…………」

 

因みにこの男性陣で唯一、義勇だけは我関せずと騒動に関わる事を拒絶する様に男湯の現況を無視していた。とは言え耐性がある訳でも無い様で、耳が赤く染まっている。

 

「…………」

 

実弥は混沌と化した男湯を前に、呆然とした様子で見詰める事しか出来ない。

 

「…………お前らァ、騒ぎ過ぎだ。」

 

実弥はそう呟いた後、眼前の惨状から現実逃避する様に此処に至るまでの経緯を回想し始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

愈史郎が持って来た酒で、男性陣が大いに盛り上がっていた男湯。

 

『ああっ――っ!! 雛鶴さんだぁ〜〜っ! まきをさんに須磨さんもっ! こんばんわっ! お疲れ様です!!』

 

 

 

ピタッ!

 

 

 

 

其処へ蜜璃の元気な声が、隣の女湯から炭治郎達の耳に聞こえて来た。すると何故か、自然と男湯は声を抑えて静かになった。

 

興味の大小には差はあれど、本能から異性の声に反応した様だ。温泉と言う特別な環境がその本能を強くしていた。

 

『禰豆子さん。先に行っては駄目よ。』

 

『んっ!』

 

「「っ!?」」

 

蜜璃の後から聞こえて来た声に、男湯に居た二人の男性が過剰反応した。愈史郎と善逸である。

 

「ね、禰豆子ちゃ~んっ……フヒヒッ。」

 

間仕切りあるとは言え、禰豆子と同じ空間に居る事を喜ぶ善逸。自身の超人的な聴覚は勿論、鼻穴すら大きく開けて仕切り越しの女湯の空気を体内に取り込まんとしている。

 

『…………』

 

そんな善逸の様子を見て、男性陣は呆れ果てた様子でドン引きしていた。炭治郎も呆れた様子を見せてはいるが、日常なのか既に慣れていた。そんな男性陣の中で唯一、善逸如きの相手などしていられない人物が居た。

 

『ふふっ。こうして温泉に入るなんて、一体何百年振りかしらね。』

 

「た、珠世様っ……っっっ。」

 

愈史郎である。敬愛し初めて出会ったその日から淡い恋心を抱いている女性が温泉と言う空間に居る事実が、愈史郎を動揺させていた。愈史郎は必死で平静さを装うとしているが、赤面しているその表情を見ればその心情を察するのは造作も無かった。

 

「珠世さんが、禰豆子と一緒に温泉に……?」

 

炭治郎が珠世の名前を呟いた後、咄嗟に脳裏にある光景が浮かんだ。それは陶器の如く白い肌を輝かせた、全裸姿の珠世であった。

 

「~~~~っ!!!」

 

炭治郎は慌てて沸騰したが如く赤面した顔ごと、身体を温泉に潜らせた。温泉の水面に、水泡が連続して浮かび上がる。

 

そんな炭治郎の様子を、彼が見逃す筈が無かった。

 

「おいおい。珠世の事、派手に意識しちまったのかぁ?」

 

「っ!!」

 

音も立てずに接近して来た天元が、そのまま炭治郎を引き上げると背後からその鍛え抜かれた逞しい腕で炭治郎を引き寄せた。

 

「そ、そんな事は……ありますね。」

 

「正直だな、おいっ。」

 

尋ねられた炭治郎は、天元の質問に正直に答えた。誤魔化されると思っていた天元は、予想外だったのか思わずツッコミを入れる。

 

「まぁ、悪い事じゃあないがな。女を意識しない男とか、男として派手に終わってるからなっ。」

 

天元はがっはっはっと愉快気に笑うと、炭治郎の左耳に顔を近付かせた。

 

「んで? 女湯(向こう)はどうなんだよ? 楽しそうな匂いを出してるか?」

 

「えっ?」

 

天元から尋ねられた質問に、炭治郎は答えられずに戸惑う。刹那の間を置いてから、炭治郎は困った表情を浮かべる。

 

「天元さん……そう言うのってやっぱりよくないんじゃ……。」

 

「俺は聞いただけで、別に何もしてねぇぞ。女湯(向こう)には、雛鶴達も居るんでな。やっぱり気になるもんは気になるんだ。楽しくやってるかだけでも、地味に分かればなぁ~。」

 

「う、うーん……。」

 

天元は困った様子を見せながら、炭治郎に気付かれない様に遠回しに嗅覚を行使する様に誘導する。

天元にとって本心でもあり、嘘は一切含んでいない。

 

天元の思惑に気付かない炭治郎は、困った表情を浮かべながらもその超人的な嗅覚を行使する。

 

「……っ!!」

 

「どうした? 炭治郎?」

 

表情を変えた炭治郎に、天元が尋ねた。

 

「あ、いえ……どうやらお互いに背中を流しているみたいですね。それから……し、しのぶさん達も入って来ました。」

 

「っ!……ほほう。」

 

炭治郎からの報告に、天元は感嘆した様子で声を漏らした。

 

「……(ゴクッ)」

 

そんな天元を他所に、ゴクッと無意識に生唾を飲み込む者が居た。しのぶ達の最愛にして、唯一の恋人である炭治郎である。

 

何度も身体を重ねたとは言え、やはり女湯に居ると思うと自然と意識してしまう。逸物が勃起しない様に集中するが、代わりに何度も炭治郎は鼻をヒクつかせた。

 

「おい、炭治郎。続けてくれよ。」

 

「えーと、はいっ……禰豆子がしのぶさん達の背中を、流して回っているみたいですね。仕切りで匂いが若干嗅ぎ難いですけど、先刻(さっき)より楽しそうな匂いがします。」

 

炭治郎は実況する様にそう報告すると、笑みを浮かべた。微笑ましい光景を想像した事も理由ではあるのだが、やはり鬼である禰豆子が受け入れられている事実が、炭治郎にとっては喜ばしい事であった。

 

「そいつぁ派手に良かったな……思ったんだがな、炭治郎よ。」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「思ったんだが……お前のやってる事って、地味に覗き見も同然だよな?」

 

「んなっ!?」

 

ニヤッと意地悪い笑みを浮かべてそう尋ねる天元に、炭治郎は周章狼狽して動揺した。

 

「て、天元さんがしろって言うからしたのに……っ!」

 

「んっ~~? 何の事だか分からねぇなぁ? 俺は聞いただけで、「しろ」だの「やれ」とは地味に言った覚えすら無いんだがっ?」

 

「うぅっ……。」

 

天元の言葉を聞いて、論破されてしまった炭治郎は悔しそうに唸りながら沈黙する他に無かった。

 

「……宇随さん。炭治郎を困らせるんだったら、そうやって馴れ馴れしくしないで下さいよ。」

 

そんな炭治郎の様子を見て、動く際に波打つ温泉で音を立てながら何やら不機嫌な無一郎が近付いて来た。

 

「炭治郎も、嫌ならはっきり言わなきゃ駄目だよ?」

 

無一郎はそのまま、比較的広さが残っている炭治郎の左腕に抱き着いた。一瞬だけ嬉しそうに笑みを零した後、直ぐに真顔で天元を睨み付ける。

 

「あーわあったわあった。悪かった、炭治郎。なぁ許してくれよ?」

 

「……良いですよ。気にしてませんから。」

 

天元が謝罪すると、炭治郎もその謝罪を受け取った。

 

「……炭治郎がそれで良いなら、もう良いや……覗き見同然とか言いましたけど、炭治郎のは()()より絶対マシですからね?」

 

()()?」

 

「……あー確かになぁ。」

 

無一郎の視線の先が気になって、炭治郎と天元は釣られて無一郎の視線の方向へ顔を向ける。其処で映っていた光景を見て、二人は瞬時に理解した。

 

「フヒッ……禰豆子ちゃ~~ん……フヒヒヒッ。」

 

其処には竹製の間仕切りに、ピタッと耳を貼り付けて盗聴している善逸の姿があった。酷くだらしのない表情を浮かべており、今にも涎が口元から垂れそうである。口元から涎が垂れる度に、ズズッと音を立てて唾を飲み込んでいるが。

 

「……」

 

そんな親友である善逸の姿を見て、普段の言動から時折見せる奇行を何度も見ている炭治郎でさえ、呆れながら溜息を吐かざるを得なかった。

 

「っ!」

 

そんな炭治郎だったが、直ぐに善逸から意識が逸れる事になる。女性陣の声が、自身の耳にも聞こえて来たからだ。

 

「此処の間仕切りって、そんなに厚くねぇからな。胡蝶達が温泉の中にまでやって来たから、会話の内容も()()()()()()耳を澄ませば聞こえるだろう。」

 

天元がそう言うと、炭治郎は反射的に耳に力を入れてしまう。

 

「……ねぇ宇随さん。」

 

「どうした、時透?」

 

炭治郎と同様に天元の言う事を聞いていた無一郎だったが、無一郎は疑惑の眼差しを向けながら天元を呼んだ。無一郎の声色を感じ取った天元は、自身を呼び掛けた無一郎に返答する。

 

()()()()()()って……どう言う意味?」

 

「んっ?……ああ、あそこで阿保面晒してる善逸程でも無いが、俺は生まれ付き耳が良いんでな。この程度の薄い間仕切りじゃあ、派手にあって無い様なもんだ。」

 

「……」

 

天元の聴力自慢に対して、疑惑から確信に変わった無一郎はジト目で天元を睨み付ける。

 

「炭治郎の事、とやかく言える立場じゃないと思う。」

 

「がっはっはっ。まぁ気にするなっ!」

 

無一郎が苦言を聞いても、天元は豪快に笑って誤魔化した。

 

「……っ。」

 

一方で炭治郎は自身の左右で会話している天元と無一郎を余所に、女湯で聞こえて来た会話の内容を集中して聞いていた。

 

――……珠世さん、しのぶさんに皆さん……ありがとうございますっ。

 

炭治郎は女湯から、禰豆子の擬態能力の向上方法に関して話し合っていたのを、耳を澄ませて聞いていたのだ。禰豆子に関わる案件となれば、炭治郎自身にとっても重要案件で合った。

 

炭治郎は親身になって禰豆子に尽力してくれる珠世やしのぶ達は勿論、即座に受け入れてくれた雛鶴達にも深く感謝していた。後で改めて礼を述べようと、炭治郎は心中で決意する。

 

「禰豆子ちゃん……良かったね。」

 

当初から女湯の会話を盗聴している善逸も、直前まで晒していただらしのない表情を消して嬉しそうに笑みを浮かべた。そうして嬉しさの余韻に浸っていると、事態は急変する。

 

『わ、私の乳房は少しばかり大き過ぎるので、そのままでは悪目立ちしてしまうからっ! 態と小さくしているのですっ!』

 

 

 

ピシッ!

 

 

 

『っ!!?』

 

女湯から聞こえて来た珠世の唐突な告白に、男性陣は石化したが如く思わず硬直してしまう。声が大きかった為、耳を澄ませ無くても男湯にまではっきりと聞こえてしまったのだ。

 

「た、珠世様……?」

 

愈史郎は赤面しながら、当惑した様子で珠世の名前を口にした。

 

『…………』

 

愈史郎以外の男性陣は何も言わず、時折自身の耳をピクピク動かしていた。

 

女湯で繰り広げられている会話を聞いてみると、女性ならではの苦労や悩みに関して話しており、男性陣は聞いていて居た堪れない気持ちとなった。

 

『珠世さん、でしたら私達しか居ないんですから、隠さなくても良いんじゃないですか?』

 

『そう、ね……打ち明けた以上、隠す必要性など何処にも無いわね。』

 

『!?』

 

――甘露寺さんっ!?

 

珠世を慮った蜜璃の進言を聞いて、炭治郎達は心中で驚きを隠せない。

 

『ふぅ……何だか、すっきりした気分だわ。でもやっぱり重いわね。隠さなくても良いのは嬉しいけれど。』

 

『おお~~っ。』

 

『おっきいですねぇ~。』

 

『…………』

 

女湯から感嘆する声が男湯にまで聞こえて来ると、男性陣は否が応でも意識し想像してしまう。

 

――珠世さんのっ……どんなに大きいのかなっ……(ゴクッ)

 

炭治郎は珠世の乳房の大きさを想像して、静かに一塊の唾を飲み込んだ。

 

「おい、愈史郎。何を驚いてんだ? 珠世が乳房(ちち)のデカさを隠していた事は、お前なら知っているじゃないのか?」

 

「知っている訳無いだろうがっ!? 珠世様から教えて頂いた事も無いのに、俺が知っていたら逆にヤバいわっ!!?」

 

炭治郎達と同様の反応を見せている愈史郎に対して、天元が指摘すると怒りの反論が愈史郎から飛んで来た。そうしている間に、事態は更に急変した。

 

『そのご立派な乳房(おっぱい)、触らせて貰っても良いですか!? ほんのちょっとの間だけで良いんでっ!!』

 

『!!!??』

 

須磨が興奮した様子で、とんでもないお願い事を珠世にしていた。耳を澄ませなくても隣の男湯まで聞こえる程の大声で言った為、男性陣で須磨のお願い事を聞き逃した者は一人も居なかった。

 

「ちょっ!? 須磨さん、何を言ってっ!……んぐっ!?」

 

「待て、炭治郎っ。今は地味に黙ってろっ。」

 

炭治郎が須磨を止めるべく大声を出そうとしたが、天元に片手で口を塞がれてそれは失敗してしまう。炭治郎からは天元の顔が見えなかったが、非常にニヤついた笑みを浮かべていた。

 

――良いぞっ! 須磨っ!! 派手によくやったっ!!

 

天元は心中で、須磨の発言を心底絶賛していた。もし傍に居たならば、今直ぐ須磨を抱き締めて口付け(キス)の雨を浴びせている所だ。

 

『……凄いですよっ! 珠世様っ!! 硬過ぎず柔らか過ぎない適度な弾力が有って、これは至宝と言っても過言では無いですっ! はいっ!!』

 

「っ!!?」

 

天元に口を塞がれた炭治郎は必死で抵抗していたのだが、不意に動きを止めた。須磨が珠世の乳房を揉んでその感想を口にしたのを聞いたからだ。須磨の感想の内容に、炭治郎は固まってしまう。

 

「ほう~~聞いたか? 珠世の乳房(ちち)は至宝級だそうだぞ、炭治郎。良かったなぁ?」

 

「んんっ~~~っ!!?」

 

心底意地の悪い笑みを浮かべて、天元が炭治郎に囁いた。天元の囁きを聞いて、炭治郎は動揺を誤魔化す様に抵抗する。しかし天元の膂力を前にしては、炭治郎の抵抗は無いに等しいものであった。

 

『珠世様、お肌スベスベですよねぇ……もしかしなくてもお身体の方は、私達と大して年齢としは変わらなかったりします?』

 

『……私の肉体年齢だけを言うなら、年齢(とし)は十九歳です。だから女湯(此処)に居る面々を考えると……私は甘露寺さんや須磨さんと同い年……と言う事になるわね。』

 

――珠世さん、十九歳なんだ……意外と近いんだなぁ…。

 

珠世と須磨の会話を聞いて、珠世の肉体年齢を知った炭治郎。だがそれ所ではない事態が発生する。

 

『……あっ……っぁ❤……んんっ。』

 

『っ!!!??』

 

女湯から聞こえて来る珠世の艶やかな嬌声を聞いて、男湯に居る男性陣は最大級の衝撃を受けて再び石化したが如く固まった。その際に炭治郎達は自身の脳裏から、ピシッと言う幻聴が聞こえた気がした。

 

『あっ、あのっ!?……違っ!……これはっ……ぁんっ!❤……す、須磨さんが、結構……んっ……お上手だから……んんっ!……んっ!……っ❤』

 

珠世が弁明する様に口にした言い訳と須磨の余裕な声を聞いて、天元はほくそ笑んだ。

 

――須磨ぁっ!! 良いぞもっとだっ! もっと派手にやれぇっ!!

 

天元は引き続き須磨を絶賛しながら、心中で須磨の行為を更に応援する。女湯では今まさに、天元の期待通りの展開が始まっていた。

 

『気持ち良いですか、珠世様ぁ? 遠慮なんてしなくても大丈夫ですから、思いっ切り気持ち良くなって下さいね?』

 

『す、須磨さ……んああっ!❤』

 

『ぶっ!!!??』

 

珠世が一際大きな嬌声を上げると、男湯に居る男性陣の何人かがあまりの衝撃に口に含んだ酒を噴出した。唯一、温泉の外に酒を吐き出した事が不幸中の幸いであった。

 

「~~~~~っっ……~~~~~~っっっ。」

 

善逸は逆に声を出さない様に、口元を片手で強く押さえていた。しかしいやらしくニヤけた表情は完全には隠せておらず目元が波の如く変化している。

 

「悲鳴嶼さん、どうして僕の耳を塞ぐの?」

 

「時透。この世には見えなくても良いものや、聞こえなくても良いものが時には存在するのだ。この場合、お前にはまだ少しばかり早いものだ」

 

無一郎の背後に近付いた行冥が、珠世の嬌声が聞こえない様に無一郎の両耳を両手で塞いで遮断していた。

 

――珠世さん……(ゴクッ!)

 

天元に口を塞がれたまま、炭治郎は珠世の嬌声にドキドキとしながら一塊の唾を飲み込んだ。

 

こうして混沌と化して来た男湯であったが、畳み掛けるように更に想定外の事態が始まった。

 

『ひゃああぁぁっ!?』

 

『っっっ!!!!???』

 

珠世では無い第三者の嬌声が、女湯の方から聞こえて来た。男湯に居る男性陣はその嬌声を上げた張本人が、誰か咄嗟には特定出来なかった。ただし、唯一人を除いて。

 

しかし炭治郎(唯一の聞き覚えのある一人)が特定しなくても嬌声を上げたのは誰で、また誰がその原因を作ったのかは直ぐに判明する。

 

『ねぇ、禰豆子さん? 鬼化して強くなる……戦闘力を上げるために、高身長になる理由は分かるんですよ。筋力も増えるし、間合いも伸びる……でも。』

 

『どうして、乳房(おっぱい)を大きくする必要があるんですかねぇ? 天然の盾のお心算です……かっ!?』

 

『んああああぁっ!❤』

 

『………………』

 

暫く女湯に耳を澄ましていた男性陣は、漸くその嬌声が禰豆子のものと理解した。尤も、理解する事に暫く時間が必要であったのだが。

 

「……この声、胡蝶と禰豆子か……珠世殿と須磨と言い、(皆は仲が良くて)羨ましい事だな。」

 

義勇は女湯の賑やかさを聞いて、酒を呷りながらフフンと小さく微笑んだ。

 

『……』

 

相変わらず勘違いを招く発言をしている義勇であったが、炭治郎達には律儀にその発言に対してツッコミを入れる余裕など無かった。正確に言えば、誰も聞いてはいなかった。

 

――しのぶさあああんっ!? 禰豆子に何やってんですかぁっ!!?

 

炭治郎はしのぶと禰豆子の痴態に、赤面しながら心中で盛大にツッコミを入れていた。

 

――こりゃ益々派手に面白くなってきやがったっ!!

 

自身の鍛えられた逞しい腕から逃れようと藻掻く炭治郎を更に力を込めて押さえつけながら、歓喜して興奮している天元は空いているもう片方の手で徳利を掴んでそのまま酒を呷る。

 

「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏っ……っっ。」

 

「あの……悲鳴嶼さん。ちょっと頭が痛くなって来たんだけど……っ。」

 

行冥は無一郎の両耳を押さえながら、何かを振り払うように仏経を唱えていた。両耳を行冥に押さえられている無一郎はと言うと、行冥の押さえる力が強いのか少し痛みを感じ始めていた。

 

「知らねェ……俺ぁ関係ねェ……っっ。」

 

巻き込まないでくれと言わんばかりに、実弥はチビチビと酒を呷っている。

 

実弥としては一秒でも早く、この男湯(混沌)から離脱したかった。しかし自身の愚息が女湯から聞こえる艶やかな嬌声に反応してしまい、自身の意志に反して温泉内で反り立ってしまっていた。

 

其処で実弥は愚息が静まり返るまで、男湯に残留すると言う不本意な方法を取らざるを得なかったのだ。

 

「ふぃ~~……ヒック……ヒック。」

 

伊之助は嬌声に反応する事無く、既に泥酔し切っていた。それでも酒を飲む手を緩めなかったが。

 

「……」

――嘴平伊之助(こいつ)みてぇに酔い潰れてりゃあ、どんなに良いかっ。

 

泥酔している伊之助に、実弥は苛立ちながら羨望の視線を向ける。

 

「……チクショウッ……おい、しっかりしやがれェ。酒から手ぇ放せェ。」

 

実弥は気を紛らわせる様に悪態を吐きながら、泥酔して酔い潰れている伊之助の世話は始めた。

 

『ふふっ。炭治郎君に随分と仕込まれちゃいましたから。炭治郎君の手練手管には敵いませんけど~。』

 

『私も負けてられませんね……っ!』

 

――負けて良いッ! 早く止めろォッ!?

 

須磨がしのぶに対抗心を燃やす様な発言を聞いて、実弥は泥酔している伊之助を抱えたまま強くツッコミを入れた。しかし実弥の願いは、虚しくも叶う事は無かった。

 

『くノ一仕込みの手練手管、どうぞご存分にご堪能あれ。』

 

「ぷはっ!?……えっ? くノ一?」

 

天元の拘束が緩んで一気に呼吸をした炭治郎は、須磨が口にした単語が気になって思わず復唱した。

 

「地味に気にする事じゃねぇ。今は隣の演奏を派手に楽しもうぜ。」

 

『んくぅっ!……ああっ!……あぅっ~❤!……あっ!❤……あああんっ!』

 

『あんっ!❤……須磨っ……さんっ!……もう、そろそろ……止め……てっ、んぁああっ!❤』

 

「…………」

 

天元にはぐらかされた炭治郎はジト目で静かに睨み付けたが、女湯で聞こえる嬌声が気になって自分から耳を澄ませてしまう。天元に強くものが言えない炭治郎は、結局何も言えずに終わってしまった。

 

そうしている間にも、女湯からは二人の美女が奏でる二重唱(デュエット)が男湯にまで響き渡る。そして

暫くすると、最高潮(クライマックス)は前触れ無くやって来た。

 

『『ああああっっ!!❤』』

 

『!!』

 

禰豆子と珠世が二人同時に、一際大きな嬌声を上げる。声量の大きさを考えれば、絶頂したと解釈出来る艶やかな声色であった。

 

又舍利弗(うしゃりほつ)極樂國土(ごくらくこくど)有七宝池(うしっぽうち)八功徳水(はっくどくすい)充満其中(しゅうまんごちゅう)地底純以(ちたいじゅんに)金沙布地(こんしゃふじ)四辺階道(しへんかいどう)金銀瑠璃(こんごんるり)玻璃合成(はりごうじょう)上有楼閣(じょううろうかく)亦以金銀瑠璃(やくいこんごんるり)玻璃硨磲(はりしゃこ) 赤珠瑪瑙(しゃくしゅめのう)而厳飾之(にごんじきし)池中蓮華(ちちゅうれんげ) 大如車輪(だいにょしゃりん)青色青光(しょうしきしょうこう)黄色黄光(おうしきおうこう)赤色赤光(しゃくしきしゃッこう)白色百光(びゃくしきびゃッこう)微妙香潔(みみょうこうけつ)舎利弗(しゃりほつ)極楽国土(ごくらッこくど)成就如是(じょうじゅにょぜ)功徳荘厳(くどくしょうごん)又舎利弗(うしゃりほつ)彼仏国土(ひぶッこくど)常作天楽(じょうさてんがく)黄金為地(おうごんいじ)昼夜六時(ちゅうやろくじ)而雨曼陀羅華(にうまんだらけ)其国衆生(ごこくしゅじょう)常以清旦(じょういしょうたん)各以衣裓(かくいえこく)盛衆妙華(じょうしゅみょうけ)供養他方(くようたほう)十万億仏(じゅうまんのくぶつ)即以食時(そくいじきじ)還到本国(げんとうほんごく)飯食経行(ぼんじききょうぎょう)舎利弗(しゃりほつ)極楽国土(ごくらッこくど)成就如是(じょうじゅにょぜ)功徳荘厳(くどくしょうごん)…………。」

 

「あ、あの……悲鳴嶼さん。そんなに力入れなくても良いと思うんですけどっ……っ??」

――あれっ? 僕って現在(いま)、凄くヤバかったりする?

 

煩悩を根絶やしにせんと言わんばかりに、行冥は一心不乱に阿弥陀経を唱え続けていた。只管に阿弥陀経を唱え続けるだけの生ける仏像と化した行冥であったが、無一郎の両耳を押さえている両手にも無意識に力が掛かりつつあった。

 

徐々に強くなって行く痛みに危機感を感じて、無一郎は焦燥しながら行冥を止めようとする。行冥の両手首を掴んで自身から引き離そうとするが、無一郎の力では行冥はビクともしなかった。更に行冥は無一郎の静止が聞こえない上に抵抗すら感じていないのか、只管に阿弥陀経を唱え続けていた。

 

「…………」

 

現況に介入する事無く、静かに佇んでいた義勇。しかしその顔は赤く紅潮しており、とても酒だけが原因であるとは考え難かった。

 

「いやぁ、派手な幕切れだったなぁ。なぁ、炭治郎?」

 

「えっ? あ、そのっ……えーとっ……そうでしたね。はい……。」

 

天元からの振りに、炭治郎は口を濁らせながらも肯定した。

 

――珠世さん、あんな綺麗な声で……っ。

 

既に炭治郎の脳内では、幾度となく珠世の嬌声が反芻されていた。少ししてから振り払う様に何度か左右に頭を振って少し頭を冷やすと、妙に二人(・・)が静かな事に気が付いた。

 

――…………はっ!? 珠世さんと禰豆子に夢中ですっかり忘れていたけど、愈史郎さんはっ!? それから善逸ぅっ!!?

 

炭治郎は愈史郎と善逸の存在を、漸く思い出していた。珠世と禰豆子に淡い想いを抱いている二人が、想い人の嬌声を聞いて平然としていられる筈が無いのだ。

 

「愈史郎さんっ!? 善逸ぅっ!!?」

 

炭治郎は立ち上がりながら、愈史郎と善逸の名前を呼んだ。いきなり温泉から立ち上がった為、結果的に天元の腕から解放された。

 

「んだぁ? 愈史郎に善逸だぁ?……っ!!?」

 

天元は唐突に立ち上がった炭治郎に面食らいながらも、愈史郎と善逸の名前を聞いて、猛烈に嫌な予感がした。

 

炭治郎と天元は、ほぼ同時に同じ方向へと振り返る。

 

「あっ……かっ……おぉっ……た、たまよ……さ、ま……っ。」

 

「はひっ……うひひひひっ……ねずこちゃ~~んっ……ふひょほほほほほっ。」

 

其処には全身を真っ赤に染めて立ったまま気絶している愈史郎と、間仕切りに片耳を貼り付けたまま気色の悪い笑みを浮かべている善逸の姿があった。

 

善逸に至っては鼻の両穴から鼻血が垂れており、今にもその鼻血が重力に従って落ちそうであった。

二人の姿を見た炭治郎と天元は、脱兎の如く即座に動き始めた。

 

「ゆ、愈史郎さんっ!? しっかりして下さい!!」

 

「善逸テメェッ!? 汚ねぇモンを派手に撒き散らそうとすんじゃねぇ!!!」

 

炭治郎は急いで立ったまま気絶している愈史郎を抱き抱えて、温泉の外に出た。一方で天元は善逸の鼻血で温泉を穢させるものかと言わんばかりに、善逸を温泉の外へ乱暴に放り投げた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……はぁ。」

 

実弥は溜息を吐きながら善逸と伊之助、そして愈史郎の世話を務めていた。愈史郎と善逸を温泉の外に連れ出した炭治郎と天元だが、温泉に戻って湯に浸かっていた。

 

「……頭が痛いよ。」

 

無一郎は漸く行冥から解放されたのだが、頭を挟み潰さん勢いで力を込められていたので、未だに痛みを引き摺っていた。

 

「無一郎君、大丈夫? 無理はしちゃ駄目だからね。」

 

「うん。ありがとう、炭治郎。」

 

炭治郎は無一郎の頭を優しく撫でると、無一郎は気持ち良さそうに両眼を細めて炭治郎の手を堪能する。無一郎の頭を撫でながら、炭治郎は天元に話し掛けた。

 

「天元さん。不死川さんに全部、任せて良かったんですか?」

 

「良いんだよ。あいつはああ見えて、結構世話焼きだ。全部押し付けとけ。」

 

結果的に愈史郎達を実弥に押し付けてしまい、その事実に罪悪感を覚えて天元に思わず尋ねた炭治郎。そんな炭治郎に対して天元は、気にしない様に言ってそのまま実弥に愈史郎達を押し付けていた。

 

「そんな事はどうでも良いだろう。気にすんな…………それよりこれからもっと派手に、そんでもって面白そうな事が起きそうだぞ。」

 

「はいっ?」

 

天元の言っている意味が理解出来ず、炭治郎は首を傾げる他に無かった。

 

ただ全てが理解出来なかった訳では無く、女湯でこれから何か起きるのだろうと言う事は辛うじて理解出来たので、自然の女湯の方へ炭治郎は耳を澄ませた。

 

『二人は何が切っ掛けで、炭治郎君の事が好きになったの?』

 

「!?」

 

蜜璃からの質問の内容を聞いて、炭治郎は思わず両眼を見開いた。

 

「おっ? 恋話か? やっぱり派手に面白くなって来たぞっ!」

 

天元は自身の予想が的中した事に歓喜しながら、期待しつつ状況を見守る。

 

「えっと……お、俺っ! 先に上がりますねっ!!」

 

炭治郎は天元に断りを入れて、先に温泉から上がろうとする。しかし、それが叶う事は無かった。

 

「おわっ!?」

 

「馬鹿野郎っ。自分の嫁の口から本音が派手に聞ける、貴重な瞬間だぞ。地味に逃げ出す奴があるかっ。」

 

天元は立ち去ろうとする炭治郎を捕まえて、無理やり温泉の湯に浸からせた。

 

「て、天元さんっ!」

 

「しっ! そろそろ始まんぞ。耳を澄ませとけ。」

 

「っ!」

 

天元にそう言われた炭治郎は、反射的に耳に力を入れてしまう。すると女湯の方から、アオイの声が聞こえて来た。

 

『私が炭治郎さんを意識し始めたのは、炭治郎さんが無限列車の任務に向かう当日でした。私は未だに戦えない、復帰出来ない……そんな自分への自己嫌悪と自己否定に苛まれていました。』

 

『でもそんな私を炭治郎さんは否定する事無く「手助けしてくれたアオイさんはもう俺の一部だから、アオイさんの想いも俺が戦場に持って行く。」と言って下さったんです。』

 

「っ!」

 

アオイが話した逸話を聞いて、炭治郎は咄嗟に無限列車の任務に着く直前であった蝶屋敷でのやり取りを思い出していた。

 

「炭治郎。お前は神崎にそんな事を言っていたのか?」

 

「義勇さんっ。えーとっ……はい、言いました。」

 

アオイが言っている内容が聞こえたのか、義勇は真偽確認の為に炭治郎に尋ねた。炭治郎は義勇から質問されるとは思っていなかったのか、驚きながらも正直に答える。

 

「良い話じゃねぇか。派手に格好良くてよ。良い男なら、咄嗟にそれくらい言えないとな。」

 

「炭治郎らしいと、僕は思うよ。」

 

炭治郎とアオイの逸話を聞いて、天元と無一郎はそう評価していた。

 

『それから……自分の気持ちが決定的になったのは、炭治郎さんが無限列車の任務から帰還した直後です。しのぶ様もカナヲも炭治郎さんに好意を持っていたから、私は諦めなきゃって当初は思ってました。』

 

『でも私が熱を出して倒れた時に炭治郎さんが私の仕事を肩代わりしながら一生懸命看病してくれて、改めて炭治郎さんの優しさと暖かさに直接触れて……やっぱり私はこの人の事がす、好きなんだって、愛してるんだって自覚して……想いを止める事が出来ませんでした!!』

 

「っ!」

 

アオイの告白を聞いて、炭治郎は両眼を見開いた。それから自然と、自身の表情から笑みが零れた。

 

――アオイさん、俺も愛しているよ。

 

炭治郎は一度両眼を瞑ると、心中でアオイからの告白に返答した。後でアオイに直接会って、想いを伝えようと思いながら。

 

『わ、私だって……私だってアオイに負けて無い! 負けて無いもん!!』

 

「!」

 

するとカナヲの大声が聞こえて来たので、炭治郎は両眼を開けてカナヲの声に反応した。

 

『はぁ、はぁ……私が炭治郎の事を好きになった切っ掛けだけど、アオイと一緒で炭治郎が無限列車の任務に向かう当日だったの。』

 

『!?』

 

カナヲの告白を聞いて、炭治郎達は驚きを覚えた。特に炭治郎の驚きは、天元達よりも大きいものだった。

 

『私は……私は当時、何もかもがどうでも良かった。言われた事を言われた通りするだけで、自分で決めなければならない事は銅貨を飛ばしてその表裏で決めてた……。』

 

『でもそんな時に炭治郎が私の前に現れて、「この世にどうでも良い事なんて無い。」「カナヲの心の声が小さいだけ」って諭してくれて……そ、その日から炭治郎の事が気になって仕方がありませんでしたっ!』

 

「!」

 

炭治郎はカナヲの為に銅貨を飛ばしたあの時のやり取りを思い出していた。そんな炭治郎に対して最初に無一郎がボソッと呟いた。

 

「炭治郎って、やっぱり凄いね。」

 

「俺はお前に派手に敬意を表すぜ。炭治郎。」

 

「いやあの、無一郎君。天元さん。これには理由が……。」

 

焦燥しながら無一郎と天元に反論する炭治郎だったが、第三者の横やりでそれも遮られてしまう。

 

「炭治郎。一度に二人の女性を口説くのは、流石にどうかと思うぞ。」

 

「義勇さんっ!? 誤解ですからっ!!?」

 

義勇が炭治郎を非難する様にボソッと呟くと、思わぬ人物から思わぬ非難を受けて炭治郎は更に焦燥しながら反論した。

 

『お三方と宇髄さんの間の夜の営みって、どんな具合なんですか?』

 

『!?』

 

炭治郎が義勇に反論している間に、女湯の方では話が進んでいた。しのぶが雛鶴達に天元との間にある、夜の営みに関する事情を聞き出そうとしていたのだ。

 

しのぶに質問された雛鶴達は答えに窮している様で、困った様子でしのぶの質問に答えかねていた。

 

――雛鶴、まきを。派手に答えちまえ。須磨も戸惑わなくて良いんだぞ。

 

天元はしのぶの質問に羞恥心から答えない様子を見て、心中で静かに三人を応援する。しかしそれも直ぐに我慢出来なくなり、雛鶴達の代わりに天元が大声を出して答えようとした、その時であった。

 

『因みに私達と炭治郎君との夜の営みですが……この身体中に有る口付け痕(キスマーク)を見れば分かる様に、炭治郎君はとっっっても情熱的なんですよ。』

 

『!』

 

「なっっっ!!?」

 

強調する様にそう言ったしのぶの発言を聞いて、炭治郎はこれまで以上に動揺を覚える。その衝撃の大きさは、これまでの比では無かった。

 

「まっ!!……。」

 

「おっとそうは問屋が卸さねぇっ。」

 

「っ!!?」

 

 

 

 

 

ガシッ! バシャアン!!

 

 

 

 

 

「!!!??」

 

しのぶにこれ以上言わせない為に、炭治郎は大声を出そうとした。しかしその直前、後頭部を鷲掴みにされて湯の中へと強引に沈められた。

 

「がぼぉぁっ!!? うぼぼぼぉっ!!!?」

 

口から大量の泡を吐き出しながら、水面から上がろうと必死で藻掻く。しかし炭治郎の必死の抵抗も虚しく、天元の膂力の前には無意味であった。

 

「邪魔は野暮ってもんだぜ。炭治郎……っ!」

 

一方で天元の方はと言うと、必死で藻掻いて抵抗する炭治郎を片手で抑えつつしのぶの話す内容に耳を傾けていた。その表情からは、二や付いた笑みが張り付いているのが見て取れた。

 

しのぶの話す内容が、天元にとっては非常に楽しいものだったからだ。本当ならばこんな事はせず、しのぶの話に集中していたかった。

 

「……良しっ、そらよ。」

 

天元はしのぶの話をある程度聞いた天元は、温泉に沈めていた炭治郎の顔を勢い良く引き揚げた。

 

「ぶはっ!?……はぁっ! はぁっ! はぁっ……。」

 

漸く顔を水面から引き揚げられた炭治郎は、新鮮な空気を肺に送り込むべく何度も呼吸を繰り返した。それから天元に文句を言おうとした炭治郎だったが、またしてもその目論見は失敗に終わる。

 

『続けて炭治郎君の日輪刀についてお話しましょう。いや……此処ははっきりと逸物、いえ……おち×ちんというべきでしょうか?』

 

『!!!??』

 

しのぶから思わぬ単語が聞こえて来たので、炭治郎達はそのまま生きた彫刻と化して固まってしまった。

 

「し、しのぶっ……っ?」

 

特に子供の頃のしのぶを知っている行冥の衝撃は、一際大きいものであった。

 

『勃起すれば七寸(二十一cm)以上の長さが有り、火傷しかねない程熱く、太さも口に咥えれば顎が外れそうなくらいありましてね。私の小さい手では親指と人差し指で輪っかにしても、指が届かないんです。』

 

「っ!!? しのぶさんっ!!! どうかこれ以上は……っ!?」

 

 

 

 

 

ガシッ! バシャアアアン!!

 

 

 

 

 

「ごぼあぁっ!!? ごぼぼぼぼぼっ!!!? ぐぉぼぼぼぼぼぼっ!!!?」

 

「こらっ! 邪魔すんなって! 今凄ぇ面白い所なんだからなっ!!」

 

ニヤッとした笑顔を浮かべながら天元は、先刻以上に激しく抵抗して暴れる炭治郎に今度は両手で温泉に抑え付けた。

 

『………………』

 

じゃれ合う炭治郎と天元を余所に、行冥達は好奇心を抑えられずしのぶの話に耳を澄ませていた。特に無一郎は頬を染めながら、しのぶの話に集中して耳を澄ませている。

 

「炭治郎……大丈夫なのか? ある種の病気なのでは?」

 

「いや、そんな事はあるまい。身体に見合わぬ大きさだと思うが。」

 

「……ちょっと見てみたいかも? 怖いもの見たさ感覚で。」

 

炭治郎が温泉で溺れている中、炭治郎の逸物について行冥達は好き放題批評をしていた。

 

「ごぼぼぼっ!! ごぼっ!!!……。」

 

「……おっと。俺とした事が、話を聞くのに夢中で忘れていたぜ。こりゃいけねぇ。」

 

ニヤッとした笑みではなく、何故か真面目な表情を浮かべていた天元は直ぐに炭治郎を引き揚げた。

 

「ぶはぁっ! えっほけほっ!!」

 

炭治郎は間違って飲んでしまった温泉の湯を、温泉の外へ吐き出した。それから呼吸を整えると、元の位置へ戻ってから天元を静かに睨み付けた。

 

『炭治郎君の事を、「夫に似ている。」と仰ってましたが……亡くなられたご主人に似ているのかどうかはともかく、珠世さんは個人的に炭治郎君の事をどう思っているんですか? 私達への気遣いなど無用ですから、正直に言って下さい。』

 

「なっ!!?」

 

天元に文句を言おうとした炭治郎だったが、しのぶの一言が一瞬にして炭治郎の関心を奪った。

 

――ッ!

 

この際、壁際に凭れて倒れている愈史郎が身体をビクッと動かしていた事は、男湯にいる誰もが気付かなかった。

 

――しのぶさんが、何でそんな事を珠世さんに聞くんだろう?

 

普段のしのぶの嫉妬深さは、まだ短期間の付き合いしか無くても炭治郎は熟知している自信がある。自分なら絶対に聞かないであろう質問を、何故珠世にぶつけたのか炭治郎は気になった。

 

――ふぅ~~助かった。ありがとよ、胡蝶。

 

天元は炭治郎がしのぶの一言を聞いて怒りの矛先が一時的でも収まった事に、思わず笑みを浮かべた。炭治郎の意識は既に自身ではなく、明らかに珠世としのぶに向けられている。

 

天元もまた珠世が何を言うのか期待しながら、片手を伸ばして徳利を掴むとそのままゴクゴクと葡萄酒(ワイン)を美味しそうに飲み干して行く。

 

『炭治郎さんは、その……凄く優しくて、誠実で……とても素敵な殿方だと思います。』

 

「……素敵な殿方だって、炭治郎。」

 

「えっと、その……。」

 

何故かジト目で睨み付けられながら、無一郎にそう言われた炭治郎は、返答に困ってしまう。

 

『ですが、それは炭治郎さんの人間性や人柄に惹かれているという具合です。殿方としてというのは、私の場合は違います。』

 

「「っ!……。」」

 

「おっ?」

 

珠世が続けて言い放った言葉を聞いて、炭治郎と無一郎は会話を中断して傾聴に専念した。天元もまた、二人と同様に静かに見守る。

 

『それに私は無惨の手で鬼に変えられて、もう四百年以上の歳月が経ちます。一体私と彼の間に、幾つ歳が離れていると思って?……とても男女の関係にはなれないし、その様な目で彼が人喰い鬼だった私を女として見たりはしないでしょう。』

 

「……だそうだぞ。どうなんだよ、炭治郎。」

 

珠世の否定的な発言を聞いて、天元は興味深そうに炭治郎に尋ねた。天元に尋ねられた炭治郎は、首を傾げながら質問に答える。

 

「いや……鬼とか人とか、どうでも良いです。と言うより珠世さんは人間を食べた鬼特有の腐臭が無くて、可憐な花の良いが匂いするんですよね。」

 

炭治郎にしか嗅ぎ取れない珠世特有の体臭を思い出して、僅かながらも笑みを溢した。炭治郎は続けて、年齢に関する自身の価値観について答えた。

 

「年齢もそうですね……しのぶさん達は全員俺より年上ですけど、はっきり言って気にした事も無いですね。もししのぶさん達が俺より十歳年上か年下だったとしても、俺はきっとまたしのぶさん達の事を好きになったと思います。」

 

炭治郎は断言する様に、はっきりと天元に答えた。

 

「見境が無いぞ、炭治郎。」

 

「冨岡さん、その言い方は身も蓋も無さ過ぎだよ……。」

 

義勇が炭治郎の発言に対してそう指摘すると、無一郎は呆れた様子で静かにツッコミを入れていた。

 

『貴女は竈門炭治郎という男を、ちゃんと分かっていません!』

 

『!』

 

すると突然、叫び声に近い大声が女湯から聞こえて来た。どうやらしのぶが珠世に叱咤している模様であった。

 

『死んだ姉の理想の、その上っ面しか引き継げなかった私と違って、炭治郎君は鬼の本質を理解して本心から慈悲を持って涙を流せる優しい子なんです!……そんな彼が鬼だの人だのなんて小さい枠組みに拘ったりなんかしないし、況してや年齢の差なんてものに炭治郎君がとやかく言うと、珠世さんは本気でそう思ってます?』

 

『!!』

 

「……しのぶは君の事を良く理解しているな。仲睦まじいのは素晴らしい事だ。」

 

仏経を唱えるのを止めていた行冥が、しのぶが口にした炭治郎への評価を聞いて相互理解を深めている事に素直に感心していた。

 

『その様子だと、お気付きでは無いみたいですねぇ?……珠世さん。ご存知無い、お気付きでないなら教えてあげますけど、炭治郎君ですが……何度も貴女を見詰めては、顔を赤くして見惚れていたんですよぉ?』

 

「だっはっはっ! 炭治郎っ、お前、胡蝶にしっかり派手に見られてんぞっ!」

 

「うっ……俺、そんなに珠世さんに見惚れてたかなぁ……っっ。」

 

天元に茶化された炭治郎は、反論せずに頭を掻いて誤魔化す事しか出来なかった。

 

「……炭治郎は美女に弱いな。」

 

「これが普通ならば懸念するべき案件だが、その超人的な嗅覚があれば、炭治郎が女性型の鬼に騙される心配は無かろう。」

 

「あ、あはははははっ……っ。」

 

義勇と行冥が言った内容を聞いて、炭治郎は笑う事しか出来ない。炭治郎がそうしていると、女湯から僅かにある声が聞こえて来た。

 

『いいえ、駄目よ。私には亡くなった夫が居るのだから……でも無碍に断ったら炭治郎さんに失礼よね?……だけど私、炭治郎さんになんて言えば良いのかしら……っ。』

 

「っ!?」

 

珠世の呟きとも言える微かな発言の内容を聞いて、炭治郎は驚いていた。正確に言うと驚いたのは、発言の内容を聞いたからではない。

 

――珠世さん……っ!

 

炭治郎が驚いたのは、珠世から発していると思われるその匂いであった。珠世の呟きを聞いたと同時に、炭治郎は反射的に嗅覚を総動員していた。其処から炭治郎が感じ取った匂いは困惑の匂いが大部分を占めていた。

 

しかし炭治郎の超人的な嗅覚は、その困惑の匂いに混じって良く知っている匂いを確かに感じ取っていた。それはしのぶやアオイ、そしてカナヲから日頃感じ取っている、好意と愛情の匂いであった。しのぶ達程の強さは無かったが、確かに存在していたのだ。

 

――うぅ……俺は一体どうしたら……っっ。

 

炭治郎は嬉しさと同時にどうすれば良いのか悩んでいると、ポンと自身の肩を軽く叩かれた。

 

炭治郎の視線の先には、満面の笑みを浮かべる天元の姿があった。

 

「て、天元さん……。」

 

「なっ? 俺の予想通りになっただろう? それも派手に。」

 

厳密には予想通りとは言い難がったが、それでも大体は天元の予想通りに事態になった為、炭治郎は何も言えなかった。

 

「まぁ。俺から言える事は、一つだけだ。後悔しない様に、正直になれや。隠して後悔する位なら、派手に当たって砕けちまえよ……それに弟子は師匠を超えるもんだ。頑張りな、炭治郎。」

 

「すみません、天元さん。良い事を仰っている御心算でしょうけど、俺は貴方の弟子になった覚えは無いです。」

 

天元から貰った明らかに揶揄い混じりの激励に対して、炭治郎は真顔でキッパリと言い放った。尤も、言い返された天元は苦笑するだけであったが。

 

それから炭治郎は視線を動かして、倒れている愈史郎達に視線を向ける。

 

「俺、愈史郎さん達を部屋まで運ぼうと思います。なので、お先に失礼します。色々ありがとうございました。」

 

炭治郎はそう言って行冥達一人一人に頭を下げて礼を述べてから徐に、温泉から立ち上がった。

 

「そうか、私もそろそろ上がろうかと思っていた。」

 

「手伝うよ、炭治郎。」

 

「……俺も、もう良い。」

 

炭治郎が温泉から上がろうとすると行冥と無一郎、義勇の三人も炭治郎に続けて温泉から上がる事にした。

 

「おいおい、もう上がるのかよ。まだまだ祭りは終わってねぇぞ?」

 

「すみません、これ以上温泉に居ると逆上せそうなので……っ。」

 

天元は炭治郎を止めようとしたが、炭治郎は申し訳無さそうに頭を軽く下げて残留を拒否した。

 

「……チッ。」

 

愈史郎達を看病していた実弥も、黙って温泉から立ち去ろうとした。それも、泥酔している伊之助を担ぎながらだ。

 

それに続いて炭治郎が愈史郎を、行冥が善逸を担いで共に温泉から立ち去って行った。

 

男湯には、天元と大量の徳利だけが残されていた。

 

「……おいぃっ!? 俺一人でこれ全部地味に片付けるのかよぉっ!!?」

 

天元は理不尽だと言わんばかりにそう叫んだが、聞く者は誰一人として居なかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「「「……」」」

 

天元の愛妻達である雛鶴とまきを、須磨の三人は赤面して沈黙していた。何故ならしのぶに半ば煽られて天元との私生活を延々と語ってしまったからだ。

 

それも夜の営みも含めてである。寧ろしのぶ達にとって其処が重要であったため、夜の営みについて重点的に語らせられてしまったのである。

 

しかし、雛鶴達に後悔は無い。それどころか別の事すら考えていた。

 

――……こ、今夜は久し振りに天元様に慰めて貰えないか、頼んでみよう。

 

しのぶの色気に当てられた雛鶴達は、温泉から上がった後に久方振りの夫婦の営み(セックス)をしないかと天元に直談判をすると固く決意をするのだった。




お待たせ致しました。

約半年振りの新作です。お待たせして大変申し訳ありません。

私事でのトラブルの連続に陥った挙句、スランプにまでなってしまい此処まで遅くなってしまいました。

此処からロケットスタートをして後からまた更新が遅くなる事は避けたいので、そう大した頻度は保てませんが、なるべく月日に偏らずに更新して連載を再開して行きたいと思います。

今後も『優しき日輪と鬼殺隊の美蝶』を読んで頂けたら嬉しく思います。

次回の更新予定日は9/9(木)です。どうかお楽しみに。
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