・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。
※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。
「ごおおぉぉぉぉ……ごおおぉぉぉぉっ。」
鬼殺隊の頭目である産屋敷家の本邸にある一室で、敷かれた布団の上で大きな鼾を掻いて寝ている伊之助が居た。寝相も悪いのか、着衣が乱れて半裸になっている。
「……チッ。」
そんな伊之助の姿を見て、苛立たしく小さな舌打ちをする男が居た。耀哉からこの一室を与えられている実弥である。
「たくッ……世話の焼ける餓鬼だぜェ……。」
実弥は壁際に凭れながら、そう言って溜息を吐いた。温泉での大騒動の後、泥酔している伊之助を放置出来ず寝間着を着せた後にそのまま担いでいた。しかし伊之助に与えられた部屋が何処にあるのか分からなかったので、仕方なく自身の部屋まで運んでいたのだ。
「……」
それから何も言わず、実弥は物思いに耽っていた。伊之助の騒々しい鼾だけが、室内には響き渡っていた。
「…………だあああああッッッ!!!」
すると突然、実弥は片手で頭を掻きむしりながら叫声を上げた。一通り頭を掻き毟ると、思い切り舌打ちをした。
――今更、あいつにどの面下げて会えってんだよッ。
心中で悪態を吐く実弥。その脳裏には、一人の男性の姿が浮かび上がっていた。
その男性とは此の世で唯一、血の繋がりがある弟の玄弥であった。
実は緊急柱合会議の前に玄弥は一度、周囲から"風屋敷"と呼称されている自身が所有する屋敷に訪問して実弥に会いに来てくれていたのだ。しかしその時の対応は、誰が見ても顔を顰める聞くに堪えない言動であった。
『テメェみたいな愚図、俺の弟じゃねぇよ。』
『鬼殺隊なんか辞めちまえ。』
実弥は玄弥と目が合った瞬間、そう言い放って一方的に玄弥を拒絶して風屋敷から突き放す様に叩き出しているのだ。
発言は許さないと言わんばかりに、視線だけで射殺さん程の殺意に満ちた眼力を実弥は玄弥に容赦無く向けた。その眼力に怯えた玄弥は身体を一度震わせた後、眼尻に大粒の涙を溜めてから立ち去る事しか出来なかった。
両眼から涙を零しながら走り去った玄弥の背中を、見えなくなるまで実弥は黙ってそのまま見送る事しか出来なかった。
「……
実弥は愚痴る様にそう呟いた後、顔を俯かせて溜息を吐いた。
『良いですね、不死川さん。ちゃんと玄弥と仲直りして下さい。「良くやった。」とか「頑張ったな、偉いぞっ。」って玄弥を褒めて上げて下さいね。約束ですよ?』
『っ!』
その瞬間、実弥は緊急柱合会議で自身を糾弾する際に炭治郎が諭す様に言っていた内容を思い出した。実弥は思い出した瞬間、思わず両眼を見開いて驚いた表情を見せた。
「チッ……面倒臭ぇ餓鬼に、でっけぇ弱みを握られちまったもんだ。なぁおいッ……。」
煩わしそうにそう愚痴を零した実弥だったが、その口元には笑みが浮かんでいた。
――それにしても、あの鬼共……愈史郎……それから……珠世……かっ。
実弥は今回の緊急柱合会議で鬼殺隊に入隊し共闘する事が正式に決まった二体の鬼の事を、不意に思い出した。
『私はこうして息子を抱き締めたかった……ただ、息子が大きくなるのを見届けたかっただけなの……。』
「!!!」
実弥の脳裏にどれだけ望んでも得られなかった、珠世が口にした願望と悔恨の言葉が唐突に過ぎった。
「っっ……クソッ……。」
実弥は玄弥の時とは比較にならない程、苦々しい表情を浮かべた。それだけで無く、胸には強く締め付けられる様な錯覚を覚えた。
実弥の顔色には、憎悪や怨恨と言った色は無い。そもそも何故これ程に胸が締め付けられるのか、実弥自身が理解出来なかった。
しかしそれでも、実弥はふと自嘲する様に笑みを浮かべた。
――いや、分かってる……俺は
実弥にとって如何なる事情があろうとも、人間が鬼になった時点で罪人に等しい存在である。切っ掛けも境遇も悲劇も、情状酌量の余地にならなかった。ならなかった筈であった。
しかし曲がりなりにも緊急柱合会議での経験が、実弥に大きな変化を与えていた。
「……」
――…………もし……もし俺がお袋を殺さなかったら……お袋は正気を取り戻していただろうか……正気を取り戻せていたら、
心中で思わず無意味な
そしてもう一つだけ珠世を意識してしまう理由が、実弥にはあった。
――似てる……んだよなァ。
実弥は無意識に、心中でそう呟いていた。自覚が無いまま、実弥は珠世に母である志津の面影を重ねていたのだ。
「ってッ、何寝惚けた事言ってんだ馬鹿野郎がァ……ッ!」
口外していないとは言え、心中であってもとんでもない事を考えている事を漸く自覚した実弥は、思わず自身の手で側頭部を殴り付けた。
ガンッ! と言う鈍い音が室内に聞こえた。
「ふぅ~~……まぁ似てねぇ事はねぇかなァ……。」
――身体は小柄だが、身の丈に合わない勇気の持ち主だ。働き者で、頭も良い……違いと言えば……殺されてない事だな。それから……。
実弥は並べ立てる様に、珠世と志津の共通点を見つけていた。しかし、この二人の間にある一点だけは、実弥は認めようとは思わなかった。
「……俺のお袋の方が、遥かに美人だったわ。ボケナスッ……。」
誰にでも言う訳でも無く、実弥はそう呟いてから、新たに布団を敷いて眠りに付いた。
相変わらず伊之助の鼾が室内に響いていたが、実弥も疲れていたのか気にする事は無かった。
♦︎
「うっ……うーん。」
男湯で鼻血を噴き出しながら気絶していた善逸が、声を漏らしながらゆっくりと身体を起こした。
周囲を見渡すと、現在居る場所は温泉では無く産屋敷本邸にある一室の様であった。自身の身体を見渡してみれば、全裸では無く寝間着を着せられている。
「目が覚めた様だな?」
「っ!」
善逸は声が聞こえた方に振り向くと、其処には行冥が座っていた。
「っ!?……い、岩柱……悲鳴嶼さんっ……っ!」
善逸は思わぬ人物の登場を見て、反射的に立ち上がった。
「……っ。」
立ち上がった善逸は改めて行冥の姿を見ると、負い目を感じた様子で咄嗟に目を反らした。行冥は盲目なので表情は見えないが、視力を除いた五感から善逸の恐怖心を察した。
「座れ。そう怯える必要など無い……君は無意識に私を避けていた様子だったが、私は君に何かする心算は無い。」
「…………」
行冥は善逸に座る様に促すと、善逸は行冥に従ってその正面に座った。しかし座った瞬間、善逸は唐突に行動に出た。
「お願いしますっ!! 獪岳を、見逃してやってくれませんかっ!?」
「!!!」
善逸は悲壮の覚悟を抱いた様子で、行冥に土下座をした。それも土下座までする必要性を作った、ある一人の男性に関して嘆願しながらであった。行冥は善逸の行動とその嘆願内容を聞いて、驚かざるを得ない。
そんな驚いている行冥を他所に、善逸は嘆願を続けていた。
「獪岳がやった事を考えれば、悲鳴嶼さんが怒るのは当然です……でも一回だけ……一回だけ見逃してやって欲しいんですっ!」
「……君は、獪岳を慕っている様だな?」
獪岳の事で必死に嘆願する善逸に、行冥は善逸と獪岳の関係性について良好なのか、確認の為に善逸に尋ねた。しかし善逸から帰って来た回答は、行冥にとって予想外のものであった。
「いやいや、とんでもないっ! 獪岳は俺の事を嫌っているし、俺だって獪岳が嫌いですよ。」
「何っ?……っ!!」
善逸はうんざりする様にその口からはっきり獪岳が嫌いだと公言したので、行冥は驚愕と共に大いに困惑した。そんな行冥を見て、善逸は念押しする様に開口する。
「大事な事だからもう一回言いますけど……俺は、獪岳の事が嫌いです。目障りだの消えろだの暴言ばっかり吐くし、桃とか色んな物を、俺に向かって投げ付けてくるんですから。それもしょっちゅう。」
「……では何故、その嫌っている獪岳を庇う? 君の兄弟子だからか?」
行冥は善逸が獪岳から受けて来た所業を聞いて、益々解せない様子で善逸に尋ねた。行冥の質問を聞いて、善逸は真剣な表情でその質問に答える。
「兄弟子だからじゃない……家族だからです。」
「っ!」
善逸が断言した回答を聞いて、行冥はビクッと反応を示した。善逸は思い出す様に時折両眼を閉じながら、獪岳について語り始めた。
「嫌いですけど……尊敬しています。じっちゃんの厳しい修行にも文句一つ言わずに、常に努力をしていて只管に真面目で直向きなんです。俺はずっと、そんな獪岳の背中を見て来ました。」
「……」
善逸が尊敬する獪岳の長所を、何も言わず行冥は聞いていた。
「俺にとっても、じっちゃんにとっても、獪岳は特別で大切な存在なんです。だから
「……」
善逸は三度目の嘆願を行うと、行冥は善逸を見極めんばかりにその盲目の両眼を真っ直ぐ向けた。
「……その
「っ!……っ。」
善逸の言っている内容が気になった行冥は、その言葉の真意を知るべく善逸に尋ねる。善逸は小さく唇を噛むと、行冥の疑問に答えた。
「もし獪岳がまた人の道を外れる様な真似をしたら、その時は……その時は俺が獪岳を斬りますっ!」
「!!」
善逸の覚悟を聞いて、行冥は再び驚く事になった。盲目である行冥であったが、善逸が身体を震わせている事に気付いた。
「……明日の朝、予定通り柱合会議が開かれる。獪岳がどうなるかは結局の所、君の育手である桑島慈悟郎氏と共にこの
「!」
善逸の覚悟に対して、行冥は肯定とも否定とも解釈出来る返答をする。善逸はその超人的な聴覚で怒りなどと言った負の感情を行冥は抱いていないと察してはいたが、真意まで見極める事は出来なかった。
「「……」」
二人の間で、厳密には室内には重い空気が漂った。
「……獪岳は……。」
「!」
そんな空間の中で、最初に開口したのは行冥だった。驚く善逸に構わず、行冥は話を続ける。
「私と獪岳の最初の出会いは、町中だった。路地裏の出入口辺りで飢えて倒れていた獪岳を、私が背負って寺まで運んだのだ。」
「……」
「獪岳は当初こそ、此の世の全てを疑って生きている様な猜疑心の塊だった。当然、私の事も疑っていた。何故助けたのか、何が目的だなどと言ってな。」
行冥は其処まで話すと、懐かしそうに思いながらフッと小さく笑った。
「……だが共に過ごす内に、獪岳は私に心を開いてくれる様になった。最初こそただ食事を済ませると寝ているだけの惰性を貪る様な暮らし振りであったが、ある日から率先して畑仕事や薪割り、水汲み等の仕事を手伝う様になってくれたのだ。」
「……」
行冥が話し始めた獪岳の過去に、善逸は唯々傾聴する。その際に行冥の声色が、穏やかになって行くのを善逸の超人的な聴覚はしっかりと捉えていた。
「我妻善逸。良ければ私に聞かせてくれないか? 君と過ごした獪岳は、どんな人間だったのかを。」
「っ!!……はっ、はいっ!!」
行冥の頼み事に、善逸は喜んで承諾した。しかしその直後、善逸は真顔で行冥に話し掛けた。
「あの……前以て言っておきますけど、俺の主観バリバリ入りますよ? 口が荒くなったり悪くなったりするかもしれないですけど、大丈夫ですか?」
「そんな心配などしなくても大丈夫だ。君が思う様に正直に話してくれれば、それで良い。」
「んじゃ、遠慮無く。」
善逸の言葉を皮切りに、それから二人は夜遅くまで獪岳談義を行うのであった。
♦︎
「ったく。後始末を全部、俺に派手に押し付けやがってあいつらぁ……。」
天元が悪態を吐きながら、耀哉に与えられた部屋で敷かれた布団の上で横になっていた。
あの後は一人で散らばっている徳利と酒盃を片付ける羽目になり、折角の楽しい気分を台無しにされていた。
――……まぁ派手に楽しかったけどな。それと
若干のほろ酔いを覚えつつ、ある人物達に目星を付けて楽しそうな笑みを浮かべた。其処へ二人の女性が、天元に話し掛ける。
「まぁまぁ天元様。もう良いではありませんか。」
天元の背後、正確には真上から声が聞こえて来た。天元の愛妻の一人であるまきをが、天元を宥めていた。まきをは天元に膝枕をして、更に頭を優しく撫でて慰める。
「そうですよ~。過ぎた事を言ったって、何も始まりませんっ!」
天元が考えを察する事など出来る筈も無く、不貞腐れていると思っている天元の下へ須磨もやって来る。
そのまま天元の隣に座ると、天元の左手を両手でギュッと握り締めた。
「失礼致します。天元様。」
其処へ雛鶴もやって来た。その手には二本程の徳利と、四つの酒盃を載せたお盆を手に持っている。
「天元様。良ければ私達だけで、飲み直しませんか? 二本しか無いので、言う程の量はありませんが。」
「おう。そりゃ良いな。まきをと須磨は、どうする? 一緒に飲むか?」
雛鶴の提案を喜んで受け入れた天元は、まきをと須磨も誘う。
「勿論、お付き合いしますっ!」
「御一緒します~❤」
まきと須磨は天元の誘いを拒否する筈も無く、一緒に酒を飲み始めた。
雛鶴が徳利を一本取ると、自分も含めて四つの酒盃に酒を注いだ。四人はその酒を飲み干した後、雛鶴達で一人ずつもう一本の徳利を順番に天元の酒盃に酒を注いで天元を楽しませた。
「大勢でワイワイ言いながら飲む酒は格別だが、やっぱりお前等と一緒に飲み酒が、一番美味ぇな。」
天元は徳利一本分の酒を飲み干すと、満足しながらそう呟いた。
「そう言って頂けると、私も嬉しく思います。天元様。」
「あたしも天元様と一緒に飲むお酒が、一番好きです。」
雛鶴とまきをは、頬を赤く紅潮させながら天元の左右に抱き着いた。
「あっ――ッ!! 二人とも狡いですよぉっ!!」
須磨は二人に先を越された事に反発しながら、真正面から天元に抱き着いた。
「おいおい、俺は逃げだりしないぜ。」
プンスカ怒る須磨を宥めながら、天元は三人の温もりを堪能する。そして無防備になった天元に、それは起こった。
「……えいっ!」
「「!」」
「っ!?」
須磨が天元の胸元に両手を置くと、力一杯押し込んだ。すると天元の左右に居た雛鶴とまきをも、須磨に協力して天元を押し込む。その結果、天元を布団の上に押し倒す事に成功した。
「お前等?」
天元は雛鶴達の思わぬ行動に、困惑する声を上げる。押し倒されたまま天元は、頸を動かして前方を見た。
其処には紅潮していた両頬を更に赤く染め、両眼を潤ませて荒い息遣いをしている雛鶴達が居た。雛鶴とまきをはその豊満な乳房を、天元の胸板に押し付けており、須磨は天元の腹部の上で馬乗りになっていた。
「天元様ぁ……っ❤」
「あたし達……胡蝶様のお話を聞いて、すっかり当てられてしまって……っ❤」
「御館様の
寝間着が乱れ半裸の状態で、雛鶴達は三人で協力して天元の寝間着を剥いで行った。どうやら女湯でしのぶとの間に繰り広げられた壮絶な猥談に当てられて、すっかり
「……奇遇だな。」
「えっ?……あっ!❤」
「きゃっ!❤」
「あんっ!❤」
天元は呟いた後、カバっと上半身だけ身体を起こした。両手を雛鶴とまきをの乳房に置き、顔を須磨の谷間に埋める。天元はその状態で、ニヤッと笑った後に開口する。
「俺もお前等と愛し合いたいと、ずっと思っていたよ。…………今夜は寝かせねぇからな?」
「「「きゃ――っ!!!❤❤❤」」」
天元の宣言を聞いて、雛鶴達は歓声を挙げた。天元の愛撫を受けて、雛鶴達が嬌声を上げ始める中で、天元は心中で二人の人物に感謝の念を抱いて居た。
――この俺が雛鶴達に押し倒される日が来るたぁねぇ……これも炭治郎と胡蝶の御蔭だな。後で派手に礼をしないとなぁ……。
天元は炭治郎としのぶの二人に、強く感謝していた。
「ちゅうっ……んんっ。」
――でも今は、俺の愛しい嫁達を可愛がる事にしよう。地味な話は、それからでも遅くはねぇからなっっ。
しかし炭治郎としのぶに感謝する事は後回しにすべしと判断して、天元は雛鶴達との
その結果、産屋敷本邸の一角では朝日が昇るまで、天元が指揮する事で奏でられる妖艶な
♦︎
「……ふぅ。」
温泉から上がった無一郎は、静かに産屋敷本邸の外の景色を眺めていた。晴れている御蔭で、星々と満月が夜の空を照らしていた。
――今日は、色んな事があったなぁ……。
無一郎は今回の緊急柱合会議で起きた大騒動の数々を、一つずつ思い出していた。そして数ある大騒動の中でも、無一郎にとって一際印象深いものが存在していた。
――鬼の
二年以上もの間、どの様な手段を講じても戻らなかった記憶を、怨敵である筈の鬼の血鬼術で治療した事実は、当事者でもある無一郎にとって最も印象深い出来事であった。
「……珠世さんには、後でもう一度御礼を言っておかなきゃ駄目だよね。」
無一郎は感謝の念を抱きながら、改めて珠世に礼を述べようと静かに決意した。そして無一郎はふと、ある場所に視線を向ける。
「僕が記憶を取り戻した御蔭で、
そう言った無一郎の視線の先には、綺麗に折り畳まれている黒色を基調に水色の霞模様が描かれた、袖の無い着物があったと束ねられた一房の黒い髪の毛、そして白い布に包まれた箱らしき物があった。
「……」
無一郎はその着物を受け取った際の状況を、脳裏に思い出した。
『こ、これは?……っ。』
『はい、時透様。三年前に亡くなられた、貴方様の兄君。時透有一郎様が着用していた着物でございます。そして……こちらは兄君の遺灰と遺髪です。』
温泉から上がった無一郎は一人で耀哉から当てられた部屋で過ごしていると、唐突にあまねが部屋を訪問して来た。あまねの後ろには、控える様に愛息子の輝利哉が傍らに居た。
その際にあまねが両手に抱えていた物が、有一郎の遺灰及び遺髪。そして唯一の遺品である、有一郎の着物だったのだ。
有一郎の遺体はあまねが駆け付けた時には既に蛆虫が湧く程に酷く腐敗していたので、故郷の景信山で即刻火葬となった。しかしせめて何か形になるものを残したいとそう思ったあまねは、腐敗臭に塗れた着物を根気良く洗い清め、髪の毛も切り取って保存していた。
有一郎の遺灰もまた何時か記憶を取り戻した無一郎の手にあって然るべきだと、大切に保存していたのだ。
『先ずは……この御家族の遺品を今になって貴方様に御返しする、私共の無礼をお許し下さい。』
『そ、そんなっ! あまね様っ、輝利哉様もお頭をお上げ下さいませっ!!』
有一郎の着物を隣に置いた後、あまねと輝利哉は無一郎に向かって土下座して謝罪した。そんな産屋敷親子の行動を見て、無一郎は慌てて止めさせた。
『その……あまね様にお聞きしますが、どうして今になって
『……記憶を失われた時点で、御家族の御遺品を御返しする事も考えてはいました。しかし……そうする事で逆に時透様に悪影響を与え、記憶を取り戻す事を妨げてしまうのでは無いかと、そう耀哉様が懸念されたのです。』
『っ!』
無一郎はあまねから得られた耀哉の懸念を知って、どうして有一郎の着物の返還が遅れたのか漸く理解出来た。
凄惨な出来事であったが故に、耀哉は無一郎の隠された
『……こんな若輩者の僕を、此処まで御気遣い頂き、感謝の念に耐えません。後々、御館様には直接御礼申し上げますと、そうお伝え下さい。』
『畏まりました。それでは、良い夜を。』
あまねは無一郎に一礼してから、部屋から退室して行った。続けて輝利哉も無言で、無一郎に一礼してからあまねに付いて行き退室する。無一郎の部屋には、有一郎の遺品が残っていた。
――お帰り、兄さん。
無一郎は脳裏に再現していた当時の状況を掻き消すと、有一郎の遺品に向かって心中で、その帰りを歓迎していた。
無一郎は続けて、今度は有一郎の遺品に向かって話し掛ける。
「僕……今まで生きて来た中で、最高のお友達が出来たんだ。」
嬉しそうに頬を赤く紅潮させながら、無一郎は嬉しそうにそう言った。無一郎の脳裏には、炭治郎の姿が思い浮かんでいた。
「……他にも話したい事はあるけど……それはこの鬼との戦いが終わってからの、お楽しみに残しておくよ。その時までには、もっと幸せだった事や嬉しかった事を経験しておくね。辛い事や悲しい事もきっと沢山、経験すると思うけど…………大丈夫。だって僕は。」
其処まで言うと、無一郎は一度だけ深呼吸を行った。
「
無一郎は芯の強さを感じさせる様な、そんな笑みを浮かべてそう力強く断言した。
♦︎
――今日は、大変な一日だった。
義勇はそう思いながら、敷かれた布団の上で横になっていた。
――しかし、その大変さに見合った……いやそれ以上の収穫が齎された日でもあった。今日開催された緊急柱合会議で起きた出来事は、必ず勝利に向けて鬼殺隊に大きく天秤が傾く事だろう。
言葉に出す事無く、義勇は緊急柱合会議で得られた有益な情報の数々をそう高く評価した。
――……尤も、あの愈史郎が言っていた様に……まだ鬼側の方が優勢と言えるだろう。柱としての責務を果たす為にも、今後は更なる精進を行わなければならないな
戒める様に自身にそう言い聞かせた後、緊急柱合会議で得られた情報の内容を、自身の為に反芻して再認識を行った。
――……っ!……っ……っっ。
再認識を終えた後、義勇は不意にある事を思い出した。それと同時に、自身の両眼を覆い隠す様に左腕を目元に乗せた。義勇の身体は、僅かだが震えていた。
――俺の判断は、正しかった。間違っていなかった。炭治郎と禰豆子を、助けて良かった。殺さなくて良かった……っ。
『
――ッ!
今回の緊急柱合会議では、立役者の一人と言っても過言ではない人物、いや鬼である愈史郎が温泉で口にした、あの不器用な励ましの言葉を思い出した。
――愈史郎……炭治郎達もそうだが後日、返礼をしなければ不義理にも程がある。珠世殿もだ。
義勇は珠世と愈史郎に返礼したいと、強くそう思った。しかし其処で問題が生じてしまう。
――だが……鬼である二人に、俺は何を送れば良い? 金品に興味は無いだろう。食べ物に至っては、論外と言っても良い。
珠世と愈史郎への返礼方法に、義勇は頭を悩ませた。
――………………っっっ!!!
すると思案する義勇の脳裏に、ある方法が思い浮かんだ。その方法を見て、義勇はぐっと拳を握った。義勇が思い付いた二人への返礼方法とは、とんでもないものであった。
――二人は血を飲むだけで食欲が済むと言う。ならば明日の朝、俺が二人の下へ行きこの血を提供してみよう。俺は不死川の様に稀血と言う訳では無いが、喜んで受け入れてくれる筈だ。
義勇の脳裏には自身の手で作った傷口から流血する左腕を差し出す義勇と、その左腕の前に立っている珠世と愈史郎の姿であった。義勇のやり方は、実弥の行動を参考にしている。参考として正しいのかと言われると、話は別だが。
義勇のそんな光景を想像してムフフと笑いながら、そのまま就寝に着いた。
しかし、義勇は気付いていない。そんな想像の中ですら、珠世は驚きながら片手で空いている大口を隠す様に覆い、愈史郎は青筋を浮かべながら白眼視で義勇を睨み付けていた。
余談だが次の日の朝、産屋敷本邸の一角で屋敷中に聞こえる程の怒号が鳴り響いた。その怒号に驚いた使用人が殺到すると、其処には右腕に血の付いた短刀と左腕から流血する義勇が居た。そしてそんな義勇の左腕を治療する珠世と、激怒して義勇に説教を行う愈史郎の姿があった。
♦︎
産屋敷本邸にある研究室で、一人の女性が万年筆を片手に紙に書き込んでいた。
その女性とは珠世であり、嘗ては無惨の側近として仕えていた鬼にして自らの意思で無惨に翻した反逆者だ。
今回の緊急柱合会議において中心人物の一人であり、鬼殺隊に無惨一党に関する多くの貴重な情報を齎した女傑である。
――今回行われた緊急柱合会議が無事に終わって、諦めていた念願の鬼殺隊との協力体制を築く事に成功した。これからは更に多くの鬼の血が採取される事でしょうし、しのぶさんも協力してくれるから研究も今まで以上に進む見込みが生まれたわ。
珠世は緊急柱合会議で自身の想像以上の成果が生まれた事に歓喜しながら、更に万年筆に力を入れて紙に書き進めていた。
――今まで得られた研究結果を整理して、今後の研究の段取りを付けましょう。無惨との決戦も、何時行われるかは分からない。だから一日でも早く、
温泉から上がった珠世は、睡眠を必要としない鬼の体質を生かして既に研究の段取りを付け始めていた。
「……っ。」
すると不意に紙に書き込んでいた万年筆を、紙からゆっくり離した。万年筆は珠世の右手に握られたまま、宙に浮かんで静止した。
――……炭治郎さんっ。
万年筆を宙に浮かせたまま、珠世の脳裏に映っていたのは炭治郎の姿であった。
――柱の皆さんとの話し合いは、当初から何事も無く進むなんて甘い考えは無かった。当然、柱の皆さんから猛反発を受ける事は想定内だった。……でも炭治郎さんが血を流す事までは、迂闊にも予想出来なかったわ。
珠世は炭治郎を失い、緊急柱合会議が決裂した結果で終わった
――炭治郎さんには、本当に頭が上がらないわっ。勿論、口頭で御礼は済ませているけれど……改めて、私から御礼がしたい。それも口だけじゃなくて、何か形になる方法で御礼を……。
珠世は炭治郎への感謝の念を改めて再認識すると、何時の間にか今後の研究に関する段取りから炭治郎への御礼はどうするかと言う考えに変わっていた。そう変化した事実を珠世は自覚しておらず、また疑問にも思っていなかった。
炭治郎への御礼を考えていた珠世だったが、その内にとんでもない事を思わず口走ってしまう。
「…………私の身体を差し上げたら、炭治郎さんは喜んで下さるかしら……。」
愈史郎が聞いたら卒倒を通り越して、
当の珠世は、無自覚な為に自身の口から何を呟いたのか理解出来ていない。その呟きは、自身の耳を除いて誰にも入る事無く、ただ研究室内に響き渡った。
「…………っ!!!??」
一拍置いて、珠世は自身がとんでもない事を呟いたと自覚した結果、思わず周章狼狽していた。その美貌を林檎の如く真っ赤に紅潮させながら、魚の如く何度も口をパクパクと動かしている。
「わ、私は……一体何をっ……っ!!!」
漸く珠世が口にした言葉は、自分自身に戸惑うものであった。何を、そしてどうして先刻の様な言葉を呟いたのか、まるで理解出来ていなかった。動揺する珠世の右手に持つ万年筆が、ミシミシと音を立てている。
そうしている内に、ある二人の人物が珠世の脳裏に過ぎった。
『珠世さんにも……愈史郎さんにも傷付いて欲しくなかっただけなんです。ごめんなさい……迷惑を掛けて……。』
『何度も貴女を見詰めては、顔を赤くして見惚れていたんですよぉ?』
「!!!」
珠世は炭治郎を顔を思い出して、胸中に強い高鳴りを覚えた。それからしのぶが女湯で自身に伝えた言葉が、更に胸中の高鳴りを強くした。
「……あぁっ! もうっ!! 集中出来ないっ!!」
珠世は空いていた左手を、苦しそうに胸元に強く押し当てた。右手に持つ万年筆は、最初より更にミシミシと強く音を立てた。
バキッ!
「っ!? あああぁぁぁ~~~っ!!!!??」
珠世はその膂力を以て、右手に持って居た万年筆をへし折ってしまった。万年筆の中にある
「………………」
少なくない時間を掛けて書き進めていた研究計画書が、万年筆からぶちまけられた
その後掃除を行い汚れた研究計画書を処分した後、気を取り直した珠世は再び研究計画書の執筆を再開した。しかし度々炭治郎の顔が脳裏に浮かぶ度に、失敗を幾度も繰り返した。
珠世がどう言った失敗を繰り返したのかと言うと、誤字脱字を繰り返したり、うっかり力を入れ過ぎて万年筆の先端で紙を貫通させてしまったり、ボーっとして動かなかったりした。
それは研究室に愈史郎が入室して来るまで、その数々の失敗を起こすのであった。
お待たせ致しました。
美蝶が一頭混じってますが、実質柱なのでタイトル詐欺ではない…筈(笑) こうしてみると、珠世さんも時間の問題だなぁ。
次回の更新予告ですが、9/15(水)を予定しております。お楽しみに。
宣伝
桜庭❀様 https://www.pixiv.net/users/3018098
私が尊敬する炭しのファンの一人であり、非常に可愛らしい絵を描かれる神絵師様です。是非ご覧になって癒されて下さい。
根菜様 https://www.pixiv.net/users/13161453
同じく尊敬する炭しのファンの一人であり、原作と遜色ない絵力の持つ神絵師様です。神絵師様は大勢いますが、この方は群を抜いていますね。