※この作品はR-18です。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶   作:蓮紅

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※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


第伍拾壱話 日輪は白き禁忌を目撃する

炭治郎と輝利哉は、男湯の中にある脱衣所へと入って行く。

 

――あっ……伊黒さん、本当に温泉に来てるんだ。

 

炭治郎は脱衣所に残る小芭内の匂いに気付いて、心中でそう呟いていた。

 

因みに、匂いだけが確信を持てた要因では無い。小芭内の着衣が、脱衣所にある竹製の籠の中に残っていたからだ。高低差の関係からか、輝利哉の身長では見れなかったが。

 

「炭治郎。」

 

「!」

 

輝利哉に声を掛けられた炭治郎は、小芭内への関心を隅に置いて輝利哉の方へ視線を向けた。

 

「言うのが遅れたけど……この太陽の髪飾り、贈ってくれてありがとう。」

 

「!」

 

炭治郎の視線の先には、自身が贈呈した太陽の髪飾りを嬉しそうに手に持っている輝利哉の姿があった。

 

「女の子用の髪飾りだから、最初はどうかと思ったんだけど……十三歳まで女の子として過ごすって言うから贈る事にしたんだ。輝利哉君が気に入ってくれたなら、俺も嬉しいよ。」

 

輝利哉から礼を述べられた炭治郎は、照れ臭そうに笑いながらその感謝に応えた。

 

「うん……一つだけ、聞いて良いかな?」

 

「ん?、何だい?」

 

輝利哉が何か炭治郎に対して尋ねたい疑問があるみたいで、その疑問について輝利哉は炭治郎に尋ねた。

 

「姉上達は皆、花を象った髪飾りだけど……私だけ太陽なのは、何か理由が有ったりするのかな?」

 

「!」

 

輝利哉から尋ねられた質問の内容を聞いて、炭治郎は一瞬驚きから両眼を見開くも、直ぐに微笑みながらその質問への回答を始めた。

 

「そうだなぁ……御館様は鬼殺隊(俺達)にとって太陽みたいな存在だから、輝利哉君もそうなれます様に……って思いながら買ったと思う。」

 

「!!」

 

炭治郎が浅草に立ち寄った高級店でカナヲと買い物をした様子を、懐かしそうに思い出しながら語った。

 

「……そうだね。私も、父上と同じ位……は言い過ぎだとしても、その次くらいに立派な当主になれる様に頑張るよ。」

 

輝利哉が少しばかり遠くを見る様な眼をしながら、炭治郎にそう言って応えた。すると炭治郎から、思わぬ発言を輝利哉は耳にする。

 

「でも髪飾りを買って直ぐに、その考え方は間違っていると思い直したよ。……だからって返品するのも悪いから、結局そのまま買って帰っちゃったんだけどさ。」

 

「?」

 

炭治郎から自己否定する発言の内容を聞いて、輝利哉は言っている内容の意図が分からず頸を傾げながら炭治郎の顔を見上げた。そんな輝利哉の反応を見て、炭治郎は苦笑しながら膝を曲げて視線を合わせた。

 

「俺はね、こう思い直したんだ。そして決意もしたよ。……絶対に輝利哉君が産屋敷家の御当主様になる前に、無惨を倒そう。ってね。」

 

「!!!」

 

炭治郎の決意を聞いて、輝利哉は驚いた様子を見せた。

 

「輝利哉君……いえ、輝利哉()。」

 

「!!!」

 

炭治郎は引き続き、話を続ける。しかしその前に主君に忠誠を誓う武士の如く、炭治郎は輝利哉に跪いて頭を垂れた。

 

そして頭を上げて、輝利哉を真っ直ぐ見詰めた。その真剣な表情と眼差しは、輝利哉が思わず見惚れる程であった。

 

「輝利哉様が余計な重圧なんて背負わなくても良い様に、年相応に子供らしく過ごせる様に……そして御家族と一緒にお爺ちゃんやお婆ちゃんになれる位、幸せになりながら長生き出来る様に、鬼殺隊隊士・竈門炭治郎は自分が持てる全てを懸けて戦う事を、輝利哉様に御約束致します。」

 

炭治郎が誠心誠意を込めて、輝利哉に誓約の言葉を口にした。

 

「……って、まだ柱にもなっていない俺が、こんな事を言うのも烏滸がましいんだけどね。あはははっ。」

 

自身が口にした誓約の内容を心中で反芻して、少しばかり照れ臭そうに炭治郎は苦笑した。

 

「…………」

 

しかし、炭治郎の笑声に輝利哉は反応しなかった。輝利哉は炭治郎が口にした誓約の言葉を聞いて、今にも涙腺から涙が溢れ出そうな位に両眼を潤ませていた。

 

「輝利哉く、んっっ!」

 

炭治郎は輝利哉の名前を呼ぶ途中で、遮られる様に閉口した。輝利哉が勢い良く炭治郎に抱き着いたからだ。

 

「たんっ……じろうっ……っっ…あ、りが……とう……っっ。」

 

「!……っ。」

 

炭治郎は輝利哉の唐突な行動と口から漏れる感謝の言葉を聞いて驚きながらも、何も言わずに優しく輝利哉を抱き締め返して受け止めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ごめん。みっともないところを見せたね、炭治郎。」

 

一通り泣いた輝利哉は、両眼を赤くしながら炭治郎に謝罪した。炭治郎は何も言わずに、微笑む事でその謝罪を受け取る。

 

「……今の言葉を姉上達が聞いていたら、きっと炭治郎に惚れ直していたと思うよ。」

 

「そう? でも格好付ける為に、俺は言った訳じゃないから。」

 

「それが格好良いんだと思うよ……なら、この話は私と炭治郎だけの秘密になる訳だ。」

 

輝利哉は自分と炭治郎だけが持つ共有の秘密を得られた事実が、心底嬉しそうだった。

 

輝利哉は太陽の髪飾りを丁寧に竹製の籠の中に入れると、着用している着物に手を付け始めた。

 

「炭治郎、先に入ってて良いよ。私は少ししてから、温泉に入るから。」

 

「?」

 

輝利哉はそう言って、炭治郎に先に行って温泉に入る事を促した。

 

「何かあった? 輝利哉君。」

 

炭治郎は輝利哉の言葉に疑問を抱いて尋ねた。すると炭治郎の視線に入ったのは、羞恥心で頬を赤く紅潮させる輝利哉であった。

 

「…………改めて思ったんだけど、家族以外の人と温泉に入るのは、今回が初めてなんだ。だからちょっと、緊張している……少しの間だけ、一人にしてくれると嬉しいな。」

 

輝利哉にとって、他人と温泉に入るのは今回が初めての体験である。数える程しか無いが、父の耀哉と一緒に温泉に入って以来だと輝利哉は記憶していた。

 

「っ!!……そ、そう言う事なら……。」

 

炭治郎は輝利哉の言い分を聞いた後、そそくさと脱衣してから温泉へと一足先に向かって行った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「鏑丸、もう少しだけ待っててくれっ。」

 

「シュルルルルルゥ。」

 

炭治郎達が温泉に向かっている事など知る由も無い小芭内は、微温湯を入れた湯桶に鏑丸を入浴させてから身体を洗い始めていた。

 

常に顔の下半分を覆っている素顔が、この時ばかりは晒されていた。

 

小芭内の素顔は、両頬が耳まで大きく人為的に裂けていた。その表情は、まさに蛇を連想させるものであった。

 

「…………」

 

水が跳ねる音だけが、一滴の水が垂れて水面に波打つが如く男湯で響き渡った。小芭内の脳裏には、愈史郎に吐き捨てる様に言われた罵詈雑言が響き渡っていた。

 

『想いを告げる勇気も無い意気地無しの(カス)如きに、嫉妬心も独占欲も抱く資格は無いっ! この腰抜けの臆病者がっ!! 身の程を弁えろっ!!』

 

『想いを告げる勇気も無い癖に、叶いもしない身の程知らずな欲望を抱いているお前とは、根本的に違うんだよ。』

 

『俺をお前如きと一緒にするな。このどっち付かずの、見るに堪えない見苦しい(カス)め。』

 

「…………っっ!!」

 

小芭内は歯が砕けんばかりに歯軋りし、両手も皮膚を破って血を流さんばかりに握り締めていた。

 

「シャ――っ! シャ――っ!!」

 

「……心配するな。大丈夫だ。」

 

すると鏑丸が何かを知らせる様に鳴いていたのだが、頭を洗っていた小芭内は自身を心配していると勘違いして宥めていた。この時の小芭内は頭を洗っており、両眼も閉じていた。

 

これだけが要因と言う訳では無いが、これも含んだ幾つもの要因が重なったが為に小芭内は炭治郎が接近して来ている事に気付かなかった。

 

「伊黒さんっ! お疲れ様ですっ!」

 

「っ!」

 

「っ!?」

 

小芭内は聞こえて来る筈が無い炭治郎の声を聞いて、思わず硬直してしまう。両手に持って居たお湯が入った湯桶も咄嗟に落としてしまい、小芭内の両手から離れた湯桶はそのまま重力に従って床に落下した。

 

音を鳴らして、湯桶は床に落下する。小芭内は急いで両眼を拭いてから、炭治郎の声がした方に顔を向けた。

 

「なっ!?……竈門……炭治郎っ!!?」

――何故こいつが男湯(此処)に居るっ!? 既に悲鳴嶼さん達と入ったばかりじゃなかったのかっ!!?

 

「はいっ! ちょっと理由(わけ)有りで俺は今、男湯(此処)に居まして……っ!」

 

炭治郎が当惑する小芭内に自身が男湯に居る理由を話すと、唐突に息を呑んで両眼を見開いた。

 

「伊黒さん、そのお口は……っ?」

 

炭治郎は小芭内の斬り裂かれた口元を見て、心配する様な声色で小芭内に尋ねた。

 

「「っ!」」

 

炭治郎の指摘を聞いて、小芭内は即座に口元を隠した。蕪丸も微温湯が入った湯桶から脱出して、定位置である小芭内の頸回りに巻き付いた。

 

「っっ!!……っっっ!!!」

 

小芭内は其処で漸く、想い人である蜜璃にすらひた隠しにしていた素顔を、よりにもよって大嫌いな炭治郎に見られてしまった事に気付いた。

 

 

 

ブチッ!!!

 

 

 

小芭内は愈史郎の時を凌駕する、それこそ岩すら溶かす程の怒りが心の奥底から湧き出るのを感じ取った。そして小芭内の脳裏では、何かが千切れた様な恐ろしい幻聴を耳が聞こえていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「がっ!!!?」

 

炭治郎はいきなり左頬に強い熱を感じると、そのまま床に叩き付けられていた。

 

床に叩き付けられた勢いで、背中に強い衝撃と苦痛が襲って来た。更に肺に溜まっていた空気が、一度に排出された。

 

「グァッ!……ぁあっ!!?」

 

炭治郎は背中の次に、今度は頸から強い圧迫感を感じていた。

 

何故炭治郎がその様な強い圧迫感を頸から感じているのかと言うと、それは小芭内が両手で炭治郎の頸を絞めていたからだ。

 

炭治郎が左頬に強い熱と背中から強い衝撃と苦痛を感じたのも、小芭内に殴り飛ばされて床に押し倒されたからであった。

 

「きっ、さまっ!?……貴様っ!! よくもっ、見たなっ! 俺のこのっ……醜い素顔をっ……っ!!」

 

「っ!?」

 

呼吸もままならない息苦しい状況に耐え、小芭内の表情を見てみると両眼は血走っていた。更には炭治郎の鼻腔が火傷しかねない程に、憤怒していたのである。

 

「いっ!?……いぐろ、さ……っっ!」

 

そんな激昂状態の小芭内を、炭治郎は必死で制止させようとした。

 

しかし炭治郎は口で止める様に言いたくても、小芭内に頸を絞められているのでそれは不可能だった。

 

其処で炭治郎は生存本能に従って、小芭内の両手を頸から遠避けるべく両腕を掴んで引き剥がそうとしていた。

 

互いに持っている膂力を比較すれば、本来なら炭治郎の方が単純な力では上である。

 

その事実があるにも関わらず、炭治郎は小芭内を引き剥がす事が出来なかった。炭治郎が小芭内に力負けした要因は二つある。

 

一つ目の要因は小芭内が怒り狂っていた事で、火事場の馬鹿力に等しいものが働いて本来より力が出ていた事だ。

 

そして二つ目の要因は、炭治郎が単純に力を発揮出来ていなかった事であった。

 

理由としては飲酒をした事で、出せる力が本来より弱くなっていたのである。

決して飲酒量は多かった訳では無く、酔っていた訳でも無かったのだが、その僅かな要因が大きな結果に繋がっていた。

 

その為に炭治郎は小芭内を引き剥がせず手首辺りを掴む事しか出来なかったので、意識が少しずつ薄れて行った。

 

――拙いっ……このままだと意識が……っっ。

 

炭治郎は自身の意識が薄れて行くのを感じて、焦燥感に駆られる。そんな危機的状況をある意味、実に意外な存在に救われる事になる。

 

「シャ――っ!……シャ――っっ!!」

 

「「!!」」

 

小芭内の頸元に巻き付いていた鏑丸が、炭治郎の頸を絞めている右手首にパクっと噛み付いたのだ。

 

「なぁっ!?……鏑丸っ!?」

 

痛みを感じた小芭内は鏑丸の行動に驚くと同時に、両手から力が緩んで行った。

 

「っ!……はぁっ!……はぁっ!!」

 

炭治郎は小芭内の力が緩んだ隙に、急いで呼吸を整える。

 

「……っっ!」

 

呼吸を整えた炭治郎は、再び小芭内を引き剥がすべく力を込める。

 

其処へ炭治郎にとっても小芭内にとっても、そして鏑丸にとっても想定外の事態が発生する。

 

「炭治郎?……っ?」

 

炭治郎達の下へやって来たのは、白い湯浴みを腰に巻いている輝利哉であった。炭治郎達の状況を見て、輝利哉は呆然としていた。輝利哉は現況を即座には把握出来ていなかったのだ。

 

「「っ!?」」

 

「きっ……輝利哉様っ!?」

 

一方で、炭治郎と小芭内も驚いていた。特に小芭内の驚き様は、一際大きいものであった。

 

「?……っ!!?」

 

其処で漸く現況を把握した輝利哉の日本人形の如き美しい容貌に、青筋と共に憤怒の色が宿った。

 

「っっ!!」

 

輝利哉は小芭内を睨み付けると、歯を食いしばって右腕を思い切り振り上げた。

 

 

 

ドコッ!

 

 

 

「っっ!!?」

 

肉を叩く音と同時に、小芭内が身体を大きく反らした。輝利哉が振り上げた右手を振り下ろして、小芭内を殴り付けたからだ。とは言え八歳の子供の力では、身体を飛ばす程の力は無かった。

 

「炭治郎に何て事をするんだっ!? 今直ぐ離れろっ!!」

 

「なっ!?……ぁっ?!…………っっ。」

 

小芭内は輝利哉に殴られた事実を把握するのに、刹那とは言え時間の猶予が必要であった。そして現況を漸く理解すると、直ぐに馬乗り状態を解除して炭治郎の隣に移る。それから輝利哉に向かって両膝を床に付けてから、深々と頭を下げて土下座をした。

 

「どうしてっ、こんな酷い真似を……っっ!!」

 

小芭内を問い詰めようとした輝利哉だったが、此処で初めて目にした小芭内の素顔を思い出した。すると輝利哉の脳裏で浮かんでいた叱咤の言葉が全て、一瞬にして消滅した。

 

年齢不相応に聡明な輝利哉は、素顔を見られた小芭内が何故炭治郎に対してあの様な行動に出たのかを直ぐに察したからだ。

 

輝利哉からすれば小芭内が犯した、炭治郎を傷付けたという事そのものは許せない愚行だ。

 

非は明らかに小芭内にあり炭治郎には一切無いのだが、輝利哉は小芭内が炭治郎に激昂した理由を察して、一方的にその非を責める事は出来なかった。

 

「っ……輝利哉様っ、お見苦しい所をお見せしてしまいっ……誠に申し訳ございません……この罪の償いは、何れ必ず……っっ!」

 

「!」

 

「あっ!? 伊黒さんっ!!」

 

小芭内はその痩躯な身体を震わせながら其処まで言うと、急いで男湯から足早に立ち去ろうとした。

足早に立ち去る小芭内に慌てて声を掛けた炭治郎だったが、小芭内が足を止める事は無い。

 

しかし炭治郎の呼び掛けを受けても止まらなかった小芭内は、炭治郎達の想像さえも超える事態によって足止めを喰らう羽目になる。

 

「炭治郎様っ!?」

 

「何かございましたかっ!?」

 

「「「「っ!!??」」」」

 

脱衣所から、鈴が鳴る様な可憐な声が複数聞こえて来た。その声の持ち主は、何と女湯に居た筈のひなき達であった。

 

「な、何故……皆様方が男湯(こんな所)に……」

 

「シャッ!?」

 

「姉上達、どうして……?」

 

男湯に居る筈の無い、寧ろ居てはならない美少女達の登場で、小芭内は元より輝利哉ばかりか鏑丸すら固まっていた。ひなき達は身体も髪も洗い終えていたのか、全身を余す事無く湯で濡らしていた。

 

因みにひなき達を認識した時点で輝利哉と小芭内は視線を頭ごと反らしていたので、二人()ひなき達を直視していない。

 

「どうしたんだい? そんなに慌てて……と言うか、皆して何で男湯に?」

 

唯一、炭治郎一人を除いて。

 

「間仕切り越しから炭治郎様が苦しんでいる声と、伊黒様と……輝利哉兄様が珍しく怒る声を聞いたから思わず……。」

 

「これは只事では無いと判断して、心配して来てしまいました。」

 

炭治郎達の疑問に、くいなとかなたが答えた。

 

「そうなんだ……。皆、心配を掛けてごめんね?……その、さ……折角来てくれた所を悪いんだけど……早く湯浴みだけでも着てくれると助かるかな?」

 

「「「!!」」」

 

炭治郎が困った様子で、ひなき達にそう頼み込んだ。輝利哉達は顔を逸らしたまま、その言葉に反応する。

 

「「「「?」」」」

 

炭治郎が言った頼み事の内容を理解出来なかったひなき達であったが、肌寒さを感じて頭を下げた視線の先には、全裸状態の自分達の姿があった。

 

因みに湯浴みはひなき達が各々で、片手に持って居る状態で床に湯浴みを引き摺っていた。

 

「「「「…………」」」」

 

自分達の状態を知ってひなき達は、思わず固まってしまった。

 

男湯から聞こえて来る騒動を耳にして、炭治郎を心配するあまり湯浴みを着用する暇も無いまま全裸で男湯に突撃して来たのだ。

 

今となっては、来る道中の廊下で誰かに見られていないかすら、最早定かでは無かった。

 

ひなき達の新雪を連想させる白き肌が、赤茄子(トマト)の如く赤くなって行くのがはっきりと目に見えた。

 

「「「「%$@¥&❤♪#〆*☆!?!」」」」

 

次の瞬間、男湯にひなき達の声にならない悲鳴が響き渡ったのだった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「えっと……大丈夫?」

 

「……まだ大丈夫ではありません。」

 

炭治郎が心配そうに声を掛けると、くいなが絞り出す様に炭治郎の質問を否定した。

 

「あぅっ……。」

 

「恥ずかしい……ですっ。」

 

「~~~っっ。」

 

炭治郎の視線の先には、声にすらならない悲鳴を上げていたひなき達が居た。既に湯浴みをきちんと着用している。

 

あの後、冷静さを取り戻したひなき達は女湯に戻ろうとしたが、湯浴みがあるとは言え実質半裸状態で女湯に戻るのは些か億劫であった。

 

男湯に来れたのも炭治郎の為であったから出来た事で、いざ自分達の為となると足が竦んだ。

 

するとくいなが赤面したまま、恥ずかしそうにしながらも炭治郎にある事を望んで提案した。

 

「あの、折角ですから……もうこのまま炭治郎様と、御一緒してもよろしいでしょうか?」

 

「!!?」

 

くいなのお願いを聞いて、輝利哉達は両眼を見開いて驚愕した。其処へ炭治郎が自身の意見を述べた。

 

「……このまま帰らせるのも可哀そうだし、一緒に過ごそうか。」

 

炭治郎の鶴の一声で、ひなき達は炭治郎と混浴する事となった。この瞬間、ひなき達が歓喜したと言うのは、最早言うまでも無かった。

 

――しのぶ達が知ったら、どう思うだろうね?……考えない方が良さそうだ。

 

輝利哉は炭治郎の意見に押される形でなし崩し的に賛成したが、炭治郎を愛するしのぶ達の反応を想像して一瞬全身を震わせた。

 

「……」

 

因みに男湯から離脱しようとした小芭内だったが、輝利哉に制止された。

 

「小芭内。まだ温泉に入っていないよね?」

 

「……はっ。しかし、俺が居るのも無粋ですから……。」

 

小芭内はそう言って足早に去ろうとするが、輝利哉は聞く耳を持たない。

 

「私達に気を遣わないで、一緒に入って行きなよ……嫌なら、其処まで強制はしないけど。」

 

「……御意っ。輝利哉様の御言葉に甘えて、残らせて頂きます。」

 

輝利哉の誘いを無碍に断る事など出来ず、小芭内は不承不承ながらも男湯に残留する事を選んだ。

 

「「「「…………」」」」

 

炭治郎と図らずとも混浴する事が出来たひなき達。

 

入浴前は余裕すら感じる事が出来ていたのだが、いざ実行出来たら心臓が破裂するのではと思う程に高鳴って緊張感を増大させていた。

 

幸い、身体の方は女湯で丁度洗い終えていたので、再び想い人である炭治郎の眼前で全裸姿にならずに済んだのは幸運な事であった。

 

炭治郎も先刻までは行冥達と共に入浴していたので、ささっと身体にお湯だけ流し終わらせていた。因みに小芭内は炭治郎と輝利哉が男湯に入るまでには、身体を洗い終えていた。

 

唯一出遅れていたのは、輝利哉だけだった。炭治郎は輝利哉の髪と身体を洗おうのを手伝おうとしたが、其処は輝利哉が断った。

 

「炭治郎は姉上達を慰めてあげて。」

 

輝利哉は正直に言えば、炭治郎に身体を洗って貰いたかった。しかし今は自分よりもひなき達を立ち直らせるのが先だと、輝利哉はそう言って炭治郎から身体を洗って貰う事を諦めたのだ。

 

――きっと、また機会はある……無いと嫌だよ、炭治郎。

 

鬼殺隊では昨日会って別れた仲間が、その日を境に今生の別れになる事は多い。しかしそれでも炭治郎と再会出来る事を、心から願い祈りながら身体と髪を洗って行った。

 

輝利哉を置いて先に温泉に入った炭治郎達。小芭内は何も言わず一番端に、鏑丸と共に居た。

 

「「「「……」」」」

 

温泉に入ってから、ひなき達は互いに視線を交える。ひなき達は何も言わず、以心伝心した様子で互いに頷いた後、長女のひなきが一歩前に出て炭治郎に近付いた。

 

「……炭治郎様。」

 

「何だい? ひなきちゃん。」

 

赤面しているひなきが、炭治郎の名前を呼ぶ。ひなきのその表情には、ある種の悲壮感が見て取れた。

 

「私達の全裸(はだか)を、その……ごっ、御覧になられましたかっ!?」

 

「「「!」」」

 

ひなきは少し声を張りながら、炭治郎に恥ずかしそうに尋ねた。普段の長女としての余裕のある態度など、最早何処にも見当たらなかった。

 

にちか達はひなきの質問内容に驚きながらも、気になるのか一斉に炭治郎に視線を移した。

 

「!……うん、見たよ。」

 

「「「「!」」」」

 

炭治郎は質問の内容に驚きながらも、特に気にする事無く平然と答えた。炭治郎とは対照的にひなき達は炭治郎に全裸を見られた事実を理解して、益々顔を赤く紅潮させた。かなたに至っては、今にも失神しそうである。

 

其処へ炭治郎が、ひなき達に思わぬ追い打ちを掛ける失言を言い放ってしまう。

 

「まぁ、その……そんなに気にしなくても、良いんじゃないかな? 皆はまだ子供なんだからさ」

 

「「「「!!!」」」」

 

炭治郎は何と、ひなき達に気にするなと言ったのだ。それだけならばまだ良い。しかし、子供である事を理由にしたのは拙かった。

 

「「「「……」」」」

 

「?……あれ?」

 

炭治郎の失言を聞いて、ひなき達は思わず身体を震わせる。炭治郎はそんなひなき達から怒りの匂いを嗅ぎ取って、困惑する様な声を上げた。

 

「おい……。」

 

「シャ――ッ。」

 

炭治郎達の話している内容が聞こえていたのか、端で静かにしていた小芭内が思わずツッコミを入れた。鏑丸も呆れながら、炭治郎を見ていた。

 

「気にするに決まっていますっ!!」

 

『!』

 

すると身体を震わせていたかなたが、大声を出して炭治郎の言葉を否定した。炭治郎達は驚きながら、かなたに視線を向ける。

 

其処には赤面したまま涙目状態で、炭治郎を上目遣いで睨み付けるかなたが居た。

 

「た、たとえ私が子供であろうと、乙女の全裸(はだか)を見たのですっ!!……責任っ、取って下さいましっっ!!」

 

『!!!』

 

叫ぶ様にそう、炭治郎にかなたは言い放った。言い放った瞬間、男湯は静寂に包まれた。

 

『…………(ジー)』

 

ねちっこいとも刺す様なとも表現出来る、そんな視線が三方向から炭治郎に真っ直ぐ注がれた。

 

「うぅっ……。」

 

炭治郎はそんなかなた達の視線を受けて、困った様子で声を漏らした。しかしだからといってかなたの言葉を適当に流そうとする程、炭治郎は適当な男でも無かった。

 

「分かった。責任は取る。」

 

意を決した炭治郎は、かなたに自身の言葉を告げる。

 

『!』

 

炭治郎が断言する様にそう言ったのを聞いて、かなたは勿論、ひなき達も僅かながらの緊張と大きな期待感を抱いた。

 

「かなたちゃん達のお願いを、一つだけ何でも聞くよ。俺に出来る範囲で、と言う条件付きだけど。」

 

『!!』

 

炭治郎が口にした責任を取る方法を聞いて、ひなき達は両眼を見開いた。

 

――っっ……ちょっと思ってた結果とは違うけど……。

 

かなたは望み通りの結果とは行かなかった事に心底残念そうにしながらも、折角の好機を放棄する様な愚かな真似はしなかった。

 

「で、でしたら……っ!」

 

かなたはそう言うと、唇を突き出して両眼を閉眼した。

 

『!』

 

病的なまでに鈍感でもなければ、かなたが何を望んでいるかは察する事が出来る筈だ。かなたの行動そのものが、口に出さずとも望みを雄弁に物語っている。

 

「……」

 

当然の話ではあったが、かなたが何を望んでいるかは炭治郎も察している。と言うよりしのぶ達と毎日行っている事であり、今日に至ってはかなたからされている事だ。

 

これで分からなければ炭治郎はしのぶか珠世辺りに、自身の頭を診察して貰う必要があったに違いない。

 

「かなたちゃん。」

 

「っ!?」

 

『!!?』

 

炭治郎はかなたの名前を優しく呼ぶと、かなたの小さな体躯を包み込む様に抱き締めた。

 

先刻(さっき)はごめんね? 心配してくれてありがとう。」

 

炭治郎はかなたの耳元に囁く様にそう感謝の言葉を口にすると、優しく触れる程度に右頬に唇を落とした。

 

「❤!!」

 

『!!?』

 

かなたは炭治郎の唇の感触を感じて、益々赤面して硬直した。いざ炭治郎からされたら、想像以上の衝撃を受けてしまった様だ。もしこれが唇であったなら、かなたは失神してしまっていたかもしれなかった。

 

「……かなたちゃん? 大丈夫?」

 

「……はぅっ❤」

 

炭治郎が抱擁を解いて無反応なかなたを心配して声を掛けると、かなたはほんの僅かながらも年齢不相応な色気のある声を漏らして炭治郎の鍛えられた胸板に凭れかかった。

 

「❤」

 

かなたは只管嬉しそうに笑みを零しながら、炭治郎に強く抱き着いて何度も頬をスリスリと擦り付けていた。嬉しい匂いと幸せな匂いを全身から出しているかなたを見て、炭治郎は拒否する事無く好きにさせた。

 

――こんな幼い女の子に、俺から口付け(キス)をするのは流石に憚られるからなぁ……かなたちゃんも、これで満足してくれて良かったよ。

 

炭治郎は心中でそう思いながら、かなたが喜んでくれている現状に安堵しつつ、かなたの頭を優しく撫でた。

 

「あらあらっ。」

 

「かなた、幸せそう……。」

 

ひなきとにちかは、炭治郎への恋心を脇に置いてかなたの様子を微笑ましく見ていた。

 

「かなたっ! 長いわよっ!!……炭治郎様っ! 次は私っ! 私もっ!!」

 

しかし、くいなは違った。羨望の眼差しをかなたに向けて、炭治郎に同様の行為を熱望した。

 

「くいなっ!」

 

「そんなにがっついたら、炭治郎様が御迷惑ですよっ。」

 

そんな積極的なくいなに、ひなきとにちかが見兼ねて注意する。

 

「うっ。」

 

姉二人に注意されたくいなは冷や水を掛けられたと内心で思いながらも、注意された内容は間違っても居ないので異議など唱えず大人しく沈黙した。

 

「俺は別に気にしてないから、大丈夫だよ……でもかなたちゃん、もう良いかな?」

 

「はいっ。ありがとうございました。炭治郎様。」

 

かなたは高揚感と満足感を味わいながら、されど少しばかり名残惜しそうに炭治郎との抱擁を解いて離れて行った。

 

「でしたら炭治郎様。今度は私がして頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「では、ひなき姉様の次は私で。」

 

「なっ!?」

 

すると間髪入れずに、ひなきとにちかは炭治郎にかなたと同等の待遇を希望した。ひなき達の予想外の行動に、くいなは面食らう。

 

「えっと……(チラ)」

 

炭治郎は気になる様子で、くいなに視線を向ける。先に要望していたくいなを除いてひなき達を優先すれば、今度こそくいなが癇癪を起こすと心配したのだ。

 

「うぅっ!……もう結構でございます。私は最後で良いですからっ!!」

 

くいなが拗ねる様にそう叫ぶと、ぷいっと顔を反らしてしまった。そんなくいなの態度を見て、炭治郎は益々困り果ててしまう。

 

――ちょっと、意地悪をし過ぎたかしら?

 

――でもこれでやっぱり良いわってくいなに譲ったら、もっと拗らせると思いますよ。姉様。

 

ひなきは反省する様にそう小さく口にすると、にちかがこのまま行くべきだと助言した。

 

「……炭治郎様。私とにちかは、一緒にお願い致します。」

 

炭治郎に頭を下げながら、ひなきがそう言うとにちかも少し遅れながらひなきと同様に頭を下げた。

そんな真面目な表情を浮かべる二人に、炭治郎は少し戸惑いながらも承諾した。

 

「え?……うん、分かった……けどその前に、一つだけ聞いても良いかな?」

 

「?……はい、なんでしょうか?」

 

炭治郎が何を自分に聞くのかと思いながら、ひなきは炭治郎からの質問を待った。

 

「ひなきちゃんとにちかちゃん、それにくいなちゃんもそうだけど……どうして俺の事を好きになってくれたの? 三人の気持ちは勿論、凄く嬉しい。けど……かなたちゃんは輝利哉君と一緒に俺と藤襲山で過ごした事はあっても、三人とは手紙でしかやり取りをした事が無いよね?」

 

「「「!!!」」」

 

炭治郎は何故ひなき達三人が、自分の事を其処まで好意的に思ってくれるのか不思議であった。その為、つい気になってその理由を尋ねたのだ。

 

「……そうですね。確かに炭治郎様が疑問に思われても、それは致し方ございません。現に私達が抱いている炭治郎様への想いもきっとかなたが抱いているもの程、大きくも無ければ深くも無いでしょう。」

 

「「!!」」

 

「「!!……っ。」」

 

ひなきは取り繕う真似などせず、かなたに想いの大きさでも深さでも負けている事を正直に話したのだ。

 

このひなきの発言を聞いて、炭治郎とかなたは驚きを隠せない。にちかとくいなも驚いていたが、事実なのか異議を唱える真似はしなかった。

 

「ですが……これだけははっきりと、炭治郎様に申し上げられます。」

 

「っ!……何だい?」

 

ひなきは一度深呼吸をすると、炭治郎に向かって断言した。

 

「これまでの御手紙でのやり取りと、先刻(さき)の緊急柱合会議を経て私の……私達の心の奥底には確かに炭治郎様が好きだと言う想いが宿っているのです。たとえ現在(いま)はかなたが抱いている想いの大きさに比べれば、蠟燭の火の如き小さいものであっても……これから大きく深く育んで行きたいと、そう切に思っております。」

 

「!!」

 

ひなきは両頬を赤く紅潮させながらそう断言すると、炭治郎の右手を掴んで両手でぎゅっと握り締めた。

 

「ひなき姉様の仰る通りです……それに私も炭治郎様に一度、お伝えしたではございませんか。『もっともっと貴方様の事を、私達に教えて下さいませんか?』と。」

 

にちかもひなきの言った内容に賛同すると、空いている炭治郎の左手をひなきと同様に両手でぎゅっと握り締めた。

 

「……私の事も、もっと知って下さい。御教えしたい事も、御話ししたい事も……沢山あるのですから……っ❤」

 

笑みを浮かべながらにちかはそう言ったが、流石に羞恥心があるのか両頬を紅潮させていた。

 

「……私も、負けませんからっ。」

 

そんなひなきとにちかの言動に、くいなは嫉妬心を燃やしながら睨み付けていた。

 

「……うぅ~~っ。最初は私を応援してくれるって、そう言っていたのに……。」

 

かなたは現況に反発しながら、小さく悪態を吐いていた。しかしその悪態はしっかりとひなき達の耳に入ると、クスクスと可笑しそうにひなきとにちかは笑った。

 

「かなた、ごめんなさいね。確かに最初は面白そうって、そう思って応援していたのだけど……。」

 

「かなたが惚れた殿方なら間違いないし……それにひなき姉様も仰ってましたけど、炭治郎様は私達の想像以上に素敵な殿方だったんですもの。好きにならない訳無いじゃない。」

 

にちかは両頬を紅潮したまま、凭れ掛かる様に炭治郎の胸元に頭を寄せた。

 

「……」

――嗚呼、此処まで言われたら……ちゃんと一人の女の子として向き合わないと失礼だよなぁ。

 

炭治郎は心中で強くそう思うと、覚悟を決めた様子でにちかを抱き締めた。そしてひなきもそのまま、自身の胸元へ抱き寄せる。

 

「「!!

 

「ひなきちゃん。にちかちゃんも、俺の為にありがとう。」

 

「「❤!」」

 

炭治郎は感謝しながら、ひなきとにちかを抱き締めた。

一頻りそうやって過ごした後、炭治郎は抱擁を解いて二人の耳元へ囁いた。

 

「余計な心配を掛けて、二人共ごめんね?」

 

炭治郎はそう言ってひなき達に囁くと、それぞれの頬に唇を落とした。

 

「「❤!!」」

 

炭治郎から頬に口付け(キス)を落とされたひなき達は、何を言わず炭治郎の胸板に顔を埋めながら抱き着いた。

 

「えっ?……二人共、大丈夫?」

 

口付け(キス)してから雰囲気が変わったひなきとにちかに、炭治郎は心配しながら声を掛けた。

 

「あの、その……すみません、想像以上に嬉しかったからっ……っ❤」

 

「炭治郎様ぁ❤……ありがとうございますっ❤」

 

「!!!」

 

ひなきとにちかは幸せそうな表情と声色を出しながら、顔をスリスリと擦り付けて余韻に浸っていた。

 

「うぅ~~っ。」

 

そんな炭治郎達の様子を見て、かなたの時以上に嫉妬心を燃やしながらくいなは羨望の眼差しを向けていた。

 

「……正直に言えば、もっと堪能したいのだけれど……。」

 

「これ以上くいなを待たせたら、悪いですものね。」

 

妹のくいなの為に炭治郎に礼を述べてから、ゆっくりと名残惜しそうにしながらも炭治郎から離れて行った。

 

「炭治郎様っ!❤」

 

くいなは姉二人が炭治郎との抱擁を解いて離れた瞬間、炭治郎に向かって飛び込む様に抱き着いた。

 

『!』

 

「おっと。」

 

くいなが動いた事で、温泉の中で波が起こった。炭治郎は少しも均等(バランス)を崩す事無く、くいなを抱き締めた。

 

「!……炭治郎様、私は左頬にして下さいませんか?」

 

「うん、良いよ。……くいなちゃん。俺を心配して駆け付けて来てくれて、嬉しかったよ。ありがとう。」

 

「❤!!」

 

炭治郎はかなたの時と同様、くいなに感謝の耳元に囁く様にそう感謝の言葉を口にしてから優しく触れる程度に左頬に唇を近付けて行く。しかし、此処からくいなを除く全員に取って想定外の事態に発展する。

 

「っ。」

 

「んっ!!?」

 

『!!?』

 

炭治郎がくいなの左頬に唇を落とそうとした瞬間、くいなが顔を動かしたのだ。左に向かって顔を動かした為、炭治郎はくいなの唇に向かって口付け(キス)をする事になったのである。

 

――やった❤

 

くいなは自身が脳裏で描いていた理想が思い通りに実現した事に、心中でほくそ笑んだ。左頬を指定したのも、顔を動かして外れてしまう懸念を無くす為であった。

 

妹のかなたがなけなしの勇気を出して炭治郎と口付け(キス)を行い、姉のひなきとにちかは二人揃って頬にとは言え口付け(キス)をする事に成功している。

 

自分だけが置いてけぼりを喰らっている現状に、くいなは大いに不満を抱いていたのだ。

 

しかし炭治郎がかなたに行った返礼を見て、くいなは咄嗟にこの策を思い付き、見事に実現して見せたのである。

 

「んっ❤……」

 

炭治郎の頸に両手を回して炭治郎が離れない様にしながら、くいなはがっちりと唇を押し付けて炭治郎との口付け(キス)をしっかりと堪能する。

 

「……ぷはっ❤」

 

漸く満足したのか、くいなは炭治郎から唇を離し両腕を解放して口付け(キス)を解いた。その際に銀色の細い糸が二人の唇の間に出来たが、視認したと同時に消滅した。

 

「くいなちゃん……。」

 

「私だけ、炭治郎様と口付けをしてませんでしたから……っ❤」

 

大胆且つ積極的な行動を実行されて驚いている炭治郎に、くいなはしれっと口付け(キス)をした理由を口にした。両頬を紅潮させながらも、勝ち誇った笑みを浮かべている。

 

くいなはしてやったりと言わんばかりに、幸せそうな様子でその幼い身体を名一杯張って見せた。

 

「「「……」」」

――その手があったぁっ!?……っっ!!!

 

ひなきもにちかもかなたも、くいなの行動は目から鱗が落ちる思いであった。しかしそう思ったのも束の間、悔し気に唇を噛んだ。

 

もし再び好機が訪れたとしても、それはくいなの二番煎じでしかない。そして炭治郎もまた、それに引っかかるとは思えなかった。

 

「私達はまだ、炭治郎様から()()して頂いていないのに……。」

 

「くいな。流石に狡くありませんか?」

 

唇と唇を合わせる口付け(キス)が未経験なひなきとにちかは、羨ましそうに半眼でくいなを睨み付けた。

 

「くぅぅっ!……っっっ。」

 

しかしそんなひなき達以上にくいなの行動を見て、最も苛立っていたのはかなたであった。

 

「かなたちゃん……その、落ち着いて……。」

 

炭治郎は困り果てながら、かなたを宥めようとする。

 

「炭治郎様っ……っ。」

 

一方で炭治郎に正面から向き合うと、半眼視しながらかなたは肝の据わった声を上げた。かなたからは、明らかに嫉妬と憤怒の匂いが出ていた。

 

「っ……炭治郎様っ!」

 

「!」

 

かなたは一度深呼吸をすると、炭治郎の名前を呼びながら炭治郎に勢い良く抱き着いた。

 

「かなたちゃんっ!?」

 

動揺する炭治郎に構わず、かなたは炭治郎の両手に肩を置いて見詰め合う。

 

「っっ……消毒しますっ!!」

 

『!!』

 

互いの瞳に自身の顔が鏡の如く映るのを一瞬だけ見詰め合った後、今度はかなたが勢い良く顔を炭治郎に近付けて行った。

 

 

 

ガチコンッ!!!

 

 

 

『!!!?』

 

「「~~~~~~!?!?!?」」

 

次の瞬間、固い物同士が激突した様な鈍い音が、温泉内に響き渡った。

 

かなたはくいなとの口付け(キス)を上書きしようとしたのだが、勢い余って歯と歯をぶつけてしまったのだ。

 

嫉妬と憤怒に加え、羞恥心に背中を押すばかりか突き飛ばされる形で起きた出来事であった。

 

互いの歯が折れる様な事態にはならなかった事が不幸中の幸いであったが、火花が散り脳が一瞬揺れる様な感覚と後から来る鈍痛に炭治郎とかなたは悶絶していた。

 

「かっ!?……かなた様っ!?」

 

「シャ――ッ。」

 

かなたを心配して、小芭内は動揺しながらかなたに声を掛けた。鏑丸も小芭内に続いて、かなたを心配する声を上げる。

 

「んなぁっ!? 二人共、大丈夫っ!!?」

 

ひなきは眼前で起きた想定外の出来事を見て、慌てた様子で炭治郎とかなたを心配した。

 

「あのね……何やってんの? かなた……。」

 

其処へ漸く身体と髪を洗い終えた輝利哉が、呆れた様子で声を掛けながら温泉へと入って来た。炭治郎とかなたが特に怪我をしていない様子を見て、心配するよりも起こった事態に呆れてしまっていた。

 

「うわぁ…………っっっ。」

 

くいなは炭治郎とかなたが受けた痛みを想像して、幻痛を感じてしまい思わず両手で口を覆う様に備えた。

 

「……~~~っ……~~~~っ。」

――だ、駄目よ。笑っちゃ駄目……プッ……ククククッ。

 

にちかだけは、温泉内で起こった出来事が面白かったのか、必死で声を押し殺して笑っていた。

 

これで怪我人が出て居れば笑っていられなかったが、炭治郎もかなたも痛い思いをしているだけなので、それが笑いを堪える事が出来なかった要因となっていた。

 

「に、にちかちゃん。笑うなんて酷いよ……本当に痛かったんだから……ウゥッ、イタタタッッ。」

 

「クスクスッ……炭治郎様、ごめんなさい。あまりにも面白かったものですから……。」

 

炭治郎は涙目になってかなたとぶつかった歯を撫でながら、笑いを堪え切れていないにちかに抗議した。

 

そんな炭治郎に対して、にちかは近付いてから涙腺に溜まった涙を指で掬いながら謝罪した。

 

「まだ痛みますか? 炭治郎様。」

 

「うん。まだジ~ンって感じの痛みがあるよ。」

 

炭治郎はそう言いながら、激突した歯を自身の指で撫でた。それを聞いて、かなたは申し訳ない気持ちを胸中に抱かざるを得なかった。

 

「フフッ……でしたら不肖、にちかめが炭治郎様のお気を紛らわせして御覧に入れましょう。」

 

『?』

 

にちかがそう言い終わると、即座に行動に移した。それは炭治郎達の理解が及ぶ前に実行に移すと言う、電光石火の如き速さであった。

 

 

 

チュッ❤

 

 

 

『!!!??』

 

にちかは炭治郎の両頬を優しく挟む様に添えると素早く、されどかなたと違って焦らず丁寧に唇を炭治郎の口元へと近付けて口付け(キス)を行ったのだ。

 

「っ!?」

 

「んっ❤……んんっ~~❤❤」

 

にちかは両眼を見開いて驚く炭治郎を熱い視線を向けながら確認すると、楽しそうに両眼を細めてから直ぐに閉眼して口付け(キス)を堪能する。

 

「ぷはっ❤……如何ですか? 炭治郎様。痛みこそ取れませんが、気は紛れましたでしょう?」

 

にちかはくいなの時以上に勝ち誇った笑みを浮かべながら、ある種の確信を持ちつつそう尋ねた。その笑みは僅か齢八歳の少女が持っているとは思えない程、艷やかで大人びたものであった。

 

「……うん。痛みもどっか行っちゃったよ。ありがとう、にちかちゃん。」

 

「うふふっ❤ どう致しまして、炭治郎様❤」

 

呆気に取られた様子で、炭治郎は半ば上の空状態のままにちかに答えた。にちかは楽しそうに笑いながら、そんな炭治郎の様子を見て微笑んでいた。

 

「に~ちぃ~かぁ~~?」

 

しかしそんなにちかを見て、ひなきは苛立っていた。普段の余裕のある態度は跡形も無く消滅し、青筋を浮かべながらひなきはにちかを睨み付けていた。

 

「ひなき姉様。私は炭治郎様の事を、第一に思って行動したのです……私の事など、二の次でございますよ。」

 

「ウフフフ……さらっと、嘘を吐かないで下さる?」

 

炭治郎が匂いを嗅いで真偽を確認するまでも無く、にちかの白々しい嘘を聞かされたひなきは益々青筋を濃くして怒っている。

 

「ひなきちゃん。」

 

「!」

 

炭治郎が冷や汗を掻きながら、ひなきの名前を呼ぶ。炭治郎に名前を呼ばれたひなきは、一時的に憤怒を抑えて我に返った。

 

するとひなきは一度だけ深呼吸をして呼吸を整えると、漸く怒りを完全に抑える事に成功し普段の冷静さを取り戻した。

 

「炭治郎様。妹のかなたとにちかが大変失礼な真似を致してしまい、誠に申し訳ございませんでした。」

 

「!」

 

ひなきが妹二人の行いに対して、炭治郎に頭を下げて謝罪した。

 

「全然気にしてないから、大丈夫だよ。」

 

「炭治郎様、ありがとうございます。」

 

炭治郎の返事を聞いて、ひなきは感謝の言葉と共に再び頭を下げた。

 

――はぁ……かなただけだったのに、にちかにもくいなにも先を越されちゃった……三人共、良いなぁ。でも此処に来て炭治郎様に我儘なんて言ったら迷惑だし、そうする訳には行かないわよね。私は長女なのだから、我慢しなくっちゃ……っっ。

 

普段通りの笑みを浮かべているひなきであったが、心中では溢れ出んばかりの羨望の念と嫉妬心で埋め尽くされていた。

 

「……」

――ひなきちゃんから凄い嫉妬と羨望の匂いがする……でも此処で俺が何かやったら、また面倒な事が起きると思うと……。

 

炭治郎はひなきの様子を匂いで勘付いていたが、再び事を蒸し返すのを避けて、何か行動に移ろうと言う気にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分と良いご身分だな、竈門炭治郎。」

 

『!』

 

苦悩している炭治郎を他所に、ねちっこい声が男湯に響き渡った。鏑丸と共に温泉の片隅に居た、小芭内の声であった。




お待たせ致しました。

投稿するのに半月も掛かってしまいました。申し訳ございません。

二つの意味で禁忌を目撃した炭治郎君は、如何でしたでしょうか?

この通りは結構デリケートなので、念入りに確認と調整をしております。御了承下さい。

次回の更新ですが、一応今回と同様にその前に予告をお知らせするという形でお願い致します。宜しくお願い致します。
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