可能性は夢いっぱい、です。
「時代は変わったわね……」
「いきなりなんですか、提督」
書類を片手に呟いた榊原沙織に、香取はどこか訝しげに問いかける。その視線に、沙織は渋い表情で書類から視線を上げた。
「いや、私が新米の頃はこの建造は無理だったなってね」
「ああ。建造技術も日進月歩していますから」
海域で確保される――通称ドロップ艦――のみで入手可能であった艦娘も、技術の進歩によって建造できるようになっていた。この進歩は目覚ましく、沙織のような提督たちにとっては「あの苦労は何だったのか……?」そう思う事も多々あるのだという。
「それで? 彼女たちは今日は鎮守府海域だっけ?」
「はい」
「香取の目から見て、どうなの?」
沙織の確認に、香取はしばし考え込む。慎重であるのは、香取の美徳だ。決して過小評価はしないが、過大な評価はしない。期待とプレッシャーは、別物だからだ。
「ええ、今日にでも鎮守府正面海域を突破できるかと」
だからこそ、言い切った香取の評価は正確だった。
■□□■□□■
鎮守府正面海域――そのもっとも奥に、有馬艦隊は進んでいた。
「そっちに行ったわよ!」
軽巡ホ級による砲撃と叢雲の警告は同時だった。それに対して、雷は素早く反応した。
「そんな攻撃、当たんないわよ?」
前へ加速、その直後背後で大きな水柱が上がる。雷が12.7cm連装砲で反撃するも、軽巡ホ級に当たる直前に駆逐イ級が割り込んで盾となった。
「ああ、もう!」
「十分です! よく狙って、てー!」
本命に当たらなかったことを悔しがる雷に、その声と砲声が重なった。盾となった駆逐イ級に突き刺さる砲撃――海風の追撃に、駆逐イ級が爆発を起こし沈んでいく。
「六時方向、回り込んできます!」
「任された」
海風の声に、飛び出す影があった。長い黒髪を踊らせ、磯風の12.7cm連装砲が回り込もうとしていた駆逐イ級の横っ腹に突き刺さる! 鈍い爆発音、駆逐イ級が中破したそこへ――九六式艦戦が、その上空を取った。
撃ち込まれる機銃が駆逐イ級の装甲に穴を開け、内側から爆発させる!
「これで残るは親玉だけやで!」
軽空母龍驤の声と共に、叢雲が頷く。既に戦況は決まっている。ここで撤退する理由は、一つもなかった。
「ここからが、私の本番なのよ!」
その宣言から夜戦は始まり――有馬艦隊は、初めて鎮守府正面海域を突破した。
■□□■□□■
『――以上、報告終了。帰投するわ』
「うん、おつかれ」
通信機越しに叢雲に返し、有馬信乃は椅子にずるずると身を沈めていった。ふう、と安堵の息が自然とこぼれる。何度経験しても、待っているこの状況というのは心臓に悪かった。
『――それでいいのよ。むしろ、慣れる方が危険だわ』
沙織の言葉が、脳裏で思い出される。提督の大事な仕事の一つは、艦娘たちに撤退するか否かの判断を下すというのがある。
もう少しが命取り。艦娘たちにも轟沈の可能性はあるのだ。その判断をどこまで的確に下せるか? 提督の資質の大部分はそこにかかっていると言ってもいい。
「しかし、運がいいのか悪いのか……」
雷に海風、磯風、そして龍驤――言われるままに建造した艦娘たちのラインナップに、信乃は思い出す。沙織曰く、「引き運いいわね……」とのことだったが、何とも実感は沸かない。
「それよりも龍驤だよね……駆逐艦のみじゃなかったの?」
どうせならレア駆逐狙いましょう、レア駆逐――沙織のそんな鶴の一声で注ぎ込まれた資材が問題だったのか、龍驤が建造された時は正直焦ったものだ。
『軽空母、龍驤や。独特なシルエッ……どないしたん?』
あまりに焦ったのが顔に出たのだろう、龍驤にはそう怪訝な顔をされた。大本営の方に慌てて確認を取ったところ。
『あ、龍驤ならセーフで』
『誰が駆逐艦やねん!?』
意外にフレキシブルだね、大本営……と、信乃は思ったものの、ありがたくはあった。この初期に軽空母がいるのは、大きなアドバンテージだ。
『ん? 駆逐艦体型なら許される……? 大型建造で大鳳も許されるのでは……? 可能性が広がるわね……』
沙織は沙織で、何やら考え込んでいたが信乃にはわからない彼女なりの考えがあるのだろう。確かに装甲空母は戦力として頼もしいが、大型建造が出来るぐらいになったら戦艦ぐらいは建造させてほしいのだが……。
何にせよ、自分の艦隊の五人が一緒に出撃し、初めて鎮守府正面海域を突破できたことは喜ばしい限りだ。信乃は素直にそのことを喜びつつ、目の前の書類へと視線を落とす。
提督としての仕事は、むしろここからが本番だ。信乃は改めて書類と向かい合った。
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各艦隊に割り振られた施設は、艦隊の寮ごとに食堂以外は備え付けられている。ただ、大食堂のみは鎮守府で合同になっているのは、艦娘が食べる寮が尋常でないからであるが……。
「ふぅ、極楽極楽」
「年寄り臭いわよ、それ」
入渠兼浴場。湯船に使ってしみじみとこぼす龍驤に、叢雲は苦笑した。口にこそしないものの、疲れた体に染み込むようなお風呂の暖かさがたまらなかったのは確かだ。
窓の外に見えるのは、鎮守府の面した海だ。夜の海は常に警戒のためにライトで照らされ、時折「夜戦だ、夜戦ー!」と別の艦隊所属のどこかの軽巡が騒ぐ声が聞こえることがある……そんな声も、鎮守府ではよくある光景だった。
「でも、思った以上に広いですね」
「司令官がね! どうせ必要になるんだからって最初から拡張したんだって!」
海風の言葉に、髪の毛を洗っていた雷が答える。確かに入渠が最初から四つ開放されている艦隊というのは、稀な事態だ。もちろんただではなく、その分の皺寄せは別の所に向いたのだが……例えば、資材の支給とかだ。
ただ、初期艦以外の配属を少々遅らせたとしても先のことを見越して、という判断だろう。
「……それこそ、2つの入渠で回している艦隊もあるらしいからな。艦娘に快適に過ごしてもらいたい、というのが司令の考えなのだろう」
「なるほど……」
長い髪を洗い終えた磯風の言葉に、海風は感心したようにこぼす。そう考えれば、この有馬艦隊の寮の設備が充実しているというのも納得だ。
「その辺りの気遣いは、しっかりとするのよね、提督。口には出さないけど」
そう笑うのは、初期艦として一番付き合いの長い叢雲だ。優秀で気配りの出来る提督、というのは事実だ。
「その分、私たちも成果で恩返ししないと!」
「ああ、そうだな」
雷の張り切りように、磯波は微笑みながら頷く。少なくとも、艦娘である彼女たちの関係も良好と言えた。
「ま、そのあたりもおいおいやろ、おいおい。まずは一つ一つ、確実にこなしていかんとなぁ」
「次は南西諸島沖警備よね。そっちの資料も集めとかないと」
ゆたぁ、と全身を伸ばす龍驤の言葉に、叢雲が小さくこぼす。ここに信乃がいれば、ようやく艦隊らしくなって来たと感慨も一入だったろう。
第一歩目は順調に踏み出せた。だからこそ、慎重に次を――ただ、彼女たちがその踏み出した先が普通でないことを知るのは、後々になってからである……。
■□□■□□■
「は、あ……ん、く……んんぅ」
「ふふっ、今日はいつもより甘えてくるね」
有馬艦隊の提督室に、甘い声が響き渡る。提督の席には沙織が座り、その膝の上に本来の提督である信乃が座らされていた。足は広げられ、スカートはめくられ自分の手で持つことを強要される。下着を脱がされ、陰核を直接沙織に責め立てられた信乃は仔猫が母猫にすがるように体をこすりつけた。
「い、じわる……しないで、ひう……くだ、さい……はや、く……イ、きたい……で、す……っ」
もう、何度もイく寸前で止められていた。イきそうになれば焦らされ、落ち着いてきたらまた激しく責められて、の繰り返し。はしたないと思ってもお尻の穴まで愛液は垂れて、腰は勝手に動いてしまう。切なげな視線で見上げてくる信乃に、沙織は意地悪く笑みで返した。
「ふふ、もうちょっと待って。きっと、もうすぐ来るから」
「……え?」
「今日のMVPの娘を、呼んでおいてあげたの。きっと、もうすぐ――」
来るから、そう沙織が続けようとした時、ドアにノックの音がした。それだけで、信乃の目の前が一瞬真っ白になる。
心臓の鼓動がひどくうるさい。視界が霞む。頭が芯から痺れて、思考がまとまらない。
しばらく間が空いて、再びノックの音がする。その音に沙織をおどおどと見上げてしまった信乃は、じっと自分を見下ろす瞳に息を飲み――。
「……いい、よ……はいって……」
そうかすれた声で、招き入れてしまった……。
20日の12時まで、MVPが誰であったかのアンケートを取ろうと思います。
ふるってご参加ください!
同数がいたらどうするって? きっとダブルMVPだったんでしょうね(棒)
有馬艦隊の初鎮守府正面海域C突破のMVPは?
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叢雲
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雷
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海風
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磯風
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龍驤