奥沢美咲は悩んでいた。
最近自分が弦巻こころに対して抱く感情に対して、モヤモヤとしたものがあった。同性に対して抱くべきではない感情に一人思い悩む放課後に現れたのは松原花音と霊能学講師のオカルトハンター(自称)のエヌラス。
二人の“練習”に付き合うことになった美咲は、自分の性的嗜好に気づいて……?
――奥沢美咲は、悩んでいた。悩ましい事実に直面して頭を抱える。
こんなことなら考えなきゃよかった。こんなことなら自覚しなければよかった。
こんなことなら――気づかなければよかったのに。
「あ゛ぁ~~~~……!!」
机に突っ伏して、一人夕暮れの教室で呻く。嘆きに嘆いて、呻きに呻いて、苦しんで、悶えていた。どれだけ口から声を出しても、胸の中の葛藤が晴れることはない。
作りかけの羊毛フェルト。頼まれて作っていたものだが、上手くいかない。
集中力が続かなかった。何度やっても上手く形にならない。
顔を思い出すだけで、顔を思い浮かべるだけで――どうしても、顔が熱くなる。
自分の頭の中が一色に染まってしまう。
“――ねぇ美咲! お願いがあるのだけれど、いいかしら!”
いつものように、目を背けたくなるほどの眩しい笑顔で。
いつものように、悩み一つなさそうな快活な声で。
いつものように接してくる弦巻こころに対して。
いつからか――奥沢美咲は、胸に劣情を抱くようになっていた。
きめ細やかな金の髪も。
宝石のように輝く大きな金色の瞳も。
赤子のように綺麗な肌も。
豊かに育った胸も。
白く細い指だって、すらりとした長い足だって。
手で触れて、撫でて、食べてしまいたい衝動に駆られる。
「うぁ゛~~……」
まるでゾンビだ。生き血と肉に餓えたゾンビの腹を空かした声だ。
激しく自己嫌悪する。
まさか自分が、こんなことで思い悩むような事になるとは思わなかった。
(あたし、自分のことは普通だと思ってたのになぁ……)
周りと比べれば、全然目立たないし。地味だし。キグルミだし(?)。
まさか、
「…………はぁ」
手にした作りかけの羊毛フェルトを見つめる。まだまだ完成には程遠い。
黒一色の小さな塊。まるでダークマター。或いは焦げた塊。自分の汚れた心もきっとこんな風になっていくんだろうな、なんてことを他人事のようにぼんやりと美咲は考える。
放課後になっても教室に一人で残って羊毛フェルトを作っていたが、その様子を見に来た松原花音と、非常勤講師、担当学科「霊能学」のオカルトハンター(自称)であるエヌラスがうめき声を挙げている美咲を見て首を傾げていた。
「み、美咲ちゃん……どうしたの?」
「どうした美咲。具合悪いのか?」
「花音先輩に、エヌラスさん……」
「なんだ、その黒い毛玉?」
「あー、えっとですねぇ。これはその――」
こころから頼まれたもので、と口にしようとしてきらめく笑顔のこころを思い浮かべてしまう。喉元まで出てきていた言葉が詰まり、首から上が熱くなってくる。身体が火照り、胸の鼓動が跳ねた。
「~~~~、あ゛ぁ゛ー……あたしは最低な女だぁぁぁ……!!」
「ふぇぇ!? ど、どうしちゃったの美咲ちゃん!?」
「重症だな……なんか悩み事があるなら聞くぞ?」
「え!?」
「いや、「え!?」って驚かれても。これでもお前たちより大人だし、頼って良いんだぞ。まがりなりにも教師やってるわけだしな」
「でも、ちょっとこれはその……人にとても言えないような悩みって、いうか……」
赤面しながらどもる美咲に花音が疑問符を浮かべている。エヌラスはあまり踏み込まないほうがいいとすぐに判断したのか、言及しようとはしなかった。年頃の女の子の悩みに自分から踏み込むような事はしない。だが、花音は違った。
「え、ええと――美咲ちゃん! あのね、私じゃ頼りないかもしれないけど……! 同じバンドのメンバーだし、これでも先輩だから……力になれたら、いいなって……」
(いやいやいや、花音先輩のお気持ちは非常に嬉しいんですけれどねぇ! こんなの絶対言えないでしょ!?)
相談された方も困るだろう。手を握る花音から視線を外せば、エヌラスは腕を組んだまま美咲をジッと見ていた。まるで自分の心情を見透かされているような気分になって、若干の気まずさと居心地の悪さを感じる。なんとか話題を変えようとして、美咲が話を振る。
「あの、それで花音先輩とエヌラスさんはなにをしてたんですか?」
授業が終わってから、だいぶ時間が経つ。部活動で汗を流す生徒達だって帰り支度をしている頃だ。むしろそれだけの時間悩みに悩んで、趣味が手につかず進んでいないわけだが。
「俺は授業終わってから先生たちと会議。そんで図書室で軽く読書して巡回中」
「えっと、ええっと……ふぇぇ……――え、エヌラスさんと、一緒に見回りしてたんだ」
「???」
なにか、その。
花音先輩の様子がおかしい。確かに、引っ込み思案で気が弱くておどおどしているところはいつもと変わらないけれども。なにか引っ掛かる。顔も赤いし、いつもと距離が近い気がした。
(……もしかしてこれは、あたしもちょっと触れない方がよかったのでは?)
いつからこの二人がそういう関係になったのかは知らないし、触れないほうがいいデリケートな話題なのもある。いやでももしかしたら思い過ごしかもしれない。触らぬ神に祟りなし。
「で? 美咲。お前さっき、激しく自己嫌悪してたようだが……まさか、なんか良からぬことでも考えていたのか?」
「えっ!?」
思わず声が裏返る。
そうだ。この人の嗅覚を侮っていた。勘づかれないはずがない。
普段からどれだけ常軌を逸した環境に身を置いてきたのか忘れていた。
「あ、あ~……えっとぉ……そのー、ですね……?」
「……まぁいいや。で、さっきから手に持ってる黒い毛玉はなんなんだ?」
「これは、こころから頼まれたもので」
「羊毛フェルト、だよね……?」
でもなぜ真っ黒なのか、花音も思い当たらずに考えている。
「エヌラスさん作ってくれって言われて……」
「そうだったんだ……」
「? それがなんで、自己嫌悪に陥るんだ?」
美咲が天井を仰いだ。
(そ、そうくるかァ~~~~~~…………!!!!)
どうあっても言い逃れようがない状況に追い込まれた。
「あ゛ー……言わなきゃ、だめぇ……ですかね……?」
なんか今日のあたし、呻いてばっかりだな。――そんなことを美咲は考えていた。
「話したくないようなら無理には聞かない」
「でも、なんだか辛そうだし……」
「ん~~……!」
考えに考え抜いて。
悩みに悩み抜いて。
奥沢美咲の出した結論は――、こういう時は人生経験豊富な相手の助け舟に乗ろうという素直なものだった。
「実は……」
苦渋の決断の末に、美咲が悩みを打ち明ける。
その恋の悩みを聞いて、花音は顔を真っ赤にしながらしどろもどろになっていた。当然の反応にますます美咲が自己嫌悪に陥る。
しかし、エヌラスはその話を聞いても眉をひそめるだけで変化はなかった。大人の余裕、というやつだろうか。それが少し子供の自分達には羨ましく思えてならない。
「そ……そう、なんだ……美咲ちゃん、こころちゃんが……」
「あ、いやでもまだそうと決まったわけじゃないですし! ほら、なんか、その、もしかすると気の迷いである可能性もあるので」
まだそうと決まったわけではないと美咲は思いたかった。一通り打ち明けて、言葉にして胸のわだかまりが薄れたことを再認識してから――机に突っ伏す。
「うぅあー……あたし何してんだろー……泣きたくなってきたぁ……」
涙が溢れてくる。なんでこんな辱めを受けなければならないんだろうか。現実を受け止めきれない美咲は自分の無力さにぐったりと身体を投げ出していた。握っている黒い毛玉の羊毛フェルトを見つめながら。
「もうやだしにたい……ミッシェル、後は任せたよ……」
「ふぇぇぇっ!? み、美咲ちゃんしっかりしてぇ!」
「ふむ……要するに、自分が同性愛に目覚めたかもしれない、ということに激しく自己嫌悪しているということか」
「改めて口にされると、遺書を用意したくなりますね」
「別にそこまで思い悩むこともないと思うんだが」
「でも……だって……変、じゃありません……?」
美咲が顔を上げてエヌラスの顔を見れば、顎に手を当てて眉を寄せている。
「いや、別に。俺は否定しないし、特に軽蔑もしない」
「……いやいやいや恋愛に対して理解度高すぎません!?」
「? なんか変か? 異性を好きになるのが当然なら、同性を好きになる可能性だってゼロじゃないわけだろ? 人間として当然のことだと思うんだが。確率的に別におかしくない」
「あー、いやそうなんですけどぉー」
「なんだったら花音からも似たような相談されたしな」
「――――……ゑ?」
花音の顔を見れば、真っ赤になって俯いていた。
「さっき」
「さっき」
先程の出来事らしい。
「あの、ね……美咲ちゃん。実は私も……千聖ちゃんに、同じ気持ちだったんだ……それでエヌラスさんに思い切って相談してみて……」
(あー、それで距離が近かったのか……)
納得した。まずは距離感に慣れることから、人気のない放課後で練習ということか。
「そ、それで……ふぇぇ……あのね……屋上で、えっと……練習、してみたの……」
「――――」
練習? なんの? 顔を赤らめている花音の口から、次の瞬間、信じられない言葉を聞いた。
「キス、とかの……」
いや早すぎません? というかそういう生々しい話を聞きたくない。
「他にも――」
「え、他にも!? いやいいです、言わなくても!」
正直身内のそういう話を耳にして平常心を保てるほど精神力は鍛えられていない。
「そ――それでね美咲ちゃん! あの、この後も練習の続き、する予定なんだけど……一緒にどうかなって……」
「えっ、と。それってあたしが一緒でもいいやつなんですか?」
「美咲ちゃんも辛そうだから……いい、ですよね? エヌラスさん」
「俺はかまわないが。美咲はどうする?」
「あたしは――」
本当なら。普通なら、断るべきことなんだろう。
だけど、本当に今の自分が普通だと言えるのかいまいち自信が保てなくなってきた。それならばいっそのこと、経験豊富な相手に相談して解消したほうが良いはずだ。
「――迷惑じゃ、ありませんかね?」
「お前がこのまま我慢できずにこころに迷惑かけるよりかはマシじゃないか?」
「じゃあ、あの……程々にお願いします」
美咲と花音はエヌラスが借りているマンションの一室に招き入れられていた。家にはちゃんと帰りが遅くなると連絡してある。
リビングのソファーに腰を下ろして、身体を緊張で固くさせている二人にエヌラスは夕飯を買ってくると言って家を空けていた。女子高生二人を家に残して外出する辺り、無防備が過ぎる気がする。
落ち着かない様子で花音がリビングを見渡す。これといった特徴のない室内は、エヌラスが内装に興味がないことを示していた。調度品が高価な物が多いのは弦巻家が手を回したからであって、それがなければ殺風景な部屋だったことだろう。
日が落ちて、夜が訪れる。部屋の灯りを点けて、どれほど二人が待っただろう。時計の針の音がやけに大きく聞こえた。カチ、カチと規則正しい秒針とは裏腹に、胸の鼓動はやけに早鐘を打つ。
沈黙に耐えきれず、美咲が口を開いた。
「――あの、花音先輩。あたし達これから何をするんですか?」
「ふぇ……!?」
「あ、いや……変な意味じゃ、なくて……素朴な疑問っていうか……練習、としか聞いてないので……いまいち想像できなくて」
確かに、言われたとおり――自分達は、年頃とはいってもまだまだ子供だ。そういう大人の階段に足をかけただけに過ぎない。ただ、踏み出せないだけ。踏み込む勇気がないだけ。
それを見かねて、善意だけで手を差し出してくれる大人なんてどれくらいいるのだろう。それを考えてみると、自分達は贅沢が過ぎるほどの人に恵まれているのだと嫌でも思う。
――あの海外旅行にしたって、そうだった。
「え、えっと……お付き合いの、練習かなぁ……」
「……どんなのとか、わかりません?」
「ふぇ――」
花音が顔を赤くして、目を潤ませながら視線を逸らす。小動物のような態度に、美咲はなぜか自分がとても悪いことをしている気分になった。それが罪悪感なのか、それとも背徳感なのかは判断がつかない。
ただ、やけに。
胸の鼓動がうるさい。身体が熱くなってくる。
きっと、今。鏡を見たら、ひどい顔をしていると思う。
鍵を開ける音に身体を竦ませる二人だが、すぐに大荷物を持ってきたエヌラスがリビングに入ってきて胸を撫で下ろした。
「今帰った。って、どうした二人揃って固まって」
「え、あー……いやぁ、あははは……おかえりなさい」
「おかえりなさい、エヌラスさん。その、大荷物は……?」
「んー? まぁ、ちょっとした準備というかなんというか、必要なもの買い揃えてきた」
どこからそんなお金が出てくるのか甚だ疑問だが――多分深く考えちゃいけないことだと思う。美咲は言及しないことにした。
「ま、とにかくまずは飯にしよう。買ってきたから適当に食べてくれ」
「あー……そういうことなら、いただきます」
スーパーの惣菜や、カップ麺やお菓子やジュースと。ジャンクフードが目立つ。
「……身体に悪いですよ、こういうのばかり食べてると」
「仕方ないだろ、俺料理できないんだから。自慢じゃないが、他人に料理作ってもらわないと控えめに言って死ぬ」
「だったら材料買ってきてくれればあたしと花音先輩で晩ごはんぐらい作りましたけど……」
「そ、そうですよ……」
「客に料理させるとか家主としてダメだろ」
「面倒くさいなぁこの人!」
なんで普段は常識はずれな行動するのにこういう時はまともなのか。異世界では皆こうなのか? 美咲の疑問は、ビニール袋から覗いている雑貨で吹き飛んだ。
「……あー、のー? エヌラスさん、そっちのそれは?」
「ん? 後で使うんだが。食事中だから下げてた」
「すいません後でいいです」
「?」
花音はエヌラスがさりげなく自分の背後に隠したビニール袋の中身が気になるのか覗き込もうとしているものの、見えなくて諦める。
少なくともそれが、とても食事中には見せられないものであることに美咲は若干の不安を覚えながらも買ってきてもらった夕飯を口にした。やけ食いでもある。
夕食を終えてから、まずはシャワーを浴びて身体を洗うように、というエヌラスの言葉に美咲と花音は従った。
普段どういったシャンプーやボディソープを使っているかわからないが、とりあえず少々値の張る物を買ってきたと言っていた。ありがたく使わせてもらおうと受け取って、それが最近テレビで取り上げられた話題の品であることに美咲が目を丸くする。高校生にはちょっと手が出しづらいお値段の高級品だが、いいのだろうか。
身体を洗い終わってから、着替えをどうしようかと考えた二人がバスタオル一枚を身体に巻いたまま寝室に案内される。
二人が身体を洗っている間にベッドメイキングをしていたようだ。
何やら、そういった道具が枕元などに用意されているし、ちゃんと水分補給用の飲み物も準備万端だ。タオルも何枚か折りたたんで重ねられている。まるでこれからストレッチやスポーツでもするかのような用意周到さに驚かされていた。
「あの……」
部屋の照明も暗くされている。カーテンも閉め切られているが、見えないほどではない。
バスタオルを固く握りしめて緊張する美咲と花音が手を繋いでいた。
「これから、そのー……えっと……大人の階段、登るわけですよね? あたし、達が……」
「まぁ、花音からはそういう話で誘われたからな」
――マ? 美咲の視線による訴えに、おずおずと頷く。
「でも、なんかこの光景を見ると……その、どちらかと言うとスポーツとか、そういう感じに見えますけど」
「なら、さしずめ俺はセックスインストラクターってところだな。風呂入ってくる」
「セッ……」
しれっと言われるが、聞き慣れない言葉に美咲が顔を真っ赤にしていた。
二人でベッドに腰を下ろす。
手持ち無沙汰になり、ベッドに置かれた道具を見てみる。
見慣れないものばかりだ。知識として持っているが、現物をまじまじと手にして見ることはなかった。
スポーツドリンクに、多めのタオル。ローションに、避妊薬やコンドーム――それも少し多めに買ってきてくれたようだ。
「……なんかエヌラスさん、めちゃくちゃやる気満々じゃありません?」
「そ、そうかなぁ……? えっと、ほら。授業……だから」
(保健体育の実技とかちょっと聞いたことないんですけどね……)
「もしかして、美咲ちゃん。いや、だった……かなぁ。ごめんね、私のわがままに付き合わせちゃったりなんかして。も、もしね! 本当に嫌だったら、今からでもエヌラスさんに頼んで」
「大丈夫ですって。もうここまで来ちゃいましたし、今さら花音先輩だけ置いて帰るわけにもいきませんよ」
「でも……」
「むしろ、その……あたしなんかがあの人に相手してもらえるかなってちょっと不安で」
自分みたいに、何の変哲もない目立たない子も相手してくれる。声を掛けて、ちゃんと気にかけてくれていた。
それがちょっぴり、嬉しい。
シャワーを浴びて戻ってきたエヌラスは、腰にバスタオルを一枚だけ巻いていた。
改めて、半裸の姿を見るとうまく言葉が出てこない。
よくできた彫像みたいに鍛え抜かれた身体。まるで動く石膏像。傷跡だらけの身体に、肉体美という言葉は似合わない。これは戦場を渡り歩いてきた古強者の証だ。
「うし、待たせた。それじゃ早速始めるか」
「ふぇぇ……」
「あの、えと、じゃあ、その……よ、よろしくおねがいします」
「始める前にちゃんと下準備しておかないとな」
まずは避妊薬。ちゃんと二人に飲ませてから、エヌラスが余りを渡す。
次にコンドームの説明。用法や着用方法、男性用と女性用の違いなど。ちゃんと実物を用意して説明する辺り、本当に授業を受けている気分になってくる。女性用のゴムを二人に渡してから、エヌラスは手元に男性用のゴムを置いておく。
「あの、それ……使うん、ですか……?」
「ん? 無理にとは言わないが。ちゃんと意思確認してからだ――さて、それで」
一度区切り、わざとらしく小さく咳払いをする。
「花音、美咲。俺は最後までの流れを一通り教えるつもりでいるが、それが嫌な場合はちゃんと今言うように。俺も無理やりなんて真似はしたくないからな」
「ふぇぇ――あ、あの。私は……ちゃんと最後まで、教えてください」
花音がさりげなく美咲の手を握っていた。その手が少しだけ震えているのは、やはりどこか恐怖があるからだろう。縋るように繋がれた手を解けるはずもなく、美咲は頷いた。
「お邪魔じゃなければあたしもお願いします」
「美咲ちゃん……」
(いやぁ、こんな状況で一人だけ帰れるはずないし……それに折角だし、あたしもちょっと、興味がないわけじゃなかったし?)
むしろ千載一遇の機会に恵まれたということにしておこう。
「よし、わかった。さて、んじゃあ始めるか」
エヌラスがベッドに腰掛けると、僅かにフレームが軋んだ。それを合図にして、二人を手招きする。言い出しっぺの花音が近づいていくと、太ももに座り込んだ。
「軽いスキンシップから、少しずつ慣れていく感じでいくぞ。中にはいきなり押し倒して勢いで――なんていうのが好みなのもいるが」
「……ふぇ」
「花音はそういうのが好みなタイプみたいだな。ほら、美咲もこっちに来い」
「あ、はい……」
おずおずと近寄り、美咲も花音とは逆側に位置をとる。
初めて触れる男性の肌にドキドキしながらも、手で触れて確かめていた。左胸で淡く輝いている魔術刻印が気になって美咲が手を伸ばす。心臓の近くだからか、少しだけ早い鼓動を感じていた。
「エヌラスさんもドキドキしてるんですね」
「そりゃ当たり前だろ。落ち着いていられるかこんな状況」
花音が手を繋ぎ、何度も指先を触れ合わせている。指を絡めるようにして握ると、少しだけ呼吸を荒くしていた。
「エヌラスさんの手、おっきい……」
自分の頬に引き寄せて、手のひらに頬ずりをする花音は目を閉じて頭を預ける。
「花音とは学校で少し練習したもんな」
「……」
美咲も花音に続いて、エヌラスの右手と大きさを比べてたりしていた。指先をじっと見つめているうちに、これが後々自分の身体に触れてくる相手の手だと考えて――なんとも言えない感情が胸中で渦巻く。
「……はぷ」
不意に、指先を咥えてみる。それに少しエヌラスも驚いたのか、美咲と目が合った。
「…………~~、ごめんなさい」
「なんで謝る? ほら、美咲」
「ん、あふ……!」
指先で舌を弄られ、撫でられて美咲が少しだけ息を乱れさせる。それを見ていた花音が、絡めていた指先を解いて顔を近づけてきた。そのままエヌラスの頬にキスをする。身体を強張らせたままのぎこちない口づけに安心させるように頭を擦り寄せた。
(指、しゃぶるの……なんか、ちょっと、エッチな気分になってくる)
唾液が溢れてくる。指先に吸い付いて喉を鳴らして飲み込む。それだけで背中を震わせてしまう美咲も徐々にエヌラスに身体を預けてきた。
目の前で二人が短い口づけを繰り返す。その合間に、花音の小さな声が漏れていた。
「ん……んぅ……ふぇ、……っむ……ぁ、っふ……!」
「……花音先輩、すごくエッチな声出てますね」
「ん、ふぇ――!?」
「ご、ごめんなさい横から! 黙ってますね!?」
これじゃムードも雰囲気もへったくれもなくなってしまう。美咲が顔を赤くして黙ろうかと思っていたが、エヌラスに身体を引き寄せられる。
「まだちょっと固いな。もっと楽に構えていいんだぞ?」
「そ、そうは言われても難しくて……」
「ふむ」
美咲の言葉に小さく唸ると、花音を抱き寄せながらエヌラスが膝に置いた。
「ふえ……?」
「まぁ確かに難しい話だな。慣れろと言ってもすぐ慣れるわけじゃないし、こればっかりは数を重ねてもらうしかないな。そもそも相手に身体を委ねるっていうのは相応に危険が伴うわけだし。つまりは、リラックスしてくれってことなんだが」
「いやぁちょっと無理です……」
「無理ってことはない。こっちでやり方を変えるだけだ」
「どうするんですか?」
「身体に力が入らない状態にすればいいわけだしな。そういうわけで、まずは花音から。美咲は少しそこで見ててくれるか?」
「えっと、が……頑張るね、美咲ちゃん……」
ベッドに座り込んだ美咲の前で、花音の身体を隠していたバスタオルがほどかれる。露わになる身体に羞恥心が勝ったのか、咄嗟に胸と股間を手で隠してしまう花音に、エヌラスは肩に手を置いて後ろから抱きしめていた。
「ふぇぇ、ふぇぇぇぇ……」
顔を真っ赤にしながらも、なすがままの花音だったが、それではいけないと思ったのか、ゆっくりと隠していた手をずらしていく。そのままエヌラスに顔を向けて、小さく唇を突き出す。
「エヌラスさん……んぅ……」
「ちょっとやる気になったか? ほら、練習しただろ」
「は、はい……」
何度もキスを繰り返しているうちに体勢が辛くなってきたのか、花音が身体の向きを変えて首に手を回し、胸を押しつけるようにしてしがみつく。
美咲はそんな二人を見つめながら、自分の胸に手を当てていた。
(……やっぱ、花音先輩って肌キレイだなぁ)
身体を擦り寄せる花音が何度も息継ぎしながらもエヌラスから顔を離そうとしない。
花音の腰に手を回して抱き寄せると、足を開いて跨る形で落ち着く。
「ん……!」
「花音、舌出してくれるか?」
「えと……こう、れふか?」
小さな口を開けて、舌を出した花音にエヌラスが顔を近づける。そのまま舌先を触れ合わせる。驚きながらもそれを受け入れて、たどたどしくも絡ませていく。
その様子を横から眺めていた美咲とエヌラスの目が合った。花音に見えないところで手招きしてくる。
もっと近くで見るように促されて、熱に浮かされて近づいた。
「ふぇ……あ、ん……エヌラス、さん……! はぁ、む……んぅ、んっ。んっ……!」
「結構、ん……花音も積極的だな……」
唾液を絡みつかせ、喉を鳴らして飲み込む。花音が熱を帯びた吐息を口腔から漂わせながら舌を出してエヌラスの口を塞いだ。キスに夢中になっているものの、それを見ている美咲に気づいていないようだ。
顔を離せば、絡み合った唾液が糸を引く。それを惚けた表情で見つめる花音が、そこでようやく美咲の視線に気がついた。これ以上ないほど、耳まで真っ赤になっている。
顔を見ることもできずに俯くが、そこには腰に巻いたタオルがテントを張っていた。それを見て目を潤ませる花音はどうすることもできず、エヌラスの胸板に頭を預ける。
「ふぇぇ……は、はずかしい……」
「でも花音もだいぶリラックスしてきたな」
「んぅ……」
「その調子、その調子」
「ふぁ――」
頬を撫でれば、惚けた様子で花音が頭を擦り寄せてきた。
「……かわいい」
「なんか小動物手懐けてる気分になるな……」
両手で花音の頬を捕まえて撫で回す。それからエヌラスは持ち上げるように胸に触れた。だが、花音はそれよりも腰が落ち着かない。
座る場所に困っているような――その理由はすぐにわかった。
「エヌラスさん。おしりに……なにか当たって……」
腰に巻いたバスタオルを持ち上げるように勃起している。タオルを取り払えば、エヌラスの性器が花音の滑らかな曲線を描く身体にあてがわれていた。
「ふ、ふえぇぇ……!」
(うわぁ……初めて見るけど、結構、なんか……エグい、形してるんだ……反り返ってるし)
人並みの知識はあるとはいえ、実物を目の当たりにするのは初めての美咲は思わずまじまじと観察してしまう。しかし、それが花音のお尻を見つめることでもある。
「美咲も見てるばかりじゃ手持ち無沙汰だろうし、ちょっと触ってみるか?」
「あー、の……いいんですか?」
「あんまり強く握ったりするなよ。俺でも痛いものは痛いんだから」
「いやぁ、普段からあんな怪我してる人に言われても……」
でもせっかくなので。
美咲はエヌラスの厚意に甘えることにした。
「花音先輩、ちょっと失礼しますね……」
「んひゃあ!? み、美咲ちゃん……! えと、その、そんなに近くで見られたら恥ずかしいよぉ……! んぅ、おしり触られ……ふぇぇ……」
「あ、ごめんなさい……でもすべすべしてて、触り心地いいです……」
「えと、えっとぉ……ど、どういたしまして(?)……」
なにが? とは思いながらも、美咲の手は止まらない。
花音のお尻に挟まれるように当てられた男性器に触れる。指先でつつき、裏筋に指を当てて撫でてみると僅かに反応をみせた。
「おしり……熱いよぉ……」
「こ、これ……その、挿れるんですよね……すごく熱いんですけど、やけどしたりしませんよね」
「体温程度の肉の棒突っ込むわけだが、美咲達の中もそれくらいの温度だ。心配すんな」
「それはそうかもしれませんけど……」
目の前で花音のお尻が揺れる。身体が疼いて仕方ないのか、腰が忙しない。このままずっとお預けを食らっているのも可哀想だろうと思ったのか、エヌラスがベッドに置いていたペットボトルを手にする。
「花音がこのままじゃ我慢できそうにないし、ちょっと早いが本番の用意だ」
「――ふえぇ」
「というわけでローションの出番。俺はあんまり使わない方だが、これも勉強だ」
エヌラスにとっては、あくまでもこの状況を“授業”として捉えているようだ。それがちょっと安心でもあるが、美咲は少しだけ胸に引っ掛かるものがあった。
ああ、自分達はこの人にとっての“女”ではないんだな、と。
肌に優しい低刺激タイプ。膣に入っても大丈夫な粘度の低いローションを少量、手に取ってエヌラスがよく伸ばす。
「んじゃ、花音。触るぞ。いいか?」
「は、はい……どうぞ」
腕を後ろにして、身体を差し出す花音の肌にエヌラスが手のひらを当てて身体を撫でていく。胸に触れるだけで口から小さく嬌声を漏らす。胸全体にすり込み、先端の蕾も少しいじめるように指先で弄ぶとくすぐったそうに身体をよがらせる。そのまま脇腹に手を這わせていき、内太ももから秘部に触れた。
入り口を丹念に、優しく撫でる。花音の口から吐き出される息が段々と甘い声色になっていく。それを横から見ていた美咲ですら思わず生唾を飲み込んだ。
「ふぇ、んぅ……! ぁっ……ん、っ、ぅ……~~!」
「ちゃんと濡らしておかないと痛いからな。ちょっと辛抱してくれ、花音」
「は、はひ……!」
少しずつ、水音が激しくなっていく。最初は肌が擦れ合う音ばかりだったのが、徐々に徐々に蠱惑的な音が聞こえてくる。
ぴちゃ、と。その音がやけに耳に響く。花音の声も甘く、切ないものになっていた。
(花音先輩、すごく……なんていうのかな……女っぽい、ていうか……気持ちよさそうな顔)
「ん、ひぅ……エヌラスさん、そこ……! んぅ、んっ。ふぇ、ふゃ!」
とろりと糸を引く指先に、花音がますます身体を跳ねさせる。見れば、エヌラスが指先を花音に挿れていた。入り口を弄るように浅く出し入れを繰り返して、指を二本にして撫でる。
「はぁー、はぁー、はぁ……!」
「花音、どうだ?」
「ぁ……エヌラスさんの、指が……ん! 入ってきて、こそばゆいです……!」
「花音のココ、震えてるぞ。欲しがりさんなんだな」
「ふぇ――あの、えっと――私のここ、に……エヌラスさんの、お……おち……ん……挿れ」
「その前に、ちゃんとゴムは着ける。美咲にもちゃんと見えるようにしておかないとな」
「ふやぁ!?」
ベッドに仰向けに倒される花音に、エヌラスはコンドームの箱を開ける。個包装されたゴムが連結されており、五枚入り。そのうちの一つを切り取って、封を開ける。先端に余裕を持たせた薄くて丸いゴムの現物を見て花音が大きく息を吸い込んでいた。
きつく閉じられた足を開かせるように自分の身体を挟ませて、美咲を手招きする。
「美咲もそろそろバスタオル取ったらどうだ?」
「え、でも……見苦しくないですか、ね……あたし、そんなに自分の身体に自信ないんですけど」
「俺の身体見て同じこと言えるか?」
「じゃあ……脱ぎます、ね」
おずおずとバスタオルを外して、自身の裸体を晒す。花音に比べて胸の発育も、腰回りも平均的な身体を見てもエヌラスは特に落胆の色を見せなかった。
特徴的ではない身体を今すぐにでも隠してしまいたい。
自分の男根にコンドームを装着させて、相手の肌に擦りつける。ローションと愛液でしっかりとゴムを濡らしてから、花音の割れ目に先端をあてがう。
「ふぇ……! ふぇぇ……ま、まだですか……?」
「焦らない。焦らすようで悪いけどな、俺も気を遣ってるんだぞ」
「エヌラスさんって、本当こういう時はいつもより優しいですね」
「そういうこと言うとお前の時は割と容赦なくいくぞ」
「手加減してください、初めてなので……」
エッチな雰囲気というよりも、友達の延長線上のような感覚に緊張感がほぐれる。
「それじゃ、花音。ゆっくり挿れるからな、行くぞ」
「は、はひ! お願い、します……ん、ぅ……~~!」
花音の割れ目が広がり、男根の先端を咥えこんでいく。それを近くで観察していた美咲の鼓動が跳ねる。
性交を目の当たりにして、なんとも言えない熱と疼きが下腹部に集中した。何度も挿入を試みようと浅く出し入れを繰り返す男根がテカテカと光っている。膣を掻き出すような腰使いから、ちょっとずつ奥へと入っていく。半ばほどまで咥えてから、花音がシーツを掴みながら背中を反らす。
「ぁっ~~、エヌラスさん……ま、だ……ですか?」
「ん、もうちょっと奥までいけそうだ。今半分くらいだからな」
「ふぇぇぇ、ま、まだあるんですか……! あ、ぅ! きゃふぅ!!」
「花音先輩、ちょっと苦しそうですけど……大丈夫ですか?」
「みさ、美咲ちゃ……! ん、だいじょうぶ……!」
荒い息遣いを繰り返しながら、花音が胸を上下させていた。挿入を受け入れるだけで身体が汗ばみ、息を切らしている。それほどまでに体力を使うものなのか、と美咲は心配になった。
さらに奥までエヌラスが腰を沈み込ませると、やがて動きを止める。
「はぁ、はぁ、は、ぁ……? ふ、ぇ……?」
「ほら、見えるか花音。ちゃんと入ってるぞ」
「ぁ――」
「痛くないか?」
「ぜ、全然……痛くない、です……ちょっと、苦しいかな……」
呼吸を繰り返す度に、身体を小刻みに震わせる花音が自分の下腹部に手を当ててトロけた吐息を吐き出した。
「おちんちん、入って……ふぇぇ……おなか、熱い……」
「……花音先輩、すっごくエッチですよ」
「み、美咲ちゃん……そういうこと、言わないでぇ……!」
「いや、だって。花音先輩、エッチしてるとこ見られて興奮してるみたいですし」
「ふえぇぇぇ……!!」
両手で顔を覆い、恥ずかしさのあまり目尻に涙を溜める花音を見て――美咲は、何か自分の中でムクムクと大きくなる気持ちが堪えきれない。それを目ざとく見つけたのか、エヌラスも何か思いついたように花音の身体を抱き起こすと、美咲に背中を預けさせた。
「これなら美咲もよく見えるだろ」
「あ、はい。そうです、ね……花音先輩とエヌラスさんの繋がっているところが、よく見えます」
「動くぞ、花音。苦しいだろうけど、がんばってくれ」
エヌラスが腰をゆっくりと振り始める。緩やかなストロークに、まずは挿入される感覚に馴染むことから。
「ふえ、ふあぁ! んぅぅぅ! ぁ、んぅ」
「……花音先輩って、すごくエッチなんですね」
「ふぇっ!?」
「だって、そうじゃないですか。普通、仮にとは言え先生とセックスなんてしませんよ」
「~~~~」
「それに付き合うあたしも人のこと言えませんけど、エッチなところ、全部見せちゃうなんて」
美咲が耳元で囁く言葉を否定するように花音が首を小さく横に振るが、その言葉を肯定するように膣が震えていた。
「みさき、ちゃ……いじわる、言わないでぇ……!」
「――――」
ゾクゾク、と。背筋を駆け上がる高揚感。
涙目で見つめてくる先輩の顔が、たまらなく愛おしい感情。もっと見てみたいと思う。
松原花音の、女の顔が見てみたいと奥沢美咲は身を乗り出した。後ろから身体を抱きしめながらも、空いた両手はなだらかな膨らみの胸に伸びている。
「えっ――美咲、ちゃん……? お、おっぱい触ってきて……どうしたの?」
「あたしもエヌラスさんのお手伝いしようかなって。花音先輩のエッチな姿、もっと見てみたいですし」
「やっ、くすぐった……! ん、は……!」
「あー、これは……すっごく柔らかくて、癖になるかも」
指を沈み込ませて、ローションで濡れた胸を何度も揉みしだく。滑る指先が乳首を撥ねて、固くなった蕾を絞る。
「ふぇ、ぁん! ん、ぁ! 美咲、ちゃん! みさきちゃ……ひゃふっ……んやぁ!」
「えっちで、かわいい声出てますよ」
「んっ~~~~!!」
「美咲、あんまり花音をいじめてやるな。初めてなんだから、癖になったらどうするんだ」
「でも花音先輩がこんなにもエッチなのが悪いと思います」
胸を揉まれ、結合部からは愛液がとめどなく溢れていた。そのおかげでローション以上に潤滑油の役割を果たしてエヌラスもスムーズに腰を動かせる。
「……あの、エヌラス先生。花音先輩の、その……ナカ、って……どんな感じなんですか?」
「そうだな。強いて、言うなら……無数の触手が蠢いてて、絡みついてくる感じだ。ヌルヌルしてて、少しキツイくらい窮屈なのに痛くない。なんていうかな、花音の身体で包み込まれてる感触」
「~~~~」
「……気持ちいい、ですか?」
「すっげぇ気持ちいい。挿れたままでいたいくらいだ」
「ですって。良かったですね、花音先輩の身体、エヌラス先生気に入ったみたいですよ」
「ふぇぇ、ふえぇぇ……!!」
「それに、さっきから美咲にイジメられて膣が締めつけてきて……悦んでるみたいだ」
乱れた呼吸も整える余裕がないのか、花音は汗ばんだ身体でエヌラスに力いっぱいしがみついてきた。密着する相手の肌に、性的興奮が抑えきれないのか花音もぎこちなく腰を動かし始める。
「エヌラス先生、花音先輩に射精できそう、ですか……?」
「一回じゃ物足りないくらいだ……、花音。もうちょっとだけ激しくするぞ」
「ふぇ!? は、はひ! せんせ、もっと、うごいてぇ……! あんっ、あっ! ゃ! エヌラスさ、エヌラスさん――ぁ、んぅぅ! エヌラス、せんせ――!」
「っ~~――あぁ、ったく! これじゃ、授業どころじゃなくて俺も本気にしちまうだろうが。出すぞ、花音……!」
「はぁ、あ! はぁ! だし、て……出してくださ……! ひぃ、んッ! エヌラスさんの、たくさん――ん、ぅぅ!!」
腰使いが激しくなっていき、ベッドが軋む。やがて腰を深く打ちつけたエヌラスが動きを止めると、花音も声にならない嬌声を堪えて身体を小刻みに震わせていた。動きを止めた二人を見ていた美咲が、自分の秘部に手を伸ばす。
熱くなった身体の火照りを冷ますように、あるいは燻ぶる情欲を少しでも慰めるように自分で自分の身体を弄る。
(次、あたしの番かぁ……んっ……あんなふうに、されちゃうんだよね……)
指先で愛液を掻き出すように何度も入り口を擦っている間に、エヌラスが花音の身体から性器を引き抜いた。着けていたゴムの先端には白く濁った液体がたっぷりと吐き出されている。水風船のように膨らんだそれを外して見せるようにしていた。
「ほら、花音。見えるか?」
「……、はい」
「お前の身体で気持ちよくなって、こんなに出たんだぞ」
「ぁ――で、も。着けなかったらエヌラスせんせぇ、もっと、気持ちよくなって……私の中に、いっぱい出してたんですよね……?」
「そうなったら、授業じゃなくなるだろ」
花音の顔の前でゴムを揺らすと、手を伸ばして触れてくる。熱くて、熱くて、たまらなく愛おしくなると同時に、ぽっかりと空いた下腹部が切なくもなる。
「すごく、エッチなにおい……ふぇ……」
白く汚れたエヌラスの性器を見て、花音が惚けた表情を見せていた。無防備な肢体を晒して、まるで誘うように身体をくねらせる。それにオオカミよろしく、食らいついてしまいたい気持ちを抑えてコンドームを花音に預けた。
「入り口をきつく縛って、ゴミ箱に捨ててもいいぞ」
「捨て、ちゃうんですか……?」
「……中身が気になるなら、好きにしていいが」
「ぁ……はい……」
「さて、と。それじゃ次は美咲だな」
「――――へ?」
「我慢できないみたいだし?」
エヌラスに言われて、そこでようやく美咲は自分が自慰行為にふけっていることに気がつく。慌てて指を引き抜くが、すっかり両手はびっしょりと濡れていた。
「~~~~、うあ、うわぁ……! こんな、濡れ……!?」
「ほら、美咲。タオル」
「あ、す、すいません……ありがとうございます……」
身体をベッドに投げ出し、うっとりとした顔でコンドームを見つめる花音の頭を撫でてからエヌラスは美咲の手をタオルで拭う。
上目遣いで見上げてくる美咲と視線がぶつかる。
「あの、それで……あたしも……されちゃうん、ですよね」
「そのつもりだったが、気が変わったか?」
「あー、いえー、その。そういうわけじゃなくて……ちょっと、自信なくって」
エヌラスが俯く美咲に手を伸ばし、頬を撫でた。指の腹で何度も撫でて安心させるように。
「心配すんな、お前は十分魅力的だよ」
「……お世辞でも嬉しいですよ、その言葉。あたしなんかの身体でよかったら、使ってください」
「それじゃ、遠慮なく愛でさせてもらうとするか」
「愛でるって――」
「美咲のここは準備万端みたいだし、前戯はそんなにいらなさそうだな。でも折角だからちょっと失礼」
「んっ……!」
エヌラスの指が太ももを伝う愛液を掬い上げながら美咲の秘部に触れる。熱く濡れた入り口が中まで濡れていることを確認するように指先を挿入させると、そのまま第二関節まで挿れて内側から天井をノックされる。その未体験の快感に突然襲われた美咲が身体を跳ねさせた。
何かを探すように天井をなぞられて、離れようとするが腰に力が入らない。
「んっ、あ! 待っ、てくださ……!? なにし、て……!?」
「んー? なにって花音と同じように下準備」
「準備、いらないってさっき――!?」
「しないなんて言ってないだろ」
抵抗する間もなく、エヌラスに抱き寄せられる。手元にタオルを用意して、美咲の秘部を弄る手を止めない。身体の中から押し上げてくる快感に尿意にも似た感覚がもよおしてくる。
「あっ、ん! エヌラスさ――ま、って! ほんと、ちょっとだけでいいん、でッ!?」
美咲が一際大きく身体を跳ねさせるポイントを見つけると、エヌラスが足を開かせた。花音も何か様子がおかしいことに気がついたのか、二人に視線を向ける。
「……美咲ちゃん?」
「ひっ、あ! 花音せんぱ、い――見ない、でもらっていいですか……!? あの、ほんと、怒ります、よ!? ヒぁん!? ぁっ! ちょっ……と! そこ、ダメですって! やめ、……!」
身体に全然力が入らない。天井を何度も浅くノックされて、擦られて、何度も何度も指が往復してくる。それだけで腰が浮いてしまう。込み上げてくるものが抑えきれずに、美咲が身体を大きく震わせると堰を切ったように潮が吹き出す。それから間を空けて、エヌラスの手を小水が汚していった。腰を震わせながらも、必死に手を伸ばして止めようとする美咲だがそれは最後まで叶わずに一部始終をバッチリと花音に見られる。
「あ――ぁ、ぁぁ、もぉ……だから、言った、のにぃ…………」
「美咲ちゃん……とってもえっち」
「はは……何も言い返せない自分がいる……」
もう、どうにでもなれ。美咲はぐったりと身体を投げ出してエヌラスに何もかも預けた。そのためにタオルを用意していたのか、と自分の頭のまだ冷静なところが判断する。
タオルで一通り美咲の身体を拭いてから、二つ目のコンドームの封を開いたことに花音が驚いていた。だが、視線を見やれば衰える気配がない。
「ふえぇ。エヌラスさん、すごく……元気……」
「そりゃ体力というか、身体の作りが違うからな。ほら美咲、いくぞ」
「もう、どうにでもしてください……」
何ならもうゴムもいらないので。
投げやりな美咲の態度に、エヌラスはゆっくりと突き上げる。
「好きにしていいっていうなら、前も後ろも上も下も全部使うぞ?」
「……そこまで、します?」
「俺に、好きにしていいっていうのはそういう意味だ。動くぞ、美咲」
「ぅ、あ……! 中で、うねって……! これ、やば……!」
足を持ち上げられて身体を跳ねさせる度に、ゴリゴリと膣を擦り上げる固くて大きく、熱い肉棒の感触に美咲が呼吸を荒くさせていた。
花音の時と違い、少し腰使いが荒い。それに正面からではなく、背後から、それも下から突き上げるような形で犯されるのは変な気分になる。
「は、ぁ! はぁ、んっ! エヌラス、さん! この体勢、なんか、こう……! 獣、みたいなセックスなんですけど!?」
「こういう感じか?」
「う、ぁ!? なんか、あたしの時はちょっと、激しくありません、か!?」
「美咲が好きそうだったから」
「そ、りゃ――これ……イイ、ですけどぉ」
ベッドに押し倒されて四つん這いになりながらも、腰だけは持ち上げられていた。そのせいでより深く、奥まで届いている。
自分が一方的に相手に征服される服従感。何も考えずに、何もせずに済む安堵感。それはとても楽なことだ。
「でも美咲、いいのか?」
「……? なにが、です?」
「初めてなのに、後ろから突かれて気持ちよくなったりして」
「それは、なんていうか……」
この人になら、何をされてもいい。そんな気持ちがどこかにあった。
別に不愉快だとか。気持ち悪いだとか。そういう感情はない。ただ不思議と、安心できる。
この人はどんなあられのない姿を見せても、絶対に自分を軽蔑したりしない。そんな期待があった。
「……あの、エヌラスさん、だけですからね? あたしのこと、こんな風にしていいの……なにされても、多分、嫌じゃないっていうか……――」
「美咲?」
自分の胸の中にあるモヤモヤが、晴れていることに気がつく。
こころに対して抱いていた劣情は。情欲は、多分、これだったのだ。
――ああ、そうか。あたしは、こんなにも俗っぽくて。いやらしい女の子だったんだ。
「――――」
それを自覚した瞬間、口から漏れ出す吐息が熱を帯びる。言葉にしてしまえば、何をされてしまうのか先程聞いたばかりだ。
それでも、そうされたいと思う。そう、されてみたいと思ってしまう。どんな風にされてしまうのか、という期待もあった。怖くないと言えば嘘になる。だが、それでも――自分の胸の中にある性欲が、抑えきれない。
「あの――エヌラス、さん」
「どうした?」
「……はぁ、……ん……――――あの、ですね……?」
「ああ」
「――――もう、あたしのこと、好きにしていいんで……めちゃくちゃに、してくれます……?」
口にして、美咲は自分から腰を押しつける。小ぶりな肉付きではあるがそれでも女の身体に変わりはないはずだ。きっと、自分以上に普段から性欲を抑えているこの人にとって堪らないものだろう。
「……美咲」
「ん、ぁ……!」
ぐっと、奥まで押し込まれる肉棒の感触に思わず口が笑みを浮かべてしまった。だが、頬にキスをされて唇を塞がれる。絡みつく舌と唾液が思考を奪い去っていく。
熱くて、優しい繋がりに、エヌラスが顔を離すと耳元で囁いた。美咲にだけ聞こえるほど小さな声で。
「――次の機会にな。花音が見てるし、待ってる」
「ぁ……」
ほんとうに、この人は。
どこまでもあたし達のことを考えてくれている。それが、嬉しくて嬉しくてたまらない。
こんな人に愛されるのは、どれだけの幸運に恵まれているのだろうか。
「じゃあ動くぞ美咲、どうする? このまま後ろから好き放題されたいか?」
「ぁ、あー……じゃあ、あの……おまかせで」
「わかった。それじゃあ花音に美咲が気持ちよくなってるところ見守ってもらうか」
「ちょ、それは……んひぁ! は、反則なんじゃ……!」
後ろから突かれるたびに美咲の口から短い嬌声が漏れる。それを見ていた花音が近づいて、両手で握っているコンドームを見せた。
「ね、ねぇ美咲ちゃん……これ、見えるかな?」
「あっ! んっ、はひ!? 見えます、けど……!?」
「美咲ちゃんの中にも……ね? これくらい、出されちゃうんだよ……?」
「~~~~、い、ま! そういうこと、言います!? ぁ、ハぁ!」
「ん……っ! 美咲、締めつけ強くなってるぞ? おまえ、イジメられるの好きなんだな」
「ひ、ぃ……ん!? わか、んないですって、そんらの……! はじめて、なんでっ、すから、ぁんっ! く、ッ~~!!」
また先程と同じ感覚に襲われて、美咲が口腔から声にならない声を押し殺す。自分の内側から膨れ上がる衝動、頭まで真っ白になる感覚。脳の奥で火花が散るようなコレを、なんていうのだろうか。何も考えられなくなるほどの衝撃に美咲の口からは乱れた吐息と甘い声が漏れていた。全身に力が入らず、ただされるがままに犯される。
気がつけば、身体を投げ出して膣で跳ねる男根の脈動に声を出していた。
「ぁ、う! ふあ、ぁぁん……ッ!! あ、は……ァ、はぁ――んっ……!」
ぼんやりとする意識と、朦朧とする視界に、呼吸が続かない。
舌の根が乾くほど、全身汗だくになっていた。そんな美咲の身体を抱き起こして、エヌラスは枕元の飲み物の蓋を開けると自分の口に含んで口移しする。
「ほら、花音。お前も汗かいただろ? 水分補給しておこうな」
「ありがとうございます……えと、あの……」
「どうした?」
「私も、エヌラスさんに……飲ませてほしいなぁって……ダメ、ですか?」
「……甘えたがりめ。いいよ、ほら。こっちに来てくれ」
「はい……♪」
花音が身体を擦り寄せてくる。その反対側に美咲を抱きしめながら、三人でベッドに身体を横にした。
「二人共お疲れさん」
「……は、い」
「大丈夫か美咲。すげぇぐったりしてるけど」
「……んー、あー、わかんない、です……」
どこか虚ろな言葉に、エヌラスが苦笑している。
「それじゃ、花音。またなんか知りたいことがあったら俺に言ってくれ。練習ならいくらでも付き合うから」
「ぁ……」
「……花音さん? あなたもしや途中から練習ということを忘れてた?」
「あ――ふえ、ふぇぇぇ…………エヌラスせんせぇのが気持ちよすぎて、忘れちゃってたぁ……」
「セックスに夢中になって授業内容忘れるとか本末転倒にも程があるぞ……まぁいいや。次の機会にな?」
「は、はい……次、なんて言わず今からでも……いいです、よ……?」
「今日は疲れてるだろ? ちゃんと休んでからだ」
(……エヌラスさん。本当に、ちゃんと相手のこと考えてるんだ……すごいなぁ、この人)
心地よい温もりに抱かれて、胸を満たす安心感に美咲は目を開けていられなくなり――気がつけば、泥のように眠っていた。
気絶した、ともいうが。
――それから。
「こころ、はい。頼まれてたの、やっとできたよ」
「ありがとう美咲! すごいわ、ほんとうにそっくりなんだもの!」
「どういたしまして」
「早速エヌラスに見せてくるわね!」
「え!?」
屈託のない笑みを浮かべて廊下を走り出すロケットスタートを切るこころを引き止める暇もなく美咲は行き場のない手を止めた。
つい、視線がスカートに向かってしまう。制服の裾がひらりと持ち上がり、見えそうで見えない場所まで翻っていた。
その奥が、見てみたい……そんな下心を抱いた自分が恥ずかしくなる。抱きつかれた時の柔らかさも、無邪気に押し当てられる胸の膨らみも、思い返すだけで叫びだしたくなる。今となってはよくわかる。弦巻こころの全身が凶器であることが。
そんなものにしがみつかれて、振り回されて、これまで何も感じないでいられた自分が一体、どれほど幸福だったことか。
(あ゛ーーー!!! 無理、絶対に無理!!! あたしこんな調子じゃ間違いなく卒業までにこころに手を出す自信ある! すっごいムラムラするし! 何なら人気のないところに連れ込みたい――ってこれじゃあたし変態みたいじゃんか!? 変態か、あたし! ダメでしょ!)
人としてダメだろう。美咲が深呼吸を繰り返して、こうなったらもう頼れる人は限られる。
図書室へ向かう途中、廊下で楽しそうに話す花音と千聖を見かけた。
心底楽しそうに、何かを話している二人の自然な笑顔。
あんなことがあったのに、変わらず振る舞える花音の度胸に驚かされながらも美咲は重い足取りで図書室の扉を開いた。
そこには、読書に勤しむエヌラスの姿。暇さえあれば、大抵の場合はここにいるというのは周知の事実だ。
「ん? 美咲か。どうした」
「あ~……その、こころ来てません?」
「いや、来てないが……」
「あーよかった……じゃあ、その。簡潔に用件だけ伝えますね?」
「ああ。なんだ?」
本から視線を外さずに、エヌラスはあくまでも美咲の言葉に耳を傾けている。
「――
「今度は、どんな授業がいい? 美咲」
「ぁ……」
下腹部が、熱くなる。切なくなる。足りないものを満たしてほしいと、疼いてしまう。
あれからというもの、毎日のように。一人で慰めても足りない夜が続く。
「……今度は、ちょっと……かなり、激しめでお願いしてもいいですか?」
それを口にしていた時、奥沢美咲の顔は――照れくさそうに笑っていた。
どこか、諦めを含んだ自嘲的な笑み。
自分が同性愛者であることを認めた上で、
変わったことと言えば、最近こころに笑顔がもっとステキになったと褒められたことくらいだろうか?
まさかその理由が、自分のありのままを受け入れたとは思わないだろうけども。